タイトルの番号のズレを直しました。放置していた期間を考えると中々に恥ずかしい。もっと注意します。
ー某日ー
「あの、これって」
ギルドのロビーで出会い早々に渡されたエメラルド色の手甲。それはダンジョンで失ったはずのもの
「落とし物、届けてくれた人がいるの」
「人、それはどなたで」
「今君の後ろにいるよ」
「?」
振り向く、振り向いてまず見えたのは美しすぎる顔。うん、なんかすごく近いです。
「あ、あいずさッ」
……ガシッ!
「…………あの、これは」
万力のような握力が肩を掴む。いつもながらの無表情ゆえにその意図は不明、というか怖い。怒ってないよね、怒ってないよね!!
「逃げるから、逃がさないように」
それはもしもしなくても以前のことだろうか。
「ベル君聞いたよ、女の子を相手に情けないね。」
「ぬぐッ」
エイナさんから言われるその言葉、いつもお世話になっているからか余計に突き刺さる。
「本当に強い子なら、女の子の前で堂々としてるはずよ。そうかぁ、ベル君は弱いのかぁ」
「ぬがぁあ!?」
言葉の刃が背中を袈裟斬りに。精神的なダメージを食らうベルに対し、周囲の人間は美女二人に挟まれて狼狽する少年の構図に反応を示す。
……嘘だろ、オラリオの名物美人筆頭の二人に責められるとか、どんなご褒美だよ
……おねショタ、これはまごうことなきおねショタ!これは売れる!!
……NTR!NTR!俺の大好きな剣姫とエイナ嬢が見知らぬ少年に夢中、こんなにも屈辱なシーンなのに、どうして股間はかくもバベルのタワーのごとくバキバキに!!これではダンジョンに行けん!!!
ちょっとうるさい、といか特殊よりの人物の声を聞き流しながら、なおもベルは食いつく。
「あの、僕どうすれば」
なんとしてもその言葉は払拭したい。そして、頼みの彼女の回答は
「うーん、やっぱり強くならなきゃね。ダンジョンに潜る以外にもね、誰か経験者に指導してもらったりとか」
「はい! でも、誰に「ヴァレンシュタイン氏、では手はず通りお願いします。」………え、エイナさん何を」
「…………ッ」
視点がひっくり返る。うん、僕今アイズさんに背負われてる。荷物みたいに、はたから見れば人さらいのように
「あの、なんとなく予想できますけど」
「…………ごー」
「あいずさぁあああぁああああああ!!!!!?!?!」
全力疾走、まるてマシンキバーで引きずられるような疾走感、かすかに見えたエイナさんの顔はとても気持ちのいい成し遂げた顔をしていた。
⚪
以上が、今日に至るまでの経緯である。
エイナさん曰く、君はトラブル体質なんだから、もっと強くなって私を安心させてと。ファンガイア騒ぎの収拾で働かされた分の恨み辛みではと思ったが、それを問いただすほどの勇気はあいにく持ち合わせていない。
…………まあ、でも
「次」
「はいッ!」
毎朝、ここで行う訓練は良いものだ。自分を試し、強くあらんが為に流す汗は何をおいても清く尊い。
アイズさんに教えを請える。自分より強者の戦いを、僕は肌身に感じられる、それが何よりも価値ある利益だ。
「………くっ」
石畳の地面に転がる。受け身ともはね除けられたとも言い切れない、しかしこれは後者だ。アザを増やし、擦り傷にまみれても、この攻撃をしのがなければならない。
「立てる、まだ立てるよ」
「わかっています、まだいけます!」
容赦の無い剣鞘での一撃、でも肉体に刻まれる生々しい跡も時間がたてば消えてしまう。ファンガイアの血、忌々しいが認めざるを得ない。
……けど、考えるな!僕の力で、ベル・クラネルの強さを見せるんだ!
ガルルセイバーを順手に、ナイフを左手に逆手持ち、右で攻撃、左で防御、手数と型で攻めを押し通す。
「悪くない、けど」
リーチが伸びた攻撃にもアイズさんは対応する。けどそれは承知のこと、僕の狙いは
「!」
首元を狙う突きをガルルセイバーでいなす。開いた半身、防御に浸かった左のナイフをアッパーカットのごとく振り切る。チェストアーマに傷をつける、その目論見は
「見え見え」
「……くっ」
左の一撃は手のひらで止められる。振り切った状態の硬直、しかしアイズさんはそこから体を捻り、膝蹴りが右の脇腹を強く穿つ。
「悪くない、けど……手数に頼るばかりで、まだ一つ一つの動きが釣り合わない。」
肺から酸素を奪われる。無酸素のスタン状態に更に追い打ちの蹴りが腹を突き刺す。
「長さが違う武器を使うならもっとトリッキーな動きじゃないと、君の動きは素直すぎるから。」
地面から足が離れる。二撃で僕の体は宙を舞い、そして今石畳に勢いよく墜落。少しして、意識が曇りが狩る瞬間、ようやく僕は呼吸を思い出す。
「……ッ、はぁ、ゲフ! ゴフ、あぁッ……はあぁ、くッ」
「……ベル」
「だい、じょうぶです……まだ」
ガルルセイバーを握る、そうだ。こんな程度では駄目だ。もっと、強く
「強く……ならないと」
……ピキキッ、バリッ!
「!」
「……ベル?」
ベルはその場で、武器を放り捨て顔を隠した。頬に走る、ガラス片が刺さるような痛み。
……ズキッ
「……ッ」
そして痛みはもう一つ、左腕の中、金属質のリングが肉に食い込み血がにじむ。中で針から何かが流れこむ感覚、次第に痛みは引き肉体は元の状態に
「大丈夫なの、すぐ医者に「来ないでください!」
息は荒く、我ながら精神が乱れ逆立っている。もう静まったのだから、心を落ち着かせろ。これがある限り、僕はもう
右手で腕輪に触れる。重く、煩わしい感触。針の痛みで常に皮膚が鈍く鈍痛が不快だ。最近はナァーザさんから痛み止め薬を貰い、腕輪の苦しみを感じなくしている。そこまでして、それでも僕はこれにすがるしかない。
「もう、大丈夫ですから。すみません、急に怒って……あはは」
「……そう」
心配そうに視線を下ろす。強がってはいるが、身体と気もへとへとなのは隠せない。
「休もうか、ベル」
「……はい」
⚪
アイズさんの前で、僕はファンガイアのことを明かしきってはいない。以前に打ち明けた血統について、まだ僕の怪物の姿は、見られていない。
けど、アイズさんは察している。僕が特殊なものを背負っていることを。それでも無理に問いたださず、こうして今も一緒の時間を共有してくれるのは、単にこの人がいい人だからだろう。
いい人、いい人なのはわかっている。だけど
「ジー……」
「…………」
見られている。頭は少し高く、感触はやわやわで暖かい。
……なんで、本当になんで
以前に、気絶した僕を介抱して、その時に膝枕をしてから、どうしてかアイズさんは休憩のたびにこれを強制する。
断っても全然聞いてくれないし、アイズさんって結構強情なんだと、何気に知ってしまったり
「ベル」
「ひゃッ……はい」
変な声が出てしまった。これも何度目になるか、もう数えるのは止めた。
「な、なんでしょうか。えっと」
「…………あの、仮面の男のこと、教えてくれないかな」
「!」
次回に続く。
⚪
ーダンジョン、16階層ー
「ーーーーーッ!!」
「もう、悲鳴すらあげられんか」
狭い回廊で、一匹の獣が死を覚悟し、その上でなおも抗い続ける。目の前の絶対的な強者を前に、おのが生存を勝ち取らんがために。
身を刻まれ、骨を砕かれ、それでもと獣は抗い続ける。
「いい、おまえは合格だ。」
強者が喋る。言葉は理解できないが、そこには特別な意味を感じた。
獣は安堵した、かすかに見えた希望の糸が精神に安らぎを与えた。だが
「…………使え」
男が放り投げた。それは魔石のような色合いで、しかしその形は歪ながら精巧な、それこそ人間たちが使う道具を思わせるものであった。
「拾え」
意味はわかる。恐る恐る、その物体を手に取る。すると、それはひとりでに、何をしたわけでもなく形を変え、そして巨大化した。
大鎚、拳をそのまま肥大化させたような固まりがついた、それは人間の使う武器に他ならない。
「ドッガハンマーという、それが貴様の獲物だ。」
「…………ッ」
振り払う大剣、咄嗟に構えたハンマーで防ぐ。腕に走る振動、この身で受け止めようものなら、それは確実に命を絶つ一撃であろう。
「強いな、聞きしに勝るか、さすがキバの眷属というべきか。これなら、俺も調教のしがいがある。」
「ヴルゥ……ゥオ」
おののく、まだこの地獄が続くのかと。獣は足を下げる、下げようとした、なのに
「!」
動かない、肉体が撤退を許さない。このような理不尽を押し付ける、あの強者が憎くて仕方ない。
獲物を持つ腕に力が生まれる。この感情を、ただ炎のように暴れ狂わせろと、体が、記憶が、魂が叫んでいる。
「ヴルォオ!ヴルモォオオオォオオオオオオッ!!!」
「ふっ、それでいい」
強者は、否……猛者はその意思に答える。全ては愛を捧げる女神の意に添うため。しかし、しかし今だけは、この純粋な闘争の空気に唾液を湧かし、噛み締めるように飲み干したいと心に宣言する。
「来い、お前の力を俺に示せ。そして、あの方の為にその全て、骸に至るまで差し上げろ。」
「ーーーッ!!」
闘争は続く。全ては天上に座すかの女神の為に、盤上の駒達は歩みを進める。
今回はここまでで、しばらく投稿空きます。