牙持つ兎の英雄譚   作:37級犬築士

12 / 27
本筋から少しそれますがいつものです。それではどうぞ


第十一話 境界

 

 

 サポーター、冒険者を支えるバックパッカーのことだ。ダンジョンにおいて、一度に保有できる積載量が増えればその分長く探索が続けられるうえ、戦闘の効率も上がる。エイナからも言われ、ベルも雇うあてがないものかと考えていたところであったが

 

「?……どうしたんですか、お兄さん」

 

 その相手が、今目の前に、というよりは下から現れた。

 

 

「えっと、君は」

 

 

「おや、混乱しているんですかね、でも話は簡単です。……冒険者様のおこぼれにあずかりたい、貧乏なサポータが売り込みに来ているだけです。お話だけでも聞いてはくれませんか?」

 

「………。」

 

 ベルから見て、クリーム色のくすんだ白のローブ、フードから見せる幼くもかわいらしい顔立ち。少女、いや小人(パルゥム)だということはわかる。けど

 

 

「……君、もしかして昨日の」

 

 恐る恐る尋ねる。もしそうなら気まずいことこの上ない。勝手に振り回されてセクハラまでされて……駄目だ、また死にたくなってきた

 

「……あぁ」

 

「?」

 

 こちらの悲痛そうな顔を見て、少女は不思議そうに首をかしげる。フードに手をかけ、その顔をあらわにする。そこには

 

「!?」

 

「何かの間違いじゃないですか?リリはこの通り獣人です。耳、触ってみます……?」

 

「獣人……?」

 

 言われた通り、試しに触ってみる。生暖かく、良きものらしいその触り心地、間違いなく本物だ。

 

「……」

 

 思ったより気持ちよく、そのまま必要以上にもふもふとしていると

 

「ふぇ、冒険者様ぁ……」

 

「あっ、ごめん…」

 

 見た目の幼さと反して、それは何とも艶っぽい反応に思わずたじろいでしまう。

 

「……いえ、別に構いませんよ。冒険者様が望むなら…その、愛玩として手慰めになるのも……「そ、そんなことしないから!!」……じゃあ、サポーター契約なら構いませんよね」

 

「………うん、わかった。……正直、僕もサポーターは欲しいと思っていたし……。」

 

 ぱぁあっと、少女は無邪気な笑顔を浮かべ、つぶらな瞳でこちらを見つめる。

 

「はい、それではよろしくおねがいします。私の名前はリリルカ・アーデです。冒険者様のお名前も、教えていただけませんか?」

 

 

 

 

「ジギギギギッ」

 

 ダンジョン七階層、不快な泣き声を繰り返すのは昆虫型のモンスターキラーアント。その特徴は見た目の赤黒い装甲の重厚な防御力、そして強靭な顎、そしてなにより

 

 

……ジギギ、ジギギギ

 

 次ぐ次と現れる蟻たち。こいつらはとかく数が多い。故に一体一体にてこずってはすぐに包囲されかねない。

 

 しかも、下手に倒しきれなければ、こいつらはより厄介な事態になるのだが

 

 

「よっと」

 

 今のベルには問題にならない。ステータスが向上し、さらにはヘスティアナイフという業物まである。ここで立ち止まる要素は限りなく薄い。

 

「ジギィイイイイイ!!」

 

 ナイフによる一閃、急所である接合部を切り離し、それでも動こうとする頭部をたやすく兜割にする。

 

 すでに辺りはキラーアントの死骸と魔石のみ、リリが魔石と素材を回収してくれるおかげでベルは戦闘に集中できる。

 

 

……すごい、サポーターがいるだけでこんなに変わるんだ。

 

 

 跳躍、上空にいる巨大な蛾のモンスター、パープルモスに蹴りの一撃で地面に叩き伏せ、着地と同時にナイフを突きさす。

 

「――――ッ!!!!」

 

「次…!」

 

 残存するモンスターをせん滅。ベルの躍進は留まるところを知らず。

 

「!?……ベル様、お強い~!!」

 

 後方の安全な位置で世辞の言葉を飛ばす。振り返り、その言葉に笑顔で返そうとした時、その後方で

 

「ジギィィイ」

 

「!」

 

 後方の壁からキラーアントが生れ落ちようとしていた。上半身を出し、その歯牙の矛先がリリに向かおうとしている。

 

「…ッ!!」

 

 僕はとっさにヘスティアナイフを投擲した。その一撃は頭部深く突き刺さり、更にダメ押しとばかりにベルは助走をつけた飛び蹴りで一気にナイフを押し込む。

 

「ジ、ジギギ……。」

 

 頭部を貫通し突き抜けたナイフはモンスターを完全に息だえさせた。だが

 

「ベル様、助かりました……ですが」

 

「うん、壁にはまったままだね。」

 

「うぅ、これではリリには届きません。ベル様、こちらのナイフでお願いしてもよろしいですか。」

 

「う、うん。わかった」

 

 リリに渡されたナイフでモンスターを解体する。だが、切れ味が悪いのか中々、苦労する。

 

 途中刺さっていたヘスティア・ナイフが抜け落ちるが。この時僕は取り出すのに夢中で特に気を向けたりはしなかった。

 

「よし、取れた。じゃぁ、そろそろ次に「いいえ、ベル様。今日はここまでにしましょう」

 

「?」

 

 

 その後、僕たちはダンジョンを後にした。リリ曰く、モンスターの鱗粉の毒を浴びているからこれ以上は危険だと。長く冒険者を見続けてきたキャリアのあるリリのいうことを飲み込み、帰りはリリの案内によって一切戦闘なく安全に帰還する。

 

 ちなみにその日の分け前だが、どうやら初日だけのお試しということで全額僕の分となった。僕は分けようとしたがリリは頑として聞かず、の割にはすごくどこか嬉しそうで、取り合えず嫌ではないのなら僕も納得することにした。

 

  

 そして今、僕はダンジョンで得た魔石を換金するべくギルドにいる。

 

「へぇ、サポーターを雇ったんだ。相手はどこの」

 

「はい、確かソーマ、ファミリアというところで……」

 

 そう答えると、エイナさんの表情が少し曇る。

 

「……ソーマ・ファミリアかぁ。これまた少し厄介だね」

 

「……何かマズイことでもあるのですか」

 

「いやね、ファミリアのイメージは特にね、ぱっとしない感じだけど、ただ冒険者たちが妙にきな臭い感じがね。なんだかこう、生き急いでるっていう感じで、あまりギルドの職員からは評判が悪いのよ……。」

 

「……そうなんですか。でも、たぶん大丈夫です、リリはすごく丁寧で、僕なんかにとてももったいないくらいで」

 

「へぇ、そうなんだ。まぁ、ベル君がそこまで言うなら今は良いかな。正直、私の方でもサポーターは探してたけど、これがなかなかね……って、ベルくん。そういえば君ナイフは?」

 

「?」

 

 腰に手をやる。腰の鞘には確かにナイフが

 

「何言ってるんですか、ちゃんとここに……」

 

 取り出したナイフは、まさしく鋼の刃を持ったよくあるナイフだった。

 

「………違うね、それ」

 

 

 

 

 

 

 古びた店構え、雑多に商品が並ぶその店に少女は訪れた。今日の収穫を金銭に変えるべく。

 

 自信はあった。あの切れ味、駆け出しが容易にあのモンスター達を葬れる秘訣、その性能はまさに一級品であろう。むき身のナイフを老人の店主に渡し、その鑑定を待つ

 

 

そして、結果は

 

 

「……30バリスじゃな」

 

「………はぁ?」

 

「なんじゃいこれは、どこぞのゴミ箱で拾ったんか?なまくら以下じゃな。」

 

「そ、そんなはずはありません!?何かの間違いです!!」

 

「いやな、そう言いおってものぉ」

 

 店主の男は刃先を指でなぞる。だが

 

「ほれみぃ、押して引いても切れん。要は刀身が死んどるよ。お前さんにしては珍しいのぉ、こんなものを掴まされるとはな」

 

「………!!」

……そんなはずは、第一これは確かに……!!

 

 結局、鑑定はそれ以上にもならず、苦汁を飲んだまま帰路に着く。

 

「……おかしい、なんで…!」

 

 あの鑑定士の目は本物だ。だからあれが吊り上げるための口八丁ではないことは確かだ。

 

 

 なのに

 

 

「……くっ!」

 

 刀身だけじゃだめだ。あの鞘も、せめてあのナイフの銘がわかるものを

 

 もう一度接触する算段を考える。リスクはあるが、あのお人好しなら付け入るスキは

 

「すいません、シル。わざわざ荷物運びをさせてしまって」

 

「いいよこれぐらい、それにしてもどうしてこんな道をわざわざ……」

 

 

 前方から向かってくる二人組、とっさにリリはナイフを袖にしまい、うつむいて顔を見せずに歩みを進める。

 

「待ちなさいそこの小人」

 

「!?」

 

有無を言わさない言葉が背中に浴びせられる。背筋には冷や汗が湧き、同様で思考がうまくまとまらない

 

 

……なぜ、もしかして、ベル・クラネルの……!!

 

「袖にしまったナイフ、それを見せてほしい」

 

「……何のことですか。これはリリが拾ったもので、貴方たちには関係ないはずです」

 

 苦しい言い訳だ。だが、もはやここで逃げられる気はしない。

 

……この女、何かある……!!

 

「神聖文字が刻まれた武器の持ち主など、私には一人しか知らない。」

 

 確信した。この女は、まずい

 

「!!」

 

エルフの女が自分に迫る。果物を投げ、手元のナイフを狙おうとする

 

 

「…くっ!」

 

 咄嗟に躱し、袖口からはナイフ…ではなく、一握りの小さな球体が転がる。

 

 

「!?…シル、眼を」

 

「え、リュー何を……」

 

 その瞬間、ほの暗い裏路地が強烈な光に包まれる。

 

 

「閃光玉……」

 

 

 咄嗟に目を庇ったが、それでも強烈な光で視界が眩む

 

「……!」

 

……まだ、遠くに入っていないはず。

 

「りゅ、リュー…今の、何よぉ」

 

「シル、突いてきてください。追跡します」

 

「え?ちょ…ちょっと、待ってぇ……!!」

 

 

 

 

 

 

 裏路地を抜ける、今もまだ追いかけているだろうと、背後に見えずとも油断はできない。恐る恐る曲がり角を抜けると、突如

 

「うあっ!」

 

「ベ、ベル様!?」

 

 そこには、今日自分が盗んだナイフの持ち主、本人がそこにはいた。

 

「!」

 

 咄嗟にナイフを隠した方の手を後ろにやる、平常を装い、すぐに立ち去らなくては

 

 

「あ、あのリリはこれで……」

 

「ま、待って……!!」

 

「!…あ、あの、申し訳ないのですが、リリは急がないと……」

 

「――――ッ!!!」

 

「!?」

 

 背後の奥、自分が今通ってきた裏路地の方から声が聞こえる。

 

……まずい、このままじゃ

 

「え、えっとリリ……ちょっと聞きたいことが「今はそれどころじゃないです!……えっと、リリは……そう、追われているんです!!」

 

「……追われて?」

 

「……」

 

…まずい、さすがに嘘がすぎる。気にせずリリはベルから離れようとする。だが

 

…ガシッ!

 

「!?」

 

「追われてる……そうなんだね!」

 

「……ええ、そうですから…だから離し」

 

「―――ッッ!!!」

 

「!?」

 

 一瞬、何をしたのか理解できなかった。ベルが懐から何かを放り出し、何を血迷ったのか笛のようなものを吹き出すと、目の前に巨大な鉄の何かが舞い降りたのだ。

 

「……ッ!?」

 

ベルはそれに跨り、リリに手を指し伸ばす。それは真剣なまなざしで、何の迷いもなく、リリに対し

 

「…乗って!!」

 

「……えっ?」

 

「いいから早く!!」

 

「……」

 

 言われるまま、リリはベルの真似をしてその後ろに跨る。すると、座ったそれはまるで爆発のような雄たけびを上げる。とっさのことに驚き、ベルの胴体に腕を回し力強く掴まる。

 

「…飛ばすから、舌噛まないでね……!!」

 

……ドルルルルルルルッ!!

 

 エンジンの怒号と共に、ベルとリリを乗せたバイクはあまりの速さに前輪を高く上げ、血に着いたと思いきや尋常ではない速さで道を駆け抜ける。人目を避け、路地を抜けて屋根を超え、バイクはオラリオの外へと向かう。

 

……ナイフも大事だけど 今は…!!

 

「な、な……なんですかこれはあぁあああああ!!!!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はあぁ……!」

 

 気が付けばオラリオの外、街道沿いの草むらでリリは腰が抜けたようにちょこんと座っていた。

 

「ごめんね、いきなりバイクに乗せたりして。でも、追いつかれそうだったから」

   

 リリが最初に追いかけられていると言った時、ベルには何者かが猛スピードで駆けつける音が聞こえた。故に、即決。エイナには禁じられていたが、緊急事態ということでバイクを使用した。運よく人気のない道を行き、少なくとも誰かに目撃されることなくオラリオの外に脱出はできた。おそらく

 

……大丈夫だよね、門番の人もたまたまいなかったし、音は……やっぱりまずいかな

 

 次ギルドに行くとき待ち受ける説教に背筋を凍らす。

 

「はぁ、はあぁ………し、死ぬかと思いました……!」

 

 突然の所業にリリは肉体も精神も共に疲れ果てていた。馬すらまともに乗ったことのない人間にとって、しかも揺れとGはその比ではない圧倒的な速さ、いつもの営業スマイルもかたなしである。

 

「ま、まったく……それはいったい何ですか!!なんの拷問器具なんですか!!!」

 

「いや、器具とかじゃないから……これは乗り物で…まぁ便利な魔道具と思っておいて」

 

 そうぼやくベル、突っ込みどころは山ほどあるのだが、その前にその乗り物、バイクとかいうものが突然に姿を消した。

 

 

「!?」

 

「はは、慣れないと驚くよね……これ、……できれば見なかったことにしてくれないかな…?」

 

「……は、はぁ」

 

 言葉が出ない、目の前のとんちきな光景に思考が追い付かない。目の前の少年はただ駆け出しで、ちょっといい武器を持っている程度なのに

 

 

……この人、いったい何者……?

 

 もしや、自分が手を出したのはかなりやばい相手なのではと、オラリオの外に連れてきたのも何かあるのではと

 

 そんな不安で頭を抱えていると、ベルは自分を指さし

 

「!……ねぇ、リリ。……もしかして、それ」

 

「!?」

 

 視線の先、自分の袖から落ちたナイフが袖から見えていた。

 

…まずい!

 

「こ、これはその……「もしかして、拾っててくれたの!?」………へっ?」

 

 ベルはリリからナイフを手に取り、まるで幼子の様に涙を浮かべて喜びにむせている。ナイフを抱え、大事そうに見つめるその先、ベルが手に取った瞬間刀身に光が灯る。

 

「!?」

 

 だが、それ以上にベルが取り出した鞘の銘、そこにはしっかりと

 

「…へ、ヘファイストス……!!」

 

「え、ああ、そうなんだ。ていっても、僕が買ったわけじゃないんだけどね。神様が僕の為に……」

 

 説明が続く。ますますわからない、この男はいったい

 

 第一級の武器を持って、駆け出しの癖に第七層まで進出するステータス、そして

 

「………」

 

 正体不明の魔道具、こんなに普通ではない彼を駆け出しと呼ぶにはあまりにも釣り合わない。

 

「あっ……それはそうと、リリ」

 

「!?……な、なんですか」

 

……まずい、追及される!!

 

「もしかして……ナイフだけど、入れ違いになっていたのかな……?」

 

「……へっ、入れ違い……?」

 

「うん、あの時ナイフ借りたでしょ。……その時に……」

 

「………えっ……ええ、そうです!!!…あ、あのあとすぐ気づいたのですが……その」

 

 思わず乗っかって言い訳を重ねる。だが、ベルはあくまでリリが故意にすり替えたとは思っていない。

 

「……なにも、疑わないのですか……」

 

「えっ……なにを?」

 

「……いえ、やっぱりいいです。」

 

「うん……えっと、そう言えば結局リリは誰に追われてたの」

 

「……」

 

「……リリ?」

 

「……すみません、リリにも話したくないことがあります。」

 

……調子が狂う、だけど、やることは変わらない。

 

 その場を立つ。時刻はもう遅く、夕闇の空と吹きすさぶ風が身に染みる。

 

「……ベル様、そろそろお暇をいただきたく思います。」

 

「え…あ、うん。……また、明日も……で、いいのかな?」

 

「ええ、またダンジョンで、今日と同じ時刻に広場で会いましょう。」

 

 夕闇が光を落とす。日没の先、眩しく伸びる陽光の果て、その眩しさが痛いほどに自分の体を照らしてくる。

 

「………」

 

 もし、叶うのなら、自分はその先に行きたい。だが、自分がいる場所はその逆、果てまで続く何者も照らすことのない紫雲の空、眩しい光に焦がれるも、きっと自分はそこには行けない、そこにいてはならない宿命にある。

 

「………。」

 

 後ろを見る、騙されたことも気づかず、ただ純粋に生き続けたであろう眩しい存在。

 

 

 住む場所が違う、隣にいてもその距離は果てしない。手を伸ばせば届くが、決してその手は自分の手を掴まない。同情して、言葉をかけて、そして離れていく。

 

「……ベル様」

 

「……?」

 

「……いえ、なにも……明日もよろしくお願いしますね。」

 

 なら、自分は手を伸ばすことはしない。自分のため、徹底して他者を利用する、そのために……後ろからバレないように爪を立てるだけだ。

 

 

 

 

 

 

―翌日

 

「いやぁ、今日はほんとに稼いだねぇ。ホームに帰って報告するのが楽しみだよ……!」

 

「……そうですね。ベル様は本当に神様思いですね」

 

「うん、僕にとっては恩人みたいなものだし、それに」

 

 左腕の手甲、その中に収めたヘスティアナイフを取り出す。

 

「このナイフだって、神様が僕の為に用意してくれたし、本当…返せきれない恩があるから。」

 

「………」

 

「リリ……?」

 

「あの、ベル様の…」

 

「?」

 

 言葉が出かかる。けど、その先は

 

「………ッ」

 

「……リリ、大丈夫……?」

 

「……いえ、何でもないです。では、そろそろリリはここで」

 

 ベルと別れを告げ、別の道を行く。裏路地を抜け、誰もいなくなったところで一人

 

「………ッ」

 

 フードを開ける。そこには獣人の耳が無く、もとの小人の状態に戻る。

 

「……。」

 

……調子が狂う。

 

 冒険者の癖に、自分をただの女の子扱いして、馬鹿みたいに正直で純粋で、なのにただただまっすぐとした強さがある。

 

……一回ぐらい、騙されてるかと疑わないものなんですか。

 

 ベルは平気で魔石の管理を任せる。今日の収入二万五千バリスでさえも、リリが不当な分け前を貰う前提で打ち明けた金額である。なのに、その結果をあっさり受け、その上で半額を気軽に渡したりもした。

 

……本当に変な人。

 

「……変な人、なのに」

  

 なのに、こうしてそんな彼といる時間が、少し嬉しくもあるのだ。

  

 ナイフと魔道具、その二つを盗む算段を立てるつもりが、気が付けば彼を支えようと、駆け出しで危なっかしいあの冒険者に自分は精一杯支えようとしているのだ。

 

「……ッ!」

 

 うかつにも、想像してしまった。自分が彼に、ベル・クラネルに手を引かれ、この暗い底からだ助け出される未来を

 

「……駄目、そんなこと、絶対ない」

 

 本当に調子が狂う。彼といると今までの世界が全て覆される気がする。

 

 けど、それはただの錯覚だ。この世のどこにも居場所はない、助けを求めて駆けつける正義なんてのは創作の世界でしかない。

 

「……創作、正義」

 

 古い記憶だ。リリがまだ能無しのサポーターですらない。ただの、本当の意味での死人だったころだ。

 

 ソーマ・ファミリアで生まれた自分は生まれた時から孤独だった。神酒に魅了され、そのために朝も夜もダンジョンをかけ続けていた両親のナニか達、言葉を覚えて、一人で歩き回れる頃から、すでに私は物乞いをしていた。

 

   

 そんな中、自分に食べ物を恵むナニかが、いつもとは違う食べ物ではないものを渡された。

    

 まだ文字も読めないにもかかわらず、そのナニかに渡された一冊の本、文字は読めないが、その本の絵に描かれた人物、あれは確か……

 

「……もう、思い出せません」

 

 確か、文字が読める誰かに頼み、その本の内容をリリは知った。その一度だけだが、リリは何度もその本を繰り返し読み続けた。感動した、憧れた、こうなりたいと希望を持つこともできた。

 

 

 

…なのに

 

 

 いくら記憶をたどろうと、その本の中身は白紙のまま、一向に思い出せないのだ。

 

 

 

 今となっては昔のこと、あの本はどこにあるのか、それすらもおぼつかない。今を必死に生きあがくことに精一杯で、そんな記憶をたどる暇もなかったのだ。

 

 

「……けど、今は」

 

 今になって、ベルと出会ってからあの記憶が目覚める。だが、肝心なその中身は思い出せないままに

 

 

「ああ……本当に調子が狂う。リリは、このままではまた勘違いをしてしまいます。」

 

 だから、もうこんな思いは終わりにしよう。目的を忘れてはいけない。真実を見誤ってはいけない。

 

…あと、少し。ナイフと魔道具を金に換えれば、それで目標に達せるはず。

 

 だから、この関係もあと少し……そう、あとほんの少し……。

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 




続きは鋭意製作中です。

明日から本業である学生生活が再開しますので、当面の執筆は少し自粛、もう何もしないで一日中小説書き続けたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。