Troubる   作:eeeeeeeei

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五十二話 其々×物語

ーーーーーー

 

 

「お兄ちゃん、これだとどうかな?」

 

 私は電脳世界からの強制帰還用のプログラムを組んでお兄ちゃんに見せた。

 

「ん?いいんじゃないか?というか、俺は見てもわかんないけど、仮に崩壊しかけでも無理やり飛び出せるなら大丈夫だろ」

 

「私に、かかってるって、ことだよね…」

 

 発明は楽しいけど、こんな気持ちで作るのは初めてだ。

 私が、もしまた失敗しちゃったら、と思うと……

 

「そうともいうけど、そうでもないぞ」

 

「…?どーゆーこと?」

 

 ちんぷんかんぷんな事をいうお兄ちゃん。

 私は理解できずに首を傾げた。

 

「ララの装置ができてるのが一番だけどさ、最悪手はいくらでもあるって事。俺の能力も、加賀見さんのゲートもあるし」

 

 お兄ちゃんのあのベリアルなんとかと、黒い渦のことかな?

 亜空間を利用した移動方法は私もまだ作れないから、確かに手はあるね。

 少し、肩の荷がおりた気がした。

 

「うん。でも、私も失敗しないようにしなきゃ」

 

「……ララ、ありがとな」

 

「え?私、なにもしてないよ?」

 

 急にお礼を言われたけど、私にはその理由がよくわからなかった。

 お兄ちゃんは優しく微笑むと頭を撫でてくれる。

 

「……なんとなく、だよ」

 

 変なお兄ちゃん。

 でも、嫌な感じはせず、むしろ心地よかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「よしっ、良い感じ!!この作戦はマジローにかかってるからなっ!頼むぞー」

 

 連携もうまく決まった。手応えも十分。

 アイツ対策の目隠しと耳栓を取ったところで声が聞こえてきた。

 

「……いってぇー」

 

 あ、兄上が仮想アイツだったの忘れてた。

 あたしは兄上に駆け寄ると、なぜかボロボロなのにニコニコしていた。

 

「な、なんで笑ってんだ?おかしくなっちゃったのか…?」

 

「誰もおかしくなっとらんわっ!今のはかなりよかったなー。わりと本気で躱してやろうと思ったんだけどな」

 

 みんなで考えたんだから、当然だ。

 

「……なぁ、兄上はアイツより、強いよな?」

 

 なんでだろう、心の奥の不安が、兄上の前では出てしまう。

 自分で言って、らしくないと思う程、ただ自分が安心したいだけの幼稚な質問。

 だけど、兄上は勢いよく跳ね起きると、私の頭を乱暴に撫で回した。

 

「な、なにすんだよっ!!」

 

「バーカ、俺の方が数倍強いっての。きっと、碧暗だったらひとたまりも無いだろ。地球人最強の俺が言うんだから間違いない」

 

 今度はニヤリと笑みを浮かべている。

 兄上…

 

「…兄上は……これが終わったら、モモと結婚してデビルークに来るのか?」

 

 聞きたかったけど、聞けなかったこと。

 モモと兄上が結婚したら、あたしと兄上の関係が変わってしまう気がして、怖くて聞けなかった。

 

「どーだろうな?先のことはわからん。それこそ選択肢は無限にあるからな」

 

「……そう、だよな…も、もしかしたらあたしと結婚してるかもしれないもんなっ!?」

 

 言っていて恥ずかしくなったけど、そんな未来も、あるかもしれないもん。思うのも、言葉にするのも、あたしの自由だもんな。

 

「それもあるかもな。未来がわかんないからこそ、世界は面白い。………それじゃ、またな」

 

 そう言って、サファリパークを後にする兄上の背中は、とても大きく見えた。

 頼ってばっかりじゃなくて、あたしも、頑張らないとな。

 

 

ーーーーーー

 

 

「これを、こうしたら良いのね?」

 

 古手川が呪具である箱に向かって両手を突き出したポーズをとっている。

 

「いや、ポーズは別に……見えない力を込めてくれたらそれで良いんだ。古手川はうろ様も見えるくらい力があるしな」

 

 とは言えみんな普通の人間。

 強力な呪具を使うには霊力が足りないため、三人の術者によって起動させる。

 

「私は、大丈夫かなぁ…」

 

「大丈夫だろ。そのために、やってみるんだし」

 

 ルンは心配そうに呟く。

 それもそのはず、ルンとレンは体は一つだが、人数の都合上、文字通り一人二役こなしてもらう事になっていた。

 

「それを言い出したら、お、俺なんて……大丈夫ですかね!?お兄さん!?」

 

「落ち着け猿山。だからやってみるっつてんだろ」

 

「わわわ、ユウリさん私は大丈夫ですかね?」

 

 猿山の不安が伝達したのか、お静ちゃんまで騒ぎ出しているが、猿山とお静ちゃんに軽くチョップをするユウリ。

 「あうっ」という小さな悲鳴を二人から聞いたところで、ミカドが口を開いた。

 

「まぁ、大丈夫でしょ。霊力ってやつよね?お静ちゃんには人一倍あると思うわ」

 

 ミカドの言葉にお静ちゃんは落ち着き、お静ちゃんがいるから、と猿山は安心した。

 

「ねーねーお兄さん、あたしらの班だけチョー一般人だけど、ホントにいけんの?」

 

「うんうん。あたしらと、春菜だもんねぇ…」

 

「うんん、でも、やらないと…ですよね?」

 

 リサミオは不安そうだが、春菜は既に覚悟は決まっているようだった。

 

「そうだな。それに西蓮寺はもちろん、リサミオも、その辺の奴よりは霊力あるらしいし、大丈夫だろ」

 

「…ん、あ、ありがとうございます…」

 

「なーんか、春菜と違って…」

 

「私たちはとってつけたみたいじゃないですかー?」

 

 ユウリのその言葉に、照れたように微笑む春菜と、投げやりだと言う感想を投げるリサミオだった。

 

「ユウリ様、私は、きちんとやり遂げますわ」

 

「沙姫様は私たちが支えます。ユウリ様も安心してくださいね」

 

「そちらのほうが、激戦区と聞きます…私も、力になれたら良いのですが…」

 

 沙姫たち三人が一番落ち着いていた。

 凛は戦いに参加できないことに歯痒そうだが、

 

「九条の気持ちは嬉しいぞ。でも、これしてもらうだけでもめちゃくちゃ助かるからな。地球壊れないようにとか気にしないで済むし」

 

「そ、それほどの戦闘になるんですの!?」

 

「あー、まぁ。でも、大丈夫だって。次は勝つって、もう決めてんだ」

 

 一度ボロボロにされた時を見ている分、次は勝つと笑って言うユウリに対して不安そうな視線を向ける凛と綾。

 でも沙姫だけは、違った。

 

「もちろんですわ。私は安心してユウリ様たちをお待ちしております。帰ってこられたら、宴を開きますわ。あ、次はもちろんお酒は抜きで」

 

 沙姫たちにとってもあの日の夜は悲惨な朝を迎えていたようで、三人とも微妙な表情を浮かべていた。

 

 結果として、呪具による術式は発動し、あとは時を待つばかりとなった。

 

 最後に、一人一人と話し込むユウリを見て、ミカドにはまるで、もう会うことはできない友人と交わす最後の挨拶のようにも見えていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「…どう、ですか?」

 

「ん、かなり良いな」

 

 攻撃も防御も、オーラを大量に消費するから、潜在オーラの少ない私はインパクトの瞬間にその部位だけに込めるのが鉄則。

 今はユウリさんと私で身体の一部の掴み合いをしており、その部位に触れる前に【凝】をする訓練中。

 能力のおかげで、二十年以上研鑽を積んできたユウリさんのオーラ技術を文字通り体感しているからか、どんどんイメージに近づいていくのが、自分でもわかる。

 ユウリさんに、元の世界でも十分天才と呼ばれるくらいに早い上達と言われたのは嬉しい。でも、気になることはある。

 

「潜在オーラが増えたら、もうちょっと長く変われるんですけど…」

 

「そればっかりは、一朝一夕で伸びるもんじゃないから。あるものをうまく使うしかないさ。それに」

 

「それに?」

 

 やっぱり、何回目かの話は、いつも通りの結末を迎えたと思ったら、今回は続きがあるらしい。

 

「俺が全員ぶちのめせば、それで済むだろ?」

 

 ニコリと笑うユウリさん。

 でも、わかってしまう。

 この顔は、不安にさせないようにしてるな。

 この前負けた相手と、戦うつもりなんだから、そんな余裕はないはずなのに。

 

「そう、ですね…」

 

 ここで、信じてあげないと、良い女じゃないよね…

 でも、私のポーカーフェイスはまだまだだったのと、今日は鋭いユウリさんだったらしい。

 

「まぁ、負けたばっかりだもんな。でもさ、切札は、まだとってるんだぜ?」

 

「……本当、ですか…?」

 

 自分でも思う。今の私は、思い描く良い女とは程遠い、酷い顔をしてるんだろうな。

 

「本当だよ。できたらだけど、なるべくミカンが危なくないように立ち回るし。他のみんなには、内緒だぞ?」

 

「それは、モモさんとヤミさんに一歩リードしましたね」

 

 とぼけたように、ウィンクしながら言う顔はなかなか様になっており、私も思わずとぼけて返してしまった。

 

「ん、絶対勝つから、信じてくれ」

 

 ずるいなぁ。

 とぼけたと思ったら、今度は急に真面目になるし、コロコロと表情の変わるユウリさんに巻き込まれる。

 

「はい。約束、ですよ?」

 

「おぉ、約束な」

 

 暫くして、休憩のために二人で、電脳世界のユウリさんの家のソファーに座る。

 

「どうして、こんな事になったんでしょうね」

 

「……ほんと、そうだな」

 

 ユウリさんが来て、ララさんが来て、目まぐるしく変わる日常。

 私がこんな事になるなんて、思いもしなかった。

 でも、ユウリさんは違う意味で受け取ったらしい。

 

 小さく、ほんとに小さくごめんと呟いた。

 自分のせいだと、思ってるのだろうか。

 

「ユウリさんのせいじゃないです。それに、私は望んで、ここにいるんですから」

 

「……絶対、守るから。ミカンも、リトも、みんなも」

 

 抱きしめられたユウリさんの手は、少し震えている気がした。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ユウリさん、やっぱり不安ですか?」

 

 探偵事務所での会話以降、ちょくちょく私の元を訪ねるようになったユウリさん。

 やっぱり、私の相手が相手なので荷が重いと思われているのだろうか。

 

「そりゃあ、な。でも、モモの気持ちもわかるし」

 

「あらっ、ようやく私の気持ちに答えていただけるんですか?」

 

「そっちは、そーじゃないけど。とりあえずぶっ倒すのが先、だろ?」

 

 んー、流石に流れで答えてはくれないか。

 

 正直、私にとっては地球はそれほど重要ではない。

 なによりも、ユウリさんと、周りの方が無事な方が断然良い。

 

 でも、我銀……

 緑豊かな惑星を焦土にし、ふざけた事をぬかしているお方には、地獄を見せてやりたい。

 

「モモ、俺にとっては、みんなの方が大事なんだ。最悪の時は、みんなを連れてデビルーク星まで逃げてほしい」

 

「それを、私に言うんですか?」

 

「俺は、最悪の場合は億を超える他人より、数人の友達を選ぶよ」

 

 心を読まれたのかと思った。

 綺麗事だけじゃ、事はすまない。

 最悪の状況に陥った時、人は思考を停止する。

 だから、最悪を想定しておくべきなのはわかる。

 

「モモなら、その判断ができると思ってる」

 

 お姉様やナナ、リトさんには、まず無理だし、ヤミさんは…彼女自身が逃げないだろう。

 確かに、私が適役なのはわかる。

 けど……

 

「ユウリさんが、判断した方がいいと思いますけど…」

 

「そうだな。できたら、な。だから、その時はモモに」

 

 お父様と、お母様も言っていた。

 神黒には、手を出すな、と。

 

 ユウリさんと初めてお会いしたあと、地球へ行きたいと言うのをあれほど止められたのは、後から聞いた話だけど、その神黒が絡んでいるからとの事だった。もちろん誘拐直後というのもあったけど、それが一番の理由だったそう。

 

 だから、お姉様が地球に行けばすぐに王室親衛隊長であるザスティンさんを派遣し、滞在までさせるし、お父様自身も出向いて確認していた。

 だから、早く戻って来いと、自分が自由に動けるようにと、目には見えないけど焦っていたらしい。と、お母様から聞いた。

 

 お母様は、お父様へは自分からガンガンアピールしたと私に話してくれた。戦いにしか興味のないお父様を振り向かせるために。

 今の私と、似た状況。それに、お母様は三姉妹で私が一番似ているとも言っていた。

 

 私も、誰にも負けたくない。

 ユウリさんは、ゼッタイ、私のモノにする。

 

「イヤです♬」

 

「えー…」

 

「だって、まだ答えを聞いてませんし。言いかけてうやむやになっちゃいましたけど……」

 

 私の、私だけのユウリさんでいて欲しいとは、もう言わない。

 でも、いなくなるのは、会えなくなるのは、もっと嫌。

 

「私…ユウリさんの事…愛してます…心の底から」

 

 一番でいたい事に変わりはない。

 だけど、今やみんなも、私にとって大切な人。

 誰も、不幸にはさせたくない。

 どれだけ似ていようと、私はお母様とは違うのだから。

 

「ユウリさんが、ミカンさんも、ヤミさんも、古手川さんも、全員と結婚されてもかまいません。でも、私が一番って、言わせて見せますから、ちゃんと、勝ってくださらないと」

 

「……あぁ、勝つよ。みんなの為に…」

 

 どこか、このまま消えてしまいそうなユウリさんに、今、伝えておきたくなった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「いつものを……20個ほど…」

 

「はいよっ!ちょいとサービスしといたぜ、ヤミちゃん!彼氏と仲良く食べなよ!」

 

「…彼氏では……」

 

「ありがとおっちゃん!じゃー行くか」

 

 いつものたい焼き屋でたい焼きを買う。

 いつもと違うのは、ユウリと来たからか、彼氏だと勘違いされてしまった。

 

「彼氏じゃ、ありません」

 

「ん?まー、そこはなんでもいいじゃん」

 

 またヘラヘラしている。

 正直、最近のユウリにはイライラしていた。

 勝ち筋が見えているわけではなく、ただの空元気なのは明白。

 それに、この眼には思うところがあった。

 だから、呼んだのだ。

 

「懐かしいな。ここ」

 

「…えぇ」

 

 ユウリとは、初めて会ったのがこの公園。

 あの時はミカンがいて、初めてたい焼きを、食べたのが、ここのベンチだった。

 

「とりあえず、たい焼き食う?」

 

「私が買ったんですが……」

 

「まぁまぁ。小さい事は気にするなよ」

 

「……はぁ」

 

「流石にため息はやめてくんない?」

 

 まったくこの男は……

 二人でたい焼きをかじりながら、特に何も話さずにいた。

 無言でモグモグと口を動かす、側から見たら、ケンカでもしているようにでも見えるかもしれない。

 別に、そう見られたくないわけではないが、沈黙を破る事にした。

 

「死ぬ気、ですか?」

 

「……いや、生き残る気さ」

 

 少し間を開けて答えるユウリ。

 その瞳は、冬が近づき寒くなってきているからか、下を向いたまま、動かす事はなく呟いた。

 その眼に、またもイライラする。

 

「それは……どういう意味、ですか…」

 

「……そのまんまの意味」

 

「死ぬ気なんでしょう?嘘をつかないでください。最近のあなたを見ていると、イライラします……!」

 

 これほど誰かに怒りを感じる事があるなんて。

 初めて自分に生まれた感情に戸惑いながらも、感情というものは自分ではどうしようもないものらしい。

 

「……覚悟が…」

 

 雰囲気が、変わった。

 オーラという物だろう。暖かく守られるような、いつもの鎧のようなものではない。首に添えられた鎌のような、明確なまでの殺意が篭った何かがユウリを包んでいる。

 

「覚悟が足りなかった。殺られずに殺るなんて、ぬるい事はいってられない。死んでも殺す。殺す気でいるくせに死ぬ覚悟もないやつには、道など開かれない」

 

「…それ程に、憎しみを…?」

 

「憎しみなんかじゃない。もう、理由は要らないんだ。俺と神黒には。みんながおまけだと思ってるわけじゃないが、俺が殺らなきゃ全てが終わる。だから、命くらい賭ける」

 

 それ以上、何も言えなかった。

 確かに、生き残る気ではあるのだろう。

 これが、ユウリの言う覚悟なんだろう。

 でも…

 

「どんな形であれ、生き残る気ではいるんだ。この戦いに勝ったら、誰かにとって、ヤミにとって、こんな俺でも登場人物くらいにはなれるかもしれないだろ?」

 

「……」

 

 最後に、心から笑って言うユウリに、私は何も言えなかった。

 どんな形であれ…それは、転生する事であり、更に別次元を指している事は、わかっていても、わかりたくない。

 

 居場所も自分も無かったユウリが、求めているものはわかる。

 だが、既に登場人物どころではなく、自分の大部分を占めているユウリを、この時の私は、肯定する事も否定する事も出来なかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「イテテテッ……」

 

「ほら、オーラ込めて。軽い出血ならそれで止まる」

 

 ユウ兄との修行中、腕を切ってしまったようだが、確かにオーラを込めると血は体外に出てこなくなった。

 

「…痛いのには、変わりないけど……」

 

「それは、慣れしかないな」

 

 平気な顔して無茶苦茶言うな。

 でも、集中が途切れたのは、ユウ兄が気になったから。

 休憩がてら、ララが精巧に作っている彩南町の公園のベンチに座って話すことにした。

 

「ユウ兄さ、ヤミとなんかあった?」

 

 美柑が、今日はヤミが泊まりに来ると言っていたのを思い出す。

 家にいたヤミは不機嫌というか、どこか上の空だった。

 そしてユウ兄と会うと、同じような顔をしていたから、気になっていた。

 

「あぁ、こないだ怒らせた」

 

 頬をかきながら言うユウ兄は、いつもと違って子どもっぽく見えた。

 

「何したんだよ、ユウ兄……」

 

「なんもしてねーよ」

 

 あぁ、嘘ついてるな。

 わかりやすい、兄の仕草。

 

「……また、なんか隠してんだろ」

 

「…にぶちんのリトが言うじゃん。隠してるつもりはねーよ」

 

 にぶちんって……

 でも、なんとなく気づいてしまった。

 これは、あの時と同じ。

 

「死んでもいいなんて、言ったんじゃないだろうな……?」

 

 驚いたような顔。

 なんだよ。まだそんな事言ってんのかよ…

 

「別に、死にたいなんて、言うわけも思うわけないだろ……」

 

「…何回も言うけど、ユウ兄は、もう俺にとってはかけがえの無い家族なんだから、いなく、ならないでくれよ?」

 

 まだ数年の付き合いだけど、ララといい、ユウ兄といい、濃すぎる時を共に過ごしてきた。心の底からそう思っていた。

 

「俺より、お前はどうするんだ?ミカンとお前が死ぬかもしれない場面でも、俺は助けてやれないかもしれない。ヤミも、ララも、誰もお前を助けに行けない可能性の方が高いんだ。その時、お前はどうする?」

 

 思ってもみなかったことを聞かれる。

 いや、わかっていて、考えてなかったこと。

 どこかで、ララがいるから、ヤミがいるから、兄がいるからと思っていた自分がいる。

 美柑は守る。俺が死んでも…

 あれ?ユウ兄も、こう思ってるってことか?

 答えられない俺に、ユウ兄はなおも続ける。

 

「悩むのもいいが、決断の時は近いぞ。その時までに、覚悟を決めておけ。他の誰でも無い、これはお前の物語なんだから」

 

 俺の、物語?何言ってんだ?

 

「リト、キツイ事言うけど、お前が手伝うと言ってくれた事は、そう言う場所だ……だから、やめてもいいんだぞ?」

 

「やめるわけ、ないだろっ!俺は、死なない!美柑も、誰も殺させないし守ってやる!俺にできるんだから、ユウ兄なら簡単な事だろ!?」

 

 我ながら、めちゃくちゃなのはわかってるけど、俺は、誰も失いたくないんだ。

 

──ッ!?

 

 ユウ兄が、消えた!?

 と思ったら、既に眼前におり頭を拳で挟まれて、グリグリされてる。

 

「イッタァーー!」

 

「えらっそーに。主人公様は死なないってか?」

 

「物語とか主人公とか、知らねーよっ!だったらユウ兄の物語の主人公はユウ兄じゃねーのかよ!?」

 

 キョトンとした顔をしたユウ兄はようやく拘束を解いてくれた。

 

「ははは。バカだなぁ……」

 

 俯き下を向くユウ兄の表情は読めない。

 パッと顔を上げると、笑ってた。

 

「ま、やるだけやるよ。変なこと言って悪かったな。今日はもー終わり。帰ってヤミの機嫌取っといてくれ。じゃあな」

 

 そのまま電脳世界から消えていく兄を眺めて、リトも現実世界へと帰還した。

 

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