牙持つ兎の英雄譚   作:37級犬築士

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久々の投稿です。これにて、原作二巻を終えます。




第十六話 終幕

―ギルド本部

 

「……じゃあ、ベル君」

 

「……」

 

 神妙な顔もちで二人の男女が向かい合う。

 

 はたから見れば、それは男女の密会に見えるかもしれない。だが、広げる会話は華やかさとは遠く無縁、生々しい、少年の身に起きた現実の照応だ。

 

「全部、聞かせてくれるかな」

 

 エイナ・チュールはベル・クラネルの担当アドバイザーであり、そして関係者だ。

 

 秘密を打ち明けた関係、当然、説明の義務はある。

 

「聞かせてくれるかな、君の身に起きたこと。……もちろん、その腕についている物も含めて」

 

「……はい」

 

 ベルの口から語る、それは一人の少女を守るために奮闘した、そんな華やかなストーリー、と称するにはあまりにも暗く、当の本人は度し難い現実を背負う結果に終わってしまった。

 

 

 あの日、暴走のはてに、僕とリリは無事に帰投した。

 

 でも、それは本来なら生じ得ない結果だ。

 

 結局、僕はあいつに

 

 

 

 

 

 

…新種だ!新種のモンスターだ!!

 

…未発見のモンスターを見なかったか、仲間が襲われたんだ!

 

…よく探せ!そう遠くには行ってないはずだ!

 

 

「…………ッ」

 

 

 陰に隠れた岩窟の奥、回廊をこだまする同業者の声が無尽に響き渡る。

 

 中には、幾人かその声には聞き覚えのある。数か月、ここでダンジョンに通うことも続けば、多少なりとも顔見知りぐらい増えていく。

 

 でも、僕が彼らを知っていても、きっと彼らは僕を知りえない。

 

 出会った瞬間、彼らは通わす言葉を捨てて、その剣で僕に切りかかることだろう。

 

 異形の肉体、今の僕は紛れもなく、ダンジョンに巣くう人類の敵としてしか映らないことだろう。

 

「ベル様……」

 

「……」

 

 心配そうにまなざしを向ける少女、異形の甲殻を纏った尊顔ではこちらの顔を伺えないのか、その反応は少し困っているようだった。 

 

「…うん、大丈夫だよ。でも、リリの方は」

 

 自分の心配よりも、本来一番気をかけるべきは彼女だ。深く刺されたはずの裂傷はその跡すらなく、むしろ肉体の傷と衣類の損傷具合があまりにも対照的だ。

 

まるで、怪我そのものが無かったかのように

 

「……リリ」

 

 確かに、僕はリリの温度が消えていくのを手に取って知った。けど、現実は反対だ。その温度は紛れもなく生者のみが抱くものだ。

 

 リリが今ここに居る理由、それも全て、この男の

 

 

 

 

「…無駄話はそこまでだ。」

 

 

 

 

「……」

 

 その場にもう一人、暗い影と溶け込んだ色のローブを纏い。その青白く発行する複眼の尊顔だけがはっきりと移る。

 

 まるで亡霊のように、その場にいて生きているかどうかも危うい、そんな不確かな存在感の人物

 

 性別も年齢も不明、確かなことは、僕たちは今彼の手で助けられたこと

 

 

「……あなたは、いったいどうして」

 

「……」

 

「……あの」

 

「……」

 

「………」

 

 

…話、聞いてくれない。

 

 

 あからさまな無視、探られることを嫌ってか、こっちからの意見は全くと言っていいほど通してくれない。

 

 

「……あの、少しよろしいでしょうか」

 

「?」

 

 リリが男に話しかけ。

 

 しかし、聞く耳を持たんとばかりに彼方を向いたまま、また僕と同じように冷たくあしらうのだろうか

 

「…」

 

「お礼を、リリの傷を治してくれましたこと、本当にありがとうございます!」

 

 深々と、頭を下げて礼をする。

 

 命を助けてくれた恩を込めて、心からの謝辞をつたえる。

 

 まあ、でも

 

「……リリ、この人はたぶん」

 

 無視されるんだろうなあと、そう高をくくっていた

 

 なのに

 

「どうやったかは、リリには到底理解できません。よほど高度なアイテムか、貴方様の力か、

いずれにせよ、この世界にリリが戻ってこれたご恩に、リリはどんなにお礼を尽くせばいいか……だから、その」

 

 仮面越しに、感情の機微が全く読めないその男に、言葉をつづけながらもリリはどこか申し訳なさそうに、気まずそうに

 

 そろそろ助け船を出すべきか、そう思い、腰をあげようとしたその刹那

 

「……礼の必要はない。」

 

「!!」

 

 

 

……はっ?

 

 

 

「必要故に施した。ただそれだけだ、お前に気にするいわれはない」

 

「いえ、そんなことは、いつかこのご恩は必ず!…何か形になるもので、せめてお金だけでも」

 

「道具は使ってない。俺はただ、使える力をふるっただけだ。貴様を助けたのも俺の意志だ。なれば、謝礼の言葉以外に、俺は受け取る責務を待たない。」

 

「…そう、ですか」

 

「……」

 

 

…なんだか、すごく流ちょうに語りだしてる。

 

 

 リリが男の言葉に感謝で振るえている中、僕はどうしてか腑に落ちない心境だった。

 

 

…ていうか、なんでこの人僕にだけ当たりが冷たいんだろう。

 

 

 

 

「…なら、そうします。リリと、リリの大事なベル様をお助けいただき、本当に感謝します。ほら、ベル様も、まだお礼を言ってないはずで…」

 

「---」

 

「……ベル様?」

 

 自分の名を繰り返す声、通り過ぎる。

 

 なんだろう、この…袖にされた感覚。

 

「……あの、えっと、ごめん。…なんというか」

 

「?」

 

「……いや、なんでもない。うん、お礼……そうだよね、うん」

 

 目の前のリリは知らないけど、僕はこの男に二度も振り回されている。一方的に、ただ伝えるだけ伝えて、ただ疑問点だけは確実に増やしてく。

 

 この男が一体何者か、自分の特異的な事情に、おおよそ関係してるはずだからこそ、その情報は掴みたい。

 

 

…でも、今は

 

 

「……ッ」

 

 伝えるべきこと、それは確かに優先するべきだ。

 

 その場で、よろよろとした足取りで立ち上がる。

 

 戦いに投じていた時とは違い、今はどうにも体が重い。この体にまとわりつく異形の外殻、硬く金属がこすれるような、ガラスにひびが入るような音を立てながら、僕はその男へ向きなおし、そして

 

 

「……あの、僕は、あなたに「……ヒュンッ!」

 

「!」

 

 咄嗟に、顔面に向かうそれを僕は手に取った。

 

 重厚な金属間のある腕輪、二つの眼のような宝石がついていて、なにか異形の顔面を省略化したようなデザインで、というか内側のとげとげがすごく殺伐としている。

 

 

…痛そう、これいったい?

 

 

「!?……じゃなくて、僕はお礼を」

 

「……着けろ」

 

「はっ?」

 

「……それを腕に着けろ。」

 

「いや、でもこれ、やけにとげとげで、絶対血が出ますよね!!」

 

「……」

 

 無言で近づいてくる。壁際に追い込まれ、問答無用でその腕輪を

 

「!?」

 

「…着けられろ」

 

「!?」

 

 拒否権はなかった。

 

 

 

 

 

 

「……で、それが」

 

「…………はい」

 

 袖をまくり、左腕に巻かれたその金属質の腕輪を晒す。

 

 黄色く発行する両目のような宝石、顔の形にも見えなくもないそのデザイン、一見すれば少し変わったアクセサリーに見えなくもない。

 

 ただし、その内側は

 

「それ、痛くない?…大丈夫なの?」

 

「…………まあ、はい、慣れたら……そんなに」

 

 嘘だ。何だったら今も痛い

 

 肉に食い込む針の痛み、昨日の今日でそう慣れるはずがなく、鈍い痛みがずきずきと続く感覚で、昨日はろくに寝れなかった。

 

 

…それをつけている限り、貴様のライフエナジーは抑制される。怪人化はまず起きることは無い。トリガーを、引かない限りはな

 

 

「……ッ」

 

 腕に響く痛みは確かに煩わしい。けれど、それでも今の僕はこれにすがるしかない。

 

 自分の中の化け物に、恐れてしまったから。 

 

 

「…それ、外したら、ダメなの?」

 

「はい、それは…………」

 

 思考によぎるのは自分の目に移る惨劇、暴走の果てに、その結果は思い出すことすら憚れる。

 

「…………」

 

 そっと、腕に巻いたその魔道具に触れる。

 

「外したら…………ベル君は、どうなるの」

 

「……また、暴走するかも、しれません」

 

 忌々しく、鈍い感覚を絶やさないその枷は、文字通りに僕を律するための枷なのだ。

 

 外すことはできない。いや、きっと外してはいけない

 

 触れてはいけない力、自分に手には余る脅威、それを自覚してしまった、今となっては

 

 

「そう、なら…………仕方ないんだね。うん、大体事情はわかったわ」

 

「……エイナさん、その、ギルドには」

 

「当然、なにも言わないわよ。その男の件も、何もわからないし、あと」

 

 おもむろに、取り出したのは数枚の羊皮紙。一面に羅列された文面、そこにはしっかりと、計四人の死亡事件について触れられていた。

 

「………それ、あいつらの」

 

「…うん、ソーマファミリアの団員、記録上は事故死になっているわ」

 

「…事故死?」

 

「この男達、ダンジョンでの不正行為に触れている疑惑があったから、ギルドは特に調べようとはしていない。だから、その場にあった壊れた魔剣の破片、爆発音の証言もあったから、必要以上に掘り下げることはしなかったの。大方、仲間割れで争って、その際に使用した魔剣の爆発で共倒れ、そう判断を下した。」

 

「……」

 

「だから、この事件はもう終わり。ベル君は一線を越えなかったから、だからもう…気にしなくていいから」

 

「……はい」

 

 一線を越えなかった。

 

 確かに、僕はあの男たちの命を奪ってはいない。許されないことをした、だから、その結末が自滅であることを、僕はどこかで免罪符のように思っているのだろう。

 

 でも、たとえ理由があっても

 

「……」

 

「ねえ、ベル君」

 

「……っ、あ」

 

 不意に、僕の手がエイナさんの手に握られていた。

 

 目の前で、そんなわかりやすい所作すら反応できていない。

 

「……難しいよね、気にするなだなんて」

 

「……」

 

「…でも、君は冒険者だから、ただ可愛いそうだねで終わらせたくない」

 

「…エイナ、さん」

 

「ダンジョンはね、決して夢のような場所じゃない。清濁併せ持った、文字通り魔境。…人の生き死には軽くないのに、ここではそれが日常茶飯事にされる。だから、昨日の件も報告には上がる、けどそれまで

 

「……ッ」

 

 人の死は重くない、けれど、それがいくつも連なれば、人はただの現象としてとらえる。

 

 ダンジョンの入り口に掘られた慰霊碑、そこに刻まれた多くの名前に、誰しもが気に留めるわけではない。

 

 所詮は有象無象の命、戦いの最前線だからこそ、命の価値に区別なく、全ては生者の通り過ぎた後に

 

「…でも、だから、私は冒険者達に、冒険をさせたくない。生きて帰ってきて、何度でも泥臭くあがいて、それでも生き続けることを、私は願うの」

 

「…生きる、ことを」

 

「うん、ベル君はきっと、これからも危険な橋を渡ると思う。悲しいけど、それはきっと、私の手じゃ止められない。君の問題は、きっと他の誰よりも深いから」

 

「……」

 

「時間はかかるかもしれない、けどね」

 

 握られた手は暖かく、けれどその熱はどこか遠い。

 

 エイナはただベルに優しく接してくれる。それは純粋な、心からの本音だ。その言葉に甘えて、抱えた名病なんてものは全部くずかごに放り込んでしまえばいい。

 

 けれど、どうにもぼくはそうすることはできない。

 

 初めて、人に悪意を抱いたこと

 

 化け物と言われ、それを納得してしまったこと

 

 一線は越えなかった。だから、この話はここまで。冒険者は綺麗事じゃない。自分の身を守るためには、最悪の決断も辞さない覚悟を持つべし、そういう意見もある

 

 

 

「………ッ」

 

 脳裏から、あの男の言葉が離れないのだ。ずっと、認められていたから、問題なんかはなっから無いと、心のどこかで高をくくっていた。甘く見ていた

 

 けれど、現実は依然変わらず。

 

 もはや、僕はこの腕輪の痛みにすがることでしか、まともなヒトとして振舞えない。

 

 

 

…あぁ、本当に、やりづらい

 

 

 夢を捨てるには未練が大きすぎる。抱えて進むには足かせが肉を締め付ける。

 

 痛みは付きまとうのだ。どうあがいても、僕は僕の中の化け物と対峙しないといけない。

 

 

…でも、次は

 

 

「……悩んでるね、ベル君」

 

「………はい」

 

「でも、ベル君はさ、何もできなかったわけじゃないんだよね。…サポーターのリリルカ・アーデさんだって、君が助けなかったら」

 

「でも、僕は守れませんでした。……命を繋いだのも、あの仮面の男のお陰です。……僕は、なにも」

 

「ふぅん、だから、自分は何もできていない、そう言いたいんだ。」

 

「……それ以外、何があるんですか」

 

 救いきれなかった。結論を言えば、僕がしたのはただの憂さ晴らしだ。

 

「僕は、何もできなかったんです。……何も、何一つ」

 

「なら、聞いてみたらどうかな」

 

「……ッ」

 

 エイナさんが後ろの窓に親指を向けた。

 

 まさかとは思い、僕はその場を立ち窓辺に向かう。

 

 

「………ッ!?」

 

「り、リリ」

 

 窓を開け、視線を下ろすと、地面でうずくまるように身を小さくしているリリがいた。見上げた顔で、僕の顔に驚きを隠せない様子で

 

「……いつから」

 

「……その、割と最初からですね、はい」

 

「えっと、そうなんだ、はは……あぁ、うん……」

 

 どうにも、互いに言葉が続かない。肩や下から見上げてもう片方は上から見下ろし、下手すればこのまま刻々と時間が経ってしまいそうだ。

 

 

「さて、私はもう行くから。後はお二人でよろしくどうぞ」

 

「え、エイナさん!」

 

「ここ、あんまり人来ないから、気にせず使ってね。じゃあ」

 

「……ッ!!」

 

 戸が閉まり、エイナさんの足音が遠のく。本当に二人にされてしまった

 

「……ッ」

 

「…とりあえず、そちらに入りますね」

 

「えっ…あ、うん……」

 

 リリの手を引き、部屋の中に引っ張り上げる。

 

「…あ、すみませ……って、あ!」

 

「え?」

 

 首に抱き着くように、リリが僕めがけて飛びついてきた。

 

 とっさに受け止めて、僕はリリを抱えたまま床に背中を打つ。

 

 

「……ッ」

 

「あ、すみません……つまずいて、つい」

 

「……」

 

「…ベル様?」

 

 勢いよく背中を打ったけど、絨毯が柔らかかったからさほど痛くない。

 

 ちょうど、僕のお腹の上に跨るように、リリは乗っている。

 

「……お怪我、無いですよね?…頭とか、大丈夫ですか?」

 

「……ぁ」

 

 ペタペタと、僕の体を触ってくる。ぼくよりも小さい彼女の手。細く小さいリリの手のひらが僕のほほに触れた。

 

 暖かい、紛れもなく、その温度はリリから出づるものだ。

 

 

「……ッ」

 

 生きている事実、けど、それは僕じゃなくて

 

「……ベル様、あの」

 

「……」

 

「!」

 

 見上げる景色、リリの姿がぼやけていく。顔の端をつたう生暖かい湿り気、僕は今泣いているのだと気づく。

 

「あの、どこか痛むのですか?…すぐ、人を……ッ!」

 

「ち、違う……これは、違うから」

 

 立ち退こうとするリリの手を掴む。

 

「違う、これは……その、なんというか……なんでかな?」

 

「いや、何で逆に聞くのですか。もう、痛いわけじゃないのですね」

 

「……コク」

 

 涙をぬぐいながら、僕はうなづいた。必死に服の袖を濡らし手は上塗りしていると、僕の顔にそっと何か柔らかい感触が当たる。

 

 

「…まったく、仕方ないですね」

 

「ご、ごめん」

 

 リリが取り出したのはハンカチで、優しくリリは僕の顔を拭う。人にされるのが恥ずかしくて、視界が晴れて見えるリリの目線がやけに恥ずかしい。

 

 

「…本当に、お世話のしがいのある人ですね、あなたは。」

 

「……へっ」

 

「尽くし甲斐のあるお人です。そう言いました」

 

「……」

 

 

…尽くすって、でも

 

 

「疑問ですか?…昨日の別れ際、パーティーを解消するとベル様から言われて、本当にリリは納得したとお思いですか?」

 

「!」

 

「残念ですが、それは却下です。もう、リリはベル様から離れることは致しません」

 

「でも、僕はリリに、何も」

 

「もういいです、それは昨日さんざん聞きました。…だから、もうリリは引きません」

 

「……り、リリ?」

 

 僕の上にマウントを取って、リリは力強く言葉を告げ続ける。

 

 逃がしてくれない。逃げたい気持ちでいっぱいなのに、リリは僕を逃がさない。

 

 

 

「…期待、できないよ。ぼく、本当に半人前で、きっとリリをこれからも困らせる」

 

 

「いいえ、それは重々承知ですから。足りない分は、しっかり、リリが補います。」

 

 

 引かない。二の腕をがっちりと上から押さえつけられて、物理的にも逃がそうとしない。

 

 

「僕、危ないから、ヒューマンじゃない、危険な種族の血があって……だから、危険が」

 

 

「ファンガイアですか?…でも、その腕輪があるから大丈夫だって、あの仮面の人もおしゃってましたよ」

 

 

「……それは、でも」

 

 

「信用できない、であるなら、どうして外さないのですか?」

 

 

「……ッ」

 

 

 リリの右手が僕の腕輪に触れる。服越しに、その重厚な金属管を確かめるように、指でなぞる。

 

 ファンガイア・レジスター、これをつけていれば、もうあの姿になることはない。その言葉には嘘はない。

 

 腕輪をつけているだけで、僕の体は以前に比べて鈍くなった。

 

 ファンガイアの力の影響から、機敏になっていた聴覚や反射といった感覚がまるで感じない。言ってしまえば、この体は弱くなった。致命的とは言えないけど、それでも自分の強さに関わっていた要素だと、あらためて気づかされる。

 

 

 あれだけ自分を見失って、僕はまだあの力を捨てきれていない。

 

 

「…なんで、リリは」

 

 見捨てられて可笑しくない。それだけの羞恥を晒したのだ。なのに

 

 

「…理由、お聞きしたいのですか?……そんなの、ベル様に助けられたからです」

 

「でも、僕は「いいえ、誰が何を言おうと、ベル様はリリをお助けしたんです」

 

 

 リリは逃がさない。

 

 気が付けば、僕のほほにまた涙が伝う。

 

 けれど、それは僕の涙腺からこぼれたモノじゃない。上から、ぽつりぽつりと降って落ちてきた。

 

 

「!」

 

 涙で顔を晴らし、赤くくしゃくしゃになった笑顔で、リリは僕になおも語り掛ける。

 

 

 

「救われました。あの時、ベル様が駆け付けてくれたあの瞬間、間違いなくリリは救われたのですよ。」

 

 

 

 

 

 

 言葉は続く。

 

「……リリは、どうしようもないリリには欠片ほどの価値もない。手を汚して、ずっと暗い道を歩いてきて…本当はきっと、あそこで死ぬ未来がふさわしい、いえ、むしろそれを望んでいたかもしれません。」

 

「あの一瞬、間違いなくリリは死を受け入れた。苦しみしかないこの生涯を終わせられる。そう、安堵して、でも結局、リリは生きたいと願いました。きっとそれは、ベル様と一緒にいて、明るい世界があることに気づけたから、そこにリリがいてもいいんだと、そんな当たり前の願いに気づけました。リリは目を覚ましたのです。」

 

 

 

 

 

「そのきっかけは、ベル様………あなたが手を挿し伸ばしてくれたからですよ。」

 

「……ッ!?」

 

 救った、僕が、でも……僕は

 

「理解できないなら、今はそれで構いません。どのみち、リリは勝手にベル様について行きます。」

 

「……でも、僕は」

 

「…ちなみに、本気で解約するおつもりなら、締めて100万バリスです。違約金はしっかり頂きますよ。」

 

「!!?!?」

 

 

……い、違約金!何それ聞いてない!!

 

 

「いや、それ聞いた覚え「払えないなら契約は続行です。さあ、ベル様のホームにいきますよ。リリも当分お世話になりますので、挨拶に行きましょう」……いや、そんな急に、ちょっと待って置いてかないで!!」

 

 体から飛び退き、落ち着きなく行動を起こすリリに僕は遅れながらもついていく

 

「ちょっと、もう………急に行くなんて」

 

 走る。リリとの距離が次第に縮まっていく。 

 

  手を伸ばせば届く距離、僕は

 

「…………ッ!?」

 

…ガバッ!

 

「ベル様……!」

 

 気がつけば、僕はリリを抱き締めていた。人気の無い廊下で、人目がいつ向けられるかわからない場所で、自分でも驚くほどに大胆な行動をとってしまった。

 

「…………リリ」

 

 成し得なかったこと、その事実に悔いる気持ちはきっと消えない。けれど、それでも、僕は今の喜びを噛み締めてよいのかもしれない。

 

 助けようとした僕の行為は本物だ。結果は苦いけど、それでもこの過程に価値があったと、リリはその言葉で証明してくれた。

 

「…………ッ」

 

 過去の憂いは消えない、いつかは乗りこえないといけない壁だ。

 

 見るべきは未来だ。今度こそ、僕は間違ってはいけない。

 

 

「リリ、約束する」  

 

 

 力を使うのは怖い。だから、僕には本当の力が必要だ。

 

 そのためなら、僕は喜んでこの枷の痛みに耐えよう。

 

 けして外さない、これは決別の証だ。

 

「強く、なるから。」

 

「…………」

 

 化け物、ファンガイアの力はもう要らない。

 

 今度は、今度こそは、僕自信の力で、ことを成し遂げる。

 

 あの日、祖父が語った英雄のように

 

 

 世界を救った正義のヒーロー、人々を救い、導いた、最善、最高の王。この世すべての幸せを得る願いを守るため、彼の王にして英雄の男の名を、僕は忘れない。

 

 

 

……ああ、そうだ。僕はずっと、願っていた

 

 

 

 

 あの日、村を出てこのオラリオにたどり着いて、神様に誓ったんだ。仮面の英雄のようにと、目指すべき果てを僕は見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………仮面の英雄『キバ』

 

 

 

 

 僕が目指す夢は、そこにある。

 

 

 

 

Fin

 




長くなってしまいました。ともかく、これで無事三章に移れます。

ベルの腕輪ですが、アマゾンズから拝借しました。今後も便利な設定を借りたり等、他のライダーネタを頼るかもしれません。
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