Troubる   作:eeeeeeeei

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六十一話 終幕×分岐

ーーーーーー

 

 

「ナナ、良かったね」

 

 泣きじゃくっていたナナも、ようやく落ち着いてきたので、ララは優しく声をかけた。

 

「…うん。みんな、ありがとう…あとはあたしに任せて、ゆっくりしててくれ」

 

 全員を一旦電脳サファリパークへと戻し、ナナは目をゴシゴシとこすると、その顔は晴々としていた。

 

「姉上、藍碑ってのはどうなったんだ?」

 

「あ!そうだった!今は動けないはずだけど…」

 

 ボロボロの研究室へと戻ると、その身を妖花と化し、この高い天井を誇る研究室の天井に当たるほどに巨大化していた妖花は無く、人型に戻り、倒れ伏している藍碑を見つける。

 

「藍碑ちゃん!大丈夫!?」

 

「藍碑ちゃん?」

 

 事情を知らないナナは首を傾げるも、ララは藍碑の身体を心配そうに揺すっていた。

 

「ん……んぅ……」

 

 ゆっくりと、藍碑の目が開いた。

 

 

ーーー

 

 

「よかったぁ……大丈夫?」

 

 なんだ?

 なぜ私は心配されている。

 

 それよりも、今の状況は…そうか、白の蟲を感じないし、支配が解けている。

 ということは……あいつも死んだか…

 

「あれ?聞こえてないかな?藍碑ちゃーんっ!?」

 

「聞こえている。耳元で喚くな」

 

 調子が狂うな。

 このお姫様は……

 敵対組織に属している私をなぜ心配などするのか。

 人間の事は、いつまで経ってもよくわからない。

 

「ならよかったよ!よし、じゃあ今から藍碑ちゃんのデダイヤル作って、この部屋のもの閉まったら一緒に出よう」

 

「は?ちょっと待て。なんで私がお前たちと行動を共に…」

 

「いいからいいから、急がないと!」

 

 おいっ!やめろ!電子転送デバイスをそんなほいほいと作るな!

 なんでそんな部品でこんなものが作れるのか……

 出鱈目にも程がある。

 

「よしっ!できたー」

 

「いや、なんで共に行動する事になっているんだ?」

 

 完全にこちらは無視して私の研究資料やらを棚ごと収納していくプリンセス。おそらく第二か第三王女であろう、似たような見た目をしている妹もキョトンとしているようだ。

 

「おい、お前の姉を止めろ。お前も、私と同じ気持ちだろう?」

 

 ツインテールの桃色髪を揺らしながら首を振る。

 

「あたしにはわかんねぇけど、姉上が決めたなら、たぶん間違ってないから」

 

 はぁ。

 デビルーク星人がお人好しでお節介とは聞いたことがないが、世間知らずなお姫様と言ったところか。

 

「──ッ!?」

 

「あ…藍碑…何をしている…侵入者を……」

 

 ボロボロ状態で、人型を維持できていない蛸のような姿の孔朱。

 体の下半分は無く、おそらく再生に回す力を能力に回しているのか、城の壁から這い出るように現れた。

 

「孔朱、藍碑は裏切った……それよりも、此処を捨て逃げる方が先決だ!!お前の力で私も……」

 

 まだ、生きていたのか。

 いつも姿を隠すようにしていたローブは剥がれ落ち、体中に眼や耳、口が生えている歪な存在。百面鬼とでも言うのか、デスマス口調のインテリぶった中身がこれとは、滑稽だな。

 

「裏切った?私は縛られていただけだ。逃げるのであれば好きにするといい」

 

「テメェ……まだ…」

 

 余程因縁でもあるのか、妹の方は怒髪天を衝くとでも言うのか、頭の左右で結ばれた髪が逆立つほどに怒りをあらわにしている。

 だが、姉の方は、すこぶる冷静に二人を見つめているようだ。

 第一王女はまったく行動が読めないから、何をしでかすのやら。

 

「藍碑…此処を、姫を裏切るとどうなるか…」

「孔朱、いいからサッサと全員埋めて(みなごろし)にしてしま──」

 

──ゴゥ……

 

 さっきまで、そこにいた。

 なんなら言葉も聞こえ、理解できるほどの位置にいた。

 だが、その二人が一瞬で消えた。

 消えたと言うよりかは、消滅したと言う方が正しいか。

 

 私の横を掠めていった赤黒いナニカ。

 コートの端は、破れたのでも、切り取られたのでも、千切れたのでもない。

 綺麗に、無くなっている。

 何をどうすればこのような切断面ができるのか、数百年を越す私の経験上でも、見たことがない。

 研究室ごと城を貫くその丸い穴は、いったいどこまで続いているのかわからないが、この星ぐらいであれば、たやすく貫通しているだろう。

 

「……お兄ちゃん?」

「あの色と技…兄上の…」

 

 二人はどうやらあの攻撃に覚えがあるようだが、ハッキリ言ってこんな事ができそうな奴は一人しか思い浮かばない。

 

──神黒

 

 私が地球で、人間に飼われていた頃。

 気まぐれで、地球に訪れた時、人間を養分にしていた私が腹いっぱいのところで出会った人間。

 なんて事ない会話をし、その後、毎晩のように会い話をしていた。

 そしてとうとう家に招かれ渋々入ったのだが、家には結界が掛けられており、私は囚われてしまった。

 だが、不思議と悪い気はしなかった。

 なんて事のない日々を過ごしていたが、ある日突然、終わりを迎えた。

 突如世界中を災害が襲い、あの男は呆気なく死んだ。

 家に掛けられた結界は解け、私は自由となったが、そんな事よりも、私はあの男との、なんでもない生活が、悪くないと思い始めていた時だった。

 

 当時の地球の星神を食った、元人間。

 それが神黒だと知ったのは、地球を出る前の事。

 神を失い、バランスの崩れた惑星の起こした災害で、私はあの続きが見れなくなってしまった。

 それが見たくて、地球を出て研究を続けるうちに、黒蟒楼に出会い、次は白に囚われた。

 そこで出会ったのが、神黒。

 直接見て、戦慄した。

 神を喰らう程のバケモノと言うのは冗談でもなんでもなかったのだと。

 

「神黒と、まともに戦える人間が存在するのか……?」

 

「お兄ちゃんだからね。きっと大丈夫」

「兄上だからな」

 

 いったいどんな奴なのか気になったが、またも乱入者が現れた。

 

「おー藍碑。お前は生きてたか。バケモンが二人やり合ってるし、此処ももう終わりだ。アタシと逃げるか?」

 

「だ、誰だお前!?」

 

 紫音……

 この女の事は、正直よくわからない。

 気まぐれで、面倒くさがりで、猫のような性格のコイツがなぜ私に?

 

「よくわかんないけど、藍碑ちゃんの友達?じゃあ、先に地球に戻ってて!私たちも、終わったら戻るから」

 

「あん?」

 

「まて!さっきからお前は勝手な事を──」

 

 プリンセスがまたもデバイスを操作しはじめ理解し難い事を言う。

 地球を攻めに来た組織の幹部を自ら地球に送り込むなどと、阿呆なのか?

 紫音も首を傾げており、私も言葉を吐き出している途中だったのだが、目の前が真っ白になり、目を開けると……

 

 

 

 どうやら地球の一般的な住居のよう。

 だが、目の前には明らかに地球人ではない、赤ん坊のような小さな子供がいた。

 

「まう?(オネェちゃん?)」

 

 この子も、妖花の一種か。

 どうやら人化するタイプのようだが、まだ変態してまもないよう。そして、もちろん私は姉などではない。

 

「いや、違う…私はお前の姉ではない。種族も違うしだな…」

 

「おぉーココが地球。キレーなとこじゃん。アタシに似合うとこあったら住処にしよーかなー」

 

「これから、どうするんだ?」

 

「どうもこうも、船が無いと動けねーんだし、せいぜいゆっくりするさ」

 

 そう言って、紫音はどこかへ行ってしまうし……

 

「まうまうーーっ!(おもてなしするまうっ!)」

 

 飛びかかってくるセリーヌを抱きとめながら、思う。

 どうしてこうなった……?

 

 ひとまず、私がここにいる道理はない。

 

 セリーヌをそっと下ろし、藍碑も結城家を後にした。

 

 

ーーーーーー

 

 

「これは……」

 

『どごぉぉぉぉぉん!!』

 

 辺りに響き渡る、大きな爆発音。

 その綺麗な市街地のビルの上でヤミは苛立ちをあらわにした。

 

「やってくれましたね……!!」

 

 事前に聞いていた、近づくなと言っていたユウリの戦闘場所。

 あの時は、変なところで秘密主義の男が今回はやけに喋るとは思ったが、まさか嘘だったとは……

 

 ヤミは無人の市街地に一人立ち尽くしている。

 戦闘を演出しているつもりなのか、一定の間隔ごとに、犬型のロボットが大きな口をあけて爆発音に似た声で吠えているのは、きっとプリンセスの仕業だろう。

 

 ヘラヘラとしていた、ユウリの顔が脳裏に浮かび苛立ちが増すが、同時に不安も増していく。

 

 あの時、死ぬ気かと聞いて、ユウリは生き残る気だと答えた。

 それがどんな意味であったとしても。

 みんなを守るためであっても。

 探しにこいとも言われたけれど。

 

 私はやっぱり……今のあなたに死んで欲しくない。

 

 拳を握りしめ、翼をはためかせ、浮上する。

 

 こういう時は、見当違いの逆方向を言っていたのだろうと、ヤミは全速力で来た道を引き返した。

 

 

ーーー

 

 

「モモ様、いったいどこへ行こうと言うのですか?」

 

 胸騒ぎが、止まらない。

 なんでだろう。

 さっきまで、そんなことなかったのに…

 

 私を心配して声をかける三人をそのままに、気づけば私は飛び出していた。

 

「なんだか、嫌な予感がします…あなた達はこの場に!」

 

 お兄様……

 続き、してくれるんですよね…?

 約束したんだから、いなくならないでくださいよ…

 

 モモは反重力ウィングを展開し、空を舞う。

 

 

ーーー

 

 

 リトと別れたミカンは、自分の感じるままに走り、ようやく彩南町を抜けて、周りの景色から電脳世界の町がなくなり始めた。

 疲れていたはずの体とオーラはリトに抱きとめられた際に、なぜか回復している。

 だが、いつも以上に疲れる。

 胸騒ぎは治らず、鼓動はうるさいし息切れもする。

 

 きっと、こっちにユウリさんはいる。

 私は、ユウリさんを繋ぐ者。

 地球の神様に言われたんだから、私が、繋ぎ止めないと……

 いなくなっちゃ、ヤダよ…

 

 

ーーーーーー

 

 

「……姫…」

 

「白……見ないで…」

 

 城は無残な姿となり、城下町もボロボロ。

 それと比例して、姫の身体もヒビ割れ、シワだらけとなっていた。

 下半身は蛇のようになり、自慢の黒とも藍色とも取れる、美しい鱗も輝きは薄れて所々剥がれていた。

 

「姫……初めて私と出会った時を、覚えていますか?」

 

 白は禁術に手を出し、地球を飛び出し宇宙を放浪していたのだが、まるで惹かれ合うように、すぐに黒蟒楼へとたどり着いた。

 そこで姫にボロボロにされるも、弱い人間だと言われ、生かされた。

 姫は外の話を聞きたがっていた。

 なんて事のない、自分の取るに足らない地球での話を面白がり、笑い、見せてみろだの、持ってこいだのと命令を繰り返した。

 それから白は、わがままで傲慢で、そして誰よりも不自由な姫のくれる指令をこなすことが自分の存在意義だと思ったのだった。

 

「私は、ずっと人だったのですね。今の自分を、否定し続けていただけで」

 

 白は自分に価値がないとずっと思っていた。

 人にすらなれない自分は神の奴隷が相応しいと。

 だが、気づいた。気づかされた。

 そう思うことすらもまた、人なんだと。

 

 姫は白に背負われながらもクスクスと笑う。

 

「言ったじゃない。あなたは弱い人間だと。本当に、お馬鹿さん」

 

 白も、笑っていた。

 

「ここも、終わりね……神様にも見せてやろうかしらね。最後の、私の花火」

 

 自分に溜め込まれている、扱いきれないマイナスの生命力を抑える力はもうない。

 溜め込まれ、消費できずにいるそれは、行き場を失い爆発するだろう。

 

「あの兄弟は、どうするのかしらねぇ」

 

「兄弟、ですか?」

 

「えぇ。神に愛されている弟と、遊ばれてる兄。面白そうな見ものでしょ?」

 

 

ーーーーーー

 

 

 一瞬、記憶が飛んでいた。

 目の前にあるのは、壁?

 いや、違うな、これは地面だ。

 倒れてんのか、俺は……

 

 これでも勝てない。

 もはや逆に清々しい気持ちだったが、これは勝負なんかじゃなくて、殺し合い。

 殺されるくらいなら、三本目を飲もうかとも思うが、どうなっても良いようの切札は、まだもう一つ残してある。

 

 

「はぁー…はぁー…ふぅー!今、お前の全てを『理解』したわ」

 

 声がして、地面から顔を離し、起き上がる。

 初めて息を切らしているが、神黒は両の足でしっかりと立ちコチラを見ている。 

 そして、神黒の目はしっかりと、『理解』の印が浮かぶユウリを捉えていた。

 

「…はぁ?俺の全てを?バカ言うな」

 

 それに対して、ユウリの身体からは既に尾も消えており、デビルーク星人のパワーも、もう残っていなかった。

 

「わかるんだよ。運命ってやつが有るとするならば、その流れを止めるだけ。それだけで、お前は死ぬ。結局、くだらない物にしがみ付いてるから、純度が下がるんだよ」

 

 寂しい野郎だな。

 俺も神黒が理解できた。

 コイツには何も無い。

 昔の俺と同じ。

 誰にも、何に対しても、何も感じない、空っぽなだけ。

 

「想いの強さだ。お前の使ってる力も、本質は俺と同じ。特別強い想いが力を生む。守るだのなんだのと、甘っちょろい人間風味はいらねぇんだよ。答えはシンプル。自分以外、消えればいいと支配するのさ」

 

「理解じゃないだろ。思い込みで、勝手に俺を解釈すんな」

 

「……なんだと?」

 

「くくくっ。自分を理解し支配してるねぇ、馬鹿らしい。自分自身の事は自分じゃわからん。だから繋がり、教えてもらうのさ」

 

 身体は、動く。

 借り物の力が無かろうと、俺の力はまだ残ってる。

 この後のために、次に繋げるために……

 

「くだらねぇ。そんなもんは弱さを生むだけだ。だから俺は、数百年前に否定し捨てた」

 

「弱さも強さ。何にでも、命にすらも、表と裏がある。内側からしか見れないお前に、自分を理解することなんかできるかよ」

 

 自分じゃなんにも感じてないんだろけど、俺の言葉にあからさまにイラついてるのがわかる。 

 だが、どうやら待ってはくれるらしい。

 今までの嬉々とした表情は消えて、真顔でこちらを見てる。

 

「そんなバカなお前に、最後の奥の手見せてやる」

 

 やっぱ使うしか無いよな。

 忘れられるってのは、どんなもんなのやら。

 つっても元々いなかったんだし、しゃーないか。

 

「…やってみろ。お前の運命は、既に俺が握ってる」

 

 確かに、繋がりは良いことばかりじゃない。

 喧嘩もするし、鬱陶しくも思う。

 だけど、そこには一人じゃわからない、幸せというものが確かにあった。

 

「ははは。残念だったな。(オレ)、この世界の運命の輪に入ってないんだってさ」

 

 今更だけど、コレがいつもの失敗作だったら終わりだな。

 そん時は……

 まぁ、なるようになるか。

 

 微笑を浮かべながら、ユウリはデダイヤルから取り出していた、ファンシーなアイテムのスイッチを押し込んだ。

 

 

 

 

「ダメ……!!」

 

 誰かの声がしたのを最後に、あたりは眩い光に包まれた。

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