Troubる   作:eeeeeeeei

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五十三話 展開×侵食

ーーーーーー

 

 

「さて、いよいよだね。加賀見くん」

 

「はい、先生」

 

 肩を震わせるほどに、松戸は歓喜していた。

 呪術に取り憑かれ、禁忌に手を出し、無理やり長らえていた寿命も、もういらない。

 全ては、今日のために。

 

「見たまえ、もうすぐ地獄の蓋が開く」

 

 二人の立つ、高層ビルの屋上。

 そこからは確かに、闇夜を照らす月の横に、二回り小さな、黒い星のようなものが見えていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「先生!準備は、できたぞ!」

 

「えぇありがとう猿山くん。お静ちゃんもどう?」

 

「はい!大丈夫ですっ!!」

 

 ミカドの持つ宇宙船で、猿山とお静ちゃんとミカドはある宙域を漂っていた。

 そして、中央に据えられているのは、怪しげな箱。

 三人で向かい合うようにそれを眺めながら、お静ちゃんは地球へと通信を飛ばす。

 

「モモさん!こちらは準備OKですっ!」

 

 まさかこんな辺境の惑星で、宇宙規模で見ても壮絶な戦いが起きるなんて、夢にも思っていなかった。

 

 ティアーユがもしもここにいたら、慌てまくって腰でも抜かしてそうね。

 

 この場にいない旧友へと思いを馳せつつも、教え子たちが無事でありますようにと、信じていない神へと祈る。

 

 

ーーー

 

 

「こ、ここでいいんですのっ?」

 

『俺様が間違うわきゃないだろ!ヤミちゃんの相棒であるこのルナティークを信じな。あとは、お前らの仕事だぜ』

 

 沙姫の言葉にルナティークは荒っぽく返す。

 

「沙姫さま、あとは、合図を待つだけですね」

 

「帰ったら、お祝いの準備もありますもんねっ!」

 

 凛と綾の言葉に沙姫はうなづいた。

 

「えぇ。あとはララの妹からの合図を待つだけですわ」

 

 ユウリ様、どうか、ご無事で……

 先日のテストのあと話した時、ユウリが消えてしまうように見えた事を思い出してしまい、沙姫は最悪の想像をかき消すように祈り、二人は沙姫のその姿を見つめていた。

 

 

ーーー

 

 

「こ、ここ、ここでいいの?」

 

「落ち着いてよ、古手川さん。宇宙の事は私の方が詳しいんだから」

 

 初めての宇宙空間に動揺を隠せない古手川だが、ルンがなだめる。

 かく言うルンも、二人乗りであるナナとモモの宇宙船に乗っているため、乗り慣れた自分の船とは勝手が違うためか、少し時間がかかっていた。

 

「ほら、もう少しだからお兄さんのことでも考えて、落ち着いててね」

 

「ななな、なんで私が七瀬さんのことを!?」

 

 手をバタバタとさせて慌てる古手川を優しくなだめるルン。

 ユウリに怒られたわけではないが、あの、スプレーを浴びせてしまった後から、謝罪と、恋愛の相談も兼ねて、レンの時もルンの時もよくユウリと話をする様になった。

 今までであれば、王族として接して来ない人だけでも珍しいのだが、その中でも近い立場から諭すように話すユウリを、いつの間にか兄のように慕い始めるようになり、ルンはどんどんと落ち着いた大人の女性へと成長していた。

 

「バレてないと、思ってたの……?ほら、私たちがしっかりやらないと、もうお兄さんたちにも会えないんだよ?一緒に、がんばろ」

 

「バレてって…まぁ、もう今更ね。一度できたんですし、大丈夫よね」

 

「うんうん。帰ったら、リトくんも呼んでダブルデートしようよ」

 

「それも、良いかもしれないわね」

 

 素直になった古手川に、ニコリと笑いかけるルン。

 

「よしっ!モモちゃん、コッチはいつでも良いよ!」

 

 ダブルデート…

 でも、最初はそんなものでもいいかもね。

 二人っきりだと、急にハレンチな事されないとも限らないし…

 でも、それを期待してる私もいるような…

 ばかばか、私、ハレンチだわ……

 

 未来への想像が膨らむ古手川だったが、一瞬、ゲームの世界でのユウリを思い出し我に帰る。

 

 あの時と、同じで、最悪ボロボロでもいい。それでもいいから、必ず、帰ってきてくださいね……

 

 

ーーー

 

 

「まっさか、私たち三人だけで宇宙に来るなんてねー」

 

「ほんとねー。ララちぃ来てから、すっごいことに巻き込まれまくりだもん」

 

「本当に、ね。でも、ララさんや結城くんは、もっと危ない事しなきゃいけないんだもんね…」

 

 ルンの持つ宇宙船で指定された座標へとオートパイロットで向かう。

 ルナティーク号と同じくAIが搭載されており、操縦の問題は無かった。

 春菜はなによりもリトが気がかりだった。

 デビルーク星人と別次元の人間に混じって、危険なところに行こうとしている。不安で不安で仕方がないけど、出発前に、リトとの会話で勇気づけられたのを思い出し、自分を奮い立たせていた。

 

「そーだね。ララちぃたちのためにも、あたしらも頑張んないと」

 

「うんうん。リサは、帰ったらおにーさんに言いたいことあるんじゃないのー?」

 

「えっ!?リサ、そーなの!?」

 

 ミオはニヤニヤと笑いながらリサの胸をヒジでつつき、春菜はリサがユウリに恋心を抱いているなんて、思っても見なかったので驚きを隠せない。

 

「えー、全然。ちょっと気になるくらいって感じ?」

 

 意外とノリが合うし、大人であり、自分を女性として見てくれるユウリの事が、気にはなった事は確かにある。先日の、薬の副作用らしいが口説かれたときにときめいたのも、事実。でも、まだ自分の中でよくわかっていないし、まだまだ様子見段階だと、自分の中で思っていた。

 それに、密かにリトの方が気になっているのは、まだ誰にも気付かれていないハズ。

 

 そんなあっけらかんとして言うリサに、つまらなそうにしているミオ。

 

「ふふふ」

 

「どしたの春菜?」

 

 そんな二人のやりとりを見て突如笑いだす春菜に、怪訝な顔を向ける二人。そんな二人に春菜はお腹を抑えながら答えた。

 

「だって、全然緊張感ないんだもん。まるでいつも通りの、学校での会話みたい。私たち、今からすごいことするんだよ?」

 

「…そりゃそうだけどさー。連休明けたらまた学校行かなきゃなんないし。おにーさんはわりとボロボロな感じあるけど、ヤミヤミとララちぃが誰かにやられてるのなんか想像つかないもん」

 

 リサの発言に三人でうなづき合うと、どうやら目的地には着いたらしい。

 

「お、ここみたいね。じゃあ、準備しますか」

 

 不思議と、緊張感は無かった。

 がんばってね、結城くん…

 

 七瀬さんの相手が一際危険な相手だとは、ヤミちゃんから聞いていたけど、でも、みんな負けないよね…

 

『リトは必ず無事で返すから、心配すんなよ後輩』

 

 いつものように悪戯っぽく、ではなくて、真面目な顔でそう言った七瀬さんを思い出す。

 

 同じ場所に立つ事はできないけど、帰ってきたら、リトと、ララにもこの想いを伝えようと、春菜は決めていた。

 

 

ーーーーーー

 

「お兄様、全員、準備はできたようです」

 

「おぉ。じゃあ、後はタイミングだけだな」

 

 この場にいない、松戸と加賀見を除く10人全員が黒コート姿となって、ララたちデビルーク姉妹の住むラボにいた。

 

 俺は軽くストレッチをしつつ、今はコキコキと首を鳴らしながら、モモへと答える。

 他の面々は緊張しているようだが、俺以外だと、ララとヤミだけは、見た目には普段通りのように思えた。

 

「……ユウリ」

 

 あれから結局、ヤミと戦闘に関して話すこともなく、普通の生活を続けていた。そんなヤミが話しかけてくるのは、全部が終わったらだと思ってたけど、わからないもんだ。

 

「どうせ言っても聞かないんでしょうが……」

 

「……」

 

 決めつけは良くない。と思ったが口に出すとまた怒りそうなので、ギリギリで飲み込む。

 真面目な表情を作り、続きを待っていると。

 

「あなたは、私のパートナーなのですから、勝手に死なれては困ります」

 

「……ぷ、くくくっ」

 

 まさか、そうきたか。

 リトへよく言ってたのの俺版ってことか?

 照れたような仕草で、赤い顔して言ってるのが可愛くて、思わず笑ってしまった。

 

「……訂正します。私が今、殺しましょう」

 

「ごめんごめん。悪気はないんだ。──じゃあさ、もし…もしも俺が居なくなったら、探しにこいよ」

 

 怒りはおさまったようだが、俺の言葉にハテナを浮かべているヤミがジト目で見てくる。

 

「俺のパートナーなんだろ?なら、ヤミも『ハンター』じゃん。ハンターなら、見つけてみろよ?」

 

 ニヤリと笑って言う俺に、ヤミも、少し微笑んだ。

 

「そんな話も、しましたね。いいでしょう。『もしも』ですが、あなたが居なくなっても私が見つけ出します。そして、旅にもついて行ってあげますよ」

 

 微笑むヤミの頭をガシガシと撫でまわし、嫌がるヤミをからかう。

 ようやく、普段通りの関係に戻れた。

 やっぱり、こうじゃないとな。

 

 あの時の話、ヤミも覚えていてくれたんだ……

 照れ隠しで撫でまわした髪の毛を、手櫛でなおしている少し不機嫌そうなヤミ。こんな、なんでもない事が、とてつもなく愛おしいと思う。

 

「なに、話してるんですか?」

 

「ミカン、なんでもありませんよ。それに、もう話は終わりました」

 

 俺とヤミが喧嘩中だとリトが言いふらすし、ヤミが結城家に泊まりに行っていたのもあるのか、ミカンは俺とヤミのことを気にしているのはわかっていた。だがそれも、今の今なくなったようだ。

 俺にニコリと笑いかけると、ミカンはウィンクで返して、今はヤミと二人で話しているよう。

 

 こういったところが、とても小学生とは思えないできた妹に内心で感謝した。

 

 

ーーー

 

 

「お兄ちゃん」

 

「ん、どした?」

 

 顔を洗っていたお兄ちゃんへと声をかける。ヤミちゃんとの話も終わったようなので、気になっていた事を聞いてみることにした。

 

「この間渡したアレ、うまく使えた?」

 

「おぉ、それは……完璧だった。助かったよ。これでなんとかなりそうだ」

 

 一瞬、変な顔をしたお兄ちゃんだったけど、まぁ大丈夫だったなら良かった。

 と思ったら、みんなのいるラボの広間に、背を向けるように移動するお兄ちゃん。どうしたんだろ?

 

「ララ。今なら、俺にしか見えてないぞ」

 

「え?」

 

 確かに、ここはまだ広間ではなく、廊下で話していたため、私の姿はみんなには見えていない。

 

「ごめんな。無理させて。ララに、頼りすぎだな」

 

 わかっちゃうんだ…

 私は長女だから、王女だから。

 みんなの前では、妹たちの前では、私がしっかりしなきゃって、ずっと思ってたけど…

 

「ずるいよ…こんな時に…」

 

「緊張ほぐそうと思ったんだよ。逆にカチコチしてるように見えてさ」

 

「そっか…本当はね、不安なの。せっかく出会えたみんなと離れたくない。私の発明が、また失敗しちゃったらって思うと…」

 

 頭をぽんぽんされる。

 パパと同じで、安心させてくれる。

 

「そーだよな。俺も、ララと一緒で不安だし、みんなと離れたくねーよ。でも、大丈夫。ララは、ララのできる事をしたらいいんだ。途中でみんなと逃げたっていい。あとは、俺がなんとかしてやるから」

 

 台風の時と、同じ。

 あの時は、言ってなかったかもしれないけど、私にはそう聞こえた。

 やっぱり、お兄ちゃんって、すごいな。

 

「……ありがとう。もう、大丈夫っ!お兄ちゃんと、リトと、みんながいたら、私…きっと100%以上の力が出せるから。惑星を滅ぼす事なんて認めるわけにはいかないもんね」

 

 不安なのは変わらないけど、さっきまでとは、気持ちが全然違う。

 

「あぁ、そーだな」

 

 大丈夫。

 お兄ちゃんがそう言うと、本当にそうだと思えるから不思議。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

 お兄ちゃんは、私の事をもう大丈夫だと思ったのか、広間に戻りそうだったので、思わず呼び止めて、抱きしめる。

 

「私ね……リトと同じくらい、お兄ちゃんのこと、大好きだよ」

 

「おぉ。俺も、モモとナナと同じくらい、ララのこと大好きだよ」

 

「うんっ!」

 

 抱きついている胸から見上げると、お兄ちゃんの顔は、笑顔。

 ミカンの能力で見た過去とは全然違う。

 この地球での、お兄ちゃんにしかできない表情。

 

 もう、お兄ちゃんはからっぽなんかじゃないよ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「来たわ。やるわよ、二人とも」

「はは、はい!」

「よしっ!やるぜ!」

 

 ミカドの言葉にお静ちゃんは慌てて、猿山は半ばヤケクソに、呪具へと力を込める。

 

──

 

「来ましたわっ!やりますわよ。凛、綾」

「「はいっ!」」

 

 沙姫とともに、凛と綾も力強く答えた。

 

──

 

「聞こえた!?古手川さん!『レンも、やるわよっ!』」

「えぇ、これで!!」

『わかってるよ、ルン!』

 

 ルンと、己の内にいるレン、古手川も呪具へと力を込める。

 

──

 

「おっ、きたきたー!」

「やるよ!春菜!」

「うん!……みんな、気をつけて…」

 

 リサミオと春菜。

 三人も箱へと力を込める。

 

 

 四つの呪具が三人の術者によりその、呪術は発動する。

 

 松戸の持っていた呪術の書。

 箱使いと呼ばれる空間支配系能力者の使う呪具と、四師方陣と呼ばれる、四人の術師で一つの空間を支配する領域支配の術の混合。

 箱使いとは、呪具として箱を使用する空間支配術の使用者の事で、拠点と呪具である箱との空間を繋げることで、指定した拠点への移動を瞬時に行える呪術。本来は術師一人で行うものだが、今回は転移させる相手が巨大なために、四つの箱を面として起動させる術式として発動させた。

 

 四つの宇宙船は線で繋がり面となる。

 その扉へと、黒蟒楼を引きずり込んだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「『四師方陣・改』は、無事に発動したようだな」

 

 電脳世界の地球で、彩南町のビルに立つ12の人影。

 その中の一人、松戸は言葉を発した。

 

「まぁ、第一段階は成功。あいつらは上手くやってくれたな。

──そんじゃ、次は俺らの番…」

 

 偽物とはいえ、地球へと落ちてくる、黒いモヤのかかった小さな月。

 それを全員が見つめていた。

 

 

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