春日部探偵社へようこそ   作:断空我

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今回はジンの師匠が登場。




第十四話:迷える子羊と最強のさすらい

「生きることを諦めるな!」

 

――あぁ、これは夢だ。

 

 あの日、ライブで破片が突き刺さって血まみれになっていた自分へ訴えてきた声。

 

 その声で生きることを諦めなかった響は生き残ることができた。

 

 いや、生き残ってしまったのだ。

 

 あの後に起こった地獄は今でも鮮明に思い出せる。

 

 同じ学校の人気者が死んで「貴方なんかがどうして生き残っているの!?」と訴えられて。

 

 机の上に置かれた花のない花瓶。

 

 家に嫌がらせの電話や張り紙、ペンキで「人殺し」と書かれていた。

 

 耐えられずにお父さんは出ていった。

 

 何もかも嫌になって家を出て野垂れ死ぬつもりでいた。なのに。

 

「楽な道を選ぶな、ムカツク」

 

 あぁ、

 

 あぁ!

 

 彼の声だ!

 

 彼だけが自分を救い上げてくれた。

 

 彼と一緒にいる。

 

 何があっても彼から離れない。

 

 永遠に彼と居続ける!

 

 邪魔するものは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジン?」

 

 響がうっすらと目を開けると自分の手を握り締めてくれている彼がいた。

 

 温もりが冷たい自分のどす黒いモノを溶かしてくれる。

 

 いてくれるだけで温かい。

 

 失っていたと思っていた嬉しいという気持ちが沸き上がる。

 

 同時に、あの子の存在が過ぎった。

 

 もしかしたらという気持ちはある。でも。

 

「起きたのか」

 握り締めていた手を彼が離そうとしてしがみついた。

 

「どうした?」

 

「一人にしないで」

 

「……そんな泣きそうな顔するな」

 

 握り返したジンは少し悩むような表情をして。

 

「お前が幸せになるまではいてやるよ」

 

「うん……一緒」

 

 満足したように響は眠りについた。

 

「つくづく、最低だな。俺も」

 

 漏らした声は響に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

「春日部も久しぶりだ」

 

 空港から一人の男が出てくる。

 

 黒いテンガロンハット、赤いジャケットに白いベスト、ズボンというスタイルは多くの視線を集めていた。

 

 何より、白ギターを背負っていることからくすりと若者たちは笑みを漏らしてしまう。

 

 周りの視線など気にしない、むしろ集まっていることが当然のように笑みを浮かべながら男は空港を出る。

 

「さぁて、アイツはどうしているかな?」

 

 誰かのことを思い出しながら彼は歩き出す。

 

 そんな彼を尾行する二人組がいる。

 

 サングラスで隠している顔で互いに頷きながら尾行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことが……」

 

「まー、疲労でぐっすり寝ているみたいだけどな」

 

 春日部探偵社のオフィス。

 

 そこでパスタをズルズルと食べている雪音クリスと小日向未来が話をしていた。

 

 話の内容は少し前に起こったデュランダル輸送事件のこと。

 

 今日から本格的に小日向未来は探偵社の一員として色々な仕事を手伝うことになるのだが、響がいないことに疑問を覚えた未来はクリスへ尋ねて、事情を知ったのである。

 

「響は大丈夫なんですか?」

 

「力使いすぎて寝ているよ。クソッ、ジンが傍で看病していることが羨ましい」

 

「東郷ジンさんが?」

 

 驚いた表情で未来が尋ねてきた。

 

「あー、まぁな、あのバカとジンの付き合いは長いからな……まぁ、アタシよりも短いが、時々、羨ましくなる」

 

「……」

 

 ガチャリとドアが開かれる。

 

「目ぇ覚ましたみたいだな」

 

「響!」

 

 室内にやって着たのは響。

 

 彼女は未来の姿をみて、一瞬、眉間へ皺を寄せながらも無視してソファーに腰かける。

 

「あの、響、私、今日からここで手伝いをするの!えっと、よろしくね」

 

 目線も反応もしないまま響は机に置かれている漫画雑誌へ手を伸ばす。

 

 視線すら向けられないことに傷つきながらも未来は隣へ座ろうとした。

 

「ここが春日部探偵社だな」

 

 ガチャリとドアが開いた。

 

「あ、はい!」

 

 慌てて未来は入り口へ向かう。

 

 向かって動きを止める。

 

 そこにいたのは強面の男性。

 

 黄色い上着とズボン、日焼けした肌。

 

 目つきがとても鋭く恐ろしい人物。

 

 彼を見て、未来は怯えてしまった。

 

「あのぉ」

 

「ひっ!」

 

 小さな悲鳴を漏らした未来にイライラしながら響が振り返る。

 

「組長、何してんの?」

 

「僕は園長です!お願いだから、組長っていわないで~」

 

 響の言葉で地面に崩れ落ちる園長。

 

「え、あの……」

 

 強面の人が本気で泣き出したことで未来はおずおずと声をかける。

 

「探偵社へ、依頼、でしょうか?」

 

「はいぃ」

 

 泣きながら頷く強面の男性。

 

 未来は驚きながらもソファーへ誘導して、ジンを呼ばないといけないことに気付いた。

 

「うーっす、いやぁ、帝国軍が今日も勝利したことで気分が良いわぁ……って、園長、何でいるの?」

 

「東郷くぅん!たすけてくださぁい!」

 

「えぇ~?」

 

 抱き着いてきた園長にジンは戸惑いの声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふたば幼稚園の園長、高倉は泣きながら事情を話す。

 

 何でも幼稚園の土地を狙って黄泉組などという怪しい団体が連日連夜、嫌がらせをしてきているという。

 

 最初は高倉の怖い顔に怯えていたが、彼が見た目に反して気弱な性格だと知ると様々な嫌がらせをしている。

 

 ネコバスのタイヤをパンクさせたり、幼稚園児のいるクラスの教室にごみを投げ飛ばしたり。

 

「あの、それ……警察には」

 

「相談しようとしました。けれど、逆に仲間と疑われて」

 

「そんな強面じゃ、しゃーねーなぁ」

 

「それに、最近発生している怪盗騒動で……手を回す余裕はないと」

 

「職務怠慢」

 

「そんな」

 

 ぽつりと響の言葉が室内に響いた。

 

 未来が息をのむ。

 

 市民を守ってくれるはずの警察官が別の事件が忙しいからと高倉の訴えに動いてくれない。

 

「それで、園長は探偵社にどんな依頼を」

 

「はい――その」

 

 依頼の内容にジンは頷いた。

 

「わかりました。その依頼、引き受けます」

 

――ありがとうございます。

 

 高倉は頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたば幼稚園。

 

 春日部シティに住まう子達が通う幼稚園。

 

 規模はそこまで大きくないが、個性豊かな園児が入園している。

 

 勿論、野原しんのすけもふたば幼稚園に通っていた。

 

 そんな幼稚園へ黄泉組という連中が嫌がらせをしている。

 

「っていうことなんだが?」

 

「ほーほー、はじめて知りましたなぁ」

 

「そんなわけないだろ!」

 

 しんのすけの言葉に風間トオルが叫ぶ。

 

「毎日やってきて、ネネ、こわーい」

 

「ぼ、僕も…」

 

「……警察がくるとすぐに逃げる」

 

 しんのすけと一緒に遊ぶネネやマサオ、ボーちゃんの面子からジンは話を聞いていた。

 

「ジンさん、オラも」

 

「今回はいい」

 

 手伝いを申し出たしんのすけにジンは止める。

 

「え?でも」

 

「今回は少しばかり嫌な予感がする。俺達とお前達が知り合いという事もあまり知られない方がいいと思う。大丈夫だ。この幼稚園は俺達が必ず守る。気にするなというのは無理だろうけれど、普通の生活を送ってくれ」

 

「……うーん、ジンさん、必ず守ってくれる?」

 

「男に二言はない。必ずだ」

 

「じゃー、指切り」

 

 しんのすけと指切りを交わす。

 

「男と男の約束だね!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに離れていていいんですか?」

 

 代車を幼稚園から少し離れた場所に停車させて、ジンは監視していた。

 

 未来が疑問をぶつけるとクリスがタブレットをみせる。

 

 受け取ったタブレットの画面をみると幼稚園の入口から通路という通路が表示されていた。

 

「高倉園長の許可をもらって監視カメラを設置させた。俺達が堂々と監視しているとより姑息な手段に出られる可能性がある」

 

「……すごい」

 

「ま、今は様子を伺うってところだ」

 

 コンビニで買い物をしてきた袋を全員へ差し出す。

 

「って、牛乳とクリームパン!?」

 

「いや、ジャムパン、アンパン、各種様々だ」

 

「こういう時って、アンパンじゃないんだ」

 

「そりゃ、刑事ドラマの見過ぎだろ」

 

 クリスの言葉にジンは頷いた。

 

「どーやらお客さんがきたようだ」

 

 ジンの視線は幼稚園児へやって来る柄の悪い集団をみていた。

 

 彼らはゴミなどを幼稚園へ投げ飛ばす。

 

 中には門をがしゃがしゃと蹴り飛ばして威嚇している。

 

「どーも、漫画でみたような手段ばかりだなぁ」

 

「潰す?」

 

「そんな!?」

 

「まー、まずはお話からいきますか」

 

 響の物騒な提案に未来はぎょっとしながらジンは車から出ていく。

 

 少ししてクリスと響が後を追う。

 

「え、あ、ちょっと待って!」

 

 慌てて未来も車を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、チミタチ、チミタチ」

 

「「「あぁ?」」」

 

 ジンが声をかけるとガラの悪い連中が一斉に振り返る。

 

 はっきりいって顔が世紀末伝説で登場するような顔ばかり。

 

 未来はびくびくしていた。

 

 響はちらりと一瞥して彼らを視線に入れないように動く。

 

「なんだぁ、てめぇら!」

 

「いやさぁ、散歩をしていたら幼稚園の前で気色悪い男達が騒いでいるからさ。純真無垢な園児によくない影響を与えかねないと思って」

 

「そーだ!そーだ!」

 

「お前は静かにしていろ!?」

 

 外野のしんのすけが叫び、トオルが悲鳴を上げる。

 

 ジンは交渉する気など全くなかった。

 

 男達の額に青筋が浮かんでいる。

 

 ガソリンにマッチ棒を放り投げている状況だ。

 

 未来が青ざめている中、クリスと響は普通にしていた。

 

「お前、殺されたいらしいなぁ!」

 

「おい、みろよ!後ろの子、レベル高くね!?」

 

「兄ちゃん、そこの女たちを置いていったらいのちはぶげらぁ!?」

 

「気色悪い、死ね」

 

「響!?」

 

 男の顔面にめり込むようにキックを響が繰り出す。

 

「よっちゃんが!?」

 

「このあまぁ!」

 

「汚い目でアタシらをみるんじゃねぇよ!」

 

 続けてクリスのビンタが仲間の一人を張り倒す。

 

「おぉ!母ちゃん直伝のビンタ!」

 

「しんちゃん、黙っていた方がいいよ……」

 

「さて、アンタ一人なわけだけど」

 

「ぐぐぐ、せ、先生!先生!出番ですよぉ!」

 

 叫びと共に何かが通過した。

 

 通過したソレを響はキャッチする。

 

「つっ、鉄球?」

 

 一瞬、顔を歪めながら掴んだのは鉄球。

 

 掴むのが遅ければ未来をかすめていたかもしれなかった。

 

「ほぉ、俺の剛速球を掴むとはなかなかすげぇな、お嬢ちゃん」

 

 三人が振り返ると野球帽をかぶった金髪の青年、そして黒服たちがいた。

 

「まーた、来たぞ」

 

「何かいるね」

 

「鉄球を投げたのはアイツだろうな」

 

「俺は剛腕のマリオ!黄泉組に雇われている用心棒だ。痛い目をみたくなければ手を引くことをお勧めするぜ?」

 

 手の中の鉄球をくるくると回しながらマリオは告げる。

 

「そーだ!そーだ!」

 

「お前はどっちの味方だ!」

 

 あまりにうるさくて我慢できなくなったジンがしんのすけへ叫ぶ。

 

 園長がしんのすけを抱えてダッシュで幼稚園の教室へ入る。

 

「えっと、これって、警察とか」

 

「てめぇをぶっ潰す!簡単だ」

 

「えぇ!?」

 

 あたふたする未来を余所に、クリスが拳を鳴らしてマリオはにやりと笑いながら鉄球を構えた直後。

 

 どこからかギターの音色が響いてくる。

 

「何だ」

 

 流れてくるのは「二人の地平線」という曲。

 

「今の……」

 

 流れてきた曲にジンは目を見開く。

 

 音の方をみる。

 

 ふらふらとギター奏でながら一人の男がやって来る。

 

 テンガロンハットで目元を隠し、ギターを奏でていた。

 

「何だ、てめぇは!」

 

「投球の達人、マリオ。ただし!その腕前は日本じゃあ二番目だ」

 

「あぁ?ならば、日本一は誰だ!?」

 

 男はキザな口笛、続けて舌打ち、深くかぶっていた帽子の鍔を押し上げるとともに――。

 

「オレさ」

 

 自身を指さして笑みを浮かべる。

 

「何をう!俺の剛腕をみるがいい!」

 

 挑発に乗った男は自慢の投球で鉄球を投げる。

 

 鉄球はあっという間に通過してジンの代車に激突した。

 

「……あ」

 

 鉄球は代車のボンネットにめり込んでしまう。

 

「どうだ!俺以上の速度で投げられるか?」

 

 男は鉄球を受け取ると。

 

「フン!」

 

 鉄球はスピンしながらマリオがぶつけたボンネットを壊して停車していた後ろの電柱まで貫通する。

「ば、バカな!?」

 

「代車ぁあああああああああああ!?」

 

 自分よりもさらに遠くへ投げられたことにマリオは恐怖を現して足早に逃げる。

 

 男達はそんなマリオを追いかけていく。

 

「……張り合いのない奴だ」

 

 しくしくと崩れたジンに未来がおずおずと背中をさする。

 

 あわれ過ぎる。

 

 男が肩をすくめる中、ジンはすぐに復活した。

 

「日本一のアンタとまともにやりあえる方が少ないと思うけれど」

 

 肩をすくめた男にジンは声をかける。

 

「ジン、知り合いなの?」

 

 響はジンの態度から面識があるのだと察した。

 

「……相変わらず女の子を侍らしているんだな。バカ弟子」

 

「俺にそんな趣味はありませんよ、師匠」

 

「「師匠!?」」

 

「ダンディーなお師匠さんだ」

 

 驚く二人と未来はぼーっとした声で漏らす。

 

 色々あって既にお腹一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――早川健。

 

 彼は東郷ジンに探偵のいろはを教え込んだ人物。

 

 日本で暗躍していた悪の組織ダッカーを叩き潰したと言われる私立探偵である。

 

「ジンの師匠って、マジかよ」

 

「ウソついてどうするんだよ。俺に色々と教え込んで春日部探偵社を紹介してくれた人だよ……師匠はどうして日本へ?」

 

「所用でやってきたんだ。そのついでに青二才だった弟子の様子でも見に来ようかと思ってな」

 

 テンガロンハットを机に置いてジンをまっすぐに見る。

 

 鋭い視線に向けられていないというのに響やクリスは息をのむ。

 

「どういう事態だ?」

 

「この幼稚園が恐喝を受けているらしくて、引き受けた」

 

「ほう。警察には?」

 

「相談しましたが、その……最近、多発している怪盗事件で暇はないと」

 

「治安を守るはずの警察がその役目を放棄か、俺の知り合いが聞いたらゲンコツだけでは済まないだろうな」

 

「師匠の知り合いって、警視庁の偉い人じゃないですか」

 

 悪の組織ダッカーを潰した功績でかなり出世したと聞いている。

 

「よし、ジン、俺も手伝おう」

 

「え?」

 

「乗り掛かった舟だ、それに弟子のお前と仕事をしたいしな」

 

「よろしくお願いします」

 

 早川に言われてジンは頷いた。

 

「わかった」

 

 その時、幼稚園のドアが開かれる。

 

「すいません、国際警察ですって、あれ?」

 

 やってきたのは野原ひろし係長と泊進ノ介だった。

 

「野原係長に刑事のしんちゃん」

 

「春日部探偵社の人達!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄泉組?」

 

 幼稚園の外に出てジンと早川、そして野原ひろしと進ノ介は話をしていた。

 

「そう、最近、この地域で勢力を拡大させている極道なんだけど」

 

「国際警察が出張っているという事はそれだけじゃないんだろ?」

 

 ひろしの言葉に早川が尋ねる。

 

「はい、その、噂ではシェードという犯罪組織が母体だとか」

 

「海外で活動している組織か、国際警察が動くわけだ」

 

「なぁ、ジン」

 

「なんだ?しんちゃん」

 

「このテンガロンハットの人、誰?」

 

「早川健、俺の師匠」

 

「えぇ!?」

 

 驚く進ノ介。

 

 ひろしは早川健という存在を知っているのか丁寧な対応をしている。

 

 早川の話を聞きながらジンは携帯端末を操作していた。

 

「あれ、ジンは何を?」

 

「知り合いの人に黄泉組の情報を求めている」

 

 ジンが連絡した相手はOREジャーナルの城戸真司。

 

 十分経たずに情報が届く。

 

 ひろし達からの情報も整理して動き出すかと考えた時。

 

 周囲からマスカレイドドーパントが現れた。

 

「な、なんだ!?お前達は!」

 

 驚くひろしに対して進ノ介、ジン、早川は身構える。

 

 マスカレイドドーパント達は一斉に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供の扱い、慣れている」

 

 幼稚園児と仲よくしている未来をみて、響はぽつりと漏らす。

 

「そう、かな?」

 

「うんうん、よくやっていると思うぞ!」

 

「お前が言うなよ!」

 

 しんのすけが響を見上げる。

 

「なに?」

 

「うーんうん!響さん少し表情がいつもより柔らかいゾ」

 

「……そう?」

 

「その方が綺麗だぞ!」

 

「五歳児が生意気」

 

 額を小突いていると未来が声をかける。

 

「響は、小さい子、苦手?」

 

「まず人全般が苦手」

 

「……そっか」

 

 それからしばらくして「ごめんね」と未来が切り出す。

 

「なに?」

 

「私がちゃんとしていれば、響は苦しむことがなかったのかもしれないと思うと、悔しくて、辛くて……あの時、親に反抗してでも」

 

「過去のことをいつまでもいわれても鬱陶しいだけ」

 

 ぴしゃりと響は拒絶する。

 

「でも」

 

「前を向け」

 

 尚も告げようとした未来の言葉を響は遮る。

 

「ジンに言われた。うじうじしていた私に前を向いて歩けって……過ぎ去ったことはどうしょうもない、出来ることをやれって」

 

 パチンと響は拳をぶつける。

 

「今の私にできることは壊すこと、邪魔をする奴、悪い奴、全てをぶっ壊す。そのための力が私にはある」

 

「響……」

 

 立ち上がった響はクリスと目が合う。

 

「私が外に行くから中はよろしく」

 

「わかった。何かあれば援護しに行くからな」

 

「要らない」

 

「ハッ!くたばったらバカみたいに笑ってやる」

 

「うるさい」

 

 短いやり取りをして響は外へ出ていく。

 

 未来が追いかけようとしたけれど、クリスが腕を掴む。

 

「お前は子供たちをみてやれ」

 

「え、でも」

 

「あのバカやアタシは戦える力がある。だけど、怯えているそいつらをお前が守ってやれ。あの園長の言葉、忘れたわけじゃないだろ?」

 

――連中から幼稚園児を守ってください!

 

 土下座をしてまで高倉がジン、否、春日部探偵社に依頼した内容。

 

 それは黄泉組を潰すことでも幼稚園を連中から守ることでもない。

 

 幼稚園児を守ること。

 

「出来ることをやる。それがアタシ達の仕事だ」

 

「……仕事」

 

 未来が視線を向けると何かが起こると感じ取ったのか怯えている幼稚園児たちの姿がある。

 

 彼らの姿を見た未来は笑みを浮かべた。

 

「何か歌でも歌おうっか」

 

「ぶりぶりざえもん愛の歌!」

 

「それはてめぇが考えた歌だろうが!」

 

 余計な水を差したしんのすけにクリスのぐりぐり攻撃がさく裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響君!」

 

 外に出ていこうとする響へ高倉が声をかける。

 

「組長は幼稚園の敷地内から誰も出ないようにして」

 

「これ以上は、ダメだよ!キミみたいな女の子に大人の僕達が……」

 

「大丈夫」

 

 鉄棒を構えて震えている高倉に響は首を振る。

 

「へいきへっちゃら、あんな奴らすぐに追い払うから。だから、先生たちといつも通りにしてあげて。それが依頼でもあるし」

 

「……本当に、申し訳ない。僕達が」

 

「そんなことないよ」

 

 響はマフラー越しに小さな笑みを浮かべながら幼稚園の敷地の外へ出る。

 

 大人は嫌いだ。

 

 けれど、彼らは、温かい人達はまだ、大好きでいられる。

 

 だから――。

 

「おー、本当に女の子だぁ」

 

 幼稚園の外には複数の男達が立っていた。

 

 年齢は響より少し上くらいだろう。

 

 皆、若い。

 

「かぁ、いいねぇ!こんな子をぶっ潰せるわけだ!」

 

「えぇ、勿体ねぇよ!その前に少しくらい味見!いいでしょ?」

 

「バーカ、舐められたんだぞ?さっさと潰せ!」

 

 男達は懐からガイアメモリを取り出す。

 

【アイスエイジ!】

 

【アーム!】

 

【コックローチ!】

 

 メモリを挿入して男達はドーパントへ姿を変える。

 

「壊す、ね」

 

 ニタァと響は笑みを浮かべた。

 

「お前ら程度に私を壊せると思うな」

 

【Balwissyall Nescell gungnir tron】

 

 謡いながらシンフォギアを纏う。

 

 口元をマフラーで隠しながら響は拳を握り締めた。

 

「お前らは根こそぎぶっ壊してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、引き剥がされたか」

 

 マスカレイドドーパント達を撃退したジンは急いで幼稚園へ向かう。

 

 響達が心配だった。

 

「ジン」

 

 呼ばれて振り返ると早川が真剣な目でジンをみている。

 

「何ですか!?急がないと」

「お前にとってあの子達はなんだ?」

 

 早川の問いかけにジンは息を止めた。

 

「ただの足かせか?それとも、共に歩む者達か?」

 

「……」

 

「答えろ」

 

「最初は自分の償いのようなものだと考えていました。あの時、俺がちゃんとやれていればという後悔から……でも」

 

 拳を握り締める。

 

「今は共に戦う仲間でありたい、そう俺は思っています」

 

「合格だ」

 

 テンガロンハットをかぶりなおして早川は笑みを浮かべる。

 

「お前が昔のままの自己犠牲バカなら容赦なく殴るところだったが、成長しているようで安心したぞ」

 

「師匠のおかげですよ。貴方が俺に変わる切欠をくれた」

 

「あの子達を信じろ」

 

「……わかりました」

 

 頷いたジンは早川へ告げる。

 

「行きましょう、黄泉組の奴らのところへ」

 

「あぁ」

 

 幼稚園を響達に任せてジンと早川は黄泉組へ向かった。

 

 全ての根源を終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃぁ……」

 

 あの後、匿名の電話を受けた野原ひろしと泊進ノ介、詩島霧子は黄泉組の本部へ来ていた。

 

 黄泉組が何かの襲撃を受けたという事でやってきたのである。

 

 すると本部の組員たちすべてがボコボコにされて縛られていた。

 

 警戒しつつ、彼らが奥に向かうと。

 

【この者、幼稚園を不当に奪おうとする犯人!】と記したカードが組長の傍に置かれている。

 

「ズバット……」

 

 そのカードを手に取ったひろしがぽつりと漏らす。

 

「係長、いま、なんて?」

 

「昔、悪の組織ダッカーを潰した者がいたんだよ。快傑ズバット、その正体は誰も知らないけれど、悪を許さず、弱き者達を救うって……警察としては要注意人物としてマークされていたけれど、ダッカー消滅と同時に姿を消したって」

 

「再び姿を見せたっていう事か?」

 

「とにかく、彼らを逮捕しよう。これだけの証拠があるんだ」

 

 机の上に置かれている無数のガイアメモリや違法の金など。

 

 国際警察が動くには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、響」

 

「なに?」

 

 帰り道。

 

 代車をレッカー移動したために歩いている未来は響へ問いかける。

 

 最初は無視されてばかりだったが少しばかりの会話なら許してくれるようになった。

 

 少しばかり心を開いてくれたという証拠だろうか?

 

「探偵社っていつもこんなことばかりしているの?」

 

「地味な仕事もある。今回は少し派手かな」

 

 首を傾げながら答える響に未来は「へー」と声を漏らす。

 

「あぁ、海外で無数の小さな怪物を叩き潰した時はすぐにお風呂入りたかったなぁ、あの緑のベトベトは気持ち悪かったし……ジーン、このまま健康ランド行こうよぉ」

 

「待って!さらりと非現実的なことをいっているよ!?」

 

「おい!なにジンに抱き着いているんだ!」

 

 未来の声を遮るように響がクリスとジンのところへ向かう。

 

 ジンを間に挟みながら喧嘩する二人の姿に未来は毒気を抜かれたような表情になった。

 

「色々と、大変そうだけど、頑張ろう!」

 

 決意した未来は二人をジンから引きはがそうとした。

 

 その結果、巻き込まれてジンに抱き着いて、顔を真っ赤にしてしまう未来がいたとか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れよ、ジン」

 

 そんな彼らの姿を見ながら早川はギターを奏でながら去っていく。

 

 


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