ベル君のお酒具合が知りたい。べろべろになってヒロインに介抱される姿が見たい。
翌日、僕は朝からダンジョンに向かった。道中ちょっとした素敵な出会いもあり、気分が乗った僕はその勢いのまま日が暮れるまでダンジョンで戦い続けた。
コボルドやゴブリンを屠り続け、気が付けばすでに日は落ちかけていた。
僕は、オラリオに来て、冒険者を始めて本当に良かった。何故なら、おじいちゃんの言った通り、そこには出会いがあった。
脳裏浮かぶのはやはりあの人、アイズ・ヴァレンシュタインという素晴らしい“出”会“い”、痛い妄想かもしれないが、こうして少しずつ強くなれば本当にあの人に近づける気がする。
そんな気持ちの後押しもあって、今日の収穫はドロップ素材も込みで総額6千バリス、今までで一番の快挙である。そして、疲労と空腹を押して、僕はホームに帰宅した。ステータスを、今日の経験値を自らに還元するために。
だが、その結果は
「嘘、なんでこんなに……!」
夕方、ダンジョンから帰宅したベルに、ヘスティアはステータスの更新を行い、その結果が記される。
「………!!?」
力 : H 82→ 139
耐久 : I 26→56
器用 : H 139→156
敏捷 :G 172→235
魔力 : I 0
受け取った羊皮紙を手に、何度も見返しては肩を震わしている。
そう、僕の結果は上々だった。
「あの、神様……これ、夢じゃないですよね。」
「……そうだよ、トータルで3桁もオーバーだ。すごい快挙だね」
「……。」
何故か、ステータスの話にどこか乗り気でない、というより不機嫌な
もしかしたら、何か悪いことを……でも、おじいちゃん言ってた、こういう時、男は甲斐性を見せる者だって
「あの、神様……もしよかったらご飯でも行きませんか?今日は半日も潜ってたので」
懐から取り出すバリスの袋、いつもとは違い今日のそれはジャラジャラと重量感を見せてくれる。
「…へぇ、すごい稼いだんだね。うん、なら僕も一緒「今日、朝にあったシルさんって人がですね、良かったら自分の店で夕食を食べないかって「却下」……えっ」
一瞬、表情に笑顔が戻ったがベルの発言で一気に崩れる。無言のまま、外出用の衣類を身に着け、その場を後にしようとする。
「あの……ご飯は」
「ふんっ……。僕はバイト先の打ち上げがあるからそっちに行くよ。君はそのシル、とかいう女の子と一緒に食事を囲めばいいじゃないか。せいぜいぼられないよう気を付けるんだね!!」
バタンっ!と、木造のトビラを勢いよく閉める。一人、部屋に残されたベルはただ何もできず茫然としていた。
〇
「…………。」
豊穣の女主人。名前だけはベルも知っているオラリオの有名店、料理や酒の味はもちろんのこと、ベルの視界にはそれ以上に
……ウェイトレス、皆すごい美人……
キャットピープルにエルフ、そのどれもが身眼麗しく、免疫体制のないベルにとってはまさに目の毒だった。まぁ、だから見ないとは言っていない。
「あら、やっぱり来てくれたんですね。ベルさん」
「……!」
自分に声をかけたウェイトレスの少女。今日の朝、自分にかけたように、また愛らしい振る舞いで接してくる。
もじもじとどこか恥ずかしそうに微笑む、上目遣いにベルの純朴な心はかんぜんにたじたじになってしまう。
「よかった、来てくれたんですね。さぁ、カウンターにどうぞ」
言われるまま、僕は席に座る。すると、そこにはなんとも立派なおかみさんが。種族がドワーフなのだろう。形容するなら強いと屈強が欠かせない、そんな御仁が僕を見下ろしていた。
「へぇ、あんたがシルの言ってたお客さんかい、なかなか可愛い顔しているじゃないか!」
「……あの、可愛いはちょっと」
「良いじゃないかい、美男子っていうにはまだおぼっこいがアンタは磨けばいいもんになりそうだね。ほら、これでも食って、さっさとでかくなりな!」
そう言い、豪快な手で僕の前にはこれまた豪快な量のパスタが置かれた。
「……あの、これは」
「シルから聞いたよ。あんた、あたしらが目を開くぐらいに大食漢だってね。ほら、これも追加だよ」
大盛りのパスタだけに飽き足らず、その横に同じくらい豪快な魚料理が置かれる。
確かに、料理はとてもうまそうだ。半日ダンジョンに潜って、朝食を除けばまともに飯を食っていない。だが
「………」
ジーっとシルを見つめる。これはいったいどういうことだと。
「………テヘッ」
あざとく、彼女は片目をつぶり愛嬌を飛ばす。
「………!!」
……まぁ、払えないわけじゃないし。お腹すいてたから、いいかな
耐性のないベルにとって、わざとらしいあざとさは回避不能の一撃だった。
「……えへへ、皆と話してるうちに尾ひれがついちゃって。ごめんなさい」
「……いいです。まぁ、次からは自分で注文しますから」
拗ねたように視線をそらして料理を含む。けど、ちらちらと目に入る彼女はつねにニコニコと、こちらを見透かしているように、恐らく、自分はこうした女性の押しに弱いのだろう。首根っこを掴まれた小動物の心境である。
〇
出された食事をなんとか流し込み。追加で出された(断ったが無理やりに)エールを、慣れない酒にちびちびと格闘している。
「………」
シルが丸太の椅子をもう一つ引き出し、ベルの横に座る。ほんの少しで肩と肩が触れ合いそうな距離で、どことなく香る異性の色香、酒場の雰囲気も合わさって、ベルの顔は赤面してしまう。
「……あの、仕事、良いんですか」
「ええ、ミア母さんからは許可はもらいました。」
「……そう、ですか」
「……お店」
「……。」
「お店、気に入ってくれましたか?」
「……。」
喧騒的な空間、BGMに弦楽器の牧歌的な曲が流れ、客たちも酒と食事に酔いしれ明るく楽しげな雰囲気を醸している。
「………。」
それに、なによりここのウェイトレスがいかに可憐だということ。それだけでも、何度も店に通いお金を落としたくなってしまう。
「……ベルさん」
「………。」
今自分の隣にいる女性も、朝初めて会って、どうしてかこうして今は隣にいる彼女も
あれが好奇心の気まぐれで誘ったのか、それとも客引きで仕事の延長なのか。それは僕に区別はつかない。けれど
「………いい店だと思います。また、来たいとも思っています。」
たまには奮発して、この笑顔を拝みにいくのも存外悪くない、そうぼくは感じた。
「…………ベルさん」
「………」
静かに見つめる彼女の視線に、僕は表情を隠すようにエールをあおった。店の喧騒と曲の音色が、まるでムードを作り出しているような。そんな居心地のいいひと時
だが、そんな時は長く続かなかった。
店の中がざわつく。酒宴の席ではしゃぐ喧騒とは違う、その原因はすぐにわかった。
「………!!!」
……あれは!?
先頭に立つ赤髪の少女、そしてその後ろに並ぶ歴戦の冒険者たち。客たちが口々につぶやくロキファミリアの名前
「……ああ、確か今日予約が入ってたんですね。すみません、そろそろ仕事に戻ります。」
席から離れるシルにベルは漠然と返事をするだけだった。
ここからは覗き見るようにしか見えないが、そこに確実にいた女性、見間違うはずがない。金髪の蒼眼、腰に備えたレイピア
「アイズ、さん……!!」
どうやら、自分に気づいてる様子はなく宴席の料理や仲間との喋りにしか気が向いていない
「……どうしよう」
ベルの中では二つの感情がある。それはもちろん意中の相手を目にした喜び、そしてこの状況で自分はどうすればいいのか。
このまま何もしないで、ひっそりと隠れるべきか。それとも
……くそ、こんな状況、お爺ちゃんなら。
確か、お爺ちゃんは酒場で可愛い娘と出会ったら時
……酒場で出会う女はな、皆大抵男を待ってるもんじゃ。洒落た酒をふるまい、適度に会話を交わしたら……あとはわかるな、ベルよ
……うん!暗い所に連れて行くか、それでもだめならヴァイオリン!!……そうだね、お爺ちゃん……!!
けど、僕には洒落た酒なんかわからないし、第一ヴァイオリンも持っていない。クソ!なんで僕はこう、準備不足なんだ。せめて、あの時の感謝でいっぱいおごるぐらい。
と、懐を探ると……。
「……あっ」
そこには、丁寧におられたあの時のハンカチが入っていた。
「……これ」
……いつか返そうって、洗濯してしまっていたのに。……神様が、入れてくれたのかな
「………」
ベルが席を立ち上がろうとした、その時
「なぁ、アイズ。そろそろ聞かせてやれよ!あのミノタウロスの話をよぉ!!」
「!!!?」
ベルはその場を動くことが出来なくなった。
「ん、どうしたんやベート、その話って言うんは」
「いやなぁ、昨日帰る途中に上層に逃げ出したミノタウロス!最後の一匹をうちのお姫様が討伐した時にいたガキなんだがよ」
饒舌に語りだす狼人の男、自分のことについて語るその内容に皆が耳を傾けていた。
「そんでよ、そのガキはミノタウロスにビビッてぶっ倒れてたんだ。まぁ、そんな光景見りゃあうちのお姫様は助けに駆けつけてミノを一刀にぶった切るわけだがよ……そのガキ、そん時の返り血全身にぶちまけられて、トマトみてぇになってんの…!!なぁ、アイズ……あれ狙ってやってんだよな、じゃなきゃあんな傑作になるわけがねえ!!!」
店中がどっと笑いに包まれる。ロキファミリアだけじゃない、店の客たちも一斉に吹き出し、嘲笑の言葉や口笛ではやし立てる。
―――………っ!!
そんな中、僕だけは何も言えずズボンのすそを握りしめ、物笑いにされる苦汁を噛みしめていた。
男の話はまだ続く。
「でよ、ここで終わりじゃねえんだ。うちの優しいお姫様はよぉ、わざわざそいつを起こしてやって、自分のハンカチを差し出して大丈夫かって……そしたらそのトマト野郎、顔見た瞬間にしっぽ巻いて逃げ出しやがったんだよ、うちのお姫様……助けた相手に逃げられてやんの……!!!」
―――……ぐっ!!!!
「ぷっ、はははは……!!そら傑作や、怖すぎて逃げられるドジっ娘アイズたん萌えーー!!」
「………。」
唯一、宴席の中で無言で表情を変えないアイズ。それが面白くないのか、ベートはさらに話を続ける。
「なぁ、アイズ……お前はどうなんだよ。今の話聞いて、なんで無表情なんだ?……お前、ひょっとしてかばってんのか……?」
「………別に、ベートさんの話が下らないだけ」
「……んっ、まあそうだな。ベート、その冒険者のことは元をたどれば我々のミスだ。あんまり酷なことを言うものじゃない。」
「あ“あ!!だらしのねえ弱ぇ奴をけなして何が悪い!……そいつが情けなけりゃぁいいだけだろ。…なぁ、アイズ……おまえそれとも」
席を乗り出し、アイズに詰め寄る。
「おめぇ…あのガキに惚れてんのか?」
「………。」
しかし、アイズは無言のまま、ベートの質問に見向きもしない。だが、それをベートは肯定と受け取る。
「!!……だよなぁ、あんなよわぇ雄に雌が引かれるわけがねぇ。しかも、敵に逃げるならまだしも、ぶるって気絶してりゃあ訳ねぇってもんだ。」
……聞きたくない。その先の話は聞きたくない。
だが、無慈悲にその先は告げられる。
「弱ぇ奴に。アイズ・ヴァレンシュタインは釣り合わねぇ……。その横に並ぶなんて……お前自身が許さねぇ………だろ」
「―――………っ!!!!!」
逃げてしまいたい。すぐにでも、この場から立ち去りたい。
「……ベルさん」
いつの間にか、シルさんは僕の肩に手を置いてくれていた。
心配そうに見つめるその瞳に、すぐに我に返る。だが
「なぁ、アイズ……お前はどう思ってんだよ」
「……そんなことを言うベートさんだけはお断りです。」
周りからはフラれただのとはやされ、機嫌を悪くしたベートはさらに噛みつく。そんなベートにアイズは静かに言葉を告げる。
だが、その一言は
「あの子は……何も悪くない。駆け出しで、ミノタウロスに襲われて……でも」
「あの子は……強くない。……だから、しかたない」
「………!!!?!?」
罵倒や嘲笑はまだ良い、心が傷つくだけだ。けれども、彼女の口から放たれたその言葉は
……ガタンッ!!
気が付くと、ベルは酒場から走り去っていた。
「………今の」
「あぁ、なんだもしかしてさっきのぉおおおおおお!!!!!?!?」
いきなり背後から縛り上げられ吊るされるベート。アマゾネス二人に折檻をされ、その光景に客席はまた笑いに包まれる、飛び出した少年のことなど誰も気に留めたりはしない。
「………アイズ、さっきのは」
ただ一部を除いては
「……!!」
席を立ち、少年を追いかけようとする。だが
「アイズ!!」
「!……離して、リヴェリア。私、行って「行ってどうするというのだ!」
「!?」
自分を諫めるリヴェリアの声で、アイズの足が止まる。
「今行って、お前に何ができる。さっきの話の少年、おそらく君に憧れたんだろ。なら……」
「……でも、私」
「アイズ、あの少年の弱さを肯定してしまったこと。きっと彼はそれで傷ついただろう。けれど、我々冒険者は偽善や慈善だけで動くものじゃない。………考えているならこそ、今はただ祈ってやれ」
「………。」
「きついかもしれないが、ここで乗り越えなければそれこそベートの言ったとおりだ。なら、我々には祈るしかできない。」
リヴェリアの諫言でアイズは席に戻る。確かに、今自分が行って何ができる、それはそのとりだ。
「…………」
けれども
「リヴェリア、確かにあの子は強くないけど、弱いとは言ってない。」
「?……それはそうだ、誰しも皆最初は弱い、だがそこか「違う、そうじゃない」……じゃあ、何が」
「………それは」
「………?」
あの時、私は彼を助けた。けれど、少なくとも……ベートさんが言ったようにあの子が弱いなんて、私には思えなかった。
だって
「ねぇ……リヴェリア」
だが、その答えは
「……ごめん、やっぱりなんでもない」
「……。」
それ以上、続く会話が無く。気が付くと、リヴェリアは別の談話に巻き込まれていた。一人、アイズは飲みものを含みながら、少年のことを浮かべる。
……あの子
思い出すのは自分が駆け付けた時、ベートよりも先にたどり着いた私は見たのだ。
「ヴルゥウウオオオオオオ!!!」
「はぁああああああっ!!!!!」
手負いのミノタウロスを相手に、あの子は正面から立ち向かっていた。
「………」
手負いとはいえ、15階層の敵が上層の駆け出しにかなうはずがないのに、あの子は正面からその攻撃を受け止め、しかも素手で反撃をしていた。
武器も使わず返り血にまみれて顔はよく見えないが。確かに、あの目は闘士に満ちていた。
けど、運悪くかすめた拳が頭部をかすめ、彼は地面に倒れ伏した。その時になって、私はようやく剣を振りぬいた。
「………あの子は」
目を離せなかった。あの戦いには、確かな強さがあった。レベル差なんて関係ない、強者に挑むあの光景はまさしく冒険であった。
「………」
また、あの少年に会えるだろうか。名前も知らない、あの白髪の男の子に
「……でも、まずは謝らなきゃ。」
リヴェリアには注意をされた。けれども、それでも、私にはあの子に会う理由がある。
「……ロキ」
「ん、なんや~アイズた~ん」
べろべろに酔っ払ったロキ、他の皆も似たり寄ったりで、店の中では吊り下げたベートをおもちゃにどこで取り出したのやら、ムチや蝋燭や洗濯ばさみやらで、周囲を巻き込み宴席を盛り上げていた。
「……ちょっと酔ったから、外で歩いてくる。先に帰ってていいから。」
そう言い残し、アイズは皆の目を盗んで急ぎ走り去る。
……どこにいるかわからないけど。まだ遠くには行ってないはず……!
〇
「!!……くっ」
ダンジョンでベルは戦闘をしていた。相手はカエル型のモンスターのフロッグシューター。強靭な舌に聞き手を取られ、しかもその後ろにはまだ後続が狙いを定めている。
「!!」
咄嗟に、僕はナイフを空いた手に持ち替え、奴の単眼に目掛けて投擲する。
「――――!!!!」
切っ先はそこまで深くはない。だが敵はひるんだ。そのすきをついて、踏み込みと同時に飛び上がり、打ち込んだナイフめがけて飛び蹴りを放つ。柔らかい眼球を貫き、胴体の奥にある魔石にナイフが突き刺さる。
断末魔と共にカエルは霧散、宙に残るナイフを逆手でキャッチ、すぐにバックステップで後続の砲撃を交わす。
「!!……はぁ、まだだ」
……こんな相手じゃだめだ。僕はまだ
「僕は止まるわけにはいかない!!!」
「「――――!!!」」
後続の奴らは僕めがけ舌を発射する。
「……くっ!」
打ち出す長い舌は拘束だけじゃない、それ自体が強烈な砲弾なのだ。すんでのところでかわし、うち一発が腕を掠る
「!!?」
少し、耐久が上がったとはいえ、今は防具もなし、着のままに護身用のナイフを片手に僕はダンジョンに潜り込んでしまったせいだ。
すでに戦闘をはじめて一時間は経とうとしている。息も荒く、疲労が足腰に重く引っかかる。
だが、それでも立ち止まらない。いや、立ち止まれない!
「……!!!」
ナイフを逆手に、僕は拳の軌道で最速の斬撃を繰り出す。敵の懐に飛び込み、そのぶよぶよの胴体を切り開く。
赤黒い血が飛び散り、それが奴らの視界を封じる。
続けざま、伸ばした手をそのままフレイルの様に、遠心力をもって別のカエルのどてっぱらに打ち込む。
…ガキっ!
適格に魔石を捉え、カエルは一瞬で霧散する。
「…はぁ、くそっ……」
残り二匹
〇
現在第六層、周囲には倒したカエルから漏れ出た魔石やらドロップアイテムやら。
どうやら、この一帯の敵を掃討したらしく。ベルも少し肩を下ろす
「……はぁ、でもまだ、すぐ……休憩、したら」
そんなベルの言葉を受け取ったかのように、あざ笑いながらダンジョンは答えた。
…バキっ!
「!!?」
壁面が砕け、そこから黒い影のようなものが沸き立つ
……あれ、確かエイナさんが
上層において、気を付けなければならない敵がいる。初心者を苦しめる上層の鬼門ともいえる敵、毛や牙を持たず生き物ばなれした漆黒の影、黒いペンキで塗りたくったようなその敵は赤いまなざしで僕を視認している。
「…ウォーシャドウ」
それも一体だけじゃない。壁面からは次々に影たちが沸き起こる。
「…っ!?」
影たちはいっせいに僕にとびかかる。黒い三本のかぎづめを振りかざし、こちらもナイフで裁こうとするが
「……速い!?」
敵の力、敏捷、同じ人型であってもコボルドやゴブリンとはわけが違う。一撃一撃が重く、斬撃や格闘も一手わずかに届かない。
……けど、それだけじゃない。こいつら
現在、四体のウォーシャドウが表れているのだが、こいつらは狡猾に、連携して責めてくる。一方がナイフをひきつけ、もう一方が攻撃をたたき込む。
「……くそっ!」
悪態を漏らし、なんどもナイフを振るう。こちらは一人、追いつめられれば一気にやられる、流れを完全に取られるわけにはいかない。
「……!!!」
突き刺す爪の一撃。頭部を狙うその攻撃は首をそらして躱す。
「―――!!!」
空いた胴体にナイフを突き刺す。霧散すると同時に二体の影が攻撃を仕掛ける。
その時、霧散した中で唯一、黒いむき出しの刃が残っている。
僕は無我夢中でその刃を掴み、手に血がにじむことを気にせず、二つの刃で影を同時に切り伏せる。
……まだ、ここで終わるわけには
残る敵、一体のウォーシャドウ、だがその背後からはさらなる六層の敵、駆けつけてきたその数は考えるだけでも辟易してしまう。だが、それでも
「――……っ」
ベルは二本のナイフを構える。打僕、擦傷、創傷、疲労も溜まり、すでに視界もぼやけてきている。
だが、それでもと…、ベルは挑み続ける。
「はぁ、……強くない。…そうだ」
悔しいが、あのベートとかいう男に言われたこと、そしてアイズさんのあの一言。
それはどうしようもないくらいに真実で、ぼくはまだ弱い駆け出しであり、その壁はたやすく超えられない。
でも、それでも僕は、あの人の傍に立ちたい。一度でもそう考えたなら、好きな人に近づきたいって思ったのなら……諦めるわけには、いかないじゃないか!!
「……強くなりたい、だって僕は……」
眼前にたたずむ敵たち、眼光を放ちベルのもとへとなだれ込む。
「だってぼくは……アイズ・ヴァレンシュタインに出会ったんだ!!?」
目の前には迫る敵、背後を走れば窮地を逃れられるかもしれない。けど、それじゃあ駄目だ。
……挑むんだ。少しでも早く、あの人の高みに至るために、だから
「……やってやる」
二つの武器を構え、僕は敵陣に踏み込む。突然の攻撃にウォーシャドウは反応に後れ、一刀のもとにその首をはねられる。
「!!……来い、僕はここだ、まだ戦えるぞ!!!!」
〇
「もしかして……あの子」
街中を歩き、メインストリートで聞いても回った。だが、それでも居場所がつかめない。残った選択肢、考えたくはないが、やはり
……あの子、ダンジョンに
アイズはダンジョンの入り口地下を行きらせん階段を走る。そして、そのすぐそばで何かに引っかかる。
「!!……」
それは間違いなく人でありうつぶせに倒れ伏したその体を起こす。
その白髪、顔、あの時見た純朴な少年そのもの、すぐに息を確かめ、呼吸があることを確かめる。
「……ずっと、戦って」
すでに時刻は遅く、あと一時間もすれば夜は明ける。そんな時間までこの少年はダンジョンをロクな装備もなしに戦い続け、こんなに傷だらけで
「……すぐに、医者の所へ連れて行くから。」
そう言い、アイズはベルの服を脱がす。出血があるなら、せめてポーションでふさがなければと考えたゆえの行動であった。だが
「……!!?」
服をめくり、血の跡を拭う。だが、そこには一切の傷はなく生娘のような色白の肌だけしかない。
「……この子、いったい」
「……んっ」
「!?」
目を覚ましたのか、すぐに起こそうかとも思ったが、どうやら寝言のようで、意識はまだはっきりとしていない。とりあえず、このままにしておくわけにはいかないと、アイズはベルの脇に腕を通し、いわゆるお姫様抱っこで持ち上げる。
「……今は無理だね、いつかちゃんと…君に謝るから」
そして願わくば、この子のことをもっと知りたいと、そんな打算めいた考えを持ってしまう。
次回に続く
読了お疲れ様です。
戦闘シーンにできるだけライダーキックを取り入れたい。