牙持つ兎の英雄譚   作:37級犬築士

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最近知り合いに褒められてからこちらの作品の意欲が戻ってきました。さらなる評価と感想の為に、はやくライダー出さないと

この作品、仮面ライダーのクロスなのにまだ敵役しか出てないとか、もうウケますわな

原作改変ポイントです、見せ場ですね。それではどうぞ




第十四話 彼岸の灯

「ぐっ……!」

 

 鈍い音、小さな体が宙に浮き、地面をのたうち転がる。

 

「おらぁ!!…調子に乗りやがって、このクソパルゥムがッ!!?」

 

 ダンジョンの中、薄汚い笑いと微憎い怒号が響く。少女はただ許しを請い、跪いたまま、命だけはとすがる。

 

「さあ、アーデ。てめえの隠し持ってる金はどこだ?」

 

「……はい」

 

 首にかけた鍵を差し出す。

 

 自由になるために積み上げたものが、今ここであっけなく奪われる。

 

 

…これでいい、命がつながれば、またチャンスが

 

 

 絶望には慣れている。まだ、いくらでもやり返しは効く。

 

 もう一度繰り返せばいいのだ。今度はうまく、こんな奴らに悟られないように。

 

 

「!……おいおい、おめえこいつは」

 

「…ッ」

 

 タイツに隠しいれたナイフが抜き取られる。

 

「…それは!」

 

「おっ、こりゃあ、この銘、ヘファイストス製の武器じゃねえか!!」

 

 釣り目の男が嬉々として掲げる。しかし、鞘を抜き、刀身を見るや

 

「…これ、なんだ?切れ味がまったくねえ、ガキのおもちゃかよ」

 

「!」

 

 興味をなくした男はナイフを放り捨てる。内心、どうしてかナイフがとられなかったことに安堵する。

 

 だが

 

「おいおい、旦那、そうは言いますがね、この彫り込んだ銘は紛れもなく本物ですぜ。調度品か鑑賞用か、ヘファイストスの名があるならそこそこの駄賃にはなるでしょうな」

 

「……」

 

「じゃあな、アーデ。こいつももらっておくぜ、冒険者様にたてついた罰だ」

 

「………」

 

……ああ、やっぱりそうだ

 

 

 冒険者なんて全部同じ、薄汚く、力におぼれて自分のことしか考えていない。

 

 だから、期待するのも、頼るのも、信頼するなんてもってのほかだ。私は間違っていない、きっと、このままモンスターに食われながら、自分の生涯を呪うだろう。

 

 この世界に救いはない。弱いリリに生まれてきたことがそもそも間違いなのだと

 

 だったら、もうこの世に未練はない。今までのリリに意味なんてない、新しい生にこそ価値はある。

 

 

 リリは能無しで、サポーターで、ただもうここで消えてしまえば、それもすべて終わる。

 

 

なのに、どうして私は

 

 

「……して、……さい」

 

「おっ?」

 

 獣人の男の足に手を伸ばす。裾を掴み頭を垂れたままリリは繰り返す。

 

「その剣を、返してください」

 

「……ぷっ」

 

 しかし、無情にも

 

どがっ……!

 

「――……ッ!?」

 

「おいおい、笑わせてくれるじゃねえか、アーデ」

 

 容赦なく、縋り付くリリを蹴り飛ばす。顔を蹴られ、鼻先からは血が流れる。

 

「なんだ、今更善人気取りってか、おめえ他人のことをとやかく言えるのか、ええ」

 

「り、リリは……それだけは、ベル様の、大切な」

 

「ああ、そのベル様を罠にはめて、大切だって知った上でお前は盗んだよな!」

 

「……ッ!!」

 

…違う、リリは

 

 

「俺らに見捨てられたらまた別の冒険者にすがる、やっぱしよぉ、サポーターは能無しだよな、特にアーデ、力も意地も運もねえ、クソ小人のてめえにはな!!」

 

「!!……ち、がう、リリは」

 

 振り絞るように声を出す。けれども、あの男の言葉を否定することができなかった。

 

 

……ああ、やっぱりリリは

 

 

「カヌゥ、もういいよなさっさと戻るぞ、分配は取り決め通りだかんな」

 

「ええ、その件ですがね、もち…」

 

 

「ファイヤボルト!!!」

 

「……なッ!!」

 

「へっ」

 

 赤い稲妻が走る。空気を焼き切り、天井目掛けそれは穿たれた。自分は知っている、その魔法を、後ろから見てきた彼の姿を

 

「おいおい、冗談だとしても笑えねえぞ」

 

「…………ッ!」

 

「……ベル、さま」

 

 息を切らし、見たことのない武器を携え、その少年は現れた。

 

 捨てたはず、突き放して、ひどい目に合わせて、なのに

 

 

「……今、助けるから!!」

 

「……ッ」

 

…どうして、どうしてあなたはそんなこと言うのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、どうするカヌゥ、見られちまったならよぉ」

 

 カトラスを抜く。地上で話しかけた男、やはり嫌な予感が当たってしまった。

 

「!」

 

 ガルルセイバー順手に持ち、正面に突き出すように構える。波打つ狼の尾のような形状の刃、初めて持つその武器は不気味なほどに手になじむ。

 

 

…これ、あのナイフに似てる。持ち主を選んでるみたいに

 

 

「シッ!!」

 

「!?」

 

 思考に陥ったせいで反応に遅れた。

 

 背中から抜いたその剣を斜めに振り下ろす。大振りで隙は多いけど、回避は間に合わない。

左の切り払い、刃が交わる。

 

 

…ガキンッ!!

 

 

「おい、テメエ何のつもりだ!今更分け前でもよこせってか」

 

「そんな目的なわけない、僕はリリを助ける!!」

 

「ちっ、同じ冒険者の癖に、虫唾が走んだよッ!!!」

 

「…ッ」

 

 刃が離れる、男は一歩下がりまた大振りで正面から切り伏せようとする。

 

 今度は違う、動きの挙動を全て見ている。その軌道も、打ち合った時の力も予想できる。

 

「!」

 

 振り下ろされる凶刃、その軌道は真っ直ぐに、僕の正中線を捉えている。

 

 

……でも、これなら

 

 

「!……こいつ」

 

 

……初めて人と戦う、けれど……この男は強くない!

 

 

 力は向こうが上、けれどこっちは相手の攻撃を見切る反応速度と、寸前でかわしきれる回避センスもある。

 

 故に、無力化は

 

「クソが、逃げんなッ!!」

 

 

「!」

 

 

……ここだっ!

 

 

 雑な軌道の唐竹切り、順手から逆手に持ち替えたガルルセイバーで、眼前に迫る刀身を斬る。

 

「……なっ、なに!?」

 

「……ッ」

 

 金属同士がぶつかり合う鈍い音が響く。側面から叩ききられたカトラスの刀身は遠く彼方へ弾け飛んだ。

 

「セァッ!!」

 

攻めてを続ける。力と敏捷で放った一閃は武器を砕くと同時に敵の勢いを殺す。その隙を、僕は見逃さない。

 

 左に振り切った逆手を持ちかえ順手に翻した刃を、返しの右に振る一撃が男の首元へ滑り込む。両刃であるガルルセイバーの牙が敵の首もとに食らいつく。

 

 

「……ッ!?」

 

「…降参してください、少なくとも、僕は貴方よりも強い」

 

 皮膚に触れる刃の冷たさ、釣り目の男は戦意をなくし、手に持つ折れた刀身を下に落とす。

 

「どうします、まだ続けますか?」

 

 見据える先は奥の三人、カヌゥと呼ばれているその男を筆頭にした三人、確か、あの顔は地上でも見た、リリと同じファミリアと言っていたはず

 

 

……同じファミリアなのに、なんで

 

 

「おいおい、お前さん何をムキになってる、たかがサポーター一人、何でそこまでできんだ」

 

「サポータ、だから?」

 

「ああ、そいつは能無しだ。他人にすがって、表面では従順なふりして裏ではコソ泥まがいのことをする、能無し以外の何があるってんだ」

 

「だったら、あなた達は何なんですか!!同じファミリアの仲間なのに、どうして!!?」

 

…同じファミリアなら、家族なら、どうしてこんなにひどいことを

 

 

「ファミリア、仲間?…ああ、なるほどね、こいつは確かにカモだ。アーデ!お前、いい獲物を見つけたじゃねえか」

 

「!!……ベル様、リリは」

 

「お前ももうわかってんだろ!!こいつはてめえを騙して、これを奪った、それでもまだ仲間だって言えるのか、ええッ!!」

 

「!」

 

 男が持ち出すのは紛れもなく、それは僕が神様からもらったヘスティア・ナイフ。その黒い刀身に見間違いはない。つまり

 

「……リリ」

 

 地面に倒れ伏すリリを見る。悲しい目で、涙を晴らし、僕に視線を合わそうとしない。

 

 

……考えたくはなかったけど、やっぱりリリは

 

 

「まあ、そういうことだ、お前さんが何を思おうと、そこのサポーターには「黙れ!!」

 

「あぁ!」

 

「今のあんたたちを見て、僕は確信した。リリがこんなことをしたのは、あなた達に理由が、いや、ソーマ・ファミリアがおかしいからだ!!」

 

 以前に聞いた、エイナさんはソーマファミリアがおかしいと言っていた。僕はその原因は知らないけど、少なくとも、これが間違っているってことだけは酷く理解した。

 

 

 

「お前たちは冒険者じゃない!!仲間を道具扱いして、信頼しない、そんなのは冒険者でも、人ですらない!!ただの醜い化け物だ!!?!?」

 

 

 

「!?」

 

「はっ、言ってくれるじゃねえか」

 

「おい、カヌゥ、これ以上はマズイ、なあ、そいつは置いていくし、取ったもんも返す。だから、見逃せ!…おい、お前らもそれで」

 

「いや、ここまでなめた口きかれたんですぜ、旦那もご立腹でしょうに」

 

「ああ!加勢しねえくせに何言って「加勢ならしますぜ、ついては旦那には」……ッ?」

 

 

 

 

 

 

「ここで一緒にくたばって下せぇ」

 

 

 

「「!!」」

 

 男が放り投げるそれが僕たちにあたる。咄嗟に男から離れ、再び剣を構えなおす。

 

……ジギ

 

「!」

 

 袋から漏れる金切り音、入り口から見せたのは、この階層のモンスター、キラーアントの頭部だった。

 

「て、てめえら、はなっからこれを」

 

「ええ、ことが済み次第、あんたらもまとめて潰す予定でしてね、金のありかはわかったんで……戦うなんざ面倒でさ。まあ、つまり」

 

 

 

「あんたら、全員くたばれや」

 

 

「!!」

 

…この人、本気か

 

 キラーアントは死に際に仲間を呼ぶ。このままではこのあたりは危険になる、けれど

 

「リリ!!」

 

 通路から次々と現れるキラーアントがリリの方へ向かう。

 

 ガルルセイバーを抜き、近づく蟻を薙ぎ払う、けれど

 

「数が……多い」

 

「う、うぁあああぁああああっ!!?!?!?」

 

「!」

 

 遠くで、男の断末魔が鳴り響く。まだ奥から迫ってくるアントたちを前に、僕は最悪の未来を想像をしてしまう。モンスターに囲まれ、生きたままその咢に

 

「……ッ!!」

 

…させない、させるものか、リリは!!

 

「火針……!」

 

「!?……くっ、ぐぁああ!!?」

 

 右腕を焦がす。放たれた炎が皮膚を焼き、手に持ったガルルセイバーが地に落ちる。

 

「…ッ」

 

「へへ、いいのかい、そこで守らねえと」

 

 

……ジギ、ジギギギ

 

「!!」

 

「食われて死ぬか、焼け死ぬか、まあ好きな方を選べや」

 

 男は無常に魔剣をふるう、身を挺し僕は左手に構えるガルルセイバーで炎を払い、ファイヤボルトで相殺させる。

 

 けれど、それでもまだ

 

 

「くっ」

 

……キラーアントがまだ、インターバルが終わった、このタイミングで。生まれてすぐここに!!

 

 

 数が多い、倒れたリリを庇いながら蟻と魔剣両方の攻撃をしのぐ、けれど、確実に、死と言う現実は音を立ててこちらに近づいてくる。

 

 

……このままじゃ、リリは。せめてリリだけでも

 

 

「…ベル、さま」

 

「リリ、絶対助けるから、たすける、からッ!!!」

 

「……」

 

「リリだけでも、僕が……ぐぁあッ!!?!?」

 

「べ、ベル様!!」

 

 魔剣の炎がついに、残された左手にももろにあたってしまう。

 

「!!」

 

 奥で薄ら笑いを浮かべるカヌゥをにらむ。けれど、まるでことが終わったかと言いたいように、男たちはそのまま踵を返し、通路の闇に消えていく。

 

「……ッ!!」

 

 四方を囲まれ、武器はもう使えない。頼みの魔法も打てて数発。考えたくはない、けれど、この状況はもう

 

「……ここまで、なのか」

 

 リリも助けられず、あいつらにも逃げられて、このまま、ここで

 

 

「……駄目だ、僕は死んでも、せめてリリだけは!!」

 

 使う。残された手段はあの力を開放すること。ファンガイアの力を、あの時のように、僕の中のこいつの枷を外す。

 

「……ベル様、もうリリは」

 

「……」

 

 

……駄目だ、ここにはリリがいる。

 

 

 制御できない、あの凶暴性を引き出して、僕ははたしてリリをリリと見れるのだろうか。

 

 

……けれど、もう

 

 

「やるしかない、もう、これしか」

 

「……」

 

「リリ、助けるから、絶対君だけは」

 

「………ごふっ」

 

「えっ」

 

 振り返る、壁を背に、リリの口から赤い液体が漏れる。

 

 光景を飲み込めない。

 

 どうして、リリが

 

 なんで

 

 

 

「リリ!!」

 

 

 

 近づくアントにファイアボルトを放ち、駆け寄ってリリを抱える。その腹部には深々と、いつかに取り違えたあのナイフが突き刺さっている。

 

「…なんで、どうしてっ!!」

 

「………だって、こうしないと、あなた……優しいから」

 

 血は止まらない。どくどくと溢れ、下に血だまりが広がっていく。沸き上がる血の匂い、キラーアント達は補食本能を刺激されてか、打ち鳴らす不快音の声をよりあらくする。

 

「リリを、おとりに……ベル様、にげてください」

 

「嫌だ!リリは仲間だ!!僕はあいつらとは違う、仲間を見捨てたりなんかしないッ!!!」

 

「……ほら、ですから」

 

ぐしゅっ……

 

「!!」

 

 リリは突き刺さるナイフを押し込む。血が溢れ、リリの体はますます冷え切っていく。

 

 

「リリは、ここで消えます……最後に、能無しのリリにも、ベル様のお役に」

 

「リリ、ダメだ、死ぬな!!あきらめないで!!!」

 

「……」

 

 力が抜ける。感覚は消え、ひどく寒気がする。けれど、リリと違ってこの人は本当に温かい。

 

 

……そうだ、あの時も、同じ

 

 

 暖かい何かが、あの人は、リリを包み込んでくれた。リリに世界の広さを、英雄の尊さを教えてくれた。

 

 

…思い出した。あの本、あの仮面の男のこと

 

 

 

 幸せを願う、全ての生きとし生けるものを守るために、英雄は仮面と鎧をまとい、鋼鉄の馬で颯爽と駆けつける。

 

 誰よりも強く、そして気高い心を持っている。

 

 冒険者なら、英雄なら

 

 ベル・クラネル、あなたが目指すのは、きっと

 

 

 

「あなたなら、きっとなれます」

 

「!」

 

 

 眼はすでに見えない。手探りで顔に手を当てて、その感触を知る。涙に晴らして、きっとその顔はぐしょぐしょに壊れているのだろう。

 

 

「……ベルさま、なら、きっと……良い冒険者に、あの本の英雄みたいに」

 

「リリ、何を……」

 

 

 もう顔も見えない。けれど、これだけは、この人になら、せめてこの願いぐらいは

 

 

「………」

 

 

 きっと、この先もこの人同じことを繰り返す。あの時、私を助けたみたいに、なりふり構わず助けるのだ。

 

 

……でも、あなたは知るべきです。この世界には、救われるべき人と、救いようのない人もいる。

 

 

 夕闇の果て。光の届かない世界で、私は十分に良い夢を見れたのだ。

 

 

「……ベル、さま」

 

 

…リリは救われない。でも、他の人は

 

 

 ベル・クラネルの救いを待つ、まだ見ぬ誰かを、あなたは救うのだ。

 

 だから、ここで送り出そう。この最高のお人好しが、また地上に帰れるように

 

 

「……さようなら、ベル」

 

 

…最後の方向、人生の先輩として、彼を送り出す。

 

 

 

 ああ、それなら、こんなリリも

 

 

 

 存外、悪くありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 腕の中でこと切れる。血だまりの中、彼女はなんとも綺麗な顔で眠っていた。

 

「……どうして」

 

「ジギィ、ジギギ」

 

 群がる蟻たち。死臭にたかり、今か今かとその咢を打ち鳴らす。

 

 彼らの目には、きっと自分たちが手負いのえさにしか見えないのだろうか。

 

 

…ああ、うるさい

 

 

「……ねえ、どうして」

 

 どうして、僕たちはこんな目に

 

 リリをひどい目に合わせた奴らが生きて、僕らはここで死ぬ

 

 なぜ、どうして、誰が悪い?

 

 

 

…おまえら、全員くたばれや

 

 

 

 

「………」

 

 

…あいつだ。あいつのせいで、リリは

 

 

「……行かないと」

 

 

 リリを壁に預け、僕は感覚のない手でガルルセイバーを掴む。

 

 モンスターが近づく、咢を開き、肉を貪ろう僕の背後にいるリリに目掛けてとびかかる。

 

 

「!!」

 

「ジッ!?」

 

 飛び掛かる、数匹、宙に浮かぶ硬い甲皮を

 

「……ッ」

 

 全て、一瞬にしてそれらを切り伏せた。感覚のない、ただれた手がいつも以上に動く。

 

「……消えろ」

 

 使い方はわかる。傷ついたこの体を戻すために、この力はこう使うと、体が、魂が知っている。

 

 宙に浮かぶ幾つもの牙、半透明で実態の不確かな牙が無数に表れる。

 

「……ぁ」

 

 飢える。

 

 空腹を感じた僕は、口を開き、歯を食い込ませる。

 

「ジッ、ジガァ!??」

 

「コク………ンク」

 

 

……入ってくる。力が、滋養が、傷ついた体が潤いを得て、失った何かが四肢を満たす。

 

 

「ジ、ジグァア……!」

 

 断末魔が響く。牙を穿たれた蟻はすべて消え去る。魔石すら残さず、文字通り影も形も残さず。

 

 辺りは静かに、モンスターはすべて消え去り、もうこの一帯にはしばらく現れない。

 

 少なくとも、ことが終わるまで、リリの遺体が蹂躙されることは無い。

 

 

「……ごめん、リリ」

 

 リリは言った。英雄になれると、彼岸を前にして、彼女は思いを託した。

 

 けれど、僕はきっと違う。

 

 今からすることは、そんな彼女の理想からは程遠い。

 

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 憎い

 

 奴らが憎い

 

 リリを追い詰めて、この世界から奪ったやつらが憎い!!

 

「お前たちは、冒険者じゃない」

 

 頬の走るステンドグラスの文様、全身に広がり、ベルの感情をどす黒い何かが支配する。

 

 

 

……逃がしてたまるか、お前たちの音はを僕は忘れない!!

 

 

 

「汚い音だ。醜くて、聞くに堪えない雑音だ…!」

 

 

 踏み出す足は大地を穿ち、肉体は別のナニカへと形を変える。

 

 

 

「……ッ」

 

 

……変、身ッ!!

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 全身に走る文様が厚く、体を一回り大きな何かが包み込む。けれど、足取りは軽く、そして力は際限なく溢れてくる。

 

 感覚はより鋭敏に、遠く上を行くやつらの足音、下品た言葉、その心音すらけたたましく鳴り響く。

 

きっと、もう戻れない、でも、これでいい。

 

 僕はきっとどうしようもないほどの怪物で、その本性は英雄に程遠い。

 

 あの時とは違う、明確に、僕は憎しみからこの力を選んだ。

 

 故に、奴らを見つけた時、僕は恐ろしいほど冷静に、振りかざした腕を、握ったガルルセイバーを一切の容赦なく。

 

 

「……はっ?」

 

 

「………一人」

 

 背後から一閃、すれ違いざまに刃をふるい、奴の両腕は持ち主から離れ宙を舞った。

 

 

 

 

「腕、俺の腕……!?ぎぃぃっぁあぁぁああああぁああああ!!!?!?!?」

 

「か、カヌゥ!!」

 

「なんだこいつ!!、新種のモンスター!?」

 

 

「………」

 

 

再度、ガルルセイバーを構える。

 

…あと、二人

 

 

 

 

 




ベルの覚醒、というよりは闇落ちです。

怪人設定なので、こういうのはしたかったんです。

いつになったらキバになるのやら。
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