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「はぁぁぁあ!!」
イマジンソードと呼ばれる光子剣を振るうザスティンが我銀へと斬りかかる。
デビルーク星の王室親衛隊長という肩書は伊達ではない。
剣術の腕もさることながら、その身体能力もかなりのモノで、単純な戦闘力で言うと、デビルーク三姉妹よりも上だ。
だが、それ程の強さを誇るザスティンであっても、今回は相手が悪かった。
「デビルークの部隊長か何かか?なかなかの腕だが、剣士じゃ俺には勝てねぇよ」
「クッ……相性が、悪いか」
我銀は炎鬼と呼ばれる種族の中でも突然変異と呼ばれる程に強かった。人型に化ける事もでき、元の姿に戻れば一時間もあれば惑星丸ごと焼け野原にもできる。
それが故に、彼は常に退屈していた。
故郷の星では我銀の相手になるものなどおらず、宇宙を放浪する日々が続いた。
そこで出会ったのが、白と黒蟒楼だった。
そこで、姫に敗れた。白にその力を買われ、黒蟒楼へと誘われた。
姫は自分よりも強く、目的を持って星を滅ぼす。
理由など、どうでも良かったが、この力を振るえる場所ができた。
我銀もまた神黒と同じ、戦いに飢えていたのだ。
ユウリが切り落とした腕は既に再生されており、ザスティンも幾度となく我銀を細切れにしているが、その体は炎と共に再生していく。
「ハァァアァッ!」
またも、我銀を真っ二つに切り裂くが、
「まぁ、相手が悪かったな」
切り裂かれた体は、燃えながらも元の形へとくっついていく。
我銀はそのまま四本の腕でザスティンの四肢を掴み、残る2本の腕でザスティンへ拳を連続で叩き込む。
2メートルを越す身長を誇る大柄なザスティンだが、我銀は更に頭二つ分はでかい。
「グハッ!!」
幾度めかの拳がザスティンに命中したところで…
「喰らいなさい…!!」
モモの呼び寄せた植物、キャノンフラワーたちが我銀の身体を穴だらけにし、ザスティンを掴む四本の腕に穴を開けた瞬間、蔓植物によりこちらへと引き寄せる。
「モモ様…すみません、不覚をとりました…」
「いいえ、仕方がありませんよ。ザスティンさんは他の方を」
ユウリが数を減らしたとは言え、周りにはまだまだ異星人が群れており、ブワッツとマウルはデビルーク星人特有の戦闘力の高さも有り、上手く立ち回っているが、異能力を使う多くの異星人達を相手に手間取っていた。ザスティンは歯痒い顔をするが、モモは対我銀を想定していたため、一度周りを排除する事に決める。
「すぐに、片付けて、戻ってまいります…!どうかご無事で」
ザスティンがブワッツとマウルに加勢し、モモはデダイヤルを片手に我銀へと対峙する。
「植物を使役しているのか?お前も俺との相性は随分と悪いようだが…」
六本の腕から顔程の火球を生み出して言う我銀。
「使役している、という言い方は相応しくありませんね。あと、相性云々より、あなたには加減できませんので、覚悟してくださいね」
お兄様との仮想訓練を思い出す。
もしも遠距離の攻撃がある場合、手で生み出すのなら、その攻撃の起点は腕。
お兄様のように何も無い空間に生み出している訳では無いなら、軌道は読みやすい。
もちろん、その動きがブラフの可能性もあるが、今までの戦闘を見る限り、それは無いはず。
モモは植物と心を通わし、我銀に向けてキャノンフラワーの弾幕の雨を降らす。
そして同時に電脳世界を操作して、地面が大きく盛り上がり、それは左右から津波のように我銀をサンドイッチにするも、
「オオオオッ!」
我銀は左右の腕から火球を放ち、迫る地面を爆発で吹き飛ばすと、身体から炎を吹き出す。キャノンフラワーの弾幕は我銀に届く前に炭と化した。
そして、四本の脚で空を駆け、一気にモモへと強襲。
火炎を帯びた腕を掻い潜り、かろうじてこれを躱すも、浮遊植物から落ちてしまい地上へと落下していくモモ。
好機と見たのか、その背を追って、我銀がまたも駆ける。
「空中で、かわせるか!?」
だが、モモは反重力ウィングを展開すると、逆に自ら地面へと飛び込み素早く着地。
振り向きながらも、エネルギーを尾の先へと集め、我銀へと狙いを定める。
「はぁーっ!!」
モモの尻尾から放たれる青白い輝きが一直線に我銀へ突き進み、彼の身体を飲み込んだ。
しかし、それを浴びた我銀は、輝きの中で吠えた。
「オオオォォォオッ!」
我銀の身体からは炎が噴き出し、まるで内側から爆発しているかのように炎が辺りに弾け飛ぶ。
「はっはっは……今のは、痛かったぞ」
「はぁ、はぁ。無駄に、頑丈ですね……!」
今のがモモの必殺の技だと判断し、自身に致命傷を与える事は、目の前の娘では不可能だと、勝利を確信した我銀が全ての腕に火球を生み出す。
「随分と、はやい決着だったな。あの小僧がいれば、もう少し楽しめたと思うんだが」
我銀の言葉を聞きながら、モモはあまり言う事を聞いてくれない植物を呼び出す事に決めた。
「お兄様がいたら、楽しむなどという間もなく、あなたは死んでましたよ……」
お兄様、やっぱり使いますね。
──かつてお兄様が言っていた、神域に生える、見たこともない植物。
どうしても見たかった私はその後、暇を見つけては彩南高校の池へと通ったが、何度行ったところで豆造さんに会う事はできなかった。
でも、この戦いの話を聞き、ボロボロなお兄様を見て、私は豆造さんの持つ植物がどうしても欲しくなった。
そしてある日、偶然お姉様と一緒に訪れた際に、お姉様が持っていた、別の惑星の星神の唐傘に反応したのか、ついに豆造さんと出会うことができたのだ。
そこで傘を渡し、私は豆造さんの飼っている植物を貰えないか、根気強く頼み込み、豆造さんも地球を食われるわけには行かぬからと、渋々ではあったが幾つかの若葉を預けてくれたのだ。
「言うじゃねぇか……兄に看取ってもらえず残念な最後だったな!!死ね!!!」
「お願いだから、言う事を聞いてね…」
放たれた六つの火球は、我銀が全ての腕を掲げると、螺旋を描きながら一塊りとなってモモへと向かう。
──カッ!!!
閃光が辺りを包み込み、モモのいた場所には、大きな火柱が上がっていた。
「モモ様ッ!?……貴様ぁぁ!!」
異星人を斬り捨てていたザスティンは、それを視界に納めると同時に怒りの形相で我銀を殺さんと大地を踏みしめる。
そして、いざ飛び出そうとしたところで、火柱が収まり、残る煙の中に、明らかにモモではないあり得ないサイズの影がいくつも伸びている事に気付いた。
「キキキキキ…」
「キルキルキル…」
煙が晴れると、おぞましい姿の植物が大地からいくつも生え、モモの周りを取り囲んでいた。
「なんだ、この醜い植物は!?」
「冥界のオジギ草は気性が荒いんです。動くもの、火気をはらむものには自ら襲いかかる…」
モモの無事な姿と、言葉を聞きザスティンは飛びかかるのをやめて、二人との距離開けた。
「どうやら、
内心、モモはホッとしていた。
冥界の植物が現世で野放しになれば、星は簡単に滅ぶと豆造に散々言われており、このオジギ草とは心を通わせ、感情を読み取ることができるが、モモの話を聞いてくれるような気性の持ち主では無かったのだ。
「「「イギギギギ〜!!!」」」
「ちぃ!」
一斉に襲いかかるオジギ草たちを、なんとか躱していたが、取り囲まれてしまう我銀。
所詮は植物だと、迎撃するために、我銀が火球を発射し、命中すると同時に、オジギ草は巨大化した。
「なに!?」
自身の炎で燃えない植物どころか、より凶悪にその口のような部分を広げ、大きくなっていく植物など聞いたこともなかった。
そして、我銀は見た。笑顔を浮かべて、こちらを見ているモモを。
「半端な攻撃は、逆効果ですよ♫」
──ポキャ、グジュ…
「ぐぁっ!!」
次々と我銀へと噛みつき群がるオジギ草たち。
モモの声が届いているかは定かではないが、敵を排除したという感情だけはモモに伝わってきた。
どんどんと重なり合い、今は、我銀の肉を奪い合っているのか、毛糸のように絡み合っている。
「ふぅ…良かった、勝てました……」
勝利を確信し、少しだけ緊張を解いたモモだったが…
「モモ様ーーー!!」
横からザスティンに弾き飛ばされる。
と、視界を埋め尽くすほどの巨大な爆発が起きた。
「ザスティンさん!!」
爆発に包まれ、所々焼け焦げたザスティンへと寄り添い、声をかけるモモ。
「ぐぐぐ……モモ、様、ご無事ですか…?」
「ザスティンさん!私は大したことありません!それよりも、大丈夫ですか!?」
「まさか、俺の炎を喰いやがるとは思わなかったが、所詮は草。俺に燃やせねえ植物なんか存在しない」
そして、そんな二人を見下ろしながら地面へと降り立つ、我銀。
ブワッツとマウルが左右から同時に激突するが、我銀は炎を纏った衝撃波を全方位に放ち、二人を吹き飛ばす。
「ふん。部下は全滅か…だが、俺には何匹来ようが同じ事だ。全員消し炭にしてやるよ」
そう言い放つ我銀の圧力に、一瞬モモは怯え、ザスティンたち三人は動けないながらもモモを守るように、這いずり警戒を強める。
が、モモはすぐに、覚悟を決めた、真剣な顔へと変わった。
「この子を使うのは、流石の私も躊躇っていたのですが…あの子たちの仇も、取らないといけませんよね」
モモがそう言って呼び出したのは、沢山の白い蕾が、傍目にはスティックにも見えるほど茎に巻きついている百合。
「なんだ?そんなもの、なんの力も感じない。くだらん時間稼ぎか?」
我銀の敗因は、すぐにでも距離を取らなかった事と、すぐに勝負を決めなかった事。
警戒はしていようと、こんな中途半端な距離にいる。
「えぇ。そうも思うでしょうね」
テクテクと歩き、我銀へと近づくモモ。
そんなモモを、当然のように我銀は攻撃し、モモは地面を転がる。
「いったい何がしたいんだよ?」
モモはゆっくり立ち上がるが、その手に持っていた白いスティックたちは、殴り飛ばされた位置に落ちており、茎の先から急速にその根を伸ばしていた。
投げ出され、地面に無残にも転がっていただけだったが、急速に伸びた根はどんどんと地面に這い、自立し、成長していく極楽百合。
「今からこの子は咲くんですよ。
──
モモは説明しないが、持ち主であるモモへの攻撃、それがトリガーとなっていた。
この百合は、蕾を動物に運ばせ分布を拡大していく植物。そして、運搬者への攻撃をきっかけに命を吸い取り、花を咲かせる。自分の子孫を増やすために、運搬者ではなく、敵意あるものの命を吸い取るのだ。
今、極楽百合は我銀へと狙いを定め、百合の蕾がだんだんと開いていく。
たったそれだけで、急に我銀は苦しみ、呻きながら地面を転げ回っていた。
「が、あぁぁぁぁ!!なんだ、なんなんだ!?俺に、何をしだぁぁぁっ!!?」
「この子、『アスフォデルス・アルブス』は、死者の国へと導く花とも言われます。冥界にしか咲かないこの子は、敵対者の命を養分に花を咲かせる。そして、その後その花は枯れる事は有りません。
だんだんと呻き声も小さくなっていく我銀。
それに比例して、百合の蕾はどんどんと開いていき、その花を咲かせていく。
暫くすると、モモの立つ前には、冥界の百合が白く咲き乱れており、そこに我銀の姿は、既になかった。
「──こんな、悪党の命で咲いても、花は美しく見えてしまうのですね……」
モモはそっと、百合の花を撫でると、ザスティンたち三人の元へと駆け寄った。
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「………」
「あ、あれが加賀見さん…?なんかスッゴイな。映画でも見てるみたいだ……」
「うん、そーだね…」
結城兄弟は、今もヤミが切り捨てた異形の異星人たちよりも、何倍も凶々しい見た目をして、この城下町を食い荒らす加賀見を眺めて呟く。
だが、ヤミの眼は別のものを捉えていた。
気怠げに、体操座りをして、立てた膝に肘をついて加賀見を見ている女。
恐らくだが、同業者。
しかも、自身よりも、もっと暗い場所に居たであろうとなんとなく感じ取った。
「……!」
「ヤミさん、どーしたの?」
「ヤミ、なんかあったのか!?」
こちらの視線に気付かれた。
逃げられる…
あの雰囲気からしてあれが自身の
だが、そのためには、この二人を置いていった方がいいのだが……
「ヤミさん、行って!」
「美柑?…そうか、ヤミ、俺たちの事は気にすんな。美柑は俺が守るから」
ミカンの顔を見て、リトの顔はチラリとだけ見る。
そして、決めた。
「恐らくあれが幹部です。排除して戻ってきますから……ミカン、十分に気をつけて」
「お、俺には!?」
力強くうなずくミカンとは対照に、自分を指差してヤミへと叫ぶリト。
「せいぜい、死なないでください。結城リト」
言葉の割には優しい顔をしたヤミは、女が姿を消したと同時に、リトとミカンの前から姿を消した。