目が覚めたら怪人になっていた   作:カエル怪人ゲコゲーコ

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「何故撃たれる危険を知りながら私を連れて彼処へ行った。私は何の問題も無いが、お前は簡単に死ぬだろう」

「は、話せばわかると思って………」

「………意外と能天気な奴だな、お前は」

 

 追手を振り切り、人気の無いところまで来た私は研究員の男に質問をぶつけた。だが返ってきたのは能天気な返事。思わず呆れて溜め息が出る。

 

「そ、それに『人間態になる方法』も既に理解しているとばかり」

「人間態になる方法だと? それは何だ」

「だっ、ダークユニオンの怪人なら誰もが有している能力です。文字通り姿を人間のものに変えて、ににっ、人間社会に溶け込むことが出来ます」

「そんな事が出来るなら早く言ってくれ……」

 

 あの説明書にはそんな事が出来るなんて一言も書いていなかったぞ。先にその事を言ってくれていたら、戦う必要なんて無かっただろうに。

 

「まあ良い。出来るなら少しやってみるか……」

 

 自身が人間の姿に変わるイメージをする。甲殻や筋肉が収縮し、人間としての身体に収まっていくようなイメージ。

 すると意外にもあっさりと身体の形が変化していくような、身体全体が縮んでいくような奇妙な感覚を感じ、目を開いて自身の手を見ると怪人の手から人間の手へと変化していた。

 しかも驚いた事に服まで同時に作られている。服を着た姿をイメージすれば服を着た姿に。全裸をイメージすれば全裸にといった所だろうか。

 

「み、見た目は生前の姿に準拠すると、言われております」

「ふむ………と、すると、この姿は記憶の中の私という事か」

 

 服は先ほどの戦闘員のイメージが強いのか、彼等が着ていた戦闘服とブーツ、防弾チョッキといったようになっている。

 ともあれこれで騒がれずに移動することが出来るようになった。もう暫くこの施設内を探索してみるとしよう。

 

「おい、行くぞ」

「は、はいぃ」

 

 男を呼び、人気の無い廊下を歩き始める。

 そういえばこの男の名前はまだ聞いていない。目覚めてからそれなりに長い付き合いだし、自身の我が儘に付き合わせてしまっているのに互いの名前すら知らないと言うのは良くないだろう。私は生前の名前は全く覚えていないが………。

 

「おいお前、名前はなんと言う?」

「えっ!? わ、私ですか」

「そうだ、お前だ」

「わた、私は『空木 豪(うつぎ ごう)』と申します……」

「ゴウ……ゴウか。今のお前の見た目からは想像出来ん名前だが、良い名前なんじゃないか」

「へ? あ、ありがとうございます……」

 

 研究員の男、あらためゴウは間の抜けた表情で頬をかきながらヘコヘコと頭を下げる。やはりらしくない奴だ。悪の組織の研究員と言うのだから、あのイカれた男のようにギラついているような奴ばかりだと思っていたが、こんな奴も居るのか。

 

「この先は何になっている?」

「あ、その先はですね………あっ、ちょっと待って下さい!」

「どうした、何か不味いことでもあるのか」

「不味いことと言うか……不快に思うと言うか。正直、私もあまり行きたくはありません」

 

 不快に思うものと聞いて、前に聞いた『負けたヒーローの話』を思い出した。男は戦闘用の怪人に、女は慰安用の怪人に、だったか。

 

「………大体は察した」

「あ、あの……大丈夫でしょうか」

「それはわからん。もしかすると抑えきれなくなるかも知れないな」

「……私も、です」

「ほう? 意外だな。お前も男だろう。下衆な欲望に思考を流されないとは言い切れんだろう」

「………私には、妻と娘が居りますので」

 

 それを聞いて少し驚いた。てっきり独り身だとばかり思っていたが、まさか既婚者だったとは。しかも娘まで居る。

 そういえば、ゴウは一般人に紛れて暮らしていると言っていたか。普段は会社勤めのサラリーマンだとでも偽って生活しているのかもしれない。

 

「………私は、自由な怪人だ」

「へっ?」

「お前達がそう作った。意図せずにだが。そうだろう?ゴウ」

「え、ええ、まあ」

「ならば私は私のやりたいようにやらせて貰う。この組織にとってそれが吉と出ようが凶と出ようが、知った事ではない」

「それは………お手柔らかに」

 

 片手で、ゴウに再度着いてくるように促す。

 進む先は変えない。

 

「昔の私はヒーローに憧れていたようだが━━」

 

 パン!と掌と拳を打ち合わせる。人間の姿でも、身体能力は人間並みといった事は無いようだ。しかし、怪人態の時の全力にはほど遠いが。

 

「━━怪人らしく行こう。気に入らない奴は潰す。例え理不尽でも」

 

 

 

 

 

 

 

 先へと進み続けると、そこはどうやら戦闘員の居住区のようだった。制服を着た大勢の人間が歩き回り、建物壁面はアパートのようになっている。そして一階部分には飲食店と見られる場所や、リラクゼーション施設等が並んでいる。

 

「………お前が言っていたのはアレの事か」

「っ! えぇ、はい……」

 

 男二人に一人の少女が無理矢理連れられているのが目に入った。少女は恐らく怪人だろう。頭部からは猫のような耳を生やし、臀部には同じく猫のような尻尾が生えている。

 少女はほぼ全裸と言っても良いほどに布の少ない衣服を着せられて、両手と首を鎖で繋がれて引き摺られていた。

 

「オラッ! 歩け! 抵抗すんじゃねぇ!」

「店着いたら気持ち良くなるクスリを打ってやるからな。オジサン達と沢山楽しもうね」

 

「離せ、離しなさいよ! 離してよぉ!」

 

「だーかーら抵抗すんなっつってんだろメスガキがよぉ! オラァ!」

「もう君は魔法少女じゃないんだよ? オジサン達を気持ち良くするための玩具なんだから。大人しく気持ち良くなろう? そうすれば楽になるよ」

 

 泣きわめく少女の顔を、男は思い切り殴りつけた。少女はその場に崩れるようにして倒れ、鼻と口から血を流す。

 

「う、うっ、うああぁぁっ……イヤ、嫌だよぉ………パパ、ママ、助けてよぉ……」

 

 年端もいかない少女だ。いくらヒーローだったといえ、子供であることに変わりはない。

 涙を流す少女を男達は無理矢理立たせ、何処かへと連れていく。

 

「だから………来たくなかったんです」

 

 隣ではゴウが歯を食い縛り、全身を震わせて男達に連れられていく少女を見詰めていた。

 

「あれが、負けたヒーローの末路か」

「……はい。恐らくあの子は連れてこられてきたばかりでしょう。これから下手な麻薬よりも何十倍も依存性のある薬を打たれ、下衆な男達の慰み物にされ、精神を病んでゴミのように死んでいく」

「………なあゴウ。お前は何故こんな所に居る? お前にとって居心地の良い場所では無いだろう」

 

 見詰める先、少女が再び転倒し、男達から暴力を振るわれている。そして周りの男達はそれを笑って見ているか、見て見ぬふりをしているかのどちらかだ。

 

「理念に賛同していたのです。『全世界を征服し、差別無き平和な世界を作る』。ですが、この組織にはあまりにも下衆な人間が多すぎた」

「差別無き平和な世界、か。随分な理想だな」

「私にとってあの仕事場は居心地が良いものでした。比較的まともな人間が集まり、方法は誉められたもので無くとも平和な世界を目指している。だから、事故死したあなた様の遺体から、最強の怪人をつくったのです」

「勝手に他人に願いを押し付けるな。確かにアレは気に食わんが」

「………もう、行きましょう。見ていられません」

 

 ゴウが踵を返してもと来た道を戻ろうとする。しかし、私はその腕を掴んで此方に引き戻した。そして男達に連れられていく少女を指差す。

 

「よく見ろ。アレがお前の業だ。お前が作った怪人達がヒーローを殺し、そしてお前の仲間達が凌辱している。平和な世界などと戯れ言を。お前も、この施設も、組織も気に食わん」

「………む、ぐぅ、う」

「お前の娘もあれぐらいの歳か。可哀想になぁ。お前のせいで若くして殺されて、死んだ後もカス共の慰み物になってもう一度死ねと。いい加減に目を覚ますと良い」

「ぅううぅぅぅうぅぅうう」

「お前はここで、目をかっぽじってよく見ていろ。まずは此処から、クズ共を血祭りにあげてやる」

 

 無性に腹が立っていた。

 物のように扱われる少女に。

 盲目になったゴウに。

 下衆な欲望を貪り続ける人間のカス共に。

 

 これからやろうとしている事がヒーロー的かと言われればそれは違うが、ヒーローだって元は人間だった怪人達を殺している訳だしどっちもどっちだろう。悪か善かなんて、所詮人の感じ方次第。

 私にとってこの胸糞悪い光景は、『悪』だ。

 

「っ、シィッ!」

 

 人間態のまま駆け出して、あっという間に少女と二人の男との距離を詰めた。

 驚き、口を半開きにして此方を見ている二人の男の頭部を掴み、ぐっと力を込めるとトマトでも潰したみたいに頭蓋が潰れ、血が飛び散る。

 

「ひっ、こ、殺さないで……」

 

 恐怖のあまり尻餅をついて倒れた少女。彼女の首と手首につけられた鎖と拘束具に手を伸ばし、指で捩じ切って破壊した。予想外の事態に思わず顔を上げた少女の前で、人間態から怪人態へと姿を変えると、少女の瞳に再び恐怖の色が宿る。

 だが、気にする事なく少女の頭に手を伸ばし、優しく撫でると一瞬びくりと震えた後に大人しくなった。

 

「殺さない。私はお前を助けに来た、怪人だ」

 

 少女を抱きかかえて辺りを見渡すと、やはりと言うべきか唐突な殺人と怪人の出現に戦闘員達の注目が集まっていた。

 

「全員、殺す」

 

 

 







【空木豪】
悪の組織ダークユニオンの戦闘用怪人の開発を担当している研究者。表向きのダークユニオンの最終目的『世界征服の後、争いや差別無き平和な世界の創造』に賛同して組織に入った。理想と現実のギャップに悩みながらも、続けていけば何か変わる筈だと盲目になっていた。



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