春日部探偵社へようこそ   作:断空我

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今回、ほぼほぼ一人称。

グレ響(緩和条件あり)のヤンデレ独白となっているが、好みでない人はバックを勧めます。





第二話:破壊の手

 私は響、苗字は一応、立花。

 

 二年前、私は地獄をみた。

 

 ツヴァイウィングというアイドルのコンサートを見に行ってしまったが為に。

 

 本来なら親友も来るはずだったけれど、急な用事で来られなくなったために私一人だけ。

 

 はじめてみたコンサートはとても興奮した。音楽が好きになった瞬間だった。

 

 けれど、終わりは唐突にやってくる。

 

 特異災害ノイズ。

 

 人しか襲わず、人を炭に変えてしまう恐ろしい存在。

 

 ノイズの出現で私のすべてが変わった。何もかもが崩れ去った。

 

 あの時、どうして生き残ったのか覚えていない。

 

 僅かに覚えているのは不思議なスーツを着た二人、そして、銀色の“何か”。

 

 再び目を覚ました時は病院だった。

 

 その時は無事だった私のことをと親友や多くの人が喜んでくれていたことを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、今は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジン、暇~」

 

「寝ている人の上にのしかかるな、重たいっての」

 

 春日部探偵社。

 

 春日部シティにある小さな探偵事務所。

 

 探偵事務所は他にもあるけれど、ここは他と少し違うところがある。

 

 摩訶不思議な出来事も扱うというところだ。

 

 話だけ聞いたらばかばかしいと否定してしまうだろう。“あの事件”に巻き込まれる前の私も同じだったに違いない。

 

 でも、あの事件からジンと出会い、救われてからは違う。

 

 私にのしかかられているジンは面倒そうに頭をかきむしる。

 

「暇~」

 

 もう一度、彼にアピールする。

 

 暇だからどこかへ連れて行ってほしいと。

 

 一人だったら部屋でくつろいでいても問題はない。でも、ジンが傍にいるなら別。

 

 ジンがいてくれれば、私はまだ私でいられる。

 

「しんのすけは?」

 

「幼稚園」

 

 この事務所に出入りしている野原しんのすけ、ジンとの関係はよくわからないが元気活発なマセた子供だ。

 

「みさえさんから伝言、夕飯、食べに来ないかって」

 

 渡されている携帯電話からメッセージが入って、内容を伝える。

 

「あぁ、行くってメッセージしとくわ」

 

 ジンはしんのすけだけでなく、野原家と交友がある。

 

 それは私にも当てはまるけれど、少しばかりあの家は苦手だ。

 

 私の失ってしまったものがあるから。

 

「……どうした?」

 

 ジンが私を覗き込んでくる。

 

「別に、どっか行きたい、矢車師匠もないし」

 

「アイツは奔放だから放っておいていいと思う」

 

 春日部探偵社は私とジン、戦いのいろはを教えてくれた矢車師匠の他に二人ほどいる。

 

「どっかいっていないし、もう一人は大学じゃない?」

 

「……あぁ、平日だったな」

 

「ひーまー、どこかいこーよー」

 

「はぁ、わかった……どーせ、依頼人もこねぇだろうし出かけるか」

 

「やった」

 

 嬉しくて立ち上がる。

 

「あ、でも車が定期点検中で」

 

「バイクがあるよね?」

 

「そうだった」

 

 彼が渋る理由のすべてを叩き潰して私はパーカーを着て、ジンの腕を掴んで外へ出る。

 

 渋りながらも私についてきてくれるジンは大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院で目を覚ました私はあのライブの数少ない生き残りであると知った。

 

 親友は行けなかったことを泣きながら謝ってきたことは覚えている。

 

 リハビリしてすぐにでも復帰しよう。

 

 その考えはすぐに消え去ってしまう。

 

 あるニュース番組が報道した内容、それが全ての始まりだった。

 

 死者のほとんどがノイズによる襲撃ではなく、逃げ惑う人たちの所為による二次被害による結果だということ。

 

 まるでその事実を広めようとするかのように生存者は悪、人殺しであるという風な話が広まった。

 

 病院でも陰口が叩かれ、直接、私に人殺しと言ってくる人がいた。

 

 その時は親友が庇ってくれたけれど、退院して数日でその親友は消えていた。引っ越したとお母さんは言っていたと思う。

 

 学校も地獄だった。

 

 同じようにコンサートを見に来ていた学生がいて、その子は死んだ。

 

 

 

――なぜ、お前が生きている?

 

 

 

 そう投げられた言葉は私をずたずたにしていった。

 

 とどめとばかりにお父さんが出ていき、お母さんとおばあちゃんだけになった時、私は思った。

 

 

 

 私は生き残るべきではなかった。

 

 死ぬべきだったのだ。

 

 そう悟った時、何もかもどうでもよくなって家を抜け出して、適当なところで死のうとした時に――ジンと出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでもいいが、お前、服とかそういうものは買わないのか?」

 

「だって、目立ちたくないし」

 

 ジンと一緒に遠出してショッピングモールへ来ていた。

 

 かなり大きなショッピングモールで様々なものが並んでいる。

 

 私にジンは問いかけてきた。

 

 自分の服装をみるとフード付きのパーカーに短パン、スポーツシューズという格好。

 

 街中ではフードですっぽりと隠しているから、胸がなければ男と間違われていただろう。

 

「ジンは私が“女の子らしい”格好をしてくれたら意識してくれる?」

 

 試すように問いかけるとジンは首を傾ける。

 

「まー、俺にそういうセンスわかんねぇけど、似合うんじゃねぇかな?」

 

「そう」

 

 素っ気なく答えたけれど、内心は違う。

 

 ジンが私を“女の子”としてみてくれるときいたら少し、興味が出てくる。

 

 ブーブーと警報が鳴り出す。

 

 その瞬間、さっきまでの温かい気持ちは消え去ってどす黒い何かが沸き上がって来る。

 

「ジン」

 

「……はぁ、わかった」

 

 ジンが頷いてくれたことに感謝を抱きつつ、目的地に向かって走り出す。

 

 目的地、そこにはカラフルな有象無象がいた。

 

 ノイズ。

 

 災害指定されている謎の存在。

 

 アレが私のすべてを奪った。

 

 私のすべてを壊した。

 

 沸き上がって来る気持ちを吐き出す。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron」

 

 歌う。

 

 それだけのことで私の体は光に包まれて白とオレンジを基調とした鎧を身に纏う。

 

 口元をマフラーのようなもので隠しながら拳を構える。

 

 拳を振るうだけでノイズが砕け散った。

 

 私がノイズを壊した。

 

 そのことだけでマフラーの中に隠されている笑みが深まる。

 

「私だけが!」

 

 きっと、あの時に私は狂ってしまったのだろう。

 

 それでもいい。

 

 だって、

 

 

 私がジンと出会ったのは本当に偶然だった。

 

 死のうと路地裏に入って崩れ落ちたところで彼が助けてくれたのだ。

 

 偶々、彼が私の手を掴んで、差し伸べてくれた。

 

 けれども私は既に色々と限界で全く関係のないジンに当たり散らした。

 

「知るか」

 

 ばっさりと彼は私の八つ当たりを切り捨てた。

 

「ここで甘くされて、お前は満足するのか?違うだろ?お前の目は完全に死んでいない。その何かを果たすまで生きてみたらどうだ?」

 

 ジンは最初、優しくなかった。

 

 いや、優しくしないということをしてくれたので今の私がいられたのだろう。

 

 逃げた私をお母さんとおばあちゃんに会わせて話をさせるなど強硬的な手段をとったり鬼畜ともいえるようなことがいくつかあったけれど、ジンは温かく迎えてくれた。

 

 もう得られない。

 

 もう手に入らないと思っていた温もり。

 

 それがジンだった。

 

 だから、私からジンを奪う奴がいれば――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…………はぁ……」

 

「満足というか、全滅だな」

 

 カツカツとノイズがいるかもしれないというのにジンは近づいてくる。

 

 彼はノイズを恐れない。

 

 ノイズを破壊できる私を受け入れてくれる。

 

「あぁ」

 

 先ほどまでのどす黒い気持ちがウソのように消えていった。

 

 同時に沸き上がって来るのはポカポカした温かいもの。

 

 嬉しくなってジンへ駆け寄ろうとした時。

 

「見つけたぞ!」

 

 そこへ割り込む無粋な奴がいた。

 

 マフラーで顔の半分を隠しながら私は相手を睨む。

 

 青い鎧を纏ったツヴァイウィングの片割れだ。

 

 刀をこちらへ向けている。

 

「ガングニールの適合者、一緒に同行してもらおう」

 

 コイツ、違う。コイツラがいるから、私は。

 

 拳を構えようとしたところで後ろから大きな手が止める。

 

 鎧越しだというのに、ジンの温もりが伝わってくるような気がした。

 

「疲れているだろ?アレを追い払うのは俺がやってやるから……後ろで少し休んどけ」

 

「……ジンが言うなら……」

 

 鎧を解除して入れ替わるようにジンが前に出る。

 

 いつの間にかジンの腰に銀色のベルトが巻かれていた。

 

 左側には拳銃を模したパーツがついている。

 

 ジンは銃のグリップのようなものを手の中でくるくると動かしながら顔を近づけていく。

 

「変身」

 

 音声が響く中でグリップを差し込む。

 

 銀色の光と共にジンは鎧を身に纏う。

 

 銀と黒、黄色い目をした全身装甲だ。

 

「何だ、その姿は」

 

「デルタ。それがこの姿の名前だ。さて、遊んでやるよ」

 

 指をくいくいっと挑発するような動作をとる。

 

「っ!」

 

 明らかな挑発だというのに相手は刃を振るってくる。

 

 ジンは振るわれる刃をぎりぎりのところでいなす。

 

 隙ができたところで拳を放つも、寸前のところで止めてしまう。

 

 距離を開いたところで動揺している長髪が叫ぶ。

 

「貴様、愚弄するのか?」

 

「あ?最初から言ってんだろ?遊びだって」

 

 ひらひらと手を振りながらジンは肩をすくめた。

 

 その動作に長髪は苛立ちながら刃を繰り出してくる。

 

「おいおい、もう少し冷静になってだなぁ」

 

「うるさい!」

 

 カポエラのような技が繰り出されているというのにジンは平然とグリップを外して何かを呟いた。

 

 音声も聞き取れない。

 

「貴様、舐めて!」

 

「残念、女を舐める趣味はない。てか、後ろ……要注意」

 

「そんな世迷言――」

 

 ジンの忠告を無視したから長髪女は後ろからやってきた巨大バイクに突き飛ばされる。

 

 倒れるというところでジンが咄嗟に腕を掴んで支えていたという点が気に入らないけれど。

 

「帰るぞ」

 

「うん」

 

 あっさりと手放したことから気分が少しだけ晴れた。

 

 やってきたバイク?みたいな巨大な乗り物にジンと一緒に飛び乗る。

 

「待て!」

 

 長髪が何か叫びながら追いかけようとするがジンの操るジェットスライガーが飛び去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買い物も回収していたんだ」

 

「こういうところはぬかりなしだ」

 

 安全なところで私とジンはいつもの私服姿へ戻って探偵社へ戻ってきた。

 

 中に入るけれど、誰もいない。

 

 二人だけの時間だ。

 

 抱き着いていたジンから離れる。

 

「落ち着いたか?」

 

「空を飛んでいる間に、少しは……」

 

「それならよかった」

 

「私を落ち着かせるためにあの長髪と戦ったの?」

 

「まぁ、遊びだけど」

 

 遊び。

 

 そう、遊びなのだ。

 

 ジンはあぁして変身して戦うことはあるけれど、本気でやりあっていた姿を一度も私はみたことがない。

 

 残念なことにしんのすけや他のメンバーは目撃したことがあるという。

 

 本気を出したジンはどんな戦いをするのだろうか?

 

 私みたいに力任せみたいなやり方だろうか、それとも矢車師匠みたいに最低限の動きで済ませるのだろうか?

 

 興味はある。いいや、違う。

 

 ジンのことを何も知らないというのが嫌なんだ。

 

 私を絶望のどん底から拾い上げてくれたジン。

 

 破壊することしかできなくなった私の手を握り締めてくれるジン。

 

 私を受け入れてくれるジン。

 

 彼がいない世界など考えられない。かつての私から想像もできない変化だった。

 

 だからだろう。

 

 私からジンを奪おうとする存在がいるのなら、私は容赦しない。

 

 例え、今は女としてみられていないとしても、私はジンの傍に居続ける。

 

 邪魔するものは叩き潰す。

 

「ジンは……渡さない」

 

「何かいったか?」

 

「ううん」

 

 

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