第十一話です。
次でリオルとの出会いの話は終わる予定です。
そろそろ次の展開に進めたら、いいな……って思ってますorz
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「お待たせしました。お預かりしたポケモンはすっかり元気になりましたよ。」
「ピカチュウ!」
「っと、ありがとうございます、ジョーイさん。」
ポケモンセンターでの定番のチャイムが鳴り響き、ジョーイさんに差し出されると同時に全く迷わず跳躍し私の胸元に飛び込んできたピカチュウをしっかり受け止めた。
いえいえ、と微笑む彼女に例の如く目をハート型にしたタケシくんが歯の浮くような台詞を連発し、カスミに「はいはい」と思い切り耳を引っ張られるというアニメではお約束ながら実際には初めて見る光景を横目に見ていると腕の中のピカチュウのお腹がゴウギュルルルルルととんでもなく切ない音を鳴り響かせがくっと肩を落とす。
……君もかい。
「ピカチュ」
「はいはい。まあ今日は本当に頑張ってくれたからお腹も空くよね。リオルが戻ってきたら皆でごはん食べにいくから、あと少し我慢して。」
「ピカ」
そう説明すればぐで~~と脱力しながらも頷く彼の頭をぐりぐりと撫でふとポケモンセンターの窓から見える通りの様子と茜色の空に一つ息を付く。
今日は本来ならジム戦が終わったらタケシくんとカスミと別れマサラタウンに戻り、オーキド研究所のポケモン達のお世話をケンジくんと一緒にする予定だった。
それがまさかこんな事になるなんて思いもしなかったけど、とりあえず。
「……なんか、凄く密度が濃い一日だったなあ。」
「ピカ」
――バトルはピカチュウの圧勝だった。
「…………勝った。」
「ピカチュ」
戦闘不能になったキバゴに全身に入っていた力を抜き小さく呟き息を付けばいつのまにか私の足元まで戻りその黒曜石の瞳で真っ直ぐにこちらを見上げてくるピカチュウの意図を何となく理解して、ああ、と身を屈めるとそっと彼に向かって掌を翳した。
「お疲れ。本当に良く頑張ったね、ピカチュウ。私に応えてくれてありがとう、相棒!」
「ピカッ!」
そのままニッと笑いかければしっかりと頷き軽く飛び上がりくるりと体を回転させた彼の雷型の尻尾とハイタッチを交わし合う。
パンッと響いた小気味のいい音にピカチュウと一緒に勝ったという強い実感が心を占めていき、こんなの彼と初めてしたけど結構良い感じかもと笑い合っていると、くそっ!という怒声が耳朶を打ち、ああそうだったと一つ息を吐き顔をあげた先ではかろうじて意識を保っているキバゴに向かって罵声を浴びせ続けるトレーナーがいた。
「っ、くそ!!、くそっ!! くそがああああ!! やっぱこいつも使えねえ! あのトレーナーといた時は強かったのに何で今んなに弱いんだよ!! こんなあっさり負けやがって! キバゴ!!」
「……キ……。」
そんな自分勝手で幼稚な発言にやっぱあいつどうしようもないなと左肩に温かな重みを感じつつ立ち上がるともう何度目かも分からない、「馬鹿じゃないの」を相手に向かって浴びせかける。
「な……ッ……!」
「今のバトル、敗因はキバゴじゃなくてどうみてもポケモンのコンディションを全く把握しないで暴力で言うことを聞かせようとした貴方じゃない。弱いのはキバゴじゃなくてそんな方法でしかポケモンとコミュニケーションが取れない、貴方の心よ。」
「てめえッ!! なに勝ったからって偉そうに……ッ!」
「――もう自分でも分かってるんじゃないの? いくら他のトレーナーのポケモンを奪ったところで、貴方とそのポケモンが心を通い合わせる事が出来ないなら、貴方自身が満たされる事はないって事。」
「――――ッッ!!」
今にも殴りかからんばかりの気迫のトレーナーに私から思う事はもう何もなくて。
ただ淡々と告げれば零れんばかりに目を見開き黙り込んだ相手を最後に一瞥だけすると未だ倒れ伏したままのキバゴに近付き両膝を地につけてしゃがみ込んだ。
「……キ……」
「キバゴ、バトル強かったよ。よく頑張ったね。」
「ピカチュ」
「……キバ……」
瞬間体を強張らせた彼を刺激しないようになるべく静かに話しかけると僅かに頭をあげたその瞳に一瞬だけ光が見えた気がして、瞳を細める。
うん。これならまだ、大丈夫だ。
「キバゴ、貴方をポケモンセンターに連れていくために少しだけ体に触れるね。……約束する。私は貴方を傷つけたりしない。だから、貴方の本当のトレーナーでもない人間の手は怖いかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね。」
「…………キバ」
分かった、と言うように小さく頷いたキバゴに眉を下げ笑いかけなるべくゆっくりとその体に触れ抱き上げる。
「よし。タケシくん、カスミ、リオル行こう! ここから一番近いポケモンセンターは!?」
「あ、ああ! このデパートを出て少し行った先にある。こっちだ!」
「リオル! リオルももう立ってるのもやっとでしょ! あたしが抱えるから一緒に来て! いいわよねリオ!」
「勿論! リオル、それでいいよね? リオルだってかなりの怪我なんだから無理は駄目だよ!」
「……リオッ」
「ピカッ!」
そのまま肩越しに振り返り声をかければどこか呆けていた様子の三人がハッと我に返り駆け寄ってくる。
さらにピカチュウの声を合図に頷き合いタケシくんを先頭に屋上の扉に向かってダッシュしかけた次瞬、バンッと三度大きく開いた屋上の扉からアニメ版でたまに見るあの婦警服に身を包んだあのジュンサーさんが勢いよく屋上へと飛び出してきた。
「そこまでよ!!」
「へ?」
「ピカッ!?」
「ジュンサーさん?!」
「何でこんなところにジュンサーさんが!?」
「……リオ!」
さらに鋭い声をあげる彼女を見て、思わず足を止めた私達の中で唯一何かに気付いたようなリオルの視線の先を見れば、ジュンサーさんの隣には彼女のパートナーであるガーディと、それとはまた別のガーディを抱えた私やタケシくんと同年代くらいの女性トレーナーがいて、その女性が黙り込んだままのあのトレーナーをズビシ、と音がするくらいの勢いで指差し叫んだ。
「ジュンサーさん!! 私のガーディを奪おうとして、それを助けてくれたリオルに暴力振るってたのはこいつです!!」
……と、まあそんな感じで。
あまりの急展開に初めは面食らったものの、その後ガーディを連れた女性トレーナーさんが説明してくれたところによると、彼女はやはりあのトレーナーが言っていたガーディを賭けてバトルを挑まれたトレーナーで、バトルを拒み相手のキリキザンに攻撃されそうになったところをボールから自主的に飛び出してきたリオルに助けられたそうだ。
さらに≪かわらわり≫一撃でキリキザンを戦闘不能にしたリオルに逃げるように言われ逃げ出したもののリオルの様子や状態からただならぬものを感じ、ジュンサーさんを連れて現場に戻った時には激しく争ったような痕跡に『逃がされた』状態で倒れているキリキザン、踏みつけ壊されたモンスターボールが二つ転がってただけですでに誰の姿もなく、あとはガーディの鼻でリオルの匂いを追いあのタイミングでタマムシデパートの屋上にたどり着いたというのが事の顛末らしい。
後は『事情を聞く』という名目でトレーナーを連れていこうとしていたジュンサーさんに私達からも話を聞きたいと言われ、それならリオルとキバゴの治療の事もあるからポケモンセンターで、という事なり今に至るというわけだ。
「ピィィカァァァ……。」
「……無理みたいだね。」
ぼんやりとそんな事を考えていると耳朶を打ったぐうぅぅとかきゅるるるとか言う切なすぎる音に意識が現実に戻り、わざを使っているわけでもないのに≪とける≫並みに脱力している相棒に息を付く。
何かあったかな、と背中に背負っているジム巡りする事が決まった時にハナコさんから貰ったデイパックの肩ベルトに触れたところで「あ、そうそう。」とタケシくんへのツッコミを終えたカスミがぱっと私へと振り返った。
「ねえ、リオ。さっきのバトルで一つ気になったんだけど。ピカチュウの≪でんこうせっか≫でキバゴがまひ状態になったでしょ? あれって何なの?」
「ああ。俺も気になった。あいつはピカチュウのとくせい『せいでんき』が原因だと思ったようだけど、『せいでんき』は直接的な攻撃を受けた時に稀に相手をまひさせるとくせいだ。発動条件が違うし、そもそもリオのピカチュウのとくせいは『ひらいしん』だろう?」
「あーー……、うん。そう。だからあれはかなり張り切ってたピカチュウが≪でんこうせっか≫に≪10まんボルト≫を無意識に重ねたんだと思う。」
さらにカスミに引っ張られた耳を擦ったタケシくんにも続けて尋ねられ腕の中のピカチュウへと視線を向ける。
ちなみに私のピカチュウのとくせいがでんきわざによるダメージを無効化し、逆に自分の特殊攻撃力をあげるゲームでは『かくれとくせい』と言われる珍しいとくせい『ひらいしん』だと知ったのはまさかのクチバジムのジムリーダー・マチスさんとのバトルの真っ最中で、彼のライチュウの≪10まんボルト≫が直撃してもケロリとしてる上に自らの≪10まんボルト≫や≪ドレインキッス≫の威力をあげていく相棒に一番戸惑い動揺したのがトレーナーの私だというオチまでついた。うん。
「わざを重ねるって……。そんな事出来るものなの?!」
「や、ピカチュウの場合だと本当に偶然そうなったって感じの要素が強いだろうけど、出来ない事はないみたいだよ? 現にテレビかなんかでバトル中≪アイアンテール≫に≪エレキボール≫を重ねて攻撃したポケモンとか、攻撃わざの≪インファイト≫を防御わざとして使うポケモンとか見た気がするし。だから、鍛え方次第じゃないかな?」
「成る程。確かにポケモンコンテストではポケモンのわざをバトルとは違った使い方もする。そう考えると鍛え方次第ではわざを重ねる事も難しくはないのかもしれないな。」
続けて二人にそう説明すれば顎に手を当てて納得したように頷いたタケシくんにだね、と笑いかけたところで再び治療終了のチャイムが鳴り響き、ハッと振り返ればラッキーが押すストレッチャーの上に腰かけたリオルとその後ろから歩いてくるジュンサーさんの姿がありそちらへと小走りで駆け寄った。
「お待たせしたわね、リオルの治療及び状況確認、照合は全て終わったわ。その結果リオルに関してはあのトレーナーの供述通り誰かから強奪したポケモンではなく、彼がシンオウ地方でゲットして逃がしたポケモンだって事が判明したからこのまま正式に貴方のポケモンと言う扱いで問題ないわよ。」
「ありがとうございます。……もう身体は大丈夫? リオル。」
「リオ!」
私達がポケモンセンターに到着しリオルとキバゴ、そしてジム戦から続けてバトルしたピカチュウの治療と回復をジョーイさんにお願いしてから暫く経った頃ポケモンセンターを訪れたジュンサーさんから聞かされたのはあのトレーナーがポケモン強奪犯として指名手配されていると言う事実だった。
彼女曰く彼にポケモンを無理矢理奪われたと言う被害届が各地方からかなりの数出されており、この地方で一度でも彼による強奪事件が起きればすぐ動けるよう警戒はしていたものの、実際にはポケモンを奪われたという報告が上がらなかった上に彼がポケモン達に暴行を繰り返している以上、下手に刺激すれば連れているポケモン達にさらに危険が及ぶ事が危惧されなかなか動けなかったらしい。
「貴方達の話から考えても恐らく大丈夫でしょうけど、被害者の中にはリオルを奪われたトレーナーもいるからこのリオルがそうじゃないかだけは照合させてね」と言われた時はさすがに息を飲んだものの、それが杞憂に終わった事にほーーっと心の底から安堵の溜め息を付くと良かった、と呟きぐでぐでになっている相棒を片手で抱え直し、元気いっぱいに返答するリオルの体を反対の腕で胸元に抱き寄せるとそのままひょいっと抱き上げた。
「リオッ!?」
「あーー、うん。確かリオルって平均体重約二十キロだっけ。ピカチュウがいつも通り肩に乗っててくれば両手で抱える分には問題ないけどさすがに片腕じゃきついか。リオル、もうちょっと体引っ付けて私の肩に少し体乗り上げてくれる? それで多分安定する筈だから。」
「……リ、リオッ!」
流石にそんな事されるとは思ってなかったのだろう焦ったような声をあげるリオルにそう告げれば、戸惑いつつも言われた通りに隙間がないようにぴったりと体を引っ付け手に肩を置く彼によし、と小さく笑う。
「良かったな、リオ。これで何の問題もなく、リオが正式なリオルのトレーナーだ。」
「これで一安心ね。良かったわね、リオ、リオル!」
「うん、ありがとう、二人とも!」
「リオ!」
「ピカ……」
さらにラッキーにお礼を告げ、一鳴きしてまたストレッチャーを押して来た道を戻っていくラッキーを見送り背後からかけられた声に振り返り答えると最後の力を振り絞って声をあげたピカチュウの後それから、とジュンサーさんがさらに続けた。
「キバゴなんだけど、照合の結果被害届を出していたガラル地方在住の男性トレーナーのポケモンだと言う事が判明したの。それで彼は治療が終わったら元のトレーナーのところへ帰される事になったわ。もうトレーナーとも連絡が付いていてね。電話越しに事情を説明したら凄く喜んでたわよ。」
「そうですか、ガラル地方の。良かった、元のトレーナーが見つかって……!」
「ああ! それに被害届を出しているという事はキバゴを何とかして取り戻そうとしてたんだろうな。きっと良いトレーナーだよ。キバゴがトレーナーと再会出来るのもリオとピカチュウが頑張ったからだな。」
「そうよね。リオ達があのバトルに勝ったからこそキバゴはトレーナーの元に帰れるんだもの。本当凄いわよ!」
「リオッ!」
まさかここで聞くとは思わなかった地方の名前に一瞬言葉に詰まりかけるも気を取り直してほっと肩の力を抜き微笑めば、同じく安心したように顔を綻ばせたタケシくんとカスミ、そして少し体を離し私の顔を覗き込んだリオルからの言葉に小さく眉を下げる。
そのまま腕の中で私と同じような表情を浮かべてこちらを見る相棒と分かってないな、と視線を交わしさらに眉を下げると三人に向かって軽く首を横に振った。
「それは違うよ。キバゴを助けたのは私とピカチュウだけじゃない。そもそもリオルが私の元に来てくれてなかったらあのトレーナーとあんなやりとり出来なかったし、ポケモントレーナーとして経験を積んでる二人がいなかったら、まだトレーナーになって日の浅い私の言葉じゃ彼はきっと彼処まで激情しなかった。皆がいてくれたから彼処で彼にキバゴを出させる事が出来た。それにね、バトルに勝てたのも同じ。きっと自分で決着を付けたかった筈なのに私達に後を任せてくれて。一人で戦うことを心配して、一緒に戦うって言ってくれて。そんな人達やパートナーがいてくれて、負ける筈がないよ。皆がいてくれたから、『一人で戦ってるんじゃない』って思えたから、私達はきっとひとつになるようなバトルが出来たんだよね、ピカチュウ?」
「ピカチュウ!」
最後に相棒にそう振れば先程までのぐでぐでが嘘のように黒曜石の瞳を輝かせしっかりとした声でそれを肯定するピカチュウと笑い合っていると、ハァーーとタケシくんとカスミには溜め息を付かれた上リオルにはぎゅっと強い力でしがみつかれた事に彼と二人できょとんと首を傾げる。
「ん?」
「ピカ?」
「……リオだけでも大概なのに、リオとピカチュウって二人だとさらに輪をかけてタチが悪くなるわよね。」
「ああ。しかも本人達はこれで無自覚だから尚更だな。」
「……リオリオ。」
さらに三人だけで分かり合っている雰囲気に何か前にもこんな事あったななんて考えながらも眉を寄せ、そんな変な事言ったかなあ?と相棒と再び顔を見合わせればポンッと私とピカチュウの頭に手を置いたカスミにそのままぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるようにして頭を撫でられた。
「わっ、ちょ、カスミっ!?」
「ピカチュピ!?」
「はいはい、今のはこっちの話だからそんな不安そうな顔して見つめ合わないの!」
「……はは。それで、ジュンサーさん。キバゴをトレーナーの元に返す方法はあるんですか? 普通に考えるなら転送装置でしょうがキバゴがあの怪我ではすぐに、とは行きませんよね。」
「ええ。そう伝えたらそのトレーナー自分でカントー地方まで迎えに行きたいって。ただ途中で感極まったみたいで男泣きしだしちゃってね、一緒にいるというそのトレーナーの知り合いの人に電話が代わって『彼のキバゴを助けてくれたそのトレーナーに、オレからも礼を言わせて欲しい。ありがとうと伝えて下さい。』って言う貴方達への伝言と。色々詳しい話もしないといけないだろうからって二十分後折り返し連絡を貰う事になったの。それで悪いんだけど貴方達ももう少しだけ付き合って貰える?」
「そう言うことなら私は構いませんが……。」
「ピ!?」
そうカスミに一通り頭を撫でられながらもタケシくんとジュンサーさんのやりとりを聞いていると、一瞬だけ感じた魚の小骨が刺さったようなチクッとした感覚にん?と首を傾げながらも答えると同時に、鋭い声をあげた相棒のお腹からごおおおるぎゅるるるという最早本当にお腹の虫か疑うレベルの今日一番盛大な音が鳴り響きああそうだった、と何だか視線が遠くなる。
「ピカ! ピカ、ピカチュ!! ピィカ!」
「リオッ、リオ!」
「……あーーもーー、分かった。分かったから! 怒ると余計お腹減るよピカチュウ! タケシくんごめん、私の背中のデイパックの中に木製のピクニックバスケットが入ってるんだ。手突っ込んでくれて構わないから出してもらっていいかな?」
「あ、ああ。」
さらについに空腹が限界に達したのか私の腕の中でじたばたと暴れ怒り出したピカチュウに仕方ないと改めて息を吐き、彼を宥めるリオルの声を聞きながらそうタケシくんに声をかけた。