評価値が上がってやっとバーの色が赤になりました。ちょこちょここの作品も執筆をつづけていきます。
―第五階層、連絡路
「しっかし、いい稼ぎになったなカヌゥ」
「あぁ、俺の筋書き通りだろ。だが、まあしかし」
腰のホルスターから取り出したるは全身漆黒の短刀、その銘にはしかとヘファイストス神の名が彫り込まれている。
「ヘファイストス製の武器、こいつぁ掘り出しもんだぜ。嬉しい誤算だねぇ」
まじまじと、彼らは戦果を見つめほくそ笑む。
全てはこの獣人の思惑通り
「………まったく、お前には感謝してるぜ。アーデ」
「はっ、なに心にもないことぼやいてんだよ。ええ?……数年間、あいつの人生食い物にして、最後はぼろ雑巾みたく投げ捨てたくせによぉ」
取り巻きたちが笑う。醜悪な、欲に汚れた薄汚い、音だ。
「おいおい、人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。」
「あっ?」
「俺は慈悲深いぜ、あいつからもらったもんは無駄にはしねえ。」
あざ笑う。
どこまでも醜い、救いようのない悪が命の音を響かせる。
「あとでよ、またさっきの場所に戻ろうぜ。ガワが無事ならよぉ、丁寧に処理してな、腐らねえ人形にして売り払ってやるよ」
「……おい、まじかよ」
取り巻きが二人がたじろぐ。怪訝そうな顔で、さすがに冗談と考えるが、カヌゥは依然正気のままに狂気の言葉を連ねる。
「あいつのガワは悪くはねえ。物言わねえ肉の今なら買い手がつく。」
…ミニクイ
「おい、いや俺はお前に乗ってるけどよぉ、そんな商売までなんて……まじか?」
「あ?今更だろ、なんせ、俺たちはソーマ・ファミリアだ」
…ミニクイ
「金さえ稼げんならなんでも肯定される。怪物趣味も死体趣味も……俺たちは何をしてもいい、上手くやれるならな」
だから、繰り返す。
彼らはリリルカ・アーデにしたことを、幾度も繰り返す。
弱者を食い物に、誰にも救われない不幸せを生み出す。
「…まぁ、お前がそこまで言うなら」
「おい、マジかよ……やべえ、俺たち狂ってるな」
「今更だろ、ソーマに飲まれてる俺たちが狂ってなきゃなんだ。だろ、カヌゥ」
「……ま、そういうことだ」
……ミニクイ
姿が変わって、要らぬ音だけが耳に届いてしまう。
良すぎる聴覚というのも考え物だ。こんなにも醜悪な音を聞かないといけないとは。
だが、それもすぐ終わる。
「……はっ?」
瞬間、カヌウ達の目のまえに人型のナニかが表れる。
見たことのない、それはモンスターなのか。
当然、ここはダンジョンであり、彼らもなまじレベル2に至っているわけであり、当然その対処は心得ている。
戦闘に備える、腰に挿した剣を抜こうとして、カヌゥはようやく自分の身に起きていることを理解する。
「……おい、カヌゥお前」
「……ッ!?」
あるはずの右腕が無い。だらだらと流れ出る鮮血、脳内に走る痛みの信号がアラートをかき鳴らす。
「う、腕が……俺の腕がぁあぁあああああぁあああああッ!!!!?!?!?!?」
膝をつき、切断面を抑えてうずくまる。急いで取り出したハイポーションを取り巻きが傷にかけ、煙と共に切断面が回復し再生した皮膚で埋まる。
「……てめえ、なにもんだ、よくも俺のおぉおお!!!」
「おい、カヌゥ…こいつやばいんじゃ「うるせえ!!さっさとコロセ!!!」……お、おう」
「……」
各々武器を構える。剣を、ダガーを、片腕になったカヌゥも盗んだ魔剣を構える。
「…ッ」
「!」
その手に剣を握る。モンスターと見たそいつは限りなく人間臭い、その構え、何より手に握る剣には見覚えがある。
青く、狼の意匠を飾るロングダガー、その持ち主は先ほど見たあの
「……てめえ、さっきの」
「……」
白髪の少年、だが、そこのその面影はない。
薄暗いダンジョンで、その男の体はほとんどが黒に染まっている。しかし、その二つの双眼はルベライトに照らされ、自分たちに殺意を放ち決して逃がさない。
「こいつ、まさか……あのガキ」
「バカ野郎、んなわけがあるか!」
「……けどよ。こいつ」
「…レベル2が三人いんだ。さっさと殺すぞ……ラァッ!!」
魔剣をふるう。
弧を描く赤色の斬撃から放たれる数本の火矢
放たれた全てがそのナニかに命中し、爆炎が巻き上がる。
「……ッ!?」
しかし、その黒味を帯びた外皮に一切の傷跡はない。
もう終わりかと、まるでそう言っているかのように、ナニかは歩みを再開する。
刃を逆手に構え、踏みこむスピードはより速く。
「……ひ、ひぃいいぃいいい!!!!?!?」
男の一人が逃げる。武器を捨て、カヌゥともう一人を置いて自分だけは逃げ延びようと
だが、当然それを許されるはずはない。
「…ガルル、ハウリング」
「…なっ」
言葉を発した。まずはそのことに驚きを抱く。聞いた声、確かにその声はリリルカ・アーデを守ろうとしたあの男の声だった。
しかし、そんな考えもすぐに消し飛ぶ。
『―――――――ッ!!!?!?』
「!?」
回廊内に響く獣の咆哮。長く冒険者を続けたカヌゥには、それと同じものを知っている。
…ハウル、ゴライアスと、同じ……いや、それ以上の
まともに食らい、身動きが取れない。跪き、地面に向く視線でそれの足音が近づくのを感じる。
だが、それは二人を素通りし、それよりも後ろ
「……ッ?」
後ろを向くこともままならない。だが、背後で何が起きているかだけは理解できる。
断末魔が聞こえる。
「……うそ、だろ」
それが、後方にいる取り巻きの最後の言葉だった。
後に響くのは声と言うにはあまりにも淀んだ断末魔のみ。まるで、今から自分たちも同じ目に合うと言っているかのように
「……ッ」
ガキンッ!!
「!?」
岩壁に叩きつけられる金属音、けたたましく鳴り響くその音に硬直が緩む。
「構えろ…もう、うごけるはず、だ」
拘束が解ける。しかし、それが解けたからと言ってどうすることもできない。
ありありと知らされた。今目の前にある事実。
自分たちがこの先どうなるか、いや、どんな終わり方をするのか
しかし、生きる執念は未だあがく。恐怖に竦みながら、目の前の現実から逃避するかのように武器を構える。
蹂躙が始まる。
〇
「……嘘、だろ」
今、目の前で仲間が二人死に体になっている。腕はあらぬ方向に曲がり、逃げ出す足は容赦なく踏みつぶされている。
憤っている。それだけが伝わる。
自分のした行為に、こいつは怒りを向けて我を忘れているのだ。
「……なぁ、お前」
「……」
「…アーデの、なんだ?なんで、こんな馬鹿な真似」
「……馬鹿な、マネ」
男を放り捨てる。刃を構え、カヌゥの下に近づく。
「……ああ、意味はない。お前は騙された、ならよぉ、義理立てはいらねえ筈だ」
まだだ、まだ、もう少し
「……」
無言で近づく。
眼前で止まり、男の頭髪を掴み無理やり立たせる。
「ぐっ!……なっ」
…ドガッ!
「…リリは、お前たちとは、違う!!!!」
「!?……ぐはっ!!」
勢いよく、壁にその額を叩きつける。
何度も何度も、硬い岩壁にぐちゃりと骨と肉の砕ける音が響く。
「…リリは、リリはお前たちのせいで!!!……でも、リリは、それでも!!!」
最後には、僕を助けた。
自分を陥れ、最も憎む冒険者である僕を
最後は、願いを託して笑って逝った。
けど、あんなものはまがい物だ
あれが、あんな結末が、正しいエンディングなわけがない
「だから、お前たちはぁああっ!!!」
「げふっ……やめ、頼む…ぐべっ!?」
叩きつける。しかし、さすがに冒険者と言うべきか、岸壁にべっとりとつく血痕とは裏腹に、まだその意識はピンピンとしている。
「……もう、お前たちは」
「!」
壁に押さえつける。左腕で喉元を押さえつけ、宙に浮かしたまま張り付ける。
首をつられているようで、その表情は苦悶に満ちていく。だが、そんなものを見ても気持ちは晴れやしない。
「……もう、終わっていい。」
ガルルセイバーを構える。心臓に一突き、それですべては終わる
「…お前たちは、冒険者じゃない。お前みたいなやつらがいるから……リリは!!」
「……は、はは」
「なにが、おかしい」
「……はっ、笑わせんな……ぐっ!…冒険者、はなっからそんなつもりはねえ……それによ」
残った左腕が腰に備えたもう一つの件を握る。
文字通り奥の手、取り出したるは魔剣の中の至宝
「…てめえこそ、冒険者じゃねえ……ただの、化け物だろうがぁあああ!!!!?!?」
「!?」
…僕が、化け物
「……爆麟ッ!!」
「!」
懐から取り出すは捨て身の一撃、カヌゥが取り出したのは自身の魔剣。ベルから見て、その伊庭に刻まれた銘は見えない。その魔剣の打ち手はクロッゾと彫られている。
血にまみれた容貌で、カヌゥは笑いながらベルに反撃を放つ。攻撃の挙動は丸見え、ほんの少し下がるだけで、その窮鼠の一突きは宙に消える。
けれど、その一歩が何故か踏み出せない。
首元に突き刺した短剣はその名の通り、隆起したいびつな刃がはじけ、辺り一面を爆発の光が包み込む。
「……くっ」
煙で回りが見えない。
一瞬で反対の壁面に叩きつけられ、僕の意識はそこで絶えた。
消えゆく意識の中で、奴の言葉を何度も反芻している。
そう、あの男は僕に言い放った言葉
……化け物、と
〇
煙が晴れる。
目覚めた意識で、僕がまず確認したのは自分の体。
「……」
あれだけの爆発を受けて、この体には傷一つない。
「………」
…ああ、なにも、否定できないじゃないか
その目に映る両の手、まともな生き物とは到底思えない、ステンドグラスの文様が入り混じった黒紫の外皮。
理解する。
自分は今、人の姿をしていない。
では、今の自分は何か、その答えは明確に、僕はその名を知っている。
「……ふぁん、がいあ」
確かめるように、その手で自分の体に触れる。そこに生きた肉体の心地はなく、ただただ硬く、そして力に満ち溢れている。
その力で、僕は、奴らを
「!」
あたりに散らばるのは煤にまみれた死体のみ。結果的に、彼らは自分たちの手で命を絶った。
だが、もしあのまま
僕が、どす黒い感情に身を任せ、彼らの命を奪っていたとしたら。
「……ッ!!」
…違う……チガワナイ……僕は、こんなことを…シタクテヤッタ……違う!!ただ、僕は奴らに……コロシタクテ……ただ、そう、捕まえて地上に…イノチヲ、ムサボルタメ……違うっ「違う!!!そんなつもりは無い!!!!」
…僕はただ、僕は……!!
「ひっ!?…な、なんだあれは」
「!?」
声の方向を見る。
そこには、二人の冒険者がいた。
「……ッ!?」
…見られた、どうする……でも、僕は
「……違う、僕は」
手を伸ばし、彼らに近づく。だが、そんな僕に彼らは
「く、来るな!!」
「!」
一人が放った弓が眼前に迫る。
咄嗟に掴んだそれは握るだけで容易に折れる。
……違う、僕は
否定したい。僕は人間で、化け物じゃない
けど、無情にも、それは叶わない。
「…ひっ!?」
踵を返し、彼らは逃げていく。悲鳴を上げ、味わった脅威を周囲に振りまく。次々に駆け寄る足音、強化された聴覚がその事実を理解させる。
「……僕は、もう」
化け物、それが今の僕
そう、紛れもなく、きっと
今のベル・クラネルはヒューマンではない。
今の僕は……ファンガイアだ。
〇
「はぁ、はぁ……!」
全力で走った。より下の階層へ、なりふり構わず僕は逃げ続けた。
「いたぞ!こっちだ!!」
「!」
次々と集まる冒険者たち。カヌゥの捨て身の反撃の爆発は上層に響き渡り、次々に腕に覚えのある冒険者たちが集まってくる。
誰もが武器を構え、新たに見つけた敵を仕留めようと、我先に駆け寄ってくる
「……あぁ」
入り組んだ地形、岩陰に隠れ息を潜める。
まるで、自分が本当に狙われる対象に
自分たちが、冒険者ではなく、モンスターであるかのように
「……これが、ファンガイア…なのか」
これがどんな力かは知っていた。知っていたつもりだった。けど
僕は、結局わかっていなかったんだ。
制御できない暴力装置、それがこの力の正体、だけど、いつか使いこなせれば、これは僕だけの力になる。
そんな期待を抱いて、夢を見ていた。
けど、夢は覚めた。
この力は、使ってはいけないものだ
「……僕は、もう」
戻れない。踏み外した道は、もう見えない
このまま、ダンジョンにさまよい、いつかモンスターとして葬られる未来、それがまじまじと見えてくる。
…神様、悲しむだろうな。
神さまだけじゃない。エイナさんに、アイズさん。酒場のメイドさん達、お世話になっているミアハ様にナァーザさん、そして
「……リリ」
助けると息まいて、結局こんな結果しか得られていない。
八つ当たりみたく、ただ狂気に身を落としただけ。そんな僕は、きっと死んだ後でも彼女の合う資格はない。
でも、できるなら…あと一度だけ
……リリに、謝りたい
「……ベル様」
「!」
聞こえるはずのない声が耳に届く。
幻聴かと過ごした、けれど、その声の主は何度も自分に問いかける。
…嘘、どうして
いないはずの、けれどその声は、その姿は、決して見間違えるわけがない。
「……リリ、なの?」
次回、第二章の最終回です。