「あぁ、いってぇ」
「マッドドクターの治療を受けてその一言で済ませられるキミの体は規格外すぎるよ」
春日部探偵社の寝室。
そこで起き上がったジンへ傍にいたクリムが声をかける。
「まぁ、ドライブのデータが入ったから良かったんじゃないか?」
「そういう問題ではない!」
クリムが怒鳴る。
「キミは時々、自分の体を大事にしていない節がある!そんなことではキミを心の支えにしている響が悲しむことになってしまうぞ!」
「……わかっているよ」
むくりと体を起こした際に羽織っていたシャツが落ちる。
胸元に走る切り傷。
ちらりとジンは手に触れる。
「まだ、痛むのかね?」
「まさか、もう何年も昔の傷だ」
落とした上着を拾って、着替えを済ませる。
ドライブドライバーを手に取って外に出た。
「あ、東郷君」
オフィスのある部屋に向かおうとすると木場が待っていた。
「どうした?木場」
「いや、助けた女の子のことだよ」
「あぁ、それなぁ」
まだまだ問題が山積みだったことを思い出す。
「えっと、お腹が空いていたらしいからコンビニ弁当をあげたんだけど」
「まぁいいや、話を聞くから」
呆れながらオフィスのドアを開けたジンは絶句する。
ドアの向こうでは銀髪の少女が弁当を食べていたのだが、弁当のケースからおかずは飛び散り、食べかすが周囲に散らかっていた。
「これはぁ、随分と汚いなぁ」
「シッ」
ジンが顔を上げるとぷるぷると体を震わせる少女。
「まぁ、ほら、色々あるよね、若いし」
「てめぇはどっかの親父かぁあああああああああ!」
銀髪の少女が叫びながらとびかかってきた。
ジンは突然のことに反応が遅れてしまう。
呆然としていた木場が意識を取り戻すまで室内で追っかけっこがはじまった。
数分後。
「……アタシのこと、覚えているか?」
落ち着いて向かい合うように座った状態で少女、雪音クリスが問いかけてくる。
クリムを除いて他のメンバーは席を外してもらっていた。
彼女の質問に俺は頷く。
「雪音クリス、音楽家の両親を持った少女で、まぁ、昔は仲が良かったな」
口から出る言葉は他人事のようなもの。
まぁ、八年以上も面識がなければよそよそしくもなる……だけではない。
「今まで、何してた?」
「この事務所をやっていたよ。困っている人を助けたり、金を稼いだりな」
「そうか……」
「雪音クリス君、こちらからも質問良いだろうか?」
「あぁ……」
クリムの姿に彼女は驚きつつも頷いた。
「情報によれば、キミは国連に保護されてから日本へ戻った。それから数年間の情報がないのだが、今まで何を?」
「コレを使いこなそうとしていた」
胸元から赤い水晶のようなものがついたペンダントをみせる。
「何だい、それ?」
「これは、とんでもないエネルギーを秘めているな」
サーチしたクリムが驚きの声を漏らす。
「何だ、これ?」
「シンフォギアとかいう力らしい。アタシはこれに適合しているらしいから協力してくれないかって日本の組織に所属していた。つっても数か月経たずにくそ野郎に拉致されちまったけどな」
彼女は自身の体を抱きしめる。
誘拐された時、どんな気持ちだったのかは彼女しかわからないだろう。
俺としてはまさか、あんな奴に誘拐されているとは思っていなかったし、知らなかったとはいえボコボコにしたから少しばかり気分は落ち着いていた。
「雪音クリス君、辛いと思うが……誘拐された時、何をされたのか、覚えている限り教えてもらえないだろうか?」
「歌わされた」
「は?」
「歌?」
彼女の話によるとネフシュタンの鎧とかいうものを起動させるために歌うことが必要だったらしく、逆らえば電撃を浴びせられて、歌わされたという。
歌って鎧が起動した後は軟禁状態だったという。
その際に彼女が怯えていたのを俺とクリムは追及しなかった。
あのくそ野郎が何かしようとしたことは容易に想像ができる。
「キミを閉じ込めていた黒幕の名前は聞いているかね?」
「フィ……ネ、確か、フィーネっていっていた」
「フィーネ?これまた変な名前だな」
一通り話し終えたタイミングでクリムは質問を終えた。
さて、ここからが問題だ。
「春日部国際警察にキミの身柄を預ける」
「なっ!」
俺の言葉に彼女は目を見開く。
「ジン、それは」
「一応、本願寺さんに事情は話す。その後は警察に任せた方がいいだろう。一応、捜索願が出されているかもしれないからな。犯人と間違えられたら堪らない」
「ん、だよ」
バンと机が叩かれる。
彼女が怒りに染まった目でこちらをみていた。
それを俺は表情を変えずに向ける。
「何なんだよ!アタシみたいな呪われている奴は要らないってか!」
「誰もそんなことは言っていない。キミは普通の生活に戻るべきだと俺は思っている」
「ざっけんな!この――」
「うるさい」
ガチャリとドアが開いて響がやって来る。
寝起きで機嫌の悪そうな顔をしている響は俺の方へやってくると腕を掴む。
「お腹空いた。ご飯、食べに行こう」
「……そう、だな」
「待てよ!こっちはまだ」
「うっさい、チビ」
ギロリと響が睨む。
バチバチと二人の間で見えない火花が散っているように思えた。
「ジンと昔に何があったか知らないし、キョーミもない。今は私のジンだから、過去の遺物はとっとと失せろ」
「っ!」
「お腹空いた、行こう」
もういいという風に響は俺の腕を引っ張って外に出ようとした。
彼女は立ち上がると俺を突き飛ばして外に出ていく。
「待ちたまえ!」
クリムが叫ぶも彼女は振り返らない。
一瞬、みえたもので少しばかり気分が沈んだ。
「……今のキミは冷静とはいえなかったな」
「そんなの」
自分が一番、わかっている。
彼女を守るつもりが傷つけている。昔からずっと似たようなことばかりを繰り返しているのだから。
はぁ、本当に。
「悪い、響、飯は適当に済ませてくれ」
「ぁ」
俺はクリスを追いかけることにした。
「あれ、ジン?」
雪音クリスはすぐに見つかった。
彼女の傍にはどういうわけか城戸真司がいる。
「何やってんだ?」
「いやぁ、ご飯をたかりに行こうとしたらぶつかっちゃっていてさ、泣いていたから気になって」
「お前、流石に十代の女の子に手を出すのはどうかと思うぞ」
「違うって!それより、この子は……」
「知り合いだ。一応」
「何の用だよ」
こちらをみる彼女の目は鋭い。
「話があった。そっちはないかもしれないけれど、さっきは冷静じゃなかったからな」
「アタシはない」
「まぁまぁ、そんなギスギスしないでさ?何があったか知らないけどさ」
「うっせぇ!関係のない奴が割り込むな!」
「そりゃ、俺は関係ないよ!でもさ、親友と、親友の知り合いが喧嘩しているのを無視するなんてできないじゃんか!」
口をとがらせる真司から告げられるのは善意の言葉。
黒い感情など一つもない。
純粋に俺と彼女のことを心配してくれている。
「すまないな、真司、こっちは大丈夫だから先に事務所へ入っていてくれるか?終わったら何か食べに行こう、奢ってやるよ」
「やったー!待っているからな!」
子供みたいな笑顔を浮かべて真司は探偵社の方へ走っていく。
俺とクリスは向かい合う様に立つ。
「まずはごめん、突き放すようなことばかりいって」
「今更……」
「そうだな、今更だ。俺はお前を助けた後に見捨てる様に逃げたからな」
「ちがっ!それは……アタシが、お前のあの姿に恐怖して」
「誰だって恐怖するさ。目の前であんなものをみれば」
少し、クリスへ近づく。
彼女は下がらない。
まるで向き合おうとしているかのようにこちらへ踏み出す。
「さっきも俺はキミを遠ざけようとした。でも、それはキミが嫌いとか、そういうものじゃないんだ。できれば、キミには普通の生活を送ってほしい。そう思ったから警察へ預けようとした」
「ジンは、アタシのこと、嫌いなのか」
「嫌いじゃない、大事、だと思っている。だって、血は繋がっていないとはいえ家族同然に過ごしていたんだから」
幼少期、俺は雪音夫妻のところでお世話になっていた。
両親が事故で死んでしまったからだ。天涯孤独になってしまった俺を雪音夫妻は引き取り、息子のように面倒をみてくれていた。そうして、クリスが生まれて四人家族のように生活をしてきた。
でも、その生活は唐突に終わりを告げる。
八年前の南米のバルベルデ共和国。
そこで、俺は。
「っ!」
俺は振り返ると同時にクリスを守るように抱きしめる。
体を貫通する熱に顔を歪めた。
「っうう」
「ジン!?」
撃たれた。
利き腕じゃない方だが、血が少しばかり零れた。
「何だ、アンタら?」
道を阻むように武装した集団が立っていた。
何人かが拳銃を突き付けて、首筋には黒い奇妙な水膨れのようなものができている。
「そこの女をこちらへ渡せ」
流暢な英語で一人が銃を突きつけながら俺へ警告してくる。
見た目もそうだが、この人ら日本人じゃないな。
白昼堂々と拳銃を振り回しているという事に警察、しっかりしろよといいたい。
「悪いけど、彼女は渡せないな」
「死ね」
男たちが一斉に銃を撃つ。
「悪いけどさ」
飛来したダークカブトゼクターが全ての弾丸を弾き飛ばす。
「簡単に死ねるかよ……俺の後ろには大事な奴がいるんだからさ」
飛来したダークカブトゼクターを掴んでベルトへセットする。
【Henshin】
ヒヒイロノカネの鎧が展開されてダークカブトに変身する。
「カメンライダー」
武装した集団の誰かが言葉を漏らす。
チッチッと指を動かして否定する。
「悪いけど、俺はそんな大層な存在じゃない。最低限の人しか守らないろくでなしだよ」
カブトクナイガンで敵の一人の銃を撃ち落とす。
光弾で撃たれたことで落ちた銃はドロドロに溶けている。
「カイザの出番だ!」
リーダー格のサングラスの男が叫ぶと首筋に水膨れのようなものがついた連中が前に出る。
着ていた上着を脱ぎ捨てて、中から現れたのはデルタギアと酷似したドライバー。
「「「変身!」」」」
眩い光と共に男達は黄色い鎧を纏った戦士へ姿を変える。
Xを模した仮面に紫の複眼、黒銀色の鎧。
腹部のドライバーの側面に武装がついている。
「まさか、カメンライダーがいるとは驚きだが、これだけのカイザがいれば勝ち目はないだろう。邪魔をしないのなら命は取らないぞ?ベルトと女は頂くがな」
「冗談、てめぇらみたいな下種に渡すわけないだろ」
肩をすくめながら駆け出してカイザとかいう集団とぶつかりあう。
「ジン……」
アタシは目の前の光景をみていることしかできない。
一対多数だというのにジンは一歩も引かない。それどころか連中と互角に戦えていた。
だが、決定打がない。
違う。
私が邪魔をしているんだ。
ジンは私へ弾丸や敵がいかないように気を配っている。
そのために敵の攻撃を受け流すか、無力化させるばかりで反撃ができていない。
足手纏い。
四文字がアタシの中に浮かぶ。
何も、変わってねぇ!
八年前にジンが助けてくれてから。
爆撃からアタシを庇ってジンを拒絶してから何にも変わってねぇじゃねぇか!
苛立ちと同時に広がるのは無力感。
そして。
――守りたい。
ジンを守りたい。
昔は拒絶してジンを傷つけて、何をといわれるかもしれない。
パパとママを失って、拉致されて、怖い思いばかりしてきたアタシをジンは拾い上げてくれた。
そんなジンを守りたい。
気付けば、頭の中に歌が浮かんだ。
「っ!」
アタシは迷わずに胸元のペンダントを握り締めて歌った。
――イチイバル。
詳しいことはわからねぇけど、シンフォギアという特殊な力。
光と共にアタシは鎧をまとっていた。
両手に構える武器が変化してガトリングになる。
「ジンに」
ジンを狙わないように注意しながら銃口を向ける。
「手を出すなぁあああああああああああ!」
叫びと共に無数のミサイルと弾丸が放たれた。
「うわーぉ」
ダークカブトは背後からの支援に感嘆の声を漏らす。
数が多くて少しばかりてこずっていたが、後ろでクリスが響と似たような鎧をまとい、ミサイルやら弾丸を放ってくれたことで時間ができた。
「昔とは、違うようなぁ」
力強い意志を持って戦おうとしている彼女の姿を見て、仮面の中でため息を零す。
彼女が折角、おぜん立てしてくれたのだ、ここで負けるなんて。
「男の子じゃねぇよなぁ!」
【キャスト・オフ】
【チェンジ・ビートル!】
キャスト・オフしてライダーフォームになると同時にクロックアップしてカブトクナイガンで次々とダメージを与える。
【ライダーキック】
「ライダー、キック!」
横一列に並んだタイミングでエネルギーを纏ったキックを放つ。
【クロック・オーバー】
終了の音声と同時にカイザたちが青い炎を吹き出しながら灰になって消滅していく。
カイザが全滅したことで武装した連中は悲鳴を上げながら逃げ出した。
「ジン!」
変身を解除したところでクリスが駆け寄って来る。
「お前、肩を撃たれて」
「あぁ、そのことなら」
「バカ!すぐに手当てを……」
無理矢理、上着をめくられる。
だが、
「傷が塞がっている?」
「まぁ、あの後、色々あってさ……中々、死なねぇ体になった」
「アタシの責任、だよな?」
「違うよ」
疲れてぺたんと座り込む。
あれは事故のようなものだ。
戦場とはいえ、あんなところに高性能地雷が埋まっているなど、誰が予測できよう。
「ただ、運が悪かった……それだけのことだ。それだけの事実」
「だからって」
クリスが服の裾を掴む。
必死に、何かを繋ぎ止めようとするように。
「泣くなよ」
「バカやろー!泣くわけねぇよ!」
「そっか、そうだよなぁ、はぁ……」
クリスが泣き止むまで俺はそこから動けなかった。
「どういうことだ!」
『何かしら?』
襲撃した男は通信機の向こうにいる協力者へ叫ぶ。
相手は興味なさそうに尋ね返す。
「あんな、あんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!くそっ、割に合わねぇぞ!」
『事前に伝えていた筈よ。連中は危険だと、だから委員会から横流ししたカイザを与えた』
「だとしても、あんなっ!」
男は歩みを止める。
暗闇の向こうに誰かが立っていた。
男は腰のホルダーからいつでも拳銃を抜ける様に身構える。
「……誰だ」
通信機を隠して静かに問いかけた。
「キミ達が何者かということに興味はないんだ」
闇の中からゆっくりと現れたのは細身のどこにでもいるような日本人。
愛想笑いを浮かべながらゆっくりと男へ近づこうとしていた。
「来るな」
銃を抜いて男は警告を飛ばす。
「さっきもいったけれど、キミ達が何者かということに興味はない。だけど、僕達、ううん、僕の大事な場所に手を出すような連中は何があろうと許さない」
「動くなといっている!」
警告を飛ばす前で彼の顔に黒い筋が入る。
「僕の居場所を奪う奴は許さない!」
ホースオルフェノクに姿を変えた木場勇治に男は悲鳴を上げながら発砲した。
「死んだわね」
雑音の走る通信機を女性は放り投げる。
薄暗い屋敷の中、全裸の女性は豪華な椅子へ深々とその体を沈めた。
彼女は計画が失敗したことを察するがどうでもいいという表情を浮かべる。
“原作”という情報を聞いた時はバカらしいと感じた。
そんなもの通りに動くつもりはない。
だからこそ、あの男から必要な情報を引き出した後、その道筋、全てを壊すことにした。
思い通りにいかなかったこともあったが修正をすればいい。
「それにしても、脅威ね」
フィーネが思い浮かべるのは春日部探偵社の連中。
あの情報がなければおそらく気付かなかっただろう。
それほどまでに連中の隠密性は異常過ぎた。おそらく“二課”の連中も把握していない。
調べれば、調べるほど、フィーネにとって春日部探偵社は脅威だ。
作られたのは昭和初期。名もなき探偵が築き上げてそこから現在は四代目所長である東郷ジンが率いている探偵社は春日部シティにおいて駆け込み寺として知られているばかりか裏の世界では決して喧嘩を仕掛けてはいけない場所と言われていた。
「シンフォギアと異なる力か……確かにノイズだけでは心もとないだろう、だが」
そのための手駒は揃えている。
「ご機嫌のようですねぇ、フィーネ」
「あら、来ていたのね」
フィーネは振り返らない。
だが、そこに彼らは来ていた。
原作とやらを話した男の情報を盗みみて、フィーネが揃えた手駒。
計画の全貌は知らない、けれど、フィーネに付き従う優秀な怪物たち。
四つの手駒にフィーネは言葉を投げる。
「計画は動き出した。貴方達にも活動してもらうわ。邪魔をしてくるであろう連中を潰してもらうためにね」
「えぇ、任せてください。そのために我々はいるのですから」
一人は頷き、一人は妖艶にほほ笑み、一人は目線を合わせずだるそうにしている。一人は紫のライダースーツに身に纏い無表情に佇む。
「頼りにしているわ」
フィーネは机の資料へ視線を向けた。
「私は必ず目的を果たす」