STAR LIGHT デビューってなんだっけ編 作:aiyamamiyu
葉月怜が近所のダンススクールに通い始めたのは、小学五年生のときだった。
友達と遊びに行ったり外に出て運動したりすることが少ない内気な息子を心配し、母親が連れて行ったのだ。
しかしスクールには、小さい頃からダンスを習ってきた子供が多かった。
そのため怜は、同年代のレベルの高さや、小さい子供に混じって初歩的な練習をすることにすっかり気後れしてしまったのだった。
休憩時間に部屋の隅にひとり座っている怜を見かね声をかけてきたのが、同じスクールに通う松田凛だった。
「おつかれさま。
隣座っていい?」
「あ、うん。」
「私、松田凛っていうの。
あなたは?」
「葉月怜。」
「怜くんは最近スクールに入ったの?」
「うん、今日が三回目。」
「そうなんだ。
私は三年生の時に入ったから、三、四、五…今年で三年目かな。」
凛がゆびおり数えて言った。
「へー二年も習ってるんだ…。
今五年生なの?
僕も五年生なんだ。」
「そうなの?
じゃあ、同じグループになることあるかもね。
これからよろしく。」
「うん、よろしく!」
最初はこんな会話から始まった。
それからは、休憩時間に学校であったことを話したり、レッスンで習った難しい動きを凛に教えてもらうようになった。
ある時、こんな話になった。
「なんでスクールに入ったの?」
凛が尋ねてきた。
「運動になるし、友達も出来るだろうってお母さんに言われて。
確かに運動にはなるけど友達はあんまり出来てない…。」
「うーん。
通ってたらそのうちできるんじゃないかなー。
練習中に分からないところがあったら近くにいる子に聞いてみたらどう?」
「うん。
凛ちゃんはなんでスクールに入ったの?」
「私は、ある人に憧れてダンスを始めたの。
森山日向ちゃんって知ってる?」
「もちろん知ってるよ。
歌うまいよね。」
「うん!
歌も踊りもできるし、本当にかわいいんだよね。
あの笑顔を見るとなんだか暖かい気持ちになるの。」
凛は目をキラキラさせて日向の魅力を語っていて、本当に日向が好きなんだということがひしひしと伝わってきた。
怜は、歌番組で見た日向のパフォーマンスを思い出していた。
確かに日向という名前に負けず、周りの人を笑顔にさせる明るさをもった人だなと思った。
「凛ちゃんも歌手目指してるの?」
「うん、小さい頃から歌うことは好きだったんだけど、日向ちゃんとか日向ちゃん世代の子たちが歌って踊ってキラキラしてるのを見て、私もこうなりたいなーと思って。
あと…。」
「?」
「日向ちゃん、子供の頃喘息だったんだって。
私も、最近は発作でてないけど小さい時から喘息で、昔はよく病院に行ってたんだ。
冬は学校休むこともあって親とか友達から心配されてた。」
「そうだったの?」
「でも、日向ちゃんみたいに喘息でも輝いている人がいるって知って元気づけられたの。
私が日向ちゃんみたいになって、周りの人が喜んでくれたり、見ている子供たちが励まされたりしたらいいなと思って歌手を目指すようになったんだ。」
「そうなんだ…。
そんな目標持ってるなんて知らなかった。
でもなんでダンススクールに入ったの?」
「テレビではあんまり披露しないけど、日向ちゃんはクールなダンス曲も持っててライブではカッコイイパフォーマンスもしてるんだよ。
私もカッコイイ曲好きだし、歌手でも振り付けのある曲歌っている人いるよね?」
「あー確かに。
ダンスができたら役立つことあるかも。」
「でしょ?」
「うん。
…。
僕も凛ちゃんが歌って踊ってるの見てみたいな。
凛ちゃんなら、周りを明るくするパフォーマンスができると思うよ。
スクールでも凛ちゃんとはみんな楽しそうに喋ってるし。」
「ありがとう。」
そう言いながら凛は照れたように微笑んだ。
状況が変わったのは、約二年後のことだった。
凛の祖父母が高齢のため農作業をすることが難しくなり、長男である凛の父が実家に戻ることになった。
中学校入学と同時に空気の綺麗な場所に引っ越すのは、凛のためにもいいのではないかということで、家族で引っ越すことになった。
ダンススクールを辞め、慣れ親しんだ町を離れることを凛は望んでいなかったが、子供がひとりで東京に残るわけにもいかない。
凛のことを思っての決定だということは分かっていたので両親に抗議はしなかった。
凛が引っ越すようだとスクールの仲間から聞き、怜は驚いた。
そして、歌手になるという夢はどうなるのだろうと思った。
関東ならまだ東京のスクールに通いやすいが、凜の祖父母の家は近畿の田舎にあった。
「何とかならないの?」
今更変わらないと分かっているが、一応凛に聞いてみる。
「うん、もう決まったことだから。」
あっさりと返された。
「そっか。
引越し先には、歌とかダンスの教室はあるの?」
「うーん。
山と田んぼに囲まれたところだからたぶんないと思う。
町まで行ったらあるかもしれないけど。」
「そうなんだ…。」
「…。」
しばしの沈黙のあと、凛がこう言った。
「私の夢のことを心配してくれてるなら、こうしてくれたらいいな。」
「なに?」
「私が東京に戻ってくるまでに、怜は芸能事務所のオーディションを受けて、できれば有名な事務所に合格してほしい。」
「芸能事務所のオーディション?」
いきなりオーディションの話をされ、怜は戸惑った。
「うん。
そして、どんな履歴書なら面接に進めるか、面接ではどんな人が審査員に気に入られるかを見て教えて欲しいの。
面接のコツみたいなのが分かれば、早く合格できるかもしれないじゃない?
事務所に入ったら、どんな風に仕事が決まるのか、事務所にはどんな人達がいてどんな仕事をしているのかを教えて。
将来の事務所選びに役に立つかもしれない。」
「なるほど…。
分かった。
やってみる。」
「ありがとう。
じゃあ、電話とかメールで教えてね。」
「うん。
でも、事務所って簡単に入れるものなのかな?」
「有名なところは難しいだろうね。
怜の顔のかわいさは写真で分かっても、会ってもらわないとダンスの実力は分からないしなー。
どうやったら履歴書でアピールできるんだろう…。
まあ、これからゆっくり考えていこう。
まだまだ小学生、これから先は長い!」
凛が笑顔で言った。
こうして怜は、凛のため芸能界に潜入することになった。