目が覚めたら怪人になっていた 作:カエル怪人ゲコゲーコ
(ここは……どこだ……?)
ぼんやりと、少しずつ意識が覚醒してくる。
薄く目を開くと、最初に目に入ってきたのは『緑色』だった。
(何だ、これは)
身体を何かが拘束しているのか、身動きがとりにくい。全身にはケーブルのようなものも繋がれている。それに身体は液体の中に浮かんでいるようで、足元には何も無く踏ん張りがきかない。
更に意識がハッキリとしてくると、どうやら自分は筒状の水槽のようなものの中に閉じ込められている事がわかった。
(私は、どうしてこうなったんだ?)
直近の記憶を思い出そうとする。だが、全くと言って良いほどに何も思い出せない。
覚えているのは、自分が人間の男だという事と、自宅らしき場所で眠りについた記憶。そして『ヒーロー?』なるものに憧れていたらしい記憶。それ以外、何も思い出せなかった。
(外に居るのは、人か?)
水槽の外では、白衣の男達があわただしく動き回っていた。よくわからない機械をいじったり、ノートに何か書き込んでいたり。
「どういう事だ! まだ目は覚めないんじゃ無かったのか!」
「知るか! イレギュラーだイレギュラー! 兎に角鎮静剤と睡眠薬を打ち込め!」
「もうやってる! でも効いてない!」
「クソッ……対ヒーロー用の麻酔弾でも良い! はやくやるんだ!」
何やら物騒な話をしているのが聞こえてくる。まだ目が覚めるはずじゃないとはどういう事だ? それは私の事なのか?
(私は、こんな姿をしていただろうか?)
水槽のガラスに反射した自分の姿は、記憶の中にある姿とは全く違っていた。
頭部にはカブトムシのような角が生え、全身は黒々とした甲殻で覆われている。視線を下にやると右手の甲からはハチの針のようなものが飛び出ており、左手の掌には妙な穴が空いている。
プシュ!
(…………むっ)
水槽の斜め上から何かが射出され、首筋に当たったような感覚があった。だがそれは堅い甲殻に阻まれて突き刺さりすらせずに跳ね返り、液体の中を漂う。
「き、効いてない………」
「誰だクロカタゾウムシなんて材料に入れたヤツは……」
「あああ不味い不味い不味い不味い」
(兎に角、一度彼等と話をするべきか)
水槽の外の彼等ならば、何故自分が水槽の中に閉じ込められていて、自分が何者なのか知っているはず。話をする為にもまずは水槽からでなければならない。
全身に力を込めてみると、自身を拘束していた器具がいとも簡単に壊れた。次に腕、足、頭と動かすと、身体に繋がっていたケーブルがブチブチと外れていく。体内に直接繋がっていたものもあったようだが、痛みも一切無く、傷も一秒も経たずに完治した。
(とりあえず、人間では無いと言う事だけはわかった)
自由になった身体を確認し、再び水槽の外を見る。
白衣の男たちは皆此方を凝視したまま、水槽から離れていた。これならガラスを壊しても、巻き込まれて彼等が怪我をする事も無いだろう。
バシャァァッ!
軽く一発殴っただけで、ガラスはあっけなく砕け散った。水槽を満たしていた緑色の液体が器を失って一気に流れ出して行く。
スーッと息を吸い込む動作をしてみると、肺が空気で満たされるような感覚があった。外見からはよくわからなかったが、口もちゃんとあったようだ。呼吸は変わらず行える。
「で、出てきた……」
「大丈夫だ大丈夫だ制御チップはちゃんと作動してる言う事も聞いてくれる大丈夫だ大丈夫だ」
「ひ、ひぃぁぁぁぁ」
ただ呆然と立ち尽くす男。頭を抱えてブツブツと何か呟き続ける男。腰をぬかして立てなくなっている男。怯えて逃げ出そうとしている男。
「私が、怖いか」
腰を抜かしている男を見下ろして、そう聞いた。
男はガチガチと歯を鳴らして震えながら、失禁しただけだった。
(話にならないな………)
せめて会話ぐらいにはなりそうな奴は居ないものか。周りを見渡してみるが、皆正気を失った者ばかり。
一番マシだった『呆然としていた男』へと歩みよると、彼もビクリと震えて一歩後ろへと下がった。
「ここは何処だ。私は誰だ。何故拘束されていた。教えろ」
「…………は、はひ」
この男も、ガクガクと震えながら失禁した。