牙持つ兎の英雄譚   作:37級犬築士

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ちょっと暗い展開ですが、まあお許しを。


評価値が上がってやっとバーの色が赤になりました。ちょこちょここの作品も執筆をつづけていきます。


第十五話 化け物

―第五階層、連絡路

 

 

「しっかし、いい稼ぎになったなカヌゥ」

 

「あぁ、俺の筋書き通りだろ。だが、まあしかし」

 

 腰のホルスターから取り出したるは全身漆黒の短刀、その銘にはしかとヘファイストス神の名が彫り込まれている。

 

「ヘファイストス製の武器、こいつぁ掘り出しもんだぜ。嬉しい誤算だねぇ」

 

 まじまじと、彼らは戦果を見つめほくそ笑む。

 

 全てはこの獣人の思惑通り

 

 

 

「………まったく、お前には感謝してるぜ。アーデ」

 

「はっ、なに心にもないことぼやいてんだよ。ええ?……数年間、あいつの人生食い物にして、最後はぼろ雑巾みたく投げ捨てたくせによぉ」

 

 取り巻きたちが笑う。醜悪な、欲に汚れた薄汚い、音だ。

 

「おいおい、人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。」

 

「あっ?」

 

「俺は慈悲深いぜ、あいつからもらったもんは無駄にはしねえ。」

 

 あざ笑う。

 

 どこまでも醜い、救いようのない悪が命の音を響かせる。

 

 

「あとでよ、またさっきの場所に戻ろうぜ。ガワが無事ならよぉ、丁寧に処理してな、腐らねえ人形にして売り払ってやるよ」

 

「……おい、まじかよ」

 

 取り巻きが二人がたじろぐ。怪訝そうな顔で、さすがに冗談と考えるが、カヌゥは依然正気のままに狂気の言葉を連ねる。

 

「あいつのガワは悪くはねえ。物言わねえ肉の今なら買い手がつく。」

 

…ミニクイ

 

「おい、いや俺はお前に乗ってるけどよぉ、そんな商売までなんて……まじか?」

 

「あ?今更だろ、なんせ、俺たちはソーマ・ファミリアだ」

 

…ミニクイ

 

「金さえ稼げんならなんでも肯定される。怪物趣味も死体趣味も……俺たちは何をしてもいい、上手くやれるならな」

 

 だから、繰り返す。

 

 彼らはリリルカ・アーデにしたことを、幾度も繰り返す。

 

 弱者を食い物に、誰にも救われない不幸せを生み出す。

 

 

「…まぁ、お前がそこまで言うなら」

 

「おい、マジかよ……やべえ、俺たち狂ってるな」

 

「今更だろ、ソーマに飲まれてる俺たちが狂ってなきゃなんだ。だろ、カヌゥ」

 

「……ま、そういうことだ」

 

 

……ミニクイ

 

 姿が変わって、要らぬ音だけが耳に届いてしまう。

 

 良すぎる聴覚というのも考え物だ。こんなにも醜悪な音を聞かないといけないとは。

 

 だが、それもすぐ終わる。

 

 

「……はっ?」

 

 瞬間、カヌウ達の目のまえに人型のナニかが表れる。

 

 見たことのない、それはモンスターなのか。

 

 当然、ここはダンジョンであり、彼らもなまじレベル2に至っているわけであり、当然その対処は心得ている。

 

 戦闘に備える、腰に挿した剣を抜こうとして、カヌゥはようやく自分の身に起きていることを理解する。

 

「……おい、カヌゥお前」

 

「……ッ!?」

 

 あるはずの右腕が無い。だらだらと流れ出る鮮血、脳内に走る痛みの信号がアラートをかき鳴らす。

 

 

「う、腕が……俺の腕がぁあぁあああああぁあああああッ!!!!?!?!?!?」

 

 

 膝をつき、切断面を抑えてうずくまる。急いで取り出したハイポーションを取り巻きが傷にかけ、煙と共に切断面が回復し再生した皮膚で埋まる。

 

「……てめえ、なにもんだ、よくも俺のおぉおお!!!」

 

「おい、カヌゥ…こいつやばいんじゃ「うるせえ!!さっさとコロセ!!!」……お、おう」

 

 

「……」

 

 各々武器を構える。剣を、ダガーを、片腕になったカヌゥも盗んだ魔剣を構える。

 

「…ッ」

 

「!」

 

 その手に剣を握る。モンスターと見たそいつは限りなく人間臭い、その構え、何より手に握る剣には見覚えがある。

 

青く、狼の意匠を飾るロングダガー、その持ち主は先ほど見たあの

 

「……てめえ、さっきの」

 

「……」

 

 白髪の少年、だが、そこのその面影はない。

 

 薄暗いダンジョンで、その男の体はほとんどが黒に染まっている。しかし、その二つの双眼はルベライトに照らされ、自分たちに殺意を放ち決して逃がさない。

 

「こいつ、まさか……あのガキ」

 

「バカ野郎、んなわけがあるか!」

 

「……けどよ。こいつ」

 

「…レベル2が三人いんだ。さっさと殺すぞ……ラァッ!!」

 

 魔剣をふるう。

 

 弧を描く赤色の斬撃から放たれる数本の火矢

 

 放たれた全てがそのナニかに命中し、爆炎が巻き上がる。

 

「……ッ!?」

 

 しかし、その黒味を帯びた外皮に一切の傷跡はない。

 

 もう終わりかと、まるでそう言っているかのように、ナニかは歩みを再開する。

 

 刃を逆手に構え、踏みこむスピードはより速く。

 

「……ひ、ひぃいいぃいいい!!!!?!?」

 

 男の一人が逃げる。武器を捨て、カヌゥともう一人を置いて自分だけは逃げ延びようと

 

 

 

 だが、当然それを許されるはずはない。

 

 

 

 

「…ガルル、ハウリング」

 

 

 

 

 

「…なっ」

 

 言葉を発した。まずはそのことに驚きを抱く。聞いた声、確かにその声はリリルカ・アーデを守ろうとしたあの男の声だった。

 

しかし、そんな考えもすぐに消し飛ぶ。

 

 

『―――――――ッ!!!?!?』

 

「!?」

 

 回廊内に響く獣の咆哮。長く冒険者を続けたカヌゥには、それと同じものを知っている。

 

…ハウル、ゴライアスと、同じ……いや、それ以上の

 

 まともに食らい、身動きが取れない。跪き、地面に向く視線でそれの足音が近づくのを感じる。

 

だが、それは二人を素通りし、それよりも後ろ

 

 

「……ッ?」

 

 後ろを向くこともままならない。だが、背後で何が起きているかだけは理解できる。

 

 

断末魔が聞こえる。

 

 

「……うそ、だろ」

 

 それが、後方にいる取り巻きの最後の言葉だった。

 

 後に響くのは声と言うにはあまりにも淀んだ断末魔のみ。まるで、今から自分たちも同じ目に合うと言っているかのように

 

「……ッ」

 

ガキンッ!!

 

「!?」

 

 岩壁に叩きつけられる金属音、けたたましく鳴り響くその音に硬直が緩む。

 

「構えろ…もう、うごけるはず、だ」

 

 拘束が解ける。しかし、それが解けたからと言ってどうすることもできない。

 

ありありと知らされた。今目の前にある事実。

 

自分たちがこの先どうなるか、いや、どんな終わり方をするのか

 

 

 しかし、生きる執念は未だあがく。恐怖に竦みながら、目の前の現実から逃避するかのように武器を構える。

 

 

蹂躙が始まる。

 

 

 

 

 

 

「……嘘、だろ」

 

 今、目の前で仲間が二人死に体になっている。腕はあらぬ方向に曲がり、逃げ出す足は容赦なく踏みつぶされている。

 

 憤っている。それだけが伝わる。

 

 自分のした行為に、こいつは怒りを向けて我を忘れているのだ。

 

「……なぁ、お前」

 

「……」

 

「…アーデの、なんだ?なんで、こんな馬鹿な真似」

 

「……馬鹿な、マネ」

 

 男を放り捨てる。刃を構え、カヌゥの下に近づく。

 

「……ああ、意味はない。お前は騙された、ならよぉ、義理立てはいらねえ筈だ」

 

まだだ、まだ、もう少し

 

「……」

 

 無言で近づく。

 

 眼前で止まり、男の頭髪を掴み無理やり立たせる。

 

「ぐっ!……なっ」

 

…ドガッ!

 

「…リリは、お前たちとは、違う!!!!」

 

「!?……ぐはっ!!」

 

 勢いよく、壁にその額を叩きつける。

 

何度も何度も、硬い岩壁にぐちゃりと骨と肉の砕ける音が響く。

 

「…リリは、リリはお前たちのせいで!!!……でも、リリは、それでも!!!」

 

 最後には、僕を助けた。

 

 自分を陥れ、最も憎む冒険者である僕を

 

 最後は、願いを託して笑って逝った。

 

 けど、あんなものはまがい物だ

 

 あれが、あんな結末が、正しいエンディングなわけがない

 

 

「だから、お前たちはぁああっ!!!」

 

「げふっ……やめ、頼む…ぐべっ!?」

 

 叩きつける。しかし、さすがに冒険者と言うべきか、岸壁にべっとりとつく血痕とは裏腹に、まだその意識はピンピンとしている。

 

 

「……もう、お前たちは」

 

「!」

 

 壁に押さえつける。左腕で喉元を押さえつけ、宙に浮かしたまま張り付ける。

 

 首をつられているようで、その表情は苦悶に満ちていく。だが、そんなものを見ても気持ちは晴れやしない。

 

「……もう、終わっていい。」

 

 ガルルセイバーを構える。心臓に一突き、それですべては終わる

 

 

「…お前たちは、冒険者じゃない。お前みたいなやつらがいるから……リリは!!」

 

「……は、はは」

 

「なにが、おかしい」

 

「……はっ、笑わせんな……ぐっ!…冒険者、はなっからそんなつもりはねえ……それによ」

 

 残った左腕が腰に備えたもう一つの件を握る。

 

 文字通り奥の手、取り出したるは魔剣の中の至宝

 

「…てめえこそ、冒険者じゃねえ……ただの、化け物だろうがぁあああ!!!!?!?」

 

「!?」

 

 

…僕が、化け物

 

 

「……爆麟ッ!!」

 

「!」

 

 懐から取り出すは捨て身の一撃、カヌゥが取り出したのは自身の魔剣。ベルから見て、その伊庭に刻まれた銘は見えない。その魔剣の打ち手はクロッゾと彫られている。

 

 血にまみれた容貌で、カヌゥは笑いながらベルに反撃を放つ。攻撃の挙動は丸見え、ほんの少し下がるだけで、その窮鼠の一突きは宙に消える。

 

 けれど、その一歩が何故か踏み出せない。

 

 首元に突き刺した短剣はその名の通り、隆起したいびつな刃がはじけ、辺り一面を爆発の光が包み込む。

 

「……くっ」

 

 煙で回りが見えない。

 

 一瞬で反対の壁面に叩きつけられ、僕の意識はそこで絶えた。

 

 消えゆく意識の中で、奴の言葉を何度も反芻している。

 

 

 そう、あの男は僕に言い放った言葉

 

 

 

 

……化け物、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙が晴れる。

 

 目覚めた意識で、僕がまず確認したのは自分の体。

 

「……」

 

 あれだけの爆発を受けて、この体には傷一つない。

 

「………」

 

…ああ、なにも、否定できないじゃないか

 

 その目に映る両の手、まともな生き物とは到底思えない、ステンドグラスの文様が入り混じった黒紫の外皮。

 

 理解する。

 

 自分は今、人の姿をしていない。

 

では、今の自分は何か、その答えは明確に、僕はその名を知っている。

 

 

「……ふぁん、がいあ」

 

 

 確かめるように、その手で自分の体に触れる。そこに生きた肉体の心地はなく、ただただ硬く、そして力に満ち溢れている。

 

その力で、僕は、奴らを

 

「!」

 

 あたりに散らばるのは煤にまみれた死体のみ。結果的に、彼らは自分たちの手で命を絶った。

 

だが、もしあのまま

 

僕が、どす黒い感情に身を任せ、彼らの命を奪っていたとしたら。

 

「……ッ!!」

 

…違う……チガワナイ……僕は、こんなことを…シタクテヤッタ……違う!!ただ、僕は奴らに……コロシタクテ……ただ、そう、捕まえて地上に…イノチヲ、ムサボルタメ……違うっ「違う!!!そんなつもりは無い!!!!」

 

 

…僕はただ、僕は……!!

 

 

「ひっ!?…な、なんだあれは」

 

「!?」

 

声の方向を見る。

 

そこには、二人の冒険者がいた。

 

「……ッ!?」

 

…見られた、どうする……でも、僕は

 

 

「……違う、僕は」

  

 手を伸ばし、彼らに近づく。だが、そんな僕に彼らは

 

「く、来るな!!」

 

「!」

 

 一人が放った弓が眼前に迫る。

 

 咄嗟に掴んだそれは握るだけで容易に折れる。

 

 

……違う、僕は

 

 否定したい。僕は人間で、化け物じゃない

 

 けど、無情にも、それは叶わない。

 

 

 

「…ひっ!?」

 

 

 踵を返し、彼らは逃げていく。悲鳴を上げ、味わった脅威を周囲に振りまく。次々に駆け寄る足音、強化された聴覚がその事実を理解させる。

 

 

 

 

「……僕は、もう」

 

 化け物、それが今の僕

 

 

 そう、紛れもなく、きっと

 

 

 今のベル・クラネルはヒューマンではない。

 

 

 

 

 

 今の僕は……ファンガイアだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 全力で走った。より下の階層へ、なりふり構わず僕は逃げ続けた。

 

 

「いたぞ!こっちだ!!」

 

「!」

 

 次々と集まる冒険者たち。カヌゥの捨て身の反撃の爆発は上層に響き渡り、次々に腕に覚えのある冒険者たちが集まってくる。

 

誰もが武器を構え、新たに見つけた敵を仕留めようと、我先に駆け寄ってくる

 

「……あぁ」

 

 入り組んだ地形、岩陰に隠れ息を潜める。

 

 まるで、自分が本当に狙われる対象に

 

 自分たちが、冒険者ではなく、モンスターであるかのように

 

「……これが、ファンガイア…なのか」

 

 これがどんな力かは知っていた。知っていたつもりだった。けど

 

 僕は、結局わかっていなかったんだ。

 

 制御できない暴力装置、それがこの力の正体、だけど、いつか使いこなせれば、これは僕だけの力になる。

 

 そんな期待を抱いて、夢を見ていた。

 

 けど、夢は覚めた。

 

 この力は、使ってはいけないものだ

 

 

「……僕は、もう」

 

 戻れない。踏み外した道は、もう見えない

 

 このまま、ダンジョンにさまよい、いつかモンスターとして葬られる未来、それがまじまじと見えてくる。

 

 

…神様、悲しむだろうな。

 

 神さまだけじゃない。エイナさんに、アイズさん。酒場のメイドさん達、お世話になっているミアハ様にナァーザさん、そして

 

 

「……リリ」

 

 助けると息まいて、結局こんな結果しか得られていない。

 

 八つ当たりみたく、ただ狂気に身を落としただけ。そんな僕は、きっと死んだ後でも彼女の合う資格はない。

 

でも、できるなら…あと一度だけ

 

 

……リリに、謝りたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ベル様」

 

 

「!」

 

 聞こえるはずのない声が耳に届く。

 

 幻聴かと過ごした、けれど、その声の主は何度も自分に問いかける。

 

 

 

 

…嘘、どうして

 

 

 いないはずの、けれどその声は、その姿は、決して見間違えるわけがない。

 

 

「……リリ、なの?」

 

 




次回、第二章の最終回です。

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