原作一巻の見せ場なのですごく書いてて楽しかったです。それではどうぞ
怪物祭当日、ついに始まった年に一度の特別な日、街中が総出で今日という日を喧騒に満ち溢れさせる。
メインストリートには闘技場へ向かう人混みと馬車の行列、並ぶ街のいたるところにガネーシャファミリアの旗が掲げられ、この街にいるすべての人が同じ目的、共通の話題で持ちきりの中
「………なぁ、色ボケ女神」
「………。」
往来を見渡せるテラスの一角、そこはよくある静かな喫茶所で、中には幾人もの客がちらほらいるが、その多くはたったの一組の客によってその存在が無かったものにされてしまっている。一人はローブをまとった物静かな女性、しかし、その端から除く肌や髪の毛の数本でさえ、近くのウェイターは自らの仕事を忘れ茫然とし、そのウェイターに注文を頼む客でさえも自らの目的を忘れてテラスの一角に視線を離せないでいた。
そして、ローブをまとった女性に対するは男装をまとった赤髪の少女、そしてその横には知らぬ者などいないオラリオの剣姫、周囲の視線など気にせず、彼女らは会合を続ける。
「………なぁ、フレイヤ。おのれは」
「ふふ、急に呼び出したと思ったら……妙に喧嘩腰ね、ロキ……。」
「警戒して当然や。己の最近の行動、気まぐれと言い張るんはいくらなんでも限界やろ。……自分、何企んでるん?」
「………」
執拗な間での詰問に、フレイヤは表情も変えず手元のカップに口をつける。質問など何も痛くない、その反応なさがロキにいらだちを覚えさせ、次第に場の空気が重く変わる。
だが、そんなことなど歯牙にもかけず、フレイヤは
「……見つけたのよ。たまたまね」
「……やっぱり、男目当てか。どこぞの大きい所にてぇだしたんちゃうやろなぁ」
「いや、そんな大それたことじゃないわ。あの子は……」
バベルの頂上、何の気なしに街を見下ろす、けどそこには特に気にかける者はない。不思議に感じ、視線を上げると、その正体は外にいた。
オラリオの外、街道を伝っていく早馬の姿。最初は気に留めなかった、不自然なものに乗っている、ただそれだけ……その気の迷いはすぐに消える、かに見えた……だが
「……ねぇ、ロキ」
「…ん」
「あなた、教会って行ったことある?」
「?……なんやその質問は、別に……出席をしたことはあるさかい、まったく知らんてわけちゃうわな……で、それがなんやって言うねん」
「……いいえ、特に深い意図はないわ。けどあそこに、確か綺麗なガラスがあるわよね……」
「……」
「極彩色に彩られて、私たちには無縁の宗教画?だったりで、ありがたみそのものみたいな私たちには何の意味も成さない」
けど
「私はあの輝きが好きなの、眩しいぐらいに色鮮やかで、最後に砕けるその瞬間まで鮮やかに美しい……」
「……おまえ、何が言いたいんや。」
質問の意図がわからないと、首を傾げる。そんな様子も気にすることなく、フレイヤは言いたいことを全部言い終わったかのようにまたカップの茶を少しずつ口に含む。
「…はぁ、まともには話す気が無いならええわ。とにかくうちとしてはかかる火の粉は全力で払う。火の根っこが完全に消え去るまで、徹底的にな……ほな、うちはアイズたんとのデートがあるし、そろそろお暇させてもらうさかい……ほな」
そう言い残し、ロキはアイズの手を引いてその場を後にする。一部始終を見せられたアイズだが、ロキと違い、フレイヤの言葉、それがどうしても気にかかって仕方なかった。
「………」
「んっ、どうしたんやアイズたん?…はっ、まさかあの色ボケに魅了を……!!アイズたん、正気にもどっぐぼはぁあッッ!!?!?」
正気に戻そうと無理やり唇を奪おうとするロキ、ノールックのまま飛びつく腕に関節技を決めながらアイズは考える。
フレイヤが言った内容、その意味を全く理解できないが、なぜかアイズの中ではその特定の人物が脳裏に浮かぶ。
「………ベル」
ふと口に出す少年の名前、あの日以来顔を合わしていない、その少年のことがどうしてか心に引っかかる。不安はどこから来るのか、どうかこの心情が妄想、気の迷いであることを奥底で強く願う。
〇
黒い短刀とその鞘、一見地味で小さいが、これこそが神ヘファイストスの入魂の作品であり、ヘスティアが求めたものだ。
「!!……君ってやつは、本当に良い友神だよ。」
「ふふ、おだてても一バリスだってまけないんだから。で、その短刀…名前はどうするの?」
「うん、そうだね……ベル君と僕のきずなの証、ラブ・ダガーなんて「却下よ却下、もっとまともな」……じゃぁラブダガー改めてデラックス・ラブ・ダガーで「いやそれ同じだから!うちの子みたいに変なセンスは止めて頂戴!…神のナイフ…だから、ヘスティア・ナイフ、これでいいんじゃない」
……ヘスティア・ナイフ…。
手に取って見る。黒く塗りつぶされたそのナイフにはヘスティアの血と髪の毛が鋳溶かされており、まさに使用者とその神のきずなを示すもの。このナイフがあの子と共にある、そう思うだけで胸の奥が暖かくなってしまう。
「なに感慨にふけってんのよ。もちろん、払うものちゃんと払ってよね」
「わかってるわかってるって!でも、そのまえに」
短刀を入れた箱を風呂敷に仕舞う、今すぐ渡したい。この時間であれば、あの子はダンジョンに向かうはず。なら、その入り口で待っていればすぐに出会えることだろう。
「もう行くの?」
「うん、悪いけどね」
そそくさと、居ても立っても居られない心境ですぐさま扉を押し開け、早足で駆けて行った。
「まったく、ちょっとは休みなさいってのに」
〇
「さてと、バベルに行こうと思ったのは良いものの……」
周囲を見渡す。メインストリートのほとんどが人に埋め尽くされ、辺りは一面祭りムード、武器の件ですっかりヘスティアは怪物祭のことが抜けていたのだ。
「……そういえばきょうだったんだね。なら」
あの子のことだ。来て初めて見る祭りにふらふらと吸い込まれるように足が向かっているに違いない。家に帰って待つのも考えたが、時間的にもう出ている頃合いだ。なら僕自身も闘技場の広場に向かう方がいい。
「うん、せっかくだ。お祭りデートとしゃれこんで、最後はベストなアングルからのロケーションで……よしっ、勝った!!」
一体何の勝負なのだろうか、不眠不休で活動しているヘスティアはちょっとテンションがハイだったりもする。もちろん、製作途中に仮眠を言われたりもしたが、根のまじめさか律儀に起き続けていたため、恋愛脳なテンションが無ければすぐに寝落ちする手前であったりする。
「よし、決まったなら善は急げだ。ヘイッ、タクシー!」
すぐ近くの御者を呼び止め馬車に駆け乗る。
「へぇ、女神様。今日はどこにお向きで?」
「もちろん祭りさ、闘技場へ向かってくれ。」
小気味良い手綱の音と共に馬車は駆けだす。人込みの多い通りを避け入り組んだ細い路地を慣れた土地勘ですいすいと迷いなく進む。オラリオの町は広い、メインストリートを除く大小さまざまな道はしかるべき知識と方向感覚が無ければすぐに道を見失う。馬車もといタクシーの需要は高く、長く住むものでも気軽に頼るのはよくあることだ。
だが、故に
「あちゃぁ、お客さんここから渋滞ですよ。どうしますこのまま乗車しますかい?」
「うーん、それは…」
闘技場まであと少し、ならこのまま馬車を降りて徒歩で向かう方がいい。
「わかった、ここまでで十分さ。釣りはいらないぜ」
と言いながらちょうどの料金を手渡し、ヘスティアは馬車を降りる。
大事に荷物を抱え、渋滞を抜けて歩道を行く。裏路地に入り、記憶をたどりながら右へ左へと走っていくと、突き当たって曲がり角を出た時
「!…あら、ヘスティアじゃない。こんなところで何を?」
そこには全身をローブで隠した美の女神がいた。
「げ、フレイヤ……君こそ、こんな裏路地で何してるんだい」
隠しているとはいえ見え隠れする美貌は同性であってもつい目が奪われて調子が狂う。嫌いなわけじゃないが、その予断を許さないたたずまいというか振る舞いというか、ついつい体が身構えてしまう。
「もう、そんなに警戒しなくてもいいわよ。別に、ここに盗られて困る男がいるわけじゃあるまいし」
「いや、まぁそうなんだよね。ごめん…ちょっと失礼だった。その、失礼ついでだ、ちょっと聞いていいかい」
「ふふ、ほんといきなりね。…で、なにかしら」
「僕の子を探しているんだ。パーティで言ってたろ、兎みたいな白髪で赤目で可愛いって。君、どっかで見たりしてないかい?」
手を頭の上にやってポーズをとる、そんなヘスティアをよそに少し考えに耽るようなしぐさを取る。
「フレイヤ?」
「………いえ、見てないわ。でも、この先の広場にいるんじゃないかしら」
フレイヤが言うのは闘技場の前の広場、そこは出店が並び、見世物が始まる前に皆がそこで飲み食いを楽しむ場所、そこでブラついているのだろうと。
「うん、それもそうだね」
じゃあ、僕は行くよ、と…ヘスティアはフレイヤのもとを後にする。残されたフレイヤはヘスティアが見えなくなるやその表情が崩れ、すっと冷酷で美的な笑みに変わる。
「……あの子は今どこに」
フレイヤのすぐ隣、暗い影に隠れて何者かが姿を見せる。ローブをまとい、そのすぐ横でクラゲのような、無機物じみた生物がふわふわと浮いており、そのすぐ上からその生物に似た子供のようなクラゲが降りて親クラゲの中に収納される。
「――――――ッ」
「……会場には来ていない。まだホームだ」
何かは聞き取れないがどうやら言語的なやり取りがあったらしい。ローブ男はクラゲの言葉をそのままフレイヤに伝える。
「そう、ならどうする。」
「……お前は予定通りに事を進めればいい……少し、面白くなりそうだ」
「?……それは、何か根拠があるのかしら。」
「貴様に話しても無駄だ、とにかく、アイツはすぐに目的地にたどり着く」
「………まぁいいわ、そっちは任せるから。そろそろ向かいなさい」
「言われずとも……」
男は姿を消した。そして、入れ替わるように別の路地から大男が表れる。獣人で2mもあるその男はオラリオ唯一のLv7,フレイヤファミリアの冒険者、猛者オッタルその人だ。
「あら、なにかしら……あなたはまだ待機」
「……フレイヤ様、自分は」
「解せない…かしら。」
「…………奴は危険です」
「かもしれないわね」
でも、と
「……でも、餅は餅屋っていうでしょ。私は彼らが好きだけど、その扱いは心得ていない。だからこうして裏から暗躍してもらう、それでいいじゃない。」
………それに、彼の目的は私と合致しているもの。
自分の目的は自分だけが知っていればいい。あの子がこの先どうなるか、生まれ持った宿業とどう向き合うのか、その先を見たい。
「……わかりました。しかし、異変に気付けばすぐに対処します。」
「ええ、その時はお願いね。あまり期待はしないけど」
「………」
無言のまま、路地の影に溶けるように姿を消す。
……拗ねちゃって、図体のわりに可愛い子…。
今一度ローブを深くかぶり直し、闘技場へとフレイヤは足を進める。
「ごめんなさいね、ヘスティア。」
あの子が駆け付けるから、大事には至らないはず。だから……
……ちょっと怖い目に合うけど、許して頂戴ね。
残酷にも美麗で、女神は誰の制止も受けず笑いながら駒を進める。
男はベルのもとへ、そしてフレイヤは闘技場へ、オラリオを舞台に仕込みは重々、陰謀によって無慈悲な賭けが開かれる。
……頃合いね。
場所は変わって西口ゲートに
闘技場の裏、番人は魂を抜かれ、無防備な檻にフレイヤは向かう。
頑丈な鎖と高速具に包まれた白髪の大猿。10階層のモンスター、シルバーバック。
大猿は見る。目の前の女神を、おそらく初めて垣間見る本物の神性、だが、知性に欠けた畜生は衝動的な敵意を向ける。殺すべき対象へと牙をむき出し唾液を飛ばし、拘束を破らんと筋肉を膨張させる。
だが
…………怖がらないで
「ーーー……グルゥッ!!!」
大猿は知らなかった。目の前に立つ者こそ、この世界における美の頂点であり、その色香は異性同姓老いも若いも関係なく、心あるすべてのモノを魅了する。当然、その対象が怪物でも、たとえ二足歩行をとる人型に対しても
……おいで、私を捕まえてごらんなさい
魅了のイメージは小さな少女、これでこの子はあの子を求めだす。
これで準備は上作。あとは向こうがうまく計らうだけ。
「ーーーー!!」
……あら、準備がいいこと
気づくと、背後には先程にも見たクラゲ型の小型がぷわぷわと浮いており、すぐにそのまま宙を舞って飼い主のところへと去っていった。
ここから先はあの男の出番、すべてが整えば後はあの子の仕事
賭けの趨勢は少年、ベル・クラネルの手に委ねられる。チップは女神(あの娘)の命、プライズは少年の飛躍、おの男の思惑は知らないが、少なくともあの子の輝きを曇らせることはしないだろう。
………ふふふ、楽しみだわ……さぁ、走りなさい、抗いなさい!……神の悪戯を乗り越えて、貴方は私の愛を賜るの……!!?
⚪
「ベル君を見ていない……?」
「ええ、昨日話して知ってはいるはずなんですが、まだどこにも見かけて……」
「……そうか。入り口で見かけていないなら……あの子は」
「はい、お力に添えず、申し訳ございません。」
……まだ来てないのかな。でも、入れ違いになるのも怖いし
取り敢えず時間を潰そう。そう思い、近くの露天に赴こうとした時、慌ただしく駆けつけた別のギルド服を着た男がエイナの耳元で何か、神妙な顔で報告をしていた。
……何かあったのかな?……まあ、邪魔してもあれだし、僕は……
踵を返し、その場を後にしようとしたその時
「……?」
今……何か、悲鳴が
違和感の方向を探す。人込みの奥、少しずつ勢いを増す大波のように、異変はすぐそばに
「―――!?」
考えるより先に足が動いた。地上いるはずのない、だが今日という日であればこそその存在は表に現れる。強者の手よって縛られるはずのそれは枷から放たれ
「モっ、モンスターだああああああぁあああああ!!!!?!?!?」
黒鉄の拘束を付けたまま、白髪の大猿が眼前に迫ってくる。
「!?……なんで、モンスターが……。」
怒号の雄たけびを上げ、人は散り散りに逃げ続ける。人込みに押され逃げようとしたヘスティアははじかれ足を崩し地面に伏せる。
…逃げないと、早く!
面を上げ、すぐに立ち上がろうとして異変に気付く。
「……みんな、どうして」
周囲の人間がさっそうと引いて、まるで自分がさらし者になっているような、理由はすぐに気づく
「……ぐるぅううう」
「……!!?」
振り返ろうとしたその時、突然に体が締め付けられる。
加減など知らぬ、その大猿の手は掴んだヘスティアを自分の顔へと近づける。はたから見れば捕食の光景に移ったのだろう。
「!?…ぐるぉ」
大猿の背中に鈍い痛みが走る。騒ぎに駆けつけた冒険者が次々に討伐せんと駆けつけてきた。
手には念願の目的が、だがそれを阻止せんと妨害が入る。大猿はヘスティアを抱えたまま闘技場を離れ住宅街へと逃走を測る。
……こいつ、僕をどこに……?
巨大な体躯から来る尋常ではない揺れ、脳がかき乱される不快感に耐えながら必死に周囲を見渡す。
壁面を削りながら狭い裏路地を抜け、気づけばそこは広大な住宅で囲まれたオラリオの迷宮地区、その名もダイダロス通り。
「……!!?」
広い区画につき、周囲に誰もいないことを確認し、大猿は今一度獲物と向き合う。
「ぐるるぅっ……!!」
「!!?」
大猿は魅了され、盲目にヘスティアを奪いここまで来た。だが、ここで矛盾が生まれる。
魅了は確かに大猿を射止めた。だが、モンスターとしての本能、魅了され、相手を求めてその先には何があるか、モンスターに愛はない、恋慕などもってのほかだ。故に魅了の果てにある対象を目前にしてその先がわからない。
わからない故に、モンスターは、シルバーバックはこう結論付けた。
……ああ、なら食べればいいと。
口を開け、その端からは湯水のようによだれが沸き上がる。息を荒く、まるで発情したように、その凶暴な感情が食欲と結びつき、ヘスティアを捕食して晴らさんとする。
「……!!?」
……こいつ、僕を
逃げ場は、いくつか細い路地が見える。だが周囲は無駄に広く、逃げても僕の足ではろくに逃げれもせずに捕まる。
なぜだろう、目の前に死があって、命が終わる寸前で、なぜこうも冷静なのだろう。
「……」
背中に背負うのはヘスティア・ナイフ、だが戦闘とは無縁の自分には到底使えるものではない。
「………ベル、くん」
ああ、ダメだ。考え出したら心が冷え切ってしまう。食われるより前に孤独で消えてしまいそうだ。
なら、どうせ死ぬのなら、このまま何も考えず、こいつに食われて……命を
…ああ、なんて鋭い牙だ。あれに肉も骨も食い裂かれて、きっと最悪の死に方なんだろう。でも、せめて一瞬で、痛みも感じることなく、たった一噛みで命が終わるよう。
そう、祈って
苦しまないよう
最後は、安らかに
「………終わっていいわけ、ないだろ!!」
「……ぐるぅ!?」
ヘスティアは足元に落ちていたガラス片を拾う。割れた瓶の破片と思しきそれは、握る掌に食い込みだらだらと赤い血を垂らす。
「……!!!」
痛い、肉が裂ける痛みを無視してなおもつかんだまま前に突き出す。無駄な行為なんだろう、突然の抵抗で少し止まっているが、その剛腕の一振りですぐに消し飛ぶ抵抗の火だ。
だが、わずかでも、ほんの小さな抵抗の意思が、ヘスティアの運命を変えた。
「………ぐるぁ!
理解できない抵抗に一瞬、ほんの微かな時間の一時停止。しかしすぐにそんな思考は振り払い、剛腕を振り上げられ無慈悲にその拳が叩きつけられんとした、まさにそのとき。
その時、運命は変わる。
「――――――!!!!!!」
けたたましく鳴り響く轟音、それは自身がダンジョンに居た頃にも聞いたことのない猛獣の声、入り組んだ建物に反響し、どこから来るぞわからない轟音の乱反射に、シルバーバックは身構える。だが、その正体は
「!!?……ぐるぅおッ!!」
「…………人の」
上を見上げる、灼熱の光に耐えながら、かろうじて広げる視界には黒い影が迫っている。爆発のようないななきを上げ、黒い影の正体は
ギュイィイイインンッ!!!!?!??
「人の神様に……」
轟音の正体、鋼の体躯を持ったそれは日の光を反射して見事な深紅の輝きを放つ
「ぐ、グルゥオオッ!!?!?!」
「人の神様に……手を出すなッ……!!!」
高速で回転する漆黒の前輪を叩きつけ、顔面の拘束具を弾き飛ばし、落下の衝撃と共に大猿を地面にたたき伏せる。
「ぐるぁ、グルゥォオオオオッ!!!?!?」
ギィイインッ!!!!
高速で動くそれは着地と同時に車体を横にし、地面をえぐるように横向きのまま慣性で移動し続け、ヘスティアの眼前でついにそれは止まった。
「……!!?」
白髪の少年、深紅の目でその子は僕を見るやとても嬉しそうな笑顔で、その手を僕に指し伸ばした。
「…………っ!……助けに…来ました………!!」
「……ベル、くん」
窮地に駆け付け、自分を助けに来た彼の姿、それは何時か彼自身が話してくれた英雄譚のようで
……ああ、僕はやっぱり
直前まで死を覚悟していたはずなのに、こんなに幸せな気持ちでいっぱいになっている、そんな自分がどうにもおかしくて滑稽で、嬉しさで笑みをこぼしながら、ぼくはだらだらと涙をこぼしていた。
……本当に良かった。彼に出会えて、最後まであきらめなくて
「……神、さま……どこか怪我を、って手が!えっと、これを」
袖口をナイフでちぎり、応急処置で傷口に巻き付ける。すると忘れていた痛みが鈍く手に走るが、不思議と布でくるまれるだけであまり気にならなくなるのだ。
「……あ、ありがとう。ベル君、僕は君に」
だが
「ぐがぅ、るぐぁああ!!」
「!?まずい、神様!後ろに」
「!?…えっと、こうかい?」
ベルが少し体を前にひき、その後ろに跨り腰に腕を回す。
「とにかく、ここを離れます。腕、離さないでください!」
「!…いや、その……僕、君に渡したっ!!?」
アクセルを数回ふかし、エンジンに振動が昂ぶり車輪は一気に加速する。すぐ後ろではシルバーバックが両手両足で俊敏に駆け抜け、狭い路地ではなく建物の上から見下ろすように追いかける。
「べ、ベル君!!……なんだか僕、こんな状況なのにすごく幸せに感じるよっ!!!この乗り物最高だ!!!!!」
「か、神様 お願いですから暴れないで、敵はすぐそこですから!!!」
依然窮地のまま、ベル達は逃避行を続ける。だがそれは何時まで持つのか、広大なダイダロス通りで彼らは生きるために抗うしかない。
だが、それは退路が続く限りまでの時間稼ぎでしかなく、確実に死の脅威は眼前まで迫ってきているのだから。
次回に続く
以上、続きは明日に。
次回からベル君の覚醒フラグビンビンです