Troubる   作:eeeeeeeei

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五十話 解決×警告

ーーーーーー

 

 

──バチンッ!!

 

 

 反射的にやってしまった。

 

 叩いた右の掌に若干の痛みと熱を感じて、またかと思う。

 

「助けたつもりだったんだけど…余計なお世話だった?」

 

「あ……その……ごめんなさい」

 

 自分でもなぜかわからない。

 恥ずかしい気持ちと申し訳ない気持ちが入り混じり、わけがわからなくなった。

 七瀬さんは、左頬を赤くして、困ったような顔をしたまま、愛想笑いを浮かべている。

 対照的にナナちゃんは何が面白いのか、ニヤニヤとしていた。

 

「兄上、顔に手の後がキレイについてるぞ」

 

「そりゃあ、今の今、古手川さんにビンタされちゃったからなぁ…」

 

「ご、ごめんってば…」

 

「もはやいつもの事だからいーけど、もう少し、男に慣れた方がいいぞ?どんな夢見てたのか知らねーけど、未来の旦那に名前で呼ばれるようにさ」

 

 意地悪……

 私が寝ぼけていたのは悪いけど、人間誰だって夢くらい見るでしょ。

 それに、夢の中の旦那さんは……

 

 この時、私はどうかしていた。

 七瀬さんもナナちゃんも何も言わないので、そのままの状態で広間へと向かっているのに何も言わなかった。

 しかも、ハレンチな事ではなく嬉しいと思っていたなんて、とてもじゃないが言えない。

 

 広間に入るなり、すぐに結城くんと西蓮寺さんが駆け寄ってくる。

 

「こ、古手川!?大丈夫か!?」

「さっきの悲鳴は、何があったの…?」

 

 少し前の私の悲鳴を非常事態と受け取ったのか、心配してくれているみんな。

 だが、方向性の違う人間が二人。

 

「なんでお兄様に抱っこされてるんですか…?あの、なんともないように見えるのですが、本当に歩けないんですか?」

「自分で探しに行って助けられてたらキリないですよ、古手川さん。ユウリさんはまだ怪我もちゃんと治ってないんですから、ちゃんと大人しくしてないと」

 

 ここでようやく自分が七瀬さんに抱っこされたままで、みんなの前にいることに気づいた。

 モモちゃんとミカンちゃん、なんか怖いんだけど……

 私だってわざとじゃないのに。

 七瀬さんが私をそっとソファーに下ろして、二人に私が異星人に気絶させられていたんだと説明してくれていた。

 あぁ、なんでこのまま来てしまったのか…

 顔が熱を帯びているのがわかる。

 ミカンちゃんの話も、先日の姿を見ているし一理あるので、申し訳なさと恥ずかしさで俯いたところで、

 

──フッ

 

「キャッ!!」

 

 突然電気が消えて、部屋が真っ暗になった。

 

 西蓮寺さんの悲鳴が聞こえる中、私はこの停電に乗じて結城くんがコケてこないかと警戒を強めた。

 

 

ーーー

 

 

 停電か…

 

 すでに過ぎ去っていた嵐のお陰か、停電していても、雲の無い空からは月明かりが差し込み、真っ暗闇ではない室内。

 

「あ……あれ!!」

 

 猿山が光の差し込み場所である窓を指差すと、そこにはさっきの黒いコートの男。

 少し前に男と対峙していたであろうヤミも、ちょうど広間に着いたようだ。

 

「……クロ」

 

 ヤミの知り合いなのか?

 謎の男の出現に一同は怯えているが、アイツはたぶん無関係の人間には手を出すタイプではない。

 さっきのやり取りでも、ナナと古手川を狙うそぶりすらなかったし、ヤミとは戦闘行為に及んだ形跡はない。

 そのため、俺はやりたかったことを先にやることにした。

 

「おい、猿山」

 

「え!?…ええ!?こんな時に、なんすかお兄さん!?」

 

 うーん。目の前で見てもマジでわからん。

 しかたない、本物だった時のために、先に謝っとけばいいか。

 ララに隠れるように立っている猿山に向けて両手を合わせた。

 

「間違ってたら、すまん」

 

 謝ってすぐに、ララの顔の横をすり抜けて右ストレートを猿山の顔面に叩き込む。

 そのまま一直線に壁へと吹き飛ぶ猿山。

 

「──ユウリ気付いていたんですか?」

 

 西蓮寺とリサミオあたりが、なんで猿山を殴ったのかと叫んでいるので簡潔に答える。

 

「いや、猿山見たら殴る気だっただけ」

 

「鬼かっ!?」

「…え?」

 

 リトからは罵声が飛び、西蓮寺は頭がおかしい人を見る目を向けている。

 だが、俺は殴った瞬間に猿山の体が一瞬ブレた事は見逃していない。

 どうやら、こっちの猿山で当たりだったようだ。

 

「西蓮寺、その目はやめて。ほらっ、殴って正解だったみたいだろ?」

 

「あ……」

 

「な…なんですの!?」

 

「やっぱり!さっきの古手川と一緒だ!」

 

 事情を知っているナナは気付いたようだ。

 猿山の体は メカメカしい人型スーツ姿に変わる。

 その頭部は透明なドームに覆われた操縦席のようになっており、中には緑色の小さな異星人の姿が見えた。

 

「万の姿を持つ変装の達人カーメロン。ある銀河マフィアから機密情報を盗み逃走中だった男だ。それが、誰も見た事のない本当の姿か…」

 律儀にクロとやらが解説してくれた。

 まぁ、狙いはやっぱりこいつだったわけね。

 

「だが…俺には匂いでわかる」

 

「えぇ、血の匂いがしなかった。初めは天条院沙姫のイタズラの線を考えましたが、クロの登場によりその線は無くなりました」

 

「……ヤミー?どした?」

 

 ヤミの芝居染みた話し方に違和感を覚える。声をかけるが無視されて、そのままいつになく饒舌に、つらつらと推理を並べ立てる。

 

 カーメロンはクロに追われていたためにまずは嵐山に化けて死んだフリをしてやり過ごし、猿山と入れ替わって今に至ると。

 

 ヤミは見ても聞いてもいないから知らないだろうが、間に古手川も含まれているが、ヤミは推理中で喋り続けているために口を挟めないし、なによりさっき無視されたばかり。

 

 部屋の中をわざとらしく歩き回りながら語り、推理を言い終えたのかヤミはピタリと立ち止まった。

 そして人差し指を、ビシッとカーメロンへと向ける。

 

「つまり、あなたは私やプリンセスを使ってクロを倒そうとした、そうですね?」

 

 シーン……と静まり返った室内。

 そういえば、最近推理ものばっか読んでたな。

 

「くっ……ちくしょーーっ!!」

 

 カーメロンは一瞬観念したように見えたが、叫びながらも煙幕を吹き出した。

 

「煙!?」

 

「なんにも見えないよーっ!」

 

 リトとララが揉み合っているが、肝心のカーメロンは……逃げていない?

 煙はすぐにはれ、周りを見るもみんなに特に変化はないようだが、

 

「み、美柑が二人!?」

「わたしがいる!?」

「私が本物よ!勝手なこと言わないでよ偽物!!」

 

 ミカンとミカンが二人で言い合いをしており、周りの人間は呆然とそれを眺めていた。

 だが、ヤミと男は偽物を見定めるように目を細くしている。

 

『クククッ…どちらが本物かわか……グボォ!!?』

 

 イラつくなぁ…

 何かの装置を使っているのか、出どころのわからない調子に乗った声がしていたが、俺の拳が深々と、片方のミカンの腹に突き刺さったところでその声はとぎれた。

 

「不快なことさせやがって……死ぬか?」

 

「ひっ!!な、なぜわかった…?」

 

 俺の腕が貫通しているため、すぐにメカスーツに戻り、空いたばかりの大穴からは煙が出ていた。

 これでもう、姿を変える事はできないだろう。

 

「妹を見間違える兄がどこにいる?」

 

「なっ…」

 

 腹を貫通している腕を引き抜き、次はドーム状のガラスを突き破って中から小さな本体を取り出した。

 そのまま地面に思いっきり叩きつけ、そのまま結界で拘束をする。

 ミカンの姿をしたモノを殴るのも嫌だったし、イラついていたために、わりと本気で叩きつけたからか、カーメロンは完全に気を失いピクリとも動かなかった。

 

「…ねぇ、リト。さっき私が二人いるって言わなかった?」

 

「……い、いや…俺にも、わかってたぞ!」

 

 ジト目でミカンがリトを見ており、リトは慌てて弁明していた。

 それよりも、アイツの動きが気になるな。

 コレ引き取って、終わりってなるのか?

 

「で、お前はどうすんだ…?」

 

 俺はクロと呼ばれた黒コートの男へと振り向き、オーラを研ぎ澄ました。

 

 

ーーーーーー

 

 

 ユウリさん、臨戦態勢だ……

 オーラは淀みなく綺麗に揺らめいているが、圧倒的なオーラ量を誇るユウリさんだからこそ、その密度は半端じゃない。私100人分くらい込められてるんじゃないかと思う。

 

 あの人は誰なんだろうか。

 構えているのは、綺麗な装飾銃。

 あきらかに地球人ではないだろう。

 

 でも、さっきのは嬉しかったな。リトは、絶対わかってなかった気がする。と、今と全く関係ない事を考えてしまったところでヤミさんが呟いた。

 

「…ユウリ……」

 

 さっきから様子が変だけど、どうしたんだろう?

 やけにソワソワしているような。

 

「ん?もしかして、ヤミの因縁の相手か?俺は手を出さないほうがいい?」

 

「………へ?」

 

 ユウリさんの言葉に、ヤミさんは呆けたように、似合わない間の抜けた声をだした。

 

「あ、あなたの因縁の相手ではないのですか…?」

 

「……いやいやいや、全く知らん。初めましてだ」

 

「クロは仇だと言っていたでしょう?」

 

「ん?それは神黒っつって、ついこないだやりあったのがアイツだよ。何言ってんの?」

 

「〜〜〜っ!!」

 

「ば、バカ!俺を攻撃してどうすんだ!?アイツが動いたらやべーだろ!!」

 

 ヤミさんは無言で髪を刃に変身させるとユウリさんへと斬りかかる。

 どうやらわりと本気のようだ。

 ユウリさんも壁や天井を使い部屋の中を飛び回り、私たちに被害が出ないように躱している。

 

「まぎらわしいことを、言わないでください…!」

 

「勝手に勘違いしたヤミが悪いんだろっ!何怒ってんだよ!?」

 

 ヤミさんの顔が赤い。

 これは、照れ隠しだな。

 ユウリさんは全く気付いてないみたいだけど。

 ホント、鋭いのに、ニブい人。

 すると、クロというらしい男の人が銃は構えたままだが、ヤミさんを驚いた顔で見ている。

 

「………珍しいものが見れたが、仕事は仕事だ…」

 

 ──撃つ気!?

 と思ったら、クロの腕をヤミさんが、銃身をユウリさんがそれぞれ掴んでいた。

 

「ジャマをするなと言ったはずだ」

 

 どちらに向けて言ったのか、それとも二人ともに言ったのかはわからないけど、二人は同時に答えた。

 

「殺しは、別んとこでやれ」

「トモダチに、私やあなたの住む世界を見せたくない…」

 

「ヤミ…さん…」

 

 前に、ユウリさんがみんなの前で暴れ回ったのは聞いた。

 それでハルナさんや古手川さんが恐怖で落ち込んだのも。

 それを、思ってくれてるんだよね。

 

 そして、それでも銃を下げないクロに対して、ユウリさんがとった行動は……

 

「そんなに仕事したきゃ、追ってこいっ!!」

 

 結界を解除し、カーメロンをつかみ上げると、そのまま窓から外へと飛び出していってしまった。

 ユウリさんに少し遅れて、クロとヤミさんも窓から飛び出していく。

 

 

ーーーーーー

 

 

「それで、ヤミは何を勘違いしてたんだ?」

 

「もーいいです…」

 

 孤島の突端まで移動したユウリの隣にヤミは立ち、向かい合うようにクロがいた。

 

「で、アイツは何者なんだ?」

 

「ユウリ、彼も殺し屋です。通称クロ」

 

「殺し屋ね。えーっと、俺の仇じゃない人と、ヤミはやりあったことあるとかなんとか言ってたっけ?」

 

「……本気で聞いていますか?それとも、まだからかってるんですか?」

 

 二人のやり取りを見て、クロは生体兵器であるヤミの変わりように内心驚いていた。

 

 ヤミを兵器として仕立て上げた組織は壊滅させた。

 その後、執拗につけ狙ってくるヤミと最後に対峙した際のセリフと表情からは想像もつかない。

 

『好きに生きろ…と?戦い以外の生き方なんか、私にはわからないのに?』

 

 そう言ったヤミの眼に光は無かった。

 が、今はどうだ?

 とぼけ、照れ、怒り、目の前で茶番を繰り広げている。

 そして、トモダチ、と。

 

 仕事をする気は、とっくに失せていた。

 

「仕事をする気分じゃ無くなったが、ひとつ、忠告しておいてやろう…」

 

「忠告?」

「なんですか?」

 

 同時にこちらを向き、同時に声を出す二人。

 表情は変えないが、内心で苦笑しつつも言葉を続ける。

 

「警告と、言った方がいいか。黒蟒楼なら、地球時間で二月も経たないうちにこの惑星に来るぞ」

 

「……」

「……え?」

 

 男の方は知っていたようだが、金色の闇は知らなかったようだ。

 この男、得体の知れない技といい、神黒に少し似ているな。

 だから、狙っているのかも知れないが。

 

「神黒には手を出さない方がいい。勝負になるような相手じゃない」

 

 一度、仕事で見たことがある。

 何度致命傷を受けても死ぬ事はなかった。

 むしろ喜んで敵の攻撃を受けている節すらあった。

 命をいくつもストックしているのか、はたまた不死なのかは見ている分にはわからなかった。

 もしもやり合うことになれば戦いにはなるかも知れないが、終わりがあるのかわからない上に、触れることもなく、攻撃の気配もなく相手を殺していた技だけは、俺にも見えなかった。

 

「……ご警告どーも。でも、ついこないだやられたばっかだっつの。次こそリベンジすんだよ」

 

「……クロ、あなたは戦ったことがあるんですか?」

 

「…いや、見ただけだ。仮に仕事が入ったとしても、いくら貰おうとも割には合わない事は確かだ」

 

 言いたい事は言い終えた。

 まさか、あいつとやりあって生き残ったとはな……

 この顔は、俺の話を聞いても引く事は無い、か。

 

「これは貸しに…しないでおくぜ……せいぜい生き延びてみせろ。金色の闇」

 

 生体兵器が、ヒトになるとはな。

 面白いものを見れたので貸しは無しとしておこう。

 

「え、俺にはなんもねーのかよ?」

 

 この男の影響か、他のトモダチの影響かはわからない。

 ただ、コイツは随分と、歪な奴だな。

 ただのガキのようでありながら、闇の住人の空気を纏い、とぼけた雰囲気で振る舞いながらも、突如殺気を振りまいたりとわけがわからない。

 どれが本性か、そのどれもが本性なのか。

 

「お前には、警告をしただろう。別にやるやらないは、お前の好きにしろ。じゃあな」

 

 この惑星は、今後どうなるか。

 他の惑星と同じく消えるのか、はたまた……

 

 

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