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「ただいま…」
「お帰えりィーリト。ユウリさん、今日も遅くなるってさー」
「あっそ……」
むぅ。なんだその返事は?何かあったのかちょっと気になったが、私は読んでいた雑誌をまた読み始めた。
ユウリさんは今年に入ってから始めたアルバイトが忙しいらしく、今日は夕飯も要らないとの事だった。
バイト先はなんと探偵事務所とのことだが、具体的に何をしているかは、「守秘義務!」と言って教えてくれないし、突然「遠征があるから!」と言って一週間も泊まりがけで帰って来ないということもある。就職先のつもりだから断れないと言っていた。
家のことは高校に入ったリトが手伝ってくれているのでそこまで増えてはいないし、最初は料理以外全てユウリさんに頼っていたので、私もリトも全く不満には思ってはいないのだが、
「最近多いなぁ……」
最初は話すこともなかった人だが、あの日を境に私はユウリさんとの会話も増えて行き、今では好きになっていたので少し寂しい。
最近では多くなってきたリトと二人きりでの夕食を終え、私は雑誌の続きを読んでいると、
「ギャーーーーーー!!!」
お風呂に入っているはずのリトの悲鳴が聞こえた!
「ど、どーしたのリト!?」
「フ、フロ場に、ハハ、ハダカの女が……」
は?何を言っているんだこの兄は。私は浴室を見渡すが、もちろん誰もいない。
「あ、あれ、変だな?確か今そこに…あれ?」
まだリトが何か言っているが、
「リト……年頃なのはわかるけどさぁ、妄想と現実の区別くらいつけようね。妹として恥ずかしいから」
まったく、なにを寝ぼけているのか。兄として、もう少ししっかりしてほしい。子供っぽすぎるのだ。もう一人の兄は逆で、まだ学生なのだからそこまで仕事ばっかりしなくてもいいのに……
そんな事を思いながら雑誌の続きを見ていると、なんだか二階がやけにうるさい。
「リトのやつ…何騒いでんだろ」
ーーーーーー
「七瀬さん」
「はいはいなんすか?」
「見つけました。飛ばしますね。少しずれるかも知れませんがあとはご自分で」
「はいはい」
ーーとぷんーー
俺の足元に黒い渦のようなものが出現し、その渦へと飲み込まれて行った。
ーーーーーー
「この移動便利だけど、この気持ち悪いのはなんとかならんものかな」
ひとり愚痴る。
この移動は、先程俺の横にいた松戸探偵事務所の職員の一人、加賀見さんの能力の一つだ。黒い渦の中を通り目的の場所へ転送できるそうなのだが、オーラで体を守っている俺くらいにしか使えない。基本は戦闘後の瓦礫やゴミなどの無生物用であり後片付けで使っていたらしい能力だそうだ。そのせいかもあるのか、妙な気持ち悪さがあるのでちょっと苦手だ。
なぜこんな事ができるのかと言うと、加賀見さんは吸収型の宇宙人だそうで、今までに食してきた様々な宇宙人の能力を使用することができるのだそう。見た目はウェーブがかった黒髪ロングのちょっと儚い感じの美人さんなのだが、その本当の姿は俺も知らない。
かくいう俺も顔バレはしたくないのでどこぞのXIII機関に似た黒コートスタイル。前のジッパーは一番上まで上げて鼻まで隠れているし、フードを被ると顔がなぜか見えなくなるという謎仕様なので完全に正体不明の悪役キャラな格好をしている。
このコートは松戸さんに作ってもらったのだが、松戸さんはそう言ったアイテムのコレクターだそうで、そう言ったものの解析や改良が得意なんだそうだ。
ーーズルズルーー
渦より這い出る。ここは見慣れた彩南町か、じゃあ今日も
「
夜の街を見下ろして、俺はそう呟いた。
探偵事務所でバイトしてるはずの俺がいったい何をしているのかというと、
ーーーーーー
「ーーーと、いうわけで実際はこの地球に害をなす宇宙人達を拘束するのが主な仕事だよ」
「はぁ」
俺は松戸さんの話を聞く前に加賀見さんが運んでくれたコーヒーに口をつける。
「要するに、俺はその宇宙人達を狩ればいいんすか?」
「その通り。僕は一応地球人だけど、加賀見くんは吸収型の宇宙人だ。戦闘能力ももちろんあるが、七瀬くんほどじゃないからね。君が適任なんだよ」
探偵事務所はあくまで表向き。ただ、異能や霊能と言うものは実際にあるらしく、そう言ったオカルトチックな仕事は受けるそうだ。
ただ、あくまでメインの仕事は宇宙人のハントだ。まさかハンターとしての仕事が出来るとは思ってなかった。なんだか前の世界に戻った気分になる。言うなれば、『エイリアンハンター』かな?
「その宇宙人達って、最終的に加賀見さんがみんな食べるんすか?」
「いや、全部じゃないよ。加賀見くんが食べるのはよっぽどな能力じゃ無いと必要もないしね。食えば食うほど強くなるってもんじゃあないんだ」
ぶっちゃけなんでそんなことをしてるのか、加賀見さんを宇宙最強の生物にでもしたいのかと思い聞いてみたが、そうではないらしい。
「なるほどっすね。じゃあなんの目的で?ーーー別に、正義の味方をやりたいわけじゃないんでしょ?」
松戸さんの眉がピクリと動いた、
「ーーー詮索は無しにして欲しいんだが。強いていうのなら、知りたいことがあるんだよ」
どうとでも取れる言葉。あまりにも胡散臭いが、そう言った松戸さんの目を見て、俺はこの事務所で働くことを了承した。
ーーーーーー
「
ターゲットは、二人、あっちか。夜のビルから結界を使い空を滑るように移動する。ん?てか、ここ結城家じゃないか?二人は無事か!?
「こっちだ!」
「待て!」
リトの声と、聞いた事ない声。たしかにリトの部屋の窓から飛び出して来た。リトは女の子の手を引いている。いや、誰だあれ?状況がまったくわからないが、ひとまずミカンの無事は確認できたのでほっとした。
リトを追いかけなくちゃな。粘度を変えた結界を作っては空を跳ねるように飛ぶ。追いついた!空を駆ける自分のすぐ下をトラックが並走している。あの宇宙人が投げたようだが、角度的にリト達二人には当たらないようにしてるのがわかったのでトラックに乗る。
「邪魔をしないでもらおうか、地球人…!!」
じゃあ暴れるなよ宇宙人……俺は誰にも聞こえないくらい小さく呟きながら、リトと女の子の背後からその先にいる二人の黒スーツ宇宙人を《隠》を使って、常人の目では限りなく見えない状態にした結界で殴りつける。
「ぐ、なんだ?」
「ララ様の発明か!?」
どこから何で殴られたかわからず慌てる二人を尻目に、ピンク髪の子がなにかしようとしている。
「なんだかわかんないけど、チャンスだね!ごーごーバキュームくん!」
女の子方が何か叫んでタコのような機械が現れた。
は?女の子の方も宇宙人か。って、巨大な掃除機だなこれは。ひとまず距離をとる。吸い込み口は一箇所のようなのでタコの上へと飛び乗った。リトは……!!
「おいィィーーーーっ!!!」
これ、止められないのか?と思ったがリトも同じ事を叫んでいた。仕方ない。俺はオーラを大量に練り込み、この世界に来てから編み出した技を行う。
『絶界』
赤黒いオーラを内包した自身の顔ほどのサイズの、全てを拒絶し消し去る真四角の棺桶。ひとまず、ある程度消し飛ばせば止まるだろ!!このタコマシンの内部を絶界でめちゃくちゃに蹂躙したところで
カッ!!!
爆発した。リトは結界で壁をはって爆風から守り、女の子は自身で空を飛んでかわしたようだ。吸い込まれた奴らも吹き飛んじまったし、悪意があるようには見えなかった。うん。追うのは面倒だな。ただ松戸さんになんて報告しようかな……
俺はその場を逃げるように後にした。
ーーーーーー
「今日のターゲット…悪意は感じないタイプだったし吹っ飛んで行ったんで放置したんすけど、良かったですか?」
「ーーーうん。今回はあのままでいい。それに、しばらくは仕事もお休みだ。どうやら慌ただしくなりそうだからね」
「慌ただしいのに、休みすか?」
事務所でコーヒーを飲みながら松戸さんに報告した。最後の俺の質問は無視され、ひとまず用があればまた連絡すると言われて家に帰った。
あの女の子、どっかで見たことある気がするんだけどなー
ーーーーーー
「ユウリさん、おかえりなさい」
「ただいまミカン。まだ起きてたのか?」
「なんか今日リトがおかしくて、二階で騒いでたんですけど、なぜか裸足で外から帰ってきて……」
「んー、なんだろな……リトもお年頃だから、かな……」
「ふふふ。そうですね。それ、私も今日リトに言いましたよ」
理由は知ってるが、答えられないので適当に答えておいた。リトは部屋で寝ているらしく、あのピンク髪の女の子はいないみたいだし、リトは偶然巻き込まれただけって事かな。風呂に入ってそんなことを考えていたが、風呂から出ても起きていたミカンと二人でアイスを食べながらなんて事ない会話を楽しんだ。
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翌日からはバイトも休みなので家でゆっくり過ごし、
と思ったが松戸さんの慌ただしくなるってのが気になっていたので、学校終わってそのまま松戸さんの所有する山の中で修行をしていた。最近はもっぱらここにいる。私有地だし、仕事中に破壊した瓦礫なども加賀見さんの能力でここに運んでいるようで、ゲームで言う滅びた国みたいな雰囲気を醸し出している。
ミカンにはしばらくバイトが続くと説明してあるし、昨日のこともあるので鍛えるに越したことはない。リトは結局、高校に入って部活は辞めた。今では家のことを手伝ってくれているので、俺も三日に一回は家に帰っている。その三日目に、学校が終わり家に帰る途中でたこ焼きを買い食いし、公園でくつろいでいるとピンク色の髪をした女の子が見えた。あーあの子がミカンの言ってた子か。そういえばこんな時間に家に帰るの久々だから実際に見るのはあの夜以来だな。なんてついつい顔を見てたら目が合った。
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「うーん。リトはどこ行ったんだろー」
私はリトを探して歩いていた。地球での生活はすごく楽しい。モモがずっと地球に行きたいと行っていたのも今ならわかる。なんでモモが地球のことを知っていて行きたがっていたのかは知らないけど。
デビルーク星では、毎日勉強勉強。宇宙の歴史だったり、王族としての礼儀作法。そして日々お見合いばかりの毎日だった。
そんな毎日に嫌気がさして逃げ出した私と、リトは出会ったその日に手を引いて一緒に逃げてくれた。それに、ザスティンから帰るよう言われたときに言ってくれたあの言葉。
『自由にさせろよ!!!!』
私がずっと思っていた、自分の好きなように生きたい。その気持ちを理解してくれて、リトの妹であるミカンや、学校での友達もできた。
地球は楽しい事がたくさんあって、今までの雁字搦めな日々が嘘みたいだ。
でもリトは、好きって言ってはくれたけど、なんで私から逃げるんだろう?本当に私のこと好きなのかな?今もこんなに探しているのに。
ちょっと不安な気持ちになり、落ち込みそうになった時、公園のベンチに座ってる白黒頭の人と目が合った。
「あー!あなたユウリね?ユウリでしょー!?」
「………ト○ロか俺は」
「あれー。違うのー?絶対そうだと思ったんだけどー。リトとミカンのお兄ちゃんだよねー?」
「いや、合ってるよ。ーーーララ・サタリン・デビルーク、で合ってる?」
「あってるよ。あと、ララでいいよ!ユウリ!」
なんだったっけ?地球の、丸い食べ物を食べながら答えてきた。この前見た気がする。たこ焼き?だったかな、すごくいい匂いがする。
ぐぅー。
そういえば、学校を出てからずっとリトを探し回っていたからお腹がすいてきた。
「食う?」
「ありがとう!いただきまーす!」
二人で並んでベンチに座ってたこ焼きを頬張る。おいしい。リトとミカンのお兄ちゃん、たしかに二人に似た雰囲気がする。優しい感じ。
「うまいか?」
「うん!おいしー」
「ならよかった。じゃあ食い終わったし帰るか。たぶんリトももう家にいるよ」
「……うん」
公園を出る前に言われた言葉。リトは家にいても、私を避けないかな?私がいたら迷惑なのかな?ユウリと二人で並んで公園をでて少しした頃、ずっと黙ったままがふと声をかけられた。
「……なんか悩みでもあんの?」
少し気持ちが沈んでいたので、なんでわかるんだろうと言い当てられた私はドキリとしたが、
「……悩みなんて、ないよ。」
「そっか。……じゃあさ、今からするのはもしもの話だけど。ーーー悩むくらいなら、好きなことをまずは知ってさ、この星とか、人とか。その後は、ララが思うように好きにやったらいいんじゃないのか?」
さっきとは違う意味で、ドキリとした。
「まずは地球を知らないとな。好きだから、ここにいるんだろ?」
その通りだ。私は何を悩んでたんだろう。私は自由になりたくてきた。好きな事をしたい。好きなリトと一緒にいたい。リトともっと話しをしたい。もっとリトの事、みんなのこと、地球のことを知りたい!好きなことをするにも、好きな物と人を知らないとだもんね。私の落ち込んでいた気持ち、悩みなんて全部吹き飛んだ。勉強とは違う知識。こっちは、すごく楽しそう。
それに、ユウリはちょっと違うけどリトと同じようなことを言ってくれた。私の自由を尊重してくれる。本当の兄弟じゃないって言ってたけど、やっぱりお兄ちゃんなんだな。リトとミカンが羨ましいなぁ。
「…うん。そうだね!今度は本当に悩みなんてないよー!」
「そっか」
"お兄ちゃん"は笑顔で言った。
私は長女だから、お姉ちゃんやお兄ちゃんって感覚がわからなかったけど、私にも、地球に来てお兄ちゃんができた。
だってリトとミカンはもう私の家族だもん。私のお兄ちゃんでも、あるよね。だから、
「うん!ありがとう。”お兄ちゃん”!!」
松戸さんと加賀見さんは、見た目は一緒ですが中身は違います。
作者がこの二人が好きなので。。。