Troubる   作:eeeeeeeei

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三十六話 虚空×灰色

ーーーーーー

 

 

「すっげーー!めちゃくちゃそっくりだ。流石ララだな」

 

「えへへ〜ありがとっ!私もなんだかつくりながら楽しくなっちゃって♬」

 

 電脳世界へと降り立った俺は、ララの頭をなでながら、感嘆の言葉を漏らす。

 細部まで作り込まれたこの街はどうみても、本物だった。

 念を使い、違和感を感じ取れば確かに電脳世界ではあるが、俺のように特殊な能力を持っていない限り、通常の五感であればここが電脳世界という事には気づかないだろう。

 

 一通り二人で街を周り、なんて事のない会話をしていたのだが、ふと、会話が途切れ沈黙が続く。

 

「───お兄ちゃん、また何か隠してない…?ホントは何するつもりなの?」

 

 沈黙を破り、先に口を開いたのはララだった。

 たまに鋭いこの天然系天才発明美少女。

 まぁ、そもそも話すつもりだったしな。

 

 街の確認で展開していた【円】にも、自分とララ以外を感じることはなかった。

 

「もしかして、黒って人が、関係してるの?」

 

「── 別に隠してはないぞ。言おうと思ってたし。でも、くろって何?」

 

「お兄ちゃんの、目的の人…黒蟒楼の人なんだよね?」

 

「あぁ。カグロの事か。カグロもそうだけど、黒蟒楼が地球に向かってきてるらしくてさ、ここで倒してやろうと思って」

 

「ダメだよ…パパに聞いた時も、黒蟒楼と黒色には手を出すなって言ってたよ…」

 

 デビルーク王が、ね。

 もしかしてやりあった事あるのかな?

 

 デビルーク王は、隠し球はあるかもしれないが馬鹿げた身体能力にモノを言わせた肉弾戦が主体だと思う。

 ただ、それだけで他を圧倒できるほどだろう。

 

 だが、アイツは、どうなんだろう…

 デビルーク王にして手を出すなと言わせるのは、何だ?

 黒い蟒蛇の強さは、おそらくは星神のようなものだろう。

 まともに相手をするつもりなんかない。

 となると、実際の戦闘で厄介なのは神黒。勝手な予想だが、アイツが最強の戦力だろう。

 

 アイツと殺り合うとなると、勝てるのか…?

 とはいえ勝つしか無いのだが。

 

 過去の戦闘、と言うよりは一方的にやられただけだが、その時を思い返す。

 あの時は、少なくとも俺を刺してきたのは、ナイフ。

 近距離戦主体かとも思うけど、離れた位置の獣人の首を切り落としたのは…一体何だった?

 思い出せない、というか、全く見えなかった……

 

「お兄ちゃん…?」

 

 また、考えすぎた。自分の悪い癖だな。

 

「そうか。でも地球に来るなら、ここで迎え撃たないとだろ。地球は巻き込ませないつもりだし、最終的にはどうにかする作戦もあるんだぜ」

 

 少し(おど)けて言うが、ララは不安そうな表情のまま。

 

「私にも、何かできる事は…ある?」

 

「ありがとな。実は助けてほしいことがあってさ。これなんだけど──あと、これも」

 

「んー。それなら出来そうだね。でも、他のところはどうするの?」

 

 科学ではなく、呪いなどと言った話になるのだが、それでも瞬時に理解してくれるララ。

 この天才と松戸さんを合わせたらなんかとんでもアイテム作ってくれそうだななどと、関係ない事を考えてしまった。

 

「これから、みんなに頼もうとしてるよ。そこまで危険はないとは思うけど、何回か試してからかなと思ってる」

 

「うんっ!でも、そうなると、ここにはお兄ちゃんしかいないよ…?」

 

「いや、うちの探偵事務所総出だよ。俺の自己満足と、所長の選んだ道だからな」

 

 ほんと、鋭いな。

 コロコロと表情の変わるララ。

 素直に手伝って欲しいと言えば、真面目な表情で聞き、その後、戦闘員は俺しかいない事に気づき、表情を暗くする。

 

 今は、少し思案するような顔だが、一体何を考えているのやら。

 想像もつかないような事を平気で実行するので対策では無いが、松戸さんの邪魔をすれば逆鱗に触れかねないのでそれだけは避けたい。

 

「さすがに何回か試したりしたいから、俺にもデダイヤル貸してくれないか?」

 

「うん、いいよ。でも、無茶はしないでね、お兄ちゃん」

 

「そう…だな。夜も遅くなってきたし、そろそろ帰ろうか」

 

 ララと、対黒蟒楼戦の話を終えて、時間も時間なので現実世界に戻ることにした。

 心配してくれて、ましてや手伝おうとすら言うこの少女。

 事実、手伝って欲しいし人手のいる部分があるためお願いはするが、正直、今でも戦闘には極力巻き込みたくは無かった。

 けど、地球に来るならそうも言っていられない。

 

 止められなきゃ殺られるだけだからな…

 

 

─── 初めに【円】で確認したからか、殺気を感じなかったからか。外からこの世界に干渉するものがいた事に、二人は気付いていなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 ララとユウリが電脳世界へと消える少し前の事。

 

「モモ!兄上が来たから、気を付けろよ!」

 

「お兄様が…?こんな時間に、お兄様は何のようだったの?」

 

 珍しい。

 私たちの部屋の出入口はリトさんの家にある。

 そのリトさんの家にユウリさんが来る事は、呼ばれてくる事以外には基本ない事は調査済み。

 言った通り、この時間に来る事も、真っ直ぐにお姉様を訪ねるのも異常。

 

 ユウリさんがお姉様に何か頼み事をしているのも、お姉様がそれから何かを作っていた事も、それが何かも知っている。

 

 お姉様の部屋に行けば、答えは出ますね。

 

「じゃあ、私はお茶でも出してこようかしら」

 

「あ!じゃあ私も行く!」

 

 こうなったら、ナナは付いてきそうですが…

 この際仕方がないですね。

 

 

 

「あれ……二人とも居ないぞ?」

 

 お姉様の部屋は、予想通りもぬけの殻。

 

「おい、モモなにするんだよ?」

 

「ナナ、お願いだから、このことは黙っててくれる…?」

 

 私はお姉様の作っていた電脳世界の、こちら側の端末へと接続し、中の様子を伺う事にした。

 

 

 

ーーー

 

 

「お兄様……」

「兄上……」

 

 お姉様が、ユウリさんに頼まれて作ったこの電脳世界。

 そこで行われるであろう戦闘行為。

 ユウリさんは探偵事務所総出と言うが、私はあの事務所の職員がユウリさんを含めても三人と言う事は知っている。

 

 御伽話の化け物相手に、たったの三人……

 

「あたしも、なにか手伝える事無いかな…」

 

「ナナ…きっとある。私はお兄様に救われた。次は、私が助ける番…」

 

 モモは、この戦いに自分も参戦する事を心に決めた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 それから数日がたった彩南高校。

 

「で、その時セリーヌちゃんとリトがね────」

 

 体育の授業前、女子更衣室でハルナにララが楽しそうに結城家での一幕を伝えている。

 

 

 そんな二人に背を向けて、メモルゼ星の王族であり、今は女性の姿となっているルンは、嬉しくなさそうにその会話に聞き耳を立て、内心で思う。

 

『ララのやつ…リトくんの事、楽しそーに話しちゃって…でも、銀河通販で面白い試供品をもらったんだから、見てなさい』

 

『おい!ルン!ララちゃんに何するつもりだ!?』

 

『ワルクナール・EX。あびた者の心の奥にある悪い心を増幅する効果がある。これでワルい性格になってリトくんにキラわれるといいわ!!そしてリトくんは私のモノ!!』

 

『こらルン!変なことするな!!』

 

『なによ、あんたは寝てなさいよ、レン!』

 

 内なるレンの声を黙らせて、ルンはニヤリと笑い、チャンスを待っていた…

 

 

 

 幾度かのチャンスを逃したものの、廊下の角に隠れていたルンは前から歩いてくるララとハルナ、村雨静を見つけた。

 周りには、誰もいない……絶好のチャンス。

 

『よし……今だっ!!

 

 ルンは廊下の角から、歩いてくるララへ向けて、スプレー状になっている”ワルクナール・EX”を噴射しようとしたところで、

 

 

──ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!!!──

 

「いっ!!」

 

 

 突如、地震のような地響きが起き、そばには黒い渦のような物が二つ(・・)出現していた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 彩南高校で地響きが起こる少し前。

  

 

 ユウリは例の如く事務所で修行をしていたのだが、

 

「大きな反応……」

 

「また宇宙船ですか?」

 

 松戸さんの呟きに反応して声をかけた。

 

「そうだ。また、この街に向かっているね。それも、かなり大型の、ね」

 

 またか。

 松戸さん曰く、やはり星神の出入口のあるこの街は、物語で良く龍脈などと呼ばれるような、この星の生命の、力の流れの大元らしい。

 そのため、宇宙人や霊体だったりの異形のものは知らず知らずにこの街に引き寄せられるとのこと。

 

「次は、なんの用でしょうね」

 

「それはまだわからんが……」

 

「まぁ、いつでも行けるようにしときます」

 

 次は何だろうかと思いつつも、オーラを研ぎ澄まし、集中する。

 

「七瀬さんのオーラ、鋭くなっていませんか?」

 

「………そーなんすよ。あの、神の寝床の修復とかをやった時から、オーラの調子いいんすよね」

 

 理由はわからないが、神の寝床でオーラを大量に吸われたはずなのに、出るときには元に、というよりかはオーラは更に力強く、潜在オーラの量すらも多くなっていた。

 星神の放つ気とでも言うのだろうか?

 最後にうろ様が寝床に入った後の重いオーラが入り込んだような…

 まぁ、害はなさそうなのでそこまで気には留めていなかった。

 

「………」

 

「どーかしました?」

 

「いいえ、何でもありませんよ」

 

 明らかに妙な雰囲気を漂わせていたが、答えないのなら気にしない。

 ゆっくりと、その時を待っていると、加賀見さんが動く。

「…これは……!」

 

 虚空を見上げ呟いた加賀見さん。

 

「来ましたか?」

 

「すでに、何人か彩南高校に入り込んでいます…おそらくは、私の黒渦のような転移の能力……」

 

 転移能力持ち…予想してなかったわけじゃないが、よりにもよって真っ昼間の彩南高校へ来るとは…

 うろ様のところへの入口、バレてるのが濃厚だな。

 あの時のヘビ女かな…

 黒コート姿となり、フードも被って完全にハンターの状態へと変わる。

 

「すぐに、飛ばしてください…」

 

── とぷん ──

 

 言い終える前に、すでに体は沈んでいた。

 

 

ーーー

 

 

 ユウリは渦から出てきた瞬間に、オーラを全開にする。

 すぐそばに、やたらと禍々しい気を発する者がいたからだ。

 

 こいつの能力か、自身の側にもう一つ、加賀見さんの黒渦に似たゲートがあった。

 

「誰だお前?」

 

佐金(さこん)でございます。お見知りおきください」

 

 丁寧に名乗る、金髪を頭の後ろで結った、中国人のような見た目の男性。

 おでこから、左右に後毛が出ており。触角のようになっている。

 

「ご丁寧にどーも。何用か、聞いても良いか?」

 

「ええ、構いませんよ。どうせ、死ぬ事になるのですから…この星の神の力、頂きに参りました」

 

 金髪の男、佐金とユウリの側にはルンがおり、少しだけ離れた位置にはララとハルナ、お静がいた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「ララ、お静ちゃん、西蓮寺を連れて早く行け!!」

 

「わ、わかったっ!」

 

「キャッ!」

 

「わわわ、私もっ!」

 

 ララは西蓮寺を抱きかかえて、飛び、お静はそのララの足へと掴まり三人は窓から外へと消える。

 その姿を見送り、ルンへと駆け寄ろうとしたところで、

 

「他所見に、他人を気遣ってばかりとは、油断がすぎますよ…!!」

 

 佐金が眼前へと移動しており、蹴りを放つ。

 

「油断?これは『余裕』っつーんだよ」

 

 蹴りに対してカウンターで蹴りを合わせる。

 こちらを舐め切った小手先の蹴りなどタイミングも角度も合わせた蹴りで押し切る事など造作もない。

 

「む…」

 

「俺が弱そうにでも見えたか?油断、大敵だッ!!」

 

 足と足のぶつかり合いを制したために、崩れた体勢になった佐金の死角から、結界を高速でぶつける。

 すると、廊下の壁を突き破り佐金は完全に視界から消えた。

 

──ジリリリリリリリ!!──

 

「ルン、大丈夫か?」

 

「あ…ぁ……!!」

 

 ジリジリとなる学校の非常ベルの音。

 そして、怯えるルンへと声をかけると、ルンの大きな赤い瞳の中に、自身の後ろへと立つ佐金が見えた。

 

「これも、余裕と言うのですよ」

 

 突き出した掌底からは竜巻が起きる。

 ユウリはルンを庇うように抱え、【堅】を行いルンごと自身のオーラで包み込むと、竜巻に飲まれ校舎の壁を破壊しながらグラウンドへと落ちていく。

 

「フンッ!!」

 

「ジャァ!!」

 

 飛び落ちていく最中、別の方向から巨石と、何かの液体が襲いかかるも、

 

「オラァ!!」

 

 巨石を蹴りで砕き、液体は結界で空中へと固める。

 そのままグラウンドへと転がるように着地したところで、ユウリは異変に気づいた。

 

── シュウゥゥゥゥ…

 

 何か、空気の漏れる音。

 それは自身の胸から聞こえる…

 胸に抱えたルンの手はユウリのフードの奥を向いており、手に持ったスプレーのような物から出ているガス。

 それを、ユウリはすでに吸い込んでいた。

 

 そこで感じる、自身に起こる異変。

 何事かはわからないが、やけに思考がクリアになっていく感覚に襲われる。

 

『ちっ…俺から、離れろ!!』

 

 

ーーーーーー

 

 

 ユウリに離れろと言われ、ララの側へと投げ出されたルンは、地面を転がっていた。

 転がりが止まると、上半身を起こし、先程まで自分を守ってくれたのに、今の今は自分を投げ飛ばした男を見つめる。

 

「お、お兄さん…?」

 

「お兄ちゃん…?」

「七瀬さん…?」

 

 ララとハルナも遠巻きに、様子のおかしいユウリを眺め、同時に呟いた。

 暗闇にしか見えない顔を抑えて震えているユウリ。

 

「おや、もう戦意を失ってしまわれましたか…まぁこの数を見てしまえば、それも仕方のないことかもしれませんね」

 

 恐慌状態に見えなくもないユウリへと向かい、校舎からジャンプでグラウンドへと降り立った佐金が言う。

 そのそばには、人型の部下らしき者が数人と、その他にも、百は下らない数の異形のモノたちが集まっていた。

 

『…………』

 

「あなたが、生命力を操る術師。あなたは碧暗さんに渡す約束をしていますので、殺しはしませんよ。ただ、ついて来て頂ければ良いのですが?」

 

 佐金の言葉を聞いたからか、ガスの効果に満たされたのか、震えも止まり、棒立ちになっていたユウリ。

 ゆっくりと腕を上げて自らのフードを乱暴に破り取ると、長いコートすらも脱ぎ捨てた。

 古傷だらけの上半身をあらわにし、眼はこれ以上ないほどに見開かれて、ゆっくりと首を(かし)げる。

 そして、歪に口を開いた。

 

『いやあぁだよバアァか!』

 

──── ゾワァァァァ ────

 

 その場にいる全員を包み込む、吐き気を催すほどの悪意のこもったオーラ。

 

 全てのものが硬直する中、ユウリだけは行動をしていた。

 おそらく先程巨石を投げたであろう四本の腕を持つ緑色の巨体な人型を標的に定めて、目にも止まらぬ速度で襲いかかる。

 影にしか見えなかったユウリの姿が静止した時、既にその緑色の巨体へと飛び掛かり、大きな一つ目に、右腕を肘まで突き刺していた。

 

「なっ!!!」

 

 驚愕する誰かの声を無視する。

 そのまま肘を曲げながら押し進め、肩まで腕は埋まった。

 緑色の頭の先からは大きな眼球を握りしめたユウリの手が植物の芽のように生えていた。

 

「き、きさ……」

 

 それでもなお、頭の中に腕を突っ込まれている緑色の巨体は口を開こうとしていたが、ユウリは直角に曲がった腕を、そのままの形で引き抜いた。

 腕が入っていた形に、頭は二つに割れる。

 裂け目からは紫色の血のような液体と、脳にも見えるモノが噴き出し、溢れていた。

 

 そのまま、敵も味方も茫然としている様子をじっくりと眺める。

 その後、握っていた大きな眼球を完全に握りつぶしながら首を傾げ、先程と同じように歪に開いた口から言葉を吐き出す。

 

『んー?全員ただ突っ立ってるだけってさぁ…

 ──そんな余裕ブっこいてていいの?』

 

 見開かれ、血走った灰色の瞳。

 黒でもなく、白でもない。

 光と闇の狭間で揺れ動く、まだ自我を持ったばかりの少年のような青年。

 そのどっちつかずな灰色の瞳の奥底は、薬品の力を借りて、全てを飲み込む黒へと傾いていた。

 

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