春日部探偵社へようこそ   作:断空我

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今回、シンフォギアサイドからようやく彼女が登場します。

ただし、険悪な空気です。


第八話:最悪な再会

「あぁ、これは夢だ」

 

 明るい世界の中、幼い自分ともう一人がいる。

 

 目の前の光景が夢であるとすぐにわかった。

 

 その途端、不機嫌になる。

 

 目の前の相手は笑顔を浮かべていた。かつては陽の温もりのように大事だと感じていた相手。

 

 その手を振り払うように響は乱暴に手を動かしたところで目を覚ます。

 

「最悪な目覚めだ」

 

 今はどうなのだろう?

 

 むくりと体を起こしながら響は布団から抜け出す。

 

 探偵社のいくつかある部屋の一つ。

 

 響の私室として与えられた部屋。

 

 ラフなシャツと下着だけという格好の響は部屋を出て、その足である部屋に向かう。

 

 東郷ジンの部屋。

 

 目の前に厳重な錠前が施されているが響は関係ない。

 

「邪魔」

 

 バキャンと音を立てて壊れる錠前。

 

 響にとってこの程度の錠前の破壊など造作もない。

 

「こんなことしても無駄なのに」

 

 少し前はクリムのシフトカーが妨害してきたが、今やシフトカーはいない。

 

 だから、こんな錠前を設置したのだろう。

 

 無意味だ。

 

 壊す力を持つ響にとってこんなものなど。

 

「ジン~」

 

 ニコリと笑みが浮かぶ。

 

 ジンの温もりへ触れられる。

 

 その楽しみを前にした響だが一瞬で動きが止まった。

 

「ぬぐぐぐ!」

 

「大人しく、しろよ!」

 

 響の目の前でクリスとジンが取っ組み合いをしている。

 

 クリスはシャツ一枚で、上のボタンが開いて、大きな果実が揺れていた。

 

 ジンは必死にクリスの手を抑えていた。

 

「なに、しているの?」

 

「早い者勝ちだ。失せな!」

 

 挑発してくるクリスに響は小さくため息。

 

「ぶっ殺す」

 

「あ、ヤベ」

 

 朝からジンの部屋は崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響さん、頭のタンコブ大丈夫?」

 

「……痛い」

 

 響はしんのすけと一緒に道を歩いていた。

 

 あれから崩壊したジンの部屋は修復作業中。

 

 そのため、探偵社は本日、お休み。

 

 クリスは木場勇治に連れられて街へ、響は――。

 

「ところで、着いてくるの?」

 

「あ、おかまいなくぅ~」

 

「気にするから言っているの」

 

 眉間へ皺を寄せるがしんのすけは平然としている。

 

 調子が狂うと思いながら響は歩く。

 

 ついてくるしんのすけ。

 

 響が向かっているのは実家。

 

 立花と書かれている表札。

 

「今日が約束の日だから、ね」

 

 表情を崩さないまま、響は家の中に入った。

 

 立花響は春日部探偵社に入る時にある約束をジンと交わした。

 

 三カ月に一回、家へ近況報告をすること。

 

 自分の所為で母と祖母がひどい目にあってしまった。そんな自分が二人に会うべきなのかどうかという疑問はある。けれど。

 

「おかえり、響~、あら、しんちゃんもいらっしゃい」

 

「あ、おかまいなくぅ~」

 

「何で、お前が先に挨拶するんだ」

 

 出迎えるのは響の母。

 

 呆れながらも母と向き合う。

 

「その、ただいま、お母さん」

 

「おかえりなさい、響」

 

 にこりとほほ笑みながら出迎える母と祖母にぎこちないながらも響は笑顔を浮かべた。

 

 響は二人に探偵社での仕事を話す。

 

 流石にロイミュードやノイズを破壊しているなどの情報は告げられないので少し前に起こったアイドルストーカー事件やカラス男の逮捕劇などを話す。

 

 横でしんのすけは祖母が用意した和菓子を食べていた。

 

 お菓子を与えればこの五歳児は少し大人しくなる。

 

 横でもぐもぐと饅頭を食べている五歳児の横で響が話を終えると二人とも「元気そうで安心した」という。

 

「恨んで、いないの?」

 

「そんなことないわ」

 

「響は何も悪くない。前にもいったでしょ?」

 

 温かく出迎えてくれる人がいる。

 

 そのことはとても嬉しかった。

 

 けれど、素直に喜ぶつもりになれない。

 

 自分は壊す力を持っている。そんな彼女がこんな温かい場所にいていいわけがないのだ。

 

 嬉しそうに自分を出迎えてくれる二人にぎこちない笑顔を浮かべつつ、話をする。

 

「いやぁ、温かい家ですなぁ」

 

「そうだね、私も、思うよ」

 

「何で、いつも家に帰らないの?」

 

 しんのすけの疑問に響は表情を変えない。

 

「帰ったら不幸になる」

 

「何で?」

 

「私は壊すことしかできない女だから、ジンと出会って救われたけれど、きっと、家にいたままだったらお母さんもお祖母ちゃんも壊していた」

 

「ふーん」

 

「私からも、聞いていい?」

 

「いいともー!」

 

「どうして、しんのすけはジンと一緒にいるの?」

 

 前々から響は気になっていた。

 

 探偵社に所属するようになった時からしんのすけはジンと一緒にいた。その理由をジンへ問いかけたこともあったが彼は教えてくれない。

 

 どうせだから、としんのすけへ問いかけることにする。

 

「うーん、お?」

 

 答えようと考えていたしんのすけは前からくる存在に気付いた。

 

 二人。

 

 一人は服を着崩した少年、年齢は響より下だろう。

 

 もう一人は派手な衣服を纏い、妖艶な表情をしている女性だ。

 

「やぁ~、はじめましてぇ」

 

 のんびりしたような口調で彼は響へ挨拶をした。

 

 無視して去りたかったが道を阻むように立っているため通ることができない。

 

「貴方が立花響よね?」

 

「違うといっても信じないんだろ?」

 

「当然よ、アンタのことは調べてあるもの」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる女性になぜか苛立ちを覚える。

 

「お前は邪魔なのよ。立花響、我が主の為にも排除する」

 

「そうなのぉ、悪いけれど、ここで死んでね?」

 

 目の前で二人の姿が変わる。

 

 一人は蛇を模した髪と杖を持つ怪人、メデューサ。

 

 もう一人は灰色のドラゴン怪人、ドラゴンオルフェノク。

 

「しんのすけ、逃げて」

 

「ほい!」

 

 響は歌を奏でて鎧を纏う。

 

 最近、わかったことだが、この鎧はシンフォギアというらしい。

 

 シンフォギアを纏った響は拳を構える。

 

「へぇ、真っ白い鎧だねぇ、楽しめそうだ」

 

 笑みを浮かべながらドラゴンオルフェノクが鋭い腕を振るう。

 

 響は正面からその拳で迎撃した。

 

 振るわれた拳と衝撃でドラゴンオルフェノクが仰け反る。

 

 その後ろから光弾が飛来して、響は足で蹴り飛ばす。

 

「あら、やるわねぇ」

 

 メデューサは髪をかき分ける仕草をしながら光弾を放つ。

 

 その光弾の一発がドラゴンオルフェノクを掠める。

 

「危ないなぁ」

 

「そこにいるからよ」

 

「あ、そー」

 

 仲間意識がないのだろう。

 

 ドラゴンオルフェノクは地面を蹴り、響へ迫る。

 

 二対一という不利な状況であろうと響は拳を構えた。

 

「うるさい、お前らまとめてぶっ壊してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「まーた、ヒナは」

 

「大丈夫ですか?」

 

 響達が戦闘をしている近く、そこを偶々、リディアンという学校に通う生徒達が歩いていた。

 

 ため息を零したのはリボンをした少女、小日向未来である。

 

「親友のこと、探しているんでしょ?」

 

「うん、おばさんに聞いている話だと春日部シティで働いているそうなんだけど……」

 

「どこかまでは教えてくれないんだ」

 

「聞いたんだけど、今はまだそっとしておいてほしいって言われているの……でも」

 

 響に、親友に会いたい。

 

 未来は心の中で思う。

 

 最悪の状況下で会えなくなってしまった親友の身を案じながらも急な引っ越しで会えなくなり、手紙を送っていたのだが返事も来ない。

 

 心配だけど、会えない。

 

「まるでアニメだよねぇ」

 

 仲の良い友達と話をしながら歩いていた時。

 

 轟音と共に目の前の壁が吹き飛んだ。

 

「……え?」

 

 突然のことに思考が止まる中、土煙と共に二体の怪物が姿を見せる。

 

「いやぁ、話に聞いているよりやるねぇ」

 

「あの方が警戒するだけある」

 

 メデューサとドラゴンオルフェノクはぱらぱらと舞う土を払う。

 

「か、怪物!?」

 

 現れた二体の怪物に彼女達は悲鳴を漏らす。

 

「あーぁ、見られちゃったぁ」

 

 体を揺らしながらドラゴンオルフェノクが未来たちの方へ向かう。

 

「ち、近づいてきた!」

 

「おい、何をしている?」

 

 ドラゴンオルフェノクの姿に未来達は怯える。

 

「えぇ?だって、目撃者は消せっていわれているでしょ?」

 

「チッ、勝手なことを」

 

 メデューサは悪態をつきながらも止めはしない。 

 

 目撃者を消せという指示は出ていたらしい。

 

「ごめんねぇ、ま、運が良ければ生き返るかもねぇ」

 

 ドラゴンオルフェノクが怯えている未来たちへ近づいた時。

 

「余所見か?」

 

 壊れた壁の向こうから大きな音が聞こえてきた。

 

 爆音。

 

 そう呼ぶべきような音と共に衝撃が未来たちを吹き飛ばす。

 

「な、なにこれ!?」

 

「アニメじゃなぁい!」

 

「わ、わ!」

 

「え?」

 

 その中で未来は見た。

 

 煙を払いのける様に現れた少女。

 

 マフラーのようなもので口元を隠しながら未来の目の前で灰色の怪物を殴り飛ばした。

 

 見間違えるわけがない。

 

 忘れるはずがない。

 

「ひびき……?」

 

 未来の漏らした声に響はちらりと視線を向ける。

 

 しかし、すぐに前を見た。

 

「動かない方がいいぞ?」

 

 今まで傍観していたメデューサが手に何かを掴んでいた。

 

「はなせぇえ!」

 

「……チッ」

 

 いつの間に捉えたのかメデューサの手の中には暴れるしんのすけがいた。

 

「動けば、このガキの命はないぞ?」

 

「最低だな、でも、それで私が止まると思うか?」

 

「どうだろうな、だが、殺されたら困るんじゃないのか?」

 

 本来なら無視していただろう。

 

 だが、響はその選択をとれなかった。

 

「助けたかったらそれを解除しなさい」

 

 動けない響にメデューサが告げる。

 

 響は渋々という形でシンフォギアを解除した。

 

「あー、いってぇの、コイツ」

 

 ドラゴンオルフェノクが拳を振るう。

 

 殴られた響が地面に倒れた。

 

 口の中を切ったのか、数滴の血が零れる。

 

「響さん!このぉ!」

 

 暴れるしんのすけだが、メデューサの拘束から逃れられない。

「さぁて、本当なら甚振って殺してやりたいところだけど、変な反撃されてもこまるしねぇ、ここで死ねよ」

 

 ドラゴンオルフェノクが鋭い爪で響の体を切り裂こうとした時。

 

 どこからか光弾が飛来して、ドラゴンオルフェノク、メデューサにそれぞれ直撃した。

 

「このぉ!」

 

 拘束が逃れると同時にしんのすけはおならをメデューサの顔にかけて脱出。

 

 大急ぎで響の下へ駆け寄る。

 

「今の!?」

 

「なんだぁ?」

 

 光弾を受けながらも起き上がる二体。

 

「成程ぉ、ロイミュードと同じくらい頑丈なわけだ」

 

 一台の白いバイクが未来たちの傍に停車する。

 

 白い上着とフードで素顔を隠していて顔はみえない。

 

 片手に車輪の着いた銃のようなものを構えていて、狙撃したのは彼だとわかる。

 

「響さん!大丈夫?」

 

「問題ない」

 

 駆け寄ってきたしんのすけの心配してくる声に響は頷いた。

 

 口元を拭いながら立ち上がる。

 

「しんのすけは隠れていて」

 

「でも、血……」

 

「へいきへっちゃらだよ。この程度、問題ないから」

 

 シンフォギアではなく、響はゼクトバックルを起動する。

 

 ピョンピョンとどこからかホッパーゼクターがやってくる。ただし、矢車のホッパーゼクターと異なり茶色だ。

 

 跳んできたホッパーゼクターを掴む。

 

「ぶっ潰してやる」

 

 ホッパーゼクターをゼクトバックルへ乗せる様にして変身する。

 

【チェンジ!パンチホッパー!】

 

 ヒヒイロノカネを響は身に纏う。

 

 茶を基調とした鎧、白い複眼。

 

 パンチホッパーである。

 

「へぇ、お嬢ちゃん、仮面ライダーなんだ」

 

「そんなんじゃない」

 

「あ、そうなんだ。でも、俺は仮面ライダーなんだよねぇ!」

 

 派手な音と共に男は白い仮面ライダーへ変身する。

 

「追跡!撲滅!いずれもマッハ!仮面ライダー――」

 

「うるさい」

 

 変身の口上を遮りながらパンチホッパーが地面を蹴り、大ぶりな一撃を振るう。

 

 ドラゴンオルフェノクは拳を受け止めようとするが、その威力に吹き飛ぶ。

 

「何だよ、さっきより威力高くないか?」

 

「しんのすけを人質に取ったんだ。私はキレてる」

 

 淡々と言いながらホッパーゼクターを動かす。

 

【ライダージャンプ!】

 

【ライダーパンチ!】

 

 地面を蹴り、宙を舞うと同時にタキオン粒子を波動に変換し、右腕に収束させながら必殺の一撃【ライダーパンチ】を放った。

 

 その拳を受けたドラゴンオルフェノクは民家の中に消える。

 

「チッ、騒ぎが大きくなりすぎたな」

 

 白い仮面ライダーの攻撃を躱しながらメデューサは撤退した。

 

 メデューサが撤退したことで白い仮面ライダーはバイクに乗って去ってしまう。

 

「……あの白いのカッコイイなぁ!アクション仮面の次の次くらい」

 

 去っていった白い仮面ライダーの姿を見て漏らすしんのすけ。

 

 敵がいなくなったことで変身を解除した響。

 

「響、響ッ!」

 

 未来が響へ駆け寄ろうとした。

 

「来るな!!」

 

 大きな拒絶の声に未来は動きを止める。

 

 そこにいたのは自分が知る親友とは大きくかけ離れた姿。

 

 全てを憎み、拒絶している目。

 

 太陽のように明るく、誰にでも優しく、輝いた笑顔はどこにもない。

 

「響、怒っているの?あの日……なにもいわずに引っ越したこと」

 

「当たり前だろう。あの日、私を見捨てて、一人安全なところに逃げた奴のことを!」

 

 拒絶の言葉が未来に突き刺さる。

 

 目の前が真っ暗になりそうになった。

 

 あの時、響をはじめとした生存者全員のバッシングが激しくなっていたことは知っていた。

 

 おそらく、あのバッシングに巻き込まれたのだろう。

 

「違う……違うの、響、響を見捨てたわけじゃないの、私だって引っ越すのは嫌だった。反対したけど、手紙しか送れなくて」

 

「手紙なんて一通もきていない!そんなウソ、よくいえたな!」

 

「そんな、こと、ちが」

 

「私が地獄の中にいた時、真っ暗闇にいた私に手を差し伸べなかった奴が、今更、親友面するな!!」

 

「違う」

 

「うるさい!来るな!」

 

 伸ばそうとした手を響は払いのける。

 

 フードをかぶりなおしながら彼女は歩き出す。

 

 しんのすけは少し戸惑いながら響を追いかける。

 

 残された未来はそのまま座り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響さん、大丈夫?」

 

「殴られた事?別に」

 

「そっちじゃないよ」

 

 しんのすけはよじ登るとそのまま響の頬へ手を触れる。

 

「ちょっと、なに?」

 

「響さん、泣きそうな顔している」

 

「そんなことないよ」

 

 本心だ。

 

 泣きたいなんてことはない。

 

 自分は壊すことしかできない女だ。

 

 今更、親友だった相手と再会したところで何も感じない。

 

 いや、あるのは裏切られたという激しい怒り。

 

「でも、オラからみたら響さん、泣きそうにみえる」

 

「……しんのすけは優しいんだ」

 

 少しわかった気がする。

 

 どうして、ジンがしんのすけと一緒にいるのか。

 

 幼いしんのすけはとても純粋だ。だから、人の痛みもわかるし、手を差し伸べる。

 

「(きっと、ジンも失っているから忘れないようにしているんだ)」

 

 人として忘れてはいけないものを。

 

「オラは響さんの味方だぞ!」

 

 胸を張るしんのすけの言葉に響は頷いた。

 

「ありがとう、しんのすけ」

 




今回、響と未来が再会、ただし、拒絶してしんのすけに心配されるということに。

白いライダーはドライブに出てくる彼です、まだ、本格的にドライブと絡んでいないので素顔を隠している状態です。

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