冒頭、バイクシーンです。無免許作家のライディング描写ですが堂々と、それが一番大事。
風を切る快感は心を開放する。世界は広く、そして個人の広さをもすら拡大する。
バイクに乗り、ハンドルを駆って地面を踏みしめる。広い大草原の中、どこまでも走れるような心地は自然と歓喜の声を上げる。
「ひゃっほおおおッッベル様、もっと飛ばして下さあああいいッッ!!!」
体の前に感じる少し小さな温もり、ハンドルにしがみつくリリもまた、自分と同じように風を感じている。
前に神様やエイナさんを乗せた時と違い、体の小さなリリは座席の前に、僕とハンドルの間にすっぽりと納まるように座っている。
正面から浴びる風の心地に、そしてハンドルのバーから伝う車輪の駆動、マシンキバーと一つになり自分をより大きな存在に変えて世界を知る。
「ベル様もっとです! もっと早くかっ飛ばしてください!」
「了解、じゃあ次はこうだ!」
オラリオの外、このあたりは海風の影響か植物は高くなく、一面が草原の地帯が多い。人目を避け、少し離れた地帯で僕らは大地を疾走する。平坦なようで時折隆起した丘もある、けどあえてその丘を一気に駆け上る。加速が付いたバイクは角度を上げ一気に地を飛び立つ。
「……ッ!?」
驚きで声が出ないのか、けど密着しているからか、その感情には不快感を感じない。顔は見えないけど、きっとリリは目を見開き高揚しているに違いない。
晴天の日差し、一面を見渡せる草原の海。その肌は興奮で逆立ち、今か今かと絶叫をため込んでいる。
……着地、タイヤが滑ると同時にアクセル!
無理な軌道、物理的な衝撃を抑え込むマシンキバーの力。どんな悪所でも、どんな乱暴な乗りこなしでさえも、このマシンは意のままに応えてくれる。魔力を注ぎ、想いを叫ぶ。言葉に介さずともこいつは従ってくれる。
「―――ッ!!」
着地、と同時に草原の湿り気にタイヤが滑る。しかし、それすらも踏まえたうえでハンドルを捻り、アクセルで大地を蹴る。次第に姿勢は戻り、平坦な大地をまっすぐに進行する。
「どう、リリ……着地、上手くいったよ!」
「……」
「リリ?」
返事がない、もしやまた間違いを犯したのか、エイナさんの泣き顔が一瞬脳裏によぎったが
「……いえ、その」
「?」
「……今の、すごくて……感動で、何も言えなくて……やばい、これすごいです!すごいすごい!リリは今飛んだんですよ!!空を、あんなに高く!!!最高ッ、この乗り物は最高です!!!キャッホォオオオオッッ!!!!!」
声を荒げ、足を振り、遅れを取り戻さんとばかりにリリは感動を叫ぶ。うん、それはいいけど暴れると、操作が。
「り、リリ……落ち着いて、リリが落ちたらいけないから」
「!!……そ、そうですね。申し訳ございません……ふふ、でも無理です。こんな楽しい事、リリは知らなかったから、だから……クスッ、あはははッ!」
「……リリ」
目の端に涙を浮かべながら、ただただ喜びの色をその顔に魅せる。元々、顔だちは愛らしく、その肌色も綺麗な色で澄み切っているから
「!」
「……ベル様」
振り向いて見せる笑顔、そんなリリがとても魅力的に感じた。スピードを緩め、バイクを馬程度に走らせる。今はそうしないと事故を起こしかねない。
……けど、良かった。リリがこんなにも笑ってくれるなんて
崩れた顔を直し、今一度正面を向く。今は湿っぽい思いよりも、ただ爽快にこの時間を楽しまなきゃ。
「リリ、どうせなら運転してみない?」
「でも、リリは使い方を」
「アクセルとブレーキは僕が掴んでるから、行きたい方向に押してくれれば僕がサポートするから」
「……そうですか、では……ではもっと早くしてください。リリも風を切りたい、ベル様みたいに!」
「極めて了解、じゃあよろしく!」
「こっちこそです、では行きますよ! そぉおれええええ!!!」
× × ×
「で、派手に乗りこなして。予定した時間よりもエンジョイして……うん、でその結果が」
「……くッ、あぁ」
場所は変わって教会の地下、ベッドの上でリリはうつぶせで突っ伏している。う~と、あ~とかうめき声をあげて、なんとも痛ましそうに。服も着重ねたろーぶは外してインナーだけの格好で、ちょっと扇情的な姿で横になっている。しかし、この姿は何もくつろいでるわけでもない。
いつもならリリは自分の貸家に帰るのだけど、今日だけは自力で帰ることはできない。うん、それはもうね、バイクを降りたリリは、そうあれは家畜小屋で見た生まれたての子牛みたいな、それぐらいおぼつかない歩き方だった。
「僕も同じだよ、あれに乗ると腰にクるんだよね。こう、骨盤からぐらぐら来て、なんかこう生理が長く残るあの嫌な感じみたいな」
下腹部と腰当たり指さしながら神様は言う。わかりやすく説明してるつもりだけど女の人が簡単にそこを指さしてはいけない。想像、しちゃうし。
「あの……その例えどう返したらいいかわからないんで。」
「それもそうだね、ごめんごめん「へ、ヘスティア様ぁ……あの、いつまで」おっとごめんよ。じゃあ、こっちもさっそく」
そう言い、さっきから神様が手にしているのは深緑色の軟膏のような、手袋を付けた手で練り込み人肌にあっためたそれをリリの腰に
「んひっ……なにこれ、ひりひりします!……って、あぁ、ヘスティア様!!」
「ミアハの所から貰ってきたんだ。結構効くけど、染みるよ。」
腰に塗りたくり、そしてそのまま短パンをめくり尻の方にまで手を伸ばして……って、神様!
「べ、ベル様は見ないでください!」
「は、はい!?」
「あはは、まったく初心だねえ。最初の頃の気概はどこに行ったんだい?」
「それとこれとでは状況がアァアア!!」
「ほらほら、ここがええんか?さっさと負けを認めろ!!」
「だから、なんの負け……あっ、イヤ、そこは……くっ、ああん!ダメ、これ以上は……おかしくぅ、んひぃいいいぃい!!!」
「……」
静かに、そっと振り向かないように僕は外へ出た。リリほどではないけど、僕も腰に塗ってもらおうと思ったんだけど、これ以上あの部屋にいると別の場所がおかしくなりそうだ。
教会の方に上がっても、まだ下の方で少し声が響く。うん、やっていることはともあれ、リリも神様も仲良くなってるみたいだし、いいかな、いいのかな?
〇
翌日
「リリ、腰の方はどう?」
「う~、まだ残っているようなないような。まあ一応普通に歩いて走れますし、大丈夫かと」
「そうか、じゃあ今日は手前で、安全に行こうか。」
「ですね。そうしていただけるとありがたいです。」
手前、僕たちの最高到達度は10階層だから、今日は主に8から7のあたりで狩りをすることにした。本当なら10階層を探索しつつ、出来るなら11階層にも手を出したかった。
けど、いくらサポーターがいるからといって、ここはダンジョン。エイナさんからも強く言われている忠告が何度も頭の奥で反芻する。
「……ベル様」
「……」
冒険者は冒険をしてはいけない、その意味はとても理解している。けれど、先を目指すのならそれではダメだ。
少し前、豊穣の女主人で、シルさんに頼まれて雑用をこなしている時、その仲間のリューさんから、僕は冒険者のレベルアップについて聞きかじった。
……偉業の達成、より強い敵との勝利
「強い敵か……ボソ」
「……ベル様?」
そういえば、リリは色んな冒険者と組んでいるとか。その中には高位レベルの人も
「ねえ、リリはさ……その、ランクアップってどうすればいいか知ってる?」
エイナさんに聞いてもまずお叱りを受けそうな疑問、だから安心して話せる。
「そうですね、一番簡単なのは中層に行くこと、ですかね」
「なら…「絶対だめですよ。せめてパーティー同伴でないと、まず死にます。」
「……だよね、うん、そんな気がした」
率直に返された。中層となればモンスター達の脅威はぐんと伸びる。いったいならまだしも複数に囲まれて全滅、そんなリスクが目に見えている。そうリリは説得する。
「ですから、定番どころではインファントドラゴンとか、あのあたりを集団で刈れば、上層の冒険者ならそれが安牌です。……けど」
「けど?」
「リリの勝手な推測ですが、ベル様がレベルアップするには、もっと強い敵じゃないとダメです。ご自分の強さ、その腕輪で抑えたのも踏まえてお考え下さい。」
「!」
とっさに腕輪を庇う、服の中で見えないけど、それでも咄嗟にそう動いてしまう。
「その力、忌まわしいのは理解しています。ですが、ベル様の強さがそれを含めるなら、適当な冒険はただの手抜きですよ。はっきり言って、レベルが上がることは」
「……やめてよ」
「!」
声が出た。低く、少し尖った色を込めた。理屈は飲み込めるが、それ以上はいけない
「ごめん、この話は止めよう。今は、今はいい」
「……そうですか」
少しだけ気まずい空気が流れる。けど、あながちリリの言うことを僕は否定できない。
強くあろうとするほど、この腕輪の痛みは強く主張する。この力をどうするのか、どうせ抗えないに決まってるだとか、その痛みがあざ笑うように僕へ問いかける。
……でも、もう決めたんだ。
使わずに、ファンガイアの力で台無しになる未来を、僕は選ばない。
冒険者として、真っ当に強く在る道を選ぶ。だからこその訓練だ。
……そうだ。決めたんだ。安易に頼らない、僕の力で、今度こそ
「ジギィイイ」
「!」
キラーアント、主に一つ上の双で見る敵が数体、その奥から他の虫型のモンスターも
僕は右手に構えるヘスティアナイフを左に持ち替え、そしてホルスターにしまう青色のオブジェを利き手に掴む。折りたたまれた剣先が形を変え波打つように伸びる。柄も刃も大きく、それは戦うに値する大きさと切れ味を持った獲物へと形を変える。
順手に構えたガルルセイバーとヘスティアナイフ。新しく身に着けた変則二刀流の刃で敵を殲滅する。
「リリ、バックアップをお願い」
「……ええ」
モンスター目掛け一気に突っ込む。勇ましく、磨き上げた技術を振るい成長を魅せる青い果実。その姿をリリは見る。前に真っ直ぐ進み続ける少年の勲を、その尊さには認めるところを持つ。
けれども、この不安は何か、リリの目にはどうしても、支えるべき少年の危うさがひどく痛ましく見えてしまう。
「……駄目ですね、リリも」
はたから見て思う一方で、その責任は自分にもある。少年の危うさに一端は自分が原因で生じたモノでもあるから。
……構いません。だからこそ、リリが
支えると決めた。自分の苦しみを解き放ったように、恩を返すのは自分もだ。
だから、今は苦しんでも前に進めと、リリは背中を押し続ける。年上の女性として、可愛い少年のケツを蹴ってやろうと、そう心で口にした。
今回はここまで、R-18でになった表現力をここぞとばかり使いました。だけど後悔はない。