STAR LIGHT デビューってなんだっけ編 作:aiyamamiyu
凛が引越した後、怜はダンススクールに通いつつ、芸能事務所に履歴書を送る生活をしていた。
中学一、二年の頃はよくオーディションに応募していたが、目立つ経歴のない中学生の履歴書が事務所の目に止まることは少なく、面接に進むことはまれであった。
面接に進んでも、「絶対この事務所に入ってやる」というような熱意がないことが審査員には分かるためか、不合格が続いていた。
怜はオーディションに落ち続け、やはり自分は表舞台に立つような人間ではないのだと思うようになった。
そのうち、オーディションに応募することも、凛と連絡をとることも減ってきた。
ダンスについては、最初は渋々始めたものだったが、ある程度踊れる様になると楽しくなり、練習をしているうちに上達していった。
一方、凛は自然豊かな町でそれなりに楽しく過ごしていた。
しかし、中学一年の終わり頃に、憧れの存在だった森山日向が引退を発表した。
日向はここ数年、今までを振り返るような曲を出したり、満足そうな表情を見せることが増えたりしていたため、引退するのではないかと凛は薄々予感していた。
しかしいざ発表されると、やはりショックや寂しさを覚えた。
日向に会うことも夢の一部だったため、歌手になりたいという意欲は昔より弱くなっていた。
怜と凛が中学三年生になった頃、大きな変化が生じた。
あるライブハウスでのイベントに、バックダンサーとしてダンススクールから数人が派遣された。
怜もその中に含まれていた。
イベント終わり、三十代くらいの男性が怜に声をかけてきた。
STAR RIGHT芸能事務所の社員で、パフォーマンスを見て興味を持ったという。
スターライトは有名なボーイズグループをいくつも作り出している事務所だ。
怜は、有名すぎる会社は競争率が高いだろうと思い、スターライトには履歴書を出していなかった。
いきなりスターライトの社員だと言われても信用できなかった。
しかし、もし本当ならすごいチャンスだという気持ちもあり、指定された日にスターライトの本社ビルに行ってみた。
都心にある立派な社屋に着くと、ライブハウスで声をかけてきた男性がロビーにいた。
応接室で、しなやかなダンスや若いのに影があるところに惹かれたという話をされた。
こんな大きなチャンスを逃す訳にはいかないので、スターライトに入ることに決まったが、いまいち現実感がなく夢を見ているような気分だった。
東京から京都まで新幹線で二時間、さらに電車に一時間揺られた後、三十分程歩くと、凛の住んでいる家が見えてくる。
スターライトに入ったことは重大な変化なので、電話で話すより会って報告するのがいい気がし、怜は凛に会いに行くことにした。
玄関のチャイムを鳴らすと凛が出てくる。
会うのは二年振りだったが、よく電話やメールをしていたので、久しぶりに会ったという感じはしなかった。
「久しぶり、怜。
本当に駅まで迎えに行かなくてもよかったの?」
「携帯で地図見れば分かるから大丈夫。
まあ、三十分ひとりで歩くのはちょっと退屈だったかな。
毎日あの距離通うのは大変そう。」
「うん。
私は自転車で駅まで行ってるから歩きよりはいいけど、それでも夏とか雨の日は大変だよ。」
「背伸びたね」などと言われながら、庭に面した和室に通される。
「それで、話っていうのは何?」
凛が尋ねた。
「実は事務所に入ることになって。」
「えっ、そうなの?
すごいじゃん!
あれ?
最近オーディション受けたって言ってたっけ?」
「オーディションに受かったわけじゃなくて、ライブのバックダンサーをした後に事務所の人に声を掛けられて入ることになったんだよ。」
「スカウトってこと?
大丈夫そうな事務所なの?」
凛が心配そうに尋ねる。
「…。
実は、スターライトっていうところなんだけど。」
「え?
スターライトって、有名なグループがいっぱいいるあの、スターライト?」
「うん。
あのスターライト芸能事務所。」
本当のことを話しているのに、なんだか疑われているような気分になってきた。
「うそ…。
え、どうするの?」
「どうするのって言われても。
いきなりこんなことになってこっちも驚いているんだよ。
自分で事務所に入ること提案しといてそんなに驚かないでよ。」
「あ、ごめん。
最近オーディションの話聞かないから、もう関心なくなったのかと思ってた。
がんばってたんだね。」
「別にあやまらなくてもいいよ…。
スターライトに入ったことで言い合いになる人たちなんているんだな。」
怜は苦笑した。
「…。
そうだね。」
喜んでくれるかと思って来たのだが、なんだか暗い雰囲気になってしまった。
「まあ、とにかく、スターライトでしばらく頑張ってみることにしたから。」
「うん。
応援してる。」
結局凛の家には一時間もおらず、怜はまた、四、五時間かけて東京の家に帰ったのだった。