タイトル通り、新章はベルを仮面ライダーキバに変身させる物語となっています。
第二十四話 ネクストレベル
レコードホルダーの誕生。ろくな活躍も無いぽっとでの、しかも零細ファミリアの、それも構成員一名の長弱小ファミリアから、たった一か月でレベル2の冒険者が現れてしまったのだ。
情報はガセか、それとも真実か。というかヘスティアファミリアなんてあったのか、噂は尾ひれをつけ形を変え、良くも悪くも彼の人物の名をこのオラリオに広げてしまった。
ダンジョンで現れた武器を持つ強化種の騒ぎ、その対処に躍起になるばかりのギルドはろくに箝口令もしけず、また噂の正体こそ彼の人物が打倒した偉業の実態であることも知らず、結果噂は真実に曖昧さも加わり、一層人々の関心を生む特ダネもなってしまった。
とにかく彼の人物、ベル・クラネルは一挙に話題の中心となってしまった。彼の名と顔と、そして人となりを知る者は大いに驚愕し、そして祝辞を述べ盛大に騒ぎはやし立てられるわけだが、しかしそう喜べないのもヘスティアファミリアの課題だ。
ベル・クラネルは偉業を成した。そしてそこには明確な理由もあり、また今後も話題を起こすことも考えられる。
だが、その力の一端、彼の血に眠り、そして今覚醒を果たしたチカラを、そう容易に晒すわけにもいかない。
ことは慎重を期す。これからの冒険にも、とくに中層を目指すにせよ課題は多い。
特に、他派閥でありながら特例的にベルの秘密を共有し、共に歩む仲間となったリリルカ・アーデにとって、恩人である彼の心配は何よりも優先される問題だ。
自身も目立つことをはばかれる立場ではあるが、それ以上に厄介な問題を持つ彼のためにもリリは心血を注いでプランを立てる。特に、ファンガイア形態(本人曰く仮面ライダー)に関しては容易に晒すことはできないわけなのだが
……なのですが、これは
[SEAL BREAK! CHANGE! FANGIRE!]
「変身ッ」
[Rabit! ra,ra,ra rabit!!]
「はぁあッ!!」
ベル・クラネルを中心に大気が震え、そして爆発のごとく光が拡散し衝撃が飛び交う。
体を覆う金色の光は粒子となり、変身した姿が露わになった。全身を纏う赤黒い甲殻とステンドグラス状の模様。
双眼の光が灯る。
ファンガイアとしての己を受け入れ、覚悟をもって克服したその姿。遠い昔の御伽噺の英雄になぞらえ、素顔を隠すその歪な鎧姿を彼はこう名付けた。そして今、堂々と己の真名を叫ぶ。
「仮面ライダー、参上!!」
「……」
とうッ、少年心いっぱいにベルは叫び、跳躍する。宙で一回転、華麗に着地し、再度決めポーズをとる。
「……あぁ、その」
「どう、リリ! 今のどうかな!!」
ぶんぶんと、リリの手を握って振り感想をねだってくる。
仮面越しに、きっと純粋無垢な瞳で問うてきているのだろう。
……ど、どうしましょう、リリにはまったく、というか恥ずかしいとしか
ベルに比べ、ずっとリアリスティックな感性をもつリリにとって、ベルの狙い過ぎたその振る舞いははっきり言って英雄ごっこの延長。シーツのマントに木の棒の聖剣をにぎった幼子と何ら変わらない。目の前にいるのは14の少年だが、その年ならもう立派な青年で、つまるところ
「……えっと、リリにはその……筆舌にしがたいといいますか」
「え、そっかぁ……じゃあまた今度感想聞くから、こんどはもっとかっこいいポーズと台詞を考えて「ストップストップ!!」
無垢が過ぎる、客観的に見て痛いという事実を理解できていない。完全に新しいおもちゃに浮かれている男の子だ。もう一度言う、男ではなく、男の子なのだ
例え洗練されたフォルムをしていようと、爆発や光に衝撃と言ったエフェクトがあろうと、時と場所を選ばなければ、それは痛いごっこ遊びなのだ。決して人前で楽し気にするものではない。それが許されるのは宴会芸はびこる酒の場だけだ。
……いけません、このままではいつかバレる。うっかりバレて、通報されて、詰問されてしかるべき場所に連行……解剖
「駄目、そんなこと絶対……ベル様、いい加減に「おみごと」……して、はぁあ?」
「ベル、今の最高……すごく良かった」
「いやぁ、まあそれほどでも……えへへ」
「よかった、とっても……くーる、だと思う」
「うんうん! アルゴノゥト君かっこいい、それ最高!!仮面ライダー大好き!!」
「…………」
絶賛の意を示す二人の女性。彼のロキファミリアの上級冒険者、大切断ことティオナ・ヒリュテと剣姫ことアイズ・ヴァレンシュタイン。間違いなく本人だ。
彼女たちがこの場にいる理由。それはまず、自分たちを助けた恩人であり、そして秘密を知る警戒すべき人物でもあり、そしてとくにこの二人は
「ねえねえ!サイン、サイン頂戴!!」
「え、サインですか?」
「ベル、いずれ必要になる。正義の味方には、必須」
「……あ、アイズさんが言うなら……ですね。じゃあ、上手くなったら」
「本当!約束だよ!」
「……」
悩ましいことに、彼女たち二人は彼と同じ側の世界(感性)の住人らしい。
「えっと、その……アハハ」
何がアハハ、ですかと、今すぐ説教をしてやりたいと思うが、どうにもその気力が起きない。
……どうにかしないと、ベル様の為に……いえ
「この子の将来の為に、リリがしっかりしなければ」
決意は固く、リリの中でベル・クラネルの教育プランが練りあがっていく。常識とか、色々、とにかくも自分が正しい方向に育てていかなければ。
……安心してください、リリがベル様を立派に、そう立派な大人に育てますッ!!
〇
「ねえ、リリ……なんだか、その」
「ベル様、カトラリーの使い方が違います。あと、女性を前にして挙動不審になるのも良い振る舞いとは言えません」
「……はい」
場所は女主人の酒場、夕食を一緒に誘っただけなのに、まるで教え魔状態のエイナさんみたいに、事細かにリリは僕にマナーや振る舞いを正してくる。
年上と教えられてからも、今までと変わりなく接していいとなったはずなのに、どうしてかあの日以来やたらと厳しい、おっかないのだ
教育ママ、自分には無縁な概念だけど、もしいるならこんな感じかなと思ってみたり
「……おや、クラネルさん。なにやら楽しそうな夕餉ですね」
「リューさん、それは大きな間違いかと」
これがせめていつも通りの食事だったら良かったものの
今までは普通にナイフとフォークで食事をしていたのに、礼節を叩き込むとのことで最近はもっぱら箸食を強いられている。
……まあ、持つには持てるようになったけど、けど
「ベル様、食の進みが遅いですよ」
「だって、これ」
「ええ、トーフですね。極東名物、豆のプディングですね。」
「……ッ」
小鉢に入った真っ白な立方体。恐る恐る橋を突き刺し、小さく切ってつまみ、口に運ぼうとするが。
……ぽろ、ぐしゃッ
「……」
「減点、これじゃあ絹ごしまでたどり着けるかどうか」
「…………」
「ふふ、やっぱり楽しいじゃないですか」
「誤解です」
珍しく、リューさんは微笑む表情を見せてくれる。
「……ベル様」
「はい、女の人をじろじろ見たりしませんッ」
「……母親?」
「みたいなものです、はむ」
満足げに料理を一口、久々の外食が少しだけ重苦しいベルであった。
ちなみに、食事の際には必ずこの極東名物のトーフが出される。これを綺麗に完食しないと他の食事は駄目との決まりだ。
……リリが厳しい、なんで変わったのかな
きっかけはランクアップ以降から。確かにこれまでより僕の取り巻く状況は変わった。僕の秘密を知る人も多くなったし、リリにも言われたけどファンガイア関連の秘匿は特に気を払わないといけなくなる。
ダンジョンでもやたらと変身はできない。秘密は守らなければいけないし、また僕の知らないところで何かが起こるかもしれない。
× × ×
「ひく、ではベルしゃま……まっすぐお家に帰ってくださいね。寄り道はしない、わかったら返事!」
「は、はい……そうするよ、リリ」
「うん、よろしい」
……バタン
「はぁ、疲れた」
リリの住む仮屋の前、お酒が入ってより説教魔となったリリを抱え、こうしてようやくことを終えた。
別れの名残惜しさよりも、今は開放感の方が勝っている。
……いつまで続くのかな、この感じ
リリのことだから、自分を想ってやってくれているのだとは理解する。今のぼくはもう以前の僕ではない
街を歩けば、同業者の数人は視線を向けてくるし、それは良い視線も悪い視線も
街をにぎわす突飛な噂、その真偽はどうなのか、冷やかしで絡まれることもしばしばだ。ならば、誰かに舐められない振る舞いも、少しは他人の目も意識していかなければならないだろう。
……でも、結局絡まれたんだけどね。
思い出す。さっきの店で名前も知らないレベル2の冒険者がぼくに絡んできて、まあ最後は店主のミアさんの一喝で出ていったんだけど。
「……ランクアップ、か」
絡まれた理由、ファンガイアの問題もあるけど現実問題として目下最大の課題はこれ、レベル2なった僕のこれからの冒険に必要なこと。
……仲間、か
「リューさんに言われたけど、でも」
「……」
……ドンっ
「あ、すみま「おい、お前何ぶつかってくれてんだ、ああ?」……ッ!」
人相の悪い、僕の倍ほどの年齢差のある男が二人。ガラの悪い風体だけど、その装備とか、というかその声と顔
「……てめえ、さっきの」
「!」
「おいモルド、あぁリトルルーキかよ。けど、さっきの別嬪姉ちゃんはいねえな」
「あぁ、ついてるぜ……はは」
「……ッ」
間違いない、確かモルドって名乗っていたような。都合の悪いことにここは裏路地、そして一人
「ここであったのもやっぱり縁だな。どうだ、謝って金も返して、そうすりゃ仲間にしてやる。リトルルーキー、先輩の誘いは乗っておくべきだぜ」
「……いえ、だからその話は」
「てめえ、状況わかってんのか」
「……もう、失礼します」
頭を下げ穏便にすましたい、けれど二人は
「おい、待てやッ」
「!」
左腕を掴む。顔を見ると、二人とも少し赤い、酒気を帯びた匂い、どうやらまた飲み明かしてかなり出来上がっているみたいだ。
……どうしよう、無理にでも振り切って、そのあとはマシンキバーで
「おい、なんか言ったら」
「!……駄目だ、そこは」
男が掴むのは左腕、その手は触れている。
腕に巻いたレジスター、その部分を上から強引に掴んでいる。
振りほどこうと、腕を回したその時
……カチ
「!!」
嘲り笑い、男二人は少年を相手に暴挙に出る。
レベル2、はるかにキャリアのある二人から見て、ベルの姿は酷く怯えているように見えた。おののきさがり、顔を伏して、許しを請うようにすら見える。
「……るな」
だがしかし、そんな少年の絶対触れてはいけない秘密を。彼らは軽率に触れて、そしてミスを犯してしまった。
「あぁ、今なんつった……おい!」
掴んだ、その手で、またベルの左腕を、レジスターに触れたその瞬間
「……」
「あぁ、おいどうした……お前、何しやが」
……ぶおんッ!!
「触るな!!」
「な、おおッ!!」
「はっ……しまった」
迫る手をはね除けたつもりが、男の一人を弾き飛ばした。6メートルほど離れた距離まで、男は足の裏が地面を離れ。等直線的に吹き飛んだのだ。
「な、なんだよその顔……手前、俺の手下に何しやがった!!」
「!?」
モルドと名乗った男が剣を抜く。穏便に済ますどころではない、先に火ぶたを切ったのは僕の責任だ
レジスターのトリガーは安全装置、それが外れれば体には嫌でもファンガイアの力が巡ってくる。都合の悪いことに今日は月明かりが眩しく、相手の目に僕の顔に浮かんだ紋様も見られている。
秘密の露見、その危険に繋がるかもしれない
「……ッ」
「容赦しねえぞ、ぶっ殺してやるッ!!」
片手剣の斬撃、酔いでふらつく体でも描く軌道は間違いなく殺意のそれだ。
バックステップ、前髪の先に切れ味を感じる。
「落ち着いてください、僕は何も……さっきのは事故で」
「らぁあああああッッ!!!??!」
「!?」
踏み込みと同時に斬撃、冗談からの振り下ろしが異様に速い。回避しても手足に傷は追ってしまうだろう。経験が積み上げた確かな武の一撃、しのぐにはもう
「――――ッ!!」
……変、身
「その必要はないよ、ベル君」
「!」
……ガギンッッ!!
「なッ……俺の剣が、がはッ」
……バタンッ
「!?」
寸前まで迫った刃、しかし僕の体には一片の傷も与えず。それどころかモルドは気絶し付しているし、それと
……砕けてる。何かに、打ち抜かれてる
二つにへし折れた刃、だがその境目には何か円状の痕跡が。まさか振り下ろされる刃に弓でも放ったのか。
そんなことがあり得るのか、そもそもそんあことをしたのは。
「声は、誰?……そこにいるのは?」
「……おいおい」
影の暗闇からぬっとその姿を現した。
印象は飄々とした人、羽根つきの防止を被った好男子。
「窮地を助けてあげたんだ。君、ヘスティアの所の子だろ……安心してくれ、僕は彼女の友神だ」
「……ッ」
男神、確かにそこはかとなく人ではない雰囲気を感じる。ライフエナジーという、魂の純粋なエネルギーを知ることができる今、僕には人と神の違いは特に顕著だ。
「……何が」
いったい何が目的か。こんな状況で現れて、仮に一部始終を見ているならどうして何も思わない。
少なくとも、今僕の顔は普通の人間のそれではないのだ。であるなら、つまり
「知っているよ、君はファンガイアだ」
「!」
「おっと、少し待ちなよ」
「……ッ!?」
手を捕まれた。
態勢を崩す僕を、そのまま壁際まで、男神様は僕を壁に押し付ける。
……な、なんだろう。この神
神相手に乱暴はできない。咄嗟に力を抜いたけど、もし僕が動揺して手を出すかもしれないとか、そういう危惧は無いのだろうか。
「落ち着きたまえ。俺は敵じゃないし、今宵のことは何も問題は無いよ。ただの酔っぱらいの二人が地べたで朝を迎える、記憶にも残らない、細工はする予定だし……あ、いやそれはこっちの話だった」
「?」
「ま、というわけだから……今宵のことは、まあ教訓にしておくれ。ま、それも覚えてたらだけどね」
「??」
意味深なことのようで、結局適当に言葉を取り繕ってからかっているのか、狙いがわからない。何をしたいのか、というか
……たぶんあれだ、付き合うと損しかない、そういう系統の神様だ
「あの、僕もう……もう、あれ」
~~♪~~♫~♪♪~~
意識が消える。何か、綺麗な調べが聞こえて、妙に聞き覚えのある
……なんだろう、これ、バイオリン?
〇
「ふぅ、これでいんですね。ヘルメス様」
「あぁ、よくやってくれたよアスフィ。って、もう姿を現してもいいんじゃないか」
「……」
「おい、まさか……なあまだ怒っているのか。」
「……はぁ」
[……フィ・ス・ト・オ・フ……]
「……まったく、こんな時間まで呼び出されて。ブラックですよ、訴えますか?」
何もない空間、まるでカーテン布をめくるようにその女性は現れた。手には奇妙な十字の形の物を、そしてその腰には重々しい金属質のバックルの付いたベルトが巻かれている。
「すまない、でも必要なんだ。良い仕事だったよ、ありがとう
アスフィ」
「……別に、でもイクサまで装備させる理由が」
「色々あるんだ。フレイヤはともかく、彼は俺のことを良く思っていない。俺の悪巧みを邪魔するついでに殺されたら叶わないさ」
「なるほど、というかサガの鎧の持ち主と敵対だなんて、荷が重い」
仮面ライダーになんてなるものじゃない、そうアスフィは一人愚痴る。
「……はは、可愛い奴め」
「ちよ、髪の毛さわるなぁ……うぅ」
「ははは……じゃ、さっそくだけど、頼めるか?」
「……」
視線の先、壁を背に項垂れる少年。今しがた、彼女の持つマジックアイテムによって昏睡に落ちている。
「後味、悪いですね……で、どうするんですか。この少年、ヘルメス様の言う仮面ライダーの器、でしたよね」
「あぁ、でもまだ未熟児だ。誕生するにはまだ足りない、誰かが筋書きを描かないと、英雄は誕生しないんだ」
「……」
「アスフィ、君だけには俺の秘密の仕事を任せている。これから、ファミリアの皆にも知らせられないこと、少し後ろ暗いことも俺は手を伸ばす。そのベルトも必要だから託したんだ」
「……ええ、理解はしています。」
「……悪いな、アスフィ。これから先、俺たちは蝙蝠になる。どっちつかずの嫌われ者、だがそうやってこそ作れる盤面も、見据える未来もある。それもこれも全て」
「わかっています。いつも、口癖のように言ってますから。英雄の誕生、ですよね」
あきれるように、一際大きくため息を漏らす。
「……どうした、なんだか疲れてるみたいだな。一瞬しか変身してないから負担は」
「いえ、もう変身はこりごりです。この鎧、すごく狭くて苦しくて」
「……ほほぅ」
「!?……どこ見てるんですか、エッチ!変態!」
……バッコン!!
渾身のフィストが炸裂した。放物線を描き拝みは空を舞う、舞いながら、綺麗な星空を見た。
トリックスターにふさわしいかどうかはともかく、月の無い新月の夜は星が綺麗に輝いていた。
月は、まだ満ちない。その時が来るのは
次の投稿は未定、今は息抜きの執筆なのでまた気長に