―ギルド本部
「……じゃあ、ベル君」
「……」
神妙な顔もちで二人の男女が向かい合う。
はたから見れば、それは男女の密会に見えるかもしれない。だが、広げる会話は華やかさとは遠く無縁、生々しい、少年の身に起きた現実の照応だ。
「全部、聞かせてくれるかな」
エイナ・チュールはベル・クラネルの担当アドバイザーであり、そして関係者だ。
秘密を打ち明けた関係、当然、説明の義務はある。
「聞かせてくれるかな、君の身に起きたこと。……もちろん、その腕についている物も含めて」
「……はい」
ベルの口から語る、それは一人の少女を守るために奮闘した、そんな華やかなストーリー、と称するにはあまりにも暗く、当の本人は度し難い現実を背負う結果に終わってしまった。
あの日、暴走のはてに、僕とリリは無事に帰投した。
でも、それは本来なら生じ得ない結果だ。
結局、僕はあいつに
〇
…新種だ!新種のモンスターだ!!
…未発見のモンスターを見なかったか、仲間が襲われたんだ!
…よく探せ!そう遠くには行ってないはずだ!
「…………ッ」
陰に隠れた岩窟の奥、回廊をこだまする同業者の声が無尽に響き渡る。
中には、幾人かその声には聞き覚えのある。数か月、ここでダンジョンに通うことも続けば、多少なりとも顔見知りぐらい増えていく。
でも、僕が彼らを知っていても、きっと彼らは僕を知りえない。
出会った瞬間、彼らは通わす言葉を捨てて、その剣で僕に切りかかることだろう。
異形の肉体、今の僕は紛れもなく、ダンジョンに巣くう人類の敵としてしか映らないことだろう。
「ベル様……」
「……」
心配そうにまなざしを向ける少女、異形の甲殻を纏った尊顔ではこちらの顔を伺えないのか、その反応は少し困っているようだった。
「…うん、大丈夫だよ。でも、リリの方は」
自分の心配よりも、本来一番気をかけるべきは彼女だ。深く刺されたはずの裂傷はその跡すらなく、むしろ肉体の傷と衣類の損傷具合があまりにも対照的だ。
まるで、怪我そのものが無かったかのように
「……リリ」
確かに、僕はリリの温度が消えていくのを手に取って知った。けど、現実は反対だ。その温度は紛れもなく生者のみが抱くものだ。
リリが今ここに居る理由、それも全て、この男の
「…無駄話はそこまでだ。」
「……」
その場にもう一人、暗い影と溶け込んだ色のローブを纏い。その青白く発行する複眼の尊顔だけがはっきりと移る。
まるで亡霊のように、その場にいて生きているかどうかも危うい、そんな不確かな存在感の人物
性別も年齢も不明、確かなことは、僕たちは今彼の手で助けられたこと
「……あなたは、いったいどうして」
「……」
「……あの」
「……」
「………」
…話、聞いてくれない。
あからさまな無視、探られることを嫌ってか、こっちからの意見は全くと言っていいほど通してくれない。
「……あの、少しよろしいでしょうか」
「?」
リリが男に話しかけ。
しかし、聞く耳を持たんとばかりに彼方を向いたまま、また僕と同じように冷たくあしらうのだろうか
「…」
「お礼を、リリの傷を治してくれましたこと、本当にありがとうございます!」
深々と、頭を下げて礼をする。
命を助けてくれた恩を込めて、心からの謝辞をつたえる。
まあ、でも
「……リリ、この人はたぶん」
無視されるんだろうなあと、そう高をくくっていた
なのに
「どうやったかは、リリには到底理解できません。よほど高度なアイテムか、貴方様の力か、
いずれにせよ、この世界にリリが戻ってこれたご恩に、リリはどんなにお礼を尽くせばいいか……だから、その」
仮面越しに、感情の機微が全く読めないその男に、言葉をつづけながらもリリはどこか申し訳なさそうに、気まずそうに
そろそろ助け船を出すべきか、そう思い、腰をあげようとしたその刹那
「……礼の必要はない。」
「!!」
……はっ?
「必要故に施した。ただそれだけだ、お前に気にするいわれはない」
「いえ、そんなことは、いつかこのご恩は必ず!…何か形になるもので、せめてお金だけでも」
「道具は使ってない。俺はただ、使える力をふるっただけだ。貴様を助けたのも俺の意志だ。なれば、謝礼の言葉以外に、俺は受け取る責務を待たない。」
「…そう、ですか」
「……」
…なんだか、すごく流ちょうに語りだしてる。
リリが男の言葉に感謝で振るえている中、僕はどうしてか腑に落ちない心境だった。
…ていうか、なんでこの人僕にだけ当たりが冷たいんだろう。
「…なら、そうします。リリと、リリの大事なベル様をお助けいただき、本当に感謝します。ほら、ベル様も、まだお礼を言ってないはずで…」
「---」
「……ベル様?」
自分の名を繰り返す声、通り過ぎる。
なんだろう、この…袖にされた感覚。
「……あの、えっと、ごめん。…なんというか」
「?」
「……いや、なんでもない。うん、お礼……そうだよね、うん」
目の前のリリは知らないけど、僕はこの男に二度も振り回されている。一方的に、ただ伝えるだけ伝えて、ただ疑問点だけは確実に増やしてく。
この男が一体何者か、自分の特異的な事情に、おおよそ関係してるはずだからこそ、その情報は掴みたい。
…でも、今は
「……ッ」
伝えるべきこと、それは確かに優先するべきだ。
その場で、よろよろとした足取りで立ち上がる。
戦いに投じていた時とは違い、今はどうにも体が重い。この体にまとわりつく異形の外殻、硬く金属がこすれるような、ガラスにひびが入るような音を立てながら、僕はその男へ向きなおし、そして
「……あの、僕は、あなたに「……ヒュンッ!」
「!」
咄嗟に、顔面に向かうそれを僕は手に取った。
重厚な金属間のある腕輪、二つの眼のような宝石がついていて、なにか異形の顔面を省略化したようなデザインで、というか内側のとげとげがすごく殺伐としている。
…痛そう、これいったい?
「!?……じゃなくて、僕はお礼を」
「……着けろ」
「はっ?」
「……それを腕に着けろ。」
「いや、でもこれ、やけにとげとげで、絶対血が出ますよね!!」
「……」
無言で近づいてくる。壁際に追い込まれ、問答無用でその腕輪を
「!?」
「…着けられろ」
「!?」
拒否権はなかった。
〇
「……で、それが」
「…………はい」
袖をまくり、左腕に巻かれたその金属質の腕輪を晒す。
黄色く発行する両目のような宝石、顔の形にも見えなくもないそのデザイン、一見すれば少し変わったアクセサリーに見えなくもない。
ただし、その内側は
「それ、痛くない?…大丈夫なの?」
「…………まあ、はい、慣れたら……そんなに」
嘘だ。何だったら今も痛い
肉に食い込む針の痛み、昨日の今日でそう慣れるはずがなく、鈍い痛みがずきずきと続く感覚で、昨日はろくに寝れなかった。
…それをつけている限り、貴様のライフエナジーは抑制される。怪人化はまず起きることは無い。トリガーを、引かない限りはな
「……ッ」
腕に響く痛みは確かに煩わしい。けれど、それでも今の僕はこれにすがるしかない。
自分の中の化け物に、恐れてしまったから。
「…それ、外したら、ダメなの?」
「はい、それは…………」
思考によぎるのは自分の目に移る惨劇、暴走の果てに、その結果は思い出すことすら憚れる。
「…………」
そっと、腕に巻いたその魔道具に触れる。
「外したら…………ベル君は、どうなるの」
「……また、暴走するかも、しれません」
忌々しく、鈍い感覚を絶やさないその枷は、文字通りに僕を律するための枷なのだ。
外すことはできない。いや、きっと外してはいけない
触れてはいけない力、自分に手には余る脅威、それを自覚してしまった、今となっては
「そう、なら…………仕方ないんだね。うん、大体事情はわかったわ」
「……エイナさん、その、ギルドには」
「当然、なにも言わないわよ。その男の件も、何もわからないし、あと」
おもむろに、取り出したのは数枚の羊皮紙。一面に羅列された文面、そこにはしっかりと、計四人の死亡事件について触れられていた。
「………それ、あいつらの」
「…うん、ソーマファミリアの団員、記録上は事故死になっているわ」
「…事故死?」
「この男達、ダンジョンでの不正行為に触れている疑惑があったから、ギルドは特に調べようとはしていない。だから、その場にあった壊れた魔剣の破片、爆発音の証言もあったから、必要以上に掘り下げることはしなかったの。大方、仲間割れで争って、その際に使用した魔剣の爆発で共倒れ、そう判断を下した。」
「……」
「だから、この事件はもう終わり。ベル君は一線を越えなかったから、だからもう…気にしなくていいから」
「……はい」
一線を越えなかった。
確かに、僕はあの男たちの命を奪ってはいない。許されないことをした、だから、その結末が自滅であることを、僕はどこかで免罪符のように思っているのだろう。
でも、たとえ理由があっても
「……」
「ねえ、ベル君」
「……っ、あ」
不意に、僕の手がエイナさんの手に握られていた。
目の前で、そんなわかりやすい所作すら反応できていない。
「……難しいよね、気にするなだなんて」
「……」
「…でも、君は冒険者だから、ただ可愛いそうだねで終わらせたくない」
「…エイナ、さん」
「ダンジョンはね、決して夢のような場所じゃない。清濁併せ持った、文字通り魔境。…人の生き死には軽くないのに、ここではそれが日常茶飯事にされる。だから、昨日の件も報告には上がる、けどそれまで
」
「……ッ」
人の死は重くない、けれど、それがいくつも連なれば、人はただの現象としてとらえる。
ダンジョンの入り口に掘られた慰霊碑、そこに刻まれた多くの名前に、誰しもが気に留めるわけではない。
所詮は有象無象の命、戦いの最前線だからこそ、命の価値に区別なく、全ては生者の通り過ぎた後に
「…でも、だから、私は冒険者達に、冒険をさせたくない。生きて帰ってきて、何度でも泥臭くあがいて、それでも生き続けることを、私は願うの」
「…生きる、ことを」
「うん、ベル君はきっと、これからも危険な橋を渡ると思う。悲しいけど、それはきっと、私の手じゃ止められない。君の問題は、きっと他の誰よりも深いから」
「……」
「時間はかかるかもしれない、けどね」
握られた手は暖かく、けれどその熱はどこか遠い。
エイナはただベルに優しく接してくれる。それは純粋な、心からの本音だ。その言葉に甘えて、抱えた名病なんてものは全部くずかごに放り込んでしまえばいい。
けれど、どうにもぼくはそうすることはできない。
初めて、人に悪意を抱いたこと
化け物と言われ、それを納得してしまったこと
一線は越えなかった。だから、この話はここまで。冒険者は綺麗事じゃない。自分の身を守るためには、最悪の決断も辞さない覚悟を持つべし、そういう意見もある
「………ッ」
脳裏から、あの男の言葉が離れないのだ。ずっと、認められていたから、問題なんかはなっから無いと、心のどこかで高をくくっていた。甘く見ていた
けれど、現実は依然変わらず。
もはや、僕はこの腕輪の痛みにすがることでしか、まともなヒトとして振舞えない。
…あぁ、本当に、やりづらい
夢を捨てるには未練が大きすぎる。抱えて進むには足かせが肉を締め付ける。
痛みは付きまとうのだ。どうあがいても、僕は僕の中の化け物と対峙しないといけない。
…でも、次は
「……悩んでるね、ベル君」
「………はい」
「でも、ベル君はさ、何もできなかったわけじゃないんだよね。…サポーターのリリルカ・アーデさんだって、君が助けなかったら」
「でも、僕は守れませんでした。……命を繋いだのも、あの仮面の男のお陰です。……僕は、なにも」
「ふぅん、だから、自分は何もできていない、そう言いたいんだ。」
「……それ以外、何があるんですか」
救いきれなかった。結論を言えば、僕がしたのはただの憂さ晴らしだ。
「僕は、何もできなかったんです。……何も、何一つ」
「なら、聞いてみたらどうかな」
「……ッ」
エイナさんが後ろの窓に親指を向けた。
まさかとは思い、僕はその場を立ち窓辺に向かう。
「………ッ!?」
「り、リリ」
窓を開け、視線を下ろすと、地面でうずくまるように身を小さくしているリリがいた。見上げた顔で、僕の顔に驚きを隠せない様子で
「……いつから」
「……その、割と最初からですね、はい」
「えっと、そうなんだ、はは……あぁ、うん……」
どうにも、互いに言葉が続かない。肩や下から見上げてもう片方は上から見下ろし、下手すればこのまま刻々と時間が経ってしまいそうだ。
「さて、私はもう行くから。後はお二人でよろしくどうぞ」
「え、エイナさん!」
「ここ、あんまり人来ないから、気にせず使ってね。じゃあ」
「……ッ!!」
戸が閉まり、エイナさんの足音が遠のく。本当に二人にされてしまった
「……ッ」
「…とりあえず、そちらに入りますね」
「えっ…あ、うん……」
リリの手を引き、部屋の中に引っ張り上げる。
「…あ、すみませ……って、あ!」
「え?」
首に抱き着くように、リリが僕めがけて飛びついてきた。
とっさに受け止めて、僕はリリを抱えたまま床に背中を打つ。
「……ッ」
「あ、すみません……つまずいて、つい」
「……」
「…ベル様?」
勢いよく背中を打ったけど、絨毯が柔らかかったからさほど痛くない。
ちょうど、僕のお腹の上に跨るように、リリは乗っている。
「……お怪我、無いですよね?…頭とか、大丈夫ですか?」
「……ぁ」
ペタペタと、僕の体を触ってくる。ぼくよりも小さい彼女の手。細く小さいリリの手のひらが僕のほほに触れた。
暖かい、紛れもなく、その温度はリリから出づるものだ。
「……ッ」
生きている事実、けど、それは僕じゃなくて
「……ベル様、あの」
「……」
「!」
見上げる景色、リリの姿がぼやけていく。顔の端をつたう生暖かい湿り気、僕は今泣いているのだと気づく。
「あの、どこか痛むのですか?…すぐ、人を……ッ!」
「ち、違う……これは、違うから」
立ち退こうとするリリの手を掴む。
「違う、これは……その、なんというか……なんでかな?」
「いや、何で逆に聞くのですか。もう、痛いわけじゃないのですね」
「……コク」
涙をぬぐいながら、僕はうなづいた。必死に服の袖を濡らし手は上塗りしていると、僕の顔にそっと何か柔らかい感触が当たる。
「…まったく、仕方ないですね」
「ご、ごめん」
リリが取り出したのはハンカチで、優しくリリは僕の顔を拭う。人にされるのが恥ずかしくて、視界が晴れて見えるリリの目線がやけに恥ずかしい。
「…本当に、お世話のしがいのある人ですね、あなたは。」
「……へっ」
「尽くし甲斐のあるお人です。そう言いました」
「……」
…尽くすって、でも
「疑問ですか?…昨日の別れ際、パーティーを解消するとベル様から言われて、本当にリリは納得したとお思いですか?」
「!」
「残念ですが、それは却下です。もう、リリはベル様から離れることは致しません」
「でも、僕はリリに、何も」
「もういいです、それは昨日さんざん聞きました。…だから、もうリリは引きません」
「……り、リリ?」
僕の上にマウントを取って、リリは力強く言葉を告げ続ける。
逃がしてくれない。逃げたい気持ちでいっぱいなのに、リリは僕を逃がさない。
「…期待、できないよ。ぼく、本当に半人前で、きっとリリをこれからも困らせる」
「いいえ、それは重々承知ですから。足りない分は、しっかり、リリが補います。」
引かない。二の腕をがっちりと上から押さえつけられて、物理的にも逃がそうとしない。
「僕、危ないから、ヒューマンじゃない、危険な種族の血があって……だから、危険が」
「ファンガイアですか?…でも、その腕輪があるから大丈夫だって、あの仮面の人もおしゃってましたよ」
「……それは、でも」
「信用できない、であるなら、どうして外さないのですか?」
「……ッ」
リリの右手が僕の腕輪に触れる。服越しに、その重厚な金属管を確かめるように、指でなぞる。
ファンガイア・レジスター、これをつけていれば、もうあの姿になることはない。その言葉には嘘はない。
腕輪をつけているだけで、僕の体は以前に比べて鈍くなった。
ファンガイアの力の影響から、機敏になっていた聴覚や反射といった感覚がまるで感じない。言ってしまえば、この体は弱くなった。致命的とは言えないけど、それでも自分の強さに関わっていた要素だと、あらためて気づかされる。
あれだけ自分を見失って、僕はまだあの力を捨てきれていない。
「…なんで、リリは」
見捨てられて可笑しくない。それだけの羞恥を晒したのだ。なのに
「…理由、お聞きしたいのですか?……そんなの、ベル様に助けられたからです」
「でも、僕は「いいえ、誰が何を言おうと、ベル様はリリをお助けしたんです」
リリは逃がさない。
気が付けば、僕のほほにまた涙が伝う。
けれど、それは僕の涙腺からこぼれたモノじゃない。上から、ぽつりぽつりと降って落ちてきた。
「!」
涙で顔を晴らし、赤くくしゃくしゃになった笑顔で、リリは僕になおも語り掛ける。
「救われました。あの時、ベル様が駆け付けてくれたあの瞬間、間違いなくリリは救われたのですよ。」
言葉は続く。
「……リリは、どうしようもないリリには欠片ほどの価値もない。手を汚して、ずっと暗い道を歩いてきて…本当はきっと、あそこで死ぬ未来がふさわしい、いえ、むしろそれを望んでいたかもしれません。」
「あの一瞬、間違いなくリリは死を受け入れた。苦しみしかないこの生涯を終わせられる。そう、安堵して、でも結局、リリは生きたいと願いました。きっとそれは、ベル様と一緒にいて、明るい世界があることに気づけたから、そこにリリがいてもいいんだと、そんな当たり前の願いに気づけました。リリは目を覚ましたのです。」
「そのきっかけは、ベル様………あなたが手を挿し伸ばしてくれたからですよ。」
「……ッ!?」
救った、僕が、でも……僕は
「理解できないなら、今はそれで構いません。どのみち、リリは勝手にベル様について行きます。」
「……でも、僕は」
「…ちなみに、本気で解約するおつもりなら、締めて100万バリスです。違約金はしっかり頂きますよ。」
「!!?!?」
……い、違約金!何それ聞いてない!!
「いや、それ聞いた覚え「払えないなら契約は続行です。さあ、ベル様のホームにいきますよ。リリも当分お世話になりますので、挨拶に行きましょう」……いや、そんな急に、ちょっと待って置いてかないで!!」
体から飛び退き、落ち着きなく行動を起こすリリに僕は遅れながらもついていく
「ちょっと、もう………急に行くなんて」
走る。リリとの距離が次第に縮まっていく。
手を伸ばせば届く距離、僕は
「…………ッ!?」
…ガバッ!
「ベル様……!」
気がつけば、僕はリリを抱き締めていた。人気の無い廊下で、人目がいつ向けられるかわからない場所で、自分でも驚くほどに大胆な行動をとってしまった。
「…………リリ」
成し得なかったこと、その事実に悔いる気持ちはきっと消えない。けれど、それでも、僕は今の喜びを噛み締めてよいのかもしれない。
助けようとした僕の行為は本物だ。結果は苦いけど、それでもこの過程に価値があったと、リリはその言葉で証明してくれた。
「…………ッ」
過去の憂いは消えない、いつかは乗りこえないといけない壁だ。
見るべきは未来だ。今度こそ、僕は間違ってはいけない。
「リリ、約束する」
力を使うのは怖い。だから、僕には本当の力が必要だ。
そのためなら、僕は喜んでこの枷の痛みに耐えよう。
けして外さない、これは決別の証だ。
「強く、なるから。」
「…………」
化け物、ファンガイアの力はもう要らない。
今度は、今度こそは、僕自信の力で、ことを成し遂げる。
あの日、祖父が語った英雄のように
世界を救った正義のヒーロー、人々を救い、導いた、最善、最高の王。この世すべての幸せを得る願いを守るため、彼の王にして英雄の男の名を、僕は忘れない。
……ああ、そうだ。僕はずっと、願っていた
あの日、村を出てこのオラリオにたどり着いて、神様に誓ったんだ。仮面の英雄のようにと、目指すべき果てを僕は見据えていた。
…………仮面の英雄『キバ』
僕が目指す夢は、そこにある。
Fin
長くなってしまいました。ともかく、これで無事三章に移れます。
ベルの腕輪ですが、アマゾンズから拝借しました。今後も便利な設定を借りたり等、他のライダーネタを頼るかもしれません。