遊戯王Wings外伝「エピソード七草」   作:shou9029

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ep1「ホトケノザ in デュマーレ」

Ex適正―

 

 

それは、この世界の人間にとっては常識中の常識。

 

 

『融合』、『シンクロ』、『エクシーズ』…この世界に生きる人間には、この中のいずれか一つのEx適正が備わっており…

 

そして、自身の持つEx適正以外の召喚法は、使用しようとしてもデュエルディスクが反応しないというのが、この世界における世界の常識。

 

 

…そう、Ex適正―それは、古の時代からそう決められている人々の常識。

 

 

誰もが、疑問にも思わない。自分が何故、そのExモンスターの召喚法しか出来ないのかを。

 

誰もが、悔やみもしない。自分が扱える召喚法が、融合・シンクロ・エクシーズの、どれであったとしても。

 

ソレほどまでにEx適正という常識は、この世界にとっては当たり前以前の常識と呼べるより以前の、呼吸する事と同義であり…

 

―この世界に生きる人間であれば、融合・シンクロ・エクシーズ、いずれか一つだけの召喚法しか扱えないのが世界にとっての常識であり人々にとっての当たり前となっているのだ。

 

そう、例え、誰であっても。Ex適正というモノを疑問に思う人間など、この世界には存在しないのが当たり前であるとさえ言えるだろう。

 

 

 

しかし…

 

 

 

人類の決闘史においては、それでも時々現れてしまう。

 

そう、世界の常識に異を唱える、イレギュラー的存在が。

 

…それはまるでバグが如き。

 

生まれた時からそこにある常識に疑問を持てる人間など、世界から切り離された正真正銘のイレギュラーな存在出なければ、抱く事すら出来ないはずだというのに。

 

…しかし、時折世界にはこうしたバグが生まれてしまう。

 

それは変えられない世界の構築。何億、何兆、下手をすれば何京分の1に値する確率。

 

そう、それでも世界には時折生まれてしまうのだ。

 

己の運命、己のEx適正…この世界の仕組みの、根幹に疑問を持ってしまう1人の人間が。

 

 

 

 

 

これは世界の決まりに抗おうとした、1人の男の物語―

 

 

 

 

Ex適正を持たない少年が、この世界に生を受けるよりも前に繰り広げられた…

 

 

 

 

 

世界の仕組みに疑問を持った、1人の男の物語―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界は酷く不出来だ。

 

白レンガ造りの美しい街並。その一角にあるカフェの海の見えるテラス席で…1人の少年は、いつもの様にそんなコトを考えていた。

 

 

少年の名…セリ・サエグサ。

 

 

 

それはこの街を照らす太陽の様に煌く、潮風に揺れる金色の短髪を艶やかに見せつつも…

 

日に焼けてもいない真っ白な肌が雪のように美しい、物思いに耽る姿がなんとも絵になるであろう、聡明なる高等部くらいの少年。

 

…齢にして、およそ16ほどであろうか。

 

そのどこか幼さの残る少年は、かつて栄華を誇っていたらしい没落した己の名への疑問よりも…より気になる事があるのだとして、聡明な横顔を見せつけながら海を望んで思想に耽ており…

 

…もしここに、彼と同じ決闘学園デュマーレ校の女学生が居たならば、きっと彼の麗美なる思考のポーズに対し、黄色い声を漏らし尽くして事切れていた事だろう。

 

それだけの麗しさがこのセリ・サエグサにはあり、それだけの絵になる聡明さがこのセリ・サエグサにはある。

 

しかし、セリ本人からすればそんな他人からの評価など、どうでも良い事なのだと言わんばかりのポーズのままで…

 

更にその思想を、大いなるデュマーレの海へと投げかけ続けていて。

 

 

 

…物憂げ目で、いつものテラス席から海を眺める。

 

 

 

―『どうして、この世界はこんなにも不出来なのだろうか』

 

―『どうして、この世界にはEx適正なるモノがあるのだろうか』

 

 

 

ソレは16歳の少年が考える『理』にしては、些か行き過ぎた世界への問いかけ。

 

古の時代に、世界中のデュエル学者が解き明かそうにも解き明かせなかった…

 

この『Exデッキ史上主義時代』においては、誰もが疑問にも思わないであろう世界にとって常識中の常識であり、疑問に思う人間の方が異端とさえ扱われる、タブーとまでは行かないが研究する者など存在しないであろう呼吸と同義の世界の『理』。

 

…しかし、決闘学園デュマーレ校始まって以来の秀才と例えられるほどに聡明なる彼、セリ・サエグサにとっては、世界の常識など自分にとっての常識ではないのだとして。

 

子どもの頃からこの思想に耽るのがセリの子どもの頃からの日課であり、16歳になる今年も毎日のようにこの隠れ家的立地にある行き着けのカフェの2階…

 

このデュマーレの街で、最も美しく海が望めるいきつけのカフェのテラス席に陣取って。デュマーレの名産品でもあるレモンを使った、冷たいレモネードを飲むのが彼の日課となっていた。

 

 

その、セリ・サエグサがいつも考えていること…

 

 

この世界に生きる人間は、誰もが皆『融合』、『シンクロ』、『エクシーズ』、いずれか一つの『Ex適正』を持って生まれ…そして、自身の持つEx適正以外の召喚法は、どんな方法を取ったってデュエルディスクが反応しないと言うのが、この世界の常識以前の当たり前のこと。

 

…ならば、何故自身の持つEx適正以外の召喚法は扱う事が出来ないのか。

 

同じ遺伝子を持つであろう家族間ですらEx適正の異なる個体が生まれることだってあるのに…一体、何によってEx適正が決まるのか。

 

いや、そもそもEx適正という括りとは何なのか。

 

何故この世界の人々は、融合・シンクロ・エクシーズ、いずれか一つしか扱えないのか。

 

戦法としては、多様な召喚法を扱えた方が幅広く戦術を磨けるはずだと言うのに…何故、ソレが出来ないのか。

 

この世界におけるデュエルは、デュエルディスクが『全て』。故に、プロの試合も、野良試合も、何もかもがデュエルディスクによる判定と審査によって進められているために、いくら卓上で多様な戦法を磨こうとも…ソレを実戦で活かせる機会などは存在しない。

 

…けれども、ソレでは何のためにこの世界には多様なカードで溢れているのか。

 

どこか停滞しているようにも見える世界の流れも、『Ex適正』がなくなればもっと飛躍的に進化するのではないだろうか。

 

 

何故…何故…どうして―

 

 

そんなセリの巡る思考が、頭の中でぐるぐる廻る。

 

子どもの頃から、考えても考えても答えが見つからない思想。

 

その、どうしても疑問に思ってしまう、自身の未だに見ぬ可能性という名の非常識に…幼少の頃から苛まれつつも、それでも考えてしまうセリ・サエグサ16歳。

 

そんなセリは、深い溜息を一つ吐いたかと思うと…

 

再び思考が巡り始めたと同時に、無意識にその口を開き始めた。

 

 

 

「…なんで俺は融合召喚しか出来ないんだろうな。」

「ひゃは、まーた始まった。ンなモン決まってんじゃーん?お前のEx適正が?『融合』だーからじゃーん。」

「だから、そんなコトを聞いてんじゃないんだっての。ギョウ、お前だってエクシーズ以外の召喚法、使いたいと思った事あるだろ?」

「いやいやいーや?チャン僕ってば生まれも育ちもエクシーズだから?エクシーズ以外が使えたらなんて考えた事?一度も無し無しのナッシングなのよねぇ。」

「…お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。」

 

 

 

すると、無意識に零してしまったセリの言葉に対し。

 

海の見えるテラス席の、セリの向かい側に座っていた少年が…どこかラフすぎる言葉使いで、セリへと言葉を返し始めた。

 

…それはセリにとっての幼馴染と言うか腐れ縁と言うか、とにかく幼少の頃からの付き合いがある1人の少年。

 

金髪を逆立て、アロハなシャツを着こなした、頭に引っ掛けたサングラスが特徴的な…

 

 

…その名を、ゴ・ギョウ。

 

 

彼はセリと同じ、決闘学園デュマーレ校の実力者でもあり…

 

ラフすぎる服装と性格の所為で、少々教師たちからは問題児扱いをされてはいるものの、先日行われたデュマーレの街の学生達の祭典、【フェスティ・ドゥエーロ】で優勝した、現在デュマーレの街で最も強い学生と謳われている少年でもある。

 

そんな彼…ゴ・ギョウは、セリが思わず零した言葉に対し。

 

まるで『いつもの事』のようにしてセリを軽くあしらいながら、椅子を後ろに傾けつつテラスから浜辺の方を眺め…

 

 

 

「つーかなーにが疑問なのさ。セリのEx適正は?そう、融&合!そんなこと?生まれた時から?決まってることじゃんかよー。」

「じゃあ何で俺のEx適正は融合なんだよ。お前はエクシーズで俺は融合、俺とお前に何の違いがあって、俺のEx適正は融合なんだ?」

「遺with伝?」

「親父はシンクロ、お袋もシンクロ。兄貴もシンクロ姉貴もシンクロなのに俺だけ融合なんだぜ…」

「けひゃひゃひゃひゃ、たーだのコンプ&レックスじゃねーか。でもでもでーも?お前と親父さんたちは?ちゃーんと血が繋がってんだもんねぇー!顔なんて親父にソックリ&チャッカリってくらい激激の激似で?それに加えて末っ子だから家族から溺愛されてるときったもんだーひゃっひゃっひゃひゃひゃ!」

「笑い事じゃねーよ…」

 

 

 

そう、それはいつものように交わされる彼らの日常的な会話。

 

…あの有名な決闘市やデュエリアと並び、5大デュエル大都市の一つに数えられる『デュマーレ』の街で生まれ育った彼ら2人。

 

そんな彼らは、人生一度きりの16歳の夏を…例年と変わらず、生まれ故郷であるこの海の都で日常を過ごしており…

 

デュマーレ校始まって以来の秀才と例えられるセリ・サエグサ。

 

デュマーレの街で現在最も強い学生との呼び声高いゴ・ギョウ。

 

学生の身でありながらも、プロでも充分『上』に行けると噂されている彼らの実力。

 

そんな彼らは、この長い長い夏季休暇をいつものように…行きつけのカフェのテラス席で、ボーっと時間を潰していて。

 

 

 

「俺は知りたいんだ。なんでこの世界にはEx適正なんてモノがあるのか。」

「学園一の秀才は言う事が違うねぇ。流石は時期監督生さまさまだーぜ。」

「お前だって他人事じゃないだろ。【フェスティ・ドゥエーロ】で優勝したんだから、夏休みが終わったら他の大都市の代表達とデュエルするんだ。大丈夫なのかよ、準備とか。」

「んもーセリってばー!チャン僕が?ンなめんめんめんめんめんどくさい事?自分からやると思ってんのぉ?他の代表が全員男だって聞いた瞬間にさー、興味なんてカッ飛び&スッ飛びしてっちゃったに決まってるぅーよー!」

「お前なぁ…そうやって結局は俺が下調べする事になるんだから少しは俺に感謝しろよな。いいか、初戦の相手は決闘市のドラゴン使い、リューイチ・アマ…」

「男に興味はナッシング!それよりよーり?ビーチでオネーサマでもナンパして?ひと夏の思い出メイキングしようぜー!」

「はぁ…」

 

 

 

壁などなく交わされる、彼らのいつもの日常的会話。

 

それは幼馴染として腐れ縁として、そして親友として短くも長い間共に過ごして来た彼らだからこそ醸し出せる雰囲気でもあるのだろう。

 

学園一の秀才と、学園一の実力者。

 

そんな、いずれプロデュエリストとなるであろう実力を持つ彼らが…このデュマーレの街の片隅で、若さに任せた惰性を過ごしているというのも、世界にとっては少々勿体無いといえば勿体無いとことではあるのだが…

 

 

―デュマーレの街

 

 

それは、この世界に5つあるデュエル大都市の一つ。

 

『海の都』とも呼ばれる、四方を海に囲まれた世界一綺麗な海を持つと言われる都市の一つであり…

 

世界に多々ある決闘学園の中でも、トップクラスの実力を持つと言われる決闘学園デュマーレ校を要する、白レンガ造りの街並がなんとも美しい、世界に名立たるデュエル大都市でもあり観光地でもある都市の一つ。

 

…まぁ、世界地図の中心である『デュエリア』や、プロデュエリスト達の頂点である【王者】たちが一同に集っている『決闘市』と比べれば…

 

ここデュマーレの街は『海の都』とは呼ばれつつも、海と白レンガ造りの街並以外に今一つ誇るべきモノが足りないとさえ思える、海の綺麗な静かで穏やかな街ではあるのだが。

 

…それは良く言えば歴史的情緒に溢れた穏やかな都市。

 

…しかし悪く言えば田舎町。

 

 

いくら学生達のデュエリストレベルが世界随一であり、5大デュエル大都市に数えられているとは言え。他のデュエル大都市と比べ、どこか田舎的情緒を感じるであろうこの穏やかな街並は…

 

他のデュエル大都市たちが抱える、張り詰めたような雰囲気とはまるで正反対の、争い事には向いていないかのような、あまりに穏やかな雰囲気を醸しだしていて。

 

 

ソレ故か…

 

 

 

「ま、暇暇ひーまなのもわかるけどねー。【フェスティ・ドゥエーロ】が終わって?チャン僕らで優勝準優勝かっ攫って?最近なーんか張り合いが無いもんねー。」

「…あぁ、そうだな。」

 

 

 

どこか退屈を孕んだ溜息を、一つ深く吐き出してしまったセリ・サエグサ。

 

そう、田舎町に生まれつつも、その実力の高さか同じ年代でも頭一つ抜きん出ている秀才が故の苦悩を…特に伸び盛りのセリは、最近常に感じているのだ。

 

確かにこのデュマーレの街は5大デュエル大都市に数えられるだけあって、この街で行われる学生達の祭典、【フェスティ・ドゥエーロ】のレベルは決闘市の【決闘祭】やデュエリアの【デュエル・フェスタ】と比べてもなんら遜色無い、相当に高いレベルの祭典となってはいるのだが…

 

…それでも、幼少の頃より切磋琢磨してきた、実力が互角のゴ・ギョウはともかく。

 

デュマーレ校始まって以来の秀才と呼ばれたって、結局は自身の『Ex適正』に縛られた中で戦術を作り上げ、そして相手が何の『Exモンスター』を使ってくるのかをEx適正から予測し、そして決まった対策をセリはしているだけであり…

 

今ではどんな学生が相手だって、どこか小慣れてしまたかのような、どんな相手でもあまり恐くないという一種のデュエルへのマンネリにも似たモノを16歳という若さで感じてしまっていて。

 

 

…高等部の年代というのは、早ければプロデュエリストにだってなれる年代。

 

 

無論、高等部卒業と同時にプロになるためには、圧倒的なる『才能』と尋常ならざる『修練』と…そして学生の間に、相当たる『結果』を出さなければならないのだから、高等部卒業と同時にプロになれる者などほんの一握りの天才にしか出来ないことではあるのだが…

 

時折、高等部の年代の子ども達の中には、『覚醒』にも似た成長の仕方をする者が現れてしまうこともまた事実。

 

そう、学生にして、プロにだってなれるであろう力に目覚める者だっている。学生にして、プロのトップランカーにだって通用するほどの力に目覚める者だっている。

 

まぁ、流石に学生の身分で【王者】たちに匹敵するほどの力に目覚めた者など、この世界の歴史にはまだ確認はされてはいないが…

 

セリと、そして腐れ縁であるゴ・ギョウの力が、現段階でも紛れも無くプロに行っても通用するであろう段階まで来ていることも紛れも無い事実なのだ。

 

 

…だからこそ、まだ1年半も残っている決闘学生の生活に、セリが少々物足りなさを感じてしまっていることもまた事実。

 

 

今では実力が拮抗し、そして【フェスティ・ドゥエーロ】の決勝戦で敗北を喫してしまったゴ・ギョウだけが、セリが唯一の全力を尽くせる相手。

 

しかし、全力で戦える者がこんな田舎町に経った一人だけでは、プロになる前にデュエルに対する熱が薄れてしまうのでは無いかと言う恐怖を、無意識にセリは感じてしまっている。

 

まぁ、若すぎるが故の苦悩など、この短い若者時代においては一瞬の揺らめきのようなモノなのだから…

 

今は考え過ぎるだけ無駄かもしれないということを、セリ自身もどこか達観した視点から感じ取っており。どうせプロになるのだから、今はこの退屈を少しは楽しんでもいいかもしれないという、少々子どもらしからぬ思考もセリの中にはあるのだが。

 

 

 

ともかく…

 

 

 

「でも今夜は年に一度の『鎮海祭』ぃ!しょぼくれてないでさー、ビーチへゴーしてオネーサンナンパして?お祭り一緒に回るぉーぜー!」

「いや、俺は別に…」

「ほらほらほーら、はっやくぅー!オネーサン達とひと夏の思い出メイキーング!」

「…わかったわかった。」

 

 

 

いつものように、午前中の思考時間を終えて。

 

セリが、浮き足立って先に店を出たゴ・ギョウに続いて…

 

いつもの海の見えるテラス席を立ち、荷物をまとめカフェの入り口から外へと出ようと扉に手をかけながら外に出た…

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ドンッ―

 

 

…っと、店から出ようとした矢先に。

 

何やら固い衝撃が、セリの肩にぶつかったかと思うと…そのまま少々強めの衝撃を受けたセリは、店内に尻餅をついて後ろに倒れてしまったではないか。

 

…しかし、ソレは人間とぶつかったような生易しい衝撃では断じてなく。

 

まるで岩にぶつかったかのような、あまりの硬度と重量感。ソレが、細身のセリの肩に感じられたのだから…思わずセリが後ろに尻餅をついてしまったとしても、それは当然の衝撃となってしまっていたのだろう。

 

…ソレ故、あまりの硬い衝撃に、思わず視線をぶつかってしまった他人の方へと伸ばすセリ。

 

そして、セリがぶつかってしまったそこに居たのは―

 

 

 

「…すまない、余所見をしていた。怪我はないか、少年。」

「ッ…、え、えぇ…大丈夫です…」

 

 

 

思わず…

 

セリが、息を飲んでしまったほどに、

 

セリがぶつかってしまった、店に入ってきたそこに居たのはあまりに鍛え上げられた屈強なる肉体を持った、スキンヘッドの大男であった―

 

それはまだ若いであろう顔立ちが望めるものの、雰囲気が同年代の若者達とは比べ物にならない程に張り詰めた…例えるならば、まるで戦場で戦ってきたかのような兵士のモノにも似た雰囲気。

 

 

…この平和なデュマーレの街には、全く持って似つかわしくない屈強さ。

 

街では見たこともない人間、観光客にしては雰囲気が異質な人間。

 

そんな、得体の知れぬオーラを持った若きスキンヘッドの大男は…セリへと一言謝りつつも、ぶつかった少年が無事であったことを感じたのか。

 

再度、続けて声を漏らし始め…

 

 

 

「そうか。ならば良かった。…すまなかったな。」

 

 

 

そう言って、再度セリへと侘びの言葉を告げて。

 

セリと入れ違いに、スキンヘッドの大男は店内へと入っていったのだった―

 

 

 

 

 

「およよよよぉ?どしたん、セリ。」

「…いや…何か、今の男…」

「男ぉ?あぁ、今入ってったデッカいオニーサン?」

「あぁ、あの男、何か雰囲気が…」

 

 

 

そして、店を出たところで待っていたゴ・ギョウへと、何やら冷や汗を浮かべながら声をかけたセリ・サエグサ。

 

それは少しぶつかっただけで、そして尻餅をついただけだと言うのに冷や汗を浮かべているという自分の反射的反応を不思議がっているかのようではあるものの…

 

少し言葉を交わしただけで、こうまで背筋に悪寒が走る体験などセリからしても初めてのことだからこそ。

 

今の大男から感じたモノが、紛れも無い『畏怖』であったということに…

 

そう、途轍もない力を持っているデュエリストが放つ、『重圧』にも似たモノを感じたということに、セリ自身も戸惑っているということなのだろうか。

 

 

 

「ひゃは、セリってばもしもしもしもしもしかしてソッチ系?いやーん、チャン僕も襲われちゃうーよー。」

「…馬鹿なこと言うなよ。そんな事より、お前は何も感じなかったのか?さっきのスキンヘッドから…」

「いーや?チャン僕のセンサーは美人のオネーサン専用だからねーん。野郎に興味とか無し無しのナッシングよん。」

「…お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。」

 

 

 

まぁ、真面目な話をこの男にしたところで無駄だったという事など、セリにはわかりきってはいたのだから、これ以上話を続けても意味がないと言う事もまた事実ではあるのだが。

 

今の大男から感じた『畏怖』…

 

デュエル大都市に数えられる街とはいえ、こんな田舎町にはあまりに不釣合いなるそのオーラは…

 

―何やら、潮風が騒いでいるかのような胸のざわめきを、セリへと与えているのだった。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「フッ…」

「おや、ノーザン。君が笑うとは珍しい。」

「なに、店先で面白い雰囲気の少年とぶつかったものでね。…いいデュエリストなのだろうと感じただけだよ。まぁ、ただの勘さ。」

 

 

 

セリ達が出て行った直後の、静かなカフェのカウンター席。

 

そこで、先程セリとぶつかった大男が…

 

何やら、このカフェの店主らしき人物と、他の客には決して聞こえないような声で会話を交わしていた。

 

 

 

「ほう?合理的主義な君が、まさか勘を当てにするとはね。」

「勘と言っても根拠無きモノではない。経験に裏づけされた、いざという時に信頼できる私の武器の一つさ。これで、何度戦場でも助けられたか。」

「なるほど。確かに君ほどの男が培ってきた勘ならば信頼に値する武器となり得るのだろう。流石はその歳で数多の死線を潜り抜けた伝説の傭兵だ。」

「…あまり買いかぶらないでくれ。死にそびれただけさ。」

 

 

 

しかしソレはこの平和な街には似つかわしくない、微かに血の匂いを孕んだ不思議な会話。

 

一介のカフェのマスターが、こんな戦場の兵士のような大男と親しげに会話をしているというだけでも不思議な光景となっているというのに…

 

けれども、客の少ないこのカフェの中には、この光景を不思議には思っても聞き耳を立てようとしている客など居ないのか。

 

まぁ、研がれたサバイバルナイフのような鋭い雰囲気を醸し出しているこの大男の会話に、好奇心だけで会話を盗み聞きしようだなんて物好きなど、居る方が珍しいと言えるのだろうが。

 

ともかく…

 

 

 

「さて、ではこれがターゲットだ。」

「…なるほど、確かにコレほどのモノならば私に依頼をしたくなるはずだ。合理的判断だよ、マスター。」

「幸い今日は祭りの日だ。外部からの観光客も多いし、人混みに紛れるにはうってつけだろうね。…だが失敗などは許されないよ、何せ貴族直々の依頼だ。君の力を信じて私も依頼を君に回したのだから…決して抜かりなきよう、ホトケ・ノーザン。」

「了解した。仲間が到着次第、行動を起こさせてもらう。…決行は今夜…それまで、精々この海の都を堪能させてもらうとしよう。」

 

 

 

不穏な雰囲気に不穏な会話で。

 

何やら、この平和なデュマーレの街に騒動の風が吹き荒れつつあった―

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

デュマーレの海が一望できる、高台にあるとある公園。

 

その、白レンガ造りの建物が眼下に立ち並んでいる高台の公園に…決闘学園デュマーレ校2年、セリ・サエグサは居た。

 

…ビーチへと繰り出したゴ・ギョウを他所に、1人でこの公園へと安息を求めて。相も変わらず物憂げな目で、相も変わらず溜息を吐いていて。

 

しかし、先程カフェでひとしきり溜息を吐いていたと言うのにも関わらず…まだまだ自分の憂鬱は晴れないのだとして、大いなるデュマーレの海に己の鬱憤をぶつけるように視線を投げかけ続けているセリ・サエグサ。

 

…【フェスティ・ドゥエーロ】が開催されている期間は、セリとて忙しかったからかまだこんな憂鬱を感じてはいなかったというのに。

 

この街最大の祭典が終わってしまい、どこか他の学生達との『差』を明確に感じ取ってしまった今となっては…まだ高等部2年生だというのに、デュエルへの物足りなさが募りすぎているというこの現状が、伸び盛りにあるセリにあまりの退屈とあまりの憂鬱を与えているのか。

 

ゴ・ギョウは相変わらず、ビーチでナンパに勤しんでいる。

 

自分も、ゴ・ギョウのようにデュエル以外に精を出せるモノがあれば…そんなコトを、特にこの長期夏季休暇に入ってから何時も考えるようになっていることに、若干のうっとおしさをセリは感じており…

 

どうせ、卒業すればプロになる。5大デュエル大都市に数えられているとはいえ、この田舎情緒溢れるデュマーレの街で敵の居ないセリにとっては、自分の実力からして既にプロデュエリストになることは決定されている進路のようなモノ。

 

だからこそ、おぼろげながらも確定しているその進路に、張り合いの無さをセリはこの歳で感じているとでも言うのだろうか。

 

プロとはそんな甘い世界ではない。そんなコトはセリだってわかっている。

 

けれども、今からこんな気持ちのままではプロになったところで腐ってしまうのではないだろうか…

 

ゴ・ギョウ以外に、肌が焼け付くようなデュエルを経験していないこんな身分で、命を削りあうプロの世界で生きていけるのだろうか…

 

 

自分はこのまま、プロになってもいいのだろうか―

 

 

と、プロになってもいない分際で。

 

しかし確固たる才能と、デュマーレ校一の頭脳が導き出したその展望に、ぼんやりとした、己の将来の姿がセリの頭の中に浮かびかかった…

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

「おや、また会ったな、少年。」

「え?」

 

 

 

憂鬱と鬱憤の感情で、海を望んでいたセリ・サエグサへと。

 

突然、背後から降りかかってきたのはどこか『畏怖』を感じてしまうような張り詰めた男の声―

 

…そして、反射神経の動きに導かれるままに。

 

セリが、瞬時に背後へと身体を振り向かせた…

 

そこには―

 

 

 

「あ、貴方は…カフェの…」

「あぁ、先程はすまなかったな。少々急いでいたんだ。」

 

 

 

セリが振り向いたソコに居たのは、先ほどカフェでぶつかった屈強な大男であった。

 

…海を照らす太陽を反射する、清清しいまでのスキンヘッド。

 

しかし、ソレがあまりに似合っていると思える程に…セリに声をかけてきたこの屈強な大男の、その常人とは思えぬほどに鍛え上げられた肉体は、およそ表社会の者とはとても思えぬほどの『畏怖』をセリへと与えてきたことだろう。

 

…しかし、先程カフェの店先でぶつかってしまっただけの関係であるはずのこの男が、一体どうして一学生であるはずの自分へと声をかけてきたのか。

 

『畏怖』を感じた自分ならばいざ知らず、普通であればただ肩がぶつかっただけの関係であるはずの子どもになど、こんな大人が声をかけるはずもないというのに…

 

…そんな、瞬時に子どもらしからぬ思考を癖で深いところまで張り巡らせ始めたセリへと向かって。

 

声をかけてきた屈強なスキンヘッドの大男は、警戒しているであろうセリを意に介さずに声を続け始めた。

 

 

 

「…いい町だな、ここは。海が…実に綺麗だ。」

「え?」

「私もこれまで色々な街を巡ってきたが、デュマーレほど綺麗な海は見たことがない。」

「あ…は、はい、デュマーレは田舎ですけど、海の都って言われてるんです。俺も、この海が大好きで…昔は平凡な海だと思ってたけど、色んな国に旅行に行ってその国の海を見たら…生まれた町の海が、一番綺麗に見えるんだなって再確認しました。」

「フッ、己の目で検証を重ね、その上で生まれ故郷の美しさを再認識した君の感情は実に合理的だ。」

「え?」

「君の考え方は正しい。その合理的な感情を、是非大切にしたまえ。」

「は、はい…」

 

 

 

それは単なる何気ない、地元民と余所者の交わす当たり障りない言葉の交換。

 

声をかけられた瞬間に感じた『畏怖』が、面と向かった今ではまるで感じない事をセリは驚きつつも…

 

どこか、自然に引き出されるように流れ出る己の言葉に、目の前のスキンヘッドは少々優しげな言葉で言葉を返すのみであり…

 

 

…考えすぎたのだろうか。

 

 

背後から声をかけられた一瞬に、先程と同じような『畏怖』を瞬間的に感じてしまったことは事実でも。今言葉を交わした限りでは、先程まで感じていた『畏怖』がスキンヘッドからは感じられない。

 

そんな、ただの観光客に一方的な『畏怖』を感じてしまったことを、セリは少々恥じつつ…

 

 

 

「あ、あの…貴方は…何者なんですか?」

 

 

 

否…

 

恥じては、いない―

 

己の直感で感じ取った『畏怖』を、全く持って疑ってはいない態度のまま。

 

ただの観光客として振舞っている目の前の屈強なスキンヘッドの大男へと、徐にそんな問いを勢いで返してしまったセリ。

 

…ソレは捕らえようにとってはただの失礼。

 

そう、いくらこの大男から直感的に『畏怖』を感じ取ったとは言え、もしもこの人が本当にただの観光客であったならば…セリの放った問いは、失礼を通り越してただの痛い学生としてスキンヘッドの刻み込まれてしまうのだ。

 

何せセリとスキンヘッドの大男は、先程店先でぶつかっただけの関係。特別したしい間柄では断じてなく、むしろ初対面にも等しい間柄なのだから。

 

けれども、セリの顔はあくまでも、自分の放った問いを全く恥じているようなモノではなく…

 

そんな、真剣は表情をしているセリへと向かって。

 

問いを投げかけれらた方の屈強なスキンヘッドは、再度ゆっくりとその口を開いて…

 

 

 

「何者…とは?」

「あ、えっと…その…お、俺にはわかるんです。貴方が、とんでもなく強いデュエリストだって…」

「…ほぅ?」

「け、けど、貴方はプロデュエリストじゃない。TVで見たこともないし…で、でも、貴方は多分、プロのトップランカーに居てもおかしくない力を持ってるって…俺には…わかるんです…」

「自分の感覚でそこまで断言するとは不合理だな。見ての通り、私はただの観光客だよ。この街の噂を聞き、フラッと立ち寄っただけの…しがない、一般人だ。」

「で、でも!さっきぶつかった時に、よくわかんないけど『何か』を感じたんです!と、とてつもなく強い、デュエリストの『力』を!」

「…」

 

 

 

己の感じた感覚に、どうしてこれほどまでの自信を持てるのかはセリにだって不思議に感じてはいること。

 

けれども、半ば確信めいたモノを自分の心に感じている今のセリの感情は…今まで出会った事のないような、『本物の猛者』の雰囲気を放つスキンヘッドの大男に対し、どうしても聞きたいことが溢れている様子でもあり…

 

…元々、溢れんばかりだった知的好奇心。

 

そんな、デュマーレ校史上一番の秀才とまで呼ばれるセリの内包している知識欲は、セリ自身にだって押さえる事などできはしないのか。

 

この男が、初対面だとか観光客だとか、そんなことはセリには関係ない。

 

もしこのスキンヘッドの男が、自分が溜めているやるせない退屈を吹き飛ばしてくれるほどの実力者ならば…是非ともデュマーレの『外』から来た猛者と戦ってみたい、自分の知らない力を持った者と全力でぶつかれば、この言葉にならない退屈を吹き飛ばせるのではないか、と…

 

 

 

「俺は知りたい!プロじゃないのに、貴方がなんでそんなに強いのかを!貴方くらい強い人なら、プロになってたっておかしくは…」

「では、一つ聞きたいのだが…君の言う、『強いデュエリスト』の定義とは何かね?君の考える、強いデュエリストとは…誰の事を言う?」

「え?」

 

 

 

しかし、そんなセリの興奮を遮るようにして。

 

ゆっくりと、セリへと一つの問いを投げかけたスキンヘッドの大男。

 

それは問いを問いで返すという、返答にはなっていない答えではあったものの…

 

 

 

「そ、それはもちろん【王者】です!【白鯨】、【黒翼】、【紫魔】!今の3人の王者は、歴史的に見ても歴代最強だって言われてる世界最強のデュエリストだ!」

 

 

 

しかし、スキンヘッドの大男が投げかけた問いは、自分の答え方によってはそのまま彼の答えになるやもしれぬとう真意が篭っている事をセリは即座に感じ取ったのか。

 

スキンヘッドから投げかけられた問いに対し、反射的にその口を開き…

 

まるで条件反射のように、セリは続けて言葉を放つ。

 

 

 

「それに『逆鱗』や『烈火』、『霊王』なんかもトップランカーだけど3人の王者に匹敵するデュエリストだし…前シンクロ王者【白夜】も、半世紀に亘って王座を守っていたって言うんだから間違いなく世界最高峰の…」

「確かに、彼らは誰もが認める世界最高峰のデュエリストだ。だが…君が今挙げたのは全てプロデュエリスト。となると、君の言う『強いデュエリスト』とはすなわちプロの者と言うことになるな。…そして君の言った通り、私はプロではない。それでは、私は強くはないということになるが…」

「あ、いや、プロじゃなくたって強いデュエリストは沢山います!『北極星』や『南十字星』!かなり昔のデュエリストだけど、当時は【王者】を差し置いてこの星最強の【二つの明星】って言われてたって!それに『竜の英雄』や『原初の英雄』とか、世界の危機を救って英雄って呼ばれてる偉人達も、プロじゃないけど強いデュエリストには違いない!それに…それに…」

 

 

 

矢継ぎ早に早口に。

 

己の培った知識をフル回転させ、スキンヘッドからの問いに答えるセリ。

 

それはどこか必死さすら感じる、少々見苦しさすら覚えそうな少年の焦燥。

 

…一体、こんな何気ない問いかけになぜそんなにも必死になって答えているのか。

 

そんなセリの感情など、彼自身にしか分からぬ感情なのだろうが…

 

それでも生まれて初めて出会った本物の猛者の雰囲気を持つ男から、何かを得たいと知的好奇心を沸き立てている少年の必死さは、傍から見ても無様だとか見苦しいだとか、そう言った類のモノでは断じてないからこそ…

 

 

 

「ふっ…もういいよ少年。私が悪かった、すまないな、意地悪な事を言って。」

「…」

 

 

 

張り詰めた糸のような表情から一転。

 

大男は、自分の出した問いに真剣になって考え答えている少年へと…その口元に、微かな笑みを浮かべ一つ謝意を述べたのだった。

 

 

 

「詳しいのだな。一般人ならば精々【王者】か『逆鱗』の名を上げる程度だろうに。まさか君の歳で、【二つの明星】まで知っているとは少々驚いたよ。」

「…好きなんです、色々調べるのが。歴史の事とか、偉人の事とか…昔の、強いデュエリストの事とか。」

「ほう、実にいい趣味だ。過去を知るということは、未知を知るということでもある…無知ならば知ればいい。調べれば、知りたい答えはそこにある…実に合理的だ。…少年、君の名は?」

「セリ…セリ・サエグサ…」

「セリ少年、確かに君の言う通りだ。君はいい嗅覚をしている…私も、腕には少々自信があってね。…多分、プロデュエリストにも負けないと自負しているくらいには。」

「や、やっぱり…」

「けれども、私の他にもこの世界にはプロでなくとも強いデュエリストは数多くいる。何かしらの理由があってプロになれない者や、プロに興味がない者…私のような、プロ以外に生きる道を見出した者など様々だ。…世界は広い。この世界には、君より年が下でも私より強い者だって居るだろう。私も、まだまだだよ。」

「貴方ほどの人でも…」

 

 

 

大男の雰囲気が、この海風のように多少和らいだように感じられるのはきっとセリの勘違いではないのだろう。

 

それはセリの出した答えを、大男が気に入ったからなのか…

 

セリの知りたかったことに対し、セリの欲しかった答えを返すスキンヘッドの大男の言葉は、先程までの『畏怖』を感じさせる代物ではなく、後進に語りかける先達からの教えのよう。

 

まぁ、自らを強いと自負する大男の自信も相当ではあるのだが…

 

それでも、戦ってもいないのに大男の力が相当のモノであると感じ取れるセリも、学生レベルには収まらない程の実力を持っているが故の嗅覚を備えているからなのだろうか。

 

…そのまま、大男は、そのスキンヘッドを太陽に晒しながら。

 

セリへと向かい合いつつ、更に言葉を続け…

 

 

 

「良く覚えておきたまえ。…誰もが皆、正しい場所で正しく力を振るえるモノではないのだと。世界は広い…だから、世界には未だ見ぬ猛者が隠れている。自分の世界を狭いままで終わらせるのは実に不合理だ、世界を知り、経験を積む…そうすれば、力はおのずとついてくる。それが、強くなるということだ。」

「あ、あの…じゃあ、俺とデュエルしてくれませんか!?俺、プロになりた…いえ、なろうと思ってはいるんですけど…でも、ちょっと迷ってて…だから、貴方みたいな強い人とデュエルして、自分の力がどれ程なのかを確かめたいんです!もしかしたら、何か大事な事がわかるかもしれな…」

「ふむ…確かに経験を積めといったのは私だが…すまないな、この後急ぎの用時があってね。今はデュエルをしている暇は無いんだ。」

「そ、そうですか…すみません…」

 

 

 

そうして…

 

 

 

「そう悲観するな、また機会があればデュエルをしよう。もし私達が戦う運命にあるのならば…きっと、いつか戦う時が来る。」

「…はい。」

 

 

 

抽象的ながらも、とても大切な事をセリへと教え。

 

スキンヘッドの大男は、この場から去り始めたのだった…

 

 

 

 

 

「…あぁ、そうだ。」

 

 

 

…いや、一瞬の後。

 

徐に、大男は再度セリの方へと振り向いた。

 

 

 

「…今夜は嵐が来そうだ。家に閉じこもって、早く寝るのが合理的だろうな。」

「嵐って…確かに今の季節は海が荒れやすいけど…でも、予報じゃ何も…それに今夜はお祭りが…」

「あぁ、なに、余所者からのおせっかいというだけだ。どうするかは、君の合理性に任せるといい。」

「…」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ、黄昏を過ぎた夜の帳。

 

水平線に沈んでいった太陽の侘しさとは裏腹に、デュマーレの街は煌々と輝く月と共に、賑やかなざわめきを増し続けていた。

 

…それは世界10大祭りにも数えられる、デュマーレの街を挙げての『鎮海祭』が今夜行から始まったため。

 

『海の都』の名に相応しい、世界一美しい海の安寧と継続を願ってのこの祭りは…諸外国からの観光客たちが最も増える、デュマーレの街の一番の稼ぎ時でもあるのか。

 

街に溢れる人、人、人…

 

誰もが皆、祭囃子に浮き足立って…デュマーレの守り神として祭られているという、『伝説のカード』が眠っている神殿の一般開放を今か今かと待ち望んでいて。

 

そんな、盛り上がり続ける街の一角…

 

デュマーレの神殿に程近い、最も祭りの熱が高くなっている中心街に…

 

 

 

「ノーン!どうしてチャン僕ってば折角のお祭りを?オネーサンとじゃなく?見飽きセリの顔と過ごさなくっちゃいけなぅいーのー!」

「お前が煩いからだろ?ナンパに失敗したからって失礼な奴だな。」

「フゥー!セリってばてっきびしぅいー!」

「…そういうとこだよ。」

「ノーン!」

 

 

 

祭りの雰囲気を楽しみにきたセリと、ナンパに失敗したゴ・ギョウが相も変わらず二人で言葉を交わしていた。

 

…まぁ、ナンパに失敗し、半ば自暴自棄になってヤケ食いを続けているゴ・ギョウと違って。

 

純粋に祭りの雰囲気を楽しみにきているセリの表情は、浮き足立っている街の雰囲気に中てられ歳相応のモノとなってはいるのだが。

 

 

 

「大体さー、セリはクラスの女子たちに誘われてたじゃーん?なーんでそっちに行かなかったーん?」

「お前を放っておいたら手当たり次第の女性に声かけまくるだろ。ギョウの事だし、どうせナンパに失敗してヤケになってると思ってたからな。毎年ソレで注意うけてんだから少しは成長しろよ。」

「ちょちょちょー!『どうせ失敗して』って聞き捨てならならなくなーぅいー!?チャン僕だって年々ダンディズムがグングン…」

「はいはい。」

 

 

 

そうして、いつものゴ・ギョウのやかましさを祭りの出汁に加えつつ。

 

盛り上がる祭りの雰囲気を、その肌で感じながら楽しんでいるセリ・サエグサ。

 

…何度体験しても、この祭りの雰囲気だけは特別だ。

 

まだ若いというのに、セリの心には地元を愛する心と共に…もう何度目かとなる『鎮海祭』を純粋に楽しんでいるセリの心には、この祭りの空気だけが常に感じている憂鬱な感情を吹き飛ばしてくれるのだと言わんばかりの代物となりて、腐れ縁であるゴ・ギョウの喧騒を、適当にあしらいつつ祭りの催しを楽しみ続けるのか。

 

 

…もうすぐ、一日目の祭りのクライマックス。

 

 

夜も遅い時間だと言うのに、中央街のざわめきは上昇の一途を辿り続けており…

 

このデュマーレの街が、世界に名立たる5大デュエル大都市に数えられるその由縁。

 

『鎮海祭』の時期にだけ一般開放される、平時は厳重に封印されているソレを一目見ようと…観光客が中央街、そしてデュマーレの神殿に一挙に押し寄せ始める。

 

また、このタイミングが『鎮海祭』で最も盛り上がる時だということを経験から知っているセリが、1年で最も街が活気付くこの瞬間を今年も味わおうとして…

 

 

 

「おっ、そろそろ神殿が開く頃だぞ?ギョウ、行こうぜ。」

「フーンだ。もう見飽きたもーんだ。毎年見てるのによーく飽きませんねーセリさんはー!」

「だって毎年凄い盛り上がりじゃんか。みんな、こんな田舎町に来てまでアレが見たいんだぜ?」

「ひゃはは、めんめんめんめんめんどくさーいからチャン僕は行っかなーぅいー!そーれにさっきからなーんかフッラフラいーい気分なんだよねーん!」

「…ギョウ?…ッ!おま、これ!酒じゃんか!」

「ひゃはははは!さっき屋台のオッサンがくれたのよーん!うっまいのなんのって、セリも呑んでむぃなーよー!!」

「お前なぁ…先生が見回りに来てたら一発アウトだろうが。…はぁ、水持ってきてやるから、大人しくここにいろよ?」

「りょーかいしましたでありむぁーす!フゥー!」

「…」

 

 

 

いや、祭りの雰囲気を味わうどころか、例年以上の迷惑を腐れ縁にかけられてしまって。

 

仕方なく…そう、心の底から仕方なく。

 

アナウンスの声と共に開き始めた神殿の扉と、盛り上がる観光客の声援に紛れて…

 

セリが水を貰おうと、一つ裏の路地に展開している屋台に向かおうと建物の間の裏道に入った…

 

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

突如―

 

 

 

祭りのクライマックスのこの瞬かに、通常であれば『ありえない音』が神殿の方から轟いた―

 

 

それは、まるで爆発音…

 

 

そう、誰もが体験したことのないであろう、凄まじいまでの爆発音が神殿の方からこの中央街に轟いたのだ。

 

そして刹那の後に、神殿の方から立ち昇り始める濁った煙。

 

それは紛れも無く、神殿の内部で大きな『爆発』があったことを証明している光景となりて、中央街に鼻を歪ませる火薬と焦燃の異臭が広まり始めたではないか―

 

すると、異常を間近で感じた観光客達の方から悲鳴が上がり始め…

 

祭りの催しではない、あきらかな異常なる音に当てられた観光客達が、一気にパニックとなりて中央街から外へと凄まじい勢いで逃げ出し始めたではないか。

 

…悲鳴、鳴き声、叫び声、怒声。

 

楽しげだった祭りの声から一転。阿鼻叫喚の坩堝と変わった中央街が、パニックを起こした人々によって混乱の渦に巻き込まれていく。

 

 

 

「な、何だ!?」

 

 

 

そんな中…

 

狭い裏路地に入っていたセリもまた、いきなり巻き起こった爆音とパニックの音に対し、何が起こったのかわからずに呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 

…しかし、それはある意味幸運でもあったのか。

 

何せ中央街のメインストリートは一瞬でパニックに陥り人がごった返している。

 

しかしセリの入った狭い裏路地には人が来る様子はなく、パニックがパニックを煽り更なるパニックを引き起こしているメインストリートの人々とは違って多少は冷静で居られたのだから。

 

 

…そして、セリは即座に考える。

 

 

 

(神殿の方から聞こえたのは爆発音…煙も上がってるし、建物が燃えてる匂いもする…でもなんで神殿が爆発して…早く警察と消防に…今の時間は…)

 

 

 

ありえないことではあるが、しかし現実に起こってしまったであろう事態。

 

…例年滞り無く終わるはずの平和な『鎮海祭』に起こった、非現実的な爆発テロ。

 

そんな、パニックになっている表通りの喧騒を他所に…いきなり起こってしまったこんな事態を、どこか冷静に対処しようとしているのも偏にセリがパニックに巻き込まれていないが故なのか…

 

―何が起こったのかはわからないが、とにかく一刻も早く救援を呼ばなければ。

 

そんな、無理矢理自分を冷静に保とうとしているかのようなセリの思考が…

 

狭い裏路地の中で、パニックを他所にどうにか落ち着きを自らに課そうとしていた…

 

 

 

その時だった―

 

 

 

―ドンッ…

 

 

 

…っと、狭い裏路地に立っていたセリを押しのけるようにして。

 

一瞬で、なんと裏路地の向こうから走ってきた複数人が…今まさに警察に電話をかけようとしていたセリにぶつかりつつも、この狭い裏路地を勢い良く走り抜けていったのだ。

 

しかし、それはパニックになった観光客が走り抜けていったわけでは断じてなく…

 

 

 

「ッ!?い、今のは!?」

 

 

 

そう、今この一瞬で、勢い良く駆け抜けていった者達。

 

それが観光客ではなく、『それ以外』の怪しい集団であったことが、ぶつかった本人であるセリには一瞬で理解できてしまった。

 

…何せ今ぶつかって通り過ぎていった者達は、もれなく全員黒いローブに全身を包んでいた。

 

また、それだけではなく。

 

その5人ほどいたその者達の、最後尾を駆けていった者の手には…

 

見るからに怪しい、小さくも厳重そうなアタッシュケースが握られていたのだから。

 

 

 

「神殿で爆発…神殿の方から走って逃げってた奴ら…小さいアタッシュケース………ッ!?」

 

 

 

セリの脳裏に、『最悪の予想』がよぎる。

 

 

…パニックになって逃げるのではなく、まるでこの混乱に乗じて『目的』を持って迅速に逃げていったかのような今の5人の集団。

 

…この混乱に乗じて、屋台などの『金』を盗んだにしては先のアタッシュケースは小さすぎる。

 

…なにより、奴等が来たのは爆発があった神殿の方向…しかし注目が集まっていた神殿の正面方向ではなく、更に奥の方からであり…

 

 

 

「さっきの奴ら、まさか神殿のカードを!?くそっ!待てー!」

 

 

 

そして、駆ける―

 

セリもまた、逃げていった黒ローブの集団を追いかけるようにして。

 

…それは一瞬の思考の巡り。しかして迷いない即決と即断。

 

もし逃げていった集団がこの爆発を起こし、そして神殿に祭られていたカードを奪ったのだとしたら。

 

年に一度の『鎮海祭』を壊した挙句に、このデュマーレの街の大切な象徴であるとともにデュマーレの誇りでもある『伝説のカード』を奪うだなんて悪行を、セリが見逃せるはずもないのだろう。

 

しかし、一般人であればここまで思考を巡らし、そして『まさか』の可能性に賭けてここまで迅速に行動を起こす事など出来はしないはずだというのに…

 

けれども、常日頃から深く思考を巡らし、そして己の考えに自信を持って行動している自意識の高いセリ・サエグサにとっては。今この場面におかれても、こうも迷い無く己の直感と推理を信じ、犯人と思わしき集団を追いかけることに何の迷いも生じないのか。

 

 

…セリが黒ローブの集団とぶつかったのは、果たして幸運だったのか不運だったのか。

 

 

そんなこと、この場においては誰にも分からぬことではあるものの…それでも、目にしてしまった悪行を見逃せるほど、セリにとってこの生まれ故郷であるデュマーレの街の誇りは軽くなく。

 

 

…人の居ない路地を駆け抜けるローブの集団を、持ち前の若さと運動神経で追いかけるセリ。

 

 

時には複雑な隙間と隙間を。時には迷路のような路地と路地を。まるで下調べをしてきたかのように、追っ手を撒くことを想定している動きで巧みに駆け抜けていく5人の黒ローブの者達…

 

けれども、そんな黒ローブの者達に決して撒かれずにセリが追いかけられるのは、偏にこの街で生まれ育ったセリの方向感覚と地の利のおかげでもあるのだろう。

 

…そう、この街はセリにとって庭同然。

 

デュマーレの街のことならば、裏路地から獣道まで、そして知っている者が居ないであろう裏道までも、幼少の頃からゴ・ギョウと共に駈けずり回ったセリだからこそ。

 

その道のプロのような逃げ足で逃げ続ける黒ローブの者達を見失う事無く、追って追って追い続ける。

 

 

そして、段々と人の気配が無くなってきた街の外れへと差し掛かったとき…

 

 

 

「ッ!あいつら、船まで用意してたのか!」

 

 

 

路地を抜け、今では使われていない古い港倉庫街に辿り着いたセリの目に飛び込んできたのは…

 

小型のクルーザーに乗り込み、今まさに海からデュマーレの外へと逃亡し始めた後姿であった。

 

 

 

「くそっ!ここまで来て…」

 

 

 

あと一歩のところまで追いかけたというのに、あと一歩足りずに逃してしまったなんて。

 

…しかし、こうして逃げていく集団を見て…セリの中では、元々持っていた『確信』が強い『確定』へと変わっていく。

 

そう、もしコレが自分の勘違いで済むことだったならばそれでも良かった。けれども、こうして海からのルートを確保していたと言うこの計画的な逃亡は…あの集団が『伝説のカード』を奪ったのだというセリの予想を、紛れも無い真実へと作り変えていくのだから。

 

…ならば、なおさら逃がすわけにはいかない。

 

奴等が奪ったカードはデュマーレの誇り。この街が守り、この街を護り、そしてこの街と共に歴史を刻んできた由緒正しい『伝説のカード』を、あんな窃盗団に渡してたまるものか。

 

そうした決意がセリの中に溢れる。デュマーレの誇りをあんな奴等に渡してなるものか…と。

 

 

―すると、その決意が功を奏したのか。

 

 

なんとセリの視界に飛び込んできたのは、防波堤に結び付けられていた一つの真新しいボート…

 

そう、誰の物かは分からないが、エンジン付きのボートが波に揺られていたのをセリは見つけたのだ。

 

 

…きっと、この周辺を縄張りにしている釣り人の所有物なのだろう。

 

 

すぐさまボートへと乗り込みつつ、縄を解き始めるセリ。

 

…手入れもされており燃料も足りている。

 

また、昨日も沖へと釣りに行っていたかのような船と波の一体感は、まさにあのクルーザーを追いかけるには充分過ぎる足となりてセリの元へと舞い込んだのか。

 

だからこそ、セリは即座に自らのデュエルディスクを取り出すと、何やらボートの制御システムへとコードを繋げ始め…

 

 

…そう、デュエルディスクは万能端末。

 

 

こういったときの為に、ハッキング技術やプログラミング技術にも興味本位で一通り手を出しておいたおかげか。セリは即座にボートの制御システムに、デュエルディスクでアクセスを試み始めて。

 

エネルギーシステムを支配し、セーブされていた出力を解放して最高速を引き上げ…

 

キーは刺さっていないものの、遠隔にてエンジンを駆動させ…

 

 

そして―

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

瞬間…

 

そう、エンジンを始動させたその瞬間―

 

慣性の法則により、凄まじいまでのGがセリの身体に圧し掛かったかと思うと。波を思い切り切り裂くかのような音と共に、勢いよくボートがクルーザーを追い始めたのだ。

 

…それは、こんな小型ボートが出せる出力を大きく超えた法定違反のノット。

 

しかし、高性能クルーザーにも簡単に追いついてしまいそうな、規格外かつ凄まじいスピード。

 

後ろから、小型クルーザーを追いかけるセリ。

 

一介の高校生が、窃盗集団を恐るべき執念で追いかけているこの光景はどこか不思議な光景ではあるものの…

 

それでも、デュマーレの誇りを奪っていった奴等を、絶対に許してなるものかと。セリの執念が速度と化して、みるみるうちにクルーザーへと距離を詰め…

 

 

 

 

―クルーザー

 

何やら険悪な雰囲気が漂っている船内。

 

 

 

「ガキが追ってきやがった。だからあのルートで逃げるのは反対だったんだ。」

「何が『最も人通りの少ない路地を通る』だよ。ガキがつったってたじゃねーか。」

「合理的に考えてアレが一番早いルートだったのだ。文句を言っている暇があるのならば、私に作戦を一任した自分達の無責任を呪え。それにアクシデントは付き物だろう?何年この世界で生きているのだ。」

「チッ…あのガキ、ずっと追っかけてきてた奴だよな?」

「あぁ、撒いても撒いてもついてきてたぜ。」

「面倒だな…どうする?殺すか?」

「そうだな、逃げた所で警察にかけこまれるのがオチだ。目撃者は消す…それで、万事解決だ。」

「…」

 

 

 

その、決して和やかな雰囲気ではない船内では…

 

今まさに、後ろから追いかけてきている少年への対処について、あまりに物騒な会話が交わされていた。

 

…殺すとか、消すとか。

 

そういった、普通の日常では絶対に聞かないであろう単語と雰囲気。しかし、それが形容ではなく『本気』で述べられているということは…

 

今の船内の雰囲気と、そして彼らの持っている物騒な形をした『得物』を見れば一目瞭然であることだろう。

 

 

 

そうして…

 

 

 

沖に差し掛かる寸前の海上にて、クルーザーが徐々にスピードを落とし始め…

 

 

 

「…止まっ…た?」

 

 

 

突然スピードを緩め、停止し始めたクルーザー。

 

そしてクルーザーに追いついたセリが、少々驚きを感じた…

 

 

 

その刹那―

 

 

 

 

ジャキッ!ジャキッ!

 

…っという、聞き間違えようのない『銃』を構える音がセリの耳に届いてしまった。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

そう、ソレは紛れも無く、『銃口』を突きつけられたが故に生じた、銃を構える2つの音。

 

…停止したクルーザーから出てきた2人の男に、正真正銘セリは銃口を突きつけられたのだ。

 

それはライフル…いや、ライフルの形をした、それでいて実際に銃弾を放つことのできる機能を備えた万能端末であるデュエルディスク。

 

決して正規品ではない、表社会では出回らないソレを構えている2人の男達の雰囲気は見るからに怪しく危ない代物であり…

 

その瞬間に、セリも彼らが表社会の人間ではないことをいやでも理解してしまって―

 

 

 

…迂闊だった―

 

 

 

ここまで追いかけてきたはいいものの、よくよく考えれば自分は無策で飛び出してきたも同然。

 

ただの無謀、ただの無茶…

 

おいかけても、それ以上の事など考えている余裕などなかったが故に。こうして、敵と面と向かって対峙した時の対処法など、まったく持ってセリは考えてもいなかったのだ―

 

 

まずい…まずいまずいまずい―

 

 

唐突な焦りがセリを襲う。飛び出してきたはいいものの、そこからどうするかを全く考えていなかった―

 

そんな、勇敢と無謀を履き違えていたセリへと襲い掛かるのは、紛れも無い命の危機。

 

 

どうする…どうするどうするどうする―

 

 

船で逃げ出したって、敵はきっと追ってくる。きっと、自分を殺すまで追ってくる…

 

海に飛び込んでも、銃で撃たれて終わり…潜ったって、呼吸の為に浮かんだところを狙われる…

 

銃型のデュエルディスクを構え、自分へと狙いを定めている敵の雰囲気から、ソレを嫌でも察知してしまうセリ。

 

まさかこんなことになるなんて考えてもいなかったという、若さだけに任せた突貫による初めて味わう命の危機に、思わずセリの頭の中が真っ白になっていき…

 

 

 

そうして…

 

 

 

無言のまま、無慈悲なまま。

 

余計な事を言うつもりもない2人の男達が、冷や汗と焦りの表情を浮かべている勇敢なるも無謀な少年へと小さな引き金を引きかけた…

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

「待て…彼の相手は私がしよう。知り合いだ。」

「…え?」

 

 

 

引き金が引かれるまさに寸前…

 

セリの耳に、何やら聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

そしてクルーザーの奥から出てきたのは、銃型のデュエルディスクを構えていた2人の男達よりも頭一つ飛び出すくらいに大きな…それでいて、体付きも2人の男よりも段違いに鍛え上げられているであろう屈強なる体影であり…

 

新たに出てきた、屈強なる男が纏っていたローブを取った…

 

そこには―

 

 

 

 

 

 

「言っただろう?戦う運命にあるのならば…いつか、必ず戦う時が来ると。まぁ、随分と早かったがな。」

「ッ!あ、貴方は!」

「改めて名乗ろう、セリ少年。我が名はホトケ・ノーザン…しがない、デュエル傭兵だ。」

「傭…兵…」

 

 

 

そう、現れたのは、午前にカフェで…そして午後に公園で出会った、セリに大切な事を教えてくれた、スキンヘッドの大男であったのだ。

 

…思わぬ形での再開に、混乱の鈍器がセリを襲う。

 

セリとて、こんな形で再開するなんて思ってもみなかったのだろう。確かに彼は余所者で、平和なデュマーレの街には不釣合いな雰囲気を纏ってはいた。けれども、『強くなる』ということの意味をセリへと教えてくれたこの男が。

 

何より、プロになることに迷いが生じていた自分に大切な事を教えてくれたこの男が、まさかデュマーレの誇りを奪った張本人だったなんて。

 

 

デュエル傭兵…確かに、この男は自らをそう言った。

 

 

それは言葉の通りならば、表社会の者ではないと自ら名乗ったのと同義。

 

そんな、出会ったばかりだというのに…セリの中には、スキンヘッドの大男にどこか裏切られたかのような喪失感が浮かび上がってきて…

 

 

 

「なんで…貴方がこんなことを…だって…俺にはアンタが悪人には見えなかっ…」

「覚えておくといい。悪事を働く者と言うのは、自らを悪人と悟らせないモノなのだと。」

「くっ…」

「しかし、よくここまで追ってきたものだ。…なるほど、デュエルディスクで船のシステムを乗っ取ったが故のスピードか…ふっ、若さゆえに実に不合理な行動だが、同時に勇敢でもある。やはり君は大した少年だよ。」

 

 

 

敵であるはずのスキンヘッド…ホトケ・ノーザンと名乗った男から零されるのは、何故かセリを称えているかのような言葉の羅列。

 

しかし、いまだ銃を突きつけられ続けているセリからすれば…いくらホトケ・ノーザンから賞賛の言葉を投げられても、いつあの銃口が火を噴くかわかったものじゃないのだから、いまだ感じ続けている命の危機に、冷たい汗が止まらないままで。

 

…煩いくらいに鳴り響く心臓の鼓動。乱れに逸る呼吸と吐息。

 

本当に死ぬかもしれない恐怖に対し、セリはとにかく動けぬまま。

 

 

 

そのまま…

 

 

ホトケ・ノーザンは、身構えているセリへと向かって…

 

 

 

「ならばこちらも、船の制御システムと私のディスクを同化させよう。…さて、デュエルをしようじゃないかセリ少年。LPへのダメージが、そっくりそのまま船へのダメージに繋がる…裏のデュエルを。」

「………え?」

「おいおいノーザンさん、いいのかよ、そんなチンタラしてて。」

「こんなガキ、殺して海に沈めときゃ済む話だろうが。」

「大丈夫さ。時間はかからん。…この作戦の責任者は私だ。黙って従ってもらおう。」

「…はいはい、物好きだねぇアンタも。」

「まっ、危なくなったら見捨てて逃げるさ。警察には1人で捕まってくれ。」

「あぁ、それでいいとも。」

 

 

 

一体、ホトケ・ノーザンは『何』と言ったのか。

 

セリが聞き間違えていなければ、今確かにホトケ・ノーザンは殺されかけているセリへと向かって…『デュエル』をしようと、そう言ったのだ。

 

…それは、あまりに突拍子も無い申し出。それは、あまりに意表を突いた申し出。

 

まさか、有無を言わさずに銃殺されかけていたセリへと向かって。敵の方から、『デュエル』による決着を申し出てくるだなんて。

 

 

 

「さぁ、はやくデュエルディスクを構えたまえ。せっかくここまで来た君にチャンスを上げたというのに、ソレを棒に振るなど君もしたくはないだろう?」

「な、何でそんなことを…」

「ふっ、ただの気まぐれだよ。デュマーレで過ごした1日、その中で2度も縁を結んだのだ。…ならば、君は相当『運』がいい。縁もなく撃ち殺されるところを、私と出会っていたおかげで生き延びるチャンスをもらえたのだから…それとも…このまま撃たれて死ぬのがお好みか?私はそれでも別にいいんだが…」

「…ッ!や、やってやるよ!そっちこそ!俺を早く仕留めなかったことを後悔するんだな!奪ったカードを返してもらうぞ!ソレはこの街の物だ!」

「ほう、この状況でも自らを奮い立たせることが出来るか…いいだろう、そうこなくては。」

 

 

 

果たして…

 

ここで、この場で、この瞬間に。セリ・サエグサが、生き延びるチャンスを敵から貰えたのは…世界の歴史にとっては、幸運だったのだろうか。

 

そんなこと、今この時この瞬間でのセリ・サエグサにとっては知る由もないことではあるものの…

 

それでも、一介の決闘学園の学生に過ぎないセリ・サエグサが、今こうして『運良く』銃殺される瞬間を回避したことも歴史的にみればまた事実。

 

…クルーザーと、ボートの上で。

 

そして逃げ場のない海の上で、いまだ混乱の渦が上昇し続けているデュマーレの街を他所に…

 

 

何の気まぐれか、神の気まぐれか。

 

 

生きる世界の違うはずの、出会うことなどなかったはずの…

 

学生と傭兵がデュエルディスクを構え、デッキが現れ手札を引いて―

 

 

 

「いくぞ!」

「…あぁ。」

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

それは、始まる。

 

 

 

 

 

先攻は、セリ。

 

 

 

 

 

「俺のターン!【マジシャンズ・ロッド】を召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【マジシャンズ・ロッド】レベル3

ATK/1600 DEF/ 100

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

セリ・サエグサが召喚したのは、幻影によって振るわれる魔術師の杖が如きモンスターであった。

 

それは古い歴史を持つ魔法使い族の中でも、特に古の時代よりこの時代に伝わる黒き魔術師が愛用している杖であり…

 

…杖こそが本体。

 

その、幼少の頃から使い慣れたモンスターである、異質なるも残滓を宿すその杖は…主であるセリのデッキへと向かって、魔力の残り香を放ったかと思うと…

 

 

 

「ほう、マジシャン…」

「いくぞ!【マジシャンズ・ロッド】の効果発動!デッキから【黒の魔導陣】を手札に加える!そのまま永続魔法、【黒の魔導陣】を発動!デッキトップを3枚確認!…よし!俺が手札に加えるのは罠カードの【永遠の魂】だ!続けて装備魔法、【ワンダー・ワンド】を【マジシャンズ・ロッド】に装備!そして【ワンダー・ワンド】の効果で、【マジシャンズ・ロッド】を墓地に送って2枚ドロー!」

「確認した3枚を全て手札に加えるとは…無駄のない、実に合理的動きだ。」

 

 

 

流れるようなセリの進展、決して淀みないその動き。

 

これまで、幾度となくその動きを行ってきたかのようなセリのデュエルは…得体のしれないデュエル傭兵を前にしてもなお、決して恐れること無く繋げられるのか。

 

…何をしてくるか分からない相手。そのEx適正もわからない。

 

ならば奇をてらった動きではなく、今の自分に出来るいつもの動きを貫くのみなのだとして。まずは相手の動きを見るというセリの戦法は、初めて戦う相手に取る戦法としてはあながち間違ってはいないはず。

 

…そう、デュエルディスクとボートの制御システムが繋がったままのこの状況は、LPへのダメージがそのまま船へのダメージへと繋がる。

 

それすなわち、LPが0となるほどのダメージを受ければボートのエンジンの制御システムがオーバーヒートを起こし…

 

そして最後には爆発してしまうという、まさに恐るべき裏社会のデュエルということでもあるのだから。

 

 

 

「俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

セリ LP:4000

手札:5→3枚

場:無し

魔法・罠:【黒の魔導陣】、伏せ3枚

 

 

 

…だからこそ、少ない動きながらも決して無駄の無い動きで。

 

今、最大限の警戒を施してそのターンを終えた、デュマーレ校2年のセリ・サエグサ。

 

ホトケ・ノーザン…今対峙している敵が、とんでもない強敵であるということなど、午前にカフェでぶつかった時点でセリはよく理解している。

 

…デュマーレ内では戦った事の無い、自分が本当に強いと直感した相手。

 

そんな、得体の知れない裏社会の猛者を相手に…

 

セリはどこまでも警戒を解かず、視線を鋭く身構えたままで…

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー。ターンエンド。」

「何!?」

 

 

 

ホトケ・ノーザン LP:4000

手札:5→6枚

場:なし

伏せ:なし

 

 

 

しかし…

 

そんなセリを意に介さず。

 

なんと、全く動きを見せず…ドローフェイズに動いただけで、そのターンを終えてしまったホトケ・ノーザン。

 

…一体、何を考えているのか。

 

自ら裏社会の流儀といわんばかりの危険なデュエルを仕掛けてきたと言うのにも関わらず、その戦いを仕掛けてきた本人が何も動く事無くターンを終えるだなんて、セリからしてもそうとうの驚きを与えられたに違いなく…

 

 

 

「な、なんで…」

「そうだな…1ターンだけ待ってやる。私を、『強いデュエリスト』と称してくれた礼だよ。」

「な…」

 

 

 

…それは、どれだけの余裕から来る怠慢なのか。

 

確かに、セリとてホトケ・ノーザンの力が相当たるモノであると言うことは、事件の前に出会ったときからその直感で感じ取ってはいる。

 

―けれども、まさか何もせずにターンを終えるだなんて。

 

ホトケ・ノーザンがいくら裏社会の者で、いくら尋常ならざる力を持っているのだとしても。

 

それでも、仮にも時期プロデュエリスト候補である自分を相手に、ここまでの怠慢を見せつけられては…セリとて、命の危機を感じる状況であっても、怒りを感じるなと言う方が無理なことだろう。

 

 

 

「舐めやがって…俺のターン、ドロー!罠カード、【マジシャンズ・ナビゲート】発動!手札から【ブラック・マジシャン】を!デッキから【マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン】を特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【ブラック・マジシャン】レベル7

ATK/2500 DEF/2100

 

【マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン】レベル7

ATK/2100 DEF/2500

 

 

 

だからこそ、未だ銃口を突きつけられてはいても。

 

デュマーレ校一の秀才としてのプライドが、命の危機という恐怖を大幅に上回ったのか。

 

…舐めてかかったことを、後悔させてやる。それが例え、裏社会の者でも。それが例え、圧倒的力を自負する猛者だとしても…

 

 

―そうしてセリの場に現れたのは、古の時代より研鑽を積み続ける黒き魔術師。

 

 

そして同じ姿をした、幻影の如き漆黒の魔力であり…

 

 

 

「容赦はしない!魔法カード、【融合】発動!場の【ブラック・マジシャン】と【マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン】を融合!融合召喚!来い、レベル8!【超魔導師-ブラック・マジシャンズ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【超魔導師-ブラック・マジシャンズ】レベル8

ATK/2800 DEF/2300

 

 

 

「永続罠、【永遠の魂】発動!墓地から【ブラック・マジシャン】を特殊召喚!そして【超魔導師-ブラック・マジシャンズ】の効果で1枚ドロー!…よし!【融合賢者】を発動し、デッキから【融合】を手札に加えてもう一度【融合】を発動する!場の【ブラック・マジシャン】と、手札の【バスター・ブレイダー】で融合!融合召喚!来い、レベル8!【超魔導剣士-ブラック・パラディン】!」

 

 

 

【超魔導剣士-ブラック・パラディン】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

 

 

連続して現れる、黒き魔術師が到達するであろう頂点の姿たち。

 

それぞれが、黒き魔術師の到るべき未来の一つ。ある一つの道を究めた、到達せし果ての姿であり…

 

弟子と一対となりて、その魔力を極限まで高めた者。

 

竜破壊の極意を得て、魔術と剣技を極めし者。

 

そして…

 

 

 

「まだまだぁ!【強欲で貪欲な壷】を発動!デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー!そして【円融魔術】発動だ!墓地の【ブラック・マジシャン】と【バスター・ブレイダー】を除外融合!融合召喚!来い、レベル8!【超魔導騎士-ブラック・キャバルリー】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【超魔導騎士-ブラック・キャバルリー】レベル8

ATK/2800→3300 DEF/2300

 

 

 

まだ、終わらない。

 

最後にセリの場に現れたのは、代々暗黒騎士に仕えし名馬を従えた、魔術と騎士道を極めし姿。

 

…最上級魔術師の融合体を、連続して3体も呼び出すというその所業。

 

それは紛れも無く、セリ・サエグサが【フェスティ・ドゥエーロ】でも準優勝できるだけの実力を備えているということの証明となりて…

 

今、3体の魔術師の果ての姿が揃い踏む。

 

 

 

「ほう、高等魔術師を3体連続融合召喚とは…なるほど、確かに学生でこれ程までの力を持つとは…」

「いくぞ、バトルだ!【超魔導剣士-ブラック・パラディン】でダイレクトアタック!」

 

 

 

そうして…

 

竜破壊の力を得た、剣聖が如き魔術師が空へと浮かび上がる。

 

魔術と斬撃が一体となった超魔術…その真髄を、裏社会の者へと食らわせんとして。

 

主の故郷の誇りである、伝説のカードを奪った不逞の輩に鉄槌を。その凄まじき魔力の収束が、剣であり杖である武具に集まり…

 

 

 

「パラディンアーツ・ノヴァブレードォ!」

 

 

 

今、裏社会のデュエル傭兵へと向かって。斬撃の波動が、勢いよく解き放たれ…

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「だが、些か甘すぎるな。【バトルフェーダー】の効果発動。」

 

 

 

―!

 

 

 

寸前…

 

そう、解き放たれた魔力の斬撃が、ホトケ・ノーザンに届くまさに寸前の時。

 

なんと、ホトケ・ノーザンはまったく焦った様子もなく、さも当然のようにしてセリからの攻撃をいとも簡単に防いでしまった―

 

 

…現れたのは、戦いの終わりを告げるベルを持った、1体の小さき悪魔の化身。

 

 

いかなる直接攻撃も、その身一つで止めてしまう頑強さと共に…斬撃の余波に揺られて、バトルフェイズ終了の鐘が鳴り響いてしまったではないか。

 

 

 

「なっ!?」

「甘すぎる。相手が無防備であるからこそ、その裏を読まなければ攻撃が届くはずもない。焦りすぎたな、セリ少年。」

「くっ…だけど魔導師たちの効果で、お前も自由に動けるはずが…」

「その1枚の手札コストでどれだけ防げるというのだ。それに君は【ブラック・マジシャン】を除外してしまった…それでは、【黒の魔導陣】の除外効果も使うことができない。」

「ッ!…くそっ!俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

 

セリ LP:4000

手札:4→1枚

場:【超魔導師-ブラック・マジシャンズ】

【超魔導剣士-ブラック・パラディン】

【超魔導騎士-ブラック・キャバルリー】

魔法・罠:【黒の魔導陣】、【永遠の魂】、伏せ1枚

 

 

 

あくまでもどこまでも余裕のまま、不敵な態度を崩さぬ傭兵、ホトケ・ノーザン。

 

…セリとて、ホトケ・ノーザンが何もせずにターンを渡してきたことから、彼に何かしらの守りの手段があるのだろうということは考えてはいた。

 

しかし、先のセリの手札ではソレを押さえられるモノを出すことは出来ず…

 

だからこそ、次の相手ターンを見越してセリは攻撃力も高く封殺効果を持った最上級魔術師達をこんなにも場に揃えたというのに…

 

 

 

(なんだよ…なんなんだよ…3体も魔術師達を融合召喚してるってのに、この不安は一体…)

 

 

 

それでも、押し寄せる不安感は益々強くなっていくばかり。

 

…手札に差はあれど、ボードアドバンテージは圧倒的に自分が有利のはず。相手は墓地にだって何も用意をしておらず、1からこの場を覆すにしたって多少の妨害を挟まれればソレは著しく困難になるはずなのに…

 

そう巡るセリの思考。しかしソレすらも容易に押し潰してくる圧倒的不安感。

 

ここまでの場を作り上げてもなお、一体どうしてこんなにも恐いのか。

 

その、今まで経験したことのない恐怖が、どこまでもセリへと纏わり続ける。

 

 

 

「私のターン、ドロー!手札を1枚捨て、速攻魔法【ツインツイスター】発動!【黒の魔導陣】と、【永遠の魂】を破壊する!」

 

 

 

しかし、そんなセリの不安に更に上から圧し掛かるように。

 

ターンを迎えてすぐ、徐に1枚の魔法カードを発動した傭兵、ホトケ・ノーザン。

 

そして、ホトケ・ノーザンの場に生じた双頭の竜巻が…海中より、勢いよくセリの魔法・罠へと襲い掛かり…

 

 

 

「させるかぁ!超魔導剣士の効果発動!手札の【ブラック・マジシャン・ガール】を捨てて、【ツインツイスター】を無効に!更に超魔導師の効果で1枚ドロー!」

「ふっ、だが私が墓地に捨てたのは【ワイトプリンス】!そのまま、【ワイトプリンス】の効果が発動する!」

「ッ、【ワイト】!?」

「デッキから、【ワイト】と【ワイト夫人】を墓地へと送る!続けて2体目の【ワイトプリンス】を通常召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ワイトプリンス】レベル1

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

そして…

 

ホトケ・ノーザンの場に現れたのは、肉片すらその身に残ってはいない、骨のみとなった一族のその王子であった。

 

―【ワイト】

 

それは古の時代からこの世界に存在している、効果を持たぬ弱小モンスターの名。そしてその名を冠したモンスター達で構成される、墓場に住まいし骸骨の一族であり…

 

ホトケ・ノーザンの場に現れたのはその内の一体。墓場を遊び場とし、いずれ骸骨達の頂点に立つであろう…永遠に生きる骸の嫡子、骸骨族の時期皇帝。

 

 

 

「ワイトだって!?そ、そんな珍しいデッキを…」

「ゆくぞ。レベル1の【ワイトプリンス】と【バトルフェーダー】でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、ランク1!【ゴーストリック・デュラハン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1

ATK/1000→1200 DEF/ 0

 

 

 

…続けて。

 

ホトケ・ノーザンの持つ、エクシーズのEx適正に導かれ海上に現れたのは、骸の小馬に跨った、小さき首なし騎士であった。

 

…それは【ゴーストリック】というカテゴリーに属するエクシーズモンスターではあるものの、その効果の汎用性によっては多用なデッキでも登場する機会がある、まさしく夜の騎士たる姿。

 

合理的デュエルを主とするホトケ・ノーザンの呼び声によって…

 

騎士らしく、セリの場の魔術師達へと向かい合う。

 

 

 

「【ゴーストリック・デュラハン】…ッ、そいつは確か!」

「デュラハンの効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、ブラック・パラディンの攻撃力を半分にする!」

「させるかぁ!超魔導騎士のモンスター効果!手札の【幻想の見習い魔導師】を捨て、【ゴーストリック・デュラハン】の効果を無効にして破壊する!」

 

 

 

―!

 

 

 

けれども、セリもただではやられるつもりはなく。

 

いくら相手が【ワイト】という、古の時代よりこの世界に伝わる珍しいデッキを使ってこようとも。

 

自らが誇る魔術師達の、常識を超えた超魔術によってホトケ・ノーザンを好きに動かすつもりはないのだとして…

 

…どこまでも、どこまでも。

 

圧倒的恐怖心に打ち勝たんと、必死になって喰らい付く。

 

 

 

 

 

そう…

 

 

 

 

 

『必死』になって、喰らい付いているのだ。

 

 

あの、5大デュエル大都市に数えられる、世界屈指のデュエリストレベルを誇るデュマーレの街の…

 

あの、決闘学園デュマーレ校一の秀才と称えられる、【フェスティ・ドゥエーロ】準優勝者の、セリ・サエグサが、だ。

 

 

…それは、あまりに不可思議な状況。

 

 

何せ一介のプロ程度では、セリを相手にしても勝てるかどうか怪しいというのに…プロ入りすれば、たちまちプロのトップランカーに駆け上がるであろうと評価されている、このセリ・サエグサが。

 

…表社会では全くの無名である、裏社会のデュエル傭兵を相手に、恐怖心に押し潰されようとしているだなんて。

 

それは尋常ならざる現状。それは普通であればありえない状況。

 

それすなわち、表社会しか知らない若すぎるセリにとっては…自分の知らない世界は、こんなにも広すぎるということであり…

 

 

 

「だが再び【ワイトプリンス】の効果が発動する。デッキから2体目の【ワイト】と【ワイト夫人】を墓地へ!…焦りすぎだな、セリ少年。私への怒りで視野が狭まりすぎている。」

「な…け、けどアンタはもう召喚権を使った!それに、アンタの残りの手札の中に『アレ』がある確率なんて…」

「…墓地の【ワイトプリンス】の効果発動。【ワイト】2体とプリンスを除外し、デッキから【ワイトキング】を特殊召喚する。」

「デッキ!?」

「だから視野が狭いと言ったのだ。出でよ、レベル1!【ワイトキング】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/ ?→3000 DEF/ 0

 

 

 

 

 

そうして…

 

満を持して、時は満ちて。

 

圧倒的重圧を放ちながらこの場に現れたのは、レベル1ながらも恐るべき力をその骨に秘めた骸骨族の王たる王―

 

その力は単純にして明解。

 

墓地に骸骨達が眠っていればいるほど、その力を上昇させるという…まさに武骨たる武勇を誇る、王の中の王にして亡者の長。

 

 

 

「こ、こんなに簡単にキングを…け、けど攻撃力は3000だ!それじゃまだ…」

「実に不合理な見解だな。君の手札は0…もう止めることはできん。【おろかな埋葬】発動。デッキから3体目の【ワイトプリンス】を墓地へ。」

「ッ!?」

「そして最後の【ワイト】と【ワイト夫人】も墓地へと送る。これで【ワイトキング】の攻撃力は6000…まだだ。装備魔法、【孤毒の剣】を【ワイトキング】に装備!」

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/3000→6000

 

 

 

手も足も出ない…

 

 

 

何も…何も出来ない―

 

 

 

どうしてこうも全てが繋がる、どうしてこうも簡単に超えてくる。

 

まるで、デッキが意思を持っているかのようなホトケ・ノーザンの動きの、信じられないカード捌きがどうしてもセリには信じられず…

 

それはまるで、彼のデッキが彼を勝利へと導いているかのよう。

 

最初の【ツインツイスター】も、次の【ゴーストリック・デュラハン】も、セリからすれば貴重な妨害効果を相手の思惑通りに『使わせられた』だけであり…

 

一つ一つを止めていなければ、もっと簡単にやられていたとは言え。それでも、手札コストを払ってまで止めたホトケ・ノーザンの行為は全て、ここまでの動きの準備に過ぎず。

 

 

 

「必要な場面に必要なカードを…実に合理的だ。一切の無駄なくデュエルを進めた者にこそ、勝利は跪くのだから。」

「あ…あぁ…」

「…終わりだな。…バトル!【ワイトキング】で、【超魔導剣士-ブラック・パラディン】に攻撃!」

「くっそぉ!罠カード、【聖なるバリア-ミラーフォース-】はつど…」

「無駄だ!LPを半分払い、手札からカウンター罠、【レッド・リブート】発動!」

「ッ!」

 

 

 

この、手玉に取られている感覚…

 

それはデュマーレ校で、セリ・サエグサが他の学生達に行っていた行為にも似た展開でもあり…

 

つまり、セリとホトケ・ノーザンの力には、それほどの『差』があるということであって―

 

 

 

「ダメージステップだ!【孤毒の剣】の効果で【ワイトキング】の攻撃力は倍となる!」

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/6000→12000

 

 

 

「攻撃力12000!?」

「魔術師よ、砕け散れ!ナイトメア・ゴッドフィスト!」

 

 

 

―!

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

 

セリ LP:4000→0

 

 

 

一撃…

 

―まさに、一撃必殺。

 

骸骨の王が放ちし拳骨、その侠骨なりし武骨の一撃は…

 

一片の遺骨も残さぬ凄まじさとなりて、その拳圧だけで超魔導剣士を化骨にすらさせぬまま塵にまで粉砕してしまい…

 

 

 

 

 

ピー…

 

 

 

 

そして、海上に無機質な機械音が鳴り響いたと同時に―

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

セリの乗っていたボートのエンジンが、あまりのダメージ量に爆発したのだ―

 

 

 

 

 

「ッ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

爆風をもろに受け、空高く海上へと放り投げられてしまったセリ。

 

船頭に足をかけて前のめりになっていたのが幸いしたのか、後方のエンジンの爆発の直撃だけは『運良く』ギリギリで当たりはしなかった様子。

 

…しかし、爆発の余波と有り余った運動エネルギー…ソレらは容赦なくセリへと牙を剥き、高等部の2年生にしては細く軽い方のセリの体を上空へと吹き飛ばしてしまって―

 

 

 

「強くなれセリ少年。そして私を許すな。その怒りは…きっと君を強くする。」

 

 

 

呟くように零された、ホトケ・ノーザンの言葉など聞こえるはずもなく…

 

 

 

「また会えるときを楽しみにしているよ。君が…生きていたら、だがね。」

 

 

 

海に、叩きつけられたのだった―

 

 

 

「ガボッ!ゴッ、ババババババ…」

 

 

 

上空から水面に叩きつけられた背中への衝撃、そして容赦なく沈みゆく体。

 

ソレらのあまりの相乗効果が、一瞬でセリの肺から空気を奪う。

 

…遠くなる水面、遠くなる意識。

 

自分の吐き出した空気の泡と、歪みおぼろげになる水面の光だけが…セリに、苦しさを感じさせる間もなく…

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、セリの意識は…

 

 

 

 

 

 

 

 

―そこで、途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

「目撃者を直接殺さないとは。アンタ、噂よりも随分と甘い男なんだな。」

「フッ、デュエルで勝ったのは私だ。ならば、彼の生殺与奪の権利は私にある。」

「は、くだらねぇ。そもそもあんなガキと『北極星』のアンタじゃ、始めから勝負にならないだろうに。」

「…北半球最強のデュエリストと呼ばれたのは祖父のポラリス・ノーザンだ。私ではない。」

「それでも、俺達からしたら随分なバケモノだよアンタも。」

「…不合理な認識だ。本物のバケモノは私程度では相手にもならないよ。…そう、我が祖父母や、本物の【王者】クラスは…本当に、バケモノさ。」

「おお、こわこわ…」

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅ…」

 

 

目が覚めた時、セリの目には見知らぬ天上が見えていた。

 

…穢れなき真っ白な天上、頬を撫でる柔らかい風が心地いい。

 

まさか、ここは天国…自分は、死んでしまったのだろうか…

 

 

 

…と、あまりにボンヤリとした思考しか浮かべられぬセリへと向かって…

 

 

 

「起きたかよ、大ボケ&大バカ野郎。」

「…ギョウ?」

 

 

 

脇から声をかけてきたのは、紛れも無くゴ・ギョウであった。

 

 

 

「ここは…」

「びょいーんに決まってんでしょ。お前さー、チャン僕が助けてやんなかったら?確実に?海of藻屑になってたんだぜ?マジマジマージで感謝してほしうぃーねぇー。」

「そうか…お前が…」

「つーかてーかなんてーか?お前、丸1日気絶してたんだよねー。さっき帰ったけど、親父さんたちもめっちゃ泣いてたし?」

「…そんなに…か…」

 

 

 

そして、ゴ・ギョウからの少ない言葉を聞いただけで。

 

自分の身に何が起こって、そしてあの後何が起こったのかを…その秀才と呼ばれる頭の回転によって、即座に理解した様子のセリ。

 

…ゴ・ギョウのラフな言葉から、あのデュエルに負けた後の事がセリには簡単に想像がつく。

 

きっと、神殿で爆発があったあの瞬間…パニックの空気で一気に酔いが醒めたゴ・ギョウが、どこかへと走っていった自分を追ってきてくれていたのだろう。

 

そして、案の定無鉄砲に海に飛び出して行き、挙句の果てに海上で爆発して海に投げ出された自分を…ゴ・ギョウが救ってくれ、病院まで運んでくれた…と言ったところだろう、と。

 

 

 

「ま、腐れ縁のギョウ様だから?余計な詮索はしないでおいてやるけどねん。親父さんたちには、セリは祭りでテンション上がって?海にダイブしたら?足つって溺れたー!って事にしといてやったからさー。」

「サンキュ…『鎮海祭』は…どうなった?」

「中止withパニック。神殿もぶっ壊れて?伝説のカードもなくなって?今めーっちゃ大変な事になってんだよねー。犯人も見つかってないってゆーしー。」

「やっぱり…」

 

 

 

アレだけ派手な事件を起こして、それでも捕まらずに逃げおおせたということはあの黒ローブの集団は紛れも無い裏社会のプロ。

 

そんな者達に、策もなく突っ込んでいったのは今考えても明らかに浅はかだった―

 

それを、今になって思い知ったセリの心には…銃殺されかけた恐怖がまざまざと蘇りつつ、それと同時に命だけは助かったという安堵が今更になって浮かび上がってきているのか。

 

死ななかったのは、ただ『運』が良かっただけ…

 

 

強かった…

 

 

本当に、強かった―

 

 

セリの中に浮かび上がるのは、生まれて初めて『手も足も出ない』と感じるほどの敵に完膚なきまでにやられた悔しさ。

 

…あんな強さを持ったデュエリストが、この世界に居たのか。まるで【王者】のような、届かないとさえ思えるデュエルを仕掛けてくる男が、この世界に…

 

セリの中には、つい先程のように思い出せるデュエルの光景が、瞼の裏に焼きついて消えず…

 

 

…己の無力さが胸に来る。力の無さに悲しくなる―

 

何が…何がデュマーレ校一の秀才か。

 

学生の括りの中で持て囃されていただけの、世界を知らぬただのガキ。

 

プロになるのが規定事項だとか、このままプロになってもいいのだろうかとか…そんな思いあがっていた自分の思想を、思い切り踏み潰したくなる衝動がセリを襲い…

 

下手をすれば、デュエルをする間もなく銃殺されていた。辛うじて生き延びるチャンスを貰っても、デュマーレの誇りである伝説をカードを取り戻すとか以前に圧倒的に実力で負けていた。

 

それは、これまでデュマーレの街で培ってきた自分の理論やデュエルの腕前が、真っ向から否定されてしまったと感じられる鈍い痛みでもあるのか。

 

 

ソレ故…

 

 

 

「ま、しばらくゆっくり休んでろよなー。」

「なぁギョウ…俺…旅に出ようかと思う。」

「ほ!?」

 

 

 

あれだけ圧倒的に負けたというのに、まさに死にかけたというのに。

 

意識を取り戻したばかりのセリから発せられたのは…

 

誰も想像していなかったであろう、驚きの言葉であった。

 

 

 

「ちょいちょいちょーい、なーに言っちゃってンの?意味がぜーんぜんわっかんねーんだけどもだっけど?」

「いや、本気だ…俺は、知りたいんだ…世界には、どれだけ強いデュエリストが居るのか…俺の力は…本当に、誇れるモノなのか、どうしても確かめたい。」

「いやいやー…だーから意味わかんなうぃーねーってのー。」

「このままじゃ、プロになんてなれない。このままプロになれたとしても…このままじゃ、多分…上にはいけない…」

「ひょ?めっずらしい、随分弱気になってんじゃんね。プロになるのは?お前にとって?規定事項じゃなかったん?」

「…あぁ。けど、思い知ったんだ。本当に強いデュエリストの、本物の力ってやつを…だから…1人で旅に出て、世界中の強い奴と戦って…俺は、もっと強くなりたい。もう、誰にも負けないくらいに…」

「ふーん…」

 

 

 

…いつも自身満々に、己の力を信じて疑わないセリの姿を知っているゴ・ギョウだからこそ。セリが零したその気持ちが、紛れも無い彼の本心であることなど、容易に理解できてしまうのか。

 

祭りの夜の敗北が、そうとうセリには堪えたらしい。

 

戦いの全貌など、ゴ・ギョウは知らない。けれども、あのセリがここまで言う事など生まれて初めてであるからこそ。

 

 

 

「んならまっ、お前の好きにしたら?親父さん達説得できたらだけどねー。そーとー怒ってたから、無理無理のリームーだと思うケド?ひゃははは。」

「あぁ…」

 

 

 

セリの、強い決意を前に…

 

ゴ・ギョウは、ソレを否定も肯定もしなかったのだった―

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

意識も戻り、精密検査を終え一日の入院の後。

 

両親にこっぴどく叱られ、両親と兄姉の監視の下、自宅にて療養という名の厳重注意からを食らわせられたセリは…

 

 

 

事件のあった3日後に…

 

 

 

(ごめん、親父、お袋…俺、どうしても世界が見たいんだ。)

 

 

 

夜の防波堤に、姿をみせていた。

 

 

 

…案の定、旅立ちを認めてくれなかった両親。

 

まぁ、自分は祭りの日に海で溺れて死にかけたことになっているのだ。そんな馬鹿な事をしでかした末っ子を、子ども1人だけで旅行に行かせるなんて、両親だってしたくないという気持ちはセリとて大いに理解はできるのだが…

 

…それでも、固く結んだ決意の下。

 

デュエルディスクと財布のみ、そのあまりに少ない荷物のみで。家を抜け出し、こっそりとデュマーレを後にせんと…

 

まさに、身一つでデュマーレを飛び出さんとセリはしているのだろう。

 

まぁ、ソレは若さゆえの無謀…といえば聞こえはいいが、やっていることは家出と一緒だということもセリはわかってはいるのだが。

 

 

 

そうして…

 

 

 

生まれ育ったデュマーレ街を後にせんと、セリが港にある所有者の居ない小さな木の小船へと乗り込もうとした…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「ヘイヘイおぼっちゃん、こんな夜中にどこ行くのさ。」

「え、ギョウ?何で…」

 

 

今まさに、夜の海へと繰り出そうとしたセリ・サエグサへと。

 

背後から、徐に声をかけてきたのは腐れ縁であるゴ・ギョウであった。

 

…しかし、出発の日にちも時間も教えていないというのに、一体どうしてギョウがこの場に現れたのか。

 

まさか、黙って出て行く自分を止めにきた…

 

というわけでは、絶対にないということだけはセリにもわかってはいるものの…

 

 

 

「ひゃはは、どーせお前の事だから?夜中にこっそり抜け出して?1人で行こうとしてるって思ってたけどさー。ビンビンビーンゴってね。」

「見送りか?」

「いんや?チャン僕も行くんだけどもだっけーどー。」

「…え?」

 

 

 

ゴ・ギョウから飛び出してきたのは、セリも予想していなかった言葉であった。

 

 

 

「つーかてーかなんてーか?お前1人だけだと野垂れ死ぬのがオチでしょ。だーからさー、チャン僕が見ててやらないと?お前にまともな旅なんて出来るわけナッシングでしょーが。」

「ギョウ…」

「まっ、勘違いしなうぃーでよねー。チャン僕ってば、ながーい夏休みに海外旅行するついでに?セリの面&倒もしょーがないからみてやろーってだけなんだからさー。なんせ夏休みは3か月もあるもんねー!いい暇つぶしってね!」

「…はは、お前らしいよ、ギョウ。」

 

 

 

素直じゃない。けれども決して恩着せがましくもない。

 

それは腐れ縁であるが故の、セリとゴ・ギョウの関係性を大いに表す会話となりて…夜の静かな防波堤に、潮風と共に流れ行くのか。

 

…1人で世界を見てくるつもりだった。けれども確かに不安はあった。

 

そんな、決して大人ではないセリの中の感情が…腐れ縁が現れただけで、こうまで簡単に払拭されるなんて、セリからしても意外であったに違いなく。

 

 

 

「んで、パスポートも無いのにどやって外国行く気なんでしょーねーセリさんはー。」

「あ…」

「ひゃはは、ンなこったろうと思って?ホラよ、これ。」

「…パスポートに着替え…お前、この荷物どうしたんだよ。」

「ん?そんなのお前ん家寄って?お袋さんに用意して貰ったに?きまってるぅーよー!フゥー!」

「…え?」

「お前んち、大騒ぎしてたぜー?けどそこはチャン僕が?『セリは自分探しの旅にいってきまー!』って上手く説明してきたわけで。やさーしく見守ってあげてくださー!んじゃま、チャン僕も一緒に行ってきまー!って言ってきといてやったってね!」

「なんだよ、自分探しの旅って。それじゃ俺がガキみたいな理由で家出したみたいに…」

「いやいやいーや、実際ガキみたいな理由でしょーが。」

「…」

 

 

 

まさか、もう両親にバレたのか。

 

精々、明日の朝くらいまでは誤魔化せるだろうと踏んでいたセリに、目論見が外れた焦りが少々生じるものの…

 

…まぁ、この旅が見切り発車であったことは、セリにだって否めない事実ではあるのだが。

 

それでも、なんだかんだ言ってゴ・ギョウのこうした根回しの良さは本当に抜け目が無い。旅が始まる前に、既にこの腐れ縁の男に助けられているという事実が…当ての無いセリの不安な旅路に、少しばかりの光を与え…

 

 

 

「ま、とりま朝んなったら電話入れとけよ?すんげー怒られるだろーけどー。んで?先ずはどこ行くん?」

「…とりあえず、本島に行って飛行機に乗り換える。そうだなぁ…先ずは大都市から…近い方から行ってみるか。」

「おっ!デュエリアか?ぅいーねぇー!デュエリアは世界一でっかい街だから?美人なオネーサンも沢山いるってね!」

「お前なぁ…」

 

 

 

 

それと同時に、1人じゃない分退屈しないで済むか…

 

と、セリは思ったのだった―

 

 

 

 

 

 

夜の海へと漕ぎ出す小船。

 

波に揺られる少年達。

 

…果たして、月明かりに照らされる彼らの旅路に待っているモノは一体何なのか。

 

それは、今この時の彼らには決して分からない未来なれど…

 

…強さを知りたい、世界を知りたい。

 

自らの知識欲に任せた、若き秀才の求めるモノはこの旅の果てに見つかるのか。

 

そんなこと、今のセリには決してわかるはずもないのだが…

 

それでも、自分達の未来を信じて止まない、未来溢れる少年達。16歳という若さに任せた彼らの旅路はデュマーレの海と優しい潮風が祝福している通り…

 

希望に満ち溢れたモノとなっていることは先ず間違い無く。

 

 

 

 

 

 

…これは世界の決まりに抗おうとした、1人の男の物語。

 

 

 

 

 

Ex適正を持たない少年が、この世界に生を受けるよりも前に繰り広げられた物語であり…

 

この世界の仕組みに疑問を持った1人の少年。しかし力を求めたが故に魔に取り憑かれることとなる、1人の男の物語。

 

 

―そう、デュエル傭兵集団『七草』。

 

 

全員が『極』の頂に位置する力を持った、7人の猛者達。彼らが、いかにして出会い…そして、いかにして『七草』となったのか。

 

…それは歴史の裏に刻まれた、語られぬはずだった冒険の綴り。

 

 

 

これは、いずれ悪魔と呼ばれることとなる…

 

 

 

1人の男の、7つの物語―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 




次回
遊戯王Wings外伝「エピソード七草」

ep2「ハコベラ in デュエリア」


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