ベル君の変身にまた少し近づきました。
PS:お気に入りが100件に達しました。ありがとうございます。
第十話 理解者、そして出会い
教会の地下。僕と神様とエイナさんの三人。誰にも聞かれないように、僕たちは近日に起きたことを報告している。
当然、そこには僕自信の、ファンガイアについて。だから故にギルドではなくこのホームで話をしている。
「……以上が、現状でわかっているベル君のすべてだよ」
「………」
「あの、エイナさん……」
「……なるほどね、これじゃあギルドでは話せないわけね」
きっかけはベルの七階層進出である。躍進を不思議に思い、進出に足るかステータスの是非を聞かれ、こうして今ホームで密会を開いている。
ベルは提案したのだ。ヘスティアに対し、エイナにすべてを打ち明けることを。少しでも理解者を増やすために、信用に値するエイナなら必ず力になってくれると。熱心な説得にヘスティアも許可をだし、そして今に至る。
「……わかりました、神ヘスティア。ベル君のことは内密に、ファンガイアの件は私の方でも調査してみます。」
「……エイナさん」
「うん……でも、一つだけちょっと」
エイナの視線が一点に向く。そこには
「……あぁ、バイクのことですか。さっき説明した通りとしか…」
ちなみにだが、エイナはベルのバイクについても知っていた。
祭の日、街中を駆けるベルの姿は住民たちに目撃され、それに尾ひれがついて今も噂になっている。大抵は曖昧で的はずれだが、その中から高速で動くモンスターに乗る白髪の男、という断片的な情報から正体がベルであることを推測したのだ。
故に、当然バイクについての説明をしてモンスターではないことの説明をしたのだが。
「うーん、どうにもそれが動くとは思えないんだよね。だって、車輪が二つだし、鉄で重いし、本当に動くの?」
「……まぁ、動かしたらそれが当たり前というか……すみません、ニュアンスばかりで」
「なんだいエイナ君、興味があるなら話は簡単さ。」
「?……あの、神ヘスティア…なんだか嫌な予感が「大丈夫大丈夫、僕も後ろに乗せてもらったけど全然大丈夫だったから、むしろ感動すら覚えるほどさ!さぁ、善は急げだ ベル君、オラリオの外へゴー!!」
〇
「いやぁああああああ!!!!!」
「エイナさんどうですか! 馬なんかの比じゃない、最高の速さです!! どうです、気持ちいものでしょう…!!!」
「死ぬ死ぬ、死んじゃうからぁあああ!! お願いだからぁ……と、止まってぇえええ!!!?!?!?」
平原を疾走する機械の荒馬、だが、ベルの背後でエイナは興奮を通り越して恐怖を感じている。最初のあたりは…へぇ、本当に動いてる。面白いねぇ……と、余裕ぶっていたが、スピードが上がるにつれてどんどん口数も減り、今では背中に抱き着いて半泣きで叫び続けている。
「エイナさん……!!」
「……ひ、ひぐぅ……怖いから、もう嫌だって」
もはや年上のプライドもなく、年甲斐もなく涙を流す。その涙はベルに
……すごい、泣くほど感動してる。そうだよね、こんな光景、僕も最初は……。
残念ながら届きはしなかった。
まったくのもって勘違いであるのだが、お気に入りのおもちゃを自慢する幼子よろしく、相手が聞こうが聞かまいが関係なしのファンサービスである。クラッチを捻り、ギアを上げ、アクセルを吹かせばあっという間に時速160Km、そこからさらに加速してあれよあれよとスピードの向こう側へ。
「行きますよ…!!しっかり掴まってくださいッ!!!」
「だ、だ、…ダメだってえぇええええぇいやぁあああああああああ!!!!?!?!?」
〇
「ひぐっ……えぐっ……うあぁぁ」
「……ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい。」
現在、ベルは全力で土下座タイムである。ちょこんと座っているエイナに対しこれでもかと地面に頭をねじ込んでいる。
「…うぅ、ベル君のばかぁ……あんなに速いだなんて、しかもこっちがいくら言っても止まってくれないし………ベル君の鬼畜」
「……!!」
……あぁ、心が痛い……というか、なんだろう…こう……死にたい……。
ベル・クラネル、人生初めての黒歴史爆誕である。控えめに言ってもベルにとってエイナは大好きな人だ。故に張り切って、そして盛大に失敗した。そのやらかした的な羞恥心は考えるだけでもおぞましい。
「……エイナ君ごめんよ…煽った僕も悪いんだ、本当にすまない……体の方は大丈夫かい?」
「………腰が抜けて立てません。」
「………ごめんなさい」
「……もういいわよ。一応、提案を飲んだのは私だし、この乗り物についてもよくわかったわ。」
「ふぅ、それがわかってもらえてよかったよ。ベル君、そろそろ頭を上げな……エイナ君も泣き止んだみたいだし」
「………」
面を上げる、さっきまで涙を流していたせいか少し表情が赤い。罪悪感が胸の中に溢れる。
「まぁ、とにかく。ベル君の言いたいことが分かったわ。でも、当面この乗り物は使用禁止。当然オラリオの街中なんて言語道断、ダンジョンに持ち寄ったりなんて絶対許さないんだから。」
「えぇ、でも街中はわかりますけど……ダンジョンも、やっぱり駄目なんですか。」
正直、地上からの行き来が楽になるし、いざとなれば戦闘でも使える。
マシンキバーは通常の走行に加え、使い方次第では応用も効く。動力に使うベルの魔力、その必要量自体の燃費がまずとても効率がいい。
その上、時にその挙動は物理限界を超え、さらには簡単な命令であれば遠隔でも操作ができる。これはシルバーバック戦以来、何度か城外で検証してきて分かったことだ。
何もない平面での跳躍、草原や湿地などの悪路に関係なく平常に走行できる安定感、それらはベルの魔力で任意に引き出す、いわばスキルに近いものがある。故に、街中だろうと、ダンジョンであろうと、このバイク…マシンキバーはベルの戦いに邪魔をしないどころか有用な相棒となりえる。
なりえるはず、なのだが
「そんなのだめ。ダメに決まってるでしょ!確かに、聞いてる話だとこれはとても便利で、特に危険の多いダンジョンで帰還手段があるのはすっごくメリットだと思う。でもそれ以上に」
「……目立つ、からですか?……やっぱり」
「そう、毎回これに乗ってダンジョン駆け巡ってたら絶対噂になる。それに、この乗り物の騒音でモンスターだって集まるし、最悪他の冒険者にモンスターの大軍を押し付けることにもなるんだよ。」
「う~ん、こればっかしはエイナ君の言う通りだね」
「……はい、残念ですけど仕方ないですね。」
……仕方、ないよね。……仕方ない。
バイクに近寄り、キーを抜いて布をかぶせる。本音を言えばベルは使いたかった。このバイクに乗って颯爽と駆け抜ける、そんなスマートな絵面を脳内に浮かべてしまう。多感な少年の年頃ゆえか、かっこいい英雄に憧れるベルにとってどうにも捨てきれない妄想である。
手に取ったキー、白濁の水晶の装飾が付いたそれを、ベルは惜しむように眺める。
「まぁ、ダンジョンは駄目でも、こうして人がいない外とか、それこそ遠くの方に行くならいいかな?…ベル君、これすっごく気に入ってるみたいだし」
「そうそう、実はこの前一緒に出掛けてね。いやぁベル君の背中に乗って風の中を通り抜ける、うん、あれは最高だね。しかもちょっとくっつくだけで照れたりするんだから、本当にベル君は可愛いよ」
「あはは……それは、何か別の理由が……「?」……いえ、なにも」
「?……まぁいいか、それよりそろそろ暗くなってきたね。ベル君、じゃぁそろそろ……」
「………」
返事がない。無言のまま一点を見つめている。その先は
「ねぇベル君、どこをって……!!」
「神ヘスティア?……いったいどう……」
三人の視線の先が一手に向かう、そこには
「……いや、あの……僕、なにも」
そこには、バイクがあったはずの布がまるでそこに最初から何も無かったように、それはもう平面的に地面にばさりと広がっている。
「………」
恐る恐る布を取って中身を見てみる。だが、そこには
「「「…………。」」」
そこにはバイクがあった。いや、正確に言えばバイクと似た形をした手のひらサイズの何かだった。
「ベル君……君は一体何をやらかしたんだい」
「いや……何をって言われても」
バイクだった何かを手に取る。片手に乗る程度のオブジェで深紅の部分の外装と車輪だけを残して、後の部分は綺麗に折りたたまれているような。そんなデフォルトじみたデザインのオブジェである。
「あの……このキーについてる装飾の…何だか笛みたいな形してたから、吹いてみると……気が付けばこんなことに」
「「………」」
「いや、本当ですから……!だからそんな痛い子を見る目で見ないでください!!?」
その後、バイク?だったものを持ち帰り、ひとまず近況の問題報告は無事終わった。
ちなみに、バイクだが
…♪~♪
「!?…うわっ、急に戻った!!」
「て、机!机壊れてるから!! 早く上に片付けてくれ!!!」
普通に吹いたら元の大きさに戻った。その日以降、ベルは小さくしたバイクとキーを常に持ち歩くことにした。エイナにばれれば怒られるだろうが、まぁ持ち歩くだけならばいいだろうということで。
〇
翌日、ベルは七階層進出のため、エイナと装備を新調するべく買い物に出かけた。今はその帰りで、新しく得た防具も身に着け、左手にはエイナから送られた手甲が付けられている。
……良いもの、貰っちゃったな。昨日はあんなに悪いことしたのに、今度またお礼しなくちゃ。
裏路地を歩く。人気のいない、静かな帰り道
「………?」
ふと、誰かの叫ぶような声が聞こえた。気のせいかとも思ったが、少し目を閉じて聴覚に集中する。
ファンガイアの血の影響で、ベルの聴覚をはじめとする感覚系は以前よりも格段に発達している。故に力を引き出すイメージを固めれば
「………ッ!!」
少しだけ、顔に文様が浮かび上がる。そうなればベルの中にあらゆる音が入り込む。町の喧騒が入り混じったノイズが脳内を駆け巡る。
……集中しろ、声は確か……もっと、高くて、小さい
連続した音、荒くとがった感情がむき出しの、一方は怒り、もう一方は
…怯えている。逃げて…追われている
音の方に目をやる。音は二人分、追いかけられているのは
「……小さい、女の子」
気が付けば、ベルの足は走り出していた。無我夢中でがむしゃらに、名も知らぬ少女のもとへと
〇
「はぁっ……くっ」
まだあの男は追いかけている。刀に手をかけ汚い怒号を上げながら、掴まれば殺されるのは自明だ。
「……っ!!」
路地を駆け巡る。だが、メインストリートまではまだ遠い。
「嘘……こんなところで、あとちょっとなのに……どうして」
狭い路地を抜け曲がり角を抜けたその時
「!!」
何かにぶつかった。人がいたようだ、一瞬仲間かと疑ったが、この拍子抜けた間抜け面からはおそらく違うのだろう。
すぐに立ち上がり、気にせず走り抜けようとした。だが
「…ま、待って」
「……!?」
男はあろうことか自分の手を掴んだ。顔が見える、いかにもな純朴面で、悪意のなさが妙に鼻につく。
「あの、私はあなたに構ってる暇は「逃げてるんだよね」…!!」
一瞬、質問の意図が分からなかった。意図を読み取ろうとしたが、あの男の声が迫ってきているのに気づく。
「……やっぱり、追われている。……ごめん!!」
「ふぇ!?」
「とにかく、ここから逃げるから……ッ!!」
不意のことで反応できなかった。体を持ち上げられ、視界の位置が固定されてようやく気づく。男はあろうことか自分に対し、いわゆるお姫様抱っこをしてきたのだ。
「……はぁ?」
男は走り出す。人一人抱えているのに、先程の男よりも圧倒的に早く移動していた。
理解が追い付かない、この男……いや、少年はいったい何がしたいのか。
抱きかかえられたまま道々を抜けていく。男は必至で、まるで本の童話に出てくる主人公のように
「………。」
その時、ふと頭の中に一つの言葉が浮かぶ。それは忌々しくも今のこの少年にぴったりで、それがなおさらに不愉快に……
「……ッ」
……正義の、英雄……。
「………ねぇ君」
「!」
気が付けば、そこは先ほどいた場所から遠く離れた通りで。人込みのない裏路地で、男は安心しきった顔を浮かべている。
「はぁ。よかった、逃げられたみたいだね。……えっと、君は、大丈夫かな……?」
目線が合う。とっさにかぶっているフードのひもを締め、顔を隠す。
「……あぁ」
咄嗟に隠したが、助けられた手前、少し失礼に感じる。フードを取ろうと手をかけようとして
「………!?」
……ばか!何を考えているんです、こんなであったばかりの男に心を許すなんて……!
男を見る、軽装だが腰に付けたアイテムポーチ、それと先ほどの敏捷力、間違いなく冒険者だ。なら
……何もないなんてない。どうせ、金銭だのなんだのをゆすってくるに違いない。
「……んっ?」
ふと、何か違和感に気づく。考えをめぐらすうちに、どこか、肉体の一部に違和感……が……
…むにゅぅ
「………。」
男は自分を抱きかかえている。背中にあたる手の先が、というか指が完全にあれを掴んでいるのだ。
「----ッ!!!?!?」
「あの、だいじょう…ブヘッ!!!」
一発、少女の華奢な拳は的確にベルの鼻っ面にクリーンヒットした。
「!」
少女は男の手から離れ、恥ずかしそうにローブの上から胸を抑える。
痛みが晴れ、目の前の状況を理解する。少女の顔を赤らめて怒りを放つ姿に、ベルはようやく自分のしたことを理解するのだった。
……さっき、僕がさわってたのって………もしかして……!?
女の子の体は柔らかいとは聞いてはいたが、そのなかでもそこは別次元であった。
「えっ……あっ!?……いや、僕はそんな……!!!」
「………へん」
「……へん?」
「この……変態!!」
「!!?!?」
「なんですか、助けたお礼に乳の一つでも揉ませろっていうことですか! この変態冒険者、ロリコン!!」
「いや……ぼくはそんなんじゃ、ただ君を助けようと」
「嘘です。いきなり表れて初対面の相手を助けるなんて、そんな冒険者どこにいるんですか!!」
「……いや、それは…その」
音で駆けつけたというのはさすがに現実味に欠ける。それに、追いかけられて逃げる少女の足音が聞こえたら体が勝手に動き出した。などと説明しても不気味がられるだけだろう。
「……くっ、まあでも……助けられたのは事実です。一応、それは感謝します。ありがとうございました。」
「……じゃあ」
「ええ……ですが」
少女が出で立ちを直し、フード越しの顔でじっとこっちをにらみつける。
「……正義のヒーローごっこは他所でやってください。はっきり言って不愉快です……!!」
「!?……で、でも……僕は本当に君を「それが不愉快だと言っているんです。童貞のナイト気取りがしたいなら別の女に試してください!!」
「!!!!?!?!?」
その時、ベルの中で何かが崩れ落ちた。
「………」
「……では、そういうことで。」
少女は去る。その場に放置されたベル、ただ少女の言葉が脳内で永遠とこだまし続けている。
〇
「ただいまー……ってベルくん!」
部屋に入った瞬間、そこには何かがいた。
「………あぁ、おかえりなさい、神さま」
その何かは自分もよく知る彼であったが、その姿はあまりにも痛々しく、吹けば粉になって崩れ落ちそうなほどに弱弱しく消えかけていた。
「べ、ベル君?……」
「ぼくは……かっこつけたつもり…なくて……でも、どうせ僕は童貞で ……生まれ来てすみません」
「いや…何があったか知らないけどさ、別に童貞なんて君ぐらいの年なら……て、こらぁ!!冗談でもシーツでわっかを作るんじゃなーーい!!」
結局、このネガティブ状態は夜が明けるまで続いた。ベル・クラネル、14年の人生で二つ目の黒歴史である。
次回に続く
⚪
バベルの広場にて、リリルカ・アーデはいつも通りカモになる冒険者を探していた。
「………。」
普段は愛想よくふるまうのが癖だが、こうして人前で誰かが見るかもしれない状況で、今自分は顔をしかめて不満をあらわにしている。らしくないとはわかっている、だが
……むかつく
昨日は散々だった。稼ぎを損なわなくて済んだのは上々だが、今でもあの平和面が頭から離れない。
……あの冒険者、本当にいったい
冷静になって、あの男がしたこと。自分の体に興味を持ってしでかしたとはさすがに決めつけられない。動機があるなら、それは
「……正義」
……それも馬鹿らしい間抜けもいい所の……。
思うに、あの冒険者は駆け出しで、冒険に夢見て環境に恵まれて、自分と違ってオラリオの闇に触れていない未だ純朴な少年。
「………ッ!」
そして今、自分の視界の先にその冒険者がいた。昨日と変わらず、いかにもな平和面で、騙されても最後まで気づかずにずるずると破滅しそうな。
「………」
……あの時、あの動きは相当のステータスがあるはず。
獲物は決まった。別に先日のお礼参りがしたいわけではない。ただあの男がちょうどいいカモなだけで、装備と収穫もせしめればちょうどいい稼ぎだ。
どうせなら、これを機会に学ぶといい。正義なんてくだらない、誰かを助けるなんて、ただの偽善でしかない、と。
……だから、リリが教えてあげます。これはその授業料です
いつも通り近づく、顔に満面の嘘を浮かべて、今日の糧と向き合うだけだ。
「冒険者さん、冒険者さん……。」
「?」
「こっちですよ。下です、下」
少年がこちらを見る。彼が見ているのは嘘で固めた自分の表、だがすぐに知るだろう。自分が信じた相手がただの犯罪者で、救う価値のない、ただのゴミであることを。
「君は……?」
「………はじめましてお兄さん。突然ですがサポータをお探しではないですか?
今回はここまでです。自分バイクのらないんで設定やら描写は割と勢いです。
マシンキバーのもとになっているシャドウ750の最高時速は確か160Kmぐらいで、本家マシンキバーの設定ですが最高時速500km超えていました。
バイクとはいったい……。