Troubる   作:eeeeeeeei

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最終話? モモ×楽園

ーーーーーー

 

 

 光が収まると、そこには知らないヤツがいる。

 後ろにいるのは、デビルークの第二王女か。

 

「なんだお前?プリンセスのボディーガード?」

 

「さぁ……」

 

 誰にやられたのか知らんが、随分とボロボロだな。

 頭髪は黒に、肌の色はやや赤みを帯びた黄色。目玉が二つに鼻と口がひとつずつな顔の作りも、四肢がある身体の作りも、二足歩行の人型の最もポピュラーな形。力は全然感じねぇが、命を奪る事にも、失う事にも躊躇しないイカれた人種だな。

 だけど、残念なのは、地球人ってとこか。

 こりゃーつまらなそうだ。

 

 だが、俺も相当キてんな。

 生命のストックも、残り少ねーし、誰とやりあったんだっけか?

 こんな状態なんて、地球を出てからは無かったかもな。

 

 それに、そもそもなんで俺はここにいるんだっけ?

 

「ユウリさん……今のは、いったい…?」

 

「モモ…俺がわかるのか?まぁいいや。下がってろ。こっからは、時間勝負だから───」

 

 マジでなんなんだこいつ?

 その状態でも向かってくるか。

 王女さんからも信頼されてるっぽいし、部下だな。

 ほんの少し、遊んでやるか。

 

 

ーーーーーー

 

 

 今の今まで戦っていたはず……

 それに、これが三度目の正直だとユウリさんは言っていた。

 

 なのに、

 

「地球人離れした動きだな。マジで何者だよ?」

 

 まるで、初対面かのような言いよう。

 なにが、起こっている?

 

 それに、ユウリさんにはいつもの力強さがない。

 オーラを、【念】を使ってはいないのだろうか?

 

 でも、私に時間勝負と言った後の、合図。

 アレの意味は、手出し無用……

 

 今もまた、両手の人差し指と中指のみを突き出した、抜き手の構えを取り神黒へと迫る。

 

 神黒の突き出した腕をまるで蛇が這うかのように巻きつかせ、二本の指は牙のように関節へと突き刺さる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 雄叫びと共に肩、肘、首、股、膝の関節へと指を突き立てていく。

 関節は外れていっているようだが、神黒相手に、そんなものは効かないというのは、私でもわかる。

 いったい、何を考えているのか…

 

「スペックが違うんだよ。生まれを恨め」

 

 外れた関節を繋げることもなく、しならせた腕を鞭のようにユウリさんへと叩きつけた。

 

「あーぁ。お前がデビルーク星人とかだったら良かったんだけどな。もう死んどけ」 

 

 呆気なくボロ雑巾のように横たわるユウリさんに、神黒は左腕を翳した。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ヤミさん!!なんでこんなところに一人で?」

 

 高速で飛翔中、ミカンに声をかけられ、急いでいる最中とは言えミカンの元へと舞い降りた。

 

「ミカンこそ……いや、ユウリが心配なのですね」

 

 こんな危険地帯で、リトと離れ一人で行動しているという事は、それしかない。自分と同じ考えなんだろうと答えたが、思ってもみない態度と言葉が返ってきた。

 

「ゆうり?それはわかんないけど、リトがいなくなっちゃって。私、なんでこんなとこいるんだろう」

 

 首を傾げているのはまだいい。

 が、ユウリがわからないとは、どういう事だ?

 妙な胸騒ぎがして問いただすも全く話にならない。

 

「さっきから、何言ってるの?私のお兄ちゃんは、リトだけだよ?」

 

 理解が追いつかず、もしかして自分の同居人の仕業かと考えるも今はその本人の方が心配だった。

 

「……ひとまず、つかまってください」

 

 ミカンの手を取り、再度力の高まりを感じたところへと向かう。

 

「どうしたのヤミさん?なんか変だよ?」

 

 親友のおかしな態度に苦虫を噛み潰したような顔をしてしまうも、先を急いだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ユウリさんッ!!」

 

 モモの声がしたと思えば、抱きつかれた。

 悲痛な声だし、抱き寄せた肩は震えている。

 まぁ、そうだよな……

 

 でも、もう大丈夫。

 

 オーラは俺の中にある。

 これだけしか残ってないから、【絶】でずっと温存していただけ。

 

 神黒の手にオーラが集まり、その輝きを増している。食らえば、モモと二人で呆気なく死ぬだろう。

 本来であれば、俺のことは全員忘れて、勝手に一人で死んでいくハズだったのだが、なぜモモは覚えているのか気になるが、今はそれどころじゃない。

 このチャンスは二度と来ない。

 圧倒的弱者とはいえ、闇雲に放ったところでこのバケモノは躱すなり堪えるなりするだろう。攻撃の瞬間こそが、俺に見せる神黒の最大の隙にして、体のオーラが薄まる瞬間。それに、【隠】も絶界もまだ、記憶を消してからは見せてない。

 

「じゃあな」

 

 神黒のオーラが放たれた瞬間。

 『堕天堕悪の閨』を開きモモを突っ込むと同時に、【隠】で生成していた全てを拒絶し消滅させる結界で神黒を覆った。

 

「最後の最後まで取っとくから、切札ってんだよ。

──って、もう覚えてないか」

 

 神黒のオーラに飲み込まれるユウリ。

 ユウリの結界に飲み込まれる神黒。

 

 二人ともが、消滅した。

 

 

ーーー

 

 

  何が起こっている。

  俺が消えていく。

  何をされた?

  どこから攻撃をされた?

  わけがわからない。

 

 

『俺の力を持ってるくせに、しょうもないヤツだな』

 

 誰だ?

 

『消えるお前に、答える必要もない。返してもらうぞ』

 

 俺の中から、何かを抜き取られたような気もするが、なにも感じない。

 

 あぁそうか。そりゃそうだ。

 俺にはそもそも、何もないんだった。

 

 

ーーー

 

 

「……ん」

 

「やれやれ。なんとか、間に合ったていたか」

 

「あら。まさか助けてもらえるとは思ってなかったっすね」

 

「彼女の望みだ。それとも、見ず知らずの人間を助ける程、僕が人の良いお年寄りに見えたかい?」

 

 松戸さんが、俺の顔を見て嫌らしい笑みを浮かべている。

 まぁ、見えないわな。

 首を振ろうとするも動かないので目線のみキョロキョロと動かす俺に対して、横からも声をかけられる。

 

『この後のことは、どうにもしないの?』

 

 加賀見さんがその高い身長から地面に伏している俺を見下ろしている。

 どうやら消し飛んだ俺の身体を修復してくれているらしい。

 

「グッロ。バラバラじゃん」

 

 最近もこんな事あった気がするが、消えた細胞が集まり俺を形成しなおしていた。

 これ、誰だろう?ヘスティアか?

 どはいえ、禍々しい邪気は消え、慈愛に満ちた、母のような暖かさを感じる。が、質問に答えない俺に対して向ける視線が強まり、まだ無いはずの背筋を伸ばしてしまう感覚になる。

 

「あとは、なんとかするかなと」

 

『やれやれ……最後が人任せですか。地球の人間は既にあなたの事は忘れてるけど、どうするつもり?』

 

 顎に手を当て、やれやれ感を前面に出しているのが似合ってはいないが可愛らしい。

 それに、地球の人間って事は、やっぱり地球で生まれた者のみに作用したのか。まぁ、そうじゃないとララが使ったら父親や母親すらもララの事忘れちゃうしな。

 ララの発明が失敗作じゃなかったことと、神黒が地球生まれだった事に安堵する。

 

「いや、大丈夫っしょ。これはアイツらの物語なんで」

 

 俺が壊した運命、規格外の化物はさっき始末したし、もう歯車はなおり始めている。

 あとは、俺なんかじゃなく、この世界の主役級のあいつらがなんとかするだろうと考えていた。

 

『私は手伝いはしないけど、あなたは他の子が煩いから、少しだけ助けてあげる。──これは私の意思ではないので悪しからず』

 

「……僕にもわかるようにして欲しいんだけどね」 

 

 俺に向けてお辞儀をするヘスティアに思わずハテナが頭に浮かぶ。

 少し拗ねたような顔をする松戸さんだが、今は俺も同じ気持ちなので何も言えなかった。

 それに、聞きたいことがある。

 

「ところで、ここどこっすか?」

 

 松戸さんはニヤニヤとしており、加賀見さんには無視された。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……オーイ。死んでねぇだろー」

 

 ここは……どこ?

 上半身をゆっくりと起こして辺りを見渡した。

 

 見覚えのない二人の女性。

 ユウリさんに亜空間へと押し込まれ、気づいたらここにいる。

 まだ状況の理解が追いついていない。

 

「ここは…?」

 

「やっぱ生きてた。藍碑ー王女さん起きたぞ」

 

 藍碑?じゃあもう一人は、タコでもないし、白くも無い。と言う事は、紫音?

 

「神黒を倒した、アイツは何者だ?」

 

 藍碑と呼ばれたのは、どことなくドクターミカドに似ているが、どこか影のある白衣の女性。

 敵意は感じないが……

 

「ちょっと変わってますけど、地球人だと思いますよ?」

 

 説明のしようがないのだから仕方ない。

 それに、私は急いでいる。

 ん?まてまて、倒したと言った?

 

「……神黒を、倒したと言いましたか?」

 

「逆になんで気付いてないんだよ。つっても、姫さんがヤバかったからな。どっちにしろ、みんな死ぬと思うけどね」

 

 よく見ると、ここは地球のようだ。

 二人は亜空間が開いたことを感じとり、私の元へと来たらしい。

 そして、紫音は二人の戦いを一時眺めていたので、その二つの強大な力を感じなくなったために、終わったのだと理解していた。

 

「私は、あの場所に戻ります。二人はここにいると言う事は、敵対はしていないんですよね?それでは」

 

「まー焦んなよ。アタシらも、最後くらい見ていくよ」

 

「宇宙船も城の地下にある。私はそれで爆発前に脱出するがな」

 

 電脳世界は壊れかけている。

 外界との遮断がうまくいっておらず、空を見上げると、ジリジリと歪む蜃気楼のようなものが見える。

 時間は、あまり残されてはいない。

 

「来るのは構いません。ただし、ユウリさんを助ける邪魔をすれば……」

 

 殺気を込めるが、二人はどこ吹く風。

 幹部というだけあって流石ではある。

 

「するわけねーだろ。アタシなんか殺されかけたし」

 

「私はその力に興味がある。むしろ手を貸そう」

 

 本当かどうかはわからないが、私一人よりも、この二人がいたほうが少しはマシか。ユウリさんが今どんな状況かわからないが、最後に放ったのは捨身の一撃だった。無事な訳ない。

 

「ならいいです。時間が惜しいので急ぎますよ」

 

 よくわからない三人組となって、ラボから電脳世界へと舞い戻った。

 

 

ーーーーーー

 

 

「兄上が……嘘だっ!!そんな、そんなはずない……」

 

 自身の胸に抱く、傷だらけの友達の言葉に思わず語尾を荒げてしまった。

 でも、そんなわけがない。

 絶対勝つって、言ったんだ……

 そっと、優しく手を握られ顔を上げると。

 

「大丈夫だから落ち着いて。何があったの?」

 

 いつもの天真爛漫な顔は鳴りを潜め、そこには真剣な表情の姉がいた。

 思わず抱きついてしまい、我慢していた涙がこぼれた。

 

「兄上が…死んだって……神黒と相討ちになったって……」

 

 信じたくない。信じられない。

 

「……どうして死んだことになるの?お兄ちゃんは倒れてるの?」

 

 ハッと思い、すぐさま聞いてみる。

 返ってきた答えは、

 

「消滅した、らしい……力の奔流に飲み込まれて……」

 

 堪えきれない涙が頬をつたい、うまく話すことができない。

 それでも、姉は強かった。

 ギュッと抱きしめられ。胸の友達が苦しそうなので少し離れる。

 

「あ、姉上。ちょっと…」

 

「ごめんごめん!でも、それならきっと大丈夫だよ。きっと亜空間に入り込んで、動けないでいるんだよ。まずはここをなんとかして、助けに行こうっ!」

 

 強い。

 我が姉ながら、なんて強いんだろう。

 あたしは……

 

「姉上は……姉上は不安じゃないのかよ!?星を滅ぼすようなヤツだぞ!?いくら兄上でも……わかんないじゃん!」

 

 不安な気持ちが爆発してしまった。

 なんて自分は弱いんだ。

 こんなにも不安に押しつぶされそうになったのは、はじめてかもしれない。

 

 それでも、やっぱり姉上は、姉上だった。

 

「それでもだよ。私にね、逃げてもいいよって言ってくれたの。なんとかしてやるって」

 

 そんなの、ただの自己犠牲じゃないか。死んでもなんとかしてやるって、兄上はそう言いたかっただけじゃないのか。

 でも、姉上の話にはまだ続きがあった。

 

「お兄ちゃんも、不安だって、私たちと離れたくないって言った。だから、私たちが信じてないと、帰ってこないかもしれないよ?天邪鬼みたいなところあるからね」

 

 ニコリと微笑む姉に、今度こそ何も言えなかった。

 まだ見たわけじゃない。

 消えただけだ。

 そうだな。あたし達が信じないで、どうするんだ。

 

「まずはみんなと合流しよっ!ね、ナナ」

 

 姉上の差し出す手を取った時には、頬を伝う滴は止まっていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「リトーッ!」

 

 聞き慣れた声がする。

 思えば、この子と出会ってから、俺の日常は崩れ去っていった気がする。ただの平凡な日常が、騒がしい毎日に。

 今の、地球をかけた戦いも、理由はもう思い出せないけどこの子絡みだった気がする。

 

「ララ!こっちは終わったぞ!みんな、無事かな……」

 

 みんなが心配だが、散り散りの今、それを知る術はない。

 だが、ナナのペットにはそれがわかるそうだ。

 話によると、モモはなぜかすでに電脳世界から出ているとの事。深傷を負ってしまったのかと思うが、ザスティンたちがいるので恐らく大事には至っていないはず。美柑はヤミといるらしいのでひとまず安心。

 

 最後に、黒蟒楼の主と思しき存在が確認できたが、辺りに松戸の姿はなく、白と共にいるらしいが、二人とも死にかけているようだ。

 

「まさか、松戸さんと加賀見さんが……でも、死にかけてるなら何もできないよな。俺たちの、勝ちなのかな?ひとまずみんなと合流して、戻るか」

 

 二人の姿は確認できないらしく、最悪の状況を思い浮かべるも、あの二人はすでに自分たちと会う気はない。なのでまずは合流をと先を急ごうとするも、なぜかナナに止められた。

 

「あと、もう一つ、言わなきゃいけない事がある……」

 

 神妙な面持ちで、ゆっくりとした口調で話すので何事かと緊張が強まるが、

 

「兄上が……神黒と相打ちになって、今はどこにもいないんだ…」

 

「……兄?いや、誰のだよ?」

 

 ララもナナも目を見開き、俺を見る。

 一体なんだと言うのだ?二人は三姉妹だと聞いたが、少なくとも兄がいると俺は聞いてない。

 

「なんだよ?俺にアニキなんていないだろ?美柑と二人兄妹なんだから」

 

「お前……まさか本気で言ってんじゃないよな?」

 

「リト、冗談でも……冗談でも言っちゃダメだよ?お兄ちゃんが、この世界で一番頼りにしてるのは、リトとミカンなんだから」

 

「ま、まてよ!いったいなんの話してんだよ!?」

 

 怒りに満ちたナナと、悲しげに話すララにただ困惑してしまう。

 俺の、兄の話をしているのか?そんなはず、ないよな?

 

「リト…!」

 

 俺の疑問を解決してくれるであろう、妹の美柑がヤミと共にこの場へと現れる。

 

「美柑……俺たちは、二人兄妹だよな?」

「うん。確かにそのハズだよ」

 

 美柑もどうやらヤミに言われて混乱しているらしい。

 七瀬悠梨。

 それが兄の名前だとか。苗字が違うのは兄がわりだからだそうだが……まったく思い出せない。

 

「なんだよそれ……俺、なんにも覚えてない……」

 

「私も、だよ。ヤミさんに言われても、なにも……」

 

 頭を抱える俺たち二人を見て、ララが思い出したかのようにハッとした。

 

「お兄ちゃん、もしかして……!!」

 

 ララの話を聞いて、顔も思い出せない兄に興味が湧くも、今はその時じゃない。

 

「話はわかったけど、今はそれよりも、ココから出よう。その人騒がせなアニキもいないんだし」

 

 そう言って、全員で地球へと帰還した。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……やっぱり、ツメが甘いですね」

 

 女神は額に手を当てて俺を見る。

 次はなんだ。そもそも質問に答えろよ。

 

「はぁ。なんかあったんすか?」

 

「あなたが記憶を消したから、全員地球に帰ってしまいましたよ?」

 

「ゲッ。ヤミもララも、気づかなかったんか」

 

 黒蟒楼の貯め込んでいる力が解放されればどうなるか、二人なら気付くと思っていたが……

 

「地球の人間のみ、つまりあなたの仲間たちでいうと義兄妹のみが記憶を失ったので、逆に混乱していたようですよ。まったくツメが甘い。今までの付き合いがなければ、私が消していましたよ」

 

 一瞥された視線は強烈。消そうと思えば、確かに俺なんか一瞬かも。

 今更ながら、かなり危険だと思った。

 神という存在にとっては、崇めていようが、唾を吐こうが、無関心だろうが、関係ない。全て等しく無価値。殺すも生かすも、ただの気分次第でしかない。

 今までの繋がりがあった事にホッとすると同時に、神界など行くものでは無いと心に決めた。

 

「ふむ。記憶操作か。考えた事もあるにはあるが、僕に心は理解できないからね。君も似た人種だと思うが、どうやったのか」

 

 声が聞こえたので松戸さんの方をチラリと見ると、興味深そうに俺を眺めている。

 

「いや、俺じゃないっすよ。天才美少女が作ったもんです」

 

 だろうねと言いながらクククと笑う松戸さんから、視線を加賀見さんへと戻す。

 

「さて、もう治ったようですし、あなたがやりなさい。できようが、できまいが」

 

 確かに、身体は修復されたが、髪の色が悠梨になってんだけど。と思っていると、考えを見透かされたようだ。

 

「それは細胞レベルでの修復ですから、あなたの身体本来のものに戻っちゃいましたね。まぁそんな事はどうでもいいので、早くいって、ちゃっちゃとやってください」

 

「……もしかして、ミンメイさんっすか?」

 

 ニコリと微笑んだと思えば、両肩をバシッと掴まれた。

 

「うん。もういきなさい。あなたの物語でもあるんだから」

 

 やっぱ、ミンメイさんか。

 俺の物語が始まるのかは知らないが、仕方ない。黒蟒楼は、俺がケリをつけるか。

 

「いってきます。松戸さん、ミンメイさんと加賀見さんの中の皆さん、今まで、お世話になりました!!」

 

 肩を掴まれたまま頭を下げたので、表情はわからないが、ドンッと突き出された。

 後方からは、この薄暗い、何もない空間に光が漏れ出ているのがわかり、眩しさで目を閉じると声が聞こえた。

 

「ククク。僕の物語はこれで幕引きだ。ではな。名前も知らない君」

「あなたを救いに来た女の子くらい、幸せにしなさいね」

 

 俺を、救いに?

 疑問を口に出す間もなく、俺は光へと飲み込まれて行った。

 

ーーーーーー

 

 

 ちょうどララたちと入れ替わるように電脳世界へと舞い戻ってきた三人がいた。

 

「あちゃー。こりゃもう終わりだな。藍碑、急ぐぞ」

 

「ちょっと、どういう事ですか?」

 

「どうもこうもねーよ」

 

 紫音が言うには、黒蟒楼の主、姫と言うらしいが、その方の力の高まりが異常だとの話。

 だというのに、姫は衰弱しているそう。

 つまり、行き場を失った力は暴走し、爆発してしまう。

 

「最悪ですね……それで、ユウリさんはいないのですか?」

 

 紫音はグリンと首を回して私の目を見る。

 少しだけ、ほんの少しだけ瞳の奥に恐怖の色が見えた。

 

「いねーみてーだよ。あのアブねー小僧は」

 

 紫音。

 はっきり言って、単純な戦闘能力で言うと私よりも上。

 その相手に恐怖の種を植え付けるなど、いったい何をしたと言うのだろう?

 

「ふむ。興味があったのだが、いないのならば仕方がない。(ふね)の確保が先だな」

 

 いないというのが気になるも、行く当てのない今は感知能力に長けた紫音が頼り。

 ひとまずは二人に続いて城跡へと向かう事にした。

 

「これは……」

 

「姫さんも、限界みてーだな」

 

 私でもわかる。

 不吉というものが見えるとしたら、きっとコレの事を言うのだろう。

 黒いドロドロとしたものが、長い雲のように、空を侵食していく。

 まるで、あまりにも巨大な黒い蟒蛇のように。

 

「な……あんなもの、もうどうしようも……」

 

「姫が耐えきれなくなれば、終わりだ。この宙域くらい吹き飛ばすエネルギーだからな」

 

 宙域?ここはそもそも電脳世界だが、度重なる戦闘の余波とこの異常なまでの力により耐えられる土壌はすでに無い。それに、月の直ぐそばの座標だ。ということは、地球も……

 

「なにか、なにか手は無いんですか!?あなたたちの姫でしょう!?」

 

「んなもんねーよ。あったらとっくにしてる。そんな事よりさっさと(ふね)とって出るぞ」

 

 そんな…これで、終わりだなんて……

 ユウリさんも、お姉様も、ナナも、みんな、おしまいだなんて……

 

「マズい!!生きてるもん狙ってやがる!!」

 

「こうなってまでも生命力を求めるか……生への執着というのは凄いものだな」

 

「感心してる場合かよ!!オラッ!行くぞ」

 

 黒く濁ったこの世の不吉が、雨のように降り注ぎ、私達へと迫ってくる。触れるもの全ての命を奪っていく。電脳世界の電子をも吸い、黒蟒楼の城を形作っていた骨組みは枯れて、灰となっていく。

 これが、終わりか……

 

 もうどうしようもない。全てを諦め、座り込んでしまった。

 思い浮かぶのは、デビルーク星と地球のみんな。家族。そして……

 

「大丈夫だから、泣くなよ?今日は無理でも、そのうちまた笑える日が来るから」

 

 聞き覚えのある声。

 見覚えのある髪色。

 そして、変わらない、灰色の瞳。

 

「──ユウリさん……どこ行ってたんですか…私は、あなたがいないとダメなんです……」

 

 あの時と同じ笑顔。透き通るような金色の髪。

 颯爽と現れ、私を助けてくれる。

 私の、私だけの…

 

「ごめん、ちょっとあの世にさ」

 

 人差し指を上に向けて笑う。冗談かわからないところが、またユウリさんらしい。

 紫音は後ろで腕を組みユウリさんを警戒しているようだし、藍碑はジッと見つめている。

 

「あとは任せとけ。あの二人は、仲間か?」

 

 チラリと二人を見るユウリさん。

 

「オマエ、覚えてねーのか?」

「別に、仲間ではない」

 

 藍碑の呟きにチョップをかます紫音。その二人を見た後に、私の顔を見る。「敵じゃないんだな」と呟き、空色と赤色の混ざった結界に覆われる。

 

「まずは艦を抑えたい。城の中へと移動させてくれ」

「おいおい、アタシを殺しかけたくせにマジで覚えてねーのかよ?」

 

 尽く紫音の発言は無視して藍碑にうなづくと城へと結界ごと飛ばした。

 そして、私はユウリさんの腕の中で、力強いオーラに包まれている。

 この安心感と、ながく味わっていなかった、この人を独占していることに危機的状況も忘れ、少し浮かれている。

 

「──モモ」

 

 あの時と同じ。初めて出会い、恋をした瞬間と同じ優しい声で名前を呼ばれる。それだけで、戻って来た甲斐があった。やっぱり、私のものにしたい。でも、ユウリさんは、きっと──

 

「モモと会えてよかった。俺を必要としてくれるモモだからこそ、俺が一番必要な人間なんだ」

 

「……え?」

 

 今、なんと言ったのだろう。

 すごく、嬉しいことを言われたような──

 

「モモと一緒にいれるなら、宇宙の王でもなんでもなってやる。だから、一緒にいてくれないか?これからも、ずっと」

 

「……はいっ!!もちろんです」

 

 

 

ーーー

 

 

 その後の事は、正直覚えてない。

 

 ユウリさんがオーラを使い果たして黒蟒楼を消し去り、その後、藍碑さんと紫苑さんの乗る宇宙船で脱出をした、らしい。

 私は気を失っているユウリさんを抱きしめて錯乱していたので全く覚えてないのだが、落ち着いたところで、あの二人には笑われた。

 

 その後、二人はデビルーク星へと向かっていたようで、私を保護した事にしてデビルーク星へと取り入るつもりだったそう。打算的な考えだが、私たちを助けてくれ事に変わりはないので無下にはできなかった。

 今は藍碑さんは地球でドクターミカドやお姉様と研究を続けているし、紫音さんはユウリさんに変わり、松戸探偵事務所を引き継いで宇宙人や異能者を狩りながら割と自由に暮らしている。

 

 そうしてデビルーク星へと帰り、お姉様たちのいる地球には通信を入れたので、私たち二人の無事はすぐに伝わった。ミカンさんの能力でユウリさんの事も全員思い出して、一件落着となった。

 

 

ーーー

 

 

 それから数年が経ち、今はというと、

 

「オイ、ユウリ。もっと王として振る舞えないのか?」

 

「いやいやギドも大概だし、王っぽくないじゃん。それを真似てるつもりなんだけど?」

 

「んだとコラ?」

 

「お?今度は前とは違うぞ?」

 

 ユウリさんはデビルークの次期王として、日々お父様とジャレ合っている。

 お父様はすぐにでも王位を譲り、遊びに行くつもりだったようだが、お母様に止められて、ユウリさんはまだ王としてのお勉強中。

 私との婚約のお披露目もそれが終わるまでの約束となっている。

 

「──またですか……?」

 

 笑顔で怒気を撒き散らかすお母様の登場に二人揃って顔を真横に向けるのが少し微笑ましい。

 

「ゲッ」

 

「ちょっと躾けてるだけだ。そんな顔すんなよ」

 

 そんなすぐのすぐに譲れるものではないと、お父様はお母様にこっぴどく叱られ、ユウリさんは王族の嗜みをミッチリお母様に教え込まれているのでだいぶ苦手意識がついているよう。

 だが、ユウリさんとは逆に、オーラのおかげかチャーム人の能力である魅了が効かないようで、お母様はすっかり気に入ってしまった。

 今もまた、ベールを外している。

 

「ゲ、などと。王の反応ではないですよ……ユウリもチャームに耐性があるとは思いませんでしたよ。こんなに美しい私の顔を見ても、本当になにも思わないのですか?」

 

 ちょっとお母様、私の未来の旦那を至近距離で見つめるのはやめてもらいたい。

 

「モモは母親似ってくらいかな。じゃあ今日はこの辺で」

 

 踵を返し、私の手を取りお母様から逃げるように駆けるのだが、二人の影が、私たちの行手を阻む。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!!今日は私の本当のラボに来てよー」

「兄上兄上!また月乃承と遊んでやってくれよ。兄上のこと気にいったみたいでさー」

 

 姉二人がまとわりついてきた。

 お姉様は婚約者となったユウリさんに「これで正真正銘、私のお兄ちゃんだね!」と言い、ナナは「本当にモモでいいのか?おべっかモモだぞ?」などと失礼な事を言ってはいたが、今はお姉様と同じく祝福してくれている。ただ、この二人により、私たちの夜の営みを幾度となく邪魔されるのだけは許せないが。

 

「ちょっと、お姉様もナナも今日という今日は──」

 

 ユウリさんの腕を引き、私の部屋へとエスケープしようとしたのだが、次はいくつもの人影が横から現れた。

 

「ユウリさんが望むなら、モモさんが一番でも良いですけど……私のことも忘れないでくださいよ?」

「……ユウリ、今日は本を読む約束をしているはずですが?」

「ユウリ様、ララの妹なんぞの相手などせず、(わたくし)ではダメなんですか……」

「ちょっとくらい地球に帰ってきなさいよ!……別に、私が帰ってきて欲しいってわけじゃないけど、最近全然会わないから…」

 

 ミカンさんはもう中学生になり、モデルもされているお義母様にだんだんと似てきた。身長も少し伸び、魅力がかなり増している。

 ヤミさんは変わっていないが、元同居人という事もあり、ユウリさんの好みは私より抑えているし、未だに二人の絆は健在。

 天条院さんと古手川さんは今は大学生。古手川さんの凶悪な胸はより凶悪さを増しており、ツンデレ属性もまだまだ健在。

 私が一番であれば言いとユウリさんには楽園(ハーレム)を認めてしまったのでこの人たちもいづれはユウリさんと結婚するのかもしれないが、まだ当分は、私の独り占めなのだ。

 

「ユウ兄、俺の代わりに王になってくれるなんて、ホント助かるよ」

「相変わらず、大変そうですね……」

 

 リトさんと西蓮寺さん。このお二人は、今はなんと付き合っている。お姉様とも付き合っているので三人で仲良くやっているそうだが、ここにはきていない籾岡さんやルンさんも未だにリトさんを狙っているらしい。

 あ、ちなみにリトさんが私たちの結婚を一番祝福してくれました。今は嬉し涙を浮かべながらユウリさんの肩に手を置いている。

 私からしたら、リトさんが今はお義兄様になるのだが、お義兄様とは呼ばず、今まで通りリトさん呼びだ。

 

「ユウリ、話は終わっていませんよ。一夫多妻制など、私は認めていません」

「別にいーじゃねーか。モモがいーってんだから」

 

 お母様たちにも追いつかれてしまった。

 お姉様たちと女性陣、リトさんたちと、お母様とお父様に囲まれ八方塞がりだ。

 どうしようとユウリさんを見ると、俯きワナワナと震えている。勢いよく顔をあげたと思ったら、

 

「あーもーうるせーーー!!ちょっとは休ませろっ!!」

 

「きゃっ!」 

 

 お兄様に腕を引かれ抱き抱えられると同時に亜空間へと逃げこんだ。わーわーぎゃーぎゃーと聞こえたが、それも一瞬で静まり返る。

 そして、亜空間の出口は、私たち二人のお家の、広いお庭。私の作った電脳世界で隔離されている緑豊かな、私にとっては小さな惑星(ほし)にある小さなお家のよう。

 夢が叶い、ここで二人ゆっくりとできるのが今は何よりも幸せ。

 

「ようやく、静かになったなー」

 

 私をゆっくりと降ろし、その金色の髪を靡かせて芝生に座り込む。

 私も隣に座り、ゆっくりと私は口づけをした。

 

「ん……」

 

 お兄様の唇をしっかりと味わい、私のものだという事を主張する。

 

「他の方との結婚も認めますけど、私の、私だけのユウリさんなんですからね。初めて出会った時から決まっていた、運命の人ですから」

 

「運命なんかじゃないさ」

 

 ニコリと微笑み私を強く抱きしめる。

 お互いの体が密着し、体温を、鼓動を感じる。

 

「運命の輪は、すでに壊れてるんだってさ。それに、俺たちの物語なんだから、運命なんて言ったらつまんないじゃん」

 

 壊れてるだなんて、誰に聞いたのか知らないが、確かにそうですね。

 私の意志であなたを好きになり、私の意志で、こうして一緒にいる。

 二人の未来は、二人でつくるものですよね。

 

「俺は俺の意志で、モモを愛してるんだから」

 

 ニヤケてるのがわかる。

 あまり直接的に言ってくれないから、こうやってたまに言ってくれるのがうれしい。

 

「わたしも、愛してますよ」

 

 二人でいろんな事を話した。

 お互いの昔の事。

 普段話さない、話しづらいユウリさんの過去のこと。

 これからも、もっとたくさん話がしたい。

 

 二人でいろんな経験をして、思い出を作って行こう。

 運命なんかじゃなく、二人の未来を。

 

 これからも、ずっと一緒に。

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