目が覚めたら怪人になっていた   作:カエル怪人ゲコゲーコ

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悪の組織、施設見学会

 

 

 

 

 

 エレベーターを出ると、そこは未来の世界だった。

 全面が黒いパネルで埋め尽くされた広い空間に、両側面にずらりと並ぶ部屋の中には自身と同じような異形の怪人達が閉じ込められている。さしずめ『怪人保管庫』といったところだ。

 出てきたエレベーターも数ある内の一つのようで、この部屋につながるエレベーターの数だけ、怪人を作り出している部屋に繋がっている事が簡単に予想できた。

 

「怪人か。閉じ込めているようだが、あれらは逃げ出そうとしたりしないのか」

「かっ、怪人はっ、ここコントロールチップによって制御ささされているので、逃げるような事は」

「ほう。それでヒーローとやらと戦わせるのか」

「え、ええ………はい」

 

 ヒーロー。

 記憶の中のヒーローの姿はおぼろげだ。それも実物でなく、テレビの中で見た姿。強化スーツを着て戦う男や、魔法の力で変身して戦う少女、超能力を駆使して戦う男も居た。

 彼等がどんな存在なのかはハッキリとは覚えていないが、自分はそんな彼等によって守られながら暮らしていたように感じる。そして、自分もそんな彼等に憧れていた。

 

「ヒーローは、倒したらどうする」

「えっ! そ、それは……」

 

 記憶の中のヒーローは負け無しだった。いつだって勝利し、勇気を与えてくれる存在。だが、都合よくいつもヒーローが勝ち続けるなんて事、現実的に考えればあり得ない。

 ヒーローが怪人に敗北したらどうなるのか。普通に殺すのか。それとも生かして返すのか。後者はまずあり得ないだろうが、負けたヒーローがどうなるのか、少し気になった。

 

 私としては比較的穏やかに声をかけたつもりだったのだが、自然と声に力がこもってしまったらしく、男は顔面を蒼白にして口ごもってしまう。

 

「後ろめたい事をしている自覚はあるのか」

「………うっ、うぅ」

「殺しはしない。教えろ」

「ううぅ…………倒した、ヒーローは」

 

 男の拳がぎゅっと握られる。更に歯をくいしばり、何かに耐えているようにも見えた。

 

「倒したヒーローの死体は…………男ならば戦闘用の怪人に改造、女ならば………」

「………女ならば?」

「お、女ならば、慰安用の怪人に……」

「お前も作ったのか。その慰安用の怪人とやらは」

「い、いえ! そのような事は! 私は専ら戦闘用の怪人ばかり任されておりまして………ですから、男のヒーローの死体を改造した事は、幾度か……」

「ふむ、そうか」

 

 男の言葉で『怪人』というものがどんなものなのか、なんとなく察した。きっと私も、元となった人間が居て、その人間はとっくに死んでいるのだろう。そして『私』という怪人のベースになった。

 

「凄まじい数だな。これだけの怪人。ざっと80は居る」

「う、う、うううぅ」

「一体何人の死者を冒涜して来たのか、数えきれんな」

「うぐ、ぐ、うっ、うっ」

 

 この男も妙な奴だ。悪の組織とかいうものに所属しているのだから、ある程度覚悟は決まっているが完全にイカれた人間かと思えば、自身がやってきた事を悔いているのか涙すら流している。悪に染まれもしない癖にどうしてこんな所に居るのか、少し気になった。

 

(まあ、そこら辺はまた今度聞くとしよう。今はこの施設と組織についてだ)

 

 薄暗い部屋には怪人ばかりで人の気配は感じられない。あの部屋にはざっと20人程度居たと思うのだが、他の職員は居ないのだろうか。

 

「人間は他に居ないのか?」

「うぐ、うっ………戦闘員の施設が先にありますので、其方の方に」

「案内しろ」

「わかり、ました」

 

 手の甲で涙を拭い、男は前に立って歩き始めた。モヤシのように細い男だ。記憶の中の自身の姿よりも、ずっと細い。栄養が足りていないのか頬はこけてげっそりとしているし、顔色も悪い。

 彼等に身体を弄くられて怪人になった身だと言うのに、彼が酷く哀れな生き物に見えてきてしまう。

 

「此方が、戦闘員の施設になります。ここでは日夜、戦闘員の訓練や、装備の研究などが行われ、彼等の居住区も兼ねております」

「お前達の住む場所は? 別なのか」

「………我々研究員の一部は、一般人に溶け込んで暮らしています。なので、ここに来る事自体殆んどありません」

 

 しばらく廊下や階段を歩き続けて、ようやく『戦闘員の施設』とやらに到着した。彼の言っていた通りに施設内では人間が多く歩いていて、私が施設に入ってきたのを見てぎょっとしたような視線を向けてくる。

 数秒もすると武装した人間が数人集まってきて、此方を囲んで銃口を突きつけてくる。ここまで案内してくれた研究員の男は元から青い顔を更に青くして両手をあげた。

 

「お前は研究員B-1058だな。何故許可無く『怪人』を連れている」

「し、仕方なかったのです。怪人が制御不能になるなど予測出来ず。しっ!しかし、怪人『鎧武者オニカブト』はしっかりと意思疎通も可能である程度此方に理解も示してくれています!」

「許可無く怪人を連れて行動するのは規則違反だ。怪人共々即刻射殺する。やれ」

 

 武装集団のリーダーらしき男が片手を上げる。同時に全ての銃が火を吹いた。

 

(この男に今死なれては困る)

 

 咄嗟に研究員の男を抱えてダッシュした。男が怪我をしない程度のスピードで、銃弾をその身で受け止めて包囲を突破する。

 

「くっ、あの怪人に重火器は有効じゃない! 近接武器に切り替えろ!」

「「はっ!」」

 

 リーダーの男は銃撃が有効でないと判断すると、即座に命令を出して武器を刀に切り替えた。刀身まで全て漆黒という奇妙な刀だ。

 

「お前」

「は、はいっ」

「ここで待っていろ」

 

 研究員の男をその場に待たせ、自分は戦闘員の男達と対峙する。

 

「私は施設の案内をして貰っていただけだ。貴様らを害するつもり等毛頭無い」

「お前にその意思が有ろうが無かろうが規則違反に変わりは無い。厳しいルールがあり、それが徹底されるからこそ強い集団が作られるのだ」

「聞く耳は無いと言うことか」

「ふん、そもそも人でない怪人に人権など無い!」

 

 8人居る内の3人が同時に別方向から斬りかかって来た。戦闘員らしく身体能力はかなり高いようで、普通の人間ではあり得ないスピードを出している。

 どうやら向こうは穏便に済ますつもりは全く無いようだ。どちらかが死ぬまで終わらせるつもりは無いだろう。

 

「ならば、文句は言うな」

 

 ぐっと足に力を入れて、全速力で駆け抜ける。途端に景色が停止し、時間が止まってしまったかのようになる。

 音速の世界。よく見れば周囲も少しずつ動いているのがわかるが、その動きは余りにも小さく動いていないにも等しい程。

 

「ふん、ヌゥッッ!」

 

 まず最初に、斬りかかってきた三人に回し蹴りを叩き込む。三人は反応すら出来ずにくの字に折れ曲がり、壁に激突して四肢を散らした。

 

 続けて今度はリーダーの男を囲んでいた四人の内、一人に毒針を撃ち込み、もう一人に掌に空いた穴を向ける。

 

 ドパンッ!

 

 穴から超高温の毒ガスが凄まじい勢いで噴射され、狙った男の頭部を吹き飛ばした。爆発かと見紛う程の熱と勢い。人間の頭部一つを跡形も無く消し去ったその威力には、これが毒ガスである必要性すら疑う程。

 

「あと三人」

 

 戦闘員二人と一気に距離を詰め、一人の腹部へ向けてパンチ。もう一人の首を狙って手刀を繰り出す。

 拳は意図も簡単に戦闘員の腹部をぶち抜き、手刀は首と胴を泣き別れにした。

 

「最後だ」

 

 リーダーの男の腕を叩き折り、刀を取り上げる。そして彼の首を掴んで持ち上げた。それと同時に周囲の動きが元に戻り、毒針を撃ち込んでいた男が痙攣を起こしながら崩れ落ちる。

 

「うぐ、あ、が」

「最後に何か言うことは有るか」

「何を、した」

「蹴った、刺した、撃った、殴った。以上だ」

 

 ぐっと手に力を込めると、ボギリと音がして男の首はおかしな方向に折れ曲がった。四肢はだらりとぶら下がり、完全に動かなくなる。

 

「さて、お前」

「ひっ、ひぃ……」

 

 リーダーの男を放り投げ、研究員の男の元へと戻る。一瞬で8人も殺したせいか施設内はあわただしくなり、遠くから戦闘員が殺到してくるのが見えた。

 

「色々と言いたいことは有るが、一旦ここを離れるぞ」

「う、ひぃぃ」

 

 研究員の男を抱え、走ってその場を離脱する。

 追ってこれる戦闘員は、誰一人として居なかった。

 

 

 






【主人公】
目が覚めたら怪人になっていた元人間。メキシコサラマンダーの能力で洗脳用のコントロールチップは取り除けたものの、人間だった頃の記憶の大半を失い、理性も若干消し飛んでいる。今はひたすら現状確認。


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