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「あぶなかったぁ……。それにしても、まさかこんな時にまでリトの不運に巻き込まれちゃうとはね……」
安定の、とは言いたくないが、いつも通り最悪のタイミング。
入るなと言われた場所に入り、しかも二手に別れてしまった。
私は、幸い怪我もないけど…リトは、無事だよね…?
最悪の
「ヤミさんも、城に入っていったように見えたけど……流石にこんな地下には、いないよね…」
建物の崩壊に巻き込まれて、大穴に落ちてしまった。
加賀見と松戸も城内にいるだろうが、天守閣へと入っていくのが見えたので、ここからはかなりの距離があるし、きっと助けてはくれないだろう。
上を見上げると、奥の手を使えば飛べない事も無さそうな高さ。
ただ、こんな危険地帯で、オーラはなるべく節約したいと思っていた。
どうやらこの城には元々地下もあったようで、瓦礫の先に綺麗な道が続いているのが見えた。
『ヤバくなったらすぐ地球に戻れ。リトの手綱はミカンが握れよ?』
もう一人の兄に言われた事を思い出す。
ユウリさん…それ、早速できそうにないです……
ひとまず迂回路を探し、ミカンは一人上を目指す。
その道中、目の前の地面から突如、人が浮かび上がってきた。
「止まれ……これ以上私の美しい城に傷をつけたら、ただじゃおかんぞ」
自分と同じくらいの、小柄な男。
それに、私の城?
「いや!私なにも壊してないから!ほんと、すぐ出ていくんで!すみません!」
あの言い様は、おそらく幹部の孔朱かな…
私の城って言うから一瞬この城の主かとも思ったけど、こんな小男じゃないだろうしね。
「お前……失礼なことを今考えただろう……」
「え?いやいやいや、そんなことないですよー。出口を教えてもらえればホントすぐ出ていきますから〜」
危ない危ない。心を読めちゃうのかな?
でも、それだけで、青筋立てて、プルプル震えるくらいに怒るなんて、ぷっ。やっぱり小物──あっ!
顔に出ちゃってた。
「貴様には、おしおきだーーーーっ!!!」
「キャーーーー!!」
地面が盛り上がり、壁が迫ってくる。
もー最悪!!
こんなところで、一人の時に幹部に出くわすなんて……
帰ったら私もお仕置きしてやる、バカ兄貴っ!!
「来ないでってば!!」
逃げ惑うミカンを追い、蛸足がいくつも疾る。
戦う気などなかったミカンは逃げ回っていたが、城の壁と蛸足に追われ、逃げ道がなくなってきた。
「この城は私の意のままであり、この足は一度絡みついたら離れない。私の城を傷つけたのだ…大人しく、この城の肥しとなれよ。地球人」
なんだと言うのだ。
城に入る気などなかったはずなのに、なぜか幹部に追いかけ回されているし、私は城なんて壊してない。
リトはどこにいるんだ?
ユウリさんの替わりに、私を守るんじゃなかったのか?
内心でこの状況に追い込んだ兄を恨む。
でも、もう逃げるのにオーラを使うのはやめだ。
きっと逃げきれない。
なら、戦うしかない。
幹部を倒したら、ユウリさんの負担が少しは減る、かな?
立ち止まり、振り返るミカンに怪訝な顔をする孔朱。
「なんだ?観念したか?」
「城を壊したのはそもそも私じゃないっ!それに、観念するのは、あんたの方よ」
──ズズズズズ……
ミカンを包むオーラが、爆発的に力強さを増した。
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「うーん。管理者って人がいるからかなぁ……」
「姉上、もうすぐだ。でも、マジローが言うには研究室っぽいらしい…向こうの本拠地だし、気をつけ───」
もうまもなくで戦いが始まると、ナナの緊張感は最高に高まっていたのだが、自身の姉にはどうやら伝わっていなかったらしい。
さっきからブツブツ独り言を言っているとは思っていたが、今まさに、とんでもない事をやらかした。
「…いけた。これでよしっと!ナナ、気をつけてね!」
「気をつけてって…うわぁっ!!」
ララがずっと操作していたのは、この電脳世界の操作だったのだが、どうやってもこの城にはアクセスできなかった。
自分たちの身体や、今着ている、松戸製のコートやブーツ同じで、現実世界のものであるこの城下町に干渉はできなかった。
そこでララは、天候に干渉することにしたのだ。
──カッ!!……ドオォォォォンッ!!!
迸る閃光はあたりを覆い尽くし、通常ではありえない、水平に稲妻が走る。
その稲妻は目的の場所であった藍碑の研究室に向けて突き進み、地鳴りのような音が響いた。
「あ、やりすぎちゃったかな…?」
「いや、今回ばっかりはやりすぎくらいが、ちょうど良いっ!」
とはいえ、ナナも雷を喰らうのはたまったものではないので、ドラ助は一度デダイヤルで避難させ、ライゾーを呼び出してララと共に跨がる。
ライゾーはナナの作り出した雷雲が気に入ったようで、バクリと雲を一噛みすると、その爪に帯電する電気は目に見えるほどスパークし、バチバチと音を立てていた。
「姉上、ライゾーが美味いってさ!」
ナナのセリフにララが笑いかけたところで、大型の獣が空から降ってくる。その姿を見て、ナナのツインテールが軽く逆立った。
「やれやれ、またか。星に帰れと、言わなかったか?」
ライオンの手足に、山羊の胴体、蛇の尻尾を持っている三つ首獣。
その三つの頭はそれぞれ体を構成する三体のものだった。
そして、背に乗っているのは、碧暗。
ナナは八重歯を剥き出しにして怒りをあらわにする。
「テメーッ!!」
ナナにはわかった。この獣は、無理やり繋げられている。しかも自我を殺され、命令に従うだけの機械のように…
この子たちには、自分の声はもう届かない。
「ん?キメラはお気に召さないか?動物が好きだと思って、わざわざ連れてきたのに」
碧暗が喋り終わると、ライオンの頭部が口を開く。
何をする気かは、本能でわかった。
「ドラ助っ!!」
瞬時にデダイヤルからドラゴンを呼び出す。
既に大口を開け、ブレスを放つ体勢で。
「ガァァァァァァァ!!!」
「ゴアァァァァァァ!!!」
二つの火炎が中央で爆発し、視界は真っ赤に染まる。
だが、爆発音にまぎれて、バチバチと音がする。
そして山羊のツノから電撃を放たれるも、何が飛んでくるのかは、既にわかっていた。
「ライゾー!!」
電気には電気。
先程雷雲を食べたライゾーの口からも稲妻が疾る。
電撃は爆煙の中で激しくぶつかり合い、閃光があたりを照らす。
「ジローネ!!」
最後は、音もなく忍び寄る蛇の尾に、呼び出したジロスネークが噛み付いた。
三位一体に対してこちらは三体を出現させて対抗するナナ。
「ふむ、獣を使役して戦うのはわかっていたが、随分と多くを手懐けているようだな」
「ふざけんな!お前と違って、あたしたちは友達だっ!!」
激昂し叫ぶナナ。
怒りに染まりかけたとき、マジローがそっと胸を叩き、冷静さを取り戻す。
そこで気づいた。
さっきまで自分の後ろにいたはずの姉がいないことに。
「妹に、酷いことしないでっ!!」
宇宙の覇者である父の血を、最も色濃く受け継ぐララ。
視えてはいたが、予想外のスピードで迫るララに、碧暗は防御が追いつかない。
「ぐ……!」
キメラの背から叩き落とされ地面へと激突する碧暗。
「ゲホゲホッ……この、馬鹿力め……」
──くるくるロープくん!!
べとべとランチャーくん!!
「ち…」
ララの発明品である自動で追尾し拘束するロープ状のアイテムと、バズーカ砲のようなものから打ち出されたとりもちの弾をキメラの火炎で燃やし、碧暗は姿を消す。
『く…手数が多い…こっちの娘の方が、随分と厄介──ナニ!!?』
「テメーの姿なんか、見えてんだよっ!!」
キメラを相手取るのはみんなに任せ、マジローによる探知で場所を特定し、その強靭な脚力で地を蹴ったナナが既に肉薄している。
その弾丸のような勢いのままに、ナナのボディーブローが碧暗に深々と突き刺さった。
「ぐおぁっ!!」
体をくの字に折り曲げて、またも吹き飛ぶ碧暗に飛びかかり、ラッシュをかけるナナ。
「テメー!だけは!泣いても!許して!やらないっ!!」
幾度となく殴られ、ローブは千切れ飛んでいく。
ビリビリに破れ、ローブが剥がれたところから覗く、隠れていた大きな瞳が、閉じた。
「わわわっ!!!」
「あ、姉上!?」
殴りかかっていた碧暗と、入れ替わるようにいるララを殴りつけるナナ。
咄嗟にナナの拳を受け止めるララだったが、この一瞬の混乱に乗じて碧暗は姿を消す。
「な、どうなってんだ?」
「私と、場所を入れ替えたの…?」
既にキメラは三匹の猛攻により戦闘不能に陥っていた。
「姉上!あたしはアイツを追う!姉上は藍碑を!!」
ララは力強くうなずき、その場から飛び去った。
ーーー
く…無駄にダメージを負ってしまった。
あの身体能力を誇るデビルークの王女相手に二対一は、望むところではない。
せめてあのサーチバッツさえいなければ、あんな小娘二人にこの私が逃げることになるなど……
思い出しても腹が立つ。
しかし、次は藍碑を利用すればいい。あの女は地球にいた事もあるらしく、今回の件には反対の姿勢だった。上手く利用すれば…
「オイッ!!逃がさねェゾ!?」
ヤレヤレ……
キメラは、やられているか。
全く、面倒だ。
「私のキメラが、アレ一体だけだと思っていたか?」
「なんだと…?」
せいぜい、コレと遊んでおけ。
「5体持っている。アレはその内の一体。残りはご覧の通り4体。君のお友達は、あとどのくらいいるのかな?」
さて、王女様の足止めはこれで良い。
他の状況は……ッ!?
どうやら、ここは捨てた方が良さそうだ。
あの女……あれは次元が違う。
欲しいのは欲しいが、少なくとも今は無理だし、下手にちょっかいを出せばこちらが消されるだろう。
先に藍碑を抑えるか。
まずは合流して、この世界から出るべきだな。
ーーーーーー
「姫……」
城の上層。
藍碑の研究室そばで戦闘が始まり、嫌な予感がして姫の部屋へと向かった白だったが、そこには姫の延命装置である首輪のコードが廊下の先へと伸びているだけ。
一体、どこへ……
──ガシュンガシュン…ガシィィィ…
そう思い、コードの伸びる先へ向かおうとする白だが、背後で音がする。
なにか、大きな爪のような鋭利なものが地面を削りながら動いているような、奇妙な音。
「見ぃーーーつけた」
知っている見た目からはかなり老けたが、かつての知人が、自分の元妻の顔をした化け物に跨っていた。
白はすぐに背を向け走る。
その理由は姫の部屋を破壊されたくないからだが、松戸はそんなことは気にしない。
白を追いながらも壁を、廊下をいちいち破壊しながらも進む。
そうして、場内にある広間へと辿りつき、白は足を止めて振り返った。
「クッ。久しぶりだなぁ」
「生きているとは思っていたが…」
「そうかい。僕はお前が死んだなんて、露ほども信じちゃいなかったよ。どうせまたろくでもないことをしでかし、姿を表すとね」
松戸は広間に着くと加賀見から飛び降りて語り出し、たった今、加賀見の姿は通常の人型へと戻った。
その姿を見て、白は呟く。
「勝手に人の女房の似姿を使うなよ」
「
松戸は語る。
リイサの蘇生を願ったが、何をもってしてもそれは叶わなかった。
だが、奇跡が起きた。眉唾物の神などではない、正真正銘、神界の神が現れリイサを作ったと。
「奇跡を起こすのに必要なものはなにか知っているかい?ククッ──
愛だよ、愛!!お前には決してわかるまい!!」
白はゆっくりと、長い髪で隠れている左眼をあらわにする。
「ろくでもないのは、お前だな……だが、俺にはお前を殺す理由がない。俺の元女房の形をした玩具とこのまま立ち去るのはどうだ?」
「黙れ……もしかしたら、と思ったが…やはりお前にはわからんか?」
白は松戸の言っている意味がわからなかったが、
準備は整った。
既にあたりは自身の傀儡で埋め尽くされている。
「……行け」
一斉に襲いかかる蟲入りの異形の者たちだが、随分と前から松戸の【円】の範囲に入っていた。
「加賀見くん」
その一言だけで、加賀見から伸びる巨大な腕が全てを引き裂き、押し潰す。
ほんの数秒で、あたりは元生き物のミンチで埋め尽くされた。
「やはり、お前には大事なものなどわからない。今やってるのも、何十年と生きてきて、いまだに自分探しの途中なんだろ?気づけ。お前に求めるものなどない」
「俺が求めたのは変化だ。地球人でないのに地球で育ち、周りと違う俺が変化を求めるのは当然だと思うが」
「ハッ!違うね。お前は人も、自分さえもわからないただの
良い加減会話が煩わしい。
なぜこうも俺に固執する?
そんなにあの女が好きなら一生その玩具で遊んでいれば良い。
俺を巻き込むな。
求められ結婚し、永遠に老けない、地球人ではない俺に嫉妬し、永遠の命と若さを望んだのはその女だ。
俺は確かに失敗したが、求められたことをやっただけだ。
何を、そこまで?
「お前の中身が、空っぽだからさ」
思い出補正とでも言おうか。
松戸の頭の中で、あの女は神格化されているらしい。
神などと…せいぜい中級の悪魔がいいところだろう。
「松戸、あれは醜い女だぞ。俺はあいつの望んだことをしただけだ。不老不死を望み、俺はそのために禁忌にも手を出した。最後の方は、頭もおかしくなっていたしな。最後に実験に失敗し、あいつが死んだ時、ついでに俺も死んだことにした。そうしてようやく、俺は解放されたんだ」
「ごちゃごちゃ言うなよ。彼女が望んだと称して、実験と称して、彼女の体を弄るだけ弄ったのだろうが。お前は地球人に、周りと同じになりたかっただけだろう?自分の妻を、自分のために犠牲にしたことまでも、他人のせいにするなよ。この人でなし!」
鬱陶しい。
俺が、地球人になりたかっただと…
確かに、人間の中身を知るには良い機会だと、可能な限りバラして見たのは確かだが…
禁術のためだ。そう…必要な事、だったんだ。
「……なら、それでいい…」
「よくない!彼女がなぜ永遠の命と若さを望んだのかわかってるか!?」
ある日、まだ白が実験を始める前に、松戸に心の内を話してくれたリイサ。
結婚しても、子供はできず、年も取らない旦那。
妻となってもなにも言ってくれることはなく、文句すらも言わず、わざとわがままを言っても、なんでも聞き分けてしまう。
そんな旦那は、寂しがり屋のひとりぼっちだと。
『平助さん、もしも私がいなくなったら……平助さんは、あの人のそばにいてあげてね…』
今と違って、優しく綺麗な、だが、少し悲しげな表情を浮かべたリイサの顔が松戸の脳裏に浮かぶ。
「すべては、お前を一人にしないためだろうが!!」
それを理解していない白に、松戸はなんとも言えない感情が爆発した。
せめて、今の加賀見の中のリイサを白が感じとれれば、この殺意も少しは薄れるだろうとは思っていたが……
いつもの無表情でいる白に、松戸は再度、殺すことを決めた。
「……俺はもう、違うところにいる。お前の次元で話をするな」
白の左の頭が割れ中からは大量の蟲。
千はいようかという蟲が縦横無尽に飛び回る。
大きな蟲は不規則に飛び回り、小さなものは城の硬い地面や壁、柱すらも噛みちぎり、潜り込む。
まさに四方八方から攻撃をする白の蟲たち。
「さぁ。俺も本気だ、行くぞ」
「ふん、来い!」
加賀見はひたすらに蟲を潰しており、それに跨がる松戸は白へと返事を返す。
すると初めて、白の口角が上がった。
「……了承したな。──よし、扉が開いた」
松戸の剥き出しの左目が穴が空いたように、暗闇となる。
同様に、白の左目も暗闇が覆っていた。
「俺の能力は、知っているかと思うが、対象に蟲を入れ、相手を操ること。だが別の手順もあってね。疑似的な契約を結ぶんだ。俺が『行くぞ』と言い、『来い』と返したな?これで入る了承は得た。契約成立だ。こうも簡単に乗ってくれるとは……おしゃべりは助かるな」
次々と暗闇の穴が、松戸へ開いていく。
「これで、そこの化物に邪魔されないルートが確保できた」
確かに、加賀見の黒渦のように脳に直接蟲を入れられれば、すぐにでも支配され、操作されてしまうだろう。
だが、松戸は薄く笑みを浮かべる。
「……知っているか?操作系は、早い者勝ち」
松戸はオーラを全身に纏うこともなく、加賀見の中へと、入り込む。
まるで、腹の口に喰われていくように…
そして、松戸はアンテナを一本自分の太腿に刺した。
「……なにを、言っている?」
「リイサくん。もう、いいかい?」
「………はい…先生」
加賀見のセリフを最後に、松戸は