時間を少しさかのぼって、ローブ男がベルの前に現れたその時
「………!!」
「早くいけ、貴様にはその術がある。」
剣を突き付けたまま男は視線を横に向ける。
「!」
「銘は、マシンキバーだったか……今の持ち主は貴様だ」
突きつけた剣先が縮み柄の中に収納される。拘束が解放されベルはバックステップと同時に再度ナイフで身構える。
「!?……お前はそれを知っているのか!」
「……。」
質問に答えない。赤い刃を収めた道具を懐にしまい、男は影の中に消える。
「!!?」
見間違いじゃない。消えた、まるで元からそこに居なかったように……!!
「……ミアハ様!」
「!?……あぁ。」
ベルの一声で我に返る。心配そうに見つめるナァーザに構わず、緊張な趣で口を開く。
「……奴の言っていたこと、間違いなく本当だ。神である我らに嘘は通用しない、ヘスティアに死の危険が迫っている。……だが」
「信用は…できないと」
「……ああ、少なくとも、奴はお前ひとりを行かそうとしている。ここは、他の冒険者を募り、しかるべき準備を……」
「………」
ミアハ様の言うことは正しい。だが、それでも
……あの男、目的も正体も不明だけど……嘘はついていない。
何故だろうか、神と違ってただの人である自分に明確な正否の根拠はない。だが
「………。」
これが奴の思惑通りでも、僕に選択肢はない。今本当に命の危機が迫っているなら、一刻も早く駆け付けるべきだ。
「……時間が惜しい……けど、これなら」
ベルはバイクに……いや、奴が言っていたマシンキバーに近づく。その行動にミアハは
「!?……ベル、お主まさか」
「……すみません、忠告は理解しています。けど、僕は神様のもとに」
「何を言っている、仮に奴の言葉が真実でも、行先はダイダロス通りだ!やみくもに探してもあの迷宮地区を一人でなど、それに…それは……!!」
「……はい。ですが」
確かに、結局昨日の夜僕はこれを動かせていない。だけど、こいつの速さが無いとすぐに目的地にはたどり着けない。
「………」
ハンドルの真ん中下にある鍵の挿し口、白く濁る水晶の装飾が付いた鍵を僕はもう一度そこに挿し込む。
「………」
…ドルルルルッ!
エンジンが鳴り響く。以前ならここですぐに消沈し、また動かぬガラクタに戻る
だが、たとえそうだとしても
「……動け」
一回、二回と、鍵を捻るたびにエンジンが震えるが、すぐに消沈しようとする。
……頼む、止まるな!お前が動かなかったら神さまが!……あと一回でいい、この一瞬だけでいいんだ、だから
「動け……マシンキバー……、お前が必要なんだ。頼む!!」
もはや祈りともいえるベルの思いに
―――――……ッ!!ドルッドルルルルルッ…ブブルォォオオオ!!!!!
「な、これはッ!?」
「…………よし」
振るえる鉄の鼓動、それは主の意思に答えるがごとく、エンジンは爆発のような雄たけびを上げる。排気管からは青白い残滓が溢れて空気を揺らがし、まるで生物のように産声を上げた。
……いける!!
ハンドルをつかむ、機構もわからない教わった覚えもない。だが、これに触れると不思議と何かを思い出す。
初めてこれに乗る時、乗り方を模索するというよりも、それは古い記憶を少しずつめくり見るような、だから数日もしないうちに僕はこれを走らせることができた。
「……」
エンジンは依然いななき続ける。だがこれだけでは動かない。久々の操縦、けれども依然問題ない。
「…ベルよ、お主」
「………。」
自分が何者なのか、よくよく考えれば不思議なことだ。このバイクしたってそう、祖父のことも、自分自身のことも、気にしだせばそれはキリがない。あの夜に見た光景は、寝ぼけた妄想などではなく、きっと……
「……っ!!」
けれど、今はそんなことはどうでもいい。今ここで、僕にできることが、僕にしかできないことがあるなら…
「ドルルゥッ!、ドルルルルルルルッ!!!」
今ある僕のすべてを使ってでも、全力でやるべきことを成す、ただそれだけだ……!!
「ミアハ様、ナァーザさん、そこをどいてください」
バイクを押して教会の外に出る。エンジンは未だ止まらず、前日まで動かなかったのが嘘のように鋼の心臓はけたたましく鼓動を上げている。
「……お主、行けるのか……?」
「………はい」
手でクラッチを、足でギアを入れそして離す。ギアが入り、蓄積された動力は車輪に向かう。
ゆっくりと確実に、バイクは前に進む。旅路で駆け抜けた、あの風を切る記憶がベルの中によみがえる。
「……行きます。」
ギアをさらに加速させアクセルを噴かす。バイクはすぐに速度を上げ、爆音とともに路地を駆け抜ける。後に残されるミアハたちはただ茫然と、彼とその主神の無事を祈るしかない。
「ミアハ様……ベルは」
「信じるしかあるまい。もとより覚悟を決めた男の決意だ……私たちは祈るしかないのだ。」
〇
「神さま、後ろは…!!」
「……まだ向かってくる、あいつどうやら僕に惚れ込んでるみたいだ!!」
「!?……とにかく、今は逃げます。次、左に大きく…体を合わせてください!!」
宣言してすぐベルはフロントのブレーキで地面に食らいつき、高速で曲がり角を抜ける。
頭上では未だシルバーバックが追いかけ続け、ベル達は依然後手に回っていた。
……まずい、このままじゃいずれ
ベルがバイクに乗り、ここに来る道中迷うことなくヘスティアのもとに着けた。入り組んだ迷宮の地区を迷うことなく駆け抜け、間一髪のタイミングで一撃を見舞えたのも、ひとえにその研ぎ澄まされた超感覚がある故だった。
バイクに跨り風を切りながらも、ベルは迷うことなく人込みも裏路地だろうと関係ないとばかりに、全てをノーミスで駆け切った。
その感覚は依然ベルの中で機能している。まるで頭上に もう一つの目があるように、知りえない地形をミスすることなく全て承知のごとく駆け抜ける。
だが
「くっ!……あいつ、道を」
ベルが行く先、その道を先行して先回りしようと大猿は追いこみ、時には建物を倒壊させ逃げ道をふさぐ。
泣く泣くルートを切り替え振り切ろうにも
……道が、狭い!
いかな高機動とはいえ、複雑に入り組んだ道では限界がある。多くの曲がり角を超えるにはスピードを落とさねばならなず、その減速がまさに致命的であった。
「ベ、ベルくん……ここからどうするんだい」
「あいつを振り切るにはここを抜けないと。ダイダロス通りから脱出します……!」
今ここで居続けてもいずれは追いつめられる。ならば、選択肢があるうちにここから脱出せねば。
角を抜け、階段を下った先、ダイダロス通りを抜ける直線に差し掛かった時
「!?」
ギュィイイイッ!!
急停止する。ここをまっすぐ抜ければすぐに出られる。だが、その先は
「……神様、ダメです。この先は」
メインストリート、未だ騒ぎを知らない見物客がひしめくその場所に、このままモンスターを引き連れて逃げるわけにはいかない。
「ベルくん…どうしよう、これじゃあ」
「……何とか振り切ります。とにかく今はあいつから身を隠せるところに「グゴォオオ!!!」…クソっ、考える暇もないのか!!」
来た道を戻り、別のルートへ逃げ込む。
「グゴォオオオオオオ!!!」
「!?」
失敗だった。選んだ道は幅があり、バイクも十分にスピードが出せると踏んでの判断だった、だがそれは奴も同じこと。
路地に降りて、奴は直接僕たちを追い詰めようとしている。しかも、危険はそれだけではない。
「!?…しっかり掴まってください、回避します…!!」
ハンドルを捌き左に右へと蛇行する。敵は地上に降りたことで妨害をより直接なものへと変えた。
……あいつ、拘束の鎖で……!!
「!?…あぶない!!」
右手に着いた鎖を鞭のように使い、リーチを伸ばした一撃をすんでのところで回避する。
……不味い、この先は……
通りを抜ける、だがそこには
「……行き止まり、ベルくん!?」
「……ッ!!」
「グルゥオオオ……!!」
もはや逃げ道はない、勝利したと言わんばかりに、大猿は不敵な笑みを浮かべている。そのように見えるだけで違うかもしれない、だが、その大口から垂らす唾液と荒げた呼吸はまさに獲物を前にした捕食者の余裕そのものだ。
「……くっ」
バイクから降りる、エンジンを切るのも忘れ、僕は護身用のナイフを逆手に構える。
……どうする、どうすれば
敵は十層のモンスター、第六層までの自分ではきっと歯が立たない。しかも今は防具も回復薬もない。勝ち目は見えない、だが、それでも神様だけは
辺りを見渡す、そして背後の一点、そこに好機はあった。
「!…神さま、こっちへ」
ベル達がいる場所、貯水施設の広場であり、その端には人一人分が通れそうな上水道の入口があった。
「!」
敵はそれを許すまいとすぐに向かってくる。僕は逃走中に拾っておいた魔石等を限界まで出力を上げて眼前に放り投げる。それが閃光弾の役割をしている間に僕は神様を入り口に押し込んだ。
「ベルくん、何を」
「こうするしかないんです。神様が逃げ切るには、誰かがこいつを足止めしなければいけないんです」
そう言い残し、ベルは錠前のカギをつぶす。変形したそれは誰にも開けられなくなる。
「ベルくん、ベルくん!!」
「大丈夫です、騒ぎが広がって、きっと他の冒険者も駆けつけます。だから!!」
拳の一撃、鎖で重さを増したそれは後ろの壁面を破壊する。
……神さまはまだ、ここに居たら逃げてくれない。
僕はその剛腕を足場に駆け上り、奴の眼前に跳躍する。突然のことで反応が間に合わないのか、隙が生じたその瞬間、僕は奴の頬をナイフで切り裂いた。
「グルゥオ!!、ルガァアアアアア!!!!!」
切り裂かれた頬からは歯肉が露出し血が流れ、怒りと混じってより醜悪で凶悪な容貌を示す。
……これでヘイトは移った。
あとは、怒り狂う隙をつき、僕は再びバイクに跨る。クラッチを捻りギアを上げすぐに加速する。
……ここではだめだ。もっと、広い所で
〇
「グルゥウウウ……!」
「はぁ、クソ……!!」
そこは最初にこいつと会敵した場所、そこでベルの逃走劇は終わる。
いくらアクセルを回しても、これ以上エンジンが温まらない。それどころか、異様なほどに虚脱感を感じる。
もしかしてこれ、僕の力を吸って……クソッ!ここまでなのか……!!
思考に靄がかかったような、どこか体力が抜けきった感覚にベルは苦言を吐く。だが現実は変わらない。
逃走の手段がなくなった今、僕に残された選択肢は
「………これ以上、逃げられないなら……!」
……戦うしかない。……今、ここで!!
ナイフを構える。先ほどは不意打ちで傷を与えられたが、この武器でどこまで通じるか
「それでも、やるしかないんだ。」
怒号を上げ、黒鉄の一撃を剛腕から放つ。間一髪でかわすが衝撃は確実にベルにダメージを残す。
「……!!」
踏み込む、狙いは敵の魔石。急所に向けてはなった一撃は
「ルガァ…」
「!」
刺さらない。強靭な筋肉と剛質な毛皮に切っ先すら入らない。
「グルァ!」
「!?」
距離を突き放し、股を抜けて背後に回る。敵はその剛腕でこちらを掴みにかかる。まともに捕まったら一巻の終わりだ。故にベルの取る最善手は懐の死角を利用した回避
……でも、どうする。……このままじゃ、いずれ
対抗策がない。攻撃は通らず、皮膚の薄い箇所は怒りを助長させるだけで致命傷に届かない。
一方で相手はこちらに一撃入れればいいだけだ。その剛腕の一撃が叩き込まれれば、防具のない駆け出しの耐久ではひとたまりもない。
どうすれば、逃げるにも今背後を見せれば確実に捕まる。だけど
八方ふさがりだ
すでに手段は残されていない。蛮勇をもってしんがりを引き受けた。だが、次第にベルの中である感情が芽生える。
…死にたくない
ほんの少しでも、頭の中で言葉を浮かべてしまった瞬間
「………くッ!!」
……考えるな、今は回避することを……!!
刹那の中、ほんの一瞬の気をそらした瞬間、動きのラグを、拘束越しの眼光は見逃さなかった。
左腕の一撃、とっさに回避する。間一髪でそれる一撃は
…ガキンッ!!
左手の残る拘束具が砕け、その一部の鎖が一撃の射程範囲を広げる。
……防御を!!
しかし、間に合わず
「ぐはっ……ぁ」
黒鉄の一撃はベルの胴体を巻き取るように、重厚な一撃をもって側面の壁に叩き伏せた。口から漏れる大量の吐血、動こうにも骨が臓器に刺さっているのか、鋭く残り続ける痛みがベルの行動を阻害する。
「……!!!」
……まだだ、あいつはまだ
負傷で動けないベルにとってそれはまさに絶望的だった。一撃を叩き込み、敵は興奮で雄叫びを上げる。死にかけの獲物を弄ぶことで愉悦に浸っているのか、ゆっくりとしかし確実にベルの命を手折ろうと近づく。
〇
痛みで意識が曇る中、ベルの脳裏ではただ冷静に状況を判断する。
ああ、自分はここで終わるんだと
明確な死だ。あのミノタウロスの時と同じ僕は何もできずに死ぬ。誰も助けは来ない。
そんな時に限ってあの人のことが浮かぶ。でも、どこまで行っても現実はひどく残酷だ。アイズ・ヴァレンシュタインはここにはいない。
未練がましく僕は思ってしまった。せめて、もう一度会いたかった。かなわない願いでも、最後ぐらいは夢を見させてほしい。
「グルゥウ…ルガゥ……」
じりじりと死が迫る。すでに目も見えない、感覚もない
……ああ、結局ハンカチだって返せていない。助けてくれた礼だって言えていないんだ。
……いや、そんなのは嫌だ。僕はあの人に感謝を伝えたいアイズさんだけじゃない。僕はまだいろんな人に迷惑をかけて、優しくされて、けどその借りは全く返せていない。
「……神、さま」
せめて、僕が稼いだ時間が無駄になって欲しくない。それだけが救いだ。神さまが生きていてくれるなら、この一瞬さえもすべて価値あるものとして終われる。
……そう、終わるんだ。ここで、ぼくはもう
でも、なんでだ
なんで、ぼくはここで終わろうとしているんだ……?
そうだ、僕は死にかけて
何でボクハ死にカケていルンだ
ソウだ、アイツだ。…アのモンスターのセイダ
ジャア、ドウスレバイイ
アノトキトオナジダ、ハラヲツラヌカレタトキトオナジ
「………」
……ああ、そうか。今の僕が全く通用しないなら
〇
「……グルゥアア」
気が付けば、敵はすぐ眼前に迫ている。ベルの腕をつまみ上げその胴体に牙を向ける。肉を裂き、はらわたを食いちぎる、そんな思惑で大口を近づけた時
「……おい」
「ル、ルガァ……」
自分を掴み上げる指にもう片方の手で触れる。指とはいえ、成人した人間の腕と見間違うサイズのそれを
『離せ……!』
「―――ッ!!?」
あろうことか、ベルは怪物の指を素手で握りつぶした……!!
肉と骨をえぐるように砕き、指は半ばで切断されたようにかろうじて残っているだけだ。血が噴き出し潰しきられた断面に目が行って、ようやくシルバー・バックは現実を認識する。
「ンガァッ!…るぐぁっ、グルゥァアアアアアッッ!!!?!?!?」
『うるさい、わめくな……』
かすれた声で、しっかりと告げる。
らしくない強気な口調で、まるで自分が位の高い存在になったような
拘束から解放されたベルはその場にたたずむ。いつのまにか胴体にある傷は癒え、その顔面にはステンドグラス状の文様が広がっていた。
……不思議だ、痛みも何も感じない。
「グルゥア……!!」
身構える、敵は急な変貌にこちらを警戒している。
「…………」
構える。獣のように爪を立て、大口を開いた顎のように開けた構えを取る。ナイフを持たず肉体のみで戦う、普段なら取らないスタイルだが、不思議と今の自分にはこれが合っていた。
「!」
拳をふるう。また鎖の一撃が飛んでくる。
「……ッ」
大猿は警戒していた。自分の指をつぶしたその力、その華奢な体躯にはありえない握力を、故に戦法は距離を維持するもの、鎖の一撃でもう一度奴の腸を抉る
だが
「ルガァ!!」
鎖など意に介さず手の甲でわずかにはじく、それだけで鎖の一撃は逸れる。
瞬間、ベルは懐に飛び込み、跳躍と同時に敵のアギトを蹴り上げる。
「――――!!?」
視界の光景は白紙となる。脳を揺さぶられ、意識が機能しないその好機を
…グシャンッ!!
身をひるがえし、垂直に振り下ろされる渾身の蹴り、踏ん張りのない空中だろうと関係なく衝撃で顔面は砕かれ、シルバーバックは地に伏せる。
「ガッ、ルガァアアアアッ!!?!?」
先ほどの感触、顔面を抑えて悶えている姿、どうやら鼻骨を砕いたようだ。神経が集中する鼻先のダメージは大抵の獣にとって致命的だ。
今なら隙だらけだ。中心を貫き、魔石を砕けばそれですべてが終わる。
……そうだ、これで終わる。僕も神様も生き残った。ぞして、次の
「次の……」
……次に、何を倒すっていうんだ……!
ふとよぎる違和感、戦闘の高揚感なのか、まるで自分が戦闘狂になったみたいに
……違う、いまするべきはそうじゃない。こいつを倒して、神様のもとに
コロセ
……もう終わった。戦いは終わったなら、もうこの力は
コロセ、コロセ
「違う!僕は、神様を守るために…」
コロセ、キモチイ
ウバウ、キモチイ
「違う!望んでない、望んでないんだ!!……僕は、こんな力」
顔の文様が次第に広がり、それは手や足に……次第に背中のステータスにまで
……止めろ、もういい。こんな力は、いらない!!!
「グルァ…。」
ベルが苦しむすきに、ダメージから回復したシルバーバックが起き上がる。
「!!?」
醜悪な顔が眼前に迫る。拳を振り上げて、一撃で葬る気なのだろう。
……躱さなければ、でも
「ぐっ…くぅ」
体をむしばむステンドグラスの文様、その進行に耐えようと全身に激痛が走る。
このままじゃ……僕は、もう
その時
「――ベル君!!」
時が止まる
暗くよどんだ意識の中、たったひと声が僕の世界を正常に釣り上げたのだ。
「神、さま…」
「グルぅ……」
……マズイ!!
標的を見つけ目標を切り替えたそいつは、神様めがけてとびかかろうとする
「……させるかぁ!!!」
動かなかった体に血が通う、瞬時に跳躍し奴の頭部にしがみつき、護身用のナイフを眼球に突き刺した。
「----ッ!!!?!?」
声にならない声で怒号を上げる。振り下ろされるが、痛みでもがく隙に僕は神様を連れて裏路地の物陰に潜んだ。
「……はぁ、くっ!!?」
痛みが戻る、既に全身に広がる文様が精神と肉体をむしばんでいく。まるで、自分の体が別の生き物になるみたいに。
「ベ、ベル君それは……」
「!?……み、見ないでください!……こんな……こんな姿」
……こんな、化け物みたいな
「僕は…僕はッ……!!」
「………ベル君」
「!?……ッ、そんな、ダメです離れてください!だってぼくは」
ヘスティアはベルを抱きしめた。怯え、混乱する我が子を、その見た目の変貌など一切気に介さず、ヘスティアは抱きしめたのだ。
「神、さま……」
「大丈夫だよ、君は君だ……僕にとって、君はベル・クラネルという個人だ。それでいいんだ」
「………!!!」
文様が引いていく、手足と顔はすっかり依然と同じで、違いがあるなら、その幼い泣き顔だろう。
「もう、男の子なら泣くんじゃない。まだ戦いだって終わってないんだ」
「……ッ!…でも、ぼくには」
結局、素の力ではあいつにかなわない。また追い詰められて、そして
「………僕には、もう何も「いや、手立てはある」…!?」
「今からステータスの更新をする。今の君が出せる本当の力をぶつけてやれ…!」
「でも、たとえ強くなっても、僕の攻撃じゃ…」
ナイフは通らない、そのナイフもさっきのどさくさで無くしてしまった。
「もう、君は何時からそんなに卑屈になったんだい。」
背中に巻いた風呂敷を解く。その中身を、ヘスティアの願いをついに
「これをきみに託す。こいつであのモンスターに打ち勝つんだ……!」
「……これは」
次回に続く
次で怪物祭編のラストです。