十二話です。
『二匹目の仲間』はここで一区切りです。
次回はまた少し時間が飛びます。
そろそろどこかでサトシ達と絡ませたいorz
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「ピ、カ、ピピピカピピカカ、ッピ」
「…………ドリルか何かかな? ピカチュウ、ご飯前だから二個までだよ。リオルもほら。お腹空いてるでしょ、良かったら食べてみて?」
「リ、リオッ……」
間違っても食事風景を見ながら出てくる単語ではない筈の元の世界等でよく見た工具が真っ先に脳裏に浮かんだ事に一つ息を付く。
ちなみにあの後まだ時間もあるしあのトレーナーの事も気になるから本部に連絡を取るとジュンサーさんは一度ポケモンセンターから出ていき、タケシくんとカスミはそれぞれの家に帰りが遅くなる旨の連絡を入れにいったためこの場にいるのは私達だけである。
本当ならポケモンセンター内で持ち込みの食べ物を出すのはあまり誉められたことではないだろうけど、背に腹は変えられないという事ですでに目の前の食べ物に夢中になりすぎてる相棒に一声かけ、隣でその食べっぷりに若干引いてるリオルに向かって中に入っているものがよく見えるようにバスケットを傾ければ、戸惑いがちにピンクのクリームがかかったポフレをゆっくりと手に取り不思議そうな顔で匂いを嗅ぐ彼の頭をそっと撫でた。
「カントー地方にはないお菓子だし、初めて見るかな? これはポフレって言ってカロス地方っていう地方では一番ポピュラーなポケモン用のお菓子なの。一応人間も食べられるものだから味見もしてるし、大丈夫だよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
安心させるようにそう説明しているとすぐ後ろから聞き慣れた声が耳朶を打ち、振り返る間もなく背後から伸びてきた手がダークブラウンのクリームのポフレを一つ取っていく。
「あ。こら、カスミ。」
流石にそれは、と軽く諌める意味合いを込めて振り返ればポケモンセンターのベンチに座っているピカチュウ達の目線の高さに合わせるため片膝を立ててしゃがんでいたためいつもとは違う高さで彼女と視線が合い、そのままポフレを一口食んだ彼女にしょうがないなと眉を下げた。
「何これ、美味しい! ほらリオルも食べてみなさいよ!」
「リ、リオ。」
そう顔を綻ばせる彼女に促され、ぱくりとポフレを一口食べた瞬間顔を輝かせたリオルに小さく笑い立ち上がるとカスミへと向き直る。
「ありがと、カスミ。でも、いきなり背後から手掴みはお行儀が悪いよ?」
「あはは、ごめんごめん。でもこれ本当に美味しいわよ! リオが作ったの?」
「うん、ハナコさんと一緒にね。あ、お家の方は大丈夫だった?」
「ええ、今日はお姉ちゃん達がいるからね。帰りが遅くなるってのもあっさりとOKされたわ。リオはさっきピカチュウの回復待ってる間にオーキド博士とサトシのママさんに連絡取ったのよね?」
「うん、その時に事情や今の状況も説明してあるから大丈夫だと思う。『気を付けて三人で帰ってきてね』ってハナコさんに言われたよ。それも何とか果たせそうで安心してる。」
やっと操作に慣れてきたこの世界の電話の最後、そう微笑んだ彼女を思い出し瞳を細めた。
そんな風に誰かに言って貰うのはもう思い出せないくらいに久しぶりすぎて。
ハナコさんの包容力が凄いことはアニメのあちらこちらでも描写されていたけど、居候させてもらう事で改めて実感したしその途方もない温かさに小さく、でも確かに揺れた心に瞳を伏せたのは内緒の話。
あとああいう『お母さん』の元で育ったら、その息子が正義感が強くて誰かのために一生懸命になれる優しさと勇気を持っているのも分かる気がする、うん。
「ん? カスミ、リオ。二人で何話してたんだ?」
「タケシ。遅かったわね。」
「タケシくん、おかえり。お家大丈夫だった?」
一人でそう納得していると電話を終えて戻ってきたタケシくんに声をかけられ、カスミと二人でそちらへと向き直ると、本格的にポフレを食べながら話すカスミに少し不思議そうな表情を浮かべながら近付いてきた彼の掌がぽんと頭に乗せられ軽く撫でられた。
「ただいま、リオ。ああ、家の方は問題なかったんだがどうやらジロウが四日前にあのトレーナーと別のトレーナーがニビの科学博物館の側の路地で揉めているのを見かけたらしくて、少し話を聞いていたんだ。ただその時はキリキザンをボールから出してはいたがバトルをしている様子はなかったし、ジロウ自身夕飯の買い物の途中だったから気にはなったけどすぐその場を離れたそうだ。ところで、カスミ。それは?」
「ふぅん。四日前ってリオのクチバジムジム戦にあたしとタケシが付き合った日よね? あとこれはリオ手作りのポフレって言うお菓子で、すっごく美味しいの! 」
「あはは、ありがとカスミ。うん。私達がリオルとトキワの森で会ったのが三日前だから、その前日にニビシティにあのトレーナーがいてもおかしくはないけど……。今のジロウくんの話念のためジュンサーさんが戻ってきたらしておいた方がいいかも。あと、作ったと言ってもハナコさんと一緒にね。カロス地方にある人も食用可能なポケモン用のポフレっていうお菓子なの。材料を減らして作ってるから本来のものより一回り小振りだけどね。……えと、お口に合うかは分からないけど良ければタケシくんもお一つどうぞ?」
「ああ、そうだな。成る程、つまりポロックやポフィンみたいなものか。ありがとう、頂くよ。」
そのジロウくんの話にあまりよくないものを感じてそう提案してからバスケットの中身をタケシくんに見せるようにして、カスミと同じダークブラウンのポフレを手に取り口に運ぶタケシくんを何となく見つめる。
てかあげるのは全然構わないし、何ならこれは二人にも食べてもらおうと用意してきたものだけど、やっぱ料理めちゃくちゃ上手い人に手作りのもの渡すって緊張するんだよね。
まあ、料理が上手い人程あまりそう言うの気にしないで食べてたし、いつかの世界達で出会ってきた料理が得意な面々を思い浮かべるとその殆どが男性ってのが何ともいえないところだけど。
特に赤銅の髪に金の瞳の『先輩』が作った料理はどれも絶品で……――。
「リオ?」
「う゛、ん!? あ、ごめん、何だった?」
『先輩』の特製出汁茶漬けにうっかり思いを馳せすぎかけたところでハッと我に帰り慌てて尋ねればああいやとタケシくんが眉を下げた。
「このポフレ、本当に美味いよ。あと、ピカチュウがおかわりを要求してるぞ?」
「え?」
「ピィカ、ピカ、ピカチュウ!」
さらに続けられた内容にハッとして振り返ればすでに一個目のポフレを食べ終わったのか口の横にクリームを付けたままこちらに向かって手を伸ばすピカチュウに小さく笑い側に寄ると膝を折り、そのクリームを親指で軽く拭うとはい、とバスケットに残っていた最後の一つのポフレを差し出した。
「チャアア! ピカ、ピ、ピ……」
「君は本当に食べるの好きだね。ポフレは逃げたりしないから、ゆっくり食べな?」
私からポフレを受け取った瞬間に歓喜の声をあげ食べはじめた彼の頭を撫で微笑むと無事空になったバスケットの蓋を閉じ、さてと、と立ち上がりかけたところで、横から伸びてきた青い手にくん、と手を引かれそちらへ振り返れば三分の二程食べたポフレを私の口元へずいっと差し出すリオルの赤い瞳と目が合った。
「リオル、どうしたの? これリオルの分だから全部食べていいんだよ?」
「リオルはリオの分のポフレがない事を気にしてるんじゃないのかな。」
「リオッ!」
そう告げるもさらにポフレを口元に近付けられ首を傾げたところでタケシくんに言われ同意するように首肯したリオルにああ、成る程と頷いた。
「そっか、ありがとうねリオル。でも私は昨日作ってる最中や完成した後とかにしっかり食べてるからだい……じょ…………。うん、分かった。一口だけ貰うね?」
『大丈夫』と断わりかけたものの彼の真っ直ぐ過ぎる瞳と全く口元から退かさない手にこれ食べるまで動かないやつだと察し、少し身を屈めて彼が差し出すポフレを一口食べれば甘さ控えめに作った筈だけど十分に甘いそれに瞳を細める。
うん、今朝食べた時にも思ったけど、もう少し甘さ抑えてもいいかもしれない。
「ん。ありがとね、リオル。あとは食べていいよ」
「リオッ」
改めてそう言えば納得したのか残りを口に運ぶ彼の頭を一撫ですると、此方は丁度食べ終わったらしいカスミが改めて口を開いた。
「あー、美味しかったぁ。ご馳走さま! でもリオ、急にお菓子作りなんてどうしたのよ。今までだったらこう言う時はタケシが作ったポケモンフーズやきのみをピカチュウに渡していたわよね?」
「うん。そうなんだけど、それだとピカチュウいくら言っても食べ過ぎるからそれこそポケモン専用のお菓子のポロックやポフィンを用意した方がいいかなって少し考えてたんだよね。そしたら昨日のお昼過ぎかな? ハナコさん達と一緒に見てた番組内で『各地方のスイーツ特集』っていうのをやっててさ。カロス地方ではメジャーなお菓子って事でポフレが紹介されてたんだよね。ポフレコンテストが開催されたり、ポフレマスターって称号を持ってる人もいるくらいなんだって。で、少し調べてみたら材料さえあれば結構手軽に作れるってのが分かったからハナコさんと一緒に作ってみようって話になったの。」
ピカチュウが大食らいなのは今に始まった事じゃないし、彼自身他の個体に比べるとほんの少しだけ燃費が悪いけどそれ以外は健康そのものだとこの世界に来てすぐの頃オーキド博士やジョーイさんから太鼓判は押されていたからおやつは結構しっかりあげていた。
ただそれでもやっぱり食べ過ぎは良くないし、一度タケシくんにいい案はないか相談しようと思っていた矢先にそのテレビ番組を見てふとXYでセレナが作り出してからはポケモン達のご飯としてもおやつとしてもポフレが登場していた事を思い出し、もしかしてこれなら材料によって満腹感を与える事もでき、腹持ちが良いんじゃないかと思い付いたのだ。
結果としてその点は目論み通りだったものの、思ったよりも手軽に出来る事、生地やクリームにいれるきのみでも味がかなり違ったりする事やトッピングや盛り付けもなかなか拘れる事などが重なった結果、気が付いたらいくらピカチュウがいるとは言え四人では絶対食べきれない量を作ってしまっていた事は誤算と言えば誤算かもしれない。
お陰で昨夜の夕食後のデザートと今日の朝ごはんはポフレ三昧だったし。
……まあ、でも。
「私もハナコさんも興が乗っちゃって少し作り過ぎちゃったけど、楽しかったよ。それに作ってる最中、前にタケシくんとカスミと一緒に旅してたっていうハナコさんの息子のサトシくんの話もいっぱい聞けたしね。」
「ピカチュ」
そう説明すれば当たり前だけど昨日唯一その場にいて、トッピングの材料をつまみ食いしながらトッピングを手伝うというなかなかに呆れた芸当を披露していたピカチュウが同意するように頷いた。
「へぇーー。……ってサトシの?」
「うん。サトシくん今そのカロス地方にいるからって。少し前まではイッシュ地方を旅してて、道中で知り合ったっていうポケモンルポライターさんと帰ってきたと思ったら、次の日にはその人と一緒にカロス地方に旅立ったんだって。」
「次の日!? 本っ当、相変わらず落ち着きないわね、アイツ。」
「ああ、でもその方がアイツらしいさ。それに、元気でやってるみたいで良かったじゃないか。」
「ええ、そうね。」
さらに確かアニメ版において前シリーズのキャラが登場する際、何かしら連絡を取り合っているような描写はされていたからこれくらいは問題ないだろうとハナコさんから聞いた内容をかいつまんで説明すれば、どこか仕方無いなと言った表情を浮かべながらも彼への思いがしっかり伝わってくる声で話し、懐かし気に顔を見合わせて笑う二人に瞳を細め小さく微笑んだ。
うん。何て言うか二人がサトシと旅をしてたのはアニメではかなり前のシリーズなんだけど、どれだけの年月が経とうと「無印組」や「初代組」とファンからは呼ばれる事もあるサトシ、カスミ、タケシの三人組が未だに人気あるのこうしてみると分かる気がするなあ。
実際今のこの世界では未来にあたるサン&ムーン時にはアニメ放送二十周年って事もあり三人が再会する話もあったし。
……いくらポケモンワールドチャンピオンシップスに参戦すると決めたとはいえ、その時まで私がこの世界にいられるかは分からないけど。
でも出来る事なら。
それが許されるのなら。
彼のことを凄く温かな響きで『アイツ』と呼んで笑い合うタケシくんとカスミが彼に再会する時に、私もその場にいられますようにと誰に向けてかも分からないまま心の底から願い瞳を伏せると同時に左肩に温かな重みが加わり、繋いだままだった手を軽く握られて眉を下げる。
……全く。
「……本当、ピカチュウは前からだったけど、リオル、君も読心術でも心得てるのかな?」
「ピカ!」
「リオッ」
いつも。いつだって。
私が一人になる事を許さない二人に笑いかけたところで、ポケモンセンターの自動ドアが開き中に入ってくるジュンサーさんの姿が目に入る。
そのまま受付のジョーイさんへと話かけ、少し会話を交わした後こちらへ向かってきた彼女に少しいいかしら、と話しかけられた。
「はい。」
「今、キバゴのトレーナーから連絡があってね。必要な話は済んだんだけど、どうしてもキバゴを助けてくれたトレーナーに直接お礼が言いたいらしいの。本来こういうのはあまり良くないのだけど、事情も事情だからあまり無下にも出来なくて。そんなわけで悪いのだけど、リオさん代表としてこれこのまま出ればテレビ電話になってるから少し話してくれる?」
「え。……あ、は、はい。」
そう差し出されたのはそれこそXYでセレナが使っていたような二つ折りの携帯端末で。
一瞬戸惑ったものの咄嗟に視線を向けたタケシくんとカスミに頷かれた事もありジュンサーさんから受け取った端末の画面には、ゲーム版やアニメ版に登場するキャラではないものの、灰色のダブルスーツに身を包んだ清潔感のある黒髪に灰緑色の瞳が特徴的なすらりとした体躯のまさにナイスミドルと言った四十代くらいの男性が映っていた。