STAR LIGHT デビューってなんだっけ編   作:aiyamamiyu

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Blue Moonのデビューまで一週間を切った。

 

 

その日、予定がなかった凛は、野菜の袋詰めを手伝っていた。

 

 

作業中は耳が暇なので、いつもラジオがついている。

 

 

黙々と作業をしていると、ラジオDJの声が不意に耳に入った。

 

 

「スターライトから新しいグループがデビューということで、どんなグループになるのか楽しみですね。

 

それではお聞きいただきましょう。

 

来週水曜日発売です。

 

Blue Moonで『宵闇』。」

 

 

和風の綺麗なメロディーが流れ始めた。

 

 

ニュースのエンタメコーナーやテレビCMで一部分聞いたことはあったが、曲だけをしっかり聴くのは初めてだった。

 

 

月が輝く舞台である夜が始まることを示す歌詞に、デビューして広い世界に旅立つ怜と永遠の姿が重なった。

 

 

怜のデビューについては、今までごちゃごちゃとした思いを持っており、あと一週間もせずにデビューするこという実感もなかった。

 

 

しかし、ラジオから怜と永遠のデビュー曲が流れているという状況に直面して初めて、怜はスターライトからデビューするんだ、もう研修生ではなくなるんだということがすっと腑に落ちた。

 

 

デビューを受け入れられると、少しずつうれしい気持ちが湧いてきた。

 

 

ダンススクールに通っていた頃のこと、スターライトに入ったときのこと、今までの様々なことを思い出し、涙がにじんでくる。

 

 

「宵闇」が流れたのが、祖父母が畑に行っているときで良かった。

 

 

涙ぐんでいるのを見られたら心配される。

 

 

凛は、手袋を外して涙を拭った。

 

 

「怜に晴れやかな心でおめでとうと言おう」と決めた。

 

 

 

 

 

その夜、凛は怜に電話をかけた。

 

 

「もしもし。」

 

 

「怜、今大丈夫?

 

もう仕事終わった?」

 

 

「うん、終わったよ。」

 

 

「あの、デビューおめでとう。」

 

 

「あ、ありがとう。

 

どうしたのいきなり。」

 

 

怜が少し戸惑って尋ねた。

 

 

「電話では言ってなかったなーと思って。

 

今日、ラジオで『宵闇』が流れててね。」

 

 

「へー、もうラジオでも流れてるんだ。」

 

 

「うん。

 

『宵闇』聞いてて、本当にデビューするんだな、デビューできて良かったなって、なんかじーんときちゃった。

 

…。

 

実は最近、怜に夢押し付けちゃったなとか負担かけてたなとか考え出して。

 

 

今更気づいたのかって感じだよね。」

 

 

凛は緊張しながら打ち明けた。

 

 

「そうなんだ…。

 

こっちは別に、押し付けられたとか思ってないよ。

 

うーん。

 

なんて言ったらいいかな。

 

凛なら歌手になれるとか簡単に言っちゃった責任みたいなのはちょっと感じてて、それはオーディション受ける理由のひとつだったかもしれない。

 

ただ、事務所に入るきっかけは凛だったとしても、研修生を続けたのは自分が続けたいと思ったからだよ。」

 

 

「本当?」

 

 

「そうだよ!

 

スクールのとき楽しく踊れたからダンスが好きになったんだし、そのおかげでスターライトにも入れたんだから、感謝してるよ?」

 

 

「そうだったらいいけど…。」

 

 

「うん。

 

むしろこっちこそ、凛に冷たい態度とったり、全然連絡しない時期があったりしたこと悪かったなって、今になって思ってるよ。

 

あの時はごめん。」

 

 

今度は怜が謝ってくる。

 

 

「大丈夫、気にしてないよ。」

 

 

「そう?

 

そういえば最初は、凛の将来のために事務所とか仕事の仕組みを伝えるって言ってたよね。

 

結局、何かに出演するって情報ばっかりで、凛が知りたかった情報は送ってなかったかも。」

 

 

怜が昔の約束を思い出して言った。

 

 

「あー、言われてみればそうだね。

 

でも、ちょっとは知れたよ。

 

歌番組の裏側とか知れて面白かった。」

 

 

「なら良かった。」

 

 

「うん。

 

でも、今までは撮影とかライブの裏話聞いて体験したような気になってたけど、最近益々活躍している怜を見てたら、私もあんなキラキラした場所で歌ってみたいって気持ちがでてきた。

 

せっかく歌もダンスも続けてきたんだから、これからも関係あることしていきたいな。」

 

 

「お、ついに凛が歌手になる?」

 

 

「ふふ、まずは、秋の引退までダンス同好会の活動頑張らないと。」

 

 

 

 

 

「なんか、こんなに長く話したの久しぶりだね。」

 

 

ふと、凛が言った。

 

 

「確かに、最近忙しくてきちんと話せてなかった。

 

話し合うのって大事だね。

 

なんか楽になった気がする。」

 

 

「私も。

 

これからはちゃんと話そう。」

 

 

「うん、そうだね。」

 

 

 

 

Blue Moonデビューの日。

 

 

怜は、ライブ会場にいた。

 

 

三年前この会場で迷っていた時、永遠と初めて話した。

 

 

あれから何度かここのステージに立ってきたので、今はもう迷ったりしない。

 

 

リハーサルが終わり、控え室に戻った。

 

 

「お疲れー。」

 

 

永遠が控え室に入ってきた。

 

 

「お疲れ様。

 

いよいよだね。」

 

 

「うん。

 

僕と怜だけがメインのステージってなんかまだ違和感あるなー。

 

そのうち慣れるのかな。 」

 

 

「そうだねー。

 

前で踊ってる人いないから、振り付け飛んじゃったらどうしよう。」

 

 

「もしかしたら、周りに人がいないと間違えたの分かんないかもよ?

 

それに怜、最近調子良さそうだからテンパらないで対応できそう。」

 

 

「調子良さそう?」

 

 

「うん。

 

なんか吹っ切れた感じ?」

 

 

「あー、そうだね。

 

永遠が会見で言ってたような感謝の気持ちも関係してるかも。」

 

 

「感謝?

 

何があったか分からないけど、デビュー前に元気になってくれて良かった。

 

じゃあ、今日も楽しみますか。」

 

 

「うん。」

 

 

 

 

 

凛は、ライブ会場に向かい歩いていた。

 

 

同じ場所に向かっているであろう人たちをちらほら見かける。

 

 

怜のパフォーマンスを見に各地から人が集まってくるのは、なんだか不思議だ。

 

 

ラジオで「宵闇」を聞いてから、デビューについて前よりは好意的に考えられるようになり、だいぶ楽になった。

 

 

今は落ち着いているけれど、これから先、大きな変化が起きれば、また動揺して悩んだり悲しんだりするだろう。

 

 

その時は、デビューが決まってうれしかったということを思い出そう。

 

 

自分と怜を比べてがっかりしないように、自分もしっかり努力しよう。

 

 

 

 

 

星の輝く舞台はこれから始まるんだ。


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