5+1等分の花嫁   作:トーな

1 / 1
第1話

六夏(りっか)、起きなさい」

 

 その起床を促す声で目が覚めた。私のベッドの傍らには、星型のヘアピンをピンク色の髪に付けた姉が立っていた。カーテンの隙間から覗く光は、既に夜が明けている事を示していた。

 

 朝という事は、学校に行かなければいけないという事である。ならば、私がやらなければいけない事は明確。その言葉を姉である五月に告げる。

 

「おやすみ」

 

 私がやるべき事は、二度寝である。それは運命と言っても過言でない事実である。神も言っていた。私の今日の眠りは、絶対に果たすべき事であると。故に誰も私の行動を阻む事など出来ない。

 

「とっとと、起きなさい! 今日は新しい高校に登校する日ですよ」

 

 自分でも意味が分からない言葉で睡眠を正当化しようとしていたら、五月に掛け布団を強奪させられた。外気が私の肌を撫でてくる。朝特有の少しだけひんやりとした空気を感じる。五月が「新しい高校」と言っていたが、そういえば今日だった。この前、お嬢様高校から新しい共学の高校に転校したのである。それでその高校へ登校するのが今日からなのである。

 

 ならば、私が取るべき選択肢は1つ。

 

「おやすみなさい」

 

 ベッドの下に隠しておいたもう1つの掛布団を羽織るという行動である。ちらりと五月の顔を伺ってみると、これでもかという程に真っ赤に染まっていた。顔に血が昇っているという事になるが、それが羞恥から来るものでないというのは、誰にも分かる。

 

「六夏ぁぁぁあああ!!」

 

 私の名前は、中野六夏。6人姉妹の末っ子である。

 

 ──────

 

「全く。六夏と五月の所為で遅刻ギリギリじゃない」

 

 6人で新しい高校の校長に挨拶をして、校長室から出て来た所で二乃に苦言を呈される。二乃はロングヘアーの髪形で黒蝶の髪飾りを左右に付けたツーサイドアップが特徴の次女である。顔がそっくりな姉妹を家族でない人が区別するには、身に着けているアイテムで判断するのが1番である。

 

 ちなみに私は、6姉妹の中で唯一のポニーテールだから判断は付けやすい。白いリボンヘアゴムで髪を縛っている。ついでに言うと、左手首には黒色の動物が描かれた白いリストバンドがあるので、これも判断の材料になるだろう。

 

「……ごめん」

「ごめんなさい」

 

 二乃の言葉には反論も出来ないが為に、2人で謝る。けれど、言い訳もある。昨日、夜更かしをしたのだ。せざる負えなかった。その原因を言う事は姉妹に言う事は出来ないので、弁明する事も出来ないのだが。

 

「別にいいわよ! 結果的に間に合ったんだから!」

 

 2人に頭を下げられるのは、居心地が悪かったのか、二乃にしてはあっさりと引いてくれた。珍しいと思ってしまったが、どうやらそれは、他の姉妹も同じだったらしい。「え?」みたいな感じで他の姉妹も二乃の顔を除いている。

 

「な、なによ!?」

 

 その幾つもの視線に耐えかねたのか、二乃はそっぽを向いて、先へ歩いて行った。残された5人も顔を見合わせて、笑い合ってから二乃の後を追っていった。これから学校の各所を手の空いている先生が案内してくれるらしい。普通なら適当に選んだ生徒が案内とかするのかもしれないが、中野家の父とこの学校の校長には繋がりがあるから、下手な事が出来ないのかもしれない。

 

 多分、大人の事情とかいうやつなのだろう。

 

 私達6姉妹はそんな事を気にする人はいないだろうが、大人の事情なら仕方ないのかもしれない。個人的には、先生に案内されるよりも、生徒に案内してもらった方が気楽なのだが、その気持ちは内に秘めておこう。

 

 ──────

 

 学校中を歩き回り、昼休みの時間になった。先生に案内してもらった食堂でご飯を食べる。こんな事を言うと、潔癖症と思われるかもしれないが、他人が作ったご飯を食べるのは、少しだけ憚られる。より具体的に言えば、見知らぬ人が作った物だろうか。顔を合わせた事もないような人が作った料理を食べるのには、抵抗があるのだ。

 

 だから、食べるのは朝に自分で作ったお弁当である。最初のうちは、我ながら美味しくない弁当だったのだが、慣れてくると普通に食べられるお弁当が作れるようになるものだ。家族のご飯は二乃と交代交代で作っていたりもする。

 

 昼休みになって、少し時間が経っていたせいか、空いているテーブルが少なくなっていた。6人全員で同じ机で食べるというのは、難しいのは明白だった。

 

「仕方ありません。今日はバラバラで食べましょうか」

 

 五月のその言葉に全員が頷いた。欲を言えば、全員一緒に食べたいと顔に書いてある人が若干名いたが、文句を言っても解決しないと分かっているのだろう。その人達も渋々と言った感じでその場で解散した。

 

 それで1人になってしまった訳だが、何処で食べようか。私はお弁当だし、態々食堂で食べる必要も無いだろう。漫画とかでよくある屋上での昼食に憧れていたから、屋上に行こうか。前の学校では、屋上は生徒立ち入り禁止だったのだが、この学校は違うというのは、案内してもらった時に知っている。憧れもあるが、人が多くいる所は苦手でもあるし。

 

 階段を上り、廊下を歩き、屋上の扉のドアノブを回した。

 

 屋上を見回しても、誰もいないようで私だけの空間となっていた。てっきり、昼休みの人気スポットか何かだと思っていたが、そうでもないようである。

 

 けれど、それも何となく分かる。この屋上には、フェンスとかが無いのである。フェンスとか無いのは、学校としてどうなのだろうと疑問を持ってしまうが、まぁ、今は置いておこう。

 

 幸いにもベンチはあったので、そこに腰を下ろして、お弁当を開ける。私のお弁当は、小さめの白色2段弁当である。一応、栄養とかも考えていて、炭水化物の米、たんぱく質のハンバーグ、ビタミンとかのサラダ等々。まぁ、当たり障りのない普通の弁当である。精々、ハンバーグにカレー粉を混ぜたぐらいである。

 

 お弁当を食べ進めていると、屋上の扉が開いた。誰が来るのだろうかと注視していると、そこから出て来たのは、一花だった。六夏は学食の筈だし、食べ終わって、こちらに来たのだろうか。

 

「あ、六夏じゃん。ここにいたんだ~」

 

 一花が当たり前のように私の隣に座った。別に家族なのだから、特に何かを言うつもりはないが、一言ぐらい理ぐらい入れたらどうなのだろう。そんな不満気な視線に気が付いた一花だったが、小悪魔系女子みたいな笑みを浮かべるだけだった。

 

「わぁ、ハンバーグ美味しそ」

 

 ちらっちらっと私とハンバーグを交互に見ている。言葉には出していないが、その目は雄弁に語っていた。「そのハンバーグ寄こせ」と。少しだけ作り過ぎてしまったから、別に良いのだが、直接言えば良いじゃないかと思うのは、私だけだろうか。それこそ、私達は姉妹なのだし。

 

 それに「学食食べたんじゃないの?」なんて思ってしまうが、女子に食べ過ぎじゃないのは禁句だろう。

 

「はい、あーん」

 

 ハンバーグを一口サイズに箸で切ってから、一花の口に運ぶ。「やった」と言いたそうな笑みを浮かべた一花は、口を開き、私のハンバーグを口の中に入れた。ハンバーグを食べる一花は、美味しそうに食べてくれて、先程まで抱いていた不満は綺麗さっぱり消え去った。

 

「やっぱり、六夏の料理は美味しいね」

 

 その言葉は、料理人冥利に尽きるというものだろうか。それだけの言葉で口角が上がるのが、自分でも分かった。

 

 ふと疑問に思い、スマホを見てみると、昼休みの時間があと少しで終わりである事に気が付いた。私のスマホを覗いていた一花は、ある事を思い出したように「あ」と声を漏らした。

 

「そういえば、集合時間何時だったけ?」

 

 今の時間は、12:50前半。この学校の昼休みは、12:10~13:00までらしいので、昼休みの終了時間まではまだ少しだけ余裕がある。それでも転校生である私達は少しだけ事情が違い、55分には、集まって欲しいと先生に言われていた。

 

 これは時間的にヤバいと誰にでも分かる事である。

 

 残りのお弁当を食べるのは、家に帰ってからにする事に決めて、一花と一緒に急いで集合場所に行った。

 

 結果的に時間に間に合ったのだが、五月には少々小言を言われた。

 

 ──────

 

 学校の授業に混ざるのは明日からで、午後の見学?が終わったら、帰っていいという事だったので、我ら6姉妹は家に帰って来ていた。風呂に入る人もいたり、テレビを見る人もいたりしたが、私は真っ先に自分の部屋に引きこもった。私の部屋は、何とも質素なもので、机と椅子、服を入れるタンスに白色のベッド、それと本を入れる棚ぐらいである。

 

 自分には、趣味と言えるようなものは何もなく、この部屋で1番に目に付くのは、椅子かもしれない。私の事情的に机の前に束縛される時間が長いので、結構高めの椅子を使っている。選りすぐりの物を選んだから、座り心地は最高である。欲を言えば、これを学校に持っていきたい。

 

 そんな高めの椅子に座り、机の上にルーズリーフと棚にあった参考書を取り出して、勉強を始める。勉強と言っても、明日の予習とかでなく、とある分野の勉強である。昨日の夜更かしは、勉強と言えるかもしれないが、今している勉強とは方向性がだいぶ違う。

 

 ──────

 

 気が付けば、暗くなっていた。部屋の電気を付けて、机の上にある時計を見てみると、既に6時を回っていた。今日の夕食の当番は私だった事を思い出し、部屋を出る。勉強もキリが良い所で終わったので、続きはご飯を食べてからにしよう。

 

 買い出しは、昨日の内に既に済ませているので問題ない。

 

 部屋を出て、リビングに行くと、誰もいなかった。どうやら、全員が自分の部屋にいるようである。台所に向かい、白色のエプロンを付けてから冷蔵庫から食材を取り出す。今日は、カレーにしようと決めてあった。既に何回も作った事のある料理なので、迷う事なく、料理を進めていく。

 

 この家には、女性が多いので辛いカレーはあまり好まれない。個人的には、辛い方が好きなのだが、民主主義の多数決原理に逆らう事は出来ない。カレーを甘くする為に隠し味として、チョコレートを入れておく。炊けたご飯とカレーを皿に盛って、テーブルに置けば、準備完了。

 

 カレーも完成し、部屋の中にいる姉妹を呼ぶ。扉を叩いてから「ご飯だよ」と言うのを5回繰り返す。スマホで姉妹のグループラ〇ンに「ご飯できたよ」と送った方が手間もかからず、楽なのだが、それだと気が付かない人が出てくる。というか、一花が寝たまま下に降りてこないなんていう小さな事件があったせいで、それぞれに声を掛ける事を心掛けている。

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

 6姉妹がテーブルに集まり、食事の挨拶をする。これは、昔からの変わらぬ習慣でいつもやっている事だ。いつものように、6姉妹だけの夕食がスタートして、談笑しながらご飯は進む。その話の内容の殆どはどうでもいいような話ばかり。今日の学校の事だったり、ドラマの内容だったりと本当に様々である。

 

 他には二乃と三玖の小さな口論だったり、それを宥める五月と四葉、長女である一花はそれを愉しそうに眺める。そう、そんな光景が目の前に広がっていた。

 

 ──────

 

 皆が食べ終わり、皿の片付けをしていく。料理は私と二乃の交代制であるが、片付けは2人でやっている。料理を作る時は、1人の方が個人的には楽なのである。2人でやるとどうしても意思疎通が必要になってくる。食材を切ったり、何かを煮込んだり、焼いたりと。上手く意思疎通出来ていないと面倒な事になる可能性があるからである。

 

 しかし、片付けには、そんな意思疎通など、ほぼ必要ない。片付けでやるのは洗う事と拭く事だけだからだ。大勢でやると逆にやり辛く、これは少数の方がやり易い。

 

 こんな事を何年もやっていると、「ん」とか「はい」ぐらいの必要最低限の会話だけで出来るようになってくる。6人分の後片付けも10分もあれば終わるようになる。

 

「……明日からうちに家庭教師が来るらしいわ。あんたはどう思うの?」

 

 いつもなら片付けが終われば「おやすみ」と言って、部屋に帰る二乃だが、いつもと違って私に言葉を投げた。それは明日から来る家庭教師についてだった。父からの連絡で明日から家庭教師が来る事が明らかになったのだが、姉妹全員の反応はバラバラだった。

 

 嫌悪を示したり、特に何も反応しなかったり、どんな人なのだろうかと好奇心を示したりと様々だった。

 

 それで二乃は、その家庭教師が来るという事に嫌悪を示していた。それはそうだ。二乃は一緒縫生まれた姉妹の事をとても大切に思っている。その思いを二乃は隠しているつもりなのかもしれないが、私には丸分かりである。それでその姉妹の輪に見知らぬ人が入ってくるのが嫌なのだろう。

 

 その家族を大切に思う気持ちは素敵だと思うし、尊重したいと思うが、まだ会った事もない人にそこまで嫌悪感を示すのも、それはそれで失礼な話である。

 

「まだ何とも言えないよ。父さんが雇ったっていう事は、そんなに悪い人では無いだろうけど、会った事も無い人がどんな人なのかなんて誰にも分からない。だから、明日会って、見極めるつもりだよ」

 

 二乃は、はっきりと「嫌だ」という言葉を期待していたのか、私のその言葉に面白くなさそうな反応をして、部屋に帰って行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。