目が覚めたら怪人になっていた   作:カエル怪人ゲコゲーコ

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怪人『鎧武者オニカブト』

 

 

 

 

 

 

 

「順番に教えろ。まず、ここは何処だ」

 

 いきなり全部を一気に聞いても困るだろうと、改めて聞き直す。本当はもっと優しい口調で話したいのだが、何故だかどうしても威圧的な口調になってしまう。この身体のせいだろうか。

 

「はっ、はい! ここは我らが秘密結社『悪の組織ダークユニオン』の第二実験施設、セクター277です!」

「『悪の組織』? 『ダークユニオン』? 陳腐な名だ………何をする組織なんだ?」

「我らの目的は、ぜ、全世界の掌握ですっ! 」

「馬鹿馬鹿しい……次だ。私は誰だ」

「え、あ、それは……」

 

 男の視線が彷徨う。

 彼は助けを求めるように周りの男達を見渡すが、誰一人として助け船を出そうとはしなかった。

 

「言えないのか」

「い、いえそのような事は……ぁ、あっ! こ、此方をご覧下さい!」

 

 男が慌ててデスクを漁って取り出したのは一つのファイル。差し出されたそれを受け取ると、表紙には自分の顔の写真と共に『怪人:鎧武者オニカブト』と書かれていた。

 

「怪人、オニカブト……」

「わ、我がダークユニオンの技術を結集して造り上げられた最新鋭にして最強の怪人。それがあなた様なのです」

「………その妙な丁寧口調を止めろ」

 

 自分は偉くもなんとも無いのに、しもべのような態度をとられるのにはいい加減辟易してきた。とりあえずこの丁寧口調をやめるように言うが、彼は相変わらずビクビクしたまま「そのような事は………」なんて言って小さくなっている。私を作ったのは彼等のようだが、私は相当危険な代物のようだ。

 

 ファイルを開くと、自身に関するデータが簡単に纏められていた。

 

◇◇◇

 

『鎧武者オニカブト』ランクA

身長 2.10m

パンチ力 194t

キック力 280t

握力 135t

速力 マッハ4.1(飛行時含む)

継続飛行可能時間 3h

活動可能温度 -230~5000℃

 

使用材料:カブトムシ、クロカタゾウムシ、ミイデラゴミムシ、メキシコサラマンダー、オオスズメバチ、ノミ、アシダカグモ

 

・カブトムシをベースに、クロカタゾウムシの防御力、ミイデラゴミムシの超高温の毒ガス、メキシコサラマンダーの驚異的な再生能力、オオスズメバチの毒針、ノミの凄まじい跳躍力、アシダカグモの俊足。これら全てを兼ね備えたダークユニオンが誇る最新鋭の怪人である。

 

◇◇◇

 

 正直、よくわからない。

 多分、この身体がどれほどに強いのかという事が書かれているのだろうが、あいにく『怪人』とやらには詳しくない。平均的な『怪人』の強さだとか、ハッキリした指標があればわかりやすいのだが。

 

「私は、強いのか」

「は、はい」

「何故私を拘束していた」

 

 男は更に縮こまった。

 

「それは、正常に生体パーツが動いているか最終調整をしていて……」

「何故拘束する必要がある? 今こうしているように対話が可能だ。本能のままに暴れまわる獣でもあるまいに、それ程までに私を恐れるのか。自分達でコントロールも出来ない物を作ったのか?」

「そのような事は……!」

 

 その時だった。

 先程まで頭を抱えてブツブツと何やら呟き続けていた男がやおら立ち上がり、甲高い笑い声を上げた。

 

「………イカれたのか」

「あひゃビャヒャヒャ!ヒェッヒェッ! コントロール出来る、出来るに決まってるだろ! お前の脳ミソには『コントロールチップ』が埋め込んであるんだよ! さあオニカブト、俺に従え! 跪け! 俺の命令のままに全てを蹂躙しつくすのだぁぁぁぁ!」

 

 狂ったように目をギョロギョロと動かして、唾をあたりに撒き散らしながら男は叫ぶ。『コントロールチップ』とは一体何の事だろうか。私の脳を操ることが出来ると言うのならば、とっくに実行していただろうに。

 

 ふと、口のなかに違和感がして、掌に吐き出すと四角い金属片のようなものが現れた。よくそれを見ると、それは小さなPCのようにも見える。

 

「コントロールチップとは、コレの事か?」

「……え、どうして、何故」

「さあ? 身体が異物だと判断したんじゃないか?」

 

 先程読んだ資料から考えれば、おそらく『メキシコサラマンダー』の再生能力によるものだろうか。元々の能力は、脳に入った小さな金属片をこんな方法で摘出できるようなものでは無いと思うが。

 

「あ、あり得ない。どんなに器用な怪人だってコントロールチップをリスクも無しに出すなんて」

「知るか。コレは返す」

 

 指先でチップを弾くと、チップは弾丸の様に飛び出して男の額を撃ち抜いた。血と脳漿が辺りに飛び散り、男はその場に倒れ伏して動かなくなる。

 

「………加減を間違えた」

 

 軽く飛ばす程度のつもりが、まさか殺す事になってしまうとは。あまりにも唐突過ぎて、人を殺したという実感すら沸いてこない。

 

「あ、あ、あ……」

「驚かせて済まない。今の殺しは不本意だった。この建物についてよく知りたいから案内してくれ」

 

 先程まで色々と聞いていた男をつかまえて、建物の案内を頼む。今までの記憶が思い出せないのだから、今はこの場の事についてよく知っておくべきだ。

 

 男を連れて部屋を出ると、その後から残っていた男達が出てきて散り散りに逃げていった。どうやら地下施設のようで窓の類いは一切無く、取り敢えず外に出るためにも目についたエレベーターに乗り込む。

 エレベーターが昇っている間、男は壊れた玩具のように無言でブルブルと振動するだけだった。

 

 

 


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