春日部探偵社へようこそ   作:断空我

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響達が戦っていた頃、彼と彼女は?みたいな話。


第九話:優しい者

白い空間。

 

 絶世の美女というべき存在とぽっちゃりとした男性しかそこにいない。

 

「では、力はこれでよろしいですね」

 

「ヒヒッ!あぁ、これでいい!ぼ、僕の輝かしい未来の為に!!」

 

「いってらっしゃい」

 

 シュンと消え去る男性。

 

「さて、次くらいでそろそろ成果を出してほしいものです」

 

「おい!だったら俺を戻せよ!」

 

 先ほどまでの笑顔から一転して冷淡な表情になって、振り返る。

 

 そこにはロイミュード108によって殺された男。

 

 命を失い戻ってきたことで生前、つまり本来の姿をしている男がいた。

 

 転生者は殺されたり、死亡するとこの白い空間へ戻って来る。

 

 彼女が選んだ魂はここへ戻ってこなければならないのだ。一つの例外を除いて。

 

「あんなつまらない特典じゃねぇ、もっと強い力を俺に!そうすりゃ、今度こそは好き勝手」

 

「もう結構です」

 

 ブチュと音を立てて男の体から魂が抜き取られる。

 

「へ?」

 

 事態を理解できないまま、男の体は消滅して魂が女性の手の中に納まる。

 

「お前は失敗したのです。役に立たない奴を複数回も転生させるほど、甘くはないのですよ」

 

 魂が明滅する。

 

 何か訴えているようだが、女性は聞こえない、いや聞いていなかった。

 

 いつの間にか女性の足元にはぐつぐつと煮えたぎる釜が現れる。

 

「転生者が転生させた神に逆らった場合、いいえ、偉そうな態度をとった場合、どうなるか……それは死ぬことすらできない永遠の地獄へ落とされるのです。いやぁ、怖いですね、辛いですね、悲しいですねぇ」

 

 明滅が激しくなる魂だが、彼女は躊躇いもなくその中に落とした。

 

「さぁて、次の駒はちゃんと見つけてくれるかなぁ?反応はちゃんとあの世界にあるんだ。逃げられるなんて思わないでね?絶対にみつけてあげる。貴方は永遠に私の傍にいないといけないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃんは優しいね?」

 

「アァ?何のことだ」

 

 木場勇治の言葉にクリスは睨みつける。

 

 美少女が睨みつけても怖いというより可愛いものなのかと心の中で思いながら木場勇治は続けた。

 

 二人は浮気調査のため尾行をしていたのだが、目的の写真が撮影できたことで帰ることになったのだが。

 

「放っておけるかよ。家族が離れ離れなんて」

 

 親と離れ離れになった兄妹を見つけた。

 

 雪音クリスの家族はもういない。

 

 迷子の二人を放置するという事をクリスは出来なかった。

 

 そんな彼女を木場は優しい子だと思った。

 

「……そーいや、お前はなんでジンのところにいるんだよ?」

 

 話しかけてくる二人と笑顔でやりとりしている木場をみて、前から思っていた疑問をぶつけることにした。

 

 個性的な春日部探偵社の面々の中で木場勇治は酷く平凡な存在に思える。

 

 へらへらしていて、争いごとは嫌いそうな優等生。

 

 灰色の怪人へ変身できるという事を除けば平凡な人物に思える。

 

「あ、お母さんとお父さん!」

 

 クリスが手を握り締めていた女の子が指を伸ばす。

 

 指の先には子供たちを探していたのだろう、汗だくの男女がいる。

 

 おそらく両親だろう。

 

「ほら、いっておいで」

 

 木場に言われて二人は頷いて走り出す。

 

「もう迷うなよ!」

 

 クリスが言うと二人は頷いて、そのまま二人の下へ向かう。

 

 子供を見つけたことで嬉しそうに両親は抱きしめていた。

 

「……僕にとって、今はあの事務所のメンバーが家族のようなものなんだ」

 

「あ?」

 

 木場が漏らした言葉に疑問の声を漏らす。

 

「何でもないよ。行こ――」

 

 帰ろうと促そうとした時、警報が鳴り出す。

 

「ッ!ノイズ!?」

 

「クリスちゃん!」

 

 木場の焦った声にクリスが振り返ると現れたノイズが親子を襲おうとしていた。

 

 悲鳴を上げながら親は必死に子供を守ろうと抱きしめている。

 

 そんな彼らをノイズはまとめて消そうとしていた。

 

「やめ――」

 

 シンフォギアを纏おうとしていたクリスの横を風がすり抜ける。

 

 一瞬でノイズが灰になった。

 

 親子を守るように灰色の怪人が立っていた。

 

 馬のような一角獣のような姿をした灰色の怪人の手には一振りの剣が握られている。

 

 その剣がノイズを一掃したのだ。

 

「「カッコイイ!」」

 

 子供たちが歓声を上げる中で両親の顔に浮かぶのは恐怖。

 

「速く、逃げて!」

 

 人の姿に戻った木場が両親へ叫ぶ。

 

「は、はい!」

 

 すぐに子供たちを抱えるようにして逃げていく。

 

「木場……」

 

 追いついたクリスは木場の背中が酷く寂しそうに感じた。

 

「いやぁ、助けたのに感謝されないというのは空しいものですねぇ」

 

「てめぇ!」

 

 二人の前に現れたのはウェザーと名乗った男。

 

 腕に杖をのせながら手を叩いて彼らの傍にやって来る。

 

「ウェザー!」

 

「この間はどうも、私、井坂深紅郎と申します」

 

 帽子を外して会釈をするウェザーこと、井坂に二人は警戒を強めた。

 

「あぁ、ご安心を、ノイズはただの人払いです。用事があるのは貴方でしてね」

 

 井坂が指すのは木場勇治だった。

 

「僕?」

 

「えぇ、ガイアメモリの力を用いず、人ならぬ者へ至った貴方に酷く興味がある。できれば、解剖して私のメモリの力の糧にしたいほどです」

 

 帽子をかぶる際に井坂の瞳が木場を捉える。

 

 その目は不気味な狂気を内包していた。

 

「ざっけんな!てめぇみたいな変な奴に木場はやらせねぇ」

 

「お嬢さん、噛みつく相手は考えた方がいい。相手を間違えると命はありませんよ?」

 

「ちょせぇ!てめぇみたいな変態は吹き飛びな!」

 

 クリスは歌を奏でてシンフォギアを纏う。

 

 最初は不慣れだったシンフォギアだが、木場や矢車と鍛錬を重ねた末に力を完璧に制御できるようになっていた。

 

 クリスの両手にガトリング砲が展開される。

 

 井坂へ問答無用の弾丸の雨が降り注ぐ。

 

 普通の人間ならあっという間にミンチへ姿を変えていたことだろう。

 

 そう、普通の人ならば。

 

「危ないですねぇ」

 

 竜巻が吹き荒れて、弾丸が周囲へ飛び散る。

 

 ゆらりと姿を見せるウェザードーパント。

 

 パチンと指を鳴らすとクリスの周囲へ雷撃が落ちる。

 

「ハン!その程度で落ちるかよ!」

 

 ひらりと回避しながらガトリングの銃口を向けようとした時。

 

 既に目の前でウェザードーパントが立っていた。

 

「なっ!?」

 

「考えなさいといったはずですがねぇ」

 

 ウェザードーパントが指を鳴らそうとした時、横から掴む手があった。

 

「やめろ」

 

 木場勇治が立っている。

 

「き――」

 

 クリスは言葉を失う。

 

 あの男は誰だ?

 

 一瞬、そこにいたのが木場勇治であることにクリスはわからなかった。

 

 それほどまでに木場のイメージと今の木場はかけ離れている。

 

 笑みを浮かべることなく氷のようにぞっとするほど冷たい目。

 

「僕の大事な仲間に手を出すというなら、お前を許さない」

 

「それは興味深い、どうするというのかな?」

 

「お前を、倒す!」

 

 叫びと共に雄叫びをあげる木場。

 

 周囲の時が一瞬、止まる。

 

 木場の体が灰色の光に包まれると同時にホースオルフェノクに変身した。

 

 ホースオルフェノクが拳をウェザードーパントへ振るう。

 

 正面から受け止めるウェザードーパントだが、衝撃によって後ろへ仰け反ってしまう。

 

「素晴らしいパワーだ!これなら」

 

 ウェザードーパントが雷撃を落とす。

 

 ホースオルフェノクは体を疾走形態へ変えると恐ろしい速度で雷撃を回避していく。

 

 そのままウェザードーパントへタックルを仕掛けようとしたが水の壁に阻まれる。

 

 

「素晴らしいですねぇ、ますます解剖してメモリの力にしたくなりましたよ!」

 

 ウェザードーパントが雷撃を落とそうとした時。

 

「アタシを無視するんじゃねぇ!」

 

 横からクリスが無数のミサイルを放つ。

 

 完全にホースオルフェノクに意識が向いていたウェザードーパントは反応できずにミサイルのすべてをその体に受けてしまう。

 

「ちぃ、邪魔です!」

 

 氷の刃をクリスに向けるもホースオルフェノクが彼女を抱えるようにして走り去る。

 

「クリスちゃん!」

 

「てめぇ一人だけで戦っているわけじゃないだろ!アタシも戦えるってこと、忘れるな!」

 

「……ごめん!」

 

 ホースオルフェノクの後ろに乗りながらクリスは歌う。

 

 歌は嫌いだ。

 

 死んだ両親のことを思い出し、痛みつけられたときのことが過ぎる。

 

 だが、今は戦うために必要だ。

 

 そのために歌う。

 

 自分の傍にいる大事な人を守るために。

 

「もってけ!大サービスだ!」

 

 大量のミサイルと弾丸を放つ。

 

「ですから、この程度は」

 

 一斉掃射に周囲の視界が奪われていく。

 

「まさか!」

 

 ウェザードーパントが気付いた時、目の前に疾走形態から人型に戻ったホースオルフェノク。

 

 手には聖剣が握られていた。

 

 躱すこともできないままウェザードーパントの体が聖剣で切り裂かれる。

 

「ぐぅぅぅ…………ははははははははは!」

 

 狂ったように笑いだすウェザードーパント。

 

「狂っちまったか?」

 

「いやはや、これは失礼……私はどうやらあなた方を過小評価していたようだ。ここは失礼させてもらいますよ」

 

 ウェザードーパントは周囲に霧を展開するとそのまま姿を消す。

 

「逃げやがったか」

 

 クリスはシンフォギアを解除して、木場は人へ戻る。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「うん……そっちは大丈夫?」

 

「当たり前だろ」

 

 木場の言葉にクリスは胸を張る。

 

 何度か戦闘をこなしていることで彼女は実力が身につき始めていた。

 

「それより、アンタは大丈夫、なのか?」

 

「え?怪我とかはないけれど」

 

「そ、そういう意味じゃねぇーよ!」

 

 理解できないという風に木場は首をかしげる。

 

 クリスは少し悩みながら。

 

「さっきの人達、アンタの姿に怯えていただろう?そういうのキツイんじゃないか?」

 

 嘗て、自分も同じことで拒絶してしまったから。

 

 だからこそ、拒絶された相手のことが少なからずわかる。

 

 拒絶したからこそ、見えるものというものがあった。

 

「大丈夫だよ。周りの人に拒絶されても、大事な人達から拒絶されなければ」

 

 最後の言葉に込められている感情がどういうものなのかクリスはわからない。

 

 けれど、それが今の木場を形作っているものなのだろう。

 

「帰ろうか、クリスちゃん」

 

「わーったよ、あ?」

 

 帰ろうとしたクリスはこっちへぱたぱたと駆け寄って来る兄妹に気付いた。

 

 彼らは木場とクリスをみて笑顔で手を振って来る。

 

「お前ら、どうした?」

 

 クリスが尋ねると兄と妹は互いに顔を見てから。

 

「「助けてくれてありがとう!」」

 

 ぺこりと感謝の言葉を告げる。

 

「……え?」

 

 突然のことに呆然とする木場。

 

「あのね、助けてくれたらお礼をいいなさいっていわれたの!」

 

「お兄ちゃんもお姉ちゃんもすっごいかっこよかった!まるでヒーローみたいだったよ!」

 

「「ありがとう!」」

 

 戸惑う二人の前でぺこりと頭を下げから両親の方へ向かっていく。

 

 少し離れたところで両親が頭を下げていた。

 

 子供たちの行動を見て思うところがあったのだろう。

 

「何か、恥ずかしいな」

 

 ぽりぽりと頬をかきながらクリスは呟く。

 

「そうだね」

 

 頷きながら木場は去っていく親子の姿をみている。

 

 その目は何かを懐かしむ様なものだった。




今回、木場が変身した姿の場面は第一話でホースオルフェノクに覚醒した姿をイメージしています。

原点の木場とこの作品の木場は決定的な違いがあります。

それが、まだ、彼を人として留めているものです。
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