Troubる   作:eeeeeeeei

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四十九話 偽物×悲鳴

ーーーーーー

 

 

「あぁーいい湯だった。ナナーー!出たかーー!?」

 

「ばっ、ばか兄上!出てるけど、着替えてるから入ってきちゃダメだぞ!!」

 

「あーーい!じゃあ待ってるなぁーー!!」

 

 湯上りで気分の良い俺はついつい暖簾の前で大声で叫んでいた。

 流石は天条院家の誇るリゾート地の大きな館。脱衣所に備え付けの冷蔵庫にはコーヒー牛乳も入っていた。

 

「まったく、大声で呼ばなくても聞こえてたよ。ん?兄上、それは?」

 

「あぁ。わりーわりー。コーヒー牛乳だよ。温泉やら大浴場を出た後はやっぱこれだよな」

 

「え!いいな!あたしのもあるのか?」

 

「あるよ。ほら」

 

──ごくごくごくごく

 

 二人で腰に手を当てて一気に飲み干す。

 

「「ぷはぁーーっ!」」

 

「おいしー!」

 

「な、湯上りの時には気分にピッタリだろ?」

 

「うん!地球はやっぱり色々と楽しいな。じゃあ行くか!兄上!」

 

「おー。この時間なら、もーみんな食堂かな?」

 

 二人でテクテクと食堂を目指して歩く。

 廊下がやけに暗い気がするが、サキもララもサプライズとか好きそうだし、この時はまだ、何かの演出だろうくらいに思っていた。

 

 

ーーー

 

 

 ユウリとナナは食堂を目指して、廊下の角を曲がるとしゃがみ込む人影が見えた。

 向こうもこちらに気づいたのか、ハッとしたように立ち上がるとこちらを見る。

 

「あ…七瀬さん、ナナちゃん」

 

「コケ川!一人でこんなところにいるって…何かあったのか?」

 

「……」

 

 ナナは声をかけるもユウリは無言で古手川を見ている。

 

「実は、執事の嵐山さんが殺されたりしてて…私は二人に知らせに来たの」

 

「え…?殺され───ちょ、兄上?」

 

 ナナが古手川に近寄ろうとするのをユウリが手で制した。

 

「近寄るな。で、それをお前が殺ったってオチの話か?」

 

「な、七瀬さん?なにを言ってるの…」

 

 わかる。コイツは古手川であって古手川じゃない。

 なんとなくだが、確実に違う。

 

「今は、非常時だし…いいよな?」

 

 ナナに向けて一言呟くと、館を覆うほどの【円】を展開した。

 さっき古手川の姿をしたナニカがしゃがんでいたのは、階段下の倉庫前。

 中に古手川が縛られて押し込まれているのがわかる。

 だが、目の前のこいつは姿形は完全に古手川。

 宇宙の技術かなんなのかはわからないが、大したものだ。

 

「ナナ、そこの中にたぶん本物の古手川がいるから助けてあげてくれ」

 

「──な、何故わかるッ!?」

 

「え?あ、兄上は?」

 

「──俺は…コイツの相手かなッ!!」

 

 背後にいる者へとオーラを飛ばす。

 

「チッ…!」

 

「テメーがボスか?雑魚に潜入させて、テメーは様子見のつもり?」

 

 暗闇から現れた黒いコート姿の男は表情を変えず、答える事もせず悠然としており、まるで底を見せない。

 つい先日、久しぶりに完全敗北の味わったばかりのユウリはオーラを集中し構えを取ると黒コート姿へと変わる。

 

「俺の方が後出しだけど、似たような格好しやがって。何者だお前?」

 

「……フン」

 

 肉薄しようと地を蹴ったと同時に、相手の男の懐から高速で取り出され、構えられた武器は綺麗な装飾の施された黒い銃。

 目にも止まらぬ速さで打ち出された弾丸は実弾ではない。オーラと似た、生命力か何かのエネルギー。

 恐るべき速度で自身へと向かうエネルギー弾を即座に念弾で相殺する。

 が、敵はすぐに次弾に入り、また相殺されればすぐに次撃へ。

 お互いに一歩も動かないまま撃ち合う気弾を相殺し続け、互いの視界をお互いの放つ弾が覆い隠した。

 

「宇宙ってのは広いな。まだまだ、強い奴がいるもんだ」

 

「……そういうお前は本当に地球人か?」

 

 会話の際にオーラを背後へと広げてナナと古手川の様子を探った僅かな隙を狙い撃つようにエネルギー弾がユウリを直撃する。

 男は更に早撃ちでエネルギー弾を放ち追撃。

 全てを【堅】で弾きつつ接近を試みるが、牽制が上手い。

 こちらの初動を尽く邪魔してくる。

 

「近づいてほしくないの?武器からしても接近戦は、苦手か?」

 

「……どうだろうな?」

 

 余裕のつもりか?まずはその仏頂面を剥ぎ取ってやる…!

 地面から結界の筒を何本も生やし、腕や足を使い、遠心力を利用して不規則に加速しながらなんとか肉薄。

 幅広のトンファーを生成して殴りかかる。瞬間、悪寒が走り、トンファーを体の正面で構え防御を固めた。

  

──『黒爪(ブラック・クロウ)

 

 まるで巨大な虎の鍵爪で引っ掻かれたような衝撃。獣の爪痕はトンファーを大きく削り取り、詰めたはずの距離は振り出しに戻った。

 銃を鈍器として高速の連撃。

 銃の形状はおおよそ斬撃にはならないようなものだが、並外れた速さがそれを可能にしていた。

 

「あぶねーあぶねー。マジで強いな、あんたも黒蟒楼じゃないよな?だとしたら計画狂うんだけど」

 

「黒蟒楼だと?俺は──」

 

 神黒は死んでも俺がどうにかするつもりだが、このクラスがもう一人いるなら話は別だ。

 ヤミでないと相手はきついだろうが、ヤミには他のみんなが突っ走りすぎないように見てもらうつもりだった。

 本当、世の中は簡単じゃない。

 男が口を開きかけたとき、ナナの叫び声が会話を中断させた。 

 

「兄上っ!アイツがっ!!」

 

 そこでようやく古手川の姿をした何かが逃げた事に気づいた。

 

「今はほっとけ!それより古手川は無事か!?」

 

 ナナの方を見る事なく叫ぶ。逃げた奴よりも相対している男の方が確実に危険。戦闘力も相当のものだし、何より、早撃ちの速度が常軌を逸しているので余所見はとてもじゃないができない。

 

「…オレの仕事のジャマをするな」

 

 仕事、と言うのはなんだ?あれ?まさか…

 

「…もしかしてお前、さっきのの仲間じゃねーの?」

 

「違う。お前が仕掛けてきたから迎撃しただけだ」

 

 ただの早とちりだったようだ。

 最近の異星人は問答無用で襲いかかってくる者ばかりだったために、ユウリから仕掛けたのだが、古手川を気絶させられていたので仕方ないとも言える。

 

「あー。それは悪かったよ。だが、なぜここにいる?さっきの奴が狙いか?」

 

「……言ったはずだ。仕事のジャマをするなと」

 

「いや、内容によるだろ。狙いが俺の仲間なら問答無用で続けるぞ」

 

 武器を納めたため、続きをやるつもりはないようだが、質問に答える気はないらしい。

 

「なんだよお前!!勝手にサキんちに入ってきてる時点で悪いのはお前だろっ!」

 

 

──ヒュッ

 

「──ッ!!」

 

 ナナが喰ってかかった瞬間、懐から手元が消えるような速度で銃を抜き取り同時に発砲。

 初見の時より倍は速い。まだ上がるのか、とユウリは顔を顰めた。

 なんとかそれを紙一重で躱し、顔を上げるともう男は居なかった。

 

「──逃げられたか…ナナ、大丈夫か?」

 

「うん。でも何でコケ川がニセモノだって気づいたんだ?」

 

「ん?そんなもん見りゃわかるさ。俺の数少ない友達だからな」

 

 二度も人生を送ってきているが、友達や友人と呼べる人間はこの世界の一握りだけ。

 ユウリにとって何よりも大事な存在であるその人たちを、間違えるはずもなかった。

 

「それって…あたしでも、わかる?」

 

「そりゃあな。見た目がナナでも、中身が違えばすぐに気づくよ」

 

「そ、そっか…」

 

「なんだよ?嬉しそうな顔して…とりあえずみんなのところに向かおう。アイツはやたらめったら殺しはしないタイプだろうが、戦うとなるとやっかいだしな」

 

「そ、そんな顔してないっ!!」

 

 どこか嬉しそうなナナと、ひとまずみんなのところに戻るかとユウリは古手川を抱き抱えて広間へと向かった。

 

 ナナにも反応しなかったと言うことは、狙いは……

 

 

ーーーーーー

 

 

「こ、コレって!?」

「ユウ兄のオーラだ!!」

 

 ユウリが謎の男と戦闘を始める前に展開したオーラは館全体を覆っていたためにリトとミカンはオーラに反応を示した。

 その言葉に、瞬時に反応した者が二人。

 

「──ッ!!」

 

「う、うわぁぁー!終わりだ!あの人が戦うなんてよっぽどの事態って事なんじゃねーの!?俺はもー帰るぞぉーっ!!」

 

 一人はヤミ。

 ヤミも経験からなる第六感のようなものでユウリのオーラを感じ取り、その瞬間に部屋から飛び出して行く。

 もう一人は猿山。

 あまりの恐怖に耐えきれずこちらもヤミに遅れて部屋から飛び出して行ってしまった。

 

「あ、おいっ!猿山!!出て行く方が危険だって!!」

「ヤミさんっ!」

 

 結城兄妹は同時に呟くも、名前を呼ばれた二人は意にも介さずに走り去っていった。

 

「今時点での被害者が一人という事は、おそらく犯人は単独。今出ていったお二人よりも、お兄様とナナの元へ向かった古手川さんの方が心配です。お兄様と合流済みであれば問題ないと思うのですが…」

 

「うーーん。私が見にいこっか?モモにはみんなを見てもらって」

 

「いえ、私のデダイヤルもつかえないので植物を呼び出せませから、私にはお姉様ほどの力はありません……お姉様に皆さんを見ていただいた方が…」

 

「ララ、モモ、きっと他のみんなも大丈夫だよ。バラバラに動くよりも、ここで待ってよう。猿山は俺が連れ戻してくるよ」

 

「リト…うんわかったよ」

 

 リトの言葉に従うように、みんなはそのまま部屋で待機し、猿山を探しにリトが外へと向かおうとするが、猿山はすぐに見つかった。

 というよりも自分で帰ってきたようだった。

 

 その後みんなでしばらく部屋で待機していると、廊下から悲鳴が聞こえた。

 

 

ーーーーーー

 

 

──ニャー……

 

「やはり…あなたでしたか」

 

「こんな惑星(ほし)で…ドクター・ティアーユの生体兵器に出くわすとはな……」

 

 電気の消えた、暗い廊下で対峙する二人の人影、と一匹の黒猫。

 

──カッ!!

 

 嵐の夜空を走る稲妻の光により一瞬明るくなる廊下で、ヤミは男を見据える。

 

「あなたは…黒蟒楼に入ったようですね。────殺し屋…通称”クロ”」

 

「さっきの奴といい、妙なことを言うな……」

 

「ユウリと、出会ったのですか?彼はあなたを殺すため、牙を研いでいますよ…」 

 

「地球人に恨まれる覚えはないが、何の話だ?黒蟒楼なんか、俺には関係ないぜ?」

 

「……あなたが、黒蟒楼の黒ではないのですか?」

 

「よくわからんが…オレの仕事のジャマをするな。でないとまた…戦う事になる」

 

 クロとヤミの会話は噛み合ってはいないが、言いたいことは言い終えたと言わんばかりにクロは立ち去ろうとするが、

 

「私はあなたとは戦いませんよ。ユウリが、あなたを狙っていますから……でも、私の友人達に手を出すのであれば、私もあなたと戦わざるを得ません」

 

「……ともだち?」

 

「はい……あ、一人は標的(ターゲット)でした。訂正します」

 

「フッ」

 

 今度こそ、クロは去っていく。

 

 

 一人残ったヤミは、クロは昔と変わっていないように思えた。

 もしかして、自分の勘違いかと思い、先程の噛み合っていない会話を思い出す。

 黒蟒楼の黒というのは、クロではない…?

 ただ、会話の中でここにいるのは仕事だと言っていた……でも狙いは、私でも、ユウリでもなかった。

 と言うことはまさか、デビルークのプリンセス?

 

 ヤミはひとまず、広間に戻ろうとしたところで、遠くから悲鳴が聞こえた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「みんなは無事かな?」

 

「無事だよ。あれからずっと【円】を張っているが広間に問題はない。けど、猿山が二人いるのが気になるな」

 

「猿山が、二人?」

 

「さっきのやつだろうな。目的はわからんが、暴れてはいないし、逃げてるほうがあいつかもしれない。けど、広間に戻ったらとりあえずぶっ飛ばしてやろうぜ」

 

 ナナはジト目で俺を見るが仕方ない。

 猿山も異星人も【念】が使えるわけでは無いのでオーラを纏っていないし、並外れた生命力を持っているわけでもないので【円】の感知では区別はつかない。

 それに俺の友達ではなくリトの友達なので見たところで判断できる自信は無かった。

 二人いる猿山の内一人は広間におり、もう一人は既に館から脱出し外を走っている事が確認できた。

 

 ヤミが一人、館内を疾走しているのが気になるが、ヤミであれば問題はないだろうと思っていた。

 

「……ん…んんっ…」

 

「あ、おはよ。古手川」

 

 小さな呻き声とともに、胸に抱く古手川の目がぼんやりと開きはじめるので声をかけた。

 

「……おはよう。あなた…もう、いつもみたいにユイって呼んでくれたらいいのに」

 

「…へ?」

 

 寝ぼけてんのか?

 唐突すぎて思わず間抜けな声が出た。

 

「もう、あなたったら…いつもみたいにちゃんと呼んでくれないと、起きないんだからね…」

 

「何言ってんだコケ川?」

 

 ナナが、俺の胸に収まっている古手川に顔を近づけて声をかけると、しばしの沈黙ののち、

 

 

「キャーーーーーーッ!!!!」

 

 古手川の悲鳴が館中に木霊した。

 

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