Troubる   作:eeeeeeeei

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三十九話 修行×兄妹

ーーーーーー

 

 

「遅い、鈍い、弱い」

 

「くっそ……ちょっとは手加減してくれても…」

 

「………え?なんか言った?」

 

 足元の爆風で吹き飛び、地べたを転がったリト。

 

 黒いコートを砂埃で灰色に染めて、ゼェゼェと肩で息をしていた。

 

 一緒に育ってきた兄代わりの普段は見せない厳しい一面に愚痴るが、同じく黒コート姿のユウリにジロリと睨み付けられた。

 その眼に思わず萎縮する。

 だが、頼み込んだのは自分。妹を守るのも自分。

 兄に、全てを背負わせる気などない。

 全てを守ると言う兄を、自分は守ろうと決めていた。

 

 それに、地球がからみ、この街が中心点なんだったらやらざるを得ない。

 自らを奮い立たせて立ち上がる。

 

「な、なんでもない!!もう一回だっ!!」

 

 強がる弟に内心で苦笑するユウリではあるが、オーラを緩めることはしない。

 相手が手加減してくれる、殺さないように優しく扱ってくれる事などないのだから。

 再度、殺すつもりの殺気を込めたオーラを指先から放つ。

 

「ほら、全てを避けるか【練】をしないと。今のままじゃ、当たると死ぬと思え」

 

「鬼ッ!!!」

 

 無理やりにでも体を捻り、地面を転げ回りながらもギリギリで躱すリト。

 動きは雑で、反撃を放つ意志などかけらも感じないが、躱してはいる。

 

 ララに巻き込まれて、爆発事故にあったり、えっちぃトラブルでヤミに襲われたりと、普段から幾度となくやられているのは伊達じゃない。

 

「ほら、そっちに逃げると後がないぞ」

 

「クッソーッ!!!!」

 

 片手から小さな念弾を連射。

 放つ念弾の強さは変えないが、ユウリはオーラをたまに全開状態にする。

 それだけで、リトの緊張感は高まるだろう。

 圧倒的なまでのオーラの量とその鋭さ、禍々しさに、明確に死が脳裏をよぎり、一瞬動きが止まる。

 だがリトは弾幕の中に小さな隙間を見つけ出し、叫びながらも頭からそこへと飛び出す。

 その時のリトは、力強い【練】のオーラに包まれていた。

 

「良いぞ。それくらいなら、当たりどころがよければ死なないかもな」

 

「チクショーーーッ!!!」

 

 ヤケクソではあるが、リトを覆うオーラはどんどんと力強くなっていく。

 追い込まれれば追い込まれるほどに強くなる、典型的な漫画の主人公のような弟。

 

 それに、──センスが良い。

 

 ユウリはリトの修行を始めてから常々感じていた。

 

 さっきのも、袋小路に自ら突っ込んだリトだったが、ただ一つ残された、わざと作っている隙間に迷いなく飛び込んだ。

 咄嗟の判断が抜群に上手い。

 

 この判断力を恋愛に活かせたら、今とは全然違う生活になっていただろうな。

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

 リトの叫び声を聞きながら関係のないことを考えつつも、念弾を放つ手が休むのはしばらく後のことだった。

 

 

ーーー

 

 

 結果としてだが、リトは驚くほどたやすく【念】に目覚めた。

 だが、元来の優しい性格のせいかはわからないが、【練】が苦手のようだ。

 そのためユウリは防御力という、守る力という認識を持たせるために、まずは死ぬ確率を下げるためにこのような修行を施している。

 

 それに、この世界の地球の住民はユウリのいた世界の人間よりも随分と打たれ強い。

 基本のスペックが違うのだ。

 

 リトだけかもしれないが、そんな事はなく、ミカンも、思い出せば猿山も、学校の連中もそう。

 

 元の世界では【念】の概念の無いものがオーラを直で受ければタダでは済まない。

 その【念】の有る無しの差は、極寒の地に裸でいるような物と比喩される事もあるほど。

 実際、ユウリ程のオーラの場合は精神に異常を来したり、ショックで髪が抜けたりしてもおかしくはない。

 

 不良たちのように垂れ流したオーラで脅すようなものではなく、猿山だけは、明確にユウリのオーラを受けたのだ。

 それでも彼は、気絶程度で済んでいた。

 

 コミカルな漫画にありがちな感じ。

 爆発を喰らっても翌日には平気な顔をしている学校の生徒達やこの街の住民しかり、この世界の住民は意外に頑丈。

 

 そうはいえど、別に死なないわけでも、勝てるわけでもない。

 何より残された時間がわからないのが痛い。

 

 数年の時間さえあれば、リトもミカンも相当な使い手になるとは思うが……

 襲撃までのタイムリミットがわからないし、死んで欲しくなどないので、修行の手を緩めるつもりはない。

 自分の口から、やめてくれと、もう諦めると言わない限りは。

 

 

ーーーーーー

 

 

「リトには、あんな修行してるのに、私は良いんですか?」

 

「大丈夫それにはアテがある。それよりミカン、心を鎮めて。オーラが乱れてる」

 

 ミカンはユウリにできるようになったと言ってきただけあって、オーラの操作はかなり上手かった。

 誰に教わることもなく、【纏】【絶】はできる。

 教えを受けるとすぐに【練】もできた。

 今は、【凝】の真っ最中。

 

 最近のユウリのルーティーンは

 放課後に電脳世界でリトをボコボコにし、

 リトの休憩中にララとモモと色々と仕込みを作成して、

 夜にミカンとの修行を行なう流れになっている。

 

 今は夜、夕食を終えたユウリとミカンは修行中。

 電脳世界のユウリの部屋で二人、なかなかうまくいかないミカンが唸る。

 

「う〜……!!コツとかってないんですか?」

 

「コツかぁ…俺は感覚でやってるからなぁ。最初も言ったけど、流れを意識して集中するとしか……」

 

「そんなぁー…」

 

 あからさまにがっかりとするミカン。

 ユウリはミカンが戦いに出る事には今でも反対している。

 だが、全く聞き入れてくれないので仕方なく修行をつけていた。

 

 以前からわかる事だが、ミカンは既に能力を発現している。

 能力のおかげで自身の戦闘力を伸ばす必要は無いと考えているためもっぱらオーラの量を増やし、操作性の向上しか行っていなかった。

 

 今は【練】を20分くらいは行えるようになってきたので、オーラを枯渇させての【凝】の修行。

 

「あ、でもなんか良い感じです…」

 

 体に残されたわずかなオーラを【凝】で両目に集中させる。

 声を出しながらも、その頭の中にはおそらく自身のオーラの流れしか捉えていない。

 ユウリと、自分自身、それ以外の存在は意識から完全に外れていた。

 

 こうなったミカンは異常なまでの集中力を発揮する。

 やはり、【特質系】のミカンには先天的な何かがあるのだろう。

 

 一度できると、そのまま何でもこなしてしまう。

 いわゆる、天才というやつだ。

 

 流石この歳で家事をこなし、既に自己を確立すらしていそうなスーパー小学生。

 そして今も、特に教わったわけでもないのに【凝】と同時に、他の部位の【絶】すらも行おうとしている。

 

「──あっ……」

 

 もう少し、ということで【絶】は解けて、集中していたオーラは弾けるように全身へと移動する。

 そして襲ってくる強烈な疲労感。

 

「えへへ。もう少しで、できそうだったん…ですけど…ね……」

 

 

ーーーーーー

 

 

 オーラを使い果たし、そのまま眠ってしまったミカン。

 自分を追い込むことを苦としていない。

 オーラを枯渇するまで使うって事は、体力をゼロにする事と同意。

 倒れるまで走ってこいと言われ、実際に倒れるまで肉体を酷使するくらいに辛い。

 

 実際問題、やろうと思えば誰でもできるが、それができないのが人間という生き物。

 動物とは違い、本能に赴かず、無意識に自分にブレーキをかける。

 そのブレーキが壊れているものが、天才や鬼才と呼ばれているのだろう。

 

 この小さな身体のどこにそんな力があるのやら。

 

 俺はスヤスヤと寝息をたてるミカンをそっと抱き上げて、現実世界へと帰還を果たした。

 

 結城家のベッドにミカンを寝かせ、まぶたにかかる髪をそっと指で撫でる。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 その指を掴まれてしまった。

 リトに似て、寝ている時は動くものを掴む習性でもあるのか。

 

 手持ち無沙汰になるも、ミカンの顔を見ているだけで不思議と落ち着く。

 ベッドの横に座り、壁にもたれてミカンの顔をずっと眺めていたのだが、

 

「ユウ兄…美柑寝ちゃった?」

 

「うん。起こすと悪いから、静かにな。今日も疲れてそのまま寝ちまったよ」

 

 ミカンを起こさないようにそーっと入ってくるリト。

 そのままミカンの机の椅子に座り、俺へと話しかけてくる。

 

「そっか。美柑にも、鬼みたいな特訓してるの?」

 

「してないよ。ミカンは【発】できてるし、能力的に戦闘経験はいらないからな」

 

「ずるいなぁ…ユウ兄、昔から美柑には優しいよなぁ」

 

「んな事ねーよ。…しっかり者だからな。俺たちの方が何倍も優しくされてるんだよ」

 

 子供のように口を尖らせて言うリトだったが、俺の発言で、全くその通りだと肩を竦めた。

 そんなリトにユウリは声をかける。

 

「リトがいたから、俺はここにいる。お前には感謝してもしきれないよ。だから、ビシバシしごいてやるからなー♬」

 

「なんだよイキナリ…」

 

 照れたように言うが、結城家に転がり込まなかったら、自分はどうなっていたのか。

 想像もつかないし、想像したくない。

 

「でもさ、自分の、自分だけの能力を作れって言われても、俺にはピンと来ないよ」

 

「【発】の能力か…お前が言うのは全部とんでもないものばかりだからな……なんだよ時を止めるだの、未来を改変するだの…」

 

「しょーがないじゃん。男なら一度は憧れるだろ?」

 

 ゲームの強キャラの能力。まぁ、その気持ちもわかる。

 ただ、実質どれだけ【念】を極めようとおそらくそれはできないと思うぞ。

 

「じゃあ、俺が考えたやつ試してみるか?はまんなきゃ辞めたら良いし」

 

「ユウ兄が…じゃあ、俺もあの結界ってかっこいいやつが…」

 

 悩んでいる顔から打って変わり、今は目を輝かしている。

 ゲーム好きだけあってリトの能力案はいくつもあったが、さっきのと同レベルの実現不可能なものか、放出系のリトでは実現できなさそうなものばかりだったので全て却下していた。

 

「結界は無理だっつの。お前は具現化系は不得意だって何回言わせんだよ。オーラで作るのは構わないが、それだとお前の言う乗ってどうのこうのはできないし、そもそも箱型である必要も無いしな」

 

 系統の説明は却下案を出す時に何度もしているのに、ヤミではないが、お前の成績が心配だよ……

 

 

 そう、水見式を行った際、

 ミカンはやはり特質系。

 リトは放出系と言うことがわかった。

 

 リトが放出系とわかった時、ミカンは大笑いして「ラッキースケベホルモンを常に放出してるもんね」と言い放っていたのを思いだす。

 

 俺的にはリトにピッタリだと思う能力を教えると怪訝な顔をして、う〜んと唸っていたので、今後どうするかはリト次第。

 きっかけになれば、あとは自分でいろいろ考えるだろ。

「ん……んむぅ…」

 

 寝返りを打ち、こちらを向いたミカンの寝顔は、眉を顰めている。

 

 リトは椅子から立ち上がり、寝返りで再度まぶたにかかるミカンの髪を手でとくと、リトも空いている方の手で指を掴まれてしまった。

 話しすぎたため、起こしてしまったかと思ったが、グッスリと眠っているようだ。

 

 リトと顔を見合わせて苦笑する。

 

「なんか、美柑が風邪ひいた時思い出すね」

 

「あったな。料理なんかできないくせにまっずいスープを作って食べさせたっけ」

 

「そーそー。でもあれはユウ兄がお粥でいいのにスープが効くとか言い出したからだろ。──でも薬だと思えばっつって全部食べてくれたよな」

 

 俺がミカンと会話ができるようになってしばらくした時の事。

 まだ料理は習い始めたばかりで、スープなんて作れないくせに無駄な知識からリトと作ったんだった。

 

 あの時の事は、今でも鮮明に覚えてる。

 

 

ーーー

 

「ただいまー」

「美柑!?」

 

 玄関のドアを開けるとリトの声。

 どうやら風邪を引いていたようで、ソファーに寄りかかってグッタリしているミカンを抱き抱え、大慌てでベッドに寝かせた。

 

「38度2分……」

 

「え、そんなに…まいったなぁ。今日、私が当番なのに…」

 

 リトがミカンの熱を測って、体温計を見て悲痛な顔で呟く。

 これだけの熱が出ているにも関わらず、立っているのも辛いだろうに、家事を行おうとしている小さな妹。

 俺はそんなミカンの頭に濡れタオルを置いた。

 

「そんなの良いから、家のことは俺らに任せろ」

 

「そうだぞ。美柑はゆっくり寝てな」

 

「うん…」

 

 俺が家の事をやり、リトを買い物に行かせる事にした。

 

「お粥とかで良いかな?」

 

「あっ。この間買った本で、スープで風邪を撃退みたいな特集を見た気が…」

 

 自分の部屋にある最近買った料理本を持ってきてリトに手渡す。

 二人でこれにしようと決めて、リトは食材を買いに行った。

 

 その後二人で四苦八苦しながらもスープを完成させたのだが…

 

「ゔ…」

 

 兄二人の特製のスープを一口食べて、声にならない声が出ているミカン。

 

「ま、まずかったか!?」

「もしかして、味付け間違えたかも…ごめんミカン!俺ちょっと買ってくるッ!」

 

「いいよ。せっかく二人が作ってくれたんだから。──うん、薬だと思えば…」

 

 そして、リトと二人でミカンへの日頃の感謝が爆発したのだが、食べ終わったミカンが、初めて呼んでくれた──

 

「私だって、二人には感謝してるよ。ありがと…ユウリお兄ちゃん、リトお兄ちゃん」

 

「…俺が…お兄ちゃん…?」

「よ、よせよ今更、そんな呼び方…」

 

 カウンターを喰らい、兄二人が熱もないのに赤い顔にさせられた。

 

 

ーーー

 

 

 あの日は、いつのまにか寝てしまい、三人ともミカンの部屋で朝を迎えたんだった。

 

 そんな昔話をしているうちに、リトが眠り、ユウリもいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 兄二人の手を握り眠る妹は、幸せそうな寝顔をしていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「モモ、ダメだよ」

 

「お、お姉様っ!?」

 

 ユウリがミカンの部屋から出て来たところを確認できていないため、モモはこっそりと様子を見にきたのだが、ララに見つかってしまった。

 

 かく言うララもリトが部屋にいないのでモモよりも先に来ており、兄弟で仲良く話す二人の声が聞こえて入るのをやめていたのだが、わざわざ説明する必要はないだろう。

 

「今日は、邪魔しちゃ悪いよ」

 

「あっ!モモっ!どこに行っ──」 

 

「しーーーっ!ナナ、静かに…」

 

 廊下を歩き、自分達の居住スペースにいない妹を探してきたようだ。

 声をかけるとララに口を塞がれるナナ。

 

 

「ん…ぷはっ!姉上っ?どーかしたのか?」

 

 そーっと、ララはミカンの部屋の扉を開ける。

 

 部屋の中ではベッドに幸せそうに眠るミカン。

 ミカンと手を繋いで、壁にもたれて座ったままスヤスヤと眠るユウリ。

 ユウリの隣では床に座っており、ベッドに頭を投げ出して、同じくミカンと手を繋いだままぐーぐーと寝ているリト。

 

「三人とも幸せそう…やっぱり、三人は兄妹だよね」

 

 優しい微笑みを浮かべるララ。

 いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、母を思い出す、慈愛に満ちた微笑み。

 その微笑みに、双子の妹も込み上げてくるものがあった。

 

「うん。──モモは、違うかもしれないけど、あたしも姉上が居なくなって、モモも行くってなってさ……一人は寂しくて、モモに付いて地球に来たんだ…」

 

「ナナ……私もそうですよ。お姉様がいない王宮は寂しかったですから」

 

「ふふふ。私たちも、久しぶりに三人で寝よっか♬」

 

 三兄妹と三姉妹は、今日はそれぞれ同じ部屋で朝を迎えていた。

 

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