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結城家での生活が始まり1年以上経ち、この生活にも完全に慣れてきたある日の夜。
「ユウ兄、ちょっと話せるかな?」
夕食の片付けも終え、自分の部屋で高校生ながらいまだに中学生用の問題集をやっていると、そう言ってリトが部屋に入ってきた。
「ん、良いよ。なにかあったのか?」
「俺も、家のこと手伝おうと思って。ーーユウ兄とミカンにばかり任せててごめん。ずっと考えてたんだけど、部活も辞めようと思ってるんだ」
なにやら真面目な雰囲気だったので、こちらも真面目に聞き返すと、思ってもいなかった言葉が帰ってきた。
なんだか最近悩んでるような感じはしていたが大方思春期特有の恋愛事情だと思っていたので予想の斜め上であった。
もとの世界とこの世界の勝手は違う。
俺の持っている一般的な知識や常識はテレビや雑誌、漫画から得たものがほとんどだが、18歳まで子供で、大学生であれば22歳までは子供のような扱いを受ける世界だ。
生活環境もあるが、14歳の子供が好きな事をできないのはおかしい。
「サッカー、好きじゃないのか?」
「……好きだよ。好きだけどユウ兄とミカンにばっかり家のことやらせて、俺だけ好きなことしてるなんてーー」
「好きなら続けろよ。俺は家事が好きだからやってるんだし、俺の好きな事とるなよ」
実際に俺は家事が好きだ。
昔の俺には家などなく、野宿やホテル、その辺の空き家を勝手に使ったりといった生活をしていたので、掃除や洗濯をして家や衣服を綺麗にするっていうのは自分自身もスッキリできるし、最近ミカンに習い始めた料理も楽しい。
「俺もリトの好きなこと取らないからさ。ミカンも料理は好きだと思うし、そもそもリトも掃除とかしてるんだから、ミカンの担当の日に何か手伝えないか話してみたらいいんじゃないか?さっきも言ったけど、俺は好きでやってるから気にしなくていいぞ。」
「……ユウ兄」
「ーーリトだってまだまだ子供なんだから、気なんて使うなよ」
「うん。わかった。ミカンと話してみるよ」
「おう。それがいいと思うぞ。俺よりも、妹を助けてやらなきゃだろ。お兄ちゃん?」
「う、それもそうだよね。ありがとう!それじゃあおやすみ!」
少しスッキリした顔をしてリトは自分の部屋に戻っていった。
俺は問題集を閉じて、念の修行を始めるべく窓を開けて外へと飛んだ。
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好きなら続けろ。かーー
ユウ兄と一緒に住むようになって、もう一年以上になる。
この春から母親は仕事で海外へ、父親は仕事場に籠り三人で暮らすようになったが、その時からユウ兄は朝の新聞配達のアルバイトを始めた。掃除や洗濯、買い物といった家事もほとんど一人で行っている。
料理はミカンがしているが、最近はユウ兄もミカンに習って二人でよく料理をしている。
ミカンとユウ兄はずっと距離があって、二人での会話がずっとない事を俺はなんとかできないかとずっと思ってた。
けど、林間学校から帰ってくると何があったかは聞いても教えてくれなかったが二人は仲良くなっていて、俺はそれがすごく嬉しかった。
二人の仲が良くなったことで、家事は二人で担当日をわけて行っていた。
俺は部活もあるし、たまに手伝ってはいるけど、二人の半分も手伝えてなくて、なんだか押し付けていると思っていたが、ユウ兄にとって家事は好きな事だったみたいだ。
俺も、俺の好きなことをしていいんだって言われて、俺は本当に嬉しかった。
初めてユウ兄に会った時、戦隊ヒーローみたいに爆発した車から飛び出してきて俺たちに逃げるように伝えてくれ、通り魔殺人者に襲われて大怪我を負っても生きていたり、まるで漫画に出てくる超人のように思えた。
お見舞いに行き、話してみて、突然だったけど一緒に住む事になって、本当の兄ができたみたいで、俺はユウ兄のことが好きになっていった。
そして今日も、本当の兄のように接してくれて、俺は明日ミカンと話そうと決めて、ベッドに入り眠った。
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リトとの話を終えて窓から外に出た俺は結界を空に具現化し、乗る。それを操作して既に閉鎖されたビルの屋上へと降り立った。
この世界に来て、結城家にきてから毎日念の修行は行ってきた。
この一年の修行でオーラ量は徐々にだが増えてきてはいるし、纏・練・絶・凝・円・硬を連続で行いオーラの流れも昔の感覚へと戻ってきたので系統別修行も行い始めたのだが、昔と勝手が違う。
もしやと思い、水見式を試してみる事にしていたのだ。
昔、初めて水見式を行ったときはグラスの中には真四角な青い小石が出現した。それで具現化系だとわかったのだが、今回は、
ーーーなにこれ……
水の色は真っ青に染まり、葉っぱは消滅した。
放出系・特質系の反応が同時に出ている。
この反応は二つとも特質系に変化した俺の反応なのか、『悠梨』の持つ系統が混ざっているのかはまだわからない。
その後は昔の感覚は捨て、一からじっくりと系統別修行を行う事に決めた。
気持ちが高揚している。
初めて念を知り、修行を始めた時のようなまっさらな気持ち。
俺はもっと強くなれる。
俺はどこぞの戦闘民族ではないが自分が強くなっていく感覚が大好きなのだ。
結局この日は朝まで修行していた。
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また一年が過ぎた。
もうすぐ年越しだ。
来年から俺は高校三年生になるし、リトも俺と同じ彩南高校に入学すべく受験勉強を頑張っている。
ミカンは最近背も髪も伸ばしており、歳の割に大人っぽくなってきた。
俺はそんな中ひたすら修行を行った。
あの水見式の後から今までの考え方を捨て、改めて一からイメージを練り修行し直した。
修行していくうちに気づいたが、おそらく『悠梨』は放出系。
これがかなり相性が良く、本来俺には向いていない強化系による力の向上はもちろん、特質系であり放出系である俺は純粋な操作系にも負けないほどに具現化した結界を操る事が上手くなった。
これによって結界自体も強化系の恩恵で、より強度を上げることができたので無理やり圧縮し"滅する"こともできるし、変化形は放出系の色が出たせいかそこまでうまく使えず、今は具現化した結界の大きさの変化と粘度を加える変化のみに絞って修行している。
俺本来の特質系の能力は『
このオーラを『
通常の結界とは別の赤黒い結界。
これは絶界と呼ぶことにした。
この結界を使えば触れたものをこの世界から消す事ができるが、制御が難しいしオーラの消費量が半端ではないのでそこまで連発もできないのだがそこは要修行。
あせらずじっくりとやるしかない。
今日も山中での念修行を終えて帰ろうと思っていたところ、妙な感覚に襲われた。
ーー視線、誰かいる!
ひとまず円を使うが、俺の円の大きさは昔よりも広く半径20mはいける。
が、俺の円の探知にはかからない。
ーーーッ!!!
かかった。
「こんばんは。いや、もうおはようの方がいいのかな?」
白髪のセンターわけで大きめの丸メガネにロングコートを着た小柄な老人がそう言いながらこちらに近づいてきた。
「んー、じゃあこんばんはで。で、何のよう?」
「うん、スカウトに来てね。君にいい仕事があるんだけどやってみないかい?」
なんとも胡散臭いが、この世界に来た日以来に出会った警戒に値する人間。
話だけでも俺は聞くことにした。
「本当にいい仕事ならね。詳細を聞きたいんだけど?」
「それじゃあまた明日。ここに来てもらえたら詳しく話すよ」
ジャケットの内ポケットから名刺を取り出し差し出してきたが、妙に様になっている。
「松戸、探偵事務所?」
うさんくさい。
探偵事務所ねぇ、確かにこの老人は似合うかも知れないが、なぜ俺に?
「……あからさまに顔に出さないでくれるかな?詳しくは明日話すって言ったろう?」
「ん」
「じゃあ、また明日。七瀬くん」
俺は適当な返事をしたが、次は言いたいことはもう言ったようで、さっさと去っていった。
ーーー翌日、俺はここでバイトをすることに決めた。