罪
私は今、王の目の前にいる。
嗚呼、怖い。恐怖の象徴、死が具現化したような佇まい。
黒龍としての設定なんかよりもよっぽど絶望を呼び込むのにふさわしいいで立ちではないか。
一人傅き、その後ろでは第四、第八を除く守護者たちが私を見ている。それはそれはゴミを見るような目で……視線だけで人間であれば殺せるだろうその眼力。見事な忠誠心だ。
「第六階層 領域守護者 ミラボレアス。御身の前に」
「ミラボレアス……お前の行動はぶくぶく茶釜さんから聞いている」
顔が上げられない。しっかりと見られない……けれど、これでいい。私は私の想いを通し、願ったのだ。ミラボレアスに呑まれないために…、
「…この度は至高なら御方の1人であるぶくぶく茶釜様に対し「ミラボレアス、謝罪をするのであれば面を上げなさい」…重ねて失礼しました」
「ミラボレアスお前に問う。お前は何故ぶくぶく茶釜さんを攻撃したのだ?」
どう答えるべきか。そうあるべきだからと答えるのが普通であるが、それだけで許されるものなのだろうか? いや、許しをこうという考え自体が浅はか。初めは呑まれていた…それは事実で、心変わりをした……次こそはあなた方に認めてもらうよう努力します。などと言えようか?
「ミラボレアス、あなた、モモンガ様の質問ひとつまともに答えられないのかしら? 」
守護者統括であるアルベド様の言葉が刺さる。言うしかない。それしかないのだ。
「……私は私の城を守るべく行動しました。そうあるべくして生まれ、そうあるべくして今まで存在しております。"シュレイド城跡地に侵入したものを誰だろうと攻撃する"それが私です。今回もぶくぶく茶釜様が城に侵入したので、攻撃、処理を実行しようと考えました」
「……そうか。では、ぶくぶく茶釜さんからお前に話がある。心して聞け」
「ミラボレアス、あなたにいくつか質問があります。嘘偽りなく答えるように」
「はい」
「あなたは領域守護者としてあそこに拘束されている筈です。ですが、今、あなたはここにいる。その理由を尋ねても?」
「人型に変身すれば私は行動が出来ます。この身体は、ペロロンチーノ様の望まれた姿でありますが、ミラボレアスではありません」
そう答えると、背後から1人殺気が増した。そして、目の前の御方3名の雰囲気が何故か少し収まった気がする。それでもなお恐ろしいが。
「そう。あなたは運営によってそうあれと生まれた存在という認識で良いのかしら?」
「はい。領域守護者として存在するのは至高なる御方々の慈悲でありますが、根底は運営と呼ばれる組織によって構成されております」
「では、最後の質問です。あなたは私たちがもう一度シュレイド城跡地へと赴く場合、再び敵意を待って攻撃を行いますか?」
「いいえ」
「それはなぜ?」
「初めは確かにそうあれと創造された運営の命に従い行動していました。あらゆる種の頂点に立つ存在として生み出された筈なのですが、御身と戦い私は敗北しました。そうあるべきはずなのに…わた…わたしは……私は既に私はミラボレアスという存在として…私はふさわしくなく、至高なる御方に従うべきと判断いたしました」
疑いのまなざしが刺さるが噓偽りの事実で、私の本心である。ミラボレアスとしての私は死んだ。結局、ミラボレアスの皮をかぶった人間であることを選んだ。
けど───怖い、死ぬことが怖い。設定を受け入れていた時は簡単で、死んでも良いとさえ思った。前世、この体になる前も醜くあがいたのだ。その本質が戻っただけのはず……自分を受け止めることがこんなに怖い何て思いもしなかった。
「……そう、分かったわ」
静かにご主人様の声が聞こえた。来る。死の音が聞こえてくる。
「この度の私並びに守護者2人への攻撃を不問と致します」
「……今、なんと?」
「今回のミラボレアスの行動は不問とします」
「お、お待ちください!! 領域守護者如きが階層守護者並びに至高なる御方に危害を加えたものを不問とするなど!!」
つい口から出てしまった。嬉しさと苦しさのはざまで揺れている。けど、けど…どうして?
「ミラボレアス。あなたはあの城を守るべくし、そうあれと生まれた存在。であれば、あなたを責めるべきではなく、責められるべきは私です。それに、次はもう攻撃をしないのでしょう?」
「はい、いえ、ですが…」
「はい、これでこの話はおしまい。私たちはこれから大事な話をするので、この後のことはアルベドに任せます。いいですね?」
「……お、御身の御心のままに」
転移で消えた3人と残された守護者たち。この後のことをどうするのかとアルベド様に尋ねようとしたところ、1人の守護者に声をかけられた。
「……ミラボレアス、ちょっと私の部屋にくるでありんす!!」
******
「「「はぁぁぁぁ………」」」
3人の支配者たちは円卓の前で深くため息をはいていた。
「ほんとごめんなさい!!!」
「メッセージを聞いた時はほんと驚きましたよ、まさかミラボレアスの領域に入っているなんて」
「あそこの領域は4人までという制約があるから、助けに行くにも迂闊に入れないしな」
ミラボレアスの領域。シュレイド城跡地に入る手段は入り口からしか無い。そした、そこへ入れる人数は最大で4人までという制約があり、相手を倒すまで転移が出来ないという誓約。それを破ると無数の魔法と罠が作動してしまう。
これを決めたのはギルドアインズ・ウール・ゴウンの問題児 るし★ふぁーなのだが、まぁ、いつの間に行っていたのか、知らずに入ったメンバーがミラボレアスに襲われ、その後一悶着あったのはまた別の話。
「……ほんと、危なかったです。持ってる課金アイテム使いまくって、ミラの油断もありましたから。普通に戦って勝てる相手じゃないですからね」
「そういう意味じゃ俺の設定追加はナイスアシストだったんじゃない!? そうだよ!!」
「まぁ、愚弟にしてはね。けど、まさか文字だけであそこまで変わるとはね」
その言葉にぐさっと2人の背後にエフェクトのようなものが見えたような錯覚を起こすほど、目に見える通りに落ち込んでいた。
「いや…ほんと……なんかもう罪悪感で一杯で。本当に生きているんだなと改めて実感しました。目に見えるように落ち込んでて心が…」
「分かりますペロロンチーノさん。俺もアルベドの設定変えてしまった手前、ペロロンチーノさんを責められません」
「……けど、ほんと可愛いよなぁ…あれで貧乳だったらなぁ、そう言うふうに書いとけばよ「黙れ弟」すみません」
「御二方はナザリック内の探検はひとまず出来ましたか?」
「バッチリです。ちゃんと自分の武器も装備して来たし」
「私も平気」
「それでこの後の方針ですが、ひとまずはこの世界のことをするという事で」
「オッケーです」
「私、ちょっとあの子たちの様子見に行こうかな…丸投げしちゃったし」
初めはなんとなくだった。
仕事が空いて、偶々弟がいて、モモンガさんからメールが来てたのを見てユグドラシルにログインした。それで気がついたらログアウトができなくなって、至高なる御方とか讃えられるようになってしまった。
ありえないことだと思ったけど、自分が作ったNPCが動いているなんて現実を認めないわけにはいかないでしょ。
「ごめんなさいってちゃんと言えなかった」
私が作ったアウラとマーレ、2人にはちゃんと謝った。彼女たちは泣きながら私を出迎えてくれた。
私も泣いてしまった。
ここに少し慣れて来たと思って第六階層を探索してると、シュレイド城跡地に来た。
懐かしいと思って入ったら、まさかいきなり戦闘になるなんて。
黒龍 ミラボレアス。
タダでゲットしたあの龍…あの子って言った方がいいのかな? 仕事が段々忙しくなって来て、ユグドラシルにあまりインしなくなっていた時にゲットしたそれは、他のメンバーたちと再び熱が入るための要因になったちょっと前の思い出だ。
そのことにはやっぱり感謝というものが必要だ。
「嗚呼、アイテムの補給しないと」
正直、ミラボレアスとの戦闘はほぼ課金アイテムによるもので、戦略もクソもないゴリ押し。アウラやマーレに持たせたリジェクトタイムを短くするアイテムだったり、スリープ状態だと効果が上がる撃龍槍用の強制的にスリープ状態にするアイテム、体力を1残すアイテムに、熱耐性ポーションだったり、ミラボレアスの対策の為に運営が用意した課金アイテムの数々、これはチートもいいところだ。それぐらいの相手なわけで、何度も戦ったから出来たことだ。
「……あの子のこと、もっと真剣に考えないと。あとでアルベドからの報告を聞くとして…ひとまず落ち着いて話をしましょう」
一方その頃、ミラボレアスは、
「ペロロンチーノさまのご寵愛は私だけのものでありんす!!」
「それでもペロロンチーノさまがお決めになったことに逆らうのですか? いくら階層守護者様といえどそれは許されるべきものではありません」
「そそそ、そうは言ってないでしょ!! ただ私のペロロンチーノ様なのに卑怯でありんすよ!!」
「私は領域守護者であり、部外者。至高なる御方に創造されたあなた方とは確かに違います。ですが、今回の件で、慈悲深き御三方の御心に私は心底心酔してしまいました。いくらシャルティア様でもこの身体は既にペロロンチーノさまのものであり、ぶくぶく茶釜さまのものです」
「きぃぃぃ!! 一回ぶちのめさないと分からないようでありんすね!!」
「望む所です。
ちょっ!? 何やってんのぉぉぉぉ!!!
「ちょちょ!! ちょっとまった!!」
「ペロロンチーノ様! あぶないでありんす! この龍はまた御身の命を狙うかもしれんせん!」
「そ! その件は大変申し訳ないと…申し訳ございません」
う、心が。
「そ、そうだ、聞きたかったんだけど、その人型って自由自在なの?」
「いえ、この姿は力を入れている状態でして、龍型の方がリラックスしている状態です。腹筋に力を入れているといえば分かりやすいでしょうか?」
あー、プールで腹筋に力入れて『俺、割れてるぜ?』っていうアピールする奴か。けど、こう…落ち込んでいる姿には興奮するのだが、やっぱり自分がやったことの手前心が痛過ぎる。何かいいものが俺のコレクションの中にぃ……あ。
「それじゃあ、これあげるよ」
「これは…首と両手首につける枷でしょうか?」
「そ! ユグドラシルにも形態変化する奴がいたからそれをさせない用のアイテムなんだ。良かったら使ってよ」
「そのような貴重なものを頂くなんて!」
「へーきへーき」
束縛用アイテム "変体阻止"捕縛用のアイテムなんだけど、結構使うのが難しいんだよなぁ。相手を気絶状態にしてから相手に装備させるから一対一の時とかでしか使えないし、ガチャのはずれ枠なんだよなぁ。ただ見た目の造形から結構一部のマニアには人気だったんだよなぁ……ん?
「ぺ、ぺろろんちーのさま…な、なぜその女ばっかりぃ…」
「しゃ、シャルティア?」
シャルティアが泣いてる?なぜ?
「うぅ…やっぱりぺろろんちーのさまは私なんて嫌いなんだぁ」
「え?」え?
考えたことがそのまま出た。俺がシャルティアが嫌い? こんな俺の性癖全部そのままぶっ込んだ擬人化といっても良いシャルティアのことが嫌い?
「な、なんで?」
とりあえず聞いてみる。
「ぐすっ…だって、そんな何処の馬の骨とも知らない女にばっかりかまって…わたしには何もくれないじゃありんせんか…」
「そんなことないよ、シャルティアはそこにいてくれるだけで俺は嬉しいんだから」
「ぐすっでもぉ」
「大丈夫だって。お前は大事な娘なんだから」
「ペロロンチーノ様ぁぁぁぁ!!」
「うぉ!?」
涙を流し俺の胸に飛び込んできたシャルティアを優しくキャッチ。ああ、こんなにも愛をささやいてくれる女が今までいたか? いや、いない!!
「………弟君様」
「あ」
背後から冷たい視線が刺さる。枷を首、両手足にはめた和服を着崩したミラの姿は属性盛りすぎだろといいたいが、全然ありだな!!
「酷いです。あんまりです。私の身体をこんな風にしておいて、大切なアイテムまでいただいたのに…私のことは結局遊びだったんですね?」
「あ、いや、その…」
「ぐすっ…もういいです。弟君様はそうやって他者を踏みつけにして娘とイチャイチャするべきです」
「はぅ!?」
なんだろう。こう、自分より小さい娘のような子供、実年齢は相当いってる二人がかがむ俺の目の前で俺を取り合っている。なんともまぁ、心地が良い。これが夢にまで見たハーレムのルートの宿命というやつか!?
「ペロロンチーノ様!」
「弟君様」
「「どちらにするのでしょうか!? でありんす!! 」」
────拝啓 姉ちゃんへ。俺のしたことは大罪でしたわ。敬具。