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燦々と照りつける太陽の日差し。
ミャアミャアと鳴く海猫の声を聞きながらもクルーザーは波を切り海を走る。
既に出発した陸地は見えず、360度水平線に囲まれていた。
そんな中で、わーわーと甲板で騒ぐ弟たちを横目に、少し離れたところでボーッと海を眺めている俺の側にはピンク色の髪の少女が一人だけ。さっきから特に話すこともなく、ただ横に並んで同じ水平線を眺めていた。が、そんな沈黙を破り声をかけられる。
「……もうすぐ見えてくるそうですよ、お兄様」
「そうか。モモは船酔いとか無いか?」
「はい、大丈夫です。でも、これはお兄様の療養が目的だと伺ってますよ?他の人は心配しなくていいですから、ちゃんとゆっくりしてください」
「療養、ね。ありがたいけど……あぁ、あれか」
確かに、薄らとだが水平線の先に目的地である孤島が見えてきた。
半ば無意識に、オーラを伸ばし島の様子を伺おうとするも、どうやら離れた位置にいたはずの妹には気づかれたようだ。
「あ、ダメですよユウリさん。【念】は使っちゃダメですってば。……まったく、休むって事を知らないんですか?」
そう。療養だと言うが、非常事態にならない限りオーラの使用をこの旅行中は禁じられている。
オーラを感じ取れるミカンに呆れ気味に注意され、展開していたオーラを引っ込めて頬をかく。
「いや、今のはさ、まぁ癖みたいなもんで…」
「まったく……モモさんも横にいるならちゃーんと見てあげてくださいよ。あ、でもモモさんじゃオーラは見えないですもんね。ユウリさんの事は私が見ていますから、モモさんはみんなのところではしゃいできていいですよ?」
モモの方へと笑顔で言うミカンだが、笑顔なはずなのに、笑顔に見えない…
「…ミカンさん、そんなにネチネチ言わなくても…お兄様もミカンさんのような子供では無いんですから… 私はお兄様が本気の時はわかりますから、その時は止めますね。ミカンさんに逐一言われるよりも、その方がお兄様の心が休まるでしょうし」
無駄にばちばちし始める二人。
なんだか、厄介なことになりかねないのでそっとヤミのそばへと避難してヤミの持っていたたい焼きをかじる。
「ユウリ……情けないですね」
「……うるさいよ。自分でもわかってら」
同居人にも呆れたような顔をされるが、あの場に自分がいる方が休まる気がしなかった。
その後ほどなくして島に到着し、豪華な館に入ると、サキに迎えられた。
「ホホホホホ!!皆さん、ようこそ我が天条院家の別荘へ!」
迎えてくれるサキと、少し後ろに控える九条と藤崎。
そして執事の嵐山と言う人の話を聞きながら、何故ここへきたのかを思い出す。
ーーー
あの日、結局ミカド先生に家を追い出された後に、何故かは覚えてないがサキのお屋敷の中でもかなりの広さを誇る一室へと全員で行くことになった。
そこでリトが話し出したのは、宇宙の化物集団にこの地球が狙われている事。
そして、俺たちはそいつらを追い払う為に戦うつもりでいる事。
なにも知らなかった連中は当然のように驚く。
更に立て続けに放たれるララの発言で更に驚きは加速した。
「それでね、春菜にも、みんなにも手伝ってほしい事があるの……」
ぶんぶんと首を横に振り手伝えることなど無いと言う西蓮寺たちだったが、モモも説明を付け加える。
ルンだけがうんうんとうなづいており、モモへと尋ねた。
「つまり、宇宙船で指定された座標まで移動して、この箱を開ければいいのね?」
「宇宙…と、唐突に壮大なお話ですわね…」
「てかさ、それって危なくないの?」
サキは宇宙と言われ、理解が追いついていない。
リサはもっともな疑問を伝える。
「全く危険が無いわけじゃあないが、正直ここにいるよりはかなり安全だと思うよ」
不安を煽ってしまったが、正直に、全てを伝える。
俺らが負けたらどのみち地球は無事じゃ済まない。
案の定、暗い表情となったみんなを前に、リトが立ち上がった。
「だ、大丈夫だ!!ララたちは宇宙の覇者の強さがあるし、ヤミだって宇宙一だし、ユウ兄も異世界最強の生物だ!俺も美柑も念があるから、やりようによっては俺たちですら全然勝てる!だから、安心してくれっ!」
誰が異世界最強の生物だ。と脳内でのみツッコミを入れる。
リトの言葉でみんなは意を決した顔になっていた。
もし、この世界に、物語と同じように神に愛された主人公がいるとしたら、本当に弟なんじゃ無いかとすら思う。こういう奴のもとには、良いやつが集まるんだよな。
サキはスッと立ち上がり胸に手をやると、俺の方を見て宣言する。
「……わかりましたわ。この彩南クイーンの天条院沙姫も、ユウリ様たちのお手伝いさせて頂きましょう。ララ、それでは何をしたら良いんですの?」
「「沙姫様!?」」
「私も、やるよ。結城くん達は、もっと危ないところにいるんだもんね」
「災いの神をも退けたんです。春菜さんがやるなら私もやりますよっ!」
「西蓮寺、お静ちゃん……ありがとう」
「私も、だんだんとあなた達の非常識に慣れてきちゃったわ」
「おぉーユイっちも春菜もやるなら、あたし達もやろうか?」
「そうだねー。私は七瀬先輩にも結城にも助けられちゃったし、やれる事はやるよ」
「ララ。宇宙船は、私のはあるけど、他のみんなの分は考えてるの?」
サキたちも西蓮寺も古手川もリサミオもルンも、結局、全員手伝ってくれる事になる。
こうやって最前に立ち、みんなを引っ張れる事ができるのがリト。
その後、やって欲しいことの詳しい説明と呪具の使い方、ルンも気にしていた宇宙船の流れをあらかた話し終えると、サキが立ち上がる。
「やる事はわかりました。それに、ユウリ様の本当のお仕事の事も……。その前に…一度療養が必要ですわねっ!!」
ーーー
その後、知らぬ間に日程が決められ、療養ならば【念】の使用禁止と言われ、今に至る。
その時のメンツに猿山をプラスした面々が天条院家の誇る館の広過ぎるエントランスでわーっ。と感嘆の声を漏らしていた。
執事である嵐山さんに館内を案内され、それぞれの部屋へと通される。基本は二人部屋のようだが、男は三人なのでリトは猿山と相部屋で、俺は一人部屋へと案内された。
「ひっろいすね」
「はい。沙姫様から一番良い部屋をと言われておりますので」
「はぁ。ありがとうございます」
確かに豪華な部屋だが、落ち着かないな。
夕食の時間までは自由とのことなので、特にする事もなく、オーラの使用も禁止されているので、決して外へと出す事はせずに、生命力を己の内側で練りあげ精神を研ぎ澄ます。
しばらくそうしていると、誰かがドアの前にいる事には気付いていた。
が、理由はわからないがただドアの前に立っているだけ。
そのまま少しして、ようやく扉をノックする音がした。
──コンコン
「どーぞ」
ゆっくりとドアが開き、そこに立っていたのは、ナナだった。
「兄上…ちょっと話を聞いてほしくて…時間あるかな…?」
なにやら考え込んだ様子のナナ。
すこし前から、様子が変だったので気にはなっていた。
「おぅ。どした?」
「あたし、変なんだ。ずっとイライラして、モヤモヤして…」
ナナの話を聞くと、あの日、ナナの友達の仲間を絶滅寸前に追い込み、故郷を滅ぼした男と戦ったようだ。それにナナは、怒り、初めて感じる人を殺したい気持ちと葛藤しているようだった。
俺は物心着く前から殺しを行ってきたので無かったが、初めて人を殺す時に人は良く感情が不安定になる。と知識から知っていた。
「ナナは、ただソイツに怒りをぶつけたいのか?」
「……うん。じゃないとマジローが…」
「マジローは、なんて言ってんだ?」
「……そんなことしなくていいって…あたしが危なくないようにして欲しい、自分の事は気にしなくていいって」
「そっか。良いやつだな。ナナの友達は。他の子は、なにか言ってるか?」
みんなに心配されてるそうだ。
でも、ナナの中では引っ込みがつかないと言うのもわかる。
「サファリパーク、だっけ?俺も連れてってくれよ。会ってみたいな。ナナの友達たちに」
「…それは、いいよ。兄上だから、特別に」
素直じゃないなと苦笑しつつも電脳世界のサファリパークへと入る。
そこに居たのは、見たことのない動植物たち。
ナナはなにやらここに暮らす生き物達がもともと暮らしていた環境にそれぞれ合わせて作られているんだぞと鼻を高くするが、おそらくはほとんどモモかララだろうが作ったんだろうなと内心で思う。
マジローとも、他の惑星を追われた動物達、ナナを本気で心配する奴らと、ナナと話してみることにした。
みんなは終わった事だからと、ナナに危ない事はして欲しくないと言うが、ナナの気持ちは考えてはいないようだった。
「お前らの言い分もわかるけど……でも、好きなやつを助けたい、仇を取りたいってのは悪いことか? 安心しろ、お前らの主人であり友達のナナになんかあったら俺がなんとかしてやる。クズはナナと、お前らと俺でブン殴ってでも更生させてやろうぜ。殺しは抜きでな。あんなのと同じになっても仕方ねーし」
「…兄上……」
「星と星との戦争みたいなもんだ。そん中じゃ、みんながみんな自分の事しか考えてねー。でも、自分以外の事を思ってこんなにも悩めるナナは、俺が知るなかじゃ一番優しくて、強い子だよ」
ぽんぽんと頭を優しく叩き、ナナの顔を見ると、浮かない表情は既に消えていた。
「あ、当たり前だろっ!あたしは凄いんだから、あのヤローはあたしがとっ捕まえて銀河警察に突き出してやるんだ!!」
「ん、ナナなら、きっとできるよ」
その後、少しの間サファリパークで動物達と戯れて現実世界へと戻った。
ーーー
厳選された食材を一流のシェフが調理したのだと言う料理に舌鼓を打つ前に、他の女性陣はみんな既に大浴場に入っているそうで、リトと猿山は夕食後に入るそうなので、俺とナナは二人で大浴場へと向かう。
男、女と書かれた暖簾の前でナナは立ち止まり、
「あ、兄上!のぞくなよ!」
「のぞかねーよ。リトじゃあるまいし」
お約束の会話を終えて、一人きりで広い湯船に浸かり、のんびりと身体を癒やしている内に、館の中では事件が起きていた。
ーーー
──パァン……
謎の、銃声のような甲高い音に館の中の人々は慌てふためく。
今の天候は昼間とは打って変わり、風は吹き荒び、雨は強く打ち付けており、嵐が島全体を覆っているようだった。
そして、音のした方へと向かうとホールで見つかる、執事である嵐山の死体。
警察に連絡をしようにもつながらない電子機器。
ララの持つデダイヤルすらも繋がらず、犯人もまだ見つかってはいない。
謎が謎を呼び、皆が皆不安がっていた。
「だ、大丈夫だよみんな!ここに全員いれば安心だし…」
「リト、今はユウリさんもナナさんもいないよ?」
「あれっ!?なんで、まさかあの二人に限って…」
不安を煽るように聞こえたのか、沙姫が立ち上がりリトへとまくし立てる。
「結城リト!何をおバカな事を!ユウリ様になにかあるわけがないでしょうっ!!」
「まぁ、ユウリさんだし、大丈夫だよ。今はオーラを使っちゃダメって言ってるから、【円】も使ってないだろうし、普通にお風呂に入ってるんじゃないかな…?」
「そうは言っても心配よ。私、二人に状況を伝えてくるわ」
温泉に行くとやたらと長風呂になる兄に対してなんら不安に思っていないミカンだったが、古手川は部屋を出て行った。
「ま、まぁともかく!今更どんな地球人が相手だって──」
「地球人が犯人とは限りませんよ」
「え…。ど…どーゆー事だよ、ヤミ……」
「たしかに、地球の技術ではないデダイヤルまで通信不能。これが人為的なものと考えるなら、異星人の仕業と考える方が自然ですね」
ヤミの発言に驚くリトだが、モモがもっともな事を言う。
「てことは…犯人の狙いは、オレたちって事か…?」
リトの言葉にみんなは押し黙る。
が、猿山だけは頭を抱えて震えていた。
「うおおぉーーっ!もー耐えられねぇーー!!殺人鬼がいる島なんか!!俺は泳いででも帰るぞっ!!」
部屋を飛び出そうとする猿山だったが、走ろうとした拍子にリトへとぶつかり、ラッキースケベが発動してわちゃわちゃとする室内。
猿山がドアを開けようとした瞬間勢いよくドアは開き、猿山はドアに激突して床を転げ回る。
「た、大変ですっ!従業員から聞いたのですが、嵐山さんの遺体が消えてしまったそうです…血の跡も残さず…」
従業員たちを各部屋で待機するように伝えていた凛と綾が帰ってきた。
二人の話を聞き、謎を残したままに時間は過ぎていく。