前話の補完なので少し短めです。ご容赦を
……ベル君、もうどこに行ったのさ
ベルが帰っていない。時計の短針が何度動いても帰ってくる気配がない。
最初は外で誰かと遊びに更けているのではないかと苛立ちながら思っていたが、次第に心情は不安にまみれ、何か事件に巻き込まれたのかと、そんな心配からヘスティアはホームを飛び出し、街中を探索しつづけた。
服は汗にまみれ、足も棒になってきた。けれども
「ごめんよ、ベル君。僕は君がいないと……」
バシンッ!と、頬を叩き疲労の眠気を無理やり覚ます。
気合を入れなおし、ヘスティアは走り続けた。
細い路地を抜け、大通りに差し掛かる道に出た瞬間
「!?……いっ」
「………!」
通りを出た瞬間何かにぶつかってしまった。
「……あの、大丈夫ですか?」
「いや、ごめんよ。ちょっと急いでて………」
「?………あの」
目の前にいる少女、ヘスティアも知る、というか現在は目の上のたん瘤であるその人物
だが、その前に
「……んっ」
「ベ、ベル君」
「!?……もしかして、あなた」
目の前には……自分の恋敵?、ベル、お姫様抱っこ、血まみれ
「………。」
目の前の現状を整理し、しばらく時間をおいてやっと出した回答は
「……とりあえず、ホームに案内するよ。話は、その道中に聞かせておくれ」
「……はい」
ともかく、今はこの気持ちよさそうに熟睡しているベル君を優先することにした。あと、この状態で運ばれたことは秘密にしよう、そうすることに決めた。喜ばれると腹立つし
〇
「えっと、つまり……君はベル君に失言をしたことを謝りたくて、そしてダンジョンで倒れているのを見つけて、今に至ると。」
「……はい。だから、その…ベル「……ギラッ!」……クラネルさんに、謝りたくて……けど」
「うん、拾ってくれたのは感謝するけど。とりあえず、それはまた今度にしておくれ」
「……ええ」
アイズは話した。道すがら、酒場での顛末を、だが根本であるダンジョンでの気づきには触れなかった。
「……」
……この人も、何か知っているのかな
けど、それを問いただして何になるだろうか。仮に、それが何かスキルや魔法のたぐいなら、それは要らぬ詮索だ。迷惑以外の何物ではない。
「………」
抱きかかえたベルは気持ちよさそうに、まるで幼子の様にも見える。実際、この子は自分よりも年は下だ。はたから見れば弟にも見えるのだろうか
「………」
「……君、ちょっと見すぎじゃないかい」
「!!」
指摘され、顔を赤らめてしまう。そもそも自分はこうして異性に触れる機会はなかった。
だが、急に意識しだすとそれが余計に恥ずかしい。
「―――!!」
「まぁ、気持ちはわからないでもないけどね。」
そう言い、歩きながらヘスティアはベルの顔を見つめる
「こんなに心配させて。勝手にダンジョンで危険なことをして……それでも、可愛い僕の子供だ。」
ヘスティアは足を止める。そこにはおんぼろな教会があり、どうやらそこがこの神のホームなのだろう。
未だ起きられないベルを抱えたままアイズはヘスティアに連れられ教会の中に入る。入って奥の扉から地下室に入るのだが、なにやらその近くに大きなホロをかぶされたものに目が行く。
が、すぐにヘスティアから呼ばれ、アイズは奥へと下った。
ベッドにベルを寝かせ。布団をかぶせる。これで、とりあえずは役目を終えられた。
「……あの、ヘスティア様」
ベルの横に座り、優しくその白髪を撫でている。母性に満ちた、そんな光景に見ているこっちも穏やかになる。
……さわりたい、ダメかな
後ろに組んだ手がわきわきと無意識に動いてしまう。
「………」
「……で、なんだい」
「!……いや、その」
ベルの顔、やはりとても気持ちよさそうだ。理由があって、この子は必死に頑張った。なら
「……その、この子が起きたら。私のことは伏せていてください。」
「……気を使っているのかい」
「……はい、あと……できれば、今日のことは許してあげてくれませんか。」
「………。」
「………元をたどれば、理由は私たちにあります。だから」
「………そんなことを言って、自分のファミリアに迷惑がかかるとは思わないのかい。」
「そうかもしれません。けど」
アイズを見定めるようにヘスティアは言い放った。それでも、アイズは
「今、その子は強くなろうとしている。だから………私は、その邪魔をしたくない」
「………なるほど」
そっと、アイズの前に手が差し出される。
「……ほら」
「……。」
特に疑問を持たず、アイズは出された手を握り返す。すると、もう片方の手も出し、ヘスティアは両手でアイズの手を強く握りしめた。
「……ありがとう」
「……!」
「敵に塩は送りたくない、けど君がベル君にしてくれた、その誠実さには感謝する。……本当に、ありがとう……!!」
ポツ、ポツと…溜まっていた感情が溢れたのかヘスティアは涙を流し、感謝の言葉をつづけた。
「………!!!」
アイズは知った。このベルという少年が、いかに大事にされているか、手を伝う暖かさはまるで竈の火のように、どこか心が落ちつくような、穏やかな暖かみを持っていた。
〇
翌日
ベルは目を覚ますとそこはベッドで、そして目の前にはなんとも豊満な果実が二つ、むにゅりと自分の胸板に押しつぶされていたわけで、早朝から絶叫と共に起床するわけで。
一緒にたたき起こされたヘスティアと前日のことやらでなんたらかんたら…約束もあってか、結局アイズのことは伏せたまま話は進み、とにかく今後は無茶な真似をしない、との諫言を受けて、ひとまずは解決を得た。
そして、取り合えず、昨日の成果を出すため、ベルはステータスの更新を受けるわけだが。
「……!?」
……嘘だろ、いくらなんでも、これは……!?
力 : I G 139→242
耐久 : H 56→113
器用 : G 156→261
敏捷 : F 235→367
いくらなんでも早すぎるのだ。レアスキル、憧憬一途の効果で経験値に補正がかかり、常人のそれとは恐るべきスピードで成長をしている。冒険者になって一か月も満たない、なのにこのような結果を生む、昨日の数値でも驚きはしたが、改めて見るとこの結果は異常だ。
……まず間違いない。このレアスキル、他の神々が放っておくはずがない。
余計な騒乱をもたらすなら、このことは秘匿するに限る。
「……あの、神さま、どうでした……?」
「………」
しかも、問題はそれだけじゃない。数値という大きな変化に隠れて、一見目立たないがそれはまったくあり得ないはずなのだ。
スキルの熟練度は経験値に由来する。耐久が上がるなら、それは何度もモンスターの攻撃を受け続け、生き延びたことへの成果だ。だが、だとしたら、いったい
魔力 : H 0→102
……何故、この子の魔力は上昇しているんだ!
当然、未だに魔法のスロット欄は空白だ。なのに、いったいどうして魔力が上がる要因があったのか。
「………。」
……いや、一つだけ心当たりがある。
「……ねぇ、ベル君」
「……はい、なにか」
……ファンガイア
この言葉が喉の奥まで出そうになる。だけど
「………いや、やっぱりいい。とにかく、今はステータスのことだ」
「?」
まだ早い。確信が薄く、雲の中に一つシミを見つけた程度のことだ。今はとにかく、目の前の問題に対処しなければ。
気を取り直し、ヘスティアは落ち着いた様子で言葉をつなげる。
「君のステータスだが、はっきり言ってものすごく上昇している。心当たりは……まぁ、昨日の無茶なんだろうね」
「……ごめんなさい。」
「…まぁそれはいい。もう済んだことだから……とにかく、今の君は成長期だ!」
「…成長期、ですか?」
「ああ、理由ははっきりとしないが、今の君は恐ろしく成長が早い。これは僕の推測だが、君には素質がある。もしかすると、生まれ持ってのものなのか、それとも……親由来で受け継いだのか……まぁ、そんなところじゃないか」
「……はぁ」
……受け継いだ、親、そうなのかな?
「まぁ、“と”に“か”く“だ!……君が強くなりたいのは僕もわかっている。だけど…」
強くなりたい、その動機は恋愛的な感情に基づく、ヘスティアにとっては複雑で受け入れがたい。だが
昨日、あのアイズと話して、少なくともその誠実さを知った。業腹だが、この子の憧れを無下にはできない。
なら、僕にできるのはその背中を押すこと。
「……ベル君、君の頑張りは僕も認める。その努力も、懸ける思いも、僕は尊重する。だけど」
潤んだ瞳を我慢し、ベルにその気持ちを打ち明ける。
「……お願いだから、僕を一人にしないでおくれ。」
「……!!」
ヘスティアの告白、ベルはその言葉を受け取り、今までの体験を掘り起こすように内面の世界に落ちる。
自分を心配するこの神の言葉に僕はちゃんと向き合ってこれたのだろうか。
ベルはうつむけた顔を上げ、ヘスティアを安心させるように、穏やかな笑顔を向ける。
「約束します。僕は、神様を一人にしません。絶対、何があっても僕はあなたのもとに戻ります。」
ヘスティアを思っての純粋な気持ち、その嘘偽りのない心をヘスティアは受けとる。神の前で人は嘘をつけない。なぜならすぐに見抜かれてしまうからだ。故に、ベルのはなった言葉は
「……ありがとう。それが聞けて、僕は満足だよ。」
その言葉はまさしくヘスティアの琴線に触れるものであった。
次回に続く。
またちょろっとファンガイア設定です。
次からは多分にオリジナルを含むと思います。おそらく