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時は少し遡り、黒蟒楼の実行二部からの襲撃を受けた後のこと。
夕日を背に、ゆっくりと歩く四つの影。
落ちかけている太陽がその影を長く、大きく伸ばしている。
「西蓮寺、大丈夫か…?」
「……うん」
「唯も、平気…?」
「………」
リトの問いにハルナは小さく答え、ララの問いには古手川は小さく頷いた。
大きく伸びる自分の影はいつもより暗く見える。
その中に、先程の光景が浮かぶ。
影に潜む、闇の世界の住民。
異常なまでに好戦的で、執拗に敵を蹂躙する、悪魔のような姿を思いだす。
「………」
歩く四人の口数は異常なほどに少なく、こう言った際に話の作り手となるララまでもが、今は口を閉ざしていた。
「……ユウ兄は、さ」
「………」
語り出すリトの言葉を聞こうとしたのか、自身の影へと視線を向けて、必然的に顔を下げていた三人は同時に顔を上げた。
「初めて会った時から、ずっとボロボロなんだ」
誰にでもなく、もしかしたら自分に言い聞かせているのかもしれない。
「爆発する車から転がり出てきたのが、初めての出会い。大丈夫かって声をかけたんだけど、遠くに見える、大きすぎる人影を見つけちゃったんだ。俺は怖くなって見ないフリしててさ、焦ってユウ兄と逃げようと思ったんだ。でもユウ兄は、怒った風に、自分は大丈夫だから、俺と美柑に逃げろって言って」
立ち止まって話すリト。
他の三人の影は、少し短くなったリトの影を囲うように伸びている。
「今思えば、宇宙人だったんだと思う。ユウ兄はあんなに強いのにボロボロにされてたから…次は、会う事もできなくてさ。意識不明で、面会謝絶だったから」
ビクリと、一つの影がわずかに揺れた。
「ようやく会えたと思ったら体中包帯だらけ。その次は、台風を吹き飛ばして、ララに抱きつかれて気絶させられて」
再度、先程と同じ影が揺れる。
「女の子にビンタされたかと思えば、宇宙の覇者なんて言う人にも挑んでいくし」
次は、リトを取り囲む影の全てが揺れる。
「ゲームの中でもボロボロで…俺の知ってるだけでも、いっぱい戦ってて、知らないところでも、俺たちを守るために、何度も、何度も戦ってたんだ……今回もそうだ」
最後は全ての影が揺れていた。
「だから、あんなになってでも、みんなを助けようとするユウ兄を、今度は俺が助けてやりたいんだ…」
リトがそう言い終わった後、日が沈みきり、四つの影は一つの大きな影になっていた。
「どう思っても仕方ないと思うけど、あれがユウ兄の本当の姿じゃないんだって、わかって欲しくて」
そう言ったリトの顔は、逆光に照らされていて三人にはわからなかった。
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「学校で、そんなことがあったんだ…」
「そうなんだ…ルンがもってた、宇宙の薬品みたいなのが関係はしてるんだけど…」
ユウリの過去を見ているミカンは、家に帰ってきてリトとララの話を聞いた。
その時に真っ先に浮かんだ光景は、あのゴミ山に住んでいた頃のユウリの姿だった。
「……兄上が、本当にそんな残酷なことを…?」
「…………」
ナナは息を呑んで、信じられないと言った顔をしている。
モモは、少し不機嫌そうな顔で黙っていた。
「……あのね…ユウリさんの、昔の世界は…本当に悲惨な場所だったの…」
「ミカン?」
「…なんでそんな事がわかるんですか?」
ララは心配そうに、モモは怪訝な顔をしている。
「…私の能力で、見た事があるから…」
「能力…そんな事ができるのか!?美柑、俺も見たい、ユウ兄の過去を!」
「私も、お兄ちゃんの心の闇、その理由がわかれば、私たちが助けになれるかもしれないから」
──ズズズズズズズズ……
誰にも見えていないだろうが、ミカンの右手にオーラが集中し、【念獣】を形成する。
「こ、これが美柑の能力……」
リトは、オーラが見えるわけではないが感じ取る事が出来ていた。
ユウリと過ごし、ミカンと過ごす事で、少しづつ【念】の突端に触れていたようで、今まさに妹の能力を目の当たりにしてオーラが薄く見える程になった。
「リトには見えるの?」
「うん、ボンヤリとだけど、何か、これは…顔?」
ミカンの右手の甲に浮かぶ顔のような念獣、目のような丸い膨らみは瞬きしたり、口に見える棒の部分も動いているように見える。
「うん、顔みたいだよね。
──これが私の能力、【
これを使えば、みんなにユウリさんの過去を知ってもらえる。ユウリさんの心の闇の理由を、その意味を…」
「……私は、知りたいです。お兄様に怒られたとしても、お兄様を知りたい」
「あたしもだ。兄上の事を、ちゃんと知りたい。見ておきたい…」
モモとナナはユウリの過去を見たいという。
「……本当に、悲惨ですよ。ユウリさんを軽蔑しませんか…?」
「当たり前だろッ!」
「当たり前だよっ!」
「当たり前ですっ!」
「当たり前だっ!」
四人は同時に答えた。
ミカンは小さく頷いてみんなを見回す。
「【
ミカンの右手の甲の顔は左手へと移り、その顔は形を変えていた。
全員が目を閉じて、ミカンのオーラへと包まれた。
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ミカンの能力が発動した時と同時刻。
学校から帰り、食欲もないし、今日の出来事を早く忘れたくて、布団へともぐり込んでいたのだが、
──ピピピッ
突然鳴り響く、甲高い電子音に体を震わせた。
普段、強気な性格が故か、一人でいる今、必要以上に驚いてしまった。
一体、誰だろう……?
もぞもぞとベットを這い、机の上の携帯電話を手に取る。
「西蓮寺さん…?
────もしもし…?」
『──もしもし、古手川さん?突然ごめんなさい…今、大丈夫かな?』
「…えぇ。大丈夫よ」
『あのね…今日の七瀬さんの事、どう、思う…?』
手が震える。
携帯電話の小さなディスプレイに表示される名前を見た時から、話の内容は既に思い浮かんでいた。
「……どうって?」
『私は、確かに怖かった。でも、結城くんの話を聞いて、普段の七瀬さんを思い出して、ひどい態度とっちゃったかなって…』
「……そう…ね」
『七瀬さんが謝ってくれた時、無視しちゃったから…今度、謝ろうと思うの』
「…なんで、私に?」
『古手川さんは、どう思ってるのかなって…』
どう思っているのか。そんなことはわかりきっている。
非常識な人。
生まれが普通じゃない事も聞いた。
それでも、私を助けてくれた。
「西蓮寺さん、私も同じ。一緒に、謝りましょうか。あの非常識な人に」
『…うん。非常識…でも確かに、普通じゃないもんね』
「そうね。でも私からしたらあなたたちみんな普通じゃないわよ」
『えっ!?私も!?』
「そうよ」
『ええぇ………でも、そうかもしれないね。普通な人なんていない。みんなそれぞれ、個性があるから。──古手川さんも、十分普通じゃないと思うよ?』
「なっ、なんで私も!?私は普通よっ!!」
『ふふふ。──私ね、結城くんに言われて思ったの。私も何度も助けられたから、今度は私も何か助けになれたらって。結城くんのお兄さんの』
「そう…まぁ、私も何度かあるし、あの人のタメってわけじゃないけど、一緒に行ってあげてもいいわよ」
『うん。ありがとう古手川さん。人のことは言えないけど、素直になっても良いと思うよ?』
「すっ、素直にって何によ!?」
『なんでもないよ。話せて良かった。また学校でね、古手川さん』
「なんだか釈然としないけど……でも、私も少し楽になったわ。ありがとう西蓮寺さん。──またね」
携帯電話を閉じる。
先程までと変わり、気持ちは少し晴れていた。
七瀬さん。
非常識な人。
生まれも育ちも普通じゃない、それでも、私を助けてくれた人。
他の男の人とは違う、男の人はハレンチな人だけじゃないことを教えてくれた。
優しくて、とても頼りになる人。
私の、きっと『初恋』の相手…
今日の事は、また非常識な宇宙の道具のせい。
そうだと自分に言い聞かせると、急にお腹が空いてきた。
夕飯を食べていなかったので、一階へとおり、夕食の残りを探していたのだが、
「ん?体調治ったのか?」
「お兄ちゃん!?」
「例の七瀬ってのと喧嘩でもしてんのかと思ったが、その様子じゃ仲直りできたみたいだな」
「なっ!何で七瀬さんが出てくるのよ!?それに服くらい着てよ!」
「風呂上がりなんだから仕方ねーだろ」
上半身裸でリビングをうろつくお兄ちゃんの勘違いに怒る。
「──まぁ何にせよ。お前が元気になってよかったよ。ヒデー顔してたからな。母さんも心配してたぞ。じゃあおやすみ」
私、そんなにヒドイ顔してたんだ……
そういえば帰ってきたときにお母さんにも心配されたっけ。
そりゃあ、七瀬さんにあんな顔させるわけだ……
おそらく、元に戻った後の、片目から涙を流し始める前に私たちを見る七瀬さんの顔が忘れられない。
まるで両親とはぐれた小さな子供のような、恐怖におびえる顔…
明日からは、元どおりでいないと。
優しいあの人を、心配させないように。
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「なに、ここ…?」
「きったねーー!ゴミ捨て場だ!」
「ここが、お兄様の、過去?」
デビルーク三姉妹は、ユウリの故郷でもあるゴミ山できょろきょろとあたりを見回す。
「なんか、漫画か?本が随分とたくさん……あれって…もしかして……」
リトだけは、近くに本が大量にばらまかれた、薄い青色の箱を見つめていた。
「あ…」
そこから出てきたのは、ガリガリに痩せ細ってはいるが、灰色の瞳から放たれる眼光だけは飢えた獣のように鋭い小さな子供。
モゾモゾとその箱から這い出て来ていた。
骨が折れているのか、両の前腕が変色し、不自然に腫れ上がっている。
痛くないのか、そのまま近くの雑草を引き抜き、乱暴に齧り始める。
その表情からはなにも読み取れない。
身体中の生傷と、千切れかけた左耳が痛々しい。
「あれ…が?」
おそらくまだ5歳程度であろうか、そんなユウリを全員は見つめていると、
「わっ!」
自分の体から人が生えてきたように見えてナナは驚き声を上げるが、人はそのままナナの身体を透き通り、ユウリの元へと向かう。
「あのガキきょーもいるな」
「昨日あんだけやったのによく生きてんな。まぁ、良いストレス解消にはなるな」
ならず者のような貧相な格好をした男が二人、
「今日は、足でも折ってやるか」
「コイツ、みょーに頑丈だもんな。売ったら金になるかな?」
「ならねーだろ。捨てるほどに、ガキはいる」
どんどんとユウリへと近づき、ユウリを蹴り飛ばす。
「オラッ!くせーんだよ!殺すぞコラァッ!!」
「ははは。軽いから馬鹿みたいに飛ぶな」
蹴り飛ばした男の方を向き笑う男、──を目掛けて獣が灰色の眼を光らせる。
「…すぞっ!!らっ!!!」
意味不明な雄叫びを上げて、自分から眼を離した男へと襲い掛かった。
「なんっだ!コラァッ!!」
両腕と顎で二の腕を掴み、足で挟んだ手首を無理やりに捻る。
「イッデェェェエ!!!」
叫ぶ男を無視すると、もう一人の男へと噛みつき、耳を噛み切った。
「み、耳が!耳がぁ!!」
そのまま痛がる男達へ、意味の分からない言葉を叫びながら飛びかかる。
片方の男の両腕を折り曲げ、もう一方の男の両耳を千切ったところで男達は逃げ出した。
「いっでえ………」
男達のセリフを真似ているのか、部位を表しているのか、自身の折れた腕を見て呟く。
「みみが、みみみ……みみ?」
自身がちぎり取った耳を手に持ち再度呟くと、最後に口角を上げる。
「こら…ころ?………ころす?コロス?コロす…?……殺す…」
ユウリから感じる感情は憎しみでも、怒りでもない、歓喜だった。
初めて、言葉を覚えたことに喜んでいるのだろうが、その異常性に五人ともが、絶句した。
その後も殺されかけてはやり返す光景を何度見ても、誰も、何も、話すことは無かった。
ーーー
ミカンのオーラが底をつき、現実世界へと帰還した全員。
「はぁはぁはぁ…」
生命力の源であるオーラを使い果たし、肩で息をするミカン。
「…ユウ兄の事、話を聞いてわかってたつもりだった。でも俺は全然知らなかったんだな…」
「リト……」
落ち込んだように顔を伏せるリトを慰めるララ。
モモとナナも鎮痛な表情を浮かべていた。
「──でも、こんな過去があろうと、俺と一緒に暮らしてきた兄貴なんだ。あんな造られた表情で話してなんかない。俺が、俺が助けてやらなきゃ…」
リトは顔を上げ、拳を握り静かに、だが力強く言った。
「私もリトと同じ気持ちだよ。一緒にお兄ちゃんを助けよっ!」
「…そうじゃないと困るよ。そのために…こんな疲れてまで
「あたしも手伝うよ。姉上との話、聞いちゃったから…」
「ナナっ!?」
「私との?もしかして……」
ユウリの目的は知っていたが、その戦う場所が地球になったこと。
電脳世界の地球に引き込み倒す算段があることをみんなは知った。
そしてモモしか知らないことが、
「ですが、お兄様の所属する探偵事務所には、二人しかいません…お兄様を含めても三人で怪物と戦おうとしています…」
「そんなっ!?無茶だ!!」
「大丈夫。私たちも、手伝えば良いんだよ」
叫ぶリトをあやすように、宥めるように言うララ。
「私も、この能力を使えば力になれるかもしれない…」
「黒蟒楼に潰された惑星にしかいなかった友達もいる…あたしの友達の仲間も、そいつらに……姉上、あたしもやるぞッ!」
「私は、言うまでもないです。お兄様の敵は、私の敵……」
「俺も、俺にも何かできるハズだ!この前の植物惑星でも戦えたんだから」
全員の決意は固まった。
そこで、ララがニコリと笑う。
「そうと決まれば、お兄ちゃんのところへ行こうっ♪」
デダイヤルを取り出し、デビルーク姉妹の居住スペースの壁に扉が現れる。
「えへへ、事前にお兄ちゃんの家と次元は繋げてたんだ」
扉に手をかける前に、扉の奥から、ユウリとヤミの話し声が聞こえてくる。
『──お願いが、あるんだ』
二人の話、ユウリはヤミだけを誘っているようだ。
それに奮起するリトとナナ。
「なんでヤミだけに…!」
「あたしには頼んないのかよ!」
憤慨するミカンとモモ。
「ヤミさんだけに…なんでユウリさんは…いつもいつも!!」
「……今度こそ、私が一番だと、キチンとお話ししなくちゃいけませんね」
『ユウリがそこまで言うのなら、しかたないですね。そのお願い、聞いてあげますよ』
「よしっ!お話も終わったみたいだし、お兄ちゃん家にとつにゅ〜〜!」
扉を開き、ユウリの家と完全に接続され、五人は扉の奥へと飛び込んでいった。
「お兄ちゃんっ!話は聞かせてもらったよっ!!」
──
自分に何ができるかはわからない。
でも、過去の世界でユウリの生い立ちを知った、見てしまった五人。
形は違えど、五人ともが、今のユウリを守るため、この星のため、戦う覚悟はできていた。
気付いたらお気に入り数1000もいらっしゃっていて、大変嬉しいです。
評価、感想もありがとうございます。
頂けるとやはり励みになるのでモチベーション上がります!
ありがとうございます!