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「ヤミさん、ありがと」
敵は全て倒し終えて、ヤミとミカンは結城家へと向かっていた。
今のミカンは既にオーラは枯渇寸前で戦闘できる状態では無いが、歩ける程度に回復していた。
二人の少女が家に着く前に、大量の縛られた宇宙人を担ぐザスティンとブワッツとマウルと出会った。
「金色の、闇」
「まさかそちらも襲撃を?」
「え、家にも来てたの……?」
「…ユウリが来ない理由は、これでわかりましたね」
「ヤミさん…なんだか、すごく嫌な予感がするの…」
「……私もです」
「みんなを、探しに行こう」
少し声が震えるミカンを見つめてヤミは背中に羽を生み出し、二人の少女は空を舞う。
「行きましょう」
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「っかしーなー。お前はいい
地面へと埋もれたユウリの頭に足を置いたまま呟く神黒。
「あ…あぁぁ……」
「ん?おーお姫様。久しぶり!って、覚えてねーか?」
砕けた地面を歩き、震えるララへと近づいていく。
ララは覚えていた。
自身と、妹を拐ったのはこの男だと。
あの時から、一切見た目に変化は無い。
纏う空気も、この絶望感も。
「う、うぁ……」
「怯えすぎでしょ?てかその感じは覚えてるみたいだな。お姫様は単純だなー。もう
なおもララに近づこうとしたところで、
──ドバァァアン!!
爆音。
神黒の立つ地面が爆ぜて、その深く、大きな穴へと神黒が落ちてくる。
その穴の底にユウリはいた。そして並ぶいくつもの結界。
『
「死んだフリかー。だっせー」
「く、らえ!!」
オーラを込めた、【硬】の拳を結界へと撃ち込む。
衝撃が駆け巡り次々と結界を破壊するが。
──スパン
軽い音ともに、発射口となる巨大な結界は切られた。
駆け巡る衝撃はその場で爆発し、大きな穴を巨大な穴へと変える。
「チッ!!」
舌打ちし、オーラで位置を確認。
既に眼前にいる。
「自分より速いやつに、あんなん当たるわけねーだろ」
「……
「そーそー。ただし、壊れるまでな」
ユウリが構えをとるも、神黒はニヤニヤとした笑みを崩さぬままそれを見る。
それは余裕であり、同時に油断でもあった。
その油断を突き、一瞬にして姿を消したユウリが神黒の真横に現れてこめかみへと肘打ちを叩き込む。
「オラオラオラオラオラァ!!!」
殴り、蹴り、肘打ち、裏拳。
目にも止まらぬ速度でユウリの連撃が神黒へ入り、その身体を穴の壁へと押しやる。
ユウリは神黒にダメージはほとんど入っていない事には気付いていた。だが、決して効いていない訳では無い。
数千、数万分の一かもしれないがダメージは入っている。
神黒はその全てを甘んじて受けていたが、
「はははは!いいね!」
神黒が口元を好戦的に歪め、お返しとばかりに殴りかかる。
ユウリはその全てを躱し、絶妙なタイミングでカウンターを入れる。
「おっ?」
「確かに、お前のが速いけど、俺の方が巧い」
ユウリのほぼ垂直に放つ蹴りが神黒の顎を跳ね上げ、振り上げた足をそのまま振り下ろしての踵落とし。
直後に飛び退きながら、地面に減り込む神楽の後頭部に念弾を連射する。
「オラララララァッ!!」
ユウリの咆哮と共に放たれる百はあるかという念弾の雨。
「
そして刀を生成し、災いの神を屠った技を、刀一本分放っての追撃。
刀身から伸びる精錬されたオーラで神黒を両断せんと振り下ろす。
だが
念弾による砂塵が晴れると中から神黒が姿を現し、刀を振り下ろした体勢のユウリの頭を掴んだ。
「ゲッ!?」
「今のはけっこー良かったよ」
避けようのない姿勢に持ち込んでからのアッパーカット。
ユウリは回避不能と判断すると同時に左手でフックを放ちアッパーの軌道をずらす。直後に圧倒的力の込められた腕が頭部をかすめた。
たったそれだけで飛び散る赤い液体。
研ぎ澄ましたオーラの込められた右手の人差し指と中指を頭を掴む手首へと突き立てる。
突き立て緩んだ左手から体を回転させ脱出すると地面へと着地した。
「器用だな」
「そりゃあどーも!」
「じゃ、もーちょっと本気出そっかなー」
「できればそのままが嬉しいんだけど…なっ!!」
同時に飛び出すユウリと神黒。
圧倒的な強さを誇る神黒の攻撃を予測と経験で無理矢理同列まで持ち込んで闘うユウリ。
それはまさしく力と技の闘い。
両者の拳と蹴りが目にも止まらぬ速さで幾度も交わされる。
辺りには打撃音が響き、そして両者の姿が消えた。
「少し、上げるかな。耐えて見せろよ」
空に浮かぶ神黒の呟きと共に、膨れ上がるオーラで空が揺れる。
「オオォォォォオ!!!
大地に立つユウリの咆哮が木霊し、オーラで地面が爆ぜる。
そのまま互いに強大なオーラを纏ったまま攻防を繰り広げた。
ユウリが結界の反動を利用して更に加速し、閃光と化して神黒を滅多打ちにした。
あらゆる方向からユウリが飛来し、関節、鳩尾、こめかみ。人体の急所と肉体の結合部へと的確に攻撃を加えては即離脱する。
完璧な
神黒が反撃した時には既にユウリはおらず、別の方向から飛来しては的確に急所を突いている。
だが、ユウリは焦っていた。
神黒は本気で楽しんでいるだけ。
俺をすぐに壊さないように、丁寧に遊んでやがる……
いつ絶界を打ち込むか、大技は決まって躱されるか、技の発動を潰されている。
ユウリはその時を待っていた。
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「ナナ、本当にこっちであってるの?」
「ん?そーだなー、マジロー!どこに向かってるんだ!?」
二人は騒ぎが起きている様子などない街の上空を飛んでいた。
「既にこの辺りの騒ぎは落ち着いてる。今向かってるのは次元の揺らぎ」
「次元の、揺らぎ?」
夜の空を飛び回る二人と一匹。
モモは既に向かっている場所に確信を持っていた。
どんどんと近づいているのは彩南高校。
彩南高校の現校舎と旧校舎の間の林。となるとそこの中心点は、あの池だ。
「ここだ」
マジローの呟きと、モモが思っていた場所はやはり同じ場所。
そこにいたのは、全身も顔もローブに覆われた一人の男……黒蟒楼の幹部の一人、碧暗がそこにいた。
「誰だ、お前?」
「この場所にいるのは、偶然では無さそうですね」
ナナとモモはデダイヤルを片手に臨戦態勢で尋ねる。
「入口はここで合っているはずだが……通常の次元干渉では入れないか…と言うよりも、ここが本当に本来の入口か?力の流れ的には、裏口のような、小さな窓のようにしか思えないが……」
が、こちらを見る事もなく碧暗は干からびた池の底を見てブツブツと呟いていた。
「オイッ!無視すんなよっ!」
怒鳴るナナはデダイヤルを操作してまたもライゾーを呼び出し跨る。
モモも無言でキャノンフラワーを自身のそばへと呼び出していた。
「…ヤレヤレ、視覚的な干渉はできないようにしていたのデスガ……デビルークの第二、第三王女さんデスカ。ここに気づいたのは、その胸元にいる『サーチバッツ』の固有能力で、と言うところデスカネ」
「マジローの事知ってるのか!?」
ゆっくりと振り向き、二人を見る碧暗。
「ええ、それはマア。……どちらにしろあなたがたはボクの目当てでは無いので、消えてもらえるとありがたいのデスガ」
「それはちょっと無理なお話ですね。あなたが消えるというのはどうですか?」
モモの返答を聞くと、碧暗はローブをまくり上げ右腕を出す。
その腕にはいくつもの眼と、人の耳にも見えるいくつかの入り組んだ穴が空いていた。
「そうデスカ。では仕方ないデスネ。まずは小手調べ。『
右腕に開いていた穴が閉じる。
「え?」
「な、なんだ!?音が、消えた??」
何かを碧暗が唱えたことは理解した。
が、その後モモとナナは音を感じなくなっていた。
夜の風に林の木々が靡く音も、自身の話す声すらも。
「ナナ!!」
マジローの声もナナは聞こえていないが、心が通じているからわかる。
マジローと、ライゾーがいるから、私は平気だと、ナナはいち早く立て直し、碧暗へと突撃しようとするが。
「……すぐ立て直しマスカ。では、『
いざ突撃!というところでライゾーは混乱していた。
目の前には何人もの碧暗。自身の背中にはナナが3人も跨っている。
耳は聞こえず、主人であるナナは幻覚も含めて3人ともが茫然としているから。
「まぁ、今思えばあのデビルークの王女デスシ、持ってても無駄にはなりまセンカ」
モモとナナの眼には何人もの碧暗が見えている。
聴覚を奪われ幻覚を見せる。
碧暗の能力の前に二人は無力となっていた、かに思えたが。
『ナナ、本体はあそこ。ライゾー、そのまま左の木を目掛けて突撃だ。ちょうど真ん中くらいに敵がいる』
マジローとのテレパシーでハッとするナナ。
マジローは自身が発する特殊な念波で物を見聞きし、把握する。聴覚を無くそうと、幻覚を見せられようともマジローには通じない。
「たぁぁぁあっ!!」
──スカッ
「あり?──どわぁぁぁ!!」
碧暗は一瞬でその場から消えて、今は干からびた池を挟んでナナとモモと三角形になるように位置取っていた。
「あれ?聞こえるぞ!?」
「……」
木々へと激突し、ライゾーの頭を撫でながらもナナは聴覚を取り戻したことに気づいた。
そして、モモはずっと考察していた。
相手の消えた方法は何か。
今腕はローブに覆われており見えない。
能力には時間制限があるのか、それとも消える能力を使うときは幻覚と聴覚を奪う能力は使えないのか……
そこで碧暗が口を開いた。
「うーん、やはりその生物は厄介デスネ。せっかく滅ぼしたのに、生き残りがいたのは流石に予想外デシタヨ」
ゾワリとナナのツインテールが燃えるように少し逆立つ。
いつもの無邪気なナナの雰囲気など一切なく、憤怒という感情が漏れ出ていた。
「なん…だって?」
「ボクの術が効かない生物デスカラネ。絶滅させたつもりだったのデスガ」
「ふ…、ふざけんなぁーーー!!!」
ライゾーの背から飛び出し碧暗を殴りつけるナナ。
だが、拳が当たる寸前でまたも掻き消えてナナとモモ、ライゾーとは対角線上に現れる。
「今回は試験的なものデスカラ、ボクはもう帰りマス。本格的な戦闘も許可されてイマセンカラ。お二人もすぐにでもデビルーク星に帰ることをオススメしマスヨ」
「待てっ!!お前がマジローの故郷を!仲間を!お前がっ!!」
激昂するナナを嘲笑うかのようにそのまま掻き消えて、その後現れる事は無かった。
「ナナ、オレの念波でももうわからないところまで行ったようだ……それと、俺の星の事は、随分と昔の話だ、ナナが気にする事ない」
「でもっ!!…でも……チクショーーー!!」
「ナナ……」
胸に抱くマジローの一言に、やり場のない怒りをどこのぶつけたらいいのか、拳を震えるほどに握り込むナナ。
そんなナナにそっと寄り添うモモとライゾーだった。
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ユウリと神黒の戦いは佳境に入っていた。
ユウリの猛攻にも終わりが見え始め、どんどんとギアを上げるように強くなる神黒の攻撃が命中するようになっていた。
そして今もまた、神黒の蹴りが腹に突き刺さり、勢いよく飛ばされていく。
だがユウリは吹き飛びながらも空中で回転し、強引に地面に足を付けて着地した。
「ゲフッ!……クソが…」
「そろそろ、終わりかな?お前の事も
神黒の放った気弾がユウリへと向かい、何重もの結界と特大の念弾を放ちなんとか迎撃する。
「んだそりゃあ!俺はまだ死んでねぇぞ!!」
跳躍して距離を取る、着地と同時に両手にオーラを集約。
残る全ての力を込めての、大技の構えへと入った。
「ん?何かする気か…いいよ。見ててやるよ」
余裕の表情で腕を組む神黒。
「お、お兄ちゃん……」
逃げる事をせず見守るララ。
そんなララを一瞬見て、ユウリの脳裏に浮かんだのは、生まれ育ったゴミ溜めの世界。
何も持たず、人になれないままに終わってしまった世界。
そして、今の世界での、守りたいと思えた人達。
──オレたちが カラであり ユウリだ
次は忘れんな 捨てんな 逃げんな
「テメーは、
ユウリの腕から放たれるオーラが力強さを増し、空気が震える。
ギリギリまで結界の具現化はしない。
オーラを研ぎ澄まし、イメージを膨らます。
「見てくれるってんだから、喰らってもくれるんだよなぁ?」
大地を踏み締めた衝撃で体中至る所の皮膚が何箇所も裂け、血が溢れる。
握り込んだ両の拳も内側から吹き出る自身のオーラに耐えきれず血塗れ状態。
ユウリの莫大な潜在オーラを溜め込んだ光景。だがそれを前にしても神黒は尚も笑う。
組んでいた腕を解き、口を開いた。
「おぉ。やってみろよ」
「『
ユウリの真横に亜空間が広がる。両腕を亜空間へと突っ込むと同時に空間内に結界を生成。
暴王の衝撃は亜空間の内部で増幅し、神黒の側面に二つ、亜空間の出口が出現する。
衝撃波が神黒を挟み込むように飛び出して来るが、神黒も両腕を衝撃波へとぶつけ真っ向から受け止める。
両サイドから襲いかかる暴王の衝撃に呑まれながら、しかし神黒は揺らがない。
迸る衝撃に神黒の衣服は消し飛び、両腕はズタボロになりながらも神黒は耐えていた。
『ここしか無い!!』
ユウリは自身最大の大技を囮として、更に別の亜空間を開く。
そして出口は神黒の真上。
コイツは危険だ。ここで消しておかなければ……
七瀬悠梨の、両親の恨み…
ここで晴らす!!
「死ぃぃねぇぇぇぁ!!」
絶界のキューブが亜空間から現れて神黒を襲う。
「チッ……!!」
──ゾリ…
妙な音が鳴り、絶界のキューブは切り裂かれ形を失う。
漏れ出るオーラと共に、赤黒い箱はその場で霧散し消えた。
「危ねーなぁ。ここまでイカれたのなんて、何年ぶりだろ」
「……マジ…かよ」
「なんで、なんでまだ動けるの……?」
とんでもない化物だ、とユウリは心底思った。
これだけの攻撃に晒されながら生きており、ましてや絶界を切るなんてとても信じられない。
ララの言葉は神黒の今の状態を見ての発言。
神黒は左手は吹き飛び無くなっており、右足も膝から下は千切れかけている。そして、顔の左半分は絶界に削り取られ、無い。
だが生きており、顔半分だけで器用に話している。
それだけの大怪我を負いながらも平然としており、呆然とするユウリを見下ろしている。
「見たところ、今のが切り札かな」
「……そーだな……ララ、逃げろ。今の俺じゃコイツは止められない」
「そんなの!!」
「んー。いい線いってんだけどな。お前じゃ俺は確かに殺れねー。俺と来るか?そんな守るだのなんだのとめんどくせー事もないし、コッチは自由だぞ」
「誰が……俺はそのめんどくせーのが好きでここにいるんだよ」
「ふーん。変な奴」
「驚いたよ、お前も【念】が使えるなんてな…」
「ねん、なにそれ?時間稼ぎはつまんねーぞ」
トップギアまで上げたのか、はたまた更に上があるのか。
神黒の片腕片足から放たれる高速のラッシュに襲われるユウリ。
顔、腹、首、足。
至る所を殴られ、そこを【流】でガードはするが全く追いつかない。
数百は殴られたところで、腹に強烈な一撃をもらうとユウリは反動で顔を上げ叫んだ。
「コラァ!!少しは手加減しろよ!!」
「これ以上手加減って、やられろって事かよ?」
余りの力の差にユウリから弱音が零れる。
だが、神黒はなおもユウリをボロボロにしていく。
何度殴ろうと蹴ろうと、それでも逃げずに睨みつけて来るユウリへ強力な一撃を用意した。
「じゃあちょびっと手加減した攻撃でもしてやるか!」
「はは……お前、ちょっとしつこいぞ……」
ここまで力の差があると笑うしかないと言った状況。
ユウリは薄ら笑いを浮かべながら神黒の特大のオーラが込められたアッパーを腹に受け、空高く吹き飛んで行った。
「ゴホゴホ…ガフェ…ゲボ……」
ララのそばの地面に投げ出され、内臓を損傷したのか大量の血を吐き出すユウリ。
「お、お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」
逃げろというユウリの言葉に従わず、そばに居続けたララが寄り添い背をさするが返事は無い。
ビクビクと痙攣しながら吐血を繰り返していた。
「お?碧暗は帰るみたいだし、今日はこんくらいで勘弁してやるかな」
穴から飛び出した神黒はてくてくと散歩に行くかのようにユウリとララへと近づいて来る。
「とはいえ、今日使っちゃった生命力回収したいし、どっちかは殺さなきゃな。お前とはまた遊びたいし、お姫様にしよっかなー」
顔が半分しかない神黒が、笑顔で二人を見下ろしていた。