デート・ア・ライブ【真冬スノーナイト】   作:エイクマン

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少年と十番目の少女

士道side

 

そしてそこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓についた。

あたりから、小さなざわめきのようなものが聞こえてくる。

 

「タマちゃんだ...」

 

「ああ、タマちゃんだ」

 

「マジで、やったー」

 

『タマちゃん先生だとなんかうれしいですね。』

 

__真冬も含み、おおむね、好評のようだった

 

「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます岡峰珠恵です」

 

間延びしたような声でそう言い、社会か担当の岡峰珠恵教諭・通称タマちゃんが頭を下げる。

サイズが合っていないのか微妙に眼鏡がずり落ちていくので、慌てて両手で押さえていた。

贔屓目に見ても生徒と同年代くらいにしか見えない童顔と小柄な体躯、それにのんびりした性格で、生徒からも、絶大な人気を誇る先生である。と、

 

「.....?」

 

色めきたつ生徒たちの中、俺は表情を強ばらせた。

俺の左隣に座った鳶一が、じーっ、と俺の方に視線を送ってきていたのである。

 

『士道君の事が気になるんですかね?良かったですね。士道君これは素敵な出会いの始まりかもしれません!』

 

そんなわけあるか!と、ツッコミたいがこちらを鳶一が見ているので声には出さない。

 

「.....っ」

 

一瞬目が合う。俺は慌てて視線を逸らした。

一体なぜ俺を見て_いや、別に見てはいけないというルールが有るわけでもないし、もしかしたら俺の先にあるものを見ているだけかもしれないけど、とにかく落ち着かない。

 

「...な、なんなんだ一体.....」

 

我慢出来ずに言葉を口に出すが、誰にも聞こえていないと思うから許してほしい。

 

それから、およそ三時間後。

 

「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

始業式を終え、帰り支度を整えていた生徒たちが教室から出ていく中、鞄を肩にかけた殿町が話しかけてきた。昼飯に学校が終わるなんて、テスト期間以外ではそうない。ちらほらと、友人とどこに昼飯を食べに行くかを相談している集団たちも見える。

俺は一瞬頷きそうになり、「あ」と思い出した。

 

「悪い。今日は先約があるんだ」

 

「なぬ、女か」

 

「あー、まあ.....一応」

 

「なんと!?」

 

殿町が両手をV字に掲げて片足を上げた、グリコみたいだなと思う。

 

「一体春休みに何があったって言うんだ!あの鳶一と仲良くお話するだけじゃ飽きたらず、女と昼飯の約束だと!?一緒に魔法使いを目指すって誓い合ったじゃねぇか!」

 

『士道君、魔法使いになりたかったんですか?』

 

「いや、別になりたくねぇし、誓った覚えもないが.....ていうか、女いっても琴理だぞ?」

 

俺がそう言うと、殿町は安堵したかのようにほうと息を吐いた。

 

「んだよ、脅かすんじゃねぇよ」

 

「お前が勝手に驚いただけだろうが」

 

「でもま、琴理ちゃんなら問題ねえだろ。俺も一緒にいっていいか?」

 

『いいんじゃないですか?皆で食べた方が美味しいですよ!』

 

「じゃあ、良いぜ別に。」

 

と、俺が言った瞬間に、殿町が机に肘をのせ、声を潜めるように言ってきた。

 

「なあなあ、琴理ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

 

「は?」

 

「いや、別に他意はねえんだが、琴理ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかと...」

 

「やっぱ却下だ。お前来んな」

 

『琴理ちゃんは私たちが守らなければですね!』

 

「ああ。」

 

真冬とそう言い合い、顔を近づけてきた殿町の頬をぐいと押し返す。

 

「そんな!お義兄様!」

 

「お義兄様とか呼ぶな気持ち悪い」

 

『危険です!離れましょう士道君』

 

真冬が俺に逃げるように言ってきたので、眉を潜めながら少し身を引く。

そうすると、殿町が肩をすくめた。

 

「はは。ま、俺も兄妹団欒を突っつくほど野暮じゃねえよ。都条例に引っかかんねぇ程度に仲良くしてきな」

 

「お前はいっつも一言余計だな」

 

頬をぴくつかせながらそう言うと、殿町が意外そうな顔を作る。

 

「だっておめぇ、琴理ちゃん超可愛いじゃねぇか。あんな子と一つ屋根の下とか最高だろ」

 

「実際に妹がいれば、その意見は間違いなく変わると思うがな」

 

「あー.....それはよく聞くな。妹持ちに妹萌えはいないとか。やっぱり本当なのか?」

 

「ああ、あれは女じゃない。妹という名の生物だ」

 

『私は琴理ちゃん大好きですよ?』

 

「真冬はそのままでいいんだぞ!」

 

『?』

 

真冬の優しさを目にしながら(実際に目には見えないが)

とにかく俺がそう断言すると、殿町が苦笑した。

 

「そういうもんかねぇ」

 

「そういうもんだ。女未満と書いて妹だろうが」

 

「じゃあ姉は?」

 

「女市?」

 

「すげえ、女性専用都市かよ!」

 

『なんかハレンチですね...』

 

「ああ、俺もちょっと思った」

 

などと真冬に同意している、その瞬間。

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ___________________

 

「...ッ!?」

 

教室の窓ガラスをビリビリ揺らしながら、街中に不快なサイレンが鳴り響く。

 

「な...なんだ?」

 

殿街が窓を開けて外を見る。サイレンに驚いたのだろうか、カラスが何羽も空に飛んでいた。

教室に残っていた他のクラスメイトたちも、皆会話を止めて目を丸くしている。と、サイレンに次いで聞き取りやすいようにするためか、言葉を一拍ずつ区切るようにして機械越しの音声が響いてくる。

 

『__これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します__』

 

瞬間、静まり返っていた生徒たちが、一斉に息を呑む音が聞こえた。

 

__空間震警報。

 

皆の予感が、確信に変わる。

 

「おいおい.....マジかよ」

 

殿街が額に汗をにじませ、乾いた声を出す。

だが__俺や殿街を含め、教室の生徒たちは、顔に緊張と不安を滲ませてはいるものの比較的落ち着いていた。少なくとも、恐慌状態に陥ったりする生徒は見られない。

この街は三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、俺たちは、幼稚園の頃から、しつこいというほどに避難訓練を繰り返しさせられていたのである。加え、ここは高校。全校生徒を収容

できるほどの大きな地下シェルターが設えられている。

 

「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」

 

「お、おう、そうだな」

 

俺の言葉に、殿街が頷く。

走らない程度に急ぎ、教室から出る。廊下はもうすでに生徒たちが溢れ、シェルターに向かって列を作っている。

 

『士道君!鳶一さんが昇降口にむかって走ってますよ!?』

 

「鳶一が!...おい!なにしてんだ!そっちにはシェルターなんて_」

 

「大丈夫」

 

鳶一は一瞬足を止めてそう言い、再び駆け出していった。

 

『鳶一さん、大丈夫でしょうか.....』

 

「心配だな...」

 

そう思いながらも、大丈夫という言葉を信じ、殿街とともに列に並んだ。

 

「安心しろ真冬もしかしたら忘れ物を取りに行っただけかもしれないし、きっとすぐもどってくるさ」

 

『そうでしょうか....』

 

実際、空間震警報が発令されたからといって、すぐさま空間震が起こるわけでもない。すぐに戻ってくれば間に合うはずだ。

 

「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!!おかしですよ、おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」

 

と、そこに、生徒たちを誘導しているタマちゃん教諭の声が響いてきた。

同時に生徒たちのくすくすという笑い声も聞こえてくる。

 

「.....自分達より焦っている人を見ると何故か落ち着くよな」

 

「あー、何となくわかる気がする」

 

俺はそう言い苦笑すると、殿街も似たような表情を作って返してきた。

 

まあ実際、なんとも頼りないタマちゃん教諭の様子に、生徒たちは不安を感じるというより、緊張をほぐされているように見える。

 

『あのー、士道君』

 

「ん?どうした真冬」

 

『琴理ちゃん空間震が起きてもっていってましたけどまさかファミレスに居ませんよね.....』

 

真冬が不穏なことをいうので少し気になり着信履歴から『五河琴理』の名を選んで電話を掛けてみる

 

が_繋がらない。何度か試すが、結果は一緒だった。

 

「繋がらない。ちゃんと避難してるよな、あいつ」

 

まだ中学校を出ていなければ大丈夫だろう。だが真冬の言う通りすでに学校からファミレスに向かっていたら.....いや、あの近くにも公共シェルターはあるはずだし、普通に考えれば問題ないはずなのだが....不安になってきてしまう。警報がなっても意に介さず、忠犬のごとく俺たちを待っている琴理の姿が、何となく想像できてしまう。頭の中に朝、琴理が言っていた「絶対だぞー!」の言葉がエコーで渦巻く。

 

「ま、まあ空間震が起きても絶対約束だとは、言っていたけどさすがにそこまでではないだろ。」

 

『い、一応琴理ちゃんの携帯のGPSを確認しましょう。それで、わかりますし。』

 

「ああ、そうだよな...確認しよう」

 

真冬とお互いを落ち着かせながら携帯を操作すると、

 

「__ッ!?」

 

『し、士道君!!ファミレスにいますよ!?』

 

琴理のアイコンは、約束のファミレスの真ん中で停止していたのだ。

 

「マジかよ!あんの、馬鹿.....」

 

『士道君いきましょう!!』

 

「ああ早くいかないと!」

 

そう言い画面を消さないまま携帯を閉じて、俺は生徒の列を抜け出した。

 

「お、おいっ!どこいくんだ五河!」

 

「悪い!忘れ物だ!先いっといてくれ!」

 

殿町の声を背に受けながら、列を逆送して昇降口に向かう。

そのまま速やかに靴を履き替えると、俺は転びそうになるくらい前のめりになって外に駆け出す。

校門を抜け、学校前の坂道を転がるようにしてかけ降りる。

 

『早くいかないと、もういつ空間震が起きてもおかしくありません!』

 

「わかってる!」

 

俺は足を最高速で動かす。俺の視界に広がっていたのは、なんとも言えない不気味な光景だった。

 

『まるでホラー映画のワンシーンですね...』

 

「ああ、人も一人もいないしマジで、ホラー映画のようだよ!」

 

『琴理ちゃんまだファミレスですか?』

 

「えぇっと!!」

 

やはり、アイコンはファミレスの前から動いてはいなかった。

 

『これは琴理ちゃんは、デコピンの刑ですね!』

 

「デコピンどころじゃないデコピン乱舞の刑だ!」

 

そう真冬と言葉をかわしながら、ただひたすらに全速力でアスファルトの道を駆ける。

足が痛み、手の指先が痺れる。喉が張り付き目眩がして、口がカラカラになる。

だけど走り続けた。危険だとか疲労だとかは思考の外に放って、琴理のもとへ、ただひたすらに走る。と__

 

「.....っ、?」

 

『どうしましたか?士道君』

 

「いや今何か、人影みたいなのが空に浮かんでた気が...」

 

『そんなこと気にしなくていいですよ!急がないと!!』

 

「そうだな、すまん!」

 

真冬の言葉を聞き、真冬の言う通り走る。その時。

 

「うわ....!?」

 

思わず目を覆った。突然進行方向の町並みがまばゆい光に包まれたのだ。

 

『士道君腕で顔を覆って足に力を入れてください!』

 

「え..?んな.....」

 

真冬にそう言われ急いで腕で顔を覆い、足に力を入れたが_無駄だった。大型台風もかくやというほどの風圧に煽られ、バランスを崩して後方に転けてしまう。

 

『大丈夫ですか!?士道君!?』

 

「ああ、なんとか大丈夫だ。にしても一体なんだってんだ.....ッ」

 

まだ少しチカチカする目をこすりながら、立ち上がる。

 

「_は_?」

 

と、俺は今目の前に広がる光景を見て、間の抜けた声を上げる。だって、今の今まで目の前にあった街並みが、俺が目を瞑った一瞬のうちに__跡形もなく、無くなっていたのだから。

 

「な、何だよ、何だってんだよ、これは.....!」

 

呆然と、呟く。冗談でもなんでもない。まるで隕石でも落ちたかのように。否、どちらかといえば、地面が丸ごと消されたかのように。浅いすり鉢状に街が、削り取られていた。

そして、クレーターのようになって街の一角の、中心。そこには、なにやら、金属の塊のようなものがそびえていた。

 

『なんでしょうあれは...?』

 

「ああ....」

 

遠目のため細かくは見えないが__ロールプレイングゲーム何かで王様が座っている、玉座のような形をしていた。だが、重要なのはそこではない。その玉座の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が一人たっていたのである。

 

「あの子_何であんなところに」

 

朧気にしか見えないが、黒い髪と、不思議な輝きを放つスカートだけをみてとることができた。

女の子であることは間違いないだろう。

 

『精霊....』

 

「ん?何だって?」

 

『ううん!なんでもないですよ!!』

 

真冬が小さな声で何かを言うがうまく聞き取れなかった。気にかかるが少女の方に集中すると、少女が、ふと俺の方に顔を向けた。

 

「俺に気づいたのか...?」

 

そう思うが、遠すぎてよくわからない。俺が首を捻っていると、少女はさらに動きを続けた。

ゆらりとした動作で、玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ったかと思えば、それをゆっくりと引き抜いていく。それは幅広の刃を持った、巨大な剣だった。虹のような、星のような幻想的な輝きを放っている、不思議な刃。




毎回区切りが悪くてすみません!
読んでくださりありがとうこざいます。
次回もお楽しみに!
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