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「ララ……」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ララは、俺のことをいつもそう呼ぶが、俺を一人の男としてはみてくれないのか?」
「え、どう言うことー?」
なにこの状況?
ユウ兄が先日の祭りの際に肋骨が折れていることがわかって、ミカド先生に見てもらっていたのだが、今日も呼ばれて学校に来るってのは聞いてたけど…
まぁ、学校にいる理由はもはやどうでも良いのだが、今、放課後の教室で何故かララを口説いてる。
「婚約者になるのは、俺じゃ、ダメなのか?俺だって、こんなにララが好きなのに…」
「え…わたしは……」
わわわ!近い!ララとユウ兄が、キ、キスを……
「や、やめろよ!ユウ兄!!どーしちゃったんだよ!?」
「ふっ。ヤクなよリト」
ララとユウ兄の間に入り無理やり二人を引き剥がした。
俺に邪魔されたユウ兄はキザッたらしく少し伸びた、まぶたにかかる前髪を手でかきあげている。
それに対してララは、なんか、恥じらってるのか?
顔が赤いし、ユウ兄を見つめる目を見ると、俺は……
あーーー!もうっ!!マジでどーなってんだ!?
「あれ?おにーさんじゃん?どーして教室いるの?」
籾岡が教室に……また、ユウ兄は籾岡に変な噂流されまくってるのにこんな状況見られたら……
「大人ぶらなくて良いよ。リサはもう十分大人の魅力を持った女性なんだから」
「……は?──ちょちょ!ちょっと待って!ナニ!?」
どんどんと籾岡に近づいていく。
あれ?さっきまでララだったのに、突然籾岡に切り替えたぞ?
女の子なら誰でもいいのか?
わからんっ!!
「俺なら、リサのその有り余る魅力を、もっと引き出せるぞ?」
「ん…」
籾岡の横に立ち、腰に手を回して耳元でささやく。
あれ?あの籾岡が、なんか逆に大人しくなってるような…
心なしか顔も赤い。
「ちょっと!!ハレンチな事はやめなさい!!」
次は古手川……
もーいいや!突っ込まないぞ!!
籾岡の腰に回していた手を取られてクルリとまわるとそのまま古手川を抱きしめて窓際に押しつける。
「ハレンチ、か。ユイはこれが恥ずべき行為だと言うのか?俺はかわいい女の子に対する賛辞を恥だと思う事などない」
「な、なにを言ってるんですか!?」
「うーん。変だけど、リトのお兄さんの言うことも正論だな。俺も恥だと思った事はないっ!!」
古手川に言いよるユウ兄に対して同調する猿川。
ユウ兄、友達だけどその辺はヤバいやつである猿川と同じレベルになってるぞ!
「本当に嫌ならやめるよ。嫌いと言ってくれれば」
「そ、そんな事……でも、こんな人前でなんて……」
「じゃあ、人前じゃなければ……」
「……ん」
頬を赤らめて、顔を逸らすだけの古手川。
え?古手川って、え?まさかユウ兄が……?
古手川の顎を持って、無理やり自分の方を向かせると、そのまま唇を重ねようとしたところで、
「……えーっと。ナニこれ?リト、俺に能力発動したか?」
ばっ!と顔を離し、古手川に回していた腕を取り俺の方を向くユウ兄。
「おにーさん、見境ないね…わたしショックだなー言い寄られた時ちょっとアリって思ったのに。責任とってほしーなー」
「お、お兄ちゃん、あの時のリトのチカラとおんなじで変になってたの?」
顔は赤いままだがニヤニヤとしてる籾岡と、同じく少し頬を赤く染めたララが勘違いをぶつける。
「……ま、また結城くんの仕業なのねっ!!」
そして、プルプルと震えて怒りを俺にぶつける古手川。
「いや、違う違う!俺は何にも…」
「まちなさい!!今日という今日は許さないわっ!!」
「うわっ!違うってば!!」
なぜか俺が追いかけ回されるハメに。
その時みた、申し訳なさそうな顔をして逃げるように教室から出て行こうとする兄を……
後日、ミカド先生の薬の副作用という事はわかったが、恨むぞ、ユウ兄!!
この時のユウリが衝撃的だった為か、誰も沢田未央の様子がおかしい事には気づいていなかった。
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「はぁ。なんだったんだいったい……」
記憶はあるが、自分じゃありえない言動と行動。
なんか最近こんなの多いな……
教室を出て帰ろうとしていたら、
「あ、ユウリ様!!」
「ん?」
廊下で俺を見つけて向かってくるサキと九条。
「どうした?今日は藤崎は一緒じゃないのか?」
「すみません!学校にいると聞きまして、一緒に、来ていただけませんか!?」
「え?なにがあったんだ?」
「綾の様子がおかしいんですの……あの子に何かあったら、
「藤崎の様子…?よくわからないが、俺に言うって事は、そう言う事だよな?」
顔を伏せるサキではなく、九条を見て言うと、無言でうなづいてくれた。
「サキ、すぐ行くよ。世話になりっぱなしだからな。俺にできる事ならなんでもする。急ごうか」
「ユウリ様……ありがとうございます!こちらですわ!」
保健室に行くとミカド先生と、ベッドに座りブツブツと
「原因が、わからないの。もしかして七瀬くんにならわかるかと思って」
ミカド先生もお手上げのよう。だが、【凝】で見ても念を受けているような様子はない。
「これは、俺のような能力では無いって事しかわからないが…」
俺の言葉に顔を伏せるサキを慰めるように寄り添う九条だが、二人の顔は真っ青だ。
ただ、なにを呟いてるんだ…?
集中して聞いてみると、
「……ろいあめ……く……あめ……くろいあめ…」
黒い、雨?
なんの事だろう…ただ、この感じは……
「少し、心当たりがある。藤崎を、俺に預けてくれないか?」
「綾は治るんでしょうか…?」
「ごめん、確証はない。だけど、可能性は一番高い」
不安そうな二人に、気休めでも任せろと言えないのがつらいが、
「投げ出すようでごめんなさい。私にわからなければ、地球の医者じゃまずわからないわ。ここは、七瀬くんに任せるのが医者としても最善だと思う」
「ユウリ様……綾を、お願いしますわ!!」
「私からもお願いします!!」
「ああ。最善を尽くす。じゃあ藤崎、ちょっと俺の職場まで来てもらうだけだから、安心して」
二人の泣きそうな顔。
なんとか、してやりたい……
人頼みだが、松戸さんなら、なにかわかるかもしれない。
返事は無いが、藤崎を抱き上げて窓から飛び出て事務所へと向かった。
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「おや、今日は妹さんとではないのかい?」
「わかって言ってますよね?」
「まぁ、そうだね。この子を見て欲しいんだろう」
「何か、わかります?」
松戸さんは藤崎を見ながらもチラリと俺を見る。
加賀見さんはいつものようにそっとコーヒーを出してくれた。
「まぁ、君の頼みだから聞くが……ふむ」
「ありがとうございます。それで、わかるんすか?」
問いかけた俺に、加賀見さんが口に人差し指を立てた。
うーん、確かに急ぎすぎたな。
少し反省して大人しくコーヒーを飲みながら待つ。
「…………これは、直接では無いか…余波を受けている、と言った方がいいかな」
さっぱりわからないが、協力な力を持つ者の影響に当てられているのでは、との事。
直接的な害は無いだろうが、干渉が強まればわからないらしい。
「黒い雨。この意味はわからないが、その力を持ったモノの思いをこの子が受信しているようだね。少なくともその辺の土地神のレベルは完全に超えていると思うよ」
「また神っすか。加賀見さんは何か見えます?」
「……違和感は感じますが、まだ見えはしませんね」
違和感。土地神。見えない。
ん?それって、
「異界、ですかね?」
「おそらく。つまりは、地球の星神クラスかも知れないね。ただ、僕は手伝わないよ。これは君の都合だろ?」
「ははは。当たり前じゃ無いすか。そいつを喰うやつ殺す気なんすから」
スッ、とオーラが研ぎ澄まされる。
松戸さんはニヤリと笑い。加賀見さんも微笑んでいる。
「クッ。そうだな。ちなみに、近くまでは来ているが、様子見なのか一旦止まっているようだ。これは、その様子見の一つかもしれないね」
メガネの反射で松戸さんの眼は見えないけど、獣のような笑みを浮かべていることだけはわかる。
「話戻しますけど、余波なら結界か、電脳世界に入れれば平気っすかね?」
「そうだろうね。ちなみに、呪具は完成してる。預けておくから使い方は任せるよ。僕は君の整えた舞台の開演を待つのみだからね」
「もちろん。俺は俺のために、松戸さん達の舞台を完璧に仕上げますよ」
加賀見さん、今は誰なんだろう。
どこか儚げで、悲しそうにも見えるような、そんな微笑み。
昔の俺みたいだ。
作られた仮面を被っているような、顔に笑顔だけが張り付いているような能面のよう。
俺と目が合うと顔を伏せる。
もしかして…今の加賀見さんは……
結局その答えはわからないまま、加賀見さんの様子が変わる。
「また、七瀬さんのお客様です」
「ん?」
【円】で確認。
リト、ララ、西蓮寺、籾岡、古手川、ルン、お静ちゃん、サキ、九条と、沢田。
サキと九条はわかるが、えらく大所帯だな。
「入れて、良いんすか?」
「僕は君の周りに手出しはできない。それに、勝手に入ってくるんだろう」
耳が痛い。
確かに、勝手に入ってくるだろうなぁ。
と思っていると、ガヤガヤとドアの前で声が聞こえ始める。
そして、チャイムが鳴らされることもなくドアが開いた。
「お兄ちゃん!!ミオが!!」
「ユウリ様、この方も、綾と同じ症状が…」
そこには、ブツブツと藤崎と同じ
「そうか。ただ、原因はわかったんだ。結界とか、電脳空間とか、何か力の影響を遮れば治るかもしれないから…」
「やれやれ、騒がしいな。僕は失礼するよ。七瀬くん」
俺の発言の途中に松戸さんは事務所の奥へ行こうとしたところで、リトが動いた。
「よしっ!遮れば良いんだな、じゃあ俺のオーラで!」
「ばっ……!」
自分の迂闊さを呪う。
まずは電脳空間で行わなきゃ、ココで何が起こるかわからないのに…!
俺の脳内の叫びも虚しく、リトのオーラに包まれる沢田。
「お……お…おぉぉぉぉおお!──カ、エセッ!!」
沢田は目は虚なままだが西蓮寺と籾岡を振り払い叫ぶ。
「ど、どうしたの!?ミオ!!」
「お、俺のせいなのか…?俺が…」
叫ぶ西蓮寺と、嘆くように呟くリト。
「ばかっ!これは影響が強まったんだ!お前のせいじゃない!!」
「カエセッ!!カエセッ!!!」
「綾!どうしたんですの!!綾!!」
藤崎にも影響が出ている。
そしてこれは……
「七瀬くん。──これは、ここに来るな。僕は能力を見せたくないからね。場所を変えさせてもらうよ」
「七瀬さん──」
二人の意図を理解して全員を結界で包み、俺の側へと引き寄せる。
いくつか悲鳴が聞こえるが無視したまま、全員が黒い渦へと飲み込まれた。
ーーー
「ここは…」
リトが既に日が落ちて暗くなっている山中を見回しながら呟く。
だが俺には見慣れた光景だった。
ここは修行地でもある松戸さんの所有する山中。
それより二人の様子は…
「……綾、治ったんですの?」
「ミオ!ミオ!起きて!!大丈夫!?」
二人とも気絶したようにグッタリとしている。
それも気になるが、何よりも今警戒すべきなのは……このプレッシャー。
感じたことがある。これは……
『………』
こいつが、星神…
唐傘をさした地蔵のような者が、そこにいた。
ーーーーーー
──キャーーー!!
──うわぁーーーー!!
叫び声と泣き叫ぶ声がこだまする街並み。
そこで夕食の買い物帰りのミカンは冷静に周りを見ていた。
『これって……』
宇宙人たちの襲撃。
数が多い、二十いないくらいか。
自分へと近づく妖怪のような見た目の宇宙人。
「このっ!やぁーーっ!!」
買い物袋に【周】でオーラを込めて宇宙人を叩く。
吹き飛んでいく宇宙人を見ながらも辺りを見回す。
徐々に群がってくる異形のモノたち。
もしかして、狙いは私?
「カカカ!コレデ俺モ幹部ダー!!」
「幹部!?どー言うことよ!!?」
カッパみたいな宇宙人が叫んでいるし、周りにもまだまだ相当な数がいる……
ユウリさんの気配も感じないし、自分で、やるしか無い。
「この状況なら、使うしか無いよね。夕食の材料の恨みもあるし、ここからは、私であって私じゃないから、覚悟してね」
──ズズズズズズズズ
左手にオーラが集まりそれは徐々に形を変えていき、顔だけの念獣を形成していた。
ーーーーーー
「……しつこいですね」
図書室で本を読んでいたヤミ。
その元へと集まってくる宇宙人達を片っ端から叩き潰している。
「あなたで、最後ですか」
最後の一人も叩き潰して外に出ると空を見上げた。
この街の上空に浮かぶ一際大きな、クラゲのような黒い宇宙人を見つけたところで、声を掛けられた。
「金色の闇」
「……あなたは?」
「七瀬ユウリに雇われている者だ。この学校の周辺は俺の管轄。アレは俺がやる。お前は他を当たれ」
「そうですか」
赤黒い、百足のような男の後ろには自分を襲った宇宙人と似たような者達が転がっていた。
元傭兵と元殺し屋。
お互いの力量もなんとなくわかった二人は特に会話をする事もなく別れた。
随分と騒がしい街並み。
ヤミは空を飛びながら、親友を探して日の落ちた夜空を飛ぶ。
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「数が多すぎるな……ブワッツ!マウル!」
「はっ!」
ザスティン達三人が結城家の周りに群がる三十匹以上はいる宇宙人を倒そうと意気込むが、高速で駆け回るナナが目の前に止まり遮られた。
「三人とも邪魔だ!こっちはあたしがやる!!いくぜライゾー!!」
ライゾーと呼ばれた巨大な白い、熊のようにも虎のようにも見える動物に跨り空を掛けるナナ。
その一方で、
「モモ様!!」
ナナには不要と言われたが、ブワッツとマウルを控えさせてザスティンはモモの元へと向かうが、
「あら、そこにいると巻き添えを受けちゃいますよ。離れていてください」
背中に羽を生やし空を舞うモモに止められた。
「巻き添え?」
──うぅぅぅ……
ザスティンは呟いた後に気づいた。
あたりに充満する煙。
化け物たちはその煙の影響か、意識が朦朧としているのか譫言を呟いている。
ナナの方も問題はないようだし、こちらが圧倒してはいるが、モモは不安な気持ちを消せずにいた。
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「──先生、侵入者です」
「次から次へと……加賀見くん、ここは僕だけでいいよ。下でティータイムを楽しんでいてくれ」
「フフフ。そうですね、お待ちしています」
とは言え、加賀見くん程ではないが僕の能力も見せたくはないしな。
懐から取り出した紙を床にばら撒くと、そこからいくつものメイドが現れる。
低度の低い呪具ではあるがそれなりに霊力の込められた式神。
「さぁ、頼んだよみんな」
可愛らしいメイド達はそれぞれ武器を持ち事務所内へと散らばる。
松戸はオフィスの自席へと座りコーヒーに口をつける。
「すっかり冷めてしまったな。こんな時間だし、片付いたら加賀見くんとディナーを楽しむとしようか」
通常は単純な命令しか受け付けない式神だが、操作系能力者である松戸の操る式神。
迫りくる有象無象は、重火器や格闘技を使うメイド達に次々と蹂躙されていった。
「さて、そろそろ片付きそうだが……七瀬くんの方は、どうなってるかな……」
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「……これ以上近寄らない方がいーな」
「気づきまシタカ、流石デスネ。ボクのような眼を持つ者がいるようデスカラネ」
「どーすんの?」
「見るだけのチカラなら、なんとでもなりまスヨ」
「あそ。てかさ、その喋り方なんとかなんねーの?どーせ虫、入ってないんだろ?」
「……まぁ、良いでしょう。あんなレベルの星神じゃあ私の望みは叶わない。でも、ちょっかいかければ何か動きがあるかもしれませんし、やはり地球というこの星は、何かがおかしい……」
「てか、俺の身代わりくんは大丈夫なんだろーなー?バレたら白がめんどくせーんだよ」
「大丈夫ですよ。それよりごく僅かしかいないようですが、あなたと同じ力を持った子がいますね。やはり、欲しい」
「……同じねぇ。まっ、俺が遊んだ後でならいーよ」
「まぁまずは小手調べ。佐金が全然役に立ってくれなかったので、今回は色々と試してみましょう」
碧と黒。
二人の黒蟒楼も地球へと来ていることにはまだ地球側はまだ誰も気づいていない。