紹介を終え、神ヘファイストスはどこか、というかかなり投げやりに僕たちを放ってくれた。
あとに残るはヴェルフ・クロッゾと僕二人。とりあえずするべきは
「……あ」
「どうした?」
「あぁ、その……今、思い出したことが」
クロッゾ、その名に聞き覚えはあった。魔剣がどうのこうのではなく、それよりも前に
〇
「そうか、そうだったのか!」
「……あはは」
「いやあ、なんか恥ずかしいつうか……けどまあ、俺の作品なら、それも当然って言うのか……はっはっは、痛快痛快」
「なんだか、やけに嬉しそうですね」
「まあな、こっちも縄張りとかなんだとか色々あるんだ。噂のリトルルーキーが顧客にいたとなりゃ、そりゃ鼻も伸ばしたくなるってもんだ」
「そ、そうですか……はは」
やけに上機嫌なヴェルフさん。というのも、僕が愛用していた防具の作り手が、何と偶然があったものかこの人であった
距離感の寄せ方、さっきまでの気が引けた様子から急に変わってこの手の平返し、けどまあ打ち解けるきっかけになってくれたのは良かった。
「あぁ、しかしあれだ。初対面で態度悪かったのは簡便な。魔剣がらみで話があるってなると、少しな」
「……それ、クロッゾの魔剣のこと、ですよね」
「ああ、俺は俺の主義で魔剣を売り渡すことはしねえ。魔剣が嫌いなんだが、とまあその話は……長くなるし工房でいいな」
「あ、それなら魔剣を取りに行かないと」
「持ってないのか、貴重品なんだし置きっぱなしは」
「いえ、その……その点は大丈夫です」
「?」
魔剣、件の物は入り口のエントランスで邪魔にならないように端においてある。雨の時の傘みたいに、だから物騒だと言われてしまうのは否定しない。
盗まれてはことだ。でも、盗める者がいるのなら
大鎚、武器の銘はドッガハンマー。やはりというべきか、アレはただの魔剣ではない。見る人、ティオナさんは魔剣と決めつけていたけど、僕にとってはそれが異なるものだとは容易に理解できた。
あのミノタウロスが使っていた、石化の力を有した特殊な武器。ファンガイアの力にのみ反応する武器
「……これか」
「うん、一応魔剣になる、のかな」
「デカいな、よっと……と、おぉ」
ファンガイアの力に反応する武器、それ僕は既に二つ持っている。
乗り物ではあるけど、シルバーバックの戦いでは大いに役立ってくれたマシンキバー。そして、あの男から受け渡されたガルルセイバーだ。
ガルルセイバーもマシンキバーも僕の力に呼応する。エンジンが唸るのもファンガイアから出でる特殊な魔力のようなもの、ハウリングも同様に。そして、僕が倒したミノタウロスも、あれはファンガイアの力を有していたからこそドッガハンマーの石化の力を使えたのだろう。
「……くっ」
しかも、僕以外が持つと大槌は非常に重い。魔剣というには何とも使いづらいし、第一使いきりじゃない。
特殊な力を盛った武器を魔剣という。では、こうした武器はいったい何か
「ごっ……がはぁ」
ファンガイアについて知ることは、現状難しい。唯一の手掛かりのあの男も、ずっと姿を現さないから当てにならない。ならせめて、僕のバイクやこの武器といった、手元に在るものの情報から明確にするべきで
……うん
「……ヴェルフさん、僕が持った方が」
「い、いやいい……鍛冶師が、武器の持ち運びぐらいできねえで、どうすんだってんだッ……俺が持つって言ったのに、やっぱ持てねえなんて、情けねえこと、フヌォオオオッ」
「……」
懸命に運ばんと努力してくれたけど、さすがに腰を折ってからでは全てが手遅れ、僕はヴェルフさんからハンマーを取り代わりに担いで工房へと進む。軽々と持ち上げた僕を見て、何か心的なものにひびが入る音が聞こえた気がした。少し、申し訳なくなった。
〇
「へえ、うわぁ」
武器、一面見渡しても武器に武器
いつも、ショーケースを通して見るだけ、ここには目移りする武器が山ほど、それも手が届く場所にずらりと
「これ……全部ヴェルフが」
ヴェルフ呼び、ここに来る道中でそうなってしまった。随分と気さくな年上である
「もちろんだ。全部力作、って言いたいところだが、まだまだ甘いところもある。初心を忘れないようにってな」
「そうかな、全部強そうに見えるけど」
短刀、片手剣、大剣、防具も色々と実に目移りする。試行錯誤か、中には奇抜なデザインもあるけどそれが逆に少年心をくすぐる。
「……強そう、ねえ」
「うん、そう見えるけど」
「……いや、こいつらはまだまだだ。悔しいことにな。とくに、お前がそのホルスターに入れてる剣とかな」
「剣……ガルルセイバーのこと」
剣、と聞いて一瞬ナイフの方かと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
ガルルセイバー、折りたたんでオブジェの形にしたそれは小さく手のひらに収まる不思議な作りだ。なので、いつもは腰のホルスターに収めている。でも、それならどうして剣があると見抜いたのか
「少し見せてくれないか。工房を見せた見物料ってな、まあ取ったりはしねえから安心してくれ」
「……まあ、いいかな」
思う所はあったけど、特にそれ以上気に留めず僕はガルルセイバーを抜く。
握り手の部分を持ち、軽く振るうと尻尾に似た造形の部分が折れ曲がり立ち上り、少し大きさと長さも変わって手ごろな片手曲刀に変わる。変形を見て目を見開くヴェルフは、半ばぶん取るように僕から剣を、そしてすぐに品定めに入る。
「……随分意匠が凝ってるな」
手渡したガルルセイバー。抜き身の刃をじっくりと眺め、握って軽く数回宙で振るう。
「なるほど……こいつはただの武器じゃねえな。けど、魔剣ってわけでもねえ。その、大槌も同じってわけか」
「……わかるんだね。さすが、魔剣を打てる鍛冶師、だからなのかな」
「いや、それとこれとはまた別もんだ。俺も、少し変わった事情をもってる」
「変わった、事情……それって」
そうだ、さっきの執務室でさらっと告げた爆弾発言、今の今まですっかり抜けていた
「あぁ、俺は真の魔剣……仮面の英雄達の武器を研究している。」
「……ッ」
「仮面ライダー、その名を聞いてびっくりしたぜ……まさか、俺以外にあんな子供じみた御伽噺を信じている奴がいるとはな」
「まあ、そうだね。僕も、あまり堂々とは口に……いや」
思い出す。堂々と口にした。名乗ったりもした。
仮面ライダー、参上とポーズもつけて、仮面ライダーのベル・クラネルを誇らしくすら思っていて
「ん、どうしたベル」
「なんでも、ない……考えすぎると、ちょっと恥ずかしくて」
羞恥で顔が真っ赤になる。最近、リリの教育の成果すこし自分の青さ加減で身が詰まる思いをするようになってきた。大人になっている証拠なんだろうか
「ごめん、続けていいから……えっと、仮面ライダーの武器を造っているって」
「あぁ、その通りだ」
肯定、頷いてヴェルフは、すぐそばに扉へと
「仮面ライダー、歴史書にも載っていない。御伽噺、フェアリーテイル、本の創作物としか思われていないし、知っている奴も正直少ないマイナーな話だ」
「それは、僕もそう思う。でも、僕は」
「信じている、か?……奇遇だな、俺も信じているし、それに確信もしている。第一、クロッゾの家は大昔、仮面ライダーとつながりがあった家系だ」
「!?」
「古い話だがな。俺のとんでもなく古い先祖がよ、仮面の英雄の為に鎧やら剣やら、必要なもんをこしらえていたらしい。掛け声一つで、一瞬で全身を覆う特別な魔道具とかな、それこそ魔剣みたいな武器だったりとか、色々だ」
「へえ……掛け声一つ、それって変身」
「ああ、変身するらしい。けど、あくまで倉の本とじじばばの言い伝えだけで実物は見たこともねえよ。それに、この話自体もクロッゾでは眉唾な扱いだしな」
だけど俺は違ったと、そう言い放ってヴェルフはもったいぶっていた扉を押し開いた。
「?」
「見せたいものがある。俺の作品、それも個人的な趣味の作品だ」
楽し気に笑い、ヴェルフは部屋を解放した。
暗い部屋、窓一枚無い倉庫の中、魔石灯のスイッチが押され一気に部屋中が照らされる。眩しい人工の光に目が眩むも、少しして目が慣れていけば
「…………ッ!?」
光に順応し、目に映したのはいくつも並ぶ鎧の戦士たち。それ等を見て、僕はすぐ一つの言葉に帰結する。
複眼の相貌、鋼の装甲を纏い独特な意匠のベルトを巻いた姿。それは、何度も絵本で見て知った彼らの姿に酷似している。
「……クウガ」
「アギト、リュウキ、ファイズ、ブレイド、ヒビキ、カブト、デンオウ……ここに在るのはそんな感じだ。まだ他にもライダーはいるだろうが、資料が少なくてな」
「……少ない、これで」
「あぁ、そうだな」
「…………ッ」
絶句だった。ヴェルフが羅列したその名前、全部知っている。僕が呼んできた仮面ライダーたちの名前、世界を救い希望の光を示して見せた英雄たちの誇らしい名前
「本物、なの?」
「いや、見た目だけだ。資料を見て、俺なりに再現した、いわばコスプレ程度のもんだ……って、どうした、なんかやけに夢中で見てるけどよ」
「……う、うん」
立ち止まる、いくつも並ぶ仮面ライダーたちの中、壮観なこの光景で、あらためて僕の視線は奪われている。
右端、そこに立つのは赤と銀の鎧をまとった戦士。
夜をもたらし、夜の世界で悪を打つ。悪しき鬼たちを従え王の名も有していた異色のヒーロー
「これ、もしかして」
「あぁ、それは資料が少なくてな、途中で止まってんだ。仮面の英雄譚・吸血鬼の王の意味でキバ、だっけか。……なんだか随分とご執心だな」
「……」
「おい、聞いているか」
「……うん」
生返事、ベルの耳にヴェルフの声は届かない。遠い彼方、今ベルの世界はここではない所へと繋がっている。
歪な、お世辞にも格好いい徒は言い切れない姿。中の人型の骨組みが露出していて、他と比べれば胸像程度でしかない不出来な人形、けれどその鎧の特徴は脳裏の奥に在るナニかを突き動かしてくる。
ずっと、開かれず忘れられてきた扉が、そのほこりを払って姿を現したかのような
………………キバ
ずっと、ずっと前に読んで、そして読み聞かされた物語。
人と化け物、二つの間に生まれ、双方の争いに終結をもたらした英雄。人を救い、敵も救い、名実ともに頂点に至った英雄
懐かしい。仮面の英雄の思い出がベルの中で熱を帯びていく。
「……なあ」
「!」
肩をたたかれ、ようやく意識は現実に戻る。ほんの数秒、だがベルにとってその時間は永劫のようにも感じられた。
「……ごめん、つい夢中で」
「そうか、それならまあ作り手に取っちゃ万々歳だな。なあ、他にも見るか?」
「!」
「言ったろ。クロッゾは仮面の英雄たちに武器を作った歴史がある。俺は、そんな歴史を再現してみたくてな、試行錯誤で色々と作ってきたんだ。ここに在る以外には、あとは武器とか小物もあっけど、ソレも見るか?」
「……み、見たい!」
食い気味に、威勢のいい返事を響かせる。出会ってまだ短いが、二人は既に気の合う友として距離を縮めていた。
次回に続く
……これ、このクロスボウみたいなのは
……ドア銃だ、半ドアになると引き金が引けない仕様だ
……このフルーツみたいな剣は
……大橙丸だな。花道を飾るには良い武器だろ
……この目玉みたいなの、いっぱいあるけど
……ア~イ、バッチリミナ!!
……え、今のは
……わからん、なんか急に頭に浮かんだ
今回はここまで、次回より中層攻略いけるかな?
ヴェルフの設定を改造、これで後々に色々なライダーを出す際に便利に使えるはず。