特異災害対策機動部二課という国家秘密組織がある。
元々は大戦時代に存在していた風鳴機関を基にした組織、現在はノイズや様々な脅威に対抗するための組織としての活動を主としていた。
二課にはシンフォギアと呼ばれるシステムがある。
聖遺物と呼ばれる欠片のエネルギーを用いて構成される鎧型武装であり、限られた人間しか使用できないという問題はあるが、ノイズという脅威においてシンフォギアは有用性を持っていた。
風鳴弦十郎は二課の司令官。
元々、警視庁公安部に所属していた彼を慕う者が多い。
そんな彼の表情は険しかった。
「弦十郎君」
「了子君か、すまない」
険しい表情に研究者で同じ二課のメンバーである櫻井了子が声をかける。
「どうしたの?険しい顔をして」
「いや……この情報に何ともいえんと思ってな」
「春日部探偵社のことね」
彼らの手元には二課のエージェントが集めてきた春日部探偵社の情報があった。
春日部探偵社についての情報を集めることは簡単だ。
問題は。
「流石は春日部探偵社……いや、所長が優秀ということか」
「最低限の情報しかウチが入手できないなんてねぇ」
「あぁ、だが、それよりも」
弦十郎の視線はエージェントが撮影した二枚の写真。
立花響と雪音クリスという少女。
「ガングニールを纏う少女と俺達が守り切れなかった少女があそこにいる」
「どうするの?」
「接触すべきだろう、ノイズに対抗するための力が必要だ……勿論、協力者として」
「そうねぇ、うちのシンフォギアは翼ちゃんだけだし」
弦十郎は拳を握り締める。
「そういえば、翼は」
「あ、そのことなんだけど」
ぺろりと舌をだした彼女の表情で弦十郎は察する。
要らぬ火種が起ころうとしていることで弦十郎は急いで二課の本部を後にした。
「平穏が欲しい」
あれから一カ月が過ぎた。
雪音クリスはうちのスタッフになった。
その代わりというべきか、クリム・スタインベルトは探偵社を去る。
彼は目的があり春日部探偵社に属していた。その目的を果たすためということで別れた。
――来るもの拒まず、去る者追わず。
探偵社を設立した初代所長が決めた方針。
代替わりしても決して破ってはいけないいくつかの約定。
クリムがいなくなったことで不便なことが発生しているがいずれ慣れるだろう。
「ジンさん、現実逃避、終わった?」
「もう少し、してぇよ」
しんのすけに言われて俺は前を見る。
オフィスにあった机の上で互いにメンチを切りあう二人の少女。
元の顔が整っているだけに殺意に満ち溢れている顔、それはもう、恐ろしいものだ。
女性が大好きなしんのすけですら逃げの一手しか考えていない。
かくいう俺も逃げ出したい。
だが、それをすれば目の前の二人は即座に標的を俺へ切り替えて襲い掛かるだろう。
過去に実践して身をもって知ったことである。
この場に助けてくれる連中はいない。
いるのは巻き込まれまいとするしんのすけだけだ。
「てか、お前らはなんでにらみ合っているんだ?」
「ジンと買い物、行く」
「ア?ざけんなぁ、ジンと買い物にいくのはアタシだってんだろ!」
そうだった。
事務所に置いてあったお菓子などがきらしていたからその買い物へ行くことにしたんだ。
そこでクリスと響がついていくと言い出して現在。
「この喧嘩、ジンさん折れないと終わらないんじゃない?」
「はぁ、そうなるかぁ」
余計な騒動を呼ぶような気がするから抵抗があったが仕方ない。
「そこまで言うなら二人で行くぞ」
にらみ合っていたが満面な笑みでこちらへやってくる。
互いを潰そうとしながら。
「前途多難だねぇ」
しんのすけの漏らした言葉に俺は沈黙で答えた。
全く、その通りだよ。
再びやってきたショッピングモール。
前はノイズの妨害があったが、無事に終わりそうだ。
「お前ら、頼むから背後で喧嘩もどきしないでくんない?」
買い物は三人でやってきている。
しんのすけ?奴は逃げたよ。
「「だって…」」
互いににらみ合う二人。
「何が原因なのかは知らないがほどほどにしとけよ。警察の厄介とかごめんだから」
俺の言葉にしゅんと俯いた二人、少し言い過ぎただろうか?
近くのカフェを指さす。
「どうせだから、あそこで何か食べるか」
「うん」
「あぁ」
提案に二人は嬉しそうに頷いた。
ま、余計な騒動を起こさずに仲良くしてくれるならとやかくいうつもりはない。
喫茶店に入りテーブル席へ腰かける。
運ばれてくるのはパフェ。
二人ともおいしそうにパフェを頬ぼっている。
これだけならどこにでもいる普通の少女にみえた。
だが、実際は普通の人が抱えるにしては重た過ぎる十字架めいたものを背負っていた。
果たして、彼女達が普通に生活することはできるのだろうか?
切欠があれば、あるいは。
「バカバカし」
何を考えているんだか。
ため息を零した直後、店をノイズが襲撃した。
「さて、どうでますかねぇ?」
タキシードに帽子の初老の男性が片手に独特なデザインの杖らしきものを持ちながらノイズが突撃した店を眺める。
突入して五分。
通常ならば、ノイズによって店内の人間は全て灰にあっているだろう。
そう、通常ならば。
「的確な射撃ですねぇ」
店内から放たれた光弾。
それは男の傍にいたノイズ全てを射抜いた。
土煙を切り裂くように一条の光が突き抜けて男へ迫る。
「おっと」
杖を操作してノイズの壁が形成される。
ノイズの壁が音を立てて吹き飛び、眼前に拳が突きつけられた。
「人間?」
「えぇ、驚きましたか?」
響は目の前にいた相手が人間だという事に気付く。
男はからかうように首をかしげて指を鳴らす。
鳴らした直後にノイズが後ろから響を襲おうとする。
「ちょせい!」
店内から無数の弾丸の雨とミサイルがノイズを射抜いた。
「さて、色々と聞きたいことがある。だけど、まずは俺が食べようとしたものを台無しにしてくれたから一発くらい殴らせろよ」
ゆっくりと店内から現れたのはデルタ。
フォンブラスターを構えながら苛立ちを隠さずに杖を構えている男へ告げる。
「おい、下がれ!」
「うるさい、チビ」
クリスの叫びに響は後ろへ下がる。
入れ替わるようにして放たれた無数のミサイル。
男は冷静に懐から銀色のUSBメモリを取り出す。
ミサイルが直撃して大爆発が起こる。
「うし!」
だが、それは一瞬のことだった。
巻き起こる竜巻。
爆風を消し去る。
「中々にやりますねぇ」
現れたのは白い怪物。
侍を連想させる姿だが、全身から放つ気迫は只者ではない。
その気迫にあてられてクリスは後ろへ下がってしまいそうになる。
クリスの横からデルタが前に出た。
「(ジン!)」
デルタはゆらりと面倒そうに体を動かしながら前に出て、白い怪物へ問いかける。
「アンタ、何者だ?」
「私の名前はウェザーと呼んでいただこう。今日はキミ達へ宣戦布告しにきました」
「宣戦布告ぅ?」
「その通り、我々はフィーネに属するもの。フィーネはキミ達を酷く警戒していてね、だから叩き潰すことにした。春日部探偵社、キミ達は標的になったのですよ」
「あ、そう、まぁ、俺達と敵対するなら、覚悟しとけ?」
デルタは親指を下へ向ける。
「俺達はしぶといし、くらいついたら簡単には離れない」
「覚えておきましょう、では、挨拶はこれくらいにて」
「逃がすわけねぇだろ?」
響が拳を振り上げようとした時、ウェザーは体からメモリを排出した。
「響、待て!」
人の姿の前に拳が迫る瞬間。
バイクが響へ激突する。
咄嗟に両手を交差して攻撃を防いだようだが、衝撃でデルタの方まで飛んできた。
「大丈夫か?」
「うん、でも、アレ」
いつの間にかウェザーの男は姿を消している。
タイミングを計っていたのだろう。
入れ替わるようにして巨大な壁が現れた。
「うぉ?」
「何だ、これ?壁」
「剣だ!!」
少し離れてみればわかるのだろう、地面に突き刺さっていたのは巨大な剣。
その上に立つのは青と白を基調とした鎧を纏った女性。
「あぁ、これは」
面倒な相手がやってきた。
デルタは仮面の中でため息を零す。
「デルタ!この前の雪辱を晴らさせてもらう!」
「あ、こっちはそんな気分じゃ」
「ウォイ」
横から手が伸びて胸倉をつかまれる。
瞳から光を無くした状態のクリスがのぞき込んでいた。
かなり怖い。
「一度しか聞かねぇぞ?あの女はなんだ」
「あー、一方的に敵視されている感じ?」
「また女か!そこのちんちくりんはともかくして、何でこうも!」
「うるさい、チビ」
「アァ?」
「ぶっ壊すぞ」
胸倉が解放されたので後ろへ下がろうとしたところで剣が飛来してきた。
「今度は逃がさない!そこの二人そろってベッドの上で話を聞いてもらおう!」
「「あぁ!?」」
刀使いの言葉に拳と銃を構える二人。
どうやら敵として認識されたらしい。
「ご愁傷様」
デルタは少し離れることにした。
「援護よろしく」
「指示すんじゃねぇ!」
響は一瞬で前へ踏み込む。
悪態をつきながらもクリスはガトリングと腰部分のミサイルで牽制をする。
風鳴翼は刀状態のアームドギアで弾丸を弾き飛ばして、正面から響の拳を受け止めた。
受け止めたが衝撃は殺せず、後ろへ下がってしまう。
「奏のギアをこんな使い方!」
「また、それか」
翼の言葉に響は呆れた声を漏らす。
出会う度に奏、奏といってくる。
その彼女の言葉が。
「ムカつくんだよ!」
拳を振るう。
腕のパーツがチャージするように一度、開かれる。
そして、閉じることで響の拳の威力が増す。
「そんなもの!」
対峙する翼が正面から刃で受け止めようとした。瞬間、横から爆風が起こる。
まるで予測していたように響の体が横へ吹き飛ぶ。
くるくると回転しながら足からアンカーのようなものが射出されて一気に跳躍。
振り切った刀を戻すことは出来ない。
風鳴翼の脇腹へ必殺の一撃が直撃するという瞬間。
横から二つの影が割り込んだ。
一つは響の拳を正面から受け止める。
もう一つは地面を踏み砕いて飛来していたミサイルを瓦礫で破壊した。
しばらくして土煙が晴れて乱入者の正体が明らかになる。
「ジン!?」
「司令!」
一人はデルタとしての変身を解除した東郷ジン。
赤いシャツに鍛え抜かれた肉体を持つ男、風鳴弦十郎。
二人の突然の乱入に戦闘は強制中断される。
「おい、この靴、高いんだぞぉ」
「あー、いってぇ、関節外れたかも」
靴がボロボロになったことにショックを受ける弦十郎と腕をぷるぷるしているジン。
「ありえねぇ、今の受けてその程度かよ」
クリスが武装を解除しながら呆れる。
規格外な出来事に遭遇してばっかりだったが、今回は特に一番だと彼女は思う。
「やはりと思ったが仮面の戦士はキミか、東郷君」
「その変な刀娘、もしかしてと思ったが弦十郎の旦那の関係者か」
二人してため息を零す。
「司令!そいつらを知っているのですか!」
「あぁ、知っているとも……」
弦十郎は悲痛な表情で彼をみる。
対してジンは興味なさそうに羽織っている上着を揺らす。
「疲れた、帰るぞ」
ベルトを肩にひっさげながら歩き出すジン。その姿に翼は我慢できない。
「貴様、待て!」
「待たない、疲れた、帰る、じゃ、旦那、後はよろしく」
「……わかった」
「おじさま!?」
翼が信じられないという表情を浮かべている中で響とクリスも鎧を解除して彼を追いかける。
「やはりと思っていたが……彼と会うことになるとは」
「あの男のことを知っているのですか?」
翼の言葉に弦十郎は渋る。
「おじさま!」
「彼の名前は東郷ジン、俺達、大人が守れなかった子供だ」
「ねぇ、ジン」
「なんだ?」
愛車を運転する彼に響は声をかける。
ジャンケンに負けたクリスは後ろでぶーたれながらも耳を澄ませていた。
「あの人外みたいなオッサンと知り合い、なの?」
「そうだなぁ、知り合いだ。まぁ、因縁ありきの関係だがな」
「因縁?」
首をかしげる響にジンはそこから先を言うべきか悩んだ。
しかし、彼のことだから響やクリスの纏う鎧について問い合わせてくる可能性がありえる。
それを考えれば今のうちに話すべきかもしれない。
「数年前、まぁ、三代目の所長の時なんだが、連中、特異災害対策機動部と仕事をする機会があった……聖遺物とかいう特殊な力を宿した物質の確保という事で俺達は呼ばれた」
「あ?探偵なのに?」
ふてくされていたクリスが尋ねる。
「探偵なんだがなぁ、その時の所長によって異なるんだよ。当時は発掘とかに興味津々だったからな……」
ジンの脳裏に焼き付いて離れない。
飛び交うノイズ。
中心でケタケタと笑って狂った人物。
そして、届かなかった手。
自然とハンドルを握り締める手に力がこもる。
「ジン?」
「どうしたんだよ」
「あぁ、何でもない。その時に探偵社のメンバーが犠牲になったんだよ」
「ノイズに?」
「いいや、人の手によって」
告げた言葉に絶句したことがわかる。
「響、クリス、俺達、探偵社の相手をするのはノイズや怪物だけとは限らない。中には醜い人間、犯罪者もいる。少し前の組織が良い例だ。忘れるなよ。一番、恐ろしいのは人間だ」
話をしている間に探偵社のビルがみえてきた。
「ま、面倒な話は終わりにしてなんか食べに行くか」
探偵社の道へは行かずに別のルートを選ぶことにした。