Troubる   作:eeeeeeeei

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七話 台風×義妹

ーーーーーー

 

「ーーただいまー」

 

「台風の、バカーーーーーーーー!!!!」

 

 家に帰って来たところで叫び声。

 ララか。今度はなにがあったんだ?

 

「ただいま。なんだ、どうした?」

 

「ユウリさん、おかえりなさい。それは……」

 

「お兄ちゃん!台風って、本当になんとかならないの!?」

 

 ミカンが何か言おうとしていたが、突然ララが抱きついてきて俺の顔を見上げてくる。

 あー、この顔には弱いんだよなぁ……

 兄性ホルモンがあるのかは知らないが、刺激されまくりだ。

 

「あー明後日から臨海学校だっけ?そう言えば台風が近づいてたな……」

 

「やだやだ!すっごい楽しみにしてたのに、なんとかしてーー!」

 

「ララ、ユウ兄に言ってもしょうがないだろ!俺も楽しみだったけど…」

 

「明日には中止なら連絡があるんだって」

 

 リトとララ、明らかに二人とも落ち込んでいる。

 ミカンは今の状況を説明してくれる。

 俺はララの背中をあやすように叩きながらミカンの方を見ると、ミカンも今はどうしようもないという顔をしていた。

 そーだよなぁ……

 ララをあやしたまま顔を動かして、ちょうどやっていた台風の進路と今の位置を見る。

 なんとか、なるのか?まーやるだけやってみるか。

 

「ララもリトも、元気出せよ。なんとかなるって」

 

「ほんとに!?すごーい!!お兄ちゃん大好き!!」

 

 さらに抱きしめてくるララ。

 念で身体を強化している俺だが普通に痛い。リトはいつもこれに耐えてるのか??あいつ、念もないのにすごいな……

 

「ユウ兄、なんとかって、なんとかできるようなもんじゃないでしょ!?」

 

「甘いなリト。俺は学校の奴らからは黒魔術師とも言われてるんだぞ。今日は一際強く祈っておいてやろう」

 

「……ユウリさん、何言ってるんですか……」

 

「祈ったらいいの?じゃあ私も祈る!」

 

「ユウ兄……」

 

 呆れた顔のミカン。

 ニコニコしたララ。

 困った顔のリト。

 

 三者三様でこちらを見る、血の繋がりのない弟妹たち。

 

「ま、臨海学校も明後日からだろ?今日明日ゆっくりしてろよ。たぶん、進路はそれるだろ」

 

 俺はそう言い放ち、夕飯の準備にミカンと取り掛かることにした。

 

「リト、良かったね。楽しみだねーじゃあ明日は買い物に行こうよ!あ、今日は祈らないと!」

 

「……う、うん。あぁ、そうだな!落ち込んでても仕方ないもんな」

 

 リビングで二人でキャッキャしてるのをキッチンから見ているが、隣のミカンは小声で言ってくる。

 

「……危ない事は、しないでくださいね」

 

「しないよ。こっから毎日二人の落ち込んだ顔見るのは嫌だからな。心配してくれてありがとな」

 

「それは私も嫌ですけど、本当にどうにかできるんですか?できなかった時のほうがララさん凄いことになりそうですけど…」

 

「そん時は、フォローしてくれよ?」

 

「それは、嫌ですよ。そこは頼れる"お兄ちゃん"でいてください」

 

 ミカンは俺が念を使える事を知っている。厳密には超能力だと思っているようだが。それでなんとかする気ではないのかまで気づいて、それでいてリトとララには気づかれないようにこうして心配までしてきているのだ。

 

「頼れるミカンに頼られるってのはハードル高いからな。せいぜい頑張るよ」

 

「ふふふ。リトはああなんで、せめてユウリさんは、そうであってくださいね」

 

 悪戯っ子のような笑みを俺に向けてくる。最近はどんどん大人っぽくなってきており、とても小学生には見えないミカン。その妙な色気に少しドキリとした自分の心を必死に隠した。

 本当に高いハードルだが、せいぜい頑張ろう。

 

 それに、試したいこともあるしな。

 

 みんなで夕食を食べて落ち着いたので、俺は自分の部屋に戻ると窓から外と飛び出した。

 

ーーーーーー

 

「夜遅くにすみません。それに、貴重な道具も貸してもらっちゃって」

 

「なんだか君がそんな事をしようとするとはね。無駄なことはしないタイプだと思っていたけど。これをあげるのは構わないよ。貸すといってもどうせ壊してしまうんだろう?あげるよ」

 

 松戸さんはニヤニヤと笑みを浮かべてはいるが、俺の頼みを聴いてくれた。

「ありがとうございます。でも、俺もこうみえて家ではお兄ちゃんしてるんですよ」

 

「君は大概あの山にいるからね。そう思うのも仕方ないだろう?」

 

 俺はその言葉に苦笑するしかなかった。

 

「七瀬さん。こちらです」

 

「加賀見さん、ありがとうございます」

 

 俺は"ソレ"を加賀見さんから受け取り、改めて二人にお礼を言ったところで、加賀見さんに言われる。

 

「良かったら、飛ばしましょうか?」

 

「いいんですか?助かります」

 

「いえ、いいんですよ」

 

 加賀見さんは笑顔でそう言うと、黒渦を出現させた。俺は足元に出現した黒渦に飲み込まれていく。その途中で松戸さんの声が聞こえた。

 

「……死なないでくれよ?」

 

 既に口まで埋まっていたので、俺は右手を上げて答えた。

 

ーーーーーー

 

 ユウリのいなくなった事務所で松戸は呟く。

 

「加賀見くん、頼めるかい?」

 

「はい。先生」

 

「うん。よく見ておいてくれよ?彼が、『アレ』に届きうるかを」

 

 加賀見も消え、誰もいなくなった事務所でソファーに座ったまま松戸は一人、笑みを浮かべていた。

 

ーーーーーー

 

「おーーーこれが台風か。間近で見るとやっばいなこれ」

 

 海上を蹂躙しつつこちらへと進んでいる台風。そこから数キロ離れた小さな無人島の上空で俺は結界の上に立っている。

 

 俺には試してみたいことがあった。

 この世界に来てからの俺自身のオーラが変わった事により、使い勝手の変わった結界。主に鍛え上げた強度と粘度の変化率の上昇。強化系の力も得た事による純粋なパワーの上昇。

 今まで俺の選択肢になかった事もどんどんとイメージし、単純に修行は楽しかった。

 そこで思いついた技。山中でも試してはみたが、全力では放っていない。

 

 故に試したいのだ。

 今、俺の出せる『絶界』とは違う、物理的な威力最高の技を。

 

 ここは台風のすぐそば。絶えまなく襲いかかる暴風と暴雨に耐えながらも、俺は自身の前に結界を具現化した。さらにその先に最初の結界よりも一回り大きな結界を具現化。それをどんどんと続けていき、最後の結界は20mはあろうかというサイズ。俺からは50m近く離れている。

 その結界の、俺から最も離れた位置の中心に松戸さんから受け取った道具を取り付けている。

 

 その道具は、受けた衝撃をそのまま吐き出す単純な物だが、規模を数十倍に増やしてくれるのだ。

 例えば、壁をただ殴っただけでは拳一つ分の穴しか開かないが、この道具を取り付けて殴れば、壁全体に穴が開くというようなものだ。

 残念なのは、このフラフープくらいはあるサイズ且つ、取り付けなくては意味のないせいで戦闘では使い物にならない。また、威力に耐えるだけの強度はないので一撃で確実に壊れてしまうところだが、使いどころによってはすごいチートアイテムを松戸さんは普通にくれた。

 

 

 加賀見さん、見てるんだろうな。

 

 松戸さんと加賀見さん。いまだに真の目的はわからないが、俺の力を試している節がある。

 そのために、台風をどうにかするなどという、向こうにとっては至極どうでもいい俺の頼みを聞いたのだろう。

 念能力者の対決では、能力を一度でも見ているか見ていないかで雲泥の差がある。

 だが彼らは念能力者ではないし、もしかしたら敵に回るかもしれないが今はいい。

 この世界に来てから新たな念に目覚めている俺はまだまだ成長期だ。

 

 逆に見せてやる。"今"の俺の力を。

 あの二人がどんな能力を隠しているかはしらないが、負けるつもりもない。俺は今よりも強くなる。

 まぁ、敵に回らないのが一番なんだけどな。

 

 

ーーー下準備はできた。次は、体内に残る潜在オーラを集中して練り上げる。

 

 【練】集中し練り上げたオーラを一気に放出し増強する。

 次に【凝】で、右拳へとオーラを集中させる。

 そして【絶】で右拳以外に微量に流れているオーラを閉じ、完全に右拳のみにオーラが集まる。

 更に【纏】で、右拳から溢れ出て漏れてしまうオーラを留める。

 

 【硬】の完成だ。

 残る潜在オーラを全て注ぎ込んだ最強の一撃。

 

 俺はゆっくりと構える。左足を前に出し、右足の膝を限界まで曲げる。上半身を思いっきり捻り、前に出た左手は曲げた右足に触れるくらいに降ろし、後ろに下がった右腕は肘を曲げ高く上げる。

 気を抜けば溢れ出し、弾けてしまいそうな右拳のオーラを【纏】で無理やりに押さえ込んでいるので、相当にきついが、今から放つ技のイメージを浮かべると思わず顔がにやけてしまう。

 

 ぐっと右膝を更に曲げて溜めをつくり、身体の捻りを解放して右足の溜めを解き放つ。左手は身体の捻りの解放で生み出される遠心力を増幅するように背中へ向けて速く回す。右腕を円を描くように振り回しながら曲げていた肘を突出し、的目掛けてアッパーとフックの中間のような軌道を描く。増幅された遠心力をそのまま活かした最強の一撃を目の前の結界へと叩き込む。

 

暴王の咆哮(タイラント・ブラスト)!!!』

 

 全身の全てを使い、潜在オーラ全てをも注ぎ込んだ右拳が己の結界を撃ち抜く。

 結界を駆け抜ける衝撃は結界内で振動し増幅する。

 増幅した衝撃は結界を破壊しながらも更に次の結界へと襲いかかり更に増大していく。

 衝撃の増幅の連鎖が巨大な結界へと繋がっていく。

 

 その衝撃は一瞬で装着した装置を結界ごと破壊するが、最後にその役割を果たしてくれた。10m四方の結界から、道具を伝わり解き放たれた力の規模はもはや自分の視界には収まりきらない程あろうかという規模だ。

 

 暴風と暴雨を襲う『暴王』

 

 真っ直ぐに台風に襲いかかり、なおもその勢いを失うことはなく、台風を突き抜けた。

 それでも止まらない『暴王』は海上を爆進していった。

 

 台風は規模を小さくし、『暴王』に従うように、その道筋をなぞるようにゆっくりと後退していった。

 

「…は、ははは…やったぁ」

 

 それを見届けて、俺は気を失った。

 

ーーーーーー

 

「お兄ちゃんって、すごいよね」

 

「そうですか?」

 

 私の部屋で布団に入ってる状態のララさんが不意に話しかけてきた。

 

「すごいよー。私、学校でも台風ってどうにかならないのかって聞いたんだよ?そしたらね、みんな絶対無理だーって。でもお兄ちゃんは、そうじゃなかった。」

 

「…ユウリさんにも、どうにもできないと思いますよ?」

 

「それでもだよ。お兄ちゃんだけはなんとかなるって、なんとかしてやるって。私すごい嬉しかったな。どうにもならなかった時は…悲しいかも知れないけど。今はすっごく嬉しい気持ちだよ」

 

「ララさん…そうですね。明日起きた時には進路も逸れてるかも知れませんね。…臨海学校、きっと行けますよ」

 

「うん、そうだね。ありがとうミカン」

 

 言い終えるとララさんから「ふわぁ」あくびが聞こえた。

 

「…そろそろ、電気消しますね。おやすみなさい、ララさん」

 

「うん。おやすみミカン」

 

 電気を消し、私も布団に入る。

 なんとかしてやる、とは言ってなかった気がするけど、今のララさんの気持ちに水を差すべきじゃない。

 ほんとに嬉しそうだ。でも確かに、なんとかしてしまいそうな気がしている。

 

 二年前に見た、忘れられない不思議な光景。ユウリさんと私だけの秘密。

 

 ユウリさんは超能力者。

 そうだとしても、台風相手に人間がどうこうできるとは常識では思えなくて、少し不安になる。無茶してないといいけど。

 そう思いながらも、私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

「かっこいい白か金みたいな髪の人でさ!爆発した車から颯爽と転がり出てきて無事だったんだよ!なんかすごい人だったなー。な!ミカン」

 

 リトがお父さんとお母さんに話している。

 今よりも小さなリトの言葉を、否定もしなければ肯定もしない私は、ただそこに立っているだけ。

 

「その人は、大丈夫なのか?どうしたんだ?」

 

「え、それは、俺たちに逃げろって、速く行けって言ってさ。俺も心配はしたんだけど、大丈夫だからって元気に言われたから」

 

 お父さんとお母さんはその人の心配をしている。

 

 今は朝となっており、私はテレビを見ていた。

 朝のニュースが、一方的に話してくる。

 

「昨日、彩南町○$#のあたりで事故があり、付近には通り魔が現れ、街は騒然となりました」

 

 昨日のニュース。これ、見たことある気がする。

 

「重症者%€名。意識不明の重体$÷名。死亡者3名。」

 

「死亡者は、

 七瀬 ○○さん #°歳

 七瀬 ○○さん ¥°歳

 

 七瀬 悠梨さん 14歳」

 

 最後だけ、やけにはっきり聞こえた。

 私は手に持っていた牛乳を床へと落として茫然としている。

 なんだこれ。見たくない聞きたくない。

 でもテレビは、なぜか続きを、私に見せる。聞かせてくる。

 

「結城 美柑さん、ちゃんと見てくださいよ?これがあの日の七瀬 悠梨さんですよ?感謝もしない、なんなら嫌ってすらいるあなたを、わざわざ逃して、死んでしまったユウリさんですよ?」

 

 そう言ってくるテレビのアナウンサーの顔は、私だった。

 画面には、目、鼻、口、肩、腹、腕、背中、足、あらゆる箇所から血を流したユウリさんが、人形のように壁にもたれていた。

 

 

ーーーーーガバッ!!!!

 

「夢。だよね……?」

 

 最悪な夢。私の中の消えない罪悪感。

 

 はぁ、汗、かいてるな。

 ララさんは、あれ?いない?リトの部屋かな。

 ひとまず、顔を洗ってサッパリしよう。

 

 階段を降り、顔を洗い、私は自分の部屋へ、

 ではなく、ユウリさんの部屋の扉を開けた。

 

「ユウリさん、いますか?」

 

 部屋は真っ暗。返事もない。

 ベッドと机と棚があるだけのシンプルな部屋。

 棚には小学一年生から高校三年生までのドリルと漫画、多くの本が並んでおり、その上にはリトと私がプレゼントした観葉植物が飾ってある。

 その部屋の主はおらず、ベッドの上は膨らみもなくペタンとした布団だけが寝ていた。

 

ーーーぼふっ

 

「また、行っちゃったんですね」

 

 私はユウリさんのベッドに横たわり呟く。

 

 私は知っている。ユウリさんはよく夜に家を出ている。なにをしているのか気になるけど、聞かない、聞けない。

 うざい女だと、子供みたいになんでも聞いてくる女だと、そう思われたくない。

 

 ユウリさんの匂いがする。

 枕に顔を埋めると、安心する匂い。

 

 私の周りは子供ばっかり。学校でも、家でも。

 でも、ユウリさんだけは違う。話していて楽しい。

 気持ちを汲み取ってくれるし、子供扱いはしない。それが私は嬉しいし、そもそも私は、

 

ーーユウリさんのことが好きだ。

 

 あの日から、私の中でのユウリさんはどんどん大きくなっている。

 

 悪い夢を見たせいか、安心したせいか、私はいつのまにか眠っていた。

 

ーーーーーー

 

「とんでもないな。これなら『アレ』にも届きそうだ」

 

「そうですね。消耗しきって気絶してしまいましたが、あの威力だと全ての"私"を消し去れますね。……当たれば、ですが」

 

 加賀見くんからの視界の共有。そこで見た台風を押し返す人間。

 これならば届きうる。僕の目的まで。だが、今はまだだ。

 彼はきっと、他人に興味がない。

 そう思っていたが、自分に近いもの以外に容赦が、それに対する感情がないだけか。

 身内には菩薩のように、他人には悪魔のような。

 

「七瀬さんは、どうしましょうか?」

 

「彼のベッドにでも送っておいてあげてくれないかな?仕事着もボロボロだ。直しておいてあげようか」

 

「はい、先生」

 

 加賀見くんは七瀬くんを抱き上げ夜空へと飛び出した。

 

ーーーーーー

 

 

ーーーんん。

 

 なんだがくぐもった声が聞こえる。

 右手にあたる何かを掴む。

 

ーーーあ、はぁ、ん。

 

 まただ、なんだ?というかここはどこだ?

 何かを、抱きしめてるような?

 

ーーーユウリ、さん。

 

 俺の名前?ぼんやりと目を開けると、

 目の前にミカンの顔があった。

 

 は?…え?なんだこの状況?ここは、俺の部屋?でもなんでミカンが?

 

ーーーんんっ!

 

 右手に掴んでいたのはミカンのおしり。俺は驚いて少し強く握ってしまったようだ。

 

ーーーパチ。

 

 ミカンの目が少しだけ開き、目があった。

 

「また、夢、かな?…今度は、いい夢」

 

 そう言って首に抱きついてくるミカン。唇は触れ合うほどに近く、ミカンの息が顔に当たる。お互いの前面は密着していないところの方が少ない。俺の鼓動が早くなるのがわかる。顔も、きっと赤くなっている。

 ど、どうしよう……?

 

「ユウリさん……」

 

 寝ぼけているのか、寝返りどころではなく、体の上に重なるように乗っかって俺の胸に顔をうずめている。胸に感じるミカンの呼吸。

 

「…ミ、ミカン?」

 

 俺はそっと声をかける。

 

 ……ちゅ。

 

 首筋に唇がついて離れた。あぁ、これはヤバイ。本気でヤバイ。

 理性が……ミカンはまだ小学生だぞ?そして、俺の義妹だ。

 

「……ミカン?」

 

 さっきよりも大きな声で呼んでみる。

 

「ん、ちゅ……ユウリさ…ん」

 

 ミカンの唇が首から頬へと上がり、今度は頬に唇の感触。そのまま徐々に顔の中心まで移動してきて、そして、

 

「……………ん?」

 

 唇と唇が触れる前に俺はミカンの肩を掴んで止めた。

 

「おはよ、ミカン」

 

 きちんと言えただろうか?顔はきっと赤いままだが、言葉はちゃんと出せたはずだ。

 心臓が飛び出しそうなほど大きく鳴り響いている。

 

「えへへ。おはよー。…………ん?……え、あれ、私!ご、ごごごめんなさい!」

 

 最初はミカンらしくないふにゃっとした笑顔でおはようってゆってくれたのだが、鼻先が触れ合うほどの位置なのですごく恥ずかしい。だんだんと意識が覚醒してきたのか、ミカンは飛び起きて、俺の腰にまたがった体勢のまま凄い勢いで謝ってきた。

 

「いやいや、俺もミカンが寝てるなんて気付いてなくてさ。ほんとさっき起きたんだ。起こしてごめんな」

 

「え、あぅ。いや、これは、そのですね。私は、」

 

「ーーぷっ。あははは」

 

「な、なんで笑うんですか!?」

 

「ふふふ、いや、ごめんごめん。ミカンのそんな顔初めて見たからさ」

 

 顔を赤くして慌てるミカンなんて普通は見られるもんじゃない。

 

「素のミカンって感じ。かわいいよ」

 

「ううぅ……。その、この事は…」

 

「うん。誰にも言わないよ。また、ミカンと俺だけの秘密だな」

 

 俺も上半身を起こしてミカンの頭を撫でてやる。

 

「はい、ありがとうごさいます。……間違っても、リトには絶対言わないでくださいよ」

 

 ミカンはそう言って顔を真っ赤にしたまま俺の部屋を後にした。

 

 かわいい、な。

 いや、ミカンはかわいい、妹だ。

 自分でもよくわからないこの感情を心の奥へと押し込んだ。

 

 

 

 

 そういえば、どうやって帰ってきたんだっけ?

 

ーーーーーー

 

 後日、

 

「気絶されておりましたので送っておきましたよ。義妹さんが眠ってらっしゃいましたが、なにか問題ありましたか?」

 

 と全く悪気のない顔で加賀見さんに普通に言われた。

 

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