ーーーーーー
「だぁぁぁぁぁーーーっ!!」
──ドドドドドォン!!
「よっ」
「──いっ!!?」
ララの発明品、べとべとランチャーくんのハンドガンタイプを両手で連射しながらユウリへと肉薄を試みるリト。
だったが、絶界で地面を消し、地中から迫るユウリに一瞬で間合いを詰められる。
そんなこと想定もしていなかったようで、完全に硬直。
その隙を逃すほどユウリは素人ではないし、ましてやこれは修行の組み手中。
「ほっ!」
地面から這いでてきて右手をリトの左脇腹めがけて振り抜こうとする。
「──!!」
リトもすかさず【凝】を使い自身の左肘にオーラを集中させ受けようとするが、
ピタ──
「素直すぎ」
右手はフェイント。
左足をリトの無防備な右の脇腹へと突き刺す。
もちろん【絶】の状態で力など大して入れてはいないが。
「ゲホゲホ──」
咳き込むリトの背中をさするユウリ。
「だいぶ動けるようになってきたな。リト」
「一方的にやられてる思い出しかねぇよ……」
「あはは。まだまだ弟に負ける気はないんでね」
確かにリトも強くはなってきた。
黒蟒楼の雑魚であれば負けることはないだろう。
とはいえ人型クラスの相手だとまだまだだろうが。
口を尖らせて拗ねたように言うが、たかが二ヶ月足らずで勝負になると思う方がおかしい。
はじめ気になっていたのは、いくら修行を重ねてもリトは殺気と言うものを持ち合わせていない事。
命を狩りとる気はないらしい。
戦闘に関してもララの武器を好んで使い、トリモチのような身動きを取れなくするばかりだった。
でも、それでも良い。
リトはリトなんだから。死なないように、俺が鍛えてやる。
「そーいやぁ、能力はどんな感じ?」
リトの能力はついこの間に発現したので、聞いてみた。
「あーっと、今は、──── 9レベルかな」
「へぇ。じゃあ一回俺に使ってみる?」
9レベル。レベル一桁くらいじゃそんな大事にはならないだろうと思い試させることにした。
「えっ…でも、どうなるか俺にもわかんないよ?まだ一度も使った事ねーんだから」
「実戦でいきなり使う方が怖いわ。ま、やってみようぜ。今はララとモモとナナもいるし、なんかあったら助けてもらえるからちょうど良いんじゃないか?」
「わかったよ。どうなっても知らないからな……」
リトは集中し、両目を閉じると顔の前でクロスした両腕思いっきり振り下ろした。
「───『
──カッ!!
リトのオーラに俺の周囲が包まれた。
──しーーーーん。
「なんにも起こんないな。俺のオーラにも思考にも異常は無いと思うけど」
自身の体を見回しても特に異常は見られない。
「不発?」
「いや、でもレベルは1に戻ってる…」
遅行性のものなのか、何しろリトも初めて能力を解放したので何が起きるかはわからない。
「──なにかあったの?」
「もう終わりましたか?」
ララとモモ、ナナもこちらへと近づいてきた。
「あぁ、終わったんだけど、何もおきな──えっ!!?」
振り向き様に
「あっ♡」
こけそうになったひょうしでなぜかモモの胸へと顔が突っ込んだ状態になっている。しかも左手はその胸に、右手はお尻を掴んでいた。
「な、ななな…」
「んん…お兄様、言ってくだされば、私はいつでも準備はできてますよ♡」
ナナとモモが何か言っているが俺の視界には何も入っていない。
顔はモモの胸に包まれているから。
「兄上のケダモノーーーッ!!」
ナナに殴られて横っ飛びに今度はララの下半身へダイブ。
またもや
「はむっ…ん?」
「お、お兄ちゃん…尻尾は、ダメだよ…あぁ!」
悶えるララの下半身に抱きついており、視界にはララの下着が。
「わ、悪いっ!!これはわざとじゃあ…」
ララから飛び退くとそこには俺へと再度拳を振りかぶっていたナナ。
「わっ!」
背の低いナナに覆いかぶさるようになり、抱きしめて、鼻の先に口づけをしてしまう。
少し見上げるようにしている紫色のナナの瞳と目が合う。
モモと似てるけど、少し釣り上がった眼をしてる。
ホントこの姉妹はみんな綺麗な顔だな。それに良い匂いがする。
あれ、なんだか段々と目つきが鋭くなっているような……
「……い、いつまでくっついてんだーーーッ!!!」
ナナに突き飛ばされて後ろによろめくと先程リトとの戦闘時に開けた絶界による穴へと落ちて後頭部を打った。
──ガンッ!!
なんだこりゃ…?
「これが、俺の能力?」
「リトさんの…能力ですか?──確かに、動き的には普段のリトさんのようでしたが…」
「ケダモノだケダモノ!ケダモノ兄弟だ!!」
「やっぱり、二人は似てるねっ!」
今は起き上がり、動きたくないので胡座をかいて動かないようにしている。
「マジでリトみたいなことになるとは……これ、レベルMAXだと一体何が起きるんだ…」
「俺の苦労、わかってくれた…?」
「あぁ…とんでもなく、厄介だな……」
遠い目をする俺に話しかけてくるリト。
ララは普段通り。
モモは嬉しそうにニコニコしている。
ナナは目つき鋭く俺を睨んでいる。
兄弟の絆はより深まったが、男としての何かを失った気がした。
ーーーーーー
リトの能力、自身の生活の中で何かを貯める事を制約として、戦闘時に貯めた物を放出するような能力が良いんじゃないかとしか言ってないのだが、できた能力はレベル次第ではかなり強力なモノになりそうだ。
【
自身に起こる不運をストックする事ができる。
ストックされた不運にはレベルがあり、貯めれば貯めるほどレベルが上がり起きる不運が大きくなる。
制約:ストックできる不運は自身が心から不運だと思える事が条件。
作為的な不運では貯めることはできない。
溜められるレベルには上限がある。(99レベルまで)
【
貯めた不運を指定した相手に放出する。
レベルに見合った不運が相手へと降りかかる。
その際に相手へと起こる事は自身では選べない。
運という不確定要素の強い物だが、それゆえに実力者であろうと泡を食う羽目に合う。
ラッキースケベ、普通であれば幸運なのだろうが女性への耐性が最弱すぎるリトには不運な扱いの為レベル上げには苦労しなさそうだし、ララの発明品への巻き込まれも凄いので期待できそうだ。
ただ、初めて受けたものがラッキースケベだったので戦闘でちゃんと自衛に使えるのかが、心配だが…
「あ、お兄ちゃん!今日はもう戻らないとっ!」
「そうだったな。俺も事務所に行かなきゃだし、また後でな」
今日の修行はここで終わりとなった。
ーーーーーー
「あーあ、破れちゃった」
「………難しいものですね…」
「力みすぎなんだよ、ヤミさんは」
赤い浴衣を着たヤミが穴の開いた金魚すくいのポイを覗き込んでいると、オレンジ色の浴衣のミカンが横から突っ込む。
「リトすごーーーい!」
「なかなかやるなリト!」
隣で歓声が上がるので、ヤミが横を見ると…
「いやいや。こんなの大したことないって」
「………」
リトがたくさんの金魚をすくっており、ポイもどうやらまだ穴は開いていない。
得意げな顔でいるリト。ララとナナはすごいすごいと言っておりモモも後ろでその様子に微笑んでいる。
その様子に、すこしムッとするヤミだった。
その後も輪投げは全て外すがリトは全て的中。
最後に射的だがこちらも全て外し、リトは、
──タンタンタンタン!
四連続で的を撃ち抜く。全弾命中。
「お〜〜ニイちゃんうまいなぁ!ほれっ、景品。こっちの嬢ちゃんはヘタだな〜〜!ほいっ、残念賞のティッシュ!」
内心でいらないと思いつつティッシュを受け取る。
「すごいすごーい!またこんなに!」
「最近ユウ兄とやりあうのに銃はよく使ってるからさ。こんなの慣れればお子様だって…」
──ゴゴゴゴゴ……
「結城リト、流石は私の
イライラするのは、結城リトに劣る部分があった事と、感じる
「兄上、まだ来ないのかナー?一緒にイカ焼き食べる約束してたのに…」
「あなたがあれだけ殴るから、お兄様もナナといるのが嫌になったんですよ」
「なっ!兄上が悪いからってあたしに言ってきたんだゾ!あたしが嫌いだなんて……そんなわけない無いだろッ!」
先程の二つともうひとつ、なかなか来ない、まだ自身の浴衣姿も見せれていない同居人。
その三つの理由のせいでヤミの怒りは溜まっていく一方だった。
ーーーーーー
「すみません。お待たせしちゃって」
「ユウリさんっ!待ちました?」
「いんや、時間ちょうどじゃん。二人とも、浴衣似合ってんな」
「ありがとうございます♬」
「あの、古手川さんはもう少し遅れるらしくて…」
「そうか。リト達は先に行ってるし、西蓮寺とお静ちゃんも先に行ってていいぞ?」
今日は花火大会のお祭り。
西蓮寺は水色の浴衣、お静ちゃんは白色に水色の柄の入った浴衣を着ていた。
リト達は先にお祭りに行ってるが、仕事終わりの俺と用事のあった西蓮寺と付き添いのお静、古手川が遅れるので遅い組で集まって行こうと待ち合わせをしていたのだ。
「え、いいんですかーっ?」
「いいよ。お静ちゃんも祭初めてだろ?楽しんできなよ」
彩南高校での戦闘後、俺を訪ねてきた三人。
なぜか謝られたのだが、謝るのはこちらの方だった。
俺の過去も、育ちも、本性も全てを伝えた。
怖い思いをさせたことは悪いと思っている中で、俺の中の一部は明確に楽しんでやっていた事を伝えても、なぜか謝るのは三人の方。
本当、お人好しばっかりだ。
そんなお人好し達の住む場所だからこそ、なんとか守ってやりたいと思えるんだろうな。
「リトもいるから、西蓮寺も早く行きたいだろ?」
「ゆ、結城くんがいるからなわけではなくて…」
少し、背中を押してやる。
昔に言った通り、俺はリトの味方。
今は西蓮寺もララも、どちらも応援してやる事にしているのだ。
「ほらっ、お静ちゃん。西蓮寺連れて行きなって」
「ありがとうございますっ!春菜さん!早くいきましょーー!!」
「わっ。ちょっとお静ちゃんっ!?」
「じゃーまた後でなー」
お静ちゃんに引っ張って行かれる西蓮寺を見送り、もう一人の待ち人を待つ事にした。
ーーーーーー
もう、待ち合わせの時間から30分以上過ぎている。
流石に、先に行ってるわよね?
支度に三時間もかけるなんて、何してんだろう、私。
『似合ってんな。古手川』
──ドキッ
な、なにを考えてるんだか、ハレンチだわ…!
己の頭をポカポカと叩く。
脳内に浮かぶのは、あの人の顔と自分の望む言葉。
先日、西蓮寺さんと村雨さんと一緒に謝りに行った。
そこで聞いた、あの人の、昔の世界での過去や育ちだったり、もう一人の自分なんて言われても非常識すぎてもはやよくわからなかった。
でも、謝りに行ったはずの私達に真剣に謝り返すあの人は、確かに誠実な人だった。
私が思っていた通りの、今までの男の人とは違う人。
「おっ、古手川!こっちこっち」
もう先に行ってると思ったが、望んでいた人物が一人だけ、待っていてくれた。
「なんかあったのか?随分時間かかったんだな」
「お、遅れるって言ったんだから、別に待ってくれてなくても…」
「嫌味で言ったんじゃないんだけどな。悪かったよ。まぁ、行くか?」
「う、うん」
はぁ。何やってんだろ、私……
せっかくお祭りなのに、せっかく、待っててくれたのに…
こんなに賑わっているお祭り会場で二人。
なのに、全然会話も無い。
浴衣も、もしかして似合ってないのかな…
落ち込んだ気持ちになり、無意識に下を向いて歩いていると、
「……キャ」
人の波に押され、着なれていない浴衣に、履き慣れていない下駄のせいでつまずきそうなるが、
「ほら。こけんなよ。折角似合ってんのに、浴衣汚れちまうぞ」
「あ、ありがとう…」
手を掴んで、私を抱き寄せてくれる。
そして、望んでいた言葉をさらりと言われて頬が熱くなる。
いつもなら、突き放してしまうんだろうけど、今はなぜか…
「人増えてきたな。花火見るとこは穴場だから、空いてんだけど行くまでがなー」
私よりも10cm以上背の高い七瀬さん。
横に並ぶその横顔を見上げて見る。
冷ややかにも見えるけど、目鼻立ちの整った綺麗な顔。近づき難い雰囲気を放つ少し釣り上がった眼。だけどその眼の奥は真っ直ぐで、無垢な少年のようにも見える、不思議と引き込まれてしまいそうになる、そんな灰色の瞳。
「どした?」
その瞳が、ふと私の方を向く。
思わずドキリとしてしまい、言葉に詰まる。
「──あ、さっきのは、ハレンチじゃ無いぞ!不可抗力だからな!」
私を抱き寄せた時の事を言っているのか、凛々しく見えていた顔は崩れて、今は本当の少年のように焦ったような顔をしていた。
「そ、そんな事、思ってません!私をなんだと思ってるんですか…」
今日の私は、なんか変だ。
西蓮寺さんにも言われた通り、私もどうやら普通じゃ無いかもしれない。
「おなか空きました。屋台見て行きましょうよ」
七瀬さんの手を取り、歩く。
心臓の鼓動が五月蝿い。
聞かれてはいないだろうか…?
「──ん。時間はまだ少しあるしな。じゃー俺はフランクフルトがいいなー」
一瞬キョトンとした顔するも、今は笑顔で手を引いてくれる。
「あ…」
でもすぐに、手が離れた。
私の右手は虚しく宙を漂っている。
私の手から離れた、あの人の手は、
「大丈夫か?両親とはぐれちゃったのか?」
「──グスッ。うんっ。お母さんと、お兄ちゃんと…グス…きてたんだけど…」
「そっか。じゃあ、俺も探してやるから、元気出せって。お母さんと兄ちゃんの特徴、教えてくれるか?」
「うん。────」
泣きそうだった、小さな女の子の頭の上にあった。
一人ぼっちで、切なそうな顔をしていた女の子。
この人混みの中でいち早くそれに気づき、声をかけると我慢していたであろう涙はとうとう溢れてしまっていた。
でも今は、ぐずりながらも七瀬さんに二人の特徴を教えている。
すると、ひょいと音がしそうな程に軽く女の子を肩車した。
「見つけた。じゃあ合流するぞー」
──
「すみません、ありがとうございました…」
「ニーちゃん、ネーちゃん、ありがとなっ!」
「ありがとうございます…」
「いーえ。すぐに見つけられてよかったです。兄ちゃんなら妹の面倒、ちゃんとみてやれよー」
「私は何も…でも、良かったですね」
優しそうなお母さんと、ヤンチャそうな男の子、迷子になっていた女の子にお礼を言われる七瀬さんと、何もしていない私。
なぜこんなにはやく見つけられたのか聞いてみると、七瀬さんのチカラの【円】と言うモノで、すぐに見つけられたらしい。
そうして家族と別れた時に、ふと思い出した。
そう遠くない昔に、両親とお兄ちゃんと一緒にお祭りに来た時、騒がしい喧騒に巻き込まれてはぐれてしまった自分の過去。
流石に泣いてはなかったけど、その時も白い頭をした人がすぐに見つけてくれたっけ。
そんな事を思っていたら、右手に温度を感じる。
あたたかい…
「ほら続き続き、何か食べに行くぞー」
一瞬遅れて手を繋がれたのだと理解したのだが、笑顔の七瀬さんに手を引かれる。
「ちょ、ちょっと…!」
「花火始まる前に食べてこー俺も腹減って来た」
そのまま二人で手を繋ぎ、屋台を巡る。
りんご飴やフランクフルト、たこ焼きも食べてお腹が満たされる事に比例して、私の心も満たされる。
確かに私は、今までで一番お祭りを満喫していた。
まさか自分が男性と二人で、こんな時間を過ごして、こんな気持ちになるなんて。
今はもう、あの人の顔は思い出せないけど、今日の事は、きっと忘れる事はないだろうと思った。